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第4回法制小委員会 議事録

特許庁総務部総務課
工業所有権制度改正審議室

  1. 日時:平成13年7月25日(水曜日) 10時00分~12時00分
  2. 場所:特許庁庁舎16F特別会議室
  3. 出席者:
    中山委員長、相澤委員、飯村委員、太田委員、鎌田委員、熊谷委員、小泉委員、斎藤委員、澤井委員、白石委員、竹田委員、谷委員、永岡委員、則近委員、橋本委員、牧野委員、松尾委員、丸島委員、水谷委員、安田委員、山口委員、山地委員
  4. 議題:
    • ネットワーク社会の拡大とサービスの概念の変化
    • 特許法における間接侵害規定のあり方について
  5. 議事概要

委員よりMPEGの技術に関して資料を用いて説明

MPEGの技術標準の議論では、2,3年前からMPEG3を標準として採用しようとしていましたが、出願公開されていない技術があるため、MPEG3が他者の特許権に抵触するかを調査するのに時間がかかっていました。しかし、最近は50%ほど圧縮するMPEG4の技術が完成したため、その技術を導入しようという方向になっています。MPEG4は技術の出所が明確であり、特許法上の問題はあまり考えずに済みます。このように、プログラム技術の進歩は大変早く、未公開の特許等があると技術の発展が阻害されるため、公開までの期間を早くしていただきたいと思います。

事務局より、資料1、参考資料1(商標関係資料)を用いて説明

小委員長

ありがとうございました。それでは今事務局から説明のありましたネットワーク社会の拡大とサービスの概念の変化と前回の議題であります、商標法上のプログラムの取扱いの2点につきまして、あわせて御議論いただければと思います。御意見御質問はございませんでしょうか。

 

使用の概念についてなのですが、御説明いただきました基本的な3つの方向がありますが、私は2番目(ネットワークを利用した役務特有の行為を追加する)の方向がよろしいのではないかと思います。包括的な概念を取り入れようとすると、不使用取消問題など、現行法との平仄が非常にとりにくくなるということがあります。一方広告に関する7号だけで対処しようとすると漏れがでてくる可能性がありますので、2番目の案に賛成致します。

 

今の論点ですが、私も2番の案(ネットワークを利用した役務特有の行為を追加する)に賛成です。ちなみに広告的使用の拡大についてですが、参考3でniftyを例にあげられていますが、この「@nifty」というのは広告として使用しているのではなく、サービスそのものに表示していると認識しています。インターネットの画面はどんどん切り替るため、利用者は自分が今何を見ているか分からなくなるということから、これはサービスそのものに表示しているものだと思っております。ただ、立法上、「広告」の範囲を広げるという案は理解できますが、何が広告なのかということが分からなくなり、非常に難しい問題を引き起こすのではないかと思いますので、1番目の案には賛成できません。包括的な概念についても、解釈上の問題が生じうると思いますので、やはり2番に賛成します。

 

私は2番の案というのはやや問題があるのではないかと思っています。といいますのは、「物」に付するものをサービスマークといっているわけですが、それ自体おかしいのではないかと思います。この条文作成当時は、サービスマークを積極的に導入しようというよりは国際調和の観点からウルグアイラウンドに対応しなければならないので、創設したという経緯があったと思います。当時は役務に関連して提供する「物」に標章を付すのが、サービスマークの使用であるとされたわけです。やはりこの辺の捉え方が現実にあわないのではないかと感じております。また、商品と役務ということ自体が相対化しているのではないかと思います。例えばネットワークを通じたプログラムの提供が商品なのか、役務なのかの問題ですが、受け手の側でダウンロードすると商品になって、ダウンロードしないで利用するだけだと役務になるということになります。そうしますとネットワークを通じて音楽を聞く場合、聞くだけですと役務の提供なのですが、受けている人がテープに録音すると商品なのか、という考えです。これはやや古色蒼然という感じがします。ただ、急に包括的規定を設けるのは危険だということで、踊り場の議論として私は2番の案も可能だとは思いますが、あくまで踊り場の議論にすぎません。包括的規定を設けると不使用取消の問題があるとされていますが、これはどの案をとっても使用概念を変えるわけですから、不使用審判等の取扱いは当然広げるということで検討しておかなくてはならない問題だと思います。
それから2案の場合、ネットワークによる商品販売についてですが、現在でもネット上での小売販売は役務の提供ではないと運用ではされていますが、この問題はどうするのか、ということがあります。情報の提供が指定区分の第38類とされていますが、「物」を販売するのも第38類なのか、という問題があります。ですから、ネットワーク上の商品販売というのが認められるのであれば、小売業も認められるのかどうか検討する必要があると思います。結論としては踊り場の議論としては2番に反対するわけではありませんが、問題もあるということです。

 

独禁法を研究している立場からの意見を申し上げます。独禁法の条文では商品と役務はほぼ例外なく、分けて規定はしておらず、並列して規定しています。これは商品と役務を区別する必要はなく、とにかくお客が何に対してお金を払っているか、という観点から商品と役務をひっくるめたひとつの取引対象と考えればよいという発想であり、区別する必要はないとされています。従いまして、今の御指摘のような商品と役務の相対化ということについては何もしなくても対応できるわけです。商品役務を区別することはもともと不可能なのではないかと思っています。

 

「物」に付することについては何らかの立法上の手当が必要だと考えています。例えば無対物への使用の定義を新設するなど、いくつか方法はあるだろうと思います。ネットワークを利用した役務特有の行為を追加すると同時に“「物」に「付する」”の部分に手当が必要だと思います。

 

「物」に「付する」という部分の問題はサービスマークの問題だけでなく、前回から残された商品の問題も同様であると思います。私は包括的な概念を導入すべきだと思いますし、その際はサービスマークの使用の定義を根本的に変える必要がでてくると思います。米国でも欧州でも「商標に関連して」や「商標の使用の下に」などと規定しているのは商標権侵害に該当する行為の規定です。商標権の使用の規定というのは別のところで規定していて、そこでは概念が綿密に書かれていると思います。日本の法律では2条に使用の方法があり、侵害のところでは何も書いておりません。使用の概念を広げたところで、32、36、37、50条のところで概念があいまいになるとは思えません。そう考えると、欧州や米国の規定をあまり参考にできないということになります。使用の定義に戻りますと、サービス商標が物を媒介にしていることが問題で、これは平成3年の時にそのような場合しか考えられなかったというわけでなく、米国では既に議論になっていて、それまでの“affix”という用語の考えをやめ、音等にも対応できるようにadvertisementにマークを使用するというふうにしたわけです。日本でも創設当時に「物」に限定した定義をしたのが間違いであったと考えた方がよいと思います。2条3項3号から6号までの規定というのは非常に複雑で理解しづらくなっています。ですから私はこれを改めなくてはならないと考えておりますので、包括的な概念を入れたらどうかと考えております。また、先ほど申しましたとおり、侵害あるいは不使用取消等のところでは特別な規定を日本ではおいていないので、2条の方を広げたからといって、侵害規定部分が問題になるということはないと思います。

 

商品が徐々に情報の中に入ってきて、音楽、プログラム、電子出版物さらにはDNAの情報が入ってきますと、商品とサービスの区別がつかなくなってきていると思います。特許法の際も同様の議論がありましたが、有体物か無体物の区別以上に商品とサービスの境界がなくなってきていると思います。そのような状態でネットワーク特有の役務の規定を追加するだけですと、将来バイオ情報などの問題にどのように対応するのか、そのときに追加が必要になるかという問題もありますので結論としては包括的規定を導入したらいかがかと思います。「標章の下に商品の譲渡、引渡し、又はその譲渡若しくは引渡しの申し出をする行為」や「標章の下に役務を提供し、その役務の提供の申し出をする行為」というふうに少し概念を変えていかないと今後の対応ができないのではないかと思います。

 

ただ今の議論ですが、先ほどのように踊り場に一旦とどまるのがよいのか、あるいは立法論を含めれば包括的概念への模索というものもやってみる価値はあると思います。商品とサービスの概念を整理すると、ダウンロード可能か否かを欧米ではキーワードにしているところがあります。これはなぜかというと送信される情報財であってもダウンロードできるというのは有体物の移動と考えることもできるということです。ですから「譲渡、引渡し」も可能ということです。一見無体物だけが動いているようですが、端末段階では有体物の移動がおきているということです。そのようなことを考えますと、商品商標の方についてはあまり考えなくてもよい気がします。ただ、サービスについては「商標の下に役務を提供する」などの規定ですっきりした規定にするのがよいのではないのかと思います。

小委員長

いろいろ貴重な御意見をいただきましたので、後で事務局の方でまとめさせていただきます。では引き続き次の議題に入りたいと思います。特許法における間接侵害規定のあり方について事務局の方から説明をお願い致します。

事務局より資料2、参考資料2(特許関係資料)に基づいて説明

事務局からの提案

  1. 客観的要件のみで間接侵害を判断する現行規定の枠組みは維持しつつ、101条の「物」に無体物が含まれることを明確化する。
  2. 101条の「物」に無体物が含まれることを明確化することに加え、間接侵害成立の判断基準として主観的要件を導入し、中性品、汎用品についても間接侵害が成立するよう可能性を広げる。

 

個人的にはB案を前提に議論をすべきだと思います。昭和62年の改善多項制の導入以来、一発明を複数のクレームで多面的に表現することが可能になりました。従来は交換レンズかカメラかのどちらかで発明を表現しなければならなかったのが、多面的に表現することで間接侵害でなく、一部の発明は直接侵害で保護できるというものもありうるとは思います。しかし、それですべてを保護できるとは思いませんので、国際的観点をはじめ、いろいろな面からの検討事項があると思いますので、やはりB案を前提に考えるべきだと思います。

 

質問になるのですが、間接侵害規定の見直しの必要性については、IT化への対応と間接侵害の規定そのものが古くなっているという2点の論点がありますが、このA案、B案ではITへの対応に的を絞り込んでいるように思えるのですが、そのような理解でよろしいでしょうか。

事務局

見直しの必要性の理由としてはITへの対応と現行規定の評価があげられているわけで、この最後のA案、B案もITへの対応だけを念頭においているわけではありません。三極の間接侵害規定の差異というのはITとは関連なく存在します。そういうことも含めてB案というのも考えられるのではないかということです。

 

前々回に発明のカテゴリーの議論をしましたが、その議論では従来の「物」にプログラムを含めるという話と、第3のカテゴリの創設の話を考えていたかと思うのですが、そのような観点に立った場合、B案では第3のカテゴリーがあるという前提で間接侵害を考える書振りもあると思います。

事務局

御指摘のとおりでありまして、前々回の会議では第3カテゴリーを設けるという御意見もありました。そのような前提であればここでもそのような規定を考える必要があるということです。

 

私も基本的にはB案に賛成です。これは第3カテゴリーの創設を踏まえた上での意見です。現行の「のみ」の解釈についてどれだけ要件を緩和して考えましても、他の用途がありますし、特許製品に使われることを意図しながら供給する物を間接侵害とすることができないとするのはどうしてもできないのではないか、と考えます。ただ、立法技術の問題かもしれませんが、考え方としては3つあると思います。ひとつは悪意を要件とした上で専用品と非専用品かを問わず、間接侵害を認める規定。もうひとつはそれと同じ前提に立ちながら、専用品については、事実上の悪意の推定規定を設けるというものです。もうひとつは現行法の「にのみ」規定を残した上で非専用品であっても悪意があるときは間接侵害の成立を認めるというものです。どの規定を選ぶかによって間接侵害の成立範囲も変わってくるかと思いますが、今までの間接侵害規定との連続性と、従来の規定だけでは不充分であることについての拡張的な部分を明確化するために第3の案が適当ではないかと私自身は思っております。そうすることによって、やはり汎用品であっても間接侵害の成立があるのだということを規定上明確にしておくことは特許権侵害についての抑止的効果という意味でもその規定が働きうるのではないかと思います。ただ、悪意の点について、どこまで入れるのかということについては特許侵害に用いられることについての悪意の問題の他に、いわゆる故意だけに限られるのか、重過失的なものも含めるのかという問題もあって、どの程度まで規定を拡張するか、言いかえれば特許権の保護を強くするかという方向で考えるかということでも変わってくるのではないかと思います。場合によっては重過失も悪意の中に入れて規定するということも可能なのではないかと思います。

 

B案に賛成致します。ただ、質問があるのですが、B案の条件として、「特許侵害に用いられることについて悪意」と書いてあるのですが、「これは特許の存在を知らないけれども」というふうに理解したのですが、それでよいか、ということが一点。もうひとつは、「用いられることについて」というのは提供された方が侵害行為をすることを提供した人が知っている、というその双方を含んでいるのでしょうか、という質問です。それから、3番目の質問は非専用品というのは、中性品と汎用品の両方を含んでいる意味なのか、ということです。それから、従属説、独立説については触れられていませんが、これは従来どおり明示しない、という考えでいらっしゃると理解しましたがよろしいでしょうか。

事務局

悪意の対象はどのように考えているのか、ということですが、例えば、欧州の条文を見ますと、欧州共同体特許条約26条の要件としては、発明の本質的要素に関わる手段が、いわゆる部品の供給などですが、その手段が発明の実施に適合し、かつ、実施を企図していることについて悪意、という意味です。つまり自分が供給した部品を相手が発明の実施を意図しているというところについて悪意、ということです。コンメンタールを見ると、特許権の存在までは必要ないとされています。一方アメリカは最高裁の判決で特許権の存在まで必要とされているようです。ただ、この問題は立証の程度としてどこまで請求するか、という実務にも絡んでくると思います。二つ目の質問ですが、欧州では汎用品には別の法理で対処しております。またアメリカでも汎用品は明示的に除いているので、今回は中性品までを前提としていただきたいと思います。ただ、汎用品については、欧州でも悪意よりさらに強い教唆、相手をそそのかすということに加えて汎用品を供給した場合は侵害だといっています。
独立説、従属説については今日本で対立があるというわけではなく、学説判例でも妥当な解決がなされているということを前提に、基本的にはそこまで明記する必要はないと思っています。欧州ではその点を明らかにするために、26条で特許権の直接侵害が成立しない類型を規定しています。私的かつ業としない範囲内で、例えば家庭内での使用する場合など、こういった場合には直接侵害は成立しないが、間接侵害は成立するということが明記されています。そのような方法もあることは事実です。

 

私も基本的にB案でよいと思います。6ページのマトリックスでは日本では中性品、汎用品の提供については特許権の効力は及ばないとなっていますが、これは少なくとも民法の不法行為には該当すると思います。外国と異なる点は、差止請求が認められないという点だと思います。場合によっては中性品、汎用品を巡る類型についても立法により差止請求を認めることも可能だと思います。ただし、専用品とそれ以外の非専用品とではかなり利益状況が異なるので、非専用品については加重的要件を課すなど慎重に配慮して欲しいと思います。

 

近年はプロパテント政策として特許権の行使がしやすいようになってきていると思います。その流れで私もB案のようにしていかなくては時代に合わないと思います。現行法の間接侵害の規定に客観的要件「のみ」の立法過程については、主観的要件の立証は権利者の負担が大きいということで最終段階で断念されたようですが、普通直接侵害に比べて間接侵害の要件が厳しくなるのは当然のことであるので、やはり主観的要件を導入して、その立証の負担が増すというのは当然必要なことであると思います。

 

IT中心で議論されていますが、この話はバイオの分野にも影響を与えます。その観点からも結論をいえば、B案で賛成です。今後バイオの関係ではゲノムやタンパクの機能解析というところから、治療や診断技術に向けて大きく発展していくと思いますが、この分野の遺伝子や蛋白質の特性というのは専用品というのはおそらくないと思われます。ほぼすべてが汎用品に近いものになっていくと思います。というのは遺伝子というのは今一説ではたかだか3万個しかないと言われております。3万個の遺伝子で何十億の人間が説明できるわけがありませんし、ひとつの遺伝子が多機能を持っているというところが従来の製品との大きな違いだと思います。そのようなことからいいますと、もし「のみ」の規定を残しますと、バイオの観点からいってもう既に使い道のない規定であるという状況だと思います。ここのところは確かに立証の問題などがありますが、やはりB案を採用していただかないと、バイオの分野では厳しいのではないか、と思います。

 

私もB案でよいと思っています。ただ、従来の、主観的要件のない間接侵害の規定は排他権としての特許権の効力の拡大、所有権の妨害排除請求権のアナロジーとしての特許権の効力の拡大、という位置づけで理解していました。しかし、主観的要件を入れた間接侵害規定といいますと、むしろ不法行為の予備行為と捉えられる教唆、幇助行為を差し止めるという位置づけになるのではないか、と思います。民法の不法行為とも絡んで、どう理解すればよいのかと思います。

事務局

今おっしゃられたとおり、もともとドイツの判例法も不法行為の流れで判例がでておりまして、当然悪意は必要だが、専用品の場合は立証不要だということになっています。日本特許法はその専用品の部分だけを規定しております。また、行為対象も欧州、米国とも供給行為に主眼がおかれているのですが、日本の場合は生産、輸入といった予備段階まで入れたものですから、ミニ特許権的な特徴があることは事実です。ただそれは意図的にそのようになったわけでなく、審議会報告では不法行為の延長として規定する方向が打出されていましたが、その後の立法過程で今のような条文になったということです。ただ完成した条文を見ますと今委員から御指摘がありましたとおり、民法との関連はどうなるのかという疑問は確かに残ります。

小委員長

立法的にはどちらでもよいのではないかと思いますが、今御指摘の点はおそらく知的財産権の本質論だろうと思います。知的財産の核の部分は物権的な構成をしておりますので、仕方がないと思いますが、均等論を含めた周辺部分についてはいったい知的財産とはどういう権利かという議論で非常に根は深いのではないかと思います。

 

基本的にB案に賛成です。どこが変わるか精査した上で、次回の審議会での検討事項も踏まえて全体として判断すべきだと思います。

 

とりあえずB案に賛成です。A案は趣旨がよく分からないので、消極的な選択としてB案に賛成ということです。次回予定されている事項と密接に関連しているので、一点だけ申し上げます。間接侵害に対して厳しい態度がとられていると見受けられる例として、日本では方法の発明のパイオニア性が低いものが問題になったものがあります。仮に原告の発明が一部にしか使えないような方法の発明の場合には、間接侵害者に対してかなり厳しい判断のされた裁判例がでているという理解をしています。逆に被告が汎用品を供給している場合、すばらしい製品であればある程、何にでも利用されるわけですから、訴訟に巻き込まれる危険性が高くなる傾向があります。例えば、人造ゴム、ウレタンというような素材を供給しているメーカーは、間接侵害ということで、思わぬところで被告とされてしまうことになります。主観的要件は訴訟の過程で最終的に判断されはしますが、被告に巻き込まれかねないといったデメリットもあるということです。汎用品に関しては主観的要件の規定や推定の前提規定の仕方についても慎重な議論が必要と思います。

 

B案が趨勢の意見ですが、あえてA案を提案させていただきます。プロパテントなどの観点からはB案が妥当であるというのは理解しますけれども、ITに携わっているものの意見としては、日本のIT分野での競争力が弱いこともあって、このままB案が採用されますと、訴訟・紛争が増加するのではないかとの懸念を払拭できません。IT、ナノテク、バイオの分野で日本が世界の中で競争力を持っていけるならば、その時点で将来的にはB案をきっちり規定しなければならないだろうとは思います。流れとしてはB案をとるべきだとは思いますが、それをとるタイミングの問題があると思います。我々IT分野に携わるものとしては、そのタイミングは非常に気になるところです。

 

間接侵害の規定について結論としてはB案に賛成です。何のために法整備をするのか、ということを明確にする必要があるのではないかと思います。特許法の中に間接侵害の規定を設ける趣旨は、差止請求の対象にする、刑事制裁の対象にもなるということがあります。しばしば、ここに規定されたものが違法行為であり、規定されなかったものは違法でないという理解がされている。教唆幇助類型の中でどこまでが違法なのかという線引きをするのが間接侵害の規定であるという読み方もないわけではないと思います。米国法、欧州特許共同体条約はどちらかといえば違法類型を全部列挙しようという観点から設けられています。日本の特許侵害規定の下では直接侵害行為がない場合は民法の共同不法行為で幇助者だけを罰するのは難しいと思います。間接侵害規定には、直接侵害がなくても違法となることがあるという創設的な機能もあると思います。それ以外の部分では、場合によっては民法の共同不法行為と重なる部分があると思います。しかし、間接侵害規定の適用範囲を外れても民法の共同不法行為で損害賠償は請求できるということを本当に許容しているのかという点については、あるいは事実としてこのような規定が設けられると違法か、違法でないかの判断に微妙に作用するかもしれませんし、裁判規範としてもひとつの違法判断の指標としての機能も持ってきてしまうのではないかと思います。そうなると、差止の効果を認めるため、刑事制裁も認めるためというだけでなくて、ここで何が違法なのかということを明確に決める方向で規定を整理していった方がよいのではないかと思います。ただし、その中でも、普通の特許権侵害でも主観的要件なしに特許権侵害になる行為というものもありますから、専用品は主観的要件なしでも特許権侵害となる行為の拡張類型とされるべきですし、汎用品であれば幇助型の違法行為になりますから、主観的要件とあわせて考えるという二段階構えにならざるを得ないと思います。そういう意味でも、B案的発想が適切なのではないかと思います。

 

一部の学説では知的財産権侵害でないものは不法行為にはならないといっておりますが、通説では不法行為になりうるということになっています。現に著作権では車のデータベースなどでもそのような判例があります。

 

特許法に侵害行為として書かれていなければすべてが適法というわけではありません。不法行為法でカバーすべき部分はでてくるとは思います。しかし、何が違法行為かはできるだけ明確に定めることが望ましいので典型的な幇助行為である侵害品の部品作成行為などはここで正面から特許権侵害に協力する行為として違法になるということを書いていただきたい。事業者が、その規定から外れるものについては原則として適法な競争行為であると判断できるようにしていただきたいと思います。それらの他にいろいろな要素が加わった特殊なケースについては、民法でカバーすればよいのではないでしょうか。

 

今の御意見のように不法行為に巻き込んでしまうと何が適法でどこまで実施してよいのかということが不明確になるので、できればここのところではっきりさせていただきたいと思います。競争的な分野では、侵害ギリギリのケースが多いので、適法な範囲というのを明確にする必要があると思います。
今問題になってきている原因としては侵害状況が変わってきているということだと思います。ITでもバイオでもそうですが、実施形態が変わってきています。現行規定はあくまでも直接侵害中心で、最終生産者を捕まえるという点では適合しているのですが、今は消費者のところで特許権が実現されているというケースが増えてきたということを踏まえると、やはりこの部分を改正しなければならないのだろうと思います。A案については、ほとんど変更されないため、改正されたとのメッセージを何ら発生させない可能性があり、時代に即応して改正するというメッセージが伝わらないところが問題だと思います。

 

究極の評価規範としては、特許法に書かれていないからすべて適法とは限らず、不法行為になることもあると思います。ただ、その一歩手前の立法者の努力義務とでもいうべきものがあるとすればできるだけ明確に書いた方がよいと思います。先ほどの委員の意見は、特許法に書かれていなければ誤解するものもいるので、可能な限り規定し、規定できない場合は民法でカバーするとの趣旨だと思います。

 

私も基本的にはB案でよいと思っています。実務への影響を考えると、もしB案のような規定が入ってきたときに現実問題としてどのように変わっていくのかを考えていたのですが、従来でいきますと、ここでいう中性品や汎用品を供給している部品メーカーがいて、その供給を受けて製品を製造しているメーカーが直接侵害の責任を問われる場合を考えますと、そのメーカーに対して中性品、汎用品といわれる部品を供給している限りは、現行法上は間接侵害の責任を問われる可能性は非常に低いということになります。従ってこれは理屈の上かもしれませんが、自社の部品の供給先が現実に被告の席に座っていても、当社は中性品、汎用品を製造しているだけだということで理屈の上では製造を継続していくということも法的には可能だろうと思います。それに対して、今のB案のような規定が入ってきて、中性品や汎用品を供給しているメーカーであっても、ある種の主観的要件を加重した上で間接侵害を問われる場合があるということになると、今の中性品、汎用品の供給メーカーも安穏として部品を供給してると、自分にも法的責任がまわり巡ってくるという場合がありうるということです。こういった場合に、主観的要件を責任要件として加重されるということですから、権利者として中性品、汎用品の責任を問うとすれば、主観的要件をどう立証するかということをまず考えることになると思います。例えば中性品、汎用品のパンフレットを手に入れて、その中から主観的要件を類推することもできると思いますが、多くの場合、中性品、汎用品のメーカーに対して権利者が警告書を送るというのが一番素直な形だと思います。そうすると警告を受けた側とすると主観的要件を外見的に具備した形になってしまいますので、中性品、汎用品供給メーカーとしてこのまま放置しておくと間接侵害に巻き込まれていくということがあります。それで直ちに中性品、汎用品の供給をストップするかという判断に迫られると思います。そこでストップすれば少なくとも間接侵害の責任要件に主観的なものが入っているとすると、直ちにストップすると少なくとも差止め請求を受けることはないでしょうし、請求を受けても間接侵害の責任を問われることもないのではないか、と思います。その場合に、差止め請求を受けるかどうかは別として過去に汎用品・中性品を供給していたことは事実なので、損害賠償責任はあるのか、ということが問題になります。警告を受けたことで主観的要件が具備され、間接侵害の責任を問われるのはあくまでも警告を受けた後での将来についてだけであり、将来について製品を供給しなければ差止め請求の責任も、損害賠償の責任も負わなくて済むということなのか、それとも損害賠償については不法行為なのだから間接侵害の要件としては主観的要件があって、それは警告を受けたことによって備わるのですが、それとは別に不法行為としての損害賠償責任と考えてよく、警告を受ける前の過去の販売分についても少なくとも損害賠償責任を負わされることになるのかということがあるのかどうかということです。警告を受けて直ちに供給を止めれば差止めについても損害賠償についても免責を受けるという考えでよいのか、それとも過去の販売分については別途考慮がありうるのだというふうに考えてよいのか、その辺は実務上疑問が残ります。アイデアが既にあるわけではありませんが、気になる点として意見を述べさせていただきました。

事務局

今でも不法行為法が過去の行為には適用可能であると思いますが、事件としてはまだそういった事例はないのではないでしょうか。社会通念としてそれは不法行為ではないということなのかもしれませんが、少し整理をさせていただきたいと思います。

小委員長

事件があるのはおそらく著作権だけですし、過失という点についてはかなり厳しく対処していると思われます。

 

従来は中性品、汎用品については間接侵害が問われないという概念がありました。B案の方向で間接侵害の規定を変えるならば、日本では警告状を出すことで故意になるという考え方がありますので、十分考えなくてはいけないと思います。先ほど直接侵害との関係で従属説、独立説について日本では効力の及ばない事案によって判断されているという通説的な考え方で問題ないようにおっしゃいましたが、決まった考え方はないわけですから、欧州共同体特許法のように違法か違法ではないのか、どのように考えるべきかも間接侵害の本質論の問題としてはっきり議論すべきだと思います。

事務局

一点だけ補足させていただきます。主観的要件を認めれば適用範囲が広がるので、実務への懸念があるという御意見があるのですが、日本で発展しなかった要件というのがあります。欧州でも米国でも専用品であってももうひとつ客観要件がかかっています。つまり発明の本質的要素に関わる手段、あるいは主要部分、このような要件によって更に絞込みがかかっています。日本は「のみ」と書いていたものですから、この部分の議論が今までは欠けていたという事実があります。主観的要件を入れるのであれば当然検討が必要だと考えています。

 

先ほどの商標法の議論の際、申し上げられなかったことについて一点付け加えます。今の条文のままでインターネットのホームページ上に表示される商標も「物」に「付する」で読めるとし、かつ役務については「映像に表示すること」という文言を利用した方がいいのではないかという意見がありますが、「物」の方についても「付する」ということについて「映像上に表示されていることも含む」などの規定がなければ商品と役務で整合性がとれないと思います。あるいは「物」については「付する」というところで手当をし、役務については包括的規定を入れるということも可能なのではないかと思います。

事務局

次回は9月3日の午後2時からを予定しております。本日御議論いただきました汎用品の問題や、ネットワーク上での共同侵害のケースについてどう考えるのかということについて事務局の方から説明させていただきたいと思います。商標法に関しては、包括的な規定が好ましいのではないかとの御意見を多数いただいたため、その場合の問題点等を再度まとめて御報告致します。

[更新日 2001年9月12日]

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