• 用語解説

ここから本文です。

第8回知的財産政策部会 議事録

  1. 日時:平成18年6月16日(金曜日)13時00分~14時30分
  2. 場所:特許庁 共用会議室
  3. 出席委員:
    中山部会長、青山委員、井川委員、篠原委員、高橋委員、谷委員、中村委員、松尾委員、宮川委員、宗国委員、森下委員、諸石委員安田委員、山口委員、山根委員、山本委員
  4. オブザーバー:大渕意匠制度小委員会・委員長、土肥商標制度小委員会・委員長
  5. 議題:
    1. 特許審査迅速化に向けた最近の取組について
      • (1)「知的財産推進計画2006」、「平成18年度実施計画」及び「新経済政調戦略」について
      • (2)「特許審査迅速化・効率化のための行動計画」の取組状況について
    2. 先使用権制度の円滑な活用に向けて(案)について
    3. 発明の進歩性判断に関する検討開始について
    4. その他
      • (1)意匠法等の一部を改正する法律について
      • (2)地域団体商標の出願状況等について
      • (3)産業財産権を巡る国際的な動向と対応

開会

中山部会長

時間でございますので、ただいまから産業構造審議会第8回知的財産政策部会を開催いたします。
本日は、御多忙中のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。

委員紹介

中山部会長

それでは、まず最初に、前回の部会以降新たにこの部会の委員になられた方々につきまして、事務局から紹介をお願いいたします。

田川審議室長

それでは、御紹介をさせていただきます。
新たに委員に御就任をいただきました方でございますけれども、谷義一日本弁理士会会長、中村勝重三鷹光器株式会社代表取締役。お二人に新たに委員に御就任をいただきました。
以上でございます。

中山部会長

本日は、昨年度の特許制度小委員会の結論をもとに、特許庁で作成いたしました「先使用権制度に関するガイドライン(案)」、発明の進歩性判断に関する検討開始につきまして御議論をいただくとともに、特許審査迅速化・効率化のための行動計画の取り組み状況、意匠法等の一部を改正する法律などにつきまして、事務局より報告をいただきたいと考えております。
それでは、早速議題に入りたいと思います。
まず、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

田川審議室長

それでは、まず配付資料の確認をさせていただきます。
資料が多くなっておりますけれども、まず、大きくクリップどめをしてある資料でございますが、資料1といたしまして「委員名簿」。資料2-1といたしまして『「知的財産推進計画2006」と「平成18年度実施計画」』。資料2-2といたしまして「新経済成長戦略」。資料3-1といたしまして、「特許審査迅速化・効率化のための行動計画の取組状況概要」でございます。資料3-2といたしまして「特許審査迅速化・効率化のための行動計画の取組状況」。資料4-1といたしまして『「先使用権制度の円滑な活用に向けて(案)」の概要』。4-2といたしまして「委員会名簿」。4-3といたしまして、その本体でございますが「先使用権制度の円滑な活用に向けて(案)」でございます。その他資料5といたしまして「発明の進歩性判断に関する検討について」。資料6-1といたしまして「意匠法等の一部を改正する法律について」。資料6-2といたしまして、その法律の概要、A3の2枚紙でございます。資料7といたしまして「地域団体商標の出願状況等について」。資料8といたしまして「産業財産権を巡る国際的な動向と対応」でございます。そのほか御参考といたしまして、先日取りまとめられました「知的財産推進計画2006」、「特許審査迅速化の中・長期目標を達成するための平成18年度実施計画」、「意匠法等の一部を改正する法律の関係資料」について、参考で配付をさせていただいております。
不足がございましたら、お申しつけいただければと思います。

中山部会長

よろしいでしょうか。

特許審査迅速化に向けた最近の取組について(報告)
「知的財産推進計画2006」、「平成18年度実施計画」及び「新経済成長戦略」について

中山部会長

それでは、最初の議題であります「特許審査迅速化に向けた最近の取組」について、事務局から説明をお願いいたします。

米田企画調査官

それでは、失礼いたします。資料2-1というものをご覧いただければと思います。迅速化という枠組みになってございますけれども、まず私の方からは、最近の政府全体の計画、いろんな枠組み、大きな枠組みの中で、知財がどういうふうに扱われているのか、そういったことをまず先に御説明させていただきたいと思います。
資料2-1でございますけれども、「知的財産推進計画2006の概要」というふうに書いてございます。これはつい先日でございますけれども、6月8日に、総理を本部長といたします知的財産戦略本部、中山先生にも森下先生にも本部員として入っていただいてございますけれども、こちらの方で推進計画を定めた、その概要でございます。
御案内のとおり、推進計画は2003年から4回目になるわけでございますけれども、今年も精力的にいろんな項目を盛り込んでございます。創造、保護、活用と3つの分野に分けて書いてございますが、創造の方につきましては、創造等における大学等の役割は極めて大きいことから、大学の知的財産本部・TLOの一本化、連携強化といったことを早急に検討してまとめていくといったことがうたわれてございます。
続きまして2.の保護でございますけれども、保護の中の筆頭項目に世界最高水準の迅速的確な特許審査の実現といったことが挙がってございまして、私ども特許庁が特にそこの重責を担っておるわけでございますけれども、特許審査迅速化・効率化推進本部は、昨年12月に二階大臣を本部長といたしまして、迅速化・効率化をさらに加速するために本部を設定したものでございます。この1月に行動計画をまとめてございますけれども、それに従って、引き続き迅速化・効率化を進めていくということを知財戦略本部の方からもエンドースされておるわけでございます。後ほど、この進捗状況については御説明いたしますけれども、任期付審査官の増員、登録調査機関の参入促進、これは外注でございますけれども、そういった官民合わせた効率的な体制でより迅速化を進めていくということでございます。
それから、こういった迅速化のフォローアップと、業種・業態によって異なる産業界の知財戦略について議論する場として、産業界の方々に幅広く集まっていただいて特許戦略懇談会、仮称でございますけれども、こういったものを設置して、官民一体となって進めていってはどうかと、そういったこともうたわれてございます。
次に、特許審査ハイウェイの日米間の試行でございますけれども、これも7月3日から開始することとしてございます。あわせまして、韓国その他いろいろな国々と、三極以外の国々との間でも、世界特許システムに向けてサーチや審査結果の相互利用、そういったことを進めていくといったことがうたわれてございます。
さらに、特許出願による技術流出の防止ということでございまして、これも後ほど事務局から御説明させていただきますが、先使用権のガイドラインを策定するようにといったこともうたわれてございます。
それから、模倣品・海賊版対策でございますけれども、これは昨年のグレンイーグルズサミットで総理の方から提唱いたしました条約につきまして、各国とも連携しながら早く議論を進めていくようにと、こういったことも戦略本部の方から言われているわけでございます。
3番目の活用でございますけれども、企業の知財の戦略的活用を支援しろということでございまして、企業の方にCIPO(最高知財責任者)、そういった担当役員を置いて、各企業ごとのきっちりした知財管理を進めていってほしいとか、その他中小企業については、知財駆け込み寺等相談窓口の整備、昨年つくりました地域知財戦略本部の活動をさらに推進すること、コンテンツの振興、それから、これまた新しい重要な課題でございますけれども、知的財産人材育成の総合戦略というのを着実に実施していくようにといったことがうたわれてございます。
1枚めくっていただきまして、「特許審査迅速化の中・長期目標を達成するための平成18年度実施計画」といったものが書いてございます。これは「知財推進計画2003」のときに特許審査迅速化についての中・長期目標が定められた際に、きちんと毎年度、目標達成のための実施計画を特許庁の方でつくるようにということを決められまして、毎年つくっております。ことしで3回目でございます。
1.のところに表がございますけれども、一次審査件数を、17年度目標は24万件以上でございましたが、右の黄色く塗った欄でございますが、18年度の目標としては約25%アップして29.6万件以上とするようにということでございます。審査順番待ち期間も、これは一時的に2008年に20カ月台というところまで伸びてしまうことが推進計画でも決められているわけでございますけれども、18年度につきましては、28カ月以内に何とか伸びを抑えていこうということでございます。
その下、2.の方に「18年度の具体的取組」ということで書かせていただいております。審査官の増員ということでございまして、これは平成16年度から20年度までの5年間に500人程度の任期付審査官を増員して体制を強化するということを決めておるわけでございますけれども、18年度についても、任期付98人を含む110人の増員ということになってございます。
その他民間に対する先行技術調査の外注、こういったものもさらに拡大にしていくようにということで、19.1万件以上。その他特許電子図書館の機能強化、国際的な審査協力といったこともやっていくということを実施計画として定めてございます。
次に、資料2-2でございます。「新経済成長戦略」について御紹介させていただいております。「新経済成長戦略」の方は、経済産業省全体といたしまして人口減少下での新しい成長といったものをしていくために、どういったことをしていかなければならないのかといったことを、私どもと同じ産構審の別の部会でございます新成長政策部会の方で御審議を重ねていただきまして、去る6月9日に省として取りまとめたものでございます。
「新経済成長戦略」は、人口減少下での新しい成長を目指して、そのためにイノベーションと需要の好循環をつくっていくことが重要だということをうたってございまして、その下の黄色く囲ったところでございますが、そのために国際産業戦略と地域活性化戦略、この2つの戦略を二本柱にして進めていくことが重要だとうたってございます。
国際産業戦略の2つ目のポイントに、「世界のイノベーションセンターとして、世界をリードする新産業群を育成」と書いてございますが、そういったことを進めていくために、右側のオレンジ色で囲った横断的5分野、そういったことをやっていかなきゃいけないと。ヒト・モノ・カネ・ワザ・チエと5つの分野に分けて重要な施策を打っていくということが必要だといっておりますが、下から2番目の「ワザ:技術」といったところで、当然イノベーションのために知財も大事だということで、特許審査迅速化、国際標準化云々といったことが書いてございます。
1枚めくっていただきまして、この「ワザ:技術」の部分で特に知財に関してどのような記述があるかといったことをピックアップしたのがこの1枚でございます。真ん中辺に、課題として知的財産に対するこれまでの対応の弱さといったことが並べてございます。審査順番待ち期間の長期化、模倣品・海賊版被害の拡大、中小ベンチャー、そういったすそ野の問題、地域人材の不足、こういった点についてまだまだ対応の弱さがあるのではないかといった問題意識を持った上で、具体的施策といたしまして、やや繰り返しになりますけれども、特許審査迅速化や特許情報の有効活用による研究開発効率の向上、複数国での権利取得を実現する世界の特許制度の調和、その他知的財産人材の確保・育成、そういったことを盛り込んでおるわけでございます。
以上が、最近の知的財産をめぐります、より大きな枠組みでのさまざまな計画の概要でございます。ちなみに「新経済成長戦略」の方は、この後、一たん6月9日に取りまとめてございますけれども、政府全体として「経済成長戦略大綱」といったものを財政・経済一体改革会議でまとめていくことになってございまして、行く行くは経済財政諮問会議の方でまとめる骨太方針の方に盛り込まれていく、そのコンテンツとなっているというところでございます。
私の方からは以上でございます。

「特許審査迅速化・効率化のための行動計画」の取組状況について

南調整課長

それでは、引き続きまして、私の方から「特許審査迅速化・効率化のための行動計画の取組状況」について御説明をさせていただきたいと思います。お手元の資料の3-1と3-2をお取りください。前回のこの知財部会におきまして、「特許審査迅速化・効率化のための行動計画」を御説明させていただきました。それ以降、経済産業省の方で取り組んだ事項について列挙したものが資料3-2でございます。幾つかの項目の取組、進捗が順調に進んでいるということでございますが、時間の関係もございますので、資料3-1で主なものを御説明させていただきたいと思います。
資料3-1、A3の紙ですが、左側にこの行動計画の主な項目がございますけれども、時間の関係で、こちらの方は前回御説明をさせていただいたということで説明を割愛させていただきます。新しく委員になられた方もいらっしゃいますが、申しわけございませんが説明は割愛させていただきまして、右側半分の「その後の主な取組状況」について御説明をさせていただきます。
まず、審査当局、特許庁での取組状況でございますけれども、審査業務・審査関連業務の効率化、勤務時間の多様化を図ることによりまして、審査処理能力を上げようということでございます。特にこの審査時間の多様化というのは、審査官がより集中して審査に専念できるようにということで、朝7時から勤務できるような勤務時間体系を導入しております。
それから、審査業務の効率化の一番の柱でございます先行技術調査件数、これも昨年と比べて約1万件程度増大をさせております。
それから、これを請け負っていただきます登録調査機関が、この6月5日に新たに1機関ふえまして、合計で4機関になっております。こういった施策を組み合わせることによりまして、先ほど18年度の目標、実施計画にありましたが、今年度29万6,000件の一次審査を達成しようというところでございます。
それから、三極特許庁間での審査協力、サーチ協力の一環として、まず日米間で、この7月3日から特許審査ハイウェイの試行を開始するということにしております。
2番目が「産業界等による取組」の要請ということでございますけれども、知財管理の充実を目的といたしまして、経営者の方々、経済産業省の幹部との意見交換会を実施いたしております。これまでで審査請求件数上位企業100社のうちで70社に対しまして、こういった機会を設けさせていただいております。
それから、幾つか産業界あるいは弁理士の方々にいろいろ協力要請をしているわけでございますが、それらについて、我々サイドとしても幾つかの支援の施策を打っているわけでございますけれども、1番目は、後ほど技術調査課長の方から説明があるかと思いますが、先使用権制度に関するガイドライン事例集の策定ということを行っております。
2番目が、出願人サイドでの先行技術調査能力の向上を目的といたしまして、審査官のこういった調査のノウハウを民間移転するための研修を新たに新設いたしました。実施母体は工業所有権総合情報・研修館でございますが、第1回を今月26日から開催をする予定にしております。これも非常に前評判が高くて、応募者が殺到しているというふうに聞いております。
それから、先行技術調査を行うツールとしての特許電子図書館(IPDL)の機能向上でございますが、これは随時実施をしております。
それから、技術分野別の判決集といたしまして、ビジネス関連発明、バイオにつきまして、こういった判決集を特許庁のホームページで公開をしております。
それから、やはり審査官の先行技術調査のノウハウをまとめました特許検索ガイドブック、これを一昨年度、12分野公表させていただきましたが、昨年度末に新たに13分野を公表させていただいております。今年度についても、引き続き新しい分野を公表する予定にしております。
それから、企業側、出願人側の審査請求の見直しをより活発化していただこうということもありまして、審査請求料返還制度。現在、審査請求を行ったものを取り下げていただくと半額返還をしておりますが、これを一定期間、全額返還することができないかということで、現在、関係当局と調整を行っているところでございます。
あと、主要企業あるいは代理人の特許取得状況、出願状況についての公表でございますが、これにつきましては、4月14日に特許庁のホームページを通じて公表をさせていただいております。
それから、次の2つの項目でございますけれども、「産業財産権の活用企業百選」というのをまとめまして、それから、「特許戦略優良企業」として5企業を選定いたしまして、これらにつきましては、今年の発明の日、4月18日に公表をさせていただいております。
こういった企業側、出願人側あるいは代理人側の協力の結果もありまして、今年の1月から3月にかけましての審査着手前、審査官が手をつける前の取り下げ・放棄件数というのは、昨年同期と比べまして約1.5倍、1月で約760件程度に増加しております。こういったことから、我々もこういった取組を今後もさらに一層進めていきたいというふうに考えております。
あと、中小企業に対するさまざまな支援を行っているわけですが、これまでなかなか知られていなかったというようなこともございますので、こういったものをPRするということで、早期審査あるいは中小企業に対する先行技術支援事業、こういったものを特許庁で行っているわけですが、そういったもののパンフレットを商工会あるいは商工会議所等に100万部配布をする予定にして、今現在準備を進めているところでございます。
あと、特許手数料の軽減措置として、資力の乏しい中小企業に対する軽減措置の要件緩和というのを今進めております。これは、現在の我々の対象というのは設立から10年以内の企業に限っていたわけですが、これを撤廃できないかということで、この要件緩和について、現在、関係当局と調整をしているところでございます。
あと、中小企業の方々に、何かあったときにどこに相談してよいかなかなかわからないということをよく言われますので、そういった知財の活用ノウハウとか問題が起きたときの相談窓口として、全国の商工会、商工会議所に、通称、知財駆け込み寺と言っておりますが、これを7月設置を目途に現在準備を進めております。
それから、先ほどもちょっと言及がありましたが、こういった行動計画のフォローアップをするために、産業界、中小企業などの有識者、経済産業省も加わりました懇談会を設置すべく、現在、関係者と調整をしているところでございます。
いずれにしましても、今後もこの行動計画の実行に向けて我々いろいろ努力をしていく所存でございますので、また皆様におかれましても、御協力をよろしくお願いいたします。
私の方からは以上でございます。

中山部会長

ありがとうございました。
ただいまの報告は次の議題とも関連ございますので、質問等は次の議題の後にお願いしたいと思います。

先使用権制度の円滑な活用に向けて(案)について

中山部会長

それでは、先使用権制度に関する事例集、「先使用権制度の円滑な活用に向けて(案)」についてですけれども、こちらは、先般取りまとめていただきました特許制度小委員会報告書「特許制度のあり方について」におきまして、先使用権制度の明確化及び先使用権制度の立証手段の明確化を図り、制度の円滑な利用を推進することが必要と示された方向性に基づきまして、特許庁において作成したものでございます。
それでは、事務局から説明をお願いいたします。

木原技術調査課長

本件につきまして、私の方から御説明いたします。今、部会長からも御紹介いただきましたが、特許制度小委員会の方で答申をいただきまして、それを受けて、今般の「先使用権制度の円滑な活用に向けて」ガイドライン事例集を作成するに至ったわけでございますが、その背景も含め御説明させていただきたいと思います。なお、ガイドライン事例集(案)自体は、今お手元に資料4-3としてございますけれども、今回、事例、判例等非常に多く盛り込んだこともございまして、260ページを超える大部なものになっておりますので、本日は、資料4-1、A3の資料を中心として御説明させていただきます。
まず、作成に至りました背景を御説明いたします。資料4-1の左上のところにございますように、現在、企業が研究開発の成果として発明を生んだ場合、どういうビヘービアをとるかということでございますが、もちろん1つは、特許出願をして審査請求をし、特許を取っていくというルートがございます。そして、出願したものは海外でも権利取得するかどうかを検討していくということになります。しかし、現状を申しますと、特許になるものは最終的に4分の1程度しかなく、また、海外で権利化されているものも10分の1程度しかありません。特許出願を選んだ場合は原則18カ月で公開されますので、このような状況下、権利かもされない単に公開だけされた情報が技術流出につながっているのではないかというような懸念もあるわけでございます。
そういうこともございまして、現在一部の企業におかれては、特許出願をするのか、ノウハウとして秘匿するのかを戦略的に選択するようになってきております。ノウハウとして秘匿した場合、どういうふうにしていくのかということでございますが、まずは社内から漏れないようにしていくということで、営業秘密管理をしっかりとしていくということが大事で、仮にそれが盗用されてしまったような場合には、不正競争防止法の保護の対象となります。ただ発明は、例えばライバル企業等が偶発的に同じ発明をして、その社の方が特許出願をし、特許を取ってしまうかもしれません。それに対して、ノウハウとして秘匿した企業が、安定的に継続してその事業を継続するためにはどうすればよいのかという点で、本件の先使用権制度の活用があるわけでございます。
他社が特許出願をする前から、その発明について事業の準備もしくは実施をしている企業は、引き続いてその特許権に対抗してその事業を継続することができるというのが先使用権制度でございます。なお、本日の新聞報道では、さも発明をしただけで先使用権制度があるようにも受け取られるような記事があったわけでございますが、それは誤りでございまして、あくまでも他社の出願前から事業の準備もしくは実施をしているということが前提となっております。
このようにノウハウとして秘匿することを選択した発明について、仮に、将来、他社の特許権が発生した場合に先使用権を活用していくという戦略を持つ企業が増えてまいったわけでございますが、先ほど部会長からも御紹介いただきましたように、特許制度小委員会では、先使用権制度自体の内容が明確でない、また、他社の特許出願前から事業の準備や実施をしていたことをいかに立証していくのかがわかりづらいとのご指摘をいただき、ガイドライン事例集の作成により、先使用権制度の明確化と先使用権の立証手段の具体化を図ることが必要である旨の答申をいただきました。
その答申を受けまして特許庁といたしましては、資料4-2に委員会名簿がございますけれども、本日の部会長であられる中山先生に委員長を、また本日御出席いただいております意匠制度小委員会の委員長であられる大渕先生に委員長代理をお願いし、法曹界、産業界、学界から本件の有識者の方々に集まっていただいた委員会を財団法人知的財産研究所に設置いたしました。そして、その場で、これまでの判例とか通説、さらには企業の実態等を参考に、制度の明確化や立証手段の具体化について数次にわたる議論を経て取りまとめていただき、その結果を基に特許庁として今回のガイドライン事例集を作成させるに至った次第でございます。
内容的には、資料4-1の右の中ほどのところにございますけれども、まず、先使用権制度の明確化という観点で、ここにありますような明確化のポイントにつきまして、これまでの判例、通説をもとに解説するような形になってございます。昭和44年に「地球儀型ラジオ事件」の最高裁判決がございまして、それ以降の判決を調べましたところ、約90事件ぐらいの先使用権の抗弁に対する判決がございました。それらをすべて分析いたしまして、それらの中から読み取れることを各種明確化のポイントに当てはめて、Q&Aの形で説明してございます。
例として、『「事業の準備」とは?』という点を①に書かせていただいておりますけれども、これは昭和61年に「ウォーキングビーム炉事件」の最高裁判決がございまして、即時実施の意図があって、その意図が客観的に認識されるときに「事業の準備」が認められるということが判示されております。それ以降の下級審判決でも多々、「事業の準備」について判断されており、例えば試作品が完成しているとか、試作品を製造し販売しているとかということをもって「事業の準備」が認められております。
反対に「事業の準備」が認められなかった例として、その産業分野であれば、準備と言えるためにはある程度詳細な設計図が必要にもかかわらず、その事例では単なる概略図しかなかったということで、準備には至っていなかったという判断がなされた裁判例もございます。そのように、「事業の準備」が認められたもの、認められなかったものを列挙して説明する形をとらせていただいております。
また、もう1つ、大きな御関心がございましたのは、「実施形式の変更は認められるか?」という点でございまして、これも先の「ウォーキングビーム炉事件」の最高裁判決におきまして、発明として同一性を失わない範囲の中であれば実態形式の変更は認められるということが判示されております。ガイドライン事例集では、その判決部分を解説するとともに、これまで同一性の範囲の中に入っているということで実施形式の変更が認められた裁判例や、反対に、例えば、ある装置について、手動入力だったものを自動入力に変えたことは明らかに効果に顕著な差があるということで発明の同一性を認めず、先使用権を認めなかったというような裁判例も示しながら、どういう場合に実施形式の変更は認められるのかということを理解いただけるような形で構成をしております。他のポイントも同様な形で解説をさせていただいておりまして、先使用権制度の明確化を図ってございます。
次に、2つ目のポイントが先使用権の立証ということでございます。昨年秋に、本制度のあり方を議論するに当たりましてアンケート調査等も行っておりまして、中小企業も含めまして約300社程度から御回答をいただいておりました。その中には、特に先ほどの左のフロー図で示しました、ノウハウとしての秘匿を積極的に選択し、将来、仮に他社が特許権を取得した場合に、先使用権を立証できるように証拠を残している企業が結構あり、今般、私どもの方でそのような企業約30社に訪問をさせていただいて、その実態を勉強させていただいた次第です。
その結果から、どのように証拠を残し立証していけばいいのかということが全体として把握できてきたわけでございます。もちろん、産業分野やその技術の置かれた状況によっても異りますが、一つ申せますことは、数多くのノウハウがある中で、それらについて先使用権の立証をしていくにあたり、そのためのみに何か特別なことをしていくというのは非常に負担でありますので、日々の企業活動、研究開発活動なり事業活動の中から当然出てくるような資料をいかに整理し、管理していくのかという管理方針、管理体制をしっかりと確立するということがすべての基本になっているということでございます。
かつ、そのような資料は、先使用権の立証のためだけを目的に残すということではなくて、社内の技術者間での情報の共有化のためや、トラブルが発生したときにそれに対処していくため等、他の目的のために残しているものを先使用権の立証のためにも使っていくというスタンスで臨むことが現実的であると考える次第です。
また、数多いノウハウについて、最初から広く厚く証拠を残していくというのは大変ですので、他社の特許出願動向を公開公報等で見ながら、まさに自社がノウハウとして秘匿して事業化しているものについて、他社が特許出願したということがわかったときに、その発明に対してさらにその証拠の補強をしていくという、ツーステップ方式での取組というのも非常に大事であると考える次第です。
このように、基本は、各企業の中で、日々出てくる資料を残しておくというのが大事ですが、さらにそれらについて安心して証拠として使えるかどうかというところで、各種証拠力を高める具体的な手法がございまして、それについてもガイドライン事例集の中で御紹介しております。その日にそういうものが本当にあったかどうかとか、それがその後改竄されていないのかどうかというところを証明するということでございまして、ここにもありますように、その一つが公証制度でございます。確定日付をとるとか事実実験公証証書をつくるとかいった手段がございまして、具体的には、例えば、証拠資料をまとめて綴じて、それに確定日付を取得するとか、あるいは資料4-1に絵をかかせていただいておりますけれども、ダンボールの中に製品自体を入れ、それを密封して確定日付を取得するというような手法があります。また、最近は、インターネット上で民間のタイムスタンプ、電子署名のサービスが多く提供されるようになってまいりました。その中で、財団法人日本データ通信協会が認定する業者の提供するタイムスタンプサービスにつきましては、例えば、国税の関係書類を電子データで残した場合の日付保証として認められている等、法令上もこのような民間のサービスが認められているような時代になっておりますので、こういうサービスを利用する手法もございます。また、公証人役場は5時に閉まってしまうということもありまして、24時間使えるという観点から、郵便制度を活用するという手法もございます。
このように、基本は、各企業が日々の資料をいかに残すかということでございますが、
その証拠力を高める手法として、以上のような各種制度やサービスの活用も検討していくことが重要と考える次第です。
あと、時間の関係で割愛させていただきますが、我々が全体的に立証手法をまとめるにあたりまして御訪問させていただいた企業の実際に取組につきましても、このガイドライン事例集の中で紹介させていただいておりまして、これも参考にしていただけるものと考えております。
私の方からは以上でございます。

中山部会長

ありがとうございました。
それでは、ただいまの2つの報告につきまして、御質問等がございましたらお願いいたします。何かございませんでしょうか。
どうぞ。

青山委員

日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会の青山と申します。
私みたいなまるっきりの素人がこういう発言をするのは大変面映い、僭越な気もしますが、このすばらしいガイドライン、蓄積情報という形で立派なものができたというふうに思います。また、最初のところに「必要に応じて改訂していく」ということで、これを皆さん方が活用していくその中で、新たな問題点が出てきたら、どんどんこれに蓄積していくということをぜひ継続してやられてほしいというのが1点です。
もう1つ、資料3-2にあります「中小企業に対する配慮」というところで、こういったもののガイドの活用等も含めてですけれども、『「知財駆け込み寺」を7月に設置すべく』というふうに書かれてありますが、この駆け込み寺を担当する方たちはどういった方たちを想定していらっしゃって、その準備というのはどんなふうに進められているのか、お聞かせいただければありがたいと思います。

木原技術調査課長

まず、1点目のコメント、本当にありがとうございます。ガイドライン事例集の「はじめに」のところにも書かせていただいておりますように、特許庁といたしましても、今後の判例状況等も分析させていただきつつ、また新たな課題等にも真摯に取り組んで、さらに良いものにしていくという姿勢で臨んで参りたいと思っております。

南調整課長

2点目の中小企業支援での知財駆け込み寺でございますが、設置の場所は全国の商工会、商工会議所でございます。それぞれ担当窓口で多分異なると思いますので一概には言えませんが、実際そういったことを担当される方々を対象にセミナーなども実施して、知識を高めていただくようなこと。あと、それぞれの商工会、商工会議所に、そういった対応するためのマニュアルをこちらの方でつくって設置をするということをさせていただきます。

中山部会長

ちなみに、今の知財駆け込み寺につきましては、この「知的財産推進計画2006」の79ページに詳しく説明が載っておりますので、そちらを御参照願えればと思います。
ほかに何か。
どうぞ、安田委員。

安田委員

東京大学の安田です。先使用権の方の話ですが、大変推奨というかいいことになってきたというふうに思っております。1つだけ伺いたいのは、これは英語版ができるのでしょうか。つまり、こういうことは海外に対して、日本はこれだけきちっとやっていますよと、日本の企業はこういうふうにきちんとやっていますよということを言いたいということもあるのでしょうか。外国との対応はちょっと気にはなっていて、色々具体策を行うと、またそこをねらわれてしまうという議論もあるのですが、そろそろ日本は知財に対して物すごくちゃんとやっているのだということをアピールしてもいいのではないかということで、ぜひとも海外に対してどうアピールするかを考えていただいていいのではないかというふうに思っているんですけれども。

木原技術調査課長

正直申しますと、現時点ではそこまでのことを念頭に置いておりません。ただ、先使用権制度、これも特許権と同様でございまして、日本国内での先使用というところについてのみ発生するものでございますが、こういう制度を日本がしっかりと持っているということを発信していくことは非常に大事だというように考えております。
あとは、産業界の皆様から言われておりますのは、日本の先使用権もしかることながら、むしろ今後は、中国とか韓国とか日本企業が進出している外国において、そこでの先使用権が的確に認めてもらえることが重要ということでございまして、実は次のターゲットはそういうところにも置いてやっていきたいというように考えているところでございます。

中山部会長

ほかに何かございませんでしょうか。
どうぞ、松尾委員。

松尾委員

2点お願いしたいと思います。
1つは、今までの判例をかなり網羅的に調べてこれだけの資料にされて、その点は大変結構だと思います。しかし、後半を見てみますと、「先使用権の立証について」というところなんですが、本当にこれだけやっていれば十二分だなというような、110%か120%確実なやり方を書いてあります。これは大きな企業にとってみればできるかもしれませんが、これを見て小さな中小企業が、こんなにできるのかということで、逆にとっても自分じゃできないということで意欲を失うことがないように、これを配布するときに十分説明していただきたい。中小企業に特にこの趣旨を説明していただきたいと思います。
もう1点は、私も自分で変だなと思いながら大変こだわっているんですけど、この表題に、「公開が前提となる特許権」の取得ですよね。その次に来るのが、「ノウハウとして秘匿」というんですよね。私、ノウハウというのは、秘密に管理しておいて利用するというところにあるので、記者にとっての取材源の秘匿というのと、その秘匿という意味が違うので、余りいい言葉じゃないなと。どっか読んでいますと、「秘密として管理する」とか、「営業秘密の管理」という言葉が出てくる文章もいっぱいありますので、できるだけ法律にない「秘匿」というところは、ちょっと首をかしげるようなことがないように、何か言葉を選択していただきたいと思います。
その2点です。

木原技術調査課長

まず1点目に関しまして、裁判例をこのように多く載せておりますので、これらにつきましては、ホームページからもできるだけ早く御活用いただけるように対処していきたいと考えております。
それから、中小企業の点につきましては、まず、この秋からいろんな説明会等を通じて広く周知してまいりたいと思います。また、実はこの中の一つ一つの企業の実例を見ていただきますと、ちょっとした工夫でやっているというような企業もあり、また中小企業の実例も2つ載せているわけでございますので、松尾委員御指摘のように、すごい負担をかけてどうのこうのといったイメージを持たれないように、プレゼンテーションの工夫もさせていただきたいというふうに考えております。
最後の、「ノウハウとして秘匿」という用語の使い方でございますが、貴重な御意見ありがとうございます。ただ、これは、知的財産研究所の委員会でもいろいろ御議論をいただいた結果として、今や普通に用いられているのではないかということでこういう形で使わせていただいておりますことを御理解いただければと思います。

中山部会長

「秘匿」という言葉は、私なども論文で通常使っていますし、通常は普通に使われているのではないかと思うんですけれども。

松尾委員

例えば76ページなんか見ますと、「ノウハウ秘匿登録」なんていうのがあるんですよ。何かこれ、持っている「ノウハウの登録番号」でいいので、「秘匿登録番号」なんて、そこまでやることもないし、私ちょっと今回、今までの不正競争防止法の中の営業秘密のところのいろんな解説なんか読んでみたんですけど、どうもこういう形の「ノウハウ秘匿登録」式の「秘匿」という使い方は余りないように思いまして、中山先生のはあるにしても、ちょっと私、何かもう少し普通にわかるような、特にこういう表題なんか見ますと、「ノウハウとしての利用」だってこれはいいわけですよ。というようなことを考えますと、全然使わないようにということじゃないんですけど、やはりちょっと考えて、もう少しやわらかい言葉を使っていただけたらと思います。

中山部会長

では、考えさせていただきます。
ほかに何かございませんでしょうか。よろしゅうございますか。

発明の進歩性判断に関する検討開始について

中山部会長

それでは、次の議題に移りたいと思います。
「発明の進歩性判断に関する検討開始」について、事務局より説明をお願いいたします。

高木審判課長

それでは、資料5、「発明の進歩性判断に関する検討」につきまして、私の方から説明申し上げます。
出願された発明が特許になるためには、さまざまな特許要件を満たす必要がございます。例えば、先に同じ技術があるというようなものは特許にならないわけですし、また出願された明細書に発明が追試できるように記載されてなければいけないとか、いろんな要件があるわけですけれども、中でも進歩性が一番記述の大きなポイントになるわけでございまして、進歩性と申しますのは、その四角枠にありますとおり、新しい技術が、先行技術から見て当業者が容易に思いつく、すなわち発明をすることができる程度のものではないことを意味します。新しい技術が特許を受けるためには、進歩性があることを要求されるわけでございます。
この進歩性の判断につきましては、国内外におきまして非常に議論が高まっておりまして、特許庁におきましては、国際的な制度運用の研究を行うとともに、個別事件ごとの事例研究を通じて、我が国における進歩性判断の問題点を整理して、進歩性判断に関する検討を行ってきたと考えております。
まず、進歩性をめぐる問題意識でございますが、国内における問題意識といたしまして、我が国の進歩性の判断が欧米と異なると。従いまして、進歩性判断の一層の国際調和が必要であるという声とか、特許庁の進歩性判断あるいは裁判所の進歩性判断が今までよりも厳しくなっているのではないか、このような意見が産業界から指摘されております。ただし、産業界からなどの指摘につきましては、進歩性判断のどの点を問題としているのか明確ではなくて、まずこの点を明らかにする必要があると思われます。
一方、欧米におきまして、まずアメリカでございますけれども、連邦取引委員会や全米の科学アカデミーにおきまして、進歩性のない、あるいは進歩性が疑わしい、そういう特許によってイノベーションが阻害されるのではないか、そう懸念する報告書が出されております。
また欧州、特に英国では、今進歩性のレベルが経済に与える影響が強いことから、そういう認識のもとで、進歩性につきましてアンケート調査を実施しているところでございます。我が国やあるいは欧米等の問題意識のもと、「知的財産推進計画2006」におきましては、お手元にございます42ページから43ページに、この進歩性のことにつきまして、「特に進歩性の判断基準についての一層の客観化と明確化について、国際的な運用統一の観点も踏まえて検討し、審査基準の改定等必要な措置を講ずる。」というふうに記載されております。
そういうことも受けまして、まず検討の場を2つ設けました。1つは、2.にございますが個別事例からの検討。これは、各技術分野ごとに技術水準あるいは技術常識等を踏まえて、進歩性判断の手法の問題点につきまして、個別事件に基づく事例研究を行う。これは産業界、弁理士会あるいは弁護士等、さらに特許庁の審判官をメンバーとする検討会を特許庁において開催をする予定でございます。
その目標でございますが、個別事件に基づく基礎研究から進歩性判断に係る問題を取りまとめて、特許庁における審査、審理の充実化、あるいは進歩性判断の参考となる資料を作成して公表する予定です。
その内容でございますが、技術分野ごとの研究グループにおきまして、既に確定した審判事件、裁判事件の中から、個別事件に基づいて各技術分野ごとの技術水準、技術常識、技術相互間の関連性を踏まえた進歩性の判断手法に関する客観的な技術研究を行うということにつきまして検討すると。
一方、もう1つの研究ですけれども、3.にございますとおり、国際的な制度・運用の調査研究でございます。これは主要国の制度・運用の実態を統計的分析、あるいは判例や事例等の分析、さらにアンケート調査等を通じまして、主要国における進歩性の制度・運用等の実態を調査する予定です。
その目標でございますけれども、日本と他の主要国との制度・運用の違いを明らかにして、国際的な制度調和に向けた基礎資料を得ると。
研究の内容でございますけれども、学者や産業界、弁理士あるいは弁護士等をメンバーとする委員会を設けまして、以下の3つ。1つ目が三極特許庁の審査結果の統計的分析、2つ目が国際的な制度・運用の比較、3つ目がユーザーの意見収集という、これらの3つを中心に検討を行っていくことを予定しております。
参考といたしまして、ことしの5月の三極特許庁会合におきましては、審査実務に沿った質の高い出願書類を作成することを支援するために、記載要件を中心として進歩性要件も含めた審査実務の比較研究を行って、その結果を出願人、代理人に周知するプロジェクトを新たに立ち上げたところでございます。
以上でございます。

中山部会長

ありがとうございました。
ただいまの説明につきまして、何か御質問ございましたらお願いいたします。
どうぞ、諸石委員。

諸石委員

大変有意義なことだと思いますが、この進歩性判断というのは、予測可能性があるということと、いろいろなところの判断が一致するということが大事だと思います。そのために海外とも合わせるということができれば望ましいと思います。さらに日本の中で、特許庁として一つの統一的な基準をつくることになりますが、これが裁判所の考えとどれだけ合うのかということが非常に問題だと思います。これは当然判例を調べてこちらの考え方を決めると思いますが、さらにこういうことができるのかどうかなのですが、例えば知財高裁の裁判官と意見交換をして、考え方のすり合わせをするとか、そういうことが可能なのかどうか、お教えいただければと思います。

中山部会長

その点について。

高木審判課長

知財高裁の裁判官あるいは地裁の裁判官と、一般的な議論といたしまして産業界の方と意見交換を行うのは可能だと思いますけれども、例えば、この裁判あるいは判例についてどうだ、どうしてこうなったんだとかいう個別に入るものは、そこはさすがに裁判所の方は受け入れてくれないと思いますけれども、一般的な進歩性判断の手法とか、あるいは考え方、訴訟を進めるに当たってどこら辺に産業界の立場としてやっていったらいいのかというようなところの意見交換をするのは、私は裁判所じゃありませんけれども、可能ではないかと思っております。

中山部会長

裁判所の現役の裁判官に来てもらうということは、実際上はかなり難しいのではないかと思います。裁判官が入ると、何か裁判所がオーソライズしたようなイメージを与えてもいけませんし、事実上の意見交換ということはできるかもしれませんけど、なかなかこのメンバーになるのは難しいかと思います。
森下委員どうぞ。

森下委員

私は、この話は非常に重要だというふうに思っております。最近、特にアメリカとの間で、判断が食い違うわけじゃないんですが、範囲とか、あるいは質問事項等でかなり日本側とアメリカ側とのやりとりの中で戸惑いを感じるというか、やはりすれ違い的なものを感じるケースが非常にふえてきておりますので、ぜひこうしたことに関して調査をして、早めにポリシーとしてどういう形でいくのかというあたりまで踏み込んでいただければというふうに思います。
実際上、明細書の書き方等も含めて、どういう形で進歩性の判断をするかということによっては、かなりいろんな意味での変化というのも起きると思いますので、ぜひ調査の結果、どういう形で統一をしていくのかということが明確になるような形での方針あるいは考え方の表明というあたりまでもやっていただければというふうに思います。

高木審判課長

御指摘のとおり、明細書の書き方から含めて進歩性を判断するというのは、参考にも書かせていただきましたけれども、三極の特許庁におきまして、我が方からそういう新規のプロジェクトを立ち上げるよう提案したところでございます。この調査の結果がどの程度そこに反映するかどうかは、ちょっとまだやってみないとわかりませんけれども、そういう方向で進めていければと思っております。

中山部会長

ほかに御質問等ございましたら。よろしゅうございましょうか。
それでは、時間の都合もございますので、次の議題に移りたいと思います。

意匠法等の一部を改正する法律について

中山部会長

次に、特許庁からの報告が3つございますので、事務局から御説明をお願いいたします。

田川審議室長

それでは、まず最初に、意匠法等の一部を改正する法律が成立をいたしましたので、その件につきまして御説明をさせていただきます。
まず、内容につきましてはお手元にお配りをいたしております資料を御参照いただければというふうに考えておりますが、ポイントは2つございまして、産業競争力を強化するという観点から、産業界、ユーザーの方のニーズ、あるいは国際的な制度調和の観点も踏まえて、意匠、商標、特許等の産業財産権の保護強化を図る、あるいは権利取得の容易化を図るということでございます。
もう1つの視点といたしまして、模倣品被害が国際的な広がりを見せているという中で、模倣品対策を強化するということでございます。
具体的な改正内容につきましては、デザインの保護強化につきましては、例えば意匠権の存続期間を、現在登録から15年となっておりますのを20年に延長いたしております。そのほか画面デザイン、例えば携帯電話でございますとかいろいろな情報家電で使われております画面デザインの保護。現状、運用で非常に狭くなっておりますけれども、それを拡張するという点でございます。
それから、ブランドの保護でございますけれども、現在、商品の商標として保護されております小売あるいは卸売の商標というものを、サービスの実態というものを踏まえまして、いわゆるサービスマークとして保護をするということでございます。これによりまして、実態に即した保護が可能となる。あるいは、現在、例えば総合小売業でございますと、多数の区分を指定してその権利を取得されておられますけれども、この管理の効率化等にも資するものということでございます。これにつきましては、経過措置につきましても万全のものを整えているところでございます。
それから、発明の保護といたしまして、分割できる時期を緩和するということでございまして、現在、審査終了いたしますと分割ができないということにつきまして、審査終了後30日以内であれば分割することができるといった措置を講ずることといたしております。
そのほか模倣品対策といたしましては、輸出行為の侵害行為への追加、あるいは取り締まりのための譲渡目的の所持の侵害行為への追加、刑事罰の強化ということを行っているところでございます。
審議の経過につきまして御説明いたしますと、3月7日に本改正案が閣議決定をされまして、4月6日、参議院の経済産業委員会で可決し、4月7日、参議院本会議で可決をいたしております。
それから、衆議院でございますが、5月26、31日に衆議院の経済産業委員会で審議が行われまして、6月1日に衆議院の本会議で成立をし、6月7日に公布されております。その審議におきまして、お配りしております資料の附帯決議が付されております。
参議院におきましては、侵害行為を防止するために関係省庁が連携を強化すること、あるいは模倣品対策について早急に具体的な検討を行うこと、世界特許の位置づけを目指すなどの国際的な制度調和を進めること、といった内容でございます。
衆議院につきましては、国際競争力のさらなる向上の観点あるいはグローバルな観点から、各国と連携しつつ、国際的な制度調和の促進に努めること、中小企業対策について支援策の一層の充実を図ること、あるいは模倣品対策につきましても取組を強化するといった内容でございます。
なお、全体の知的財産政策に関する最近の経済産業省での取組の一つといたしまして、知的財産侵害品の貿易管理のあり方を輸出入取引審議会企画調整部会において本年4月から審議を進めているところでございます。商標制度小委員長の土肥先生が部会長として御参画をなさっているほか、大渕先生、篠原委員、宮川委員も御参画になっておられますけれども、具体的には2つのポイントがございまして、知的財産侵害品の輸出入の差しとめ、これにつきましては、この国会で成立をいたしました関税法においても相当程度の手続保証等が盛り込まれているところでございまして、改善が期待されるところでございます。さらに、一層専門的かつ迅速な手続の整備を図る、あるいはにせブランド品や海賊版の個人輸入への対応、これについて検討をいただいているところでございます。
去る6月9日にパブリックコメント等を踏まえて中間取りまとめをしているということでございまして、輸出入の差しとめ手続につきましては、当事者の手続地位の保証、あるいは事業者の予見確保の観点から、裁判所の仮処分等を活用する案を軸にしてさらに検討を行うと。模倣品・海賊版の個人輸入の問題については、個人を偽装した業者の輸入に対する取組を強化するという案を軸に検討を進めるということになっております。

産業財産権を巡る国際的な動向と対応

小林国際課長

それでは、引き続きまして「産業財産権を巡る国際的な動向と対応」ということで、資料8に基づきまして御説明をしたいと思います。
企業が世界的に特許の保護を得ていこうという中で問題になりますのは、特許制度は各国ごとにばらばらに存在しておりまして、1つの発明を世界じゅうで保護しようとしますと、各国に出願し、あるいは各国での審査手続を経てというふうなことが必要になります。ということで、今、世界特許システム構築に向けてということでいろんな検討をしているところでございます。
1つありますのが、各国の審査協力の拡大ということでございまして、とりわけ主要な審査主義をとっておる先進国の間の審査協力ということでございますが、長期的に見れば特許の相互承認というものが実現できればいいわけですけれども、それが直ちには現実ではない状況下では、当面は1つの国の特許庁のサーチとか審査結果をほかの国の特許庁が相互に利用できるようにということでいろんな協力を推進しております。
その一環としまして、先ほどから言及されております特許審査ハイウェイ構想というものを日本から提唱しております。これは日米間では、もう今年の7月から施行開始することで合意をしております。また、韓国との間でも、来年の春の開始を目指すことで合意をしております。
そのほか、こうした動きをどんどん広げていこうということで、イギリス、ドイツ、カナダ、オーストラリア等のほかの主要な先進国との間でも、この議論を開始していこうということで合意をしてございます。
また、中国というのが最近、日本の企業の出願先ということで非常に大きくなってきておるわけですが、この中国との間でも、将来的な実施に向けてロードマップを作成していきましょうということで合意をしております。
他方、途上国、審査能力の余りない特許庁を抱えている国との関係でございますが、ここは、やや一方通行的なことになろうかと思いますが、審査支援あるいは審査の協力ということの一環というような位置づけになろうかと思いますが、他国――日本ですね、日本の審査結果に基づいて、その国で、簡単な審査で特許が付与できるような、相互承認とまではいきませんが、修正実体審査制度というふうに申しますが、こういった制度の適用等々を働きかけていっているというような状況でございます。
あと、それに並びまして国際的調和というふうなものが必要でございますけれども、これはWIPOの枠組みの中で条約の議論が進んでおるわけでございますが、南北対立が激化しまして、ややストップをしているというふうな状況の中、まずは先進国間での合意ということで先進国間の会合を開催しております。
それから、日米欧三極特許庁の間では、まずは1つの出願で各国に出願ができるというところまでいかないまでも、出願様式の統一を目指そうということで、ことしの11月の三極会合での合意を目標としまして、出願様式の統一のプロジェクトを進めております。
また、優先権書類というふうな特殊な手続があるんですけれども、そういった負担をなくそうという観点から、優先権書類の電子的交換といったものも、これまた11月に合意できるように検討しているところでございます。
1枚めくっていただきまして、途上国でございますけれども、これは一言で言いますと要請と支援ということになろうかと思いますけれども、あらゆる場を使って制度の整備あるいは運用の強化というものを要請していっているところです。とりわけ中国につきましては、今、中国の中で知財国家戦略を策定したりというふうな機が熟している段階でございますので、この機をとらえて働きかけをしているところでございます。
他方で、制度整備あるいは運用強化にもキャパシティーが必要でございますので、そういったキャパシティービルディングの観点から、途上国に対する協力というのは力を入れてやっているところでございます。
3番目の模倣品対策でございますが、これも要請と支援ということになろうかと思いますが、具体的な要請につきましては産業界と一体になってやるという観点から、官民合同ミッションを中国に派遣したところでございます。
また、先進国同士の連携も必要ということで、例えばAPECで日米韓でそろってモデルガイドラインを提唱するとか、あるいはアメリカとの連携というのも模索し始めたところでございます。
他方、日系企業に対する支援という観点から、ノウハウの提供ですとかセミナーの開催、あるいは侵害状況の調査・分析報告書、国内の消費者向けにキャンペーンというようなものを実施しておるところでございます。
以上でございます。

中山部会長

ありがとうございました。
それでは、ただいまの3件の説明も含めまして、本日の議論全体あるいは広く知的財産施策に関しまして、何か御意見、御質問ございましたらお願いいたします。
どうぞ、安田委員。

安田委員

私がちょっと不勉強で申しわけないのですが、最近はウェブを検索したり何かしてということで、テキスト検索、全文検索、そういったことは非常に多く行われていると思います。ところが、例えば進歩性の議論にしても、ほんのちょっと言葉が違うと検索にひっかからないという議論が出てくると思うのですよね。例えば「動き補償」とか「動き予測」とか、画像の言葉としてそういうのがありますが、ほとんど同じ内容であるにもかかわらず、「動き補償」で検索すれば「動き予測」はひっかかってこないわけです。そうするとシソーラス、要するに類語のシソーラスというのは非常に大事になってくると思うのですが。特許庁さんが、例えばこれは同じだといって退けた、ちょっと言葉が違うんだけど同じだよということで退けたのは幾つかあると思います。そういう意味で、同じ内容の言葉じゃないか、あるいは同じ言葉を片仮名にしただけじゃないかとか、そういうのがあると思うのですが、そういう意味で類語として判定したようなシソーラスが何かできないものかと。そういうのがあれば、皆さん大変有用になるのではないか。大変膨大な作業だと思うのですが、そういうことをみんなでやるということは大事なのではないかという気がするので、ぜひそれはお考えいただきたいと思います。

南調整課長

実際、審査官が検索をする際に、必ずしもテキスト検索だけではなくて、もう少し概念的なもので我々Fタームというのを使っているわけですけれども、テキスト検索も使っています。特に新しい技術については、やはりそういった検索ツールしかないものですから。実際、きちっとまとまった形でのシソーラスというのは、整備はしていないのですけれども、個々の審査官がノウハウとして結構まとめており、先ほどちょっと御紹介をした特許検索ガイドブックとかで、この技術についてはこういった単語を検索すると結構見つかるよとか、紹介しております。
こういったものをできるだけまとめて公表すると、出願人サイドの検索の効率化にも役立つのではないかと思いますので、そういった公表の可能性について検討はさせていただきたいと思います。

中山部会長

ほかに何かございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、議論も尽きたようでございますので、本日の議事は以上で終了したいと思います。

中嶋特許庁長官挨拶

中山部会長

それでは、議事の最後に、中嶋特許庁長官から一言ごあいさつをちょうだいしたいと思います。よろしくお願いいたします。

中嶋長官

特許庁長官の中嶋でございます。座ったまま失礼いたします。
本日は、この部会にお忙しいところ御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
きょうの部会で幾つか御報告あるいは御審議いただきましたけれども、まずもって御礼は、意匠法等の一部を改正する法律が無事国会で成立をいたしまして、これもひとえに委員の皆様方の御協力、御支援の賜物ということでございます。厚く御礼申し上げます。これから施行に向けてしっかりやっていきたいと思います。これも、できるだけ実務レベルでの御要望を吸い上げて知的財産の保護を強めるということと模倣品対策の二本の柱でございましたけれども、まだ引き続き将来に向かっていろんな論点があるかもしれませんけれども、一応現段階で一つの整理をしたものでございます。
それから、その他最近の動きとして、政府全体の知的財産戦略本部2006での動きとか、あるいは最近いろいろ話題になります「新経済成長戦略」、さらに政府全体で今「成長大綱」というものをつくりつつあるんですが、そういう中で一貫して知的財産の関連のところが、ワザとかチエという意味で重要なものとして位置づけられているという御報告をさせていただきました。
もう1つ私どもにとって大変重要なのは、これも前回のこの部会で真意を御説明させていただけたとは思っているんですが、特許審査迅速化・効率化の推進本部というのを大臣を本部長にして設けていまして、そこでの行動計画、あるいはそれに基づく取組の状況についても御報告させていただきました。そういう中で幾つか個別の話として、先使用権のガイドラインとか進歩性についての検討とか、あるいは現実に今審査しつつある地域団体商標とか、あるいは国際的な特許審査ハイウェイのプロジェクトとか、御報告申し上げました。
総じて私が思いますのは、今の段階は、特許庁も産業界も知的財産についての1つの節目のステージにあるのではないかという気がするわけでございます。というのは、特許庁自身は、日々の審査・審判の仕事を着実にこなすという、いわば実施官庁でありますから、これをまずしっかりやることが当然の大前提ではあるんですが、同時に、今世界全体で知的財産についての制度をハーモナイズしていくというか、それが一遍に国際的にできなければ、せめて先進国の中、あるいはそれも一挙に無理であれば、せめて日米欧三極とか、あるいは日米韓とか、さまざまな形で制度運用自体の改革も必要になってきていますので、そういう意味で日々の仕事の実施官庁であると同時に、制度自体の企画・立案という仕事もあわせてしっかりやっていきたいと思っております。
もう1つ、これは委員の皆様方に対するお願いにもなるんですけれども、産業界とか学界におきましても、知的財産戦略をより深めていただく局面にあるのではないかということでございます。きょう、いろいろ話題になりましたけれども、いろいろな研究開発から生み出される成果を特許で出願していくのがいいのか、あるいはノウハウというか営業秘密ということでしっかり管理していった方がいい場合も当然あるわけでございまして、その振り分けから始まって、では、特許で出願する場合にはできるだけ特許の査定率が向上した方がいいわけでございますので、逆にそれを支援させていただく意味で、民間の方から特許庁の関連のデータについてのアクセスを改善していく、あるいはサーチをより充実してやっていただけるように研修なども提供するといったことをやっているわけでございます。
あるいは特許出願の際に、国際的な競争をする分野であれば、当然国際出願の比率を高めていくことが望まれるわけで、そういう際に、少しでも有効なというか効率的な出願ができるように、日米間の特許審査ハイウェイの試みであるとか、あるいはそれをさらにほかの国との関係でも広めていく、あるいは三極間で国際出願についての様式を統一していこうとか、究極的には、世界の中で特許についても相互認証のようなものが広がっていくことが望まれるわけですけれども、一歩一歩できるところから着実にやっていくということかと思います。
他方、ノウハウで管理をするといった場合には、従来から「営業秘密の管理の指針」というようなものがあったわけでございますけれども、今回、それに加えて先使用権というような形についてもより意識をしていただいて、活用していただければというようなことでございます。
従いまして、特許庁自身も、多分世界各国の特許庁がそれぞれ別々に一から出願を受け付けて、サーチをして審査をしていくという時代ではなくて、やはり21世紀の実際の産業活動に対応できるような特許庁間のいろんな協力関係というのが必要になってくると思うわけでございます。産業界とか学界の皆様方におかれましても、今申し上げたような点も含めまして、それぞれの知的財産の戦略をより深めていただければと。そのためにいろいろ御注文があれば、引き続き御教示いただくと同時に、またいろいろ御協力、御支援をいただければと思います。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

中山部会長

ありがとうございました。
それでは、以上をもちまして産業構造審議会第8回知的財産政策部会を閉会いたします。本日は、長時間ありがとうございました。

閉会

[更新日 2006年7月13日]

お問い合わせ

特許庁総務部総務課制度改正審議室

電話:03-3581-1101 内線2118

FAX:03-3501-0624

E-mail:PA0A00@jpo.go.jp