ここから本文です。
特許庁総務部総務課
工業所有権制度改正審議室
小委員長 |
ただ今二つのテーマについての説明がありましたが、まず最初は資料1から3までの迅速かつ的確な審査の促進に向けた制度改正についての皆様の御意見を頂きたいと思います。御意見、御質問ございましたら御願いいたします。 迅速かつ的確な審査を目指すということでは、先行技術の情報の提供は大変重要だろうと思います。その場合に出願人にかなり負担がかかるとは思いますが、長期間にわたって考えますと、出願人にとってもデータベースができるということでは有用だと思います。その場合に負担がかかるわけですから、データベースができましたら今の電子図書館のように一般の方がアクセスできるように工夫していただきたいと思います。 |
事務局 |
データベースの件でございますが、今はIPDL(特許電子図書館)で公報等が見られるようになっています。また、引用文献データベースも公開しており、経過情報の中で引用文献を見ることが可能になっています。先行技術開示制度により、公報等において先行技術文献情報にアクセスできる方向になっていくのではないかと思います。 この制度は出願人が知っている情報を確認するという趣旨であって、審査官の仕事を肩代わりするという趣旨ではないことを確認させていただきたいのですが。 |
事務局 |
審査の肩代わりではなく、文献名を出していただきますと、その出願人はそのような情報は既に知っているということがわかり、その範囲は審査官の業務負担から除外できるということであって、それ以上のことは、審査官が調査を行うということです。 先行技術情報の提供には基本的に賛成なのですが、提供すべき情報の範囲に「発明の新規性・進歩性に関する特許性に関して重要な情報のみを先行技術文献の範囲とすべきではないか」とありますが、サーチの結果100件以上の文献があり、そこから重要なものを抽出するのは出願人にかなりの負荷がかかります。文献名のみでコピーまでは要求しないということであれば、サーチの結果一覧を提出するだけで、そこに出願人サイドの評価は入っていないことになります。そうであれば出願人の負荷は軽くなりますが、それがこの制度の趣旨であるようにはみえません。もし新たなサーチを行い、かつその結果を分析評価することまでを要求されるのであれば、それでは出願人に負担がかかりすぎると思います。 |
事務局 |
制度の趣旨はあくまで、現状でも記載されている先行技術の出典を明記していただくことにより、出願人と審査官との意志疎通を円滑にしようとするものです。現行の運用以上に先行技術を調査して、明記することを要求するものではありません。現在、従来技術を開示していただいているわけですが、それらの文献名も加えて明記していただきたいというのが基本的考え方です。 出願人サイドからいいますとやはり実際に運用はどうなるかということが気になります。 全体的には賛成できる制度だと思います。しかし、新たにサーチの負荷がかかったり、開示における主観的判断が入らないようにしてもらいたいと思います。ある企業が、なぜ特許文献を書かないかというと、書いてしまうと補償金請求権の警告無しでの効果が出てしまうということを危惧しているからです。もしそのようなことに影響があるなら、補償金請求権のことも考慮して検討頂きたいと思います。一般の文献なら問題ないのでしょうけれど、特許文献の場合は出願人がそれを知っていたのではないか、ということになりかねません。警告なしで補償金請求権を要求できることとなりかねない、という懸念をしている企業がありましたので、そのあたりをしっかりと保障してくれれば、企業側も先行技術を進んで書くのではないかと思います。 |
事務局 |
補償金請求権の話は初めてお伺いした意見であり、よく検討させていただきたいと思います。著作権上の問題に関しては、現在著作権法の改正について意見照会が行われておりまして、私どもの方からもそのような意見は伝えていきたいと思います。 先行技術情報の件ですが、特許庁の御提案の趣旨自体についてはよく理解できます。御提案の条文自体も、出願人のペナルティがそれほど大きいわけでもなく、問題はないと思います。ただし、特許庁サイドの御説明にありました中で、出願人は十分に先行技術を十分調査している、というお話がありましたが、そのような発想は私の個人的意見としては、大企業中心にお考えになっている危険性はないでしょうか、という問題があります。今後日本産業を育成していくときに、どうしてもベンチャービジネスを育成して行かなくてはなりませんし、大学教授に知的財産に関する認識を持っていただかなくてはなりません。今はどちらかというと、論文の前に早く特許出願をして下さい、というレベルの話が多く、いわゆる事前の特許調査といいますか、技術文献あるいは特許文献を事前に調査するということは、大学の先生方の間では考えがたいのではないかと思います。かなりこの問題は現実から遠い世界にあるということも御認識いただきたいと思います。確かに特許庁では非常に便利なデータベースを提供いただき、大変重宝しているのですが、中小企業ではこのようなものの利用価値さえなかなか浸透していないということがあります。従ってこの制度を実際に運用する際にあまり厳しい運用をなさいますと、非常に危険性があると思います。今後の特許行政は中小、ベンチャーを支援していただくのが大きなポイントだと思います。また、特許調査というものの認識の低さも大きな問題だと思います。このあたりの実状の御認識をいただいて、検討していただきたいと思います。 |
事務局 |
その点は認識しておりますが、制度としては御理解いただけるのではないかと思いますが、制度運用にあたりましては出願人の過度の負担とならないようにしていきたいと思っております。中小企業の中には、十分に先行技術を調査して出願するところもあると聞いておりますし、当庁としてもIPDLには多くの予算をかけておますので、大いに活用していただいていただきたいと思います。 この制度は、あくまで信義・誠実の原則を旨とするものであり、出願人が保有していない文献まで提出を求めるものではないと認識しています。先ほど審査官の業務の肩代わりはいかがかというような意見もございましたが、出願人も制度利益を受けるものでありますから、制度の円滑な運営のために協力するということは決しておかしいことではないと思います。特に、新分野では先行技術情報が不足しがちであり、その結果、特許のエラーレートが上がるのであれば、特許制度そのものに対する信頼にもかかわると思います。私は出願人は制度の利益を受けるものとして当然協力すべきだと思います。 全体的には納得できます。一点だけ確認させてください。資料には「出願時に知っていた重要な情報すべてを開示する」とありますが、考え方としては、重要な情報、意味ある情報を一つでも書けばよいのでしょうか。つまり特許庁側はもっと多くの開示すべき文献があるはずだと考えた場合、一件しか書かれていない時は拒絶理由となるのでしょうか。もしそうだとすると十分性のところの判断が極めて難しいと思います。 |
事務局 |
今回の提案は各国の試行錯誤を参考にしているのですが、「開示が十分であったかどうか」を審査段階で行うと、各国とも弊害の方が多かったという結果があります。先行技術開示の十分性については審査の対象とせず、何かしらの文献についての記載がある、ということを第一の目標においています。ですから、仮に一件しか見つからないのであれば、それはそれで仕方ないのではないでしょうか。 |
事務局 |
審査する側から申し上げますと、非特許文献を多く引用する技術分野では、審査官はまず、商用のデータベースを用いて発明者検索をし、発明者の論文を第一引例として用いるケースが多々あります。そして本願発明と発明者の論文記載事項との差分を出して、他の引例を探して拒絶理由を書くという実務が行われています。その意味で発明者の論文は審査する側から有効なものですから、その論文を明細書中に書いていただければ十分開示義務を果たすことになります。ぜひその辺りを考慮いただいて、先行技術開示の法制化に賛同いただきたいと思います。 既に知っている文献を提出するのにはやぶさかではありませんが、非常に急ぎの場合に問題があると思います。大企業でも個人でも、一件の 出願をするだけでもいろいろ調べなくてはならないので大変だということです。 米国の制度での問題としては、バックグラウンドの技術文献まですべてを出すのか、あるいはその出願に関係のあるものだけとするのかということがあります。そこで非常に重要となってきているのはマテリアリティー、ここで言う特許性に関して重要な情報であるかどうかです。米国の制度で言いますと、出していない場合にはかなりのペナルティーがあると聞いてきますので、非常に真剣に対応しますけれども、さきほど話題にでましたように、「文献の範囲として重要な情報のみ」とある点が気になります。拒絶理由通知との関係で、重要な情報が出ていないということが審査の過程で分かったとき、それをどうするのかということが懸念されます。むしろ重要な情報に限らず先行技術として認識していているものを開示するという程度に止まるということにしておくのがよいのではないでしょうか。「重要な情報」の判断が難しく、米国ではこの問題で特許が更新できなかったということがあります。先ほど先行技術開示についてのガイドラインが作成されるということでしたが、出願人であるとか、代理人も含めて使いやすい制度にしていただきたいと思います。 |
事務局 |
米国流に重要性を判断することは考えていません。今現在も出願人の方々の判断で書かれておられるような、新規性、進歩性に関わると思われるものを出していただければよいと考えています。重要な情報かどうかを判断して拒絶理由とすることまでは考えておりません。ガイドラインを作成する際にはどのような場合に拒絶理由となるかということも明確にしていく必要があるのではないかと考えております。 |
事務局 |
資料中の「重要な情報」という趣旨について、若干補足しますが、持っている情報をすべて書くという方法では、それはそれで網羅的になってしまい、問題ではないかと思っております。全部ではなくて何かしらの限定をしてもよいというという趣旨で「重要な」という表現をしたわけです。別に米国の規則を念頭に作成しているというわけではありません。 少し技術的な話になるのですが、運用をできるだけ楽にするという意味では、文献についてはURLだけにするとか、フォーマットに関してはXMLで記述した上で、メタデータでいれていく、という考えもあると思います。放送、通信の方法をどのようにしていくかということでメタデータ、XML等によるコンテンツのハンドリングも標準化されつつあります。また、英国政府においても今年の5月からメタデータ化されるということを聞いておりますので、特許の方でも、電子化というだけでなく、より踏み込んだ形でそのような技術をいれていただくというようにして、検索が楽になるということも考えていただきたいと思います。 |
事務局 |
今御指摘のありましたデータのXML化につきましては特許庁は国際標準フォーマットを使おうとしておりまして、平成15年あたりを目処に明細書全体をXML化しようとしております。従いまして、今議論しております先行技術についてもXML化した形になると思います。メタデータについても含まれるということで考えております。 出願人の開示情報の利用方法についてですが、先ほど、事務局側のお話ですと、特許庁では先行技術をすべて把握しており、そのうち、どの部分について出願人が周知しているのかを確かめるというものである、という趣旨の御発言がありましたが、そうではなくて、特許庁側でも把握できないような情報もあり得ますし、それも開示していただけるとなおよいわけです。そうするとそこには協力関係というのもあり得るわけです。 |
事務局 |
特許庁としては、出願人が知り得た先行技術を審査段階で自発的に開示してくれることは歓迎します。情報を開示していただくことにより、より強い特許権とすることができると考えております。先ほどの発言は、審査段階で自発的に開示することを義務化するとか、開示しない場合にペナルティがあるという制度趣旨ではないことを申し上げたかった訳です。出願人の方が自ら情報を開示した上で特許査定がされれば、国際的に通用し、プロパテントの時代に即した、より強い特許権とすることができるのではないか、ということです。 基本的にはこのような方向は必要なことだと思います。ただ、「迅速かつ的確な審査」にはトレードオフの意味合いが含まれると思います。「迅速さ」か、「的確さ」かのいずれかに重点を置けば、結果的には他方が犠牲になるという関係にあることは否定できないと思います。 |
|
ソフトウェア発明との関係で、現行の発明の定義は現行のままで問題がないと言い切るのは難しいと思います。ハードウエア依存型のクレームの運用は、今の定義規定とどのように調和させようかと審査部の方がいろいろ苦心した末にできたものです。今、審査の面で発明の定義が障害となっている面がないとはいえないのではないでしょうか。 インターネットによる国際間で行われる実施、国境をまたがった実施についてどのように対応するのかについては、ぜひ積極的かつ早急に検討していただきたいと思います。 |
事務局 |
全く同じ問題意識をもっており、早急に検討したいと思います。 |
小委員長 |
皆が問題だと認識はしているが、問題が難しすぎて、検討できていないという状況でもあります。いずれにしてもなるべくはやく検討すべきところであります。 質問なのですが、間接侵害の問題における汎用品と中性品とを法制上区別できるのでしょうか。また、汎用品であっても、悪意、重過失がある場合には間接侵害としても良いのではないでしょうか。 |
事務局 |
中性品という概念はあくまで講学上の概念であり、法制上は中性品という概念は出てこないと思います。汎用品は除かれるということは米国でも欧州でも条文で明記されているのですが、中性品か、専用品かというのは、いわば専用の度合の問題であり、法律に書くときはかなり工夫が必要だと認識しています。 汎用品の場合はもともと悪意、故意過失が欠落しているので、もともと侵害の対象外なのではないかと思います。逆に汎用品と称されるものでも侵害とされるものについて、例えば、ある発明において特定目的で硫酸を使う場合に、特に純度の高い硫酸が必要な場合があるとします。そのような硫酸を販売する者が侵害の意図で供給していれば、それは汎用品であっても侵害になるということはありえてもいいのではないかと思います。結局は立証の程度やビジネス上の状況の問題かも知れませんが。 |
事務局 |
基本的に御指摘の通りでありまして、訴えられた方は自分の供給しているものは汎用的用途があるものと主張し、事実認定の立証の問題の中で検討されることだと思います。米国のNapsterの事件でも、Napster社は著作権の対象とならないファイルの交換にも使用できると主張していますが、そうはいっても実際は大半が著作権のあるものに使われているという理由により、その主張は採用されなかったという経緯があります。相対的判断というのはどうしても入ってこざるをえないと思います。 Notice & Take downについてお聞きします。総務省で行っているプロバイダ責任法制は、横断的アプローチが望ましいのか、あるいは個別のアプローチが望ましいのか、基本的なスタンスについて御説明いただけるとありがたいです。欧州は横断的アプローチをするという動きがありますので、日本としてはどう対応すべきかについて参考にしたいのですが。 |
事務局 |
前回の議論でもありましたように、基本的には横断的アプローチで考えていけばよいのではないかと思います。総務省で検討中の横断的なアプローチの仲介者責任法により、実効的にカバーできるのであれば、特許、商標法についての特段の問題はないのではないでしょうか。 報告書案P27では商品商標の使用の定義は、特許法の発明の実施に関する改正の方向性を踏まえて検討するとしています。ここでの発明の実施に関する規定の改正というのは商標の使用の態様のところであるのに、報告書案では第2条第3項第1号の「付する」について言及していますが、これは使用そのものの定義と使用行為の態様というのが混乱しているように思えます。 |
事務局 |
3点御指摘がありました。最初の商品商標の使用の用語についてですが、「譲り渡し、引き渡し」等の表現をどうするかということは、特許法でもネット上の流通を考えた同じ問題がありますので、平仄を合わせようという趣旨であり、それがはっきりするように整理いたします。 間接侵害の主観的要件というところで、幅広く改正される方向は結構なことだと思います。これは実行に移すために他の検討しなくてはならないということはないのでしょうか。規定は広がったけれども実行ができないということは起きないのでしょうか。 |
事務局 |
基本的に民事訴訟法の改正及び10年、11年の特許法改正により、文書提出命令等の証拠収集手続については手当がなされたと理解しています。現在、司法制度改革審議会の意見書を受けて法制審議会で検討が進んでいるのは、訴訟提起前の原告が証拠を集めるための手段についてです。ドイツの独立証拠調べ等の制度を参考にして、今後具体的に検討していくようです。法制審の担当部会には我々の方からもメンバーが参加しており、そこで、充実した証拠収集ができるような制度について意見提供していきたいと思っております。 |
小委員長 |
おそらく現在の間接侵害の要件がもともとは主観的要件だったのが客観的要件になったのも、立証等の問題があったからだと思います。このような問題は特許法の問題というよりも、訴訟手続全体の問題として解決されていくのだと思います。 知的財産権についていろいろ問題があったとき、なぜ知財だけ個別に扱うのかという議論から、いつも先送りされています。今、国際競争力、産業技術力を高めようといわれていますが、いざその制度を変えたいというと、いつもなぜ知的財産権だけ特別なのか、というふうに封じられてしまっています。このように納得しがたい点もありますので、知的財産権の観点から必要なことであれば、知的財産権法制の中でだけでも手当してもらいたいと思います。 |
小委員長 |
法制全体の平仄を合わせるべきか、知的財産法で風穴を空けるべきかの問題であり、情報財や知的財産権は他の権利とは違うということを強く示していくより他にないと思われます。 |
事務局 |
次回は10月12日午前10時からを予定しております。第7回法制小委員会では、今日の議論を含めて、中間報告をさせていただきたいと思います。本日お配りした「これまでの議論」については御意見がありましたら、積極的に事務局まで御提出いただければと思います。なお、この中間報告については次回の小委員会が終了した後に特許庁のWEBサイト等を利用して、1ヶ月程度パブリックコメントにかけたいと思います。 |
小委員長 |
それでは以上をもちまして産業構造審議会知的財産政策部会第6回法制小委員会を閉会したいと思います。本日はどうもありがとうございました。 |
[更新日 2001年10月24日]
お問い合わせ |
特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室 |