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特許庁総務部総務課
工業所有権制度改正審議室
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資料説明に出てきたバーマン・バウチャー法案について補足説明させていただきます。今年1月にビジネス特許の調査のためアメリカへ行きましたが、法案の骨子についてバーマン、バウチャー両議員と議論した弁護士によると、両議員は弁護士側から提案したいくつかのオプションをすべて取り入れて法案を作成したので、法案はロジックが一貫しておらず、弁護士としては法案が成立するはずがないと考えているとのことです。法案を提出した両議員は、本法案を提出することで、本件に関して注目が集まり、議論のたたき台になればよいと認識しており、日本と米国の法案成立までの経緯は大きく異なっているようです。米国の一般実務家は、ビジネス関連発明を特別視した法案は望ましくないと認識しており、大多数が賛成しておりません。また、先の米国特許法改正でビジネス関連発明に限って先使用権を認めたことについては米国内でも多くの批判があります。 実施行為については、 資料3(資料集7頁)について質問致します。2000年6月に行われた具体的な仮想事例の検討結果がございますが、日本における判断基準は何なのでしょうか。12年6月時点での検討なので新しい審査基準ではないと思いますが。 |
事務局 |
この比較検討の際の判断基準は年末に公表された改訂審査基準ではなく、その前の段階の審査基準をベースにしたものだと理解しております。 |
事務局 |
平成9年からの審査基準でもハードウエア資源を利用するということが発明の成立性の要件になっております。さらに、単にコンピュータを利用するというだけでは成立せず、どのように利用したかということが重要であり、発明の成立性の要件であるとしております。 この比較研究によると、日米で実際に差はそれほどないということですが、実際問題、産業界や特許紛争の場で実害はないのでしょうか。例えばアメリカでビジネスモデルが成立した権利を日本でも主張し、日本側の反発があるなど、日米摩擦のようなものはあるのでしょうか。 |
事務局 |
実際、そういう事例として日本企業がアメリカのビジネス方法特許で訴えられているというケースは私どもが把握している範囲ではございません。ただよくある主張としてはこのようなビジネスモデルに対する対応力について米国との間に差があるのではないかと言われております。例えば米国でビジネス方法特許を出願する企業はコンピュータ系企業以外に金融系のところが多く出しているようです。それに対し日本では、金融系の企業ではなく、情報システム系の企業が特許を多く出しているということで日米におけるビジネス方法特許に関する意識、対応体制に差異が生じているという懸念は聞いたことがあります。 発明の定義そのものについては、現時点での改正は必要ないと考えております。ただ、先ほど御発言がありましたように発明の実施行為が解決すべき問題となっておりますので発明そのものの定義までさかのぼった、特段の要望はございません。 今の御意見に賛成なのですが、コンピュータを利用しない一般のビジネス方法を、特許で保護すべきという要望は出ていないのではないかと考えております。むしろ、ハードウエアを利用したビジネス関連発明についての審査結果は日米は同程度であるとのことですが、昨年末に改正された審査基準に基づいて審査する場合、仮にビジネス方法が新規で、それを実現するハードウエア資源、技術に進歩性がない場合、特許付与するかどうかは運用基準をみただけでははっきりしません。私個人としては進歩性を判断するとき、技術的手段の進歩性でなく、ビジネス方法についてだけ進歩性を判断することで、日米の結果は実質、合致するのではないかと思っております。 |
事務局 |
実際昨年の審査基準に基づき、どのような審査を行っているかを御説明致します。ソフトウェアを利用した情報処理が具体的な手段で実現されている(コンピュータを利用している)ということが発明の成立要件ですから、まずクレーム全体を見てコンピュータが具体的に利用されているということで成立性があると判断されれば、今度はクレームに記載された発明についてサーチすることになります。例えば、特許庁第四部で審査した船荷証券の発行管理システムに関する発明がありますが、技術的には高度なものではなかったのですが、貿易手続の仕組に新規性がありそうだということで、その点について調査をしたところ、貿易の実務の中に同様の仕組があったため拒絶したケースがありました。クレームを全体で捉えると、そのようなビジネスの部分も無視できません。従ってそうした貿易の手続部分を調査し、引例を調べて拒絶したというケースでございます。ちなみに昨年の特許審査第四部の登録率は51%なのですが、ビジネス関連発明に限った登録率では24%になっております。このように、ビジネス方法に関する発明については、審査部としても極めて慎重に審査しております。 資料3の比較研究によると「自然法則を利用した」という定義が入っていてもコンピュータ関連発明の特許付与状況については事実上、日米で差はないという結果です。ビジネス方法が新規でハードウエア手段を利用しなければならないということが条件になっているようですが、私はそもそも何かにコンピュータを適用するということは誰でも容易にできると考えています。コンピュータの適用の仕方が容易かどうか、あるいは進歩性があるかどうかはあまり重要ではないのではないでしょうか。そう考えると行きつくところは、ビジネス方法の部分についての進歩性だけを審査すればいいのではないでしょうか。そうすれば、「自然法則の利用」を削除しなくても、審査結果に違いは出ないのではないでしょうか。 |
事務局 |
ビジネス方法の部分が全くの新規、つまり世の中にまったく存在しないものであったという場合ですが、発明の成立性はクリアしているという前提で、類似のビジネス方法が全くなく、他のものから容易だといえないのであれば、進歩性ありと判断され、特許になる可能性は十分にあります。 ハードウエア手段は一般的なものであっても特許性あり、ということなのでしょうか。 |
事務局 |
そのように考えることもできます。 発明の定義である第2条第1項に限って意見を申し上げます。日米欧の規定の仕方を見ますと、発明内容にまで積極的定義を設けているのは日本国特許法だけであります。ただ、先ほど審議室長の説明にもありましたように各国共通に技術を中核にして発明を捉えています。テクノロジーの意味も米国の捉え方は若干の違いがあるということでしたけれども、やはり我が国の第2条第1項が「技術的思想の創作」というふうに規定していることはそれだけで意味があると思います。つまり、それは言葉を変えますと、私は「技術分野における問題を解決するためのアイデア」、それが発明であるというふうに考えています。そのように考えますと、今ここで純粋にビジネス方法といわれているものを発明として保護するには値しないということであります。その上で現行法が「自然法則の利用した技術的思想の創作」となっていることについては、「自然法則の利用」の必要性について、検討の必要があるのではないかと思います。「自然法則の利用」という部分は非常に19世紀的な古い考え方に基づくという説もありますが、「自然法則の利用」を削除し、「技術的思想の創作」だけで十分という考え方も成り立ちうると思っております。ただ、自然法則の利用を削除すると、純粋ビジネス方法も発明の対象になるという誤解を招くおそれがあるのであれば、このままでいいのではないかという意見もありうると思います。ただ昨年の改訂審査基準のように現状は、どちらかといえば「技術的思想の創作」にウエイトをおいて、いわばそのことから間接的な「自然法則の利用」という意味も含めて全体的に第2条第1項の発明の定義の成立性をクリアしていると思います。そういう技術というものを中核において発明を考えている場合に「自然法則の利用」といのは正直必要ないのではないかと思います。ただ、それをなくしてしまうと先ほど申しましたように本来発明の対象外のものまでも保護対象になるおそれがあるということです。ここで、前々から考えております案を申しますと、まず発明の定義をしたうえで、EPCのように非発明を例示してはどうかと思います。例えば経済法則のみを利用するもの、これは発明とは言えないと具体的に明記するというものです。その方が、ユーザーフレンドリーな規定になりうるわけですから、そのような方向も考えていただけないでしょうか。 ビジネス関連発明の成立性については、実務上、日米で差があると考えた方がよいのではないかと思います。その結果として、日本を主として市場を広げる企業とアメリカを主として市場を広げる企業とでは競争条件が異なることになります。それが経済にどういう影響を与えるかということが問題になっていると思います。世界が一つのマーケットであればそれほど大きな問題ではないのですが、実際にはマーケット条件が違うということになりますので、それがどのような影響を与えるかということを踏まえて考えていかなければならないと思います。 今の定義の問題ですが、私は最高裁で無効とされることはあり得ないと思います。と言いますのは、「自然法則を利用した」という「利用」というのは単に基づいたというのではなく、積極的意味を含むのか、という疑問も残るからです。今の審査基準による拒絶理由は「精神的活動に過ぎない」、「人為的約束である」といったことを書きつつ、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に入らないというように付け加えています。そうするといかにも拒絶の根本的理由は発明の定義という感じがします。しかし、この発明の意義というのはどのように考えられるのか、「自然法則を利用した」というのは何か、「技術的思想」といのは何を言っているのか、ということについて文献を見て調査したところ、はっきりした定義というのはありませんでした。例えば「自然法則を利用した」ということを例に挙げますと、非科学的ではない、という理解をしていたり、「技術的思想」というのも客観性がある、という場合や、課題があって解決する具体的手段があればよいとか、そのような解説がなされておりました。このように確定的定義はないので、そのようなものを根拠に最高裁がこれまで有効とされていた特許に対し、無効の判断をするということは考えがたいと思います。では、これ以外に今あるもの、将来発生しうるいろいろな発明を総括しうる発明の定義をすることができるだろうかということを考えますと、私はやはり非常に難しいのではないかと思います。「創作のうち、高度のもの」という点も気になりますが、できるだけ発明の定義はこのままにしておいた方がよいのではないかと思います。ただ、新しい時代に対応した発明も含むといういこと明確にするためには発明の「実施」の規定の方を改正する必要があると思います。それで、実施の規定に注目しますと、34年法改正により「拡布」という言葉を「譲渡」「貸し渡し」等などに細かく定義し直されたわけですが、実質「拡布」という言葉を使っていたときとなんら変わりがないということでした。「拡布」という言葉のなかには「展示」も「広告」も「販売」も「輸入」もすべて入るという広い概念であったと説明されております。そこで「拡布」という文言に戻るというわけにもいかないでしょうから、新しいインターネット上で送信されるような行為も含むことを確認できるように「実施」の定義を見直すべきだと思います。 WIPOでの議論の見通しはどの程度進んでいるのでしょうか。状況の概括的な話をお聞きしたいと思います。そういう場で検討されていることが各国の特許制度にどれほどの影響を及ぼしそうなのかというこをお聞かせ願います。 |
事務局 |
WIPOにおける特許法常設委員会の議論ですが、いわゆる手続でなく、審査の実体調和を目指そうということで今年の5月にも第1回の会合が開かれまして、今後これが検討されていくことになっております。第1回では論点整理がなされ、次回は11月に開かれることになっております。具体的にどのくらい時間がかかるか、ということですが、これは国際的交渉でございますので、明確に申し上げられません。 |
事務局 |
コンピュータ関連という分野で考える限り、成立性という面ではむしろ米国より日本の方が緩やかになっている面もあると思います。ただ進歩性、新規性すべてを見た場合は日米間に差があると考えています。そこで今後5年、10年を見据えた場合、今議論するためにはいくつかの具体的事例が必要です。ビジネス方法をクレームに書くとどうなるかということですが、資料集の11頁を御覧ください。これは特許庁審査第四部で4月に発表しました特許にならない事例集というものがあります。今の法律に照らせば明らかに「自然法則を利用した技術的創作」と読めない事例というのがまさにこれらでございます。このような仮想事例だけでは法律改正をするには熟度が足りないというのが正直な感想であります。我々としてはビジネス方法について具体的紛争があり、民法709条で争われているという程度の事例があると、具体的な法律論として考えやすいのですが、定義をどう変えるかということを議論するには具体的立法事実がやや足りないのではないかということです。ちなみに説明を抜いたところで恐縮ですが、最後の21頁に新規分野において知的財産権法がどのように保護するかということを挙げております。例えば半導体のマスクワーク(回路配置)の例があります。これは半導体産業が進歩し、競争が激しくなった背景があった際に、特許法ではそのような回路配置を保護できないといった判断がありまして、この時は独自立法の道を歩みました。この背景にはアメリカ、日本の半導体産業の強い要請がありまして国際ハーモを待たずに対応したということです。先ほどの平成5年の不正競争防止法の改正についてですが、これもまた、意匠法、商標法で保護されていなかった商品形体のデッドコピーについての事件がありまして、民法に照らしたところアンフェアであるから、損害賠償までは認めようという判断が下って、それをベースに法改正に取り組めたという経緯があります。今行われておりますデータベースの議論についてですが、このような点については平成5年時点ではまだ時期尚早であるということでした。しかし今年5月に東京地裁において、このような知的創作性がなく、著作権法では保護されてないデータベースをデッドコピーし、同じようなサービスを行うというのは民法709条違反であるという判断まで下っております。これが今後独自立法、不正競争防止法、著作権法等どの法律で対応するのかわかりませんが、このような事例があると非常に考えやすいのですが、そうした具体的事例に基づいた議論が今後必要ではないかと思います。 「技術」というものは時代とともにやはりいろいろ変わってくるものだと思います。最近は情報技術、金融工学といいますと今までは「技術」ではないとされてきたものも最近では「技術」の範疇に入ってきています。ですから「技術」というものを時代に応じて柔軟に解釈していけばよいのではないかと思います。発明の定義については、私自身としては特に問題は感じておりません。今までの審査基準をみておりますと「自然法則の利用性」ということが非常に色濃く出ておりまして自然法則を利用していればすなわち技術的思想であるという理論立てがなされてきています。結局「自然法則の利用性」「技術的なもの」の二つをどのように解釈するかというところがあいまいなままなのですが、今度の審査基準では「自然法則の利用性」というところが全面的に出ていると思います。しかし、このようなことを議論する時には「技術的側面」といった言葉に焦点が当てられています。このように今までの審査基準を詳しく見るとこのようなギャップがあるのですが、実際に実務上はそれほど問題にはなっていません。論理的に「自然法則等」と実務上の「技術的側面」がどのように関連するのかについて明確になるよう、議論していただければと思います。 特許法を改正して、発明性の要件である「自然法則の利用」を削除するかどうかの問題については、最終的には改正することによる競争力促進効果や国際的産業バランスなどいろいろな政策的問題を考えるべきことになろうかと思います。ただ法律的観点だけに絞って考えると、 その意見に概ね賛成ですが、審査基準だけで純粋ビジネス分野に対する特許付与の歯止めをかける考え方には反対であります。日本の場合は米国と違って、早い段階で特許性や権利侵害について司法的フィルターを通すということはほとんどありません。なぜかといいますと、それは権利者の意識の問題もありますし、特許庁の審査・審判の問題もあります。そうした状況で審査基準に委ねますと、特許行政が現実的な妥当性を持つために、法改正から離れ、法の枠を超えた運用をしかねないという懸念はやはり現実問題として否定できないと思います。そうした点を考えますと「自然法則を利用した技術的思想の創作」はそのまま残した方がよいという考えには賛成です。しかしそれがあまりにも19世紀的なもので実状に合わないので、今後は21世紀を見通した発明の定義にしようというのであれば「自然法則の利用」を削除するかわりに非発明についての規定を設けるほうがはるかによい、そのように思っているので先ほども申し上げましたが、繰り返して意見を述べさせていただきました。 「自然法則の利用」を巡っていろいろ御議論がありましたが、現実の問題として考えると現行規定のなかでコンピュータプログラムをどのように取り組むかという問題と、純粋ビジネス方法も発明のなかに取り入れるかどうかという関係での発明の定義の見直しという問題の二つの問題があると思います。後者のビジネス方法については特許で保護すべきというコンセンサスは未だ得がたいだろうと思っておりますので、まずはコンピュータプログラムをどう特許法に取り組むかという点に焦点を当てるべきだと思います。プログラム関連発明に関しては、「自然法則の利用」は実務上どのように考えられているかと言いますと、先ほど特許庁の方からも御説明がありましたようにソフトウエアそのものに認められるというよりむしろ、プログラムによるハードウエアの動かし方に自然法則の利用性が認められる、したがってそれを動かすソフトウエアにも自然法則の利用性が認められる、ということになっております。いわばハードウエアを媒介にした、やや不正確な言い方かもしれませんが、間接的な考え方だろうと思います。では具体的な場合を考えますと、OSといわれているようなプログラムですと、直接ハードウエアを動かします。ところが、現実問題としてOSの上にミドルウエアが搭載されていて、その上にアプリケーションソフトが載っている。アプリケーションソフトレベルで新しい技術を考え出して特許をとるという場合を考えますと、ハードウエアを直接動かすというよりもいくつかのソフトウエアのレイヤーを介して動かすということになっています。間接性はさらに何重かに膨れ上がっていくのだと思います。このような場合に本来の自然法則の利用性ということを考えてみますとかなり本来の自然法則の利用性からは遠ざかっているというのが正直な感想であります。それでも繋がりがないわけではありませんので、現行の審査基準を運用していくことも可能だと思います。ですから、私の意見としては絶対変えるべきであるということまで申し上げるつもりはありませんが、本来の趣旨からいうと、相当無理を重ねているのではないかと思っています。それでは変えるとするとどのように変えるのが良いかといいますと、大変難しい問題で、現行規定に替わるような積極的な発明の定義ができるかというと多分難しいのだろうと思います。例えばEPC第52条第1項のように、特許要件の定義のようなもので対応するのか、あるいは「自然法則の利用」というところに問題があるから「技術的思想」というところだけを残して、その中身については解釈にゆだねるということにするのか、ということだと思います。先ほどから「技術」というのは多義的であるという御指摘がありましたが、そこは裁判所の解釈に委ねるというのが適当ではないかと考えております。 やはり今の発明の定義については、実務上、出願人、審査官、弁理士、産業界からのニーズに応じるためにかなり無理をしているところがあって、実際に据わりが悪くなっているからこのような議論があるのだと思います。そこで特許庁は審査基準を変えて対応してきたわけですが、別の言い方をしますとある意味審査基準にしわよせがきているということです。そう考えますと、やはり技術の変遷に即した定義の変更もあっても良いのではないかと思います。実務家としては、裁判所で非発明とされることへの懸念は大きいものですから、発明の定義も現実に併せるという努力をすべきではないかと思っております。ただ、自然法則の利用を削除することで、純粋ビジネス方法が特許対象に含まれるのではないかという議論を招くとしたら、それはそれでまた大きな問題だろうと思います。個人的には、削除することによる弊害も出うるわけですから、初めてここまで掘り下げた議論をはじめたわけですし、法改正に至らなくとも、せめて今日における発明の定義について確固たる解釈を残して、後々実務家が迷わないように整理していただきたいと思います。個人的には実施の定義の方が実務上影響が大きいと思いますので、そちらの方の規定は法改正で整理する必要があると思います。実施の方の整理によって、発明の定義も明確にされるのではないかと期待しております。 コンピュータ・通信業界を代表して申し上げますと、現在の発明の定義を改正すべきという意見は殆どありません。もちろんいろいろ議論されていますが、定義改正のための提案をできるほどまでは収斂しておりません。今まで議論がありましたように「自然法則」を削除するという議論もありますが、はずしたときのサイドエフェクトといいますか、思わぬ悪い影響などについては議論はつきないわけでありまして、結局具体的な提案はできないということで、現状維持の方がまだましであるという程度であります。ただ、改正する必要がないということと、定義の如何によって影響があるかないかはまた別の議論であります。影響もいろいろありまして、定義があいまいでアンクリアで困るということもありますが、一つの面は国際的に見たときに特許の成立性に幅があるとすると、様々な影響があると思います。二つ例をあげさせていただきます。インターネットの世界はボーダーレスであり、国境がなくなるわけですが、現在の国際私法の問題は非常に深刻でありまして、裁判管轄にしてもどうなるか見通しが立っていません。ディスクレーマーなどについて議論しても結局何の保障もなく、それを信頼して何かビジネスを行うということは到底無理だということです。例えば米国の発明の成立性の要件が非常に緩やかであれば、実質的に米国の特許が世界を制するということになると思います。米国で成立して、日本で拒絶されたとしてもインターネットの世界では米国の特許を気にせざるを得ないわけです。いつ権利行使を迫られるかわからないということです。いくら米国ではビジネスをしませんと明言したとしてもそのディスクレーマーは無効かもしれません。そうすると結局米国の特許が世界を制覇するということになります。二つ目の問題は、我々は良い特許については複数の国に出願します。理想から言うと、全く内容が同一の翻訳文を各国に提出したいのですが、指定国ごとに成立性の要件が異なれば、その指定国の判断に併せてクレームを書き換える必要があり、非常に手間と時間がかかるという問題があります。このようにいろいろ問題を抱えてはいますが、発明の定義について特段良い知恵があるわけではないので、現状維持でよいというのがコンピュータ・通信業界を代表した正直な意見です。 コンピュータ関連発明において、新規性、進歩性の判断を「技術的側面」と「純粋ビジネス的側面」のいずれの点で、どのようにするのかという議論がありましたが、その判断の仕方で結果に大きな違いは出てくると思います。進歩性に関してはやはり「自然法則の利用」という要件がある以上は、当該発明のどこが「自然法則」なのかというのを見極め、その部分での創意工夫があることが、進歩性ありの基準になるといえると思います。ビジネス方法だけに創意工夫があり、実現手段には進歩性がないような事例について、発明性を肯定するためには、何らかの法的な観点からの理論武装が必要となると思われます。この点を考えた上で、後は政策的問題になると思います。 進歩性をどのように判断するのかという場合、定義規定の「自然法則を利用した」という部分で判断するならばその部分で進歩性がなくてはならないのだという議論が生じます。クレームの記載については、先ほど御指摘ありましたようにハードウエアを利用したところに自然法則があると判断する。つまり、「技術的思想」というのはそもそもソフトウエアにあるのに、ハードウエアというところから発明の成立性を求めようとするから、発明を正面から捉えられないということになっているわけです。「技術」自体はソフトウエアの技術であるわけです。それをハードウエアが自然法則を利用していて、それが特許になるから、ソフトウエアも特許になるというのは現行の定義規定を維持した場合のゆがみとして残ると思います。皆さんが実務上問題ないというのであれば、あえて改正する必要がないのではないかということも理解します。ただ、「自然法則を利用した」という部分を削除すると特許保護対象の歯止めがなくなるかというとそうともいえないと思います。米国では判例によって無制限な保護対象拡大を回避しています。実体問題として米国の場合は審査期間の侵食については期間回復の規定もありますし、昔は特許期間は登録日から起算されるので裁判所で争って決着をつけてから登録すればよいという考えもあったでしょう。そのような違いもあると思いますが、最終的には現在もそうであるように、裁判所で自然法則を利用しているかどうかは判断しているわけです。そうするとやはり歯止めというのは裁判所においてどう判断されるか、ということだと思います。そうすると「自然法則を利用した」という部分を削除したからといって、直ちに歯止めがなくなるということではないのではないかと思います。いずれにしても、このゆがんだ点をどうするかという問題を解決しておいた方が良いのではないかと思います。 新規有用なビジネス方法を考え、それを既存の技術で実現するとします。それを一つのクレームにまとめる場合、クレームそのものは両者が渾然一体に書かれているから構成要件の一つ目が技術手段、二つ目がビジネス手段ということにはならないと思います。実際の進歩性を考える場合に、技術的手段としては非常に陳腐で、ただ、ビジネス方法を提供するための機能、手段として過去に存在しないというものについて特許庁としては基本的に進歩性を認めるということは今回の改訂審査基準でも明確化されています。しかしそれが裁判所ではどう判断されるのか、ということは私は特許庁に何度も申し上げてきたわけです。そこのところは本日のテーマとは離れるかもしれませんが、きちんと論理立てておくべきだと思います。当然将来審決取消訴訟が出てきた場合、裁判所で技術的手段の部分で進歩性がないと判断されると審査基準そのものが瓦解してしまいますので、少々テーマ外ですが、あえて申し上げさせていただきました。 その点はテーマ外ではないと思います。発明の定義の中では「自然法則を利用した」と「技術的思想」とこの二つの関係がはっきりしないということが問題になっているのだと思います。この「自然法則を利用した」といのは「自然法則を基礎とした」というのと同じか否かという点も未だ不明確な点だと思いますので、御議論頂きたいと思います。 |
委員長 |
時間でございますので、発明の定義の問題は極めて重要な問題でありまして、おそらく全体の議論にも関係してきますので、これからも御議論いただく場もあろうかと思います。今日は本来は「2.発明の実施規定におけるカテゴリーとプログラム」についても御議論いただく予定でしたが、時間の都合上、本日は説明だけを事務局からしていただき、議論は次回とさせていただきたいと思います。 |
委員長 |
今日は大きな議題が二つありましたので発明の定義の方で終わってしまいましたけれども、実施とカテゴリーについては次回議論することにさせていただきます。 |
事務局 |
次回は来月、7月3日(火曜日)午前10時から開催を予定しております。議題については実施の問題を中心に御議論いただきたいと思っております。 |
委員長 |
本日は長時間ありがとうございました。 |
[更新日 2001年7月10日]
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特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室 |