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第1回知的財産政策部会 議事録

特許庁総務部総務課
工業所有権制度改正審議室

  1. 日時:平成13年5月11日(金曜日) 10時00分~12時00分
  2. 場所:特許庁庁舎第1~3共用会議室
  3. 出席者:
    中山部会長、井上委員、大橋委員、鎌田委員、北村委員、小池委員、斎藤委員、篠原委員、田中代理(庄山委員)、白石委員、千葉委員、道垣内委員、中西委員、仲代理(前田委員)、松尾委員、三次委員、森下委員、諸石委員、青木代理(安田委員)、山本委員、
  4. 議題
    • 知的財産政策の課題
      1. 知的創造サイクルの活性化
      2. 先端技術分野における知的財産政策
      3. 迅速かつ利用しやすい知的財産紛争解決制度の実現
      4. 国際的な出願の増大等への対応
    • 当面の検討事項について
    • 法制小委員会の設置について
  5. 議事録

(総務課長)

お待たせいたしました。それでは定刻でございますので、ただいまから産業構造審議会第1回知的財産政策部会を開催いたします。本日は御多忙の中、お集まりいただき、ありがとうございます。まず始めに、本部会につきまして、事務局から一言御説明させていただきたいと思います。本部会は省庁再編にともないまして、旧工業所有権審議会の政策審議機能が移管された、産業構造審議会の下部機関として設置されたものでございます。また、産業構造審議会令の第7条3項によりまして、通例どおり、部会長を選出する必要がございます。部会長につきましては、産業構造審議会の本委員ということになっておりますので、中山信弘東京大学教授にお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。では、中山信弘教授に部会長をお願いしたいと思います。では、中山部会長恐縮ですが、一言御挨拶をお願いいたします。

(中山部会長)

御指名でございますので、部会長を勤めさせていただきます。よろしくお願いいたします。現在は工業所有権をはじめといたしまして知的財産に関する社会の理解がかなり進みまして、追い風が吹いているという状況だろうと思いますけれども、追い風が吹いているということは、裏から見ますと、期待が大きいということでございまして、知的財産に関する制度的インフラの基本問題を審議する当審議会に対する期待も大きいものがあると思います。今日これから審議していただくことになりますけれども、重要な問題も目白押しになっておりますので、是非活発な御議論をお願いしたいと思います。

(総務課長)

ありがとうございました。では、続きまして、以降の議事進行を中山部会長にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

(中山部会長)

まず、委員の紹介を事務局の方からお願いいたします。

(総務課長)

では委員の皆様の御紹介いたしたいと思います。
(以下、順次委員及び委員代理を紹介)

(中山部会長)

ありがとうございました。皆様、よろしくお願いします。議事に入ります前に、及川特許庁長官から一言御挨拶願います。

(長官)

及川でございます。本日はお忙しいところ御参集たまわりまして、改めて厚く御礼申し上げます。さきほど総務課長の方から申し上げましたとおり、本年1月の省庁再編に伴う、各種審議会の再編により、かつての工業所有権審議会で御審議いただいておりました工業所有権関係の行政に関する事項が経済産業省の産業構造審議会に移管され、産業構造審議会の下部機関として、従来よりも幅広い観点から御審議いただくことになったわけでございます。今後、21世紀の特許庁の主要施策は本部会での御審議を踏まえて進めていくことになります。何卒、皆様方におかれましては御審議のほどよろしくお願いいたします。
初めでございますので、私の問題意識を若干申し上げたいと思います。ここ数年にわたりまして、特許庁あるいは本省において、毎年知財関係の法律改正を国会で御審議願う時代が続いています。これは研究開発そしてその利用、そして、さらなる研究開発という「知的創造サイクル」を強力かつ円滑に推進していきたいということで行ったものでございます。その中心はプロパテント政策といわれておりますけれども、権利保護の強化にあると言ってよろしいのではないかと思います。幸い、この方針は情報化社会の本格的展開という時代の流れにも合致いたしまして、系列ですとかグループといった日本型の経営が様々な試練に直面する中でパテントポートフォリオといった新しい企業経営戦略に生かされつつあるのではないかと思います。こうした結果、大方の御支持を得まして、制度面の環境整備は初期の目標を概ね達成しつつあるのではないかと考えておりますが、なお、やり残した点があるのも事実であり、かつ新たに数多くの問題も生起しつつあります。そこで一旦これまでの成果を総括し、あわせて21世紀の知的財産権の在り方について、土台から御議論いただきたいと思うわけでございます。
私は課題は大きく三つあるのではないかと思います。第一に国内制度について、情報化社会に即した特許法、商標法といった工業所有権関連法制度の整備をお願い申しあげる次第でございます。これは主にソフトウエアの保護策が中心になるかと存じますが、バイオ等の先端技術についても検討が必要ではないかと思っております。この課題は急ぎ検討する必要がありますので、小委員会を設置していただきまして、法律改正の要否等の検討をお願いできればと思います。
第二は国際面の課題でございます。90年代の後半から、特に特許の世界において国際出願の増大が顕著でございます。これはある意味で情報化の一側面ではないかと存じますが、国際出願の増大にどう対応するか、さらには権利保護をいかに図るか、WIPOでも国境のないインターネット上における知的財産権損害に対して議論が開始されようとしています。この点について日本としてこれにどう対応していくべきかを御議論いただければと思っております。最近、長らく日銀統計では赤字でございました技術収支が黒字になろうかとの見方も出ております。既に、総務庁の統計では90年代半ば頃から黒字になっていますが、おそらく日本の技術が海外でも特許化され、その収入が技術収支に反映されているのではないかと思います。それだけに、世界的な知財関連の権利のエンフォースメントもかなり重要な課題になりつつあると考えております。
第三は、これは本来審議会等にお諮りすることか疑問もございますが、是非お聞きいただきたいことでございます。今申し上げました出願の増大が我が国にも当然ながら降りかかってきており、審査請求が、量的にも質的にも複雑化しつつ、急増しております。お陰様で、我が特許庁は世界に先駆けてペーパーレスシステムを導入し、それにより業務の効率化、データの公開等を図ってまいりました。昨年をもちまして特許のみならず、商標、意匠の分野でもペーパーレス化を終了いたしました。今や各国が同様の方法を導入しておりますけれども、出願の増大は更なる対策を求めているのではないかと思います。このため、予算的、人的には最大のウェイトをこの点に割かなくてはならないわけでございます。そういう中で、実務的には様々な能力上の制約を抱えながら、今申し上げました政策的課題に対応して、21世紀の特許庁は動いていかなければならないわけです。この特許庁の業務のあり方について、前提としてお聞きいただきつつ今後の様々な論点を、皆様に御審議いただきたいと思います。
どうもありがとうございました。

(中山部会長)

ありがとうございました。それでは具体的な審議に入ります前に本部会の公開について皆様の御同意を得ておきたいと思います。産業構造審議会はその運営規定によりまして、部会や小委員会を含め、原則公開となっております。本日の部会につきましても、事前に開催期日等を公表し、会議を公開で行い、会議後は議事要旨を特許庁のHPに掲載することになっておりますけれども、よろしゅうございましょうか。(異議なし)ありがとうございます。それではさっそく具体的な議事にはいらせていただきます。まず、知的財産政策の課題、当面の検討事項、法制小委員会の設置について、事務局の方から配布資料に基づき説明をお願いしたいと思います。

(総務課長)

資料1~3に基づき説明

(中山部会長)

ありがとうございました。残りの時間があと50分程度でありますので、どの点でも結構でございますから、御意見、御質問ありましたらお願いいたします。今日は第1回ということで、全般的にどの点からでも結構でございますので、御自由に御意見をお伺いできればと思います。

(山本委員)

東京大学のTLO(技術移転機関)にあたる、CASTI(株式会社先端科学技術インキュベーションセンター)の山本と申します。意見ということではないのですが、私自身がTLOという立場から見て、これまでの知的財産政策というのは優れたものであったと思いますが、今後の世界的なプロパテント政策の中でどう国際優位を確保しながらなおかつ、特許庁のスタッフを3倍に増やさなくても対応できる施策を考えますと、私どもの立場からみますと、例えば日本版プロビジョナルアプリケーション(仮出願制度)の導入の検討ですとか、国内優先権制度を改正する形でも対応できるのではないかと考えております。大学が研究開発した基礎技術を学会発表の前にも仮出願できるということにすれば、先端技術の知的財産保護ということでは拾うことはできると考えます。一年間市場にさらされて、それでも市場性、マーケッタビリティがないものは本出願に至らないということになれば、本当にいい発明だけが出願されるということになります。プロビジョナルアプリケーションの検討に加えて、30条適用の枠の運用をもう少し広くできないでしょうか。現在特許庁長官が指定する学会での発表はグレースピリオドの対象となります。しかし、大学の先生がパリの学会で発表する場合は、日本において特許にならないということがありますので、30条の運用の見直しができないか、ということです。さらに、継続出願、これは個人的には難しいと思いますが、これが検討できれば基礎的、基本的特許の保護ができるのではないか、と考えております。もちろん、この検討事項の4番目にあるように、そのようなことを日本で言い出した場合、欧州から批判を受けるということは重々承知の上で、是非検討いただきたいという要望でございます。

(総務課長)

施行は先になりますが、一昨年、新規性喪失の例外の拡大、具体的には発表したものと同一のものでなくても、新規性は阻却されないという制度改正を行いました。加えて、学会発表活動に関して支障がないような制度については検討しており、タイミングなどは全く未定ですが、課題としては視野には入っているということであります。

(長官)

WIPOにおける国際的ハーモの議論の中で、当然話題になるのはアメリカの先発明主義であり、ヨーロッパについてはグレースピリオドが問題になります。日本としてはこの二つがアメリカ、ヨーロッパに対し見直しを要求する課題であり、グレースピリオド等の問題は国内制度としてのみ検討するわけにいかず、国際的枠組みの中で議論せざるを得ません。今後御指摘いただいた点を踏まえ、議論させていただきたいと思います。

(三次委員)

社団法人情報サービス産業協会会長の三次でございます。私どもは、ハードではなくソフトを取り扱っていることから、特に最近のビジネスモデル特許など、自然法則利用では律しきえれない問題に関心をもっており、このため資料2にある「発明の定義」を是非御検討いただきたいと思います。一般の特許については、先行文献の調査が容易ですが、ソフトについても特許庁においてCSDB(コンピュータソフトウエアデータベース)が整備されつつあるので、これを続けていただき、無駄な重複出願を防ぐ助けとしていただきたいと考えております。

(中西委員)

今はITの波とビジネスモデルの波の複合化したものが各種法制に対応を求めています。審査基準の改訂や、審査官の教育に取り組むと同時に、審査基準の内容を企業の方にある程度明確かつ理解しやすくしていかないと、国際競争の中で、我々のような中小企業は遅れをとるのではないかと思っておりますので、そのあたりがテーマとして取り扱われれば面白いのではないかと思います。企業など制度を利用する側からすればスピードが重要であり、いろいろなテーマにスピードは不可欠のキーワードです。これは紛争処理に妥当しますが、審査にしても同様であると思います。

(長官)

三次委員がおっしゃいました定義の議論は検討項目にありますが、現在の私どもの審査基準にとらわれず、法制小委員会では大胆に御議論いただきたいと思います。ソフトウエアに止まらず、現在の情報化社会の中でさらに新しい技術も出てくるかもしれませんので、どういうことを想定して定義を議論するかが問題になると思います。ただ、現時点でいろいろと議論をいただいている中で、ソフトウエアは自然法則利用との関係で特許対象にあたるのかがクローズアップされているので、論点として問題提起をさせていただいております。やや極端ですが、ビジネス方法そのものを特許にすべきかという問題がアメリカとの間でよく議論されておりますので、その辺も整理した方が良いと思っています。ただ現時点では、ビジネス方法そのものは特許しないという考え方にたっており、ビジネス関連発明は我々にも新しい分野なのでビジネス方法自体がクレームされているのか否か審査官も暗中模索しつつ審査しているところがございます。明らかにこういったものはビジネス方法の特許として私どもの現在の審査基準では認めないという事例集をHPで出しておりますけれども、御指摘のとおりですので、もう少し経験を積んだ上で、事例集を増やしていこうと思っています。

(技監)

CSDBは拡充に努めており、98年と比べるとデータは倍増しております。スピードの面では早期審査制度というのがございまして、非常に早く審査結果が出ることになっておりますので、ベンチャー企業等の方々にも是非御活用願いたいと思います。

(中西委員)

最近また審査期間が長くなっているように感じるのですが、その辺いかがでしょう。

(技監)

近年知的財産権に対する関心が非常に高くなっており、訴訟においても高額の賠償額が認められるようになっています。このため、我々の審査の質に対する要求も非常に高くなっており、昨年来特に国際的に通用する特許については一層先行技術の検索の範囲を広げ、安定した権利の設定に努めてきている関係で、若干処理の件数が落ちてきており、審査期間も若干伸びてきています。これと併せて請求期間が短縮されることもあり、我々の最大の関心は如何に審査の処理能力を上げていくかにあり、現在いろいろと取り組んでいるところであります。

 

 

(中山部会長)

CSDBについては御存知ない方もいらっしゃるかと思いますので、御説明願えれば、と思います。

(技監)

CSDBはコンピュータソフトウエアのデータベースということでありまして、ビジネスモデル特許等も含め、ソフト関係の先行技術文献を集め、検索できるようなキーワードを付けて、集積しているものであります。

(中山部会長)

コンピュータソフト、特に、ビジネス方法は先行技術の検索が一番大事なので、これは一番重要な事業と思います。

(小池委員)

日本弁理士会の小池でございます。基本的な面を2点と、少々細かい点を一つ質問させていただきます。先ほど長官、事務局の御説明で新しい方向性はよくわかりました。今回の課題として伺っております、先端技術分野における問題につきましては人的インフラの充実という面で弁理士会としても一生懸命努力しているところでございますが、最近TLO(技術移転機関)等の動きが活発化しているところでございまして、弁理士会としてはTLOを通じまして、先端技術分野に携わる科学者と接する機会も増えてきておりますが、ぜひ国の目指す方向としてもそういう機会をおおいに作っていただいて、高度で複雑な技術分野ですと、なかなか弁理士全員が均質に対応するのは難しいことですので、TLO支援等のチャンスを通じて是非貢献させていただきたいと思います。それから二番目でございますが、紛争解決の問題に関しまして、弁理士会では日弁連との共催で「日本知的財産仲裁センター」を運営しております。特に、最近ではドメインネームに関する紛争が持ち込まれるようになりました。ただ、センターは現状におきましては機能し始めたところでありますが、日弁連と弁理士会の共催であるということがネックとなっております。これが将来的に国家事業として活用していただけるような方法の御検討もいただけるとさらに機能を発揮できると考えております。さらに、三点目といたしましては、的確な特許権の保護について、例えば年金に関する問題ですとか、手続処理に関する法定期限などがございますが、こういったものは、受益者負担という観点から、ある程度ペナルティを負担させてでも期間の延長等をお考えいただくことも必要となってくるのではないかと思います。

(長官)

TLO支援あるいは先端技術での権利化の取組に関しましては、私どもも弁理士会の方々に期待しているところでありますので、よく御相談させていただきながら、TLOが全国にたくさんできつつある中で、是非スムースな形で弁理士の方々との交流ができればと思っております。ただ、国の支援のあり方については、既存の制度はやや画一的であり、自由度に欠けるという御批判もいただいておりますので、もっと柔軟に、それぞれの特性に応じた交流をするにはどうすればよいか、弁理士会とTLOの方々でよく御議論いただいて、私どもでできることがあればこの審議会等でも御議論いただければと思っています。特にバイオ等は森下委員もいらっしゃいますが、産官学のアプローチが非常に重要視されているところでありますので、その辺の審議を是非進めていただければと思います。
それからドメインネームを含むADR(裁判外紛争処理制度)に関しましては、昨日自民党の司法制度調査会においても知財に関して基本法までお作りになるという御提案もなされていることから、ひとつの方向性が出されていると思います。本来司法制度改革審議会の方でもそれなりの結論がでてくるのではないかと思っております。それを踏まえて特許庁としてなすべき点があればやるべきだろうと思います。

(総務課長)

年金については国際的な調和もございまして、PLT(特許協力条約)なども踏まえて考えていきたいと思っております。

(森下委員)

バイオの話がございましたので、一言述べさていただきたいと思います。先程お話にありましたように弁理士で詳しい方がいらっしゃらないというのが実情でございまして、海外への出願も含めて適切なアドバイスがいただけておりません。これは弁理士さんだけでなく、TLOでも国内出願しか視野にいれていないということでありまして、実際現在求められている海外出願への支援という視野は欠けていると思います。もう一つのポイントとして、昨日たまたま新聞紙上をにぎわしておりますが、産業スパイという問題がいよいよ出てきており、この点日本は正直な話、かなりルーズにやってきたというのが実情ではないかと思います。少なくとも海外の技術の扱い方と比べ、日本における管理というのが甘かったというのは事実だと思います。その日本のやり方がやはりアメリカでは通用しないということがはっきりしてきましたので、いいタイミングであり、同様の事件が頻発する可能性も高いと思われますので、啓蒙も含めてかなりはっきりさせておく必要があると思います。この点も審議いただきたいと思います。また、先程山本委員から御発言ありました継続出願については米国とヨーロッパでは非常に制度が違い、日本とヨーロッパはかなり制度が近いと言われておりますが、実際に特許されましたものを比較しますと米国とヨーロッパの特許の成立の仕方が非常によく似ると我々は感じております。日本は、どちらかというと特許の範囲が狭くなっているということで、制度的にはヨーロッパに近いのですが、特許されたものの最後の形を見ると米国とヨーロッパの方が類似性があります。これが運用の問題なのか制度の問題なのかわかりませんが、我々としては海外の方がビジネスをやりやすいと考えておりますので、日本においてもやはりベンチャー振興の観点から制度的な面を議論いただければと思います。今後のバイオ領域のプロパテント化というのは重要なポイントでありますので、この審議会でも御議論いただきたいと思います。

(山本委員)

TLOの立場から少し補足させていただきますと、私どもは海外出願は多く、全体の3割強は海外出願しております。バイオに関しては半分以上は国際出願をしております。先ほどのグレースピリオドに関連するのですが、どうしても大学の先生方は“Nature”や“Cell”という雑誌に投稿されて、掲載されるまでの間に日本で出願するということが物理的に間に合わないため、掲載が認められると権利保護のためアメリカの方でプロビジョナルで出してしまおうというケースも何件も起こっております。日本で先に出願せず、アメリカでプロビジョナルで先に出願し、日本では1年後に出願するということが現実におこっているため、先程のグレースピリオドのことを御検討いただきたいと思います。

(総務課長)

最初にバイオの弁理士が少ないといったことにお答えさせていただきます。現在「これからの知的財産分野の研修のあり方を考える懇談会」というのを特許庁長官の私的研究会としてやっておりますが、そういった場で国際出願の面でもアドバイスできるような知識を持つ弁理士の育成をしていく方策を考えたいと思っております。それからむしろ御意見をいただきたいのですが、バイオの分野を始めとして、その分野にかかわった大学生、大学院生の方にも弁理士の世界に参入してきていただきたいのですが、そもそも弁理士という職業に対する認知度が低いという問題もあると思います。これに関しては、来年施行される弁理士試験において、バイオ分野の人材も試験を受けやすいように試験制度を改革いたしました。従って、後は弁理士という職業、バイオ分野の人材も試験を受けやすい制度があるということについて啓蒙に力を入れるべきと考えております。日欧の制度的類似性の割には欧米の方が登録された特許の姿が近いという点については特許技監に説明をお願いしたいと思います。

(技監)

平成5年に法律改正をして同時に審査基準を変えたわけですけれども、それ以来日本の権利が狭いというのは初めてお聞きすることで、米国の商工会議所で出ている意見でも日本はクレームの範囲が非常に広くなっているとの御指摘もございます。むしろ権利範囲として書かれている技術がしっかり明細書の中でサポートされていることが重要と思われまして、昨年から審査基準を変えてきております。結果として、先生がおっしゃるような事実があるとすれば、実態を調査し、対策を取りたいと思います。

(道垣内委員)

国境を超えた紛争の問題についてですけれども、7頁のところで触れられましたインターネット上の商標の問題について準拠法の問題が起こりうるという話になっております。これはビジネス特許についても同じことがおこるわけですが、そのことが問題だというだけでなく、もっと現実的な問題になるということの認識を持っていただきたいと思います。14頁にハーグ国際私法条約の話がでてきていますが、そこでは管轄のことのみに触れられています。この条約自体がどうなるかまだわかりません。来月に第1回の外交会議があり、第2回が2002年の初めに行われる予定であります。そもそも成功するかどうか、日本が加入するかどうかもわかりませんが、特許侵害事件の管轄が登録国の専属管轄になったとしても、法の適用範囲は各国でバラバラのままです。そうしますとインターネット上でアクセス可能だということで、ある特定の国の商標法あるいは特許法等、日本とは異なる法律が適用されてしまいますと、その登録国で判決が出された場合、条約上、締約国はその判決を承認執行する義務があります。その承認執行する段階においては何法をどのように適用したかをチェックしてはいけないことになっておりまして、無条件に執行しなくてはならないことになっております。そうしますと法がバラバラなままでこの条約ができてしまいますと、相当危ないことでして、それならむしろ、条約の適用範囲から除いた方がよいのではないかという議論もありうるわけでございます。つまり、専属管轄になれば大丈夫である、という認識を改めていただきたいということだけ申し上げたいと思います。

(審議室長)

ハーグの会議については2月の会議にも先生と御一緒に特許庁の職員も出張させていただきまして、私どもの方も強い関心を持って対応していきたいと思います。ただ今御指摘ありましたように、私どもの意識も管轄の問題にややもすると重点がおかれていたと思いますので、今後、御指摘の点にも十分配慮して対応したいと思います。商標分野では先程言及がありましたWIPOのインターネット上の商標の抵触に関し、拘束力のない勧告という形なのですが、加盟国相互の商標法の抵触を調整しようという試みがはじまったところであります。こうしたWIPOの動きへの取組というのも今後も強化していく必要があるかと思います。

(斎藤委員)

国際的にみましても重複出願が増大しており、サーチの結果を認め合うというところまでは御紹介がございました。それを詰めていきますと、サーチ審査の一元化にも理論上は至るかと思います。もちろん先発明とか制度のハーモ自体があるので実際はそこまでは至らないと思いますが、審査の一元化まで行いますと、特許制度というのは国毎に存立していますので、かなりずれが生じます。そういうことからしますと、完全な一元化の直前で止めなくてはならないということです。その匙加減を、ポリシーの問題でしょうが、どうお考えでしょうか。

(長官)

先程御紹介申し上げましたように、その点は既に97年に議論をしたところであり、いろいろな機会をとらえては、世界特許の実現、相互認証等による手続等の重複の排除など日本特許庁の考え方を主張してまいりました。率直に申し上げまして、スローガンの域を十分脱し得ていたかについては反省がございます。当初の各国の反応は必ずしもかんばしいといものではありませんでした。ただし、先程申し上げたように、国際出願が90年代後半から増えており、いよいよ現実問題としてなんとかしなければいけないという認識は国際的に広まりつつあるのではないかと思います。昨年のWIPOの総会におきまして、米国の方から国際出願に関する協力条約であるPCT条約のリフォームに関する提案があり、第一ステップでは手続の簡素化をはかり、第二ステップでは事実上の相互認証を図るべきとの提案がなされています。もっとも、残念なことにWIPO総会の最終段階になりまして、ヨーロッパ勢が第一段階の手続の簡素化は賛成するが、相互認証制度は時期尚早であると留保したため、現時点では、第一段階における取組、どの程度までサーチ等の手続の簡素化ができるかという議論がとりあえずスタートできたに止まっています。したがいまして、相互認証に関してはおそらくヨーロッパは当面討論に乗ってこないのではないかというのが現実であります。ヨーロッパが同意できない理由はいくつか推測されますが、理由の一つは裁判管轄の問題であると思われます。また欧州は一つの国際機関でありますので、そもそも域内での言語の統一が問題となります。さらに相互認証については、仮にイギリスと日本が審査結果の相互認証をした場合、EU特許を作ろうとしている欧州特許庁のポリシーとの関係はどうなるのかが問題になります。イギリスとの相互認証を認められると、日本の審査結果がただちにEUで認められることなり、ヨーロッパ特許庁の存在意義が失われるのではないかということがございます。ヨーロッパとしては、まずヨーロッパ内での制度等の整備に関し、コンセンサスを図った上で対処しなければならないという政治的な問題でもございます。そういたしますと、理想の世界特許は現実問題としてなかなかコンセンサスが作り上げにくいということになります。したがいまして、国際出願が増大する中で問題は差し迫ったものとなっている一方で、制度的にこれを国際的に解決する途がまだ見えていないのであり、日本として、この問題にどのように考え、対処するのかを今一度現実的な観点から考えていかなければならないと思います。

(仲委員代理)

法制小委会の設置が本日提案されましたが、検討課題として、ここに例示されておりますのはネットワーク上の問題と紛争処理の問題ということになっております。できますれば、もう少し幅広く日本の国益に合った法制度の整備の検討をしていただきたい。特に当面の検討課題の中での創造的技術開発の促進というカテゴリーに入るのではないかと思いますが、創造サイクルの中での権利活用、新規産業あるいは新商品の創造に関して現在の法体制が本当に使いやすい制度になっているかどうかも含めて御検討いただければと思います。

(審議室長)

法制小委員会の検討課題でありますが、当然名前のとおり法改正に向けた幅広い受け皿になっておりますので、当面5月、6月に短期的に取り組むことは何かということになりますと、まずIT化に対応した法制のあり方に取り組んでいきたいと考えております。ただ、当然ながら制度改正につながる事項の対象は幅広いものを想定しており、後はタイミングの問題ですが、今後の議論の過程における委員の皆様の御意見に耳を傾けつつ検討事項として追加していきたいと思います。

(総務課長)

今の点に補足して申し上げますと、当面、来年の制度改正に向けたITネットワークに対応した制度改正を行っていきますが、私どもの検討課題というのは来年だけではございません。司法制度改革に対する対応も6月以降ありうるかもしれませんし、再来年なるかもしれませんが創造的な技術開発の促進、研究開発成果の保護につながるような制度改正を、国際調和の観点も踏まえつつ何をすべきか考えております。様々な検討事項、課題がございますが、それを御提案いただければと思っております。

(中山部会長)

それでは多方面にわたる活発な御議論をありがとうございました。「当面の検討事項に」ついては御了承いただけたものといたしまして、本日の御意見を踏まえまして、今後具体的に議論を進めてまいりたいと思います。「当面の検討項目」の中の電子商取引の発展とIT社会の形成に向けた対応について法制面での検討をするために法制小委員会を設置するという点につきましては御了承いただけますでしょうか。(異議なし。)それでは、この小委員会を設置することとしたいと思います。本日予定しておりました議題は以上でございます。何か他に特別御意見はございませんでしょうか。それでは発言もないようですので、以上をもちまして産業構造審議会第1回知的財産政策部会を閉会させていただきます。本日は長時間にわたり、ありがとうございました。

[更新日 2001年6月13日]

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