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第3回紛争処理小委員会 議事録

特許庁総務部総務課
制度改正審議室

  1. 日時:平成14年7月17日(水曜日)15時00分~17時00分
  2. 場所:特許庁庁舎 特別会議室
  3. 出席者:大渕小委員長、中山委員、秋元委員、伊藤委員、斎藤委員、作田委員、佐藤委員、竹田委員、中西委員、牧野委員、松尾委員、丸島委員、諸石委員、山下委員
  4. 議題:特許の有効性に関する審判制度等の在り方について~基本骨格のあり方と審理の充実~

議事録

議事録

大渕小委員長

それでは、まだおみえでない方もおられるようですが、定刻となりましたので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会の第3回紛争処理委員会を開催したいと思います。
本日は、皆様、ご多忙中お集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
それでは、早速議事に入らせていただきますが、まず本日の議題であります「特許の有効性に関する審判等の在り方~基本骨格と審理の充実~」というペーパーにつきまして、事務局からご説明をお願いいたします。

木村審議室長

それでは、ご説明申し上げます。本日の配付資料でございますけれども、1点のみでございまして、お手元にございますでしょうか。「特許の有効性に関する審判等の在り方~基本骨格と審理の充実~」という紙に沿いまして、簡潔にご説明したいと思います。
まず、「1.新制度の基本骨格」というところからでございますけれども、前回までの議論を総合いたしまして、査定系の異議申し立て、当事者系の無効審判が併存しておりますことに起因して、両手続が同時係属した場合に、審理構造の関係から併合できない、あるいは異議申し立て後に再度無効審判が請求されるというような事態、それによって紛争の早期解決がなされないという問題、あるいは異議申し立てに対して申立人の関与を強めたいというユーザーからの手続要件の見直しを求める要請等を勘案いたしまして、裁判制度との関連等につきまして意識しつつも、当面異議申し立てと無効審判の両制度につきまして整理統合をし、新たな特許の有効性を判断する新制度を創設するということについては大きなご異論はなかったものと認識させていただいております。そういった新しい制度を考えます場合、当事者間の紛争解決、行政処分の見直し、いずれの機能も重要でございまして、双方の機能を果たし得る行政審判制度とするということが適切ではないだろうかということで考えさせていただいております。
「新制度の基本骨格案」のところでございます。まず幾つか要件がございますが、請求人適格につきましては、第2回でもいろいろとご議論をいただいたところでございまして、3つのオプションをここでは併記をさせていただいております。
①が「何人も請求可とする」。異議申し立ての形態を踏襲をする。
②が「『緩やかな利害関係』を有する者が請求可とする」ということでございまして、利害関係、現在は法文上明記されておりませんけれども、運用で緩和するということが考えられると思います。
それから、③「権利付与から6カ月以内は何人も請求可、6カ月経過後は利害関係人のみ請求可とする」、そういうオプションもあるかと考えます。
これにつきましては、今後引き続き検討課題ということにいたしたいと思っております。
次のページでございますけれども、請求時期につきましては、「いつでも請求可とする」。
それから、審理構造につきましては、下に一部解説をしておりますけれども、当事者系構造がよいのではないかと考えております。
請求理由につきましては、公益的理由に加えまして権利帰属、現行の無効審判と同じということでとりあえず案を考えさせていただいております。
審理構造につきましては、当事者系構造か査定系構造か、いずれを採用するのかということにつきまして議論があるわけでございますけれども、手続への積極的関与を求める請求人の要請、当事者が質の高い証拠を提供して主張し合う、そういうメリットを勘案しますと当事者系構造の方がよいのではないかということでございます。
仮に査定系構造を採用するということでありますと、請求人の手続負担が少ない、簡便に請求できるというメリットがございますけれども、訴訟において当事者系構造で審理を行うということを前提にいたしますと、審判段階において当事者系構造で審理するというのが自然ではないか。あるいは、査定系構造においては積極的関与の要請、より適確な審理の要請といったことに十分こたえることができるのだろうか。あるいは請求人の負担が小さいために、請求件数が増加をして特許権者の対応負担が大きくなり過ぎるのではないか。あるいは一事不再理、これは当然手続に参加した者にのみ原則としては及ぶという既判力を根底に考えますと、紛争の蒸し返し防止策を講じることは困難ではないかということ等を考えて、これらの欠点を是正していくことになりますと結局は当事者系に近づいていくのではないかということで、今回私どもの案としては当事者系の方を採用させていただいておるということでございます。
あわせて口頭審理か書面審理かということでございますけれども、これについては事案によって柔軟に対応するということで検討の方向性といたしております。
それから、特許付与後の情報提供制度の導入というご意見も賜っておりまして、これについても検討課題ということで挙げさせていただいております。
新制度の骨格につきましては以上でございまして、その中で特に今回、3ページ以降でございますけれども、2といたしまして「審理充実のための要件」として幾つか論点を挙げさせていただいております。
ここでは3つ論点を提起をさせていただいておりまして、問題意識といたしましては、1つの特許に対して繰り返し複数の審判請求がなされる。これは一番最後のページに参考資料をつけてございますけれども、基本的に無効審判は全体の20%が同一特許に対して同一人によって繰り返されているということがございますし、審決取消訴訟に至ってから行われる特許の訂正に起因してキャッチボール現象が起こるというようなこと、これを回避しつつ紛争の一回的解決を図っていくためには、幾つか論点があるのではないか。
あわせて特許庁が有します専門的な能力に基づいて職権調査の結果を判断材料として加えていく、当事者主義にこれを加味していくということで、そのあり方も含めますと3つの論点をここではご提示をさせていただいております。
第1に「請求人と権利者の攻撃・防御の機会の最適化」、第2に「過度な紛争の蒸し返しの防止」、第3に「職権探知の適切な範囲の在り方」ということでございます。
まず第1の「攻撃・防御の機会の最適化」でございますけれども、現在の法制度では、「審判請求人による理由及び証拠の追加」がかなり厳しく制限されております。3ページの下の部分でございますけれども、平成10年の法改正によりまして、審判請求書の理由の補正につきましては、要旨を変更するものは認めないということで、審判請求書の提出以降は無効理由及び証拠の追加・変更を制限しておりまして、これは無効審判そのものが迅速に行われるということを担保する上での措置であったわけでございます。
それと同時に、それに対応する形でございますけれども、「特許権者による特許の訂正」につきましても、これは平成5年の法改正以来、無効審判が特許庁に係属している場合には、審判手続において訂正請求を行うこととしておるわけでございますけれども、その時期に制限が加えられておりまして、審判請求書送達後の最初の答弁期間、職権による無効理由通知への応答期間に限って行えるということで、これもかなり時期的な制限が設けられておるわけでございます。
5ページでございます。こういう制度的な問題に端を発している部分があると思うのですけれども、無効審判の審理期間そのものは大幅な短縮が図られておりまして、一定の成果はおさめているということがいえるわけでございますが、先ほど申し上げたように、同一特許に対して同一人により繰り返し複数の無効審判が請求されるという事態が生じておるわけでございます。これらの中には、最初の審判事件において請求理由・証拠の追加が可能であれば再度の請求がなされなかったと考えられるものも含まれているのではないかということでございます。平成10年の改正そのものは全体的にみて肯定的に評価できると考えますけれども、他方、最初の審判事件で若干柔軟に一定の範囲で請求理由・証拠の追加を認めていくことができれば紛争全体の早期の解決、何度も無効審判が請求されるというようなことなく、対応できるのではないかということも考えられるわけでございます。
現実問題といたしましては、現在、上申書が事実上ございまして、それによって審判の終期において証拠が提出されるということもあるわけでございます。その場合、証拠が非常に強力なものであります場合は、特許権者に反論と訂正請求の機会を与えることが当然必要になってまいるわけでありますので、上申書に記載されております証拠を利用いたしまして職権で無効理由通知を打って、それに対する反論を得るという形で事実上手続を補っているわけでございます。
これにつきましては、請求人の意図した無効理由が必ずしも構成されない、あるいは無効理由通知を作成することがある意味では非常に負担になるという問題もございまして、本来ならこういうことはなしで済むのであればそれに越したことはないのではないかということでございます。
それから、訂正請求につきましては、特許権者の防御として特許の訂正請求の機会を一定限度で認めていく必要があるのではないかということでございます。
諸外国の状況でございますけれども、6ページをご参照いただければと思います。
ドイツでございますけれども、基本的には「時機に遅れて提出された証拠や特許の訂正については、職権により採用され得るものの、手続きを遅延させる意図があった等の理由により、濫用と判断された場合には信義則に反するとして採用されない」ということで、時機に遅れて提出したものについては採用されない場合があるというようになってございます。
それから、EPCでございます。これもほぼ同様だと思いますけれども、「時機に遅れて提出された事実又は証拠は無視することができる」ということになってございます。
それから、英国でございますけれども、これは特許権者が当然応答いたしまして、それに対して申請者も「応答に対して更なる証拠の追加が可能」ということになってございまして、その後「さらに一度ずつ補強証拠を追加することが可能」というようになっております。「それ以降は特許庁長官が許可しない限り証拠を追加できない」ということでございます。
さらに米国でございますけれども、当事者系再審査におきましては、意見提出・補正が可能でございます。その場合、「請求人は特許権者の応答に対し、意見の提出と新たな先行技術の追加が可能」でありますけれども、その場合「争点になっているものに限られる」という内容の限定が施されております。その場合、先行技術の追加として認められますのは、審査官の認定事実への反論、特許権者の応答内容に対する反論、再審査請求後に初めて知ることとなった、また入手可能になった先行技術ということで限定がございまして、特に最後の場合でございますけれども、先行技術を知ることとなった、あるいは入手可能となった時期を説明しなければいけないということでございます。
我が国において、ではどうしたらよいのかという案でございますけれども、7ページ以降にご紹介をさせていただいております。
まずAが一番上にございますけれども、これは「現行の無効審判と同様、理由・証拠の追加機会、請求訂正の機会を制限する」というものでございまして、現行の制度を維持するという考え方でございます。これはそれなりに当然意味があるわけでございまして、「請求人は請求時に全ての理由・証拠について提出することが必要」ですし、「このため、審理の早い段階での争点整理が可能」、「迅速な審理を行うことが可能」ということでございます。
また、新たな無効理由・証拠が発見された場合は、別の審判請求をしていただいて、それを併合審理を行うということも場合によっては可能ということでございますので、それを加味いたしまして現在の案のままいくというのがAでございます。
それから、「必要な措置を講じた上で、理由・証拠の追加、訂正請求の機会を認める」というのがBでございます。1つの事件の審理ということでございますとかなり迅速にはなってきておりますけれども、紛争全体でみた場合にはむしろ長期化するという状況もあるわけでございますので、そのバランスをうまくとっていくことが必要ではないかというのがBの基本的な考え方。したがいまして、理由・証拠の追加についても一定の制限のもとに認めていくべきではないかということでございます。
B-1からB-3まで、とりあえず3つのオプションを下にご提示をさせていただいております。このうち1または2以上、組み合わせでもよろしいかと思いますけれども、採用するというのが案ではないかということでございます。
まずB-1でございますけれども、「時機に遅れた理由・証拠の提出、訂正請求がなされた場合には、これを採用しない」という規定を入れるというものでございます。民事訴訟法には、156条で「適時提出主義」というのが採用されておりまして、これと同様、時機に遅れた理由・証拠の追加というのは却下するという構造にするというのが一案かと存じます。
ただ、民事訴訟法においてこの規定はどれだけ威力があるのかということについてはさまざまな評価が可能なようでございまして、最終的に仮にこういうものにいたすとしましても、何らかの判断基準を検討していく必要があるのではないかということだと思います。
8ページでございますけれども、現在導入に向けて準備を進めております計画審理におきましては、その当事者が計画に合意するわけでございますけれども、例えば請求人によりましてその合意スケジュールに遅れた理由・証拠の追加でございますとか、訂正請求がなされる前からもともと存在していたような無効理由を後から指摘するといったような場合は、明示的に時機に遅れたものとして、例えば判断基準の中に入れていくことによって排除するということも案としては考えられるということだと思います。
B-2でございますけれども、「理由・証拠の提出及び訂正請求が認められる回数を明示する」というものでございまして、その回数を使用した後は、その後の理由・証拠の提出、訂正請求につきましては、適切な場合に審判合議体の裁量で認めていこうというものでございます。当然、現行制度は理由・証拠の提出、訂正請求はそれぞれ1回ずつということになっておりますので、それがまず最初の案でございます。それ以上ということも考えられるわけでございます。
仮に現行制度のように双方1回ずつということにした場合でありましても、その後、審判合議体が許可していくということができるわけでございまして、案件の内容が複雑であったり、あるいは当事者間で主張・立証を展開させることが必要だという事案につきましては、論点の掘り下げを裁量的に認めていくということでございます。
2回以上というのも当然考えられるわけでございますけれども、そうなりますと、逆に早期に審理を終結できるような事案についても所定回数の手続を保障することになりまして、それに張りついてしまうということ、あるいは最初の理由・証拠の提出等において十分なものを出さないというようなことをひょっとすると助長してしまう可能性もあるということかと思います。
現実問題といたしまして訂正請求が出される無効審判の割合は30%程度でございまして、例えばそれに対応する必要があるという場合のみ理由・証拠の提出を認めるというような運用にしても、さほど大きな問題はないという実務上の考え方もあると思います。
それから、9ページでございますけれども、B-3ということで、内容面で絞らせていただく、争点に係るもののみに限定するという考え方もございます。現実問題といたしまして、例えば上申書の内容とかをみましても、多くは補強証拠を出すものが多うございます。全く新規のものを新たに追加しようというのはかなりまれでございまして、基本的にはそういうニューマターに係るものは排除し、争点に係るものに制限をするということでもほとんど支障はないのではないかという考え方でございます。
したがいまして、請求人がなし得る再度の理由・証拠の追加の内容というのは、権利者による答弁とか訂正請求に対して新たに必要となったものに限るという運用にしてはいかがか、あるいは当然権利者がなし得る訂正請求についても争点に係るものに限定をするというのがB-3でございます。
他方、いかなる案をとりましても、後に提出された無効理由・証拠が非常に強力であるということは当然想定し得るわけでございまして、そういう場合には柔軟に審判合議体がその採否を決定するという道は開いてもよいのではないかということでございます。
それから、一番下の囲みの部分でございますけれども、いずれの選択肢を採用する場合にも、当初の請求書において必要かつ十分な無効理由・証拠の提示を促すという措置をあわせて講じたいということでございます。
10ページでございますけれども、今度考えております新しい制度において、仮に理由・証拠を追加する請求書の補正を認めるということにした場合、その効果といたしまして、理由・証拠の提示がほとんどないような請求書が出てまいっても審決の却下とすることが不可能になりますものですから、当初の請求書で必要十分な無効理由・証拠の提示を促す手段が必ずしも十分存在しないのではないかという懸念もございます。やや図式的な理解かもしれませんけれども、例えば民事執行法34条等、類似の規定を導入する等の手だてがあるのかどうか、それも検討事項かと考えております。
(2)の「紛争の蒸し返し防止」に移らせていただきます。現行の我が国の特許法では、紛争の繰り返しの防止のために、無効審判の審決が確定して登録があったときは、何人も同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判を請求することができないという一事不再理の規定が設けられておるわけでございます。この一事不再理につきましては、広く解釈をいたしますと、当然後の審判請求を禁止する範囲が広くなるわけでございまして、逆に狭く解釈すると紛争が蒸し返しされるということで、一種のジレンマを抱えておるわけでございます。
11ページに移らせていただいて、現行制度のもとでは同一理由かつ同一証拠ということで、それに限定されております。したがいまして、多少なりとも異なる理由、あるいは異なる証拠で別途無効審判が請求されてくるということはあるわけでございまして、これにつきましても弊害が生じているのではないかという指摘はあるわけでございます。
先ほど1のところで無効審判請求の理由・証拠の追加、そこが柔軟でないのでこういうことを生んでいるのではないかという批判があるわけでございます。したがいまして、そこのところをある程度緩和をしていくということになりますと、当然、当該審判事件において審理する理由・証拠というのは増加することが見込まれるわけでございまして、結果的には一事不再理の適用範囲は反射的効果として拡大するということがあるのかなと考えております。
ただ、それでもういい、十分ではないかと考えるか、あるいは理由・証拠の追加を認めるわけでございますので、この機会に多少異なった証拠を用いるぐらいでは蒸し返しを認めるべきではない、さらなる手当てを考えるかどうかというのが論点となろうかと思います。
「諸外国の状況」でございますけれども、ここでは2例挙げさせていただいております。ドイツでは、同一の理由(同一の条文)に基づきまして再度無効手続を請求することができないということで、同一理由かつ同一証拠を求めております日本よりは広い範囲になっております。ただし、「何人も」ということで、全く同一の理由であっても別人の名前による再度の請求はできる仕組みになっているところは日本と異なっているということでございます。
それから、米国でございますけれども、基本的には主張し得たはずの無効理由であるのに主張しなかったものを後から主張するということは認めないということでございまして、効果につきましても、請求人、利害関係人、かなり広目に理解をしておるという制度になってございます。
我が国の中身、「具体的検討」ではどうしたらいいかということでございますけれども、基本的には現在の一事不再理の規定そのものについて維持をするということで、Aという案を書かせていただいております。
それに加えて、「同一の請求人による再度の請求については、事実・証拠が異なる請求であっても、一定の場合にはこれを制限することが必要ではないか」というのがBでございます。
具体的には●が3つございまして、例えば一番下の●の「無効理由の法条が同一である場合」、「無効理由を基礎付ける事実が同一の場合」、あるいは米国のように「前の審判において主張することが可能であったと判断されるような事実を新たに主張する場合」というのは、一定の場合には制限するということに該当をするという考え方もあるのではないかということでご議論いただければと考えております。
(3)の「職権探知の範囲」でございますけれども、現在は当事者が申し立てない理由についても審理することができるということで職権探知主義を導入しております。これは特許が万人に対する対世効を有しておりますし、特許庁の専門能力を活用してやっていくというのが妥当ではないかという判断に基づくわけでございまして、新制度においても基本的にはこれを維持してはどうかというのが私どもの案でございますけれども、これにつきましてもご議論をいただければと考えております。
それから、14ページで、あわせてこの機会に「審判制度における審理の適確性確保の方策」ということで2点挙げさせていただいておりまして、ご議論を賜れればありがたいと考えております。
1つは、「専門家関与による適確性の確保」という論点でございます。「審判官に必要とされる能力」というのは、技術に関する専門知識、特許制度・実務に関する専門知識は当然もっておるということが大前提でございます。
ただし、「高度な技術専門家による補完」というのが②にございますけれども、昨今の電子商取引でございますとか金融工学、バイオとかITの本当の最先端の部分、極めて高度な技術専門性が必要になる分野につきましては、これを補完することが適切な場合がございまして、現在アドバイザー制度を採用しております。現在の技術アドバイザーの皆様方は事実認定とか判断に関与をすることはなく、一般的な技術的知識について補助する立場ということでございますけれども、さらにこれを進めまして、例えば事実認定でございますとか判断でございますとか、そういうものに関与すべきではないかとか、そのあり方はどうかというようなことにつきましてもご議論をいただければと考えております。
③の「法律専門家による補完」でございますけれども、ここでは不服申し立ての被告になるようなケースのみ書かれてございますけれども、基本的には法律アドバイザー制度が、現在存在しております。これにつきましても、高度な技術専門家と一種パラレルにお考えをお聞かせいただければありがたいと考えてございます。
(2)でございますけれども、「特許審判における非公開規定の拡充」でございます。これは最もセンシティブな分野は当然侵害訴訟におけるそれではないかと思いますけれども、特許審判においても口頭審理を基本とした審理で事実上の秘密が取り扱われることがございますし、非公開の手当てというのも必要になるのではないか。現在、特許法の145条の規定では、非公開となるものは公序良俗に反するもののみでございまして、営業秘密等の非公開というのは担保されておりません。したがいまして、事業者を保護するという観点から、申し出により審理を非公開とするという場合も認めていくべきかどうかということでございます。
参考でございますけれども、閲覧制限というのは既に導入をいたしております。
③は、先ほど申し上げたとおり公序良俗でございます。
④で他の事例をご紹介申し上げております。例えば公正取引委員会でやっております審判の手続、これは当事者系と申しますよりは査定系の手続でございまして、必ずしも同一には論じられないのかもしれませんけれども、事例としては1つこういうものがあるというご紹介でございます。
16ページは人事院の公平審査、これも同じような査定系のプロセスでございますけれども、国家公務員が不利益な処分を受けたときに人事院に対して不服申し立てを行うことができる。これについて非公開が認められているというもののご紹介でございます。
本論の方は以上でございまして、17ページ以下は別添ということでご参考までに参考資料をつけております。「迅速かつ適確な審理確保のための運用上の方策」として、特許庁の方で運用面等で努力をしてまいりたいということのご紹介でございまして、「計画審理の推進」、「応答期間の合理化」ということで、内外差が今非常に大きいわけでございますけれども、これを撤廃をしてはどうか、あるいは期間の設定の柔軟化、あるいは一部書面の法的効果が直接発生しないような手続につきましては、当事者間での直送を認めてはどうか。それから、「事務処理手続の改善」でございますとか「IT化」。それから、「審判官の補助者の増強」ということで、現在審判調査員の方を我々として活用させていただいておるわけでございますけれども、大幅にこれを拡充をしていくといったことによりまして、「迅速かつ適確な審理確保のための方策」ということでご紹介をさせていただければと考えております。
最後のページは参考資料でございますので、これのご説明は割愛させていただきます。
私からは以上でございます。

大渕小委員長

詳細なご説明をありがとうございました。
今ご説明のあった「特許の有効性に関する審判等の在り方~基本骨格と審理の充実~」という点につきまして本日ご審議をいただくわけでありますが、審議に入ります前に、今ご説明のありました1.2.3.から成っておりますこのペーパーにつきまして、まずご質問等ございましたら……。1.2.3.のどの点でも結構ですが、まず審議に先立ってご質問はございませんか。

竹田委員

1点だけご質問します。
2ページの審理構造として、当事者系構造を採用することによってこういう利点がある、一方、査定系構造を採用した場合には手続負担が少なく、簡便に請求することができるけれども、こういう問題点があるという書き出しになっているわけですが、当事者構造を採用した場合に生ずる問題点というのは何か認識されているのかされていないのかちょっとお尋ねいたします。

小林審判企画室長

この議論に関連しまして、前回の審議会でもご指摘をいただいたところかと思いますけれども、例えば当事者系構造の審判での審理を採用するときに審理負担をどう考えるのかという議論が前回もあったかと思います。その点については前回もご説明させていただいたのですけれども、必ずしも査定系構造の審理の方が審理の負担が軽いということは実態としてございませんので、その点については、繰り返しになりますけれども、当事者系構造にすることの固有の問題とは考えておりません。それが1点ございます。
それから、当事者系構造にすることと口頭審理を採用するか書面審理を採用するかということは直接は結びつかないのではないかとは考えておりますけれども、口頭審理のあり方につきましては、2ページ目の●の3番目に書かせていただきましたように、柔軟な対応も望まれておりますので、その辺のところを検討する必要があろうかと考えております。

山下委員

今、竹田委員が質問されたのでちょっと思い出して……。第1回でしたか、竹田委員から、今検討されているような形で一本立てにした場合に裁判所はそれでもつのかというような質問をされたと思うのです。つまりやっていけるのかと。私もこれは実はイメージがわかないものですから、当面は特許庁でどのように行うべきかということが問題になっているものですから、そういうことだけに問題を絞って、特許庁の段階だけでみて一番いい格好はどういうものかということを考えながらやっていくべきだろうというのでみてきたのですけれども、最終的には裁判所で事件を担当している者からみると、そうなった場合に裁判所には一体どういう影響が及ぶだろうということは考えざるを得ないのです。
記憶に間違いがなければ、今のところ異議取り消しは大体年間4,000件ですか、無効審判が300件でしたか、そのくらいだったのが一本立てになった場合に新しい無効審判のもとで一体どのくらいになるだろう。それについて審決取消訴訟が提起されるのがどのくらいになるだろう。余り次元の高い話ではないかもわかりませんが、実際にやっている立場とすると関心があることなのです。
例えば半分になるとしても大体2,000件ぐらいになる。それに対して幾らぐらい訴訟が提起されるか。またこれも乱暴に半分だとしますと1,000件ぐらいになる。恐らく現在裁判所に来ている事件を合計すれば、査定系のものを含めて3倍ぐらいになる。これは仮定に仮定の上でのことです。特許庁での審理は極めて円滑にいったのが、裁判所に来た途端に今の何倍もかかるようになるというようなことも論理的にはあり得るだろう。ですから、最終的にどうするかということを考えるときには、本当に最終的な審理期間の短縮ということを考えなければいけないとしたならば、特許庁だけの段階のことではなくて裁判所に来た段階のことも考えておいていただきたいということは感じます。
特に第1回のときにたしか竹田委員がおっしゃったのは多分そういうことが頭にあってだろうと思いまして、そのときには私もどのように申し上げていいかわからなかったので黙っていたのですけれども、そのことは裁判所の人間としては事実として気になるところではありますね。

小林審判企画室長

これもまた前回の会合でも概略を答えさせていただいたと思うのですけれども、今、山下委員がおっしゃったような推定の数字にはならないだろうと考えております。その根拠をご説明いたしますと、これは特許分野でございますが、現在、東京高裁に対して特許庁の無効審判の審決、異議申し立ての取り消し決定に対して審決取消訴訟あるいは決定取消訴訟が出ている件数はどのくらいあるかと申しますと、異議で特許が取り消された場合に対して148件出ております。それから、無効審判の審決に対しては審決取消訴訟が141件ですので、合わせて289件ですから300件弱と考えてよろしいかと思います。
仮に当事者対立構造を採用しまして請求人と特許権者の双方が出訴ができるというふうにしますと、今の無効審判に対する審決取消訴訟は基本的に同じ形ですので、これは変わらないだろうと考えます。異議申し立てにおいて特許が取り消し決定されまして特許権者が不服を申し立てるという件数は、今148件ございますが、これも変わらないだろうと考えてよろしいかと思います。
そうしますと、当事者対立構造になって両当事者が出訴できることによって新たに出訴の機会が増えるといいますのは、現在の異議申し立てにおきまして特許が取り消されなかった場合に請求人の方がそれに不服を申し立てるというケースだろうと思います。
それに参考になります数字は、現在異議申し立てで特許が取り消されなかった場合に異議申立人がどういう行動をとっているかと申しますと、その異議申立人は別の無効審判を再度提起するという道があるわけですが、これを調べてみますと、実は、特許の維持の決定に対しまして1.6%程度でございます。具体的には約40件ぐらいという数字になります。
それでは、この40件がそのまま出訴件数の純増になるのかということになるわけですけれども、多分これには幾つかの緩和要因がございます。1つは、現在無効審判の請求が再度できるので、無効審判については40件出ているわけなのですが、これがそのまま高裁への出訴の道が開かれるということであるとすると、出訴をするハードルと無効審判を請求するハードルとの関係からいいますと、40件そのままではないのではないかというのが1点ございます。
もう1つは、今申し上げた考え方は現行の無効審判と異議申し立てがそのままの数、合計数が全く変わらないと考えた場合の数字でございまして、これも前回の会合のときに少しご説明をいたしましたが、暫定的なヒアリングではございますけれども、新しい審判制度になった場合には全体の審判請求件数は今よりも減るだろうと考えている企業が多いというようなことを考えますと、ここでも若干緩和要因があるということになります。それが第2点でございます。
第3点としては、これは今回会合ではなくて次回会合にご議論いただくことになると思うのですけれども、審決取消訴訟と訂正審判の関係で、訂正審判が審決取消訴訟係属中になされることによって、ある種無駄な出訴といいますか、無駄な審決取消訴訟が生じている部分が、現在ではございます。その件数をみてみますと、訂正審判が請求されて、その結果、ほぼ自動的に審決が取り消される出訴事件といいますのが約50件、今でもございます。これは次回会合でご議論いただくのだと思いますけれども、その50件の部分を何とかすべきではないかというのが第1回の会合のときに提示させていただいた問題意識でございまして、この辺のところを仮に次回会合で検討していただいてもう少し効率化を図ろうということになりますと、この約50件というのがゼロ件になるのか、制度の組み方によってどうなるのかはわかりませんが、その部分の改善が見込まれるのではないかということでございます。そういったことをいろいろ考えますと、今の出訴の件数よりも余りに大幅に出訴が増えるということはなかなか考えにくいのではないか、今のところはそのように見積もっております。

山下委員

今は結局、異議取り消しの場合には権利者しか提訴できませんね。今度無効審判一本になるということになると、とにかく文句をつけたい人はそれでいくしかないという形で最初からそちらに行く。やった以上はその勢いといいますか、ついでといいますか、裁判所まで行こうということになることもあり得るのではないだろうかと、当事者としては非常に心配しているのです。そのあたりのことも十分お考え願いたいと思います。きょうはご説明を伺いましたので、じっくり考えて、また思いついたことがあったら後ほど申し上げたいと思います。

丸島委員

ちょっとよろしいでしょうか、今の関連で。

大渕委員長

はい、どうぞ。

丸島委員

そういう懸念も多分にあるのではないかと私も思うのです。ただ、それはきょうご説明いただいた中の一事不再理、これがどう決まるかによって相当影響するのではないのかなと私は思うのです。今までの感覚で異議の申し立てと無効審判というのは、申し立てる方からするとちょっとウエートが違っていると思うのです。異議申し立ての方は、どちらかというと審査官の審査の援助みたいな気持ちでやっている場合が多い。自分の実質とはほとんど関係ない場合も多いと思うのです。その場合は、負けても別にそれ以上先へ行くことはない。ただ、多少そういう機運があったとしても、将来の問題だということで余り気にしていないわけです。
ところが、一事不再理が幅広くなったときに、それでやって失敗して、あとできないということになるとその先まで行こうかなという機運が出てくるのではないかと思うのです。それがないとすると、今の6カ月間の異議の問題と無効審判の問題は区別して申立人も考えているのではないかと思います。

小林審判企画室長

これも暫定的なヒアリングの結果なのですけれども、幾つかの企業に伺ったところでは、こういった形の制度になればある種本当にというのでしょうか、実際に困った事態になった場合に利用するという行動パターンに移るのではないかというようなご指摘もいただいておりますので、今の一事不再理の観点とか、検討事項になっております請求人適格でしょうか、「何人も」とするか、時期的なこととも絡み合わせてかもしれませんが、ある種の請求人適格を考えるかというふうなこととも関連して行動パターンはかなり変わってくるのではないかという気がしております。その点では現行の異議申し立ての件数をそのまま当てはめたような議論にはなりにくいのではないかという気がしております。

大渕委員長

それでは、時間の関係もございますので、今から1.2.3.と順次ご議論いただきますので、その中であわせてご質問もいただければと思います。
それでは、今ご質問が出た点はまさしくこの1.のところにかなり集中しておりましたが、「1.新制度の基本骨格」、この部分につきましてご意見をお願いいたします。

松尾委員

2ページのところで無効審判のやり方ですか、ここで原則口頭審理というのをどうしようかということが議論されております。確かにいかなる場合でも原則口頭審理だからという必要はないと思いますけれども、今でもいろいろな形の口頭審理が特許庁で行われていますので、これをよく検討する必要があると思います。
これは後から出てくる「審理充実のための要件」で「攻撃・防御の機会の最適化」というのがありますけれども、「時機に遅れた攻撃・防御」ということと関係しますが、裁判所にいますと、幾ら書面の交換が多いにしても、ちゃんと1カ月か1カ月半ぐらいに1回は口頭審理で、あるいは準備手続にしても顔を合わせますから、今どういう段階でどういうことが必要かというのはわかるんですね。特許庁の場合には、口頭審理した場合も1回ぐらいやりますね。だから、相手方が考えていることとか審判官が考えていることが、もう片方側に適切に伝わらないんですね。そういうわけで、今この証拠を出した方がいいのか、向こうが何考えているのかもわからない状況で適確に――「時機に遅れた」というのは時間の問題とその証拠が適切かどうかというのとあると思いますが、そういうことの判断が非常に難しいんですね。そういうわけで、この審理のやり方というのも少し議論をして充実した審理ができるようにしなければならないと思います。

小林審判企画室長

今ご指摘の点は、多分この新制度だけではなくて、現在行われている口頭審理についての運用の改善ということとも関係しているかと思いますので、若干ご説明いたしますと、確かに訴訟での審理のやり方と審判での審理のやり方はかなり違う面がございます。口頭審理といいますと「口頭」という語がついているので、ワーディングからすると裁判所における審理と似ている部分があるので若干の誤解を生じる部分があるのかと思いますけれども、審判では弁論主義を採用しておりませんので、当然のことながら口頭弁論という概念はございません。したがいまして、準備手続という概念もまた無いというのが審判でございます。したがいまして、審判の方では口頭審理をするか書面審理をするかという、まさに審理の方式の区分けしかございません。そういう関係から書面審理でやっていることをある種そのまま口頭審理で口頭の場で行うと考えている部分がございます。したがいまして、例えば訴訟で行われるような準備手続を何回か経て、相手方のいうことも、当然のことながら裁判官の心証もその中でわかってきて、さらに最後に口頭弁論がある。そのような審理の進め方はもともと採用していないという部分がございます。
ただ、ご指摘のとおり、ある程度の心証がわかった方が迅速な解決に結びつくということもあろうかと思いますし、訴訟ではない、審判における口頭審理のやり方がどういうものが一番適切なのか、合理的なのかというのもまたいろいろあると思います。その辺のところは現在の運用を考える上でも重要と思っておりますので、実は現在検討作業を進めているところでございます。

松尾委員

追加です。審判官が何考えているかという心証というよりも、無効審判ですと当事者の争いになりますが、相手の考えていることと、今度は審決が出てから、ええっとお互いにびっくりするというようなこともありますので、当事者の意見が適切にかみ合っているかどうかというのも非常に重要なのです。そういうところがきちんと来て、それで適切な証拠があり理由がなければ当事者は納得がいかない。納得いかないとちょっと常識のある裁判官にというようなことになりかねませんので、そこら辺考えていただきたいと思います。

竹田委員

松尾委員がいわれたような審理の充実という要請があることはもちろん重々理解しますが、ここで請求人は何人も請求を可とし、当事者系構造をとり、審理を充実したものとし、かつ最初の事件において適切な理由・証拠はできるだけ出し尽くすことを保障するという制度をとっていった場合に、一体審判というのはどうなっていくかということを考える必要があると思うのです。当然のことにそれだけ審判体に対する負担は増大しますし、審理期間は長引くというのは目にみえていると思うのです。それで迅速な手続をどうするかというのは、ある程度、計画審理とか法律の規定以外のところで改善の余地があるということはわかりますけれども、それだけで果たして対応できるような状況になるかどうかということが非常に問題ではないかと思います。
今は審理期間12カ月を目標としています。必ずしも実際はそうはいかない事件は多々ありますし、ばらつきも審判体によってあると思うのです。特に主張の出し尽くしを保障する手続をとると、審理期間は相当長期にわたってくるということは目にみえていると思うのです。
これは裁判の方ですけれども、数日前の新聞でも司法制度改革本部の顧問会議で民事裁判は2年で判決までいこうと。そのくらい迅速な処理ということの要請は非常にあると思うのです。だから、その点のところとの兼ね合いで考えていく必要があります。私は根本的にはこの制度は特許庁による1度与えた特許権の見直しというふうに位置づけたいと思っているから、この流れとは私の考えは違うのですけれども、もしこういう考えをとってやっていくのだとすると、紛争の一回的解決とか迅速な審理と違うところにどんどん審判制度がいってしまうのではないかという懸念をもっていますので、その点は特にユーザーニーズからいってどうなのか。企業の方々もいらっしゃいますから、その点はたとえ審理が長くかかっても十分に1回の審理で主張を尽くし、特許庁の適切な判断を得ることの方が、より迅速な処理よりもこの際大事なのだというのがユーザーニーズだとすれば、それはそれでそういう方向で考えなくてはならないと思いますけれども、その点のところをぜひともご意見を伺いたいと思うのです。

丸島委員

今の点、私感じますのに、職権審理が並行されるという前提で物事を考えておるのですが、当事者系をとったとしても職権審理というのは相当ウエートをもつべきだろうと思っているのです。それを活用すれば、従来系、今の異議の申し立て等もそう変わらないで進行できるのではないかと思うのです。ですから、私の基本的にイメージしているのは、職権審理が前提にあって、当事者の主張もどんどんやる、攻撃・防御をそこでやらせる、それを職権審理と連動させながら進行させるというのは、そんなに審理も長くかからないで内容もよくわかるし、お互いのいいたいことが全部1回でいえるのではないかというような気がしているのですが、いかがなものでしょうか。

小林審判企画室長

多分、今の丸島委員の議論は、迅速性と適確性を両立させろ、紛争の一回的解決の観点も勘案すべしということかと思いますけれども、これはまさに第1回の会合のときに当方から提示させていただいたペーパーの中で、今の審判制度を取り巻く要請として3点あるということで、1つはもちろん迅速な審理、2点目は適確な審理、3点目は紛争の全体的な解決という視点も勘案すべしというふうなことを掲げさせていただきました。その折に、それら3つの観点はある種、別の観点からのことでございますので、局部的にみますと当然相反する状況になることもあり得るけれども、その3つの観点の一番適切なバランスを図っていくべきではないかというようなことを第1回目の会合のときのペーパーで提示させていただいて、ある種ご了解を得たと考えております。考え方としては、そのようなところを目指していくべきだと私どもは考えております。
ただ、適確にしようとしたから常に迅速性が損なわれるという点については、今の丸島委員のご指摘のように必ずしも二律背反ではないと考えております。そのバランスをとるためにいろいろな工夫が必要なのだろうと思います。例えば口頭審理につきましても、事案に応じてどのように適切に対応していったらいいのかを検討する必要があると書かせていただいたのはそういうことでございまして、口頭審理を利用した事案というのは、平均的な審理期間をみますと、確かに書面審理よりもかなり迅速にできております。これは今の実態でございます。
もちろん、他方、口頭審理をやるからにはそれなりに当事者の方も特許庁の方も準備が必要だという部分がございますので、審理負担ももちろん勘案しなければならないわけでございます。ただ、全件について口頭審理をするというわけでもございませんから、あるいはまたそれが適切だというわけでもございませんので、その辺のところは口頭審理をした方がより合理的に速く、かつ負担もなく解決するものがあれば、それはそのような形にしていくということが考えられると思います。
それから、先ほど竹田先生がご指摘になりました理由・証拠の追加というのは今回議論させていただきますので、結論先取りということではないかもしれませんけれども、平成10年の改正については、あれはあれなりに基本的な考え方は正しいという評価をしておりまして、それを前提とした上でどこまで改善を図るべきかというところで、余りに何回も理由・証拠の追加ができるようになると平成10年以前の状態に逆戻りしてしまうわけですから迅速性ということで問題が出てくるのだろうと思いますが、その辺のところのバランスを検討していけばいいのかなと考えております。

丸島委員

私のイメージしている職権審理を当事者系に入れるという意味は、松尾先生がおっしゃったように、だれが何を考えているかということがわかるのが一番いいと思うのです。私が実務をやっていたときに審査官面接をしても、こうだということをいっていただけないことが一番時間がかかることだと思うのです。これがいえないのか。ドイツの審査官みたいにちゃんといってくれるとすごく効率がいいんですね。ですから、私のイメージしているのは、職権というのは、論争している内容について審判官としての考えを示しそれをまた当事者に議論させるというのが一番良いかなと思っているのです。ですから、そういうことが仕組み上いえないのかどうかというのが一番大きいのかなと思うのです。ある方にいうと「法律的にそんなことはできません」とおっしゃった方もいるのですけれども、そうかな、ほかの国の審査官はみんなサゼスチョンしてくれるのにという気がするのです。それをむしろ積極的に入れてくれれば非常に速くなるのではないかという気がするのですけれども、いかがでしょうか。

小林審判企画室長

法律的にそういうことをすることが禁じられているということはないと理解しています。事実、今おっしゃったのは審査段階のことだと思いますけれども、審査段階のところでまずご説明しますと、今、面接というのは求められればー出願について1回以上は必ず受けることになっておりますし、その中で補正案のやりとりもやっておりますし、そのときに審査官からの示唆をすることも運用上――ガイドラインにも書いてあるのですが、当然認められております。これは拒絶査定不服審判におきましても、基本的に同じでございます。
ただ、無効審判及び異議申し立てになりますと、特許になった後の話ですし、とりわけ無効審判の場合には特許権者だけではなく請求人の方もいるものですから、そこであまり審判官の方から職権色を出して示唆をするのはいかがなものかという考え方をとっている審判官もいるのも事実でございます。
ただ、他方でかなり強く審理指揮の発動をする実務もありまして、それはそれで実はそこまでする必要はないのではないかという反省といいますか、ご指摘もある部分でございますので、その辺のところのうまいバランスを考えていきたいと思います。

伊藤委員

審理の方式のことですけれども、訴訟の場合にはご承知のような憲法上の要請などもあって現在のような構造になっているわけですけれども、こちらの方は私は基本的には原則がどうかとかいうことはあえて決める必要もないと思うのです。審判の主体が最も適切な審理の方式を選ぶということで足りると思うのです。ただ、選ぶときについて何の手続的規律を設けなくていいかということになりますが、それは別の方面から、例えば後から出てまいりますが、当事者の攻撃・防御の提出について適切な機会を保障しなければいけないとか、手続の迅速な遂行に努めなければいけないとか、そちらの方からの規律を設けておけば、その規律に即した形で、必要であれば事件の特性、当事者の特性に応じてしかるべき審理の方式を組み合わせて採用すればいいと思いますので、あえて原則口頭か、あるいは書面かというようなことまでがっちり決めておく必要はこの場合にはないのではないか。以上でございます。

秋元委員

皆さんのご意見にほぼ私も賛成でございまして、特に先ほどいわれたようにスピード、適確性、一回的解決、これは第1回のときにもお話ししましたが、多少温度差があるにせよ、すなわち、産業によって若干順位は変わるにしても、この3つのバランスでやるということは当然必要だと思います。
もう1つ、松尾委員ですか、審理の充実、これも当然でございますし、丸島委員がいわれた、当事者としては充実とともに中身がどうなっているかということもぜひ知りたい。その上で審理の方法にこだわるよりも、むしろ充実という意味に重点を置いていただきたい。
さらに、もう1つつけ加えさせていただきますと、企業としてはこれは戦いであり、生きるか死ぬかということでございますから、手軽な異議申し立て制度がなくなったら件数は減るでしょうけれども、そこで本当に争わなければいけないということになれば、新しい無効審判の制度になろうと、最終的に訴訟にもっていくことになろうと、企業としては必要なわけですから回数を減らすというような意味で制度をお考えいただくのではなくて、回数がふえるのは産業界としてはそれだけ必要なわけですからそれに対応した制度にしていかなければいけないと思います。むだなことはしない。要するに透明性をよくする、あるいは充実して1回で済ませる、そういう方法でぜひ現実に即した制度を考えていただきたいので、回数がふえるからどうのこうのという意味での議論というのは、私、産業界としては、回数がふえようとふえまいと生きるか死ぬかの戦いであると位置づけております。

小林審判企画室長

攻撃・防御の回数ということですね。

秋元委員

はい。それは裁判に行くことも同じだと思います。

大渕委員長

時間の関係もございますので、それでは2.の「審理充実のための要件」に移ってまいりたいと思いますが、ご意見をお願いいたします。

牧野委員

先ほどから出ておりますけれども、充実した審理をして適確な判断をするということが、訴訟も含めた全体としての迅速性に資することだろうと思います。そういう意味では、余り細切れ的な無効審判の請求を何回も繰り返すような要因はなるべくとった方がいいだろう。ただ、無制限に何でも攻撃・防御方法について主張を許すということになりますとむだなことだろう。恐らく後で重要な証拠が出るというような場合を除けば、審判請求のときには請求人としてはどういう無効理由があるかというのはかなり調べて起こすわけですから、追加するにしても補充証拠、あるいは見方を変えてこの証拠を1つつけ加えれば従前の、例えば遂行性について、より適確な主張ができる、そういう場合だろうという気がするのです。そういう範囲での攻撃・防御方法の追加がある程度柔軟にできるような形の制度の方がいいだろうと思っております。
そういうことを前提にして、先ほど来、丸島委員もおっしゃっていましたように、そうやって当事者が出したものを審判体が真剣にみておりますと、ここのところはもう少し何か主張が足りないんじゃないのとか、自分の方でこういう証拠があるんだけれども、こういう公知文献があるんだけれども、それはこれに使えないかということが自然に浮かんできて、それを当事者双方に示して当事者の意見を聞くということで、当事者が全然予想していない無効理由通知が出るというのは非常に不思議な感じがするのです。むしろそれならそういうことがあるんだろうということを両当事者に示して、そこで主張を尽くさせた方がいいのではないか。そういうことで、この「審判請求人による理由及び証拠の追加」もある程度認める方がいいだろうと。ただ、無制限はいけない。ある程度常識的なことです。以上です。

大渕委員長

ほかにどなたかございませんか。――どうぞ。

斎藤委員

9ページの真ん中のB-1からB-3の採用と審判合議体の裁量による採否の決定ですけれども、先ほど牧野委員がおっしゃられたことと関連しますが、当事者にとって全く不意打ち的に別の観点が出てくるというのは、行政決定として裁量だといわれても望ましくない場面があります。その場合にはなぜこういう観点をとりあげたのかという理由を十分に提示することが必要ではないかと思われます。裁量権の行使に当たっても当事者に対して理由をできるだけ提示するというのは最近の行政手続の方向だと思います。

丸島委員

私も今の牧野先生のご意見、全く賛成なのです。攻撃・防御は最初から目的、方向は大体決まっていると思うのです。それを十分に攻撃・防御できるというのが一番大事だと思うのです。ですから、攻撃されたところは訂正したい、訂正したものにもう一回意見があればいうというのをやらせていただくというのが一番大事かなと私は思います。それ以外の新規の理由を後から追加するというのはほとんどないのではないかと思うのです。
9ページの真ん中に書いてありますが、一番大事なのは、当初わからなくて後からいい証拠が出た場合、これは何か救済していただきたいという気持ちがあるのです。これは現実にもこういう経験をしたことがありまして、先ほど秋元委員もいっていたように、企業は真剣ですから、審判やっている最中でも先行技術を一生懸命探していますから、そういうときに後からすごくいいのが出てきたというようなときもありますね。そういう意味で中段の記載は非常に大事なことだなと。これは審判合議体が取り上げてくれれば心配ないのですけれども、そんな感じをもっております。

松尾委員

今のところですが、私もそう思いますね。調べていると何かのところでいいところにつくって、そこでぱっといいのが出てくる。11ページのところに「諸外国の状況」ということでアメリカの例が出ておりますが、「新たに発見した先行技術に基づく主張は可能であるものの、その範囲は最初の再審査の時点で入手可能でなかったものに限定される」と。こういうことも考えて、「時機に遅れた攻撃・防御」というような言葉は民事訴訟法の中ではそれなりの歴史がありますけれども、特許法の中では余りないので、よその言葉を使わないで、ここで十分考えたもので整理していただきたいと思います。

佐藤委員

基本的に必要な措置を講じた上で、理由・証拠の追加・訂正の機会をふやすということは、審理充実とむだな審判請求を避けるという意味で大変結構だと思っています。
その中で、先ほど来議論されています審理を充実させることが紛争解決の道であるという観点からみますと、攻撃・防御が適切に尽くされるという形で証拠をどこまで追加を認めるか、訂正を認めるかということになろうかと思います。さらに加えて弁理士会の方では、訂正請求についてEPOのような予備的請求を認めてもらえないだろうかという議論が出ております。オール・オア・ナッシングで1つしか訂正の判断を求められないというのは権利者にとって非常に酷であると。確かに予備的請求という形になると争点がふえるわけで、審判合議体の負担はかかるかと思うのですが、先ほど来出ていますように、特許権者としては生きるか死ぬかの議論でございますので、その辺を考慮して予備的請求のような形の訂正を認められるような仕組みによって権利者側の十分な防御ができるような方向は考えられないだろうかということをお伺いしたいと思います。

小林審判企画室長

予備的請求というのは、私の理解によりますと、もともとはヨーロッパでドイツの連邦特許裁判所などが採用している考え方で、それがEPOの審判にもやはり同じように採用されているものだろうと思います。他方、例えばアメリカのように必ずしも予備的請求の制度をとっていない国もありまして、審理対象を1つに決めろという立場の制度を採用している国もまた多々あるのかなと感じています。
日本の場合には、予備的請求の制度は確かにございません。予備的請求制度について必要性を指摘する声が前からあるというのは存じ上げているのです。ただ、賛否両論がある制度だと考えていまして、予備的請求で別の請求――この場合ですと別のクレームのセットということになるのだと思いますが――を認めるということになると、当然審理対象が増加するということになるわけでして、審理期間の遅延というところにつながりかねないということが反対論の主なものだと考えております。
今の審判の実情をちょっとご説明しますと、拒絶査定不服審判の場合には、これは出願が特許になるか拒絶になるかということでございますが、拒絶査定不服審判の場合には、1つのクレームの請求項でも拒絶理由があったり、あるいはただ1つでも拒絶理由があった場合には、すなわち、ただ1つのクレームについて1つの拒絶理由さえあれば出願全体が拒絶されるという考え方がとられていまして、これは判決でも是認された実務になっております。
他方、異議申し立て、あるいは無効審判のように特許付与後の審判があるわけですが、そちらの方では異議申立人ないしは無効審判請求人から申し立てられた請求項、―クレーム全部について、申し立てられた理由すべてについて、すべての争点にわたって、あるいはすべての証拠にわたって判断を示しております。ですから、拒絶査定不服審判の方の審理範囲あるいは審決書の内容と無効審判ないしは異議申し立ての方の審理の範囲あるいは審決書、―決定書の内容というのはかなり違う状況になっています。
したがいまして、今でも拒絶査定不服審判に比べまして、異議申し立て、あるいは無効審判の方は審理の判断対象が非常に多いような形になっておりまして、これが負担が重い一つの理由になっております。審理期間についても、無効審判がかつて非常に長い時間かかっていたというのも、その拒絶査定不服審判と無効審判の違いのような部分に起因する部分もございます。
こういう状況で、仮に無効審判あるいは異議申し立てに予備的請求制度を導入したとしますと、結局、申し立てられた請求項について全部判断をしているのに加えまして、2セット目、3セット目の請求項についても同様に、すべての無効理由・証拠にわたって審理をするということになりますので、これは当事者にとっての負担であると同時に審理をしている審判官の方でもかなりの負担になるのかなという気がしていまして、その点で審理期間が遅延しかねないという問題意識は非常に強くもっています。そういった問題があるものですから、昔から予備的請求制度というのは、とりわけ弁理士会からも何回か今までもご指摘を受けているかと思うのですけれども、なかなか導入に踏み切れないという状況がございます。
ただ、そういうニーズも確かにあることは理解できますので、今どのようにやっているかといいますと、現行運用では、例えば口頭審理を行うときに、予備的請求ではないのですが、「訂正案」とか、拒絶査定不服審判の方ですと「補正案」といったドラフト的なものを当事者に出していただいて、無効審判の場合ですと相手方当事者がいますから、口頭審理の場で相手方当事者にもその「訂正案」を見ていただいて主張を尽くしていただくという形で、その結果合意できるような訂正の中身ができれば、それを正式の訂正請求書として出していただく。これは当然料金がかかるわけですが、正式なものとして料金を払っていただいた上で訂正請求を出していただくという運用をやっているところでございます。
また、今回の議論の中で一定条件下では理由・証拠の追加を認めるとなって、それに応じた形で一定限度内で再度の訂正請求が認められるということになりますと、その予備的請求のニーズもある程度はそこで救済できる部分もあるのではないかという考え方もございます。更には、審判外で当事者間でやりとりするのは特許庁の範疇外のことでございますから、その「訂正案」で当事者間で審判外でまずは議論していただくという道も――これは代理人の腕のみせどころなのかもしれませんが、そのようなこともあるのではないかという気もしています。いずれにしろ、現行の運用の中でうまく吸収できるもの、あるいは今度の改正の中で吸収できる部分があれば考えたいとは思います。

佐藤委員

次回以降に議論される審決取消訴訟と訂正請求の制限というところとこの問題は関連してくるかと思うのです。もし審決取消訴訟以降は訂正請求が認められない、そういう制限をしたとすれば審判段階でしか訂正できない、それが一発勝負だというようなことになると権利者としては大変しんどいなということもあるということで、次回以降の議論とも絡む話かなとは思っています。
あと、今お話があったように、運用なり何らかの形で円滑に進められるのであれば、それはそれで1つの方法かとは思いますけれども、ご検討いただければと思います。

大渕委員長

ほかにどなたかございませんか。

佐藤委員

別の観点で蒸し返し防止の方なのですが、先ほどのご説明のときに、12ページのA案とB案があって、A案に加えてB案というご説明であったかと思うのですが、そういうご趣旨なのでしょうか。

木村審議室長

はい。

佐藤委員

ということは、このペーパーは、基本的には一事不再理はこのまま残す、その上でさらに制限するのかどうかという議論をするということでしょうか。

木村審議室長

基本的には、現行の一事不再理のあり方そのものについてもいろいろなご議論があります。例えば下手な立証で負けてしまった場合、他人が同一の証拠で争えないというような議論もございますので、基本的にそういうことも含めてもちろんご議論はいただいても結構かと思うのですけれども、基本的に我々の案といたしましては、現在の規定を維持するということをまず原則に置いて、それに加えるということ。全体の中ではその議論を案としてはご提示させていただいているという理解でございます。

佐藤委員

それの関連でよろしいですか。

大渕委員長

はい、どうぞ。

佐藤委員

弁理士会の中の議論としては、一事不再理というのが第三者まで縛ってしまうということに対して非常に不満が出ておりまして、人が失敗したものまでなぜ自分が責任を負わなければいけないのだ、審理を十分に尽くして適切な権利保護を図るのであれば、やはり争うチャンスは平等にあるべきじゃないかという考え方があって、今の一事不再理というのはちょっと行き過ぎではないかという意見が多数出ています。
ただ、それだからといって全く蒸し返し防止を外してしまうというのは当然問題があるわけで、それを何とか当事者間の蒸し返し防止の枠で縛れないかという考えです。ですから、B案を単独みたいな形といいますか、逆にいうと同一事実及び同一証拠を当事者間では当然既判力で縛られてしまうのですけれども、それに加えてもうちょっと制限を加えるかどうかみたいな形の検討をしたらどうかという意見が一応出ていますので、ご紹介させていただきます。

小林審判企画室長

まさに12ページのAの黒い丸の2番目に書いてあるとおりなのですが、仮に現行の一事不再理の規定をなくして同一当事者だけを拘束するという考え方をとった場合には、ほかの人は当然のこととしても、同一当事者であっても――これは「何人も」というふうな請求人適格をするかどうかとも関係はしているわけですけれどもー、―第三者の名前で結局のところは事実上同じことが繰り返しで請求できてしまうのではないかという懸念もございまして、それが特許権者側からみた場合に本当に良いのかどうかという懸念も実はもっております。
もう一点、他人がまずい主張の仕方をして失敗したのになぜ無関係の私が再度の請求ができないのかという議論が当然あるわけですけれども、純粋な民事訴訟とは異なって、行政審判の場合は、―職権審理をやっているものですから、基本的には当事者の主張の上手下手にかかわらず職権で同じ結果が出るというのが無効審判の基本的な考え方だと考えております。もちろん最初の請求に参加していない以上、若干の不満感は当然あるのかもしれないのですが、基本的にはだれか別の人がまずい主張をしたからといって、本来無効になるべきものが有効審決という形で確定するという前提ではこの一事不再理の規定はできていないのではないかと考えています。

佐藤委員

それとの関連で請求人適格の話ですが、この審議会が立ち上がった段階では「何人も」という形で異議申し立ての性格を残しながら審判を一本化するという意見が弁理士会では多数だったのですが、この蒸し返し防止の問題が出てきて請求人適格とやはり絡む話だということをだんだん認識をして、そういう意味では「何人も」でいいんだろうか、むしろ今回の請求人適格で出ている③の6カ月は「何人も」で、それ以降は縛るというような形をどうだという意見が最近結構出てきております。蒸し返し防止の問題というのは請求人適格との絡みも当然あるわけで、それをセットで考えなければいけないのだと思っております。

丸島委員

私も前回申し上げたように、1ページの③が適当かな、一番いいんじゃないかなと思っているのです。
今の一事不再理の問題は、6カ月以内のものには余りきつくしないようにしていただきたい。そうすれば裁判所へ行くのも大分減るのではないかと思っております。ですから、6カ月間と6カ月後で区別した方が実際的かなという感じはしますけれども、いかがでしょうか。

斎藤委員

請求人適格に関連してですが、②にせよ③にせよ、法文上明記しないと、審判段階では運用で緩やかにしても、裁判所が法解釈でがらっとひっくり返すという可能性が、最近の行政法関係の最高裁の判例をみておりますとあり得ます。特に③の6カ月以内は何人でも請求可という場合、特許庁の運用で行ったとして、訴訟の段階へ上がってみたらそれは客観訴訟だから適格なしという判断が出ることもありますので、請求人にとっての予測可能性を考えると法文化が望ましいというファクターも押さえておいていただきたいと思います。

木村審議室長

その点も含めて検討させていただきます。

大渕委員長

ほかにどなたかございませんか。

伊藤委員

これは意見でなくて質問ですが、この理由・証拠の追加について、B-1ないしB-3という考え方がございますね。言葉や表現のことは別として、B-1ないしB-3が実質的にどのように違いが出てくるのか、またその違いが出てくる基本的な考え方といいますか、それは何なのかというのがどうももう1つまだわからないものですから、少しそのあたりを補充して説明していただけるとありがたいと思いますが、いかがでしょうか。

木村審議室長

先生ご指摘のとおり、最終的には審判合議体の裁量で認める認めないということを何らかの形で担保しているということにおいては、確かにB-1からB-3というのはさほど有意な差がないようにも思えるのですけれども、B-1につきましては「時機に遅れた」というところをかなり定性的な書きぶりにしておりまして、これは現行の民事訴訟法の規定を参考にした書きぶりになっている。ただし、その判断基準につきましてはやはり何らかのものがないと、裁判と審判、もちろん全く同一ではございませんので、ある意味では審判官の裁量で何もかも決められるという状況ではございませんので、そこは判断基準をクリアにするべきではないかというのがB-1でございます。
B-2につきましては回数――この回数の数え方にもいろいろな考え方があると思いますけれども、基本的には理由・証拠の提出、訂正請求、それぞれ現在は1回ずつ認められているということでございますので、それをそのまま維持するということですと、それは審判合議体の裁量で、あとは追加を認めるということになりますし、それを例えば2回ということにいたしますと、2回までは手続としては保障される。仮にそうだとすれば英国の考え方に比較的近いものになるのかなということでございます。
B-1とB-2というのは、いずれにしても時期的なものないしは回数ということで限定をかけておりまして、B-3が内容的な制限。先ほどからも委員の皆様方の中で議論が行われておりましたけれども、全く新規のものが出てくるというのはさほど例としてもない。通常は最初に決めた方向性を補強するための証拠が後ほど追加されるということがほとんどでございますので、そういうものに原則としては限定をしてしまおういう考え方がB-3でございます。
もちろんその下に、さらに後ほど提出された理由・証拠というのは、非常に強力な場合はそれを審判合議体が採否を決定するということになっておりますので、そういう意味でいうと、現在は非常に制限的で裁量の余地が働くところがほとんどないわけでございますけれども、裁量というものを最後に残しながら入り口のところをどう狭めるかという一種の工夫といいますか、それが3つの案になっているということでございます。

伊藤委員

そうすると、比喩的にいうとB-3というのが主張という意味でも訂正という意味でも最も厳格だということで、それに対してB-1というのは全く一般法理にゆだねてしまうわけだから、そういう意味では緩やかで、B-2というのがその中間的なところにある、規律としての厳格さという意味ではそういう整理になるのでしょうか。

木村審議室長

必ずしもB-1からB-3というのは1つだけに限定をしたいという趣旨でご提示しておるものではございません。例えば内容面の制限ということでB-3をとりながら、かつ回数の制限を加えるということももちろん可能だと思いますし、おっしゃるとおり、B-1というのが一般法理にゆだねるという意味で一番広いということはいえるのかもしれませんけれども、B-1、B-2とB-3というのは、いってみますと切り口が違うということで、それは両者組み合わせることも可能と考えております。

秋元委員

ちょっと教えていただきたいのですけれども、今、請求人の適格性の問題は③がいいだろうという意見に傾いておりますが、私はもともと利害関係があるんだから②がいいいじゃないかということを第1回目にいっております。、一方、諸外国の状況のところでドイツは、理由はかなり広く解釈されるけれども、同一人が同一の理由ではだめだと。しかしながら、「何人も」というのがあるので、再度の請求は可能である。また、アメリカの場合は、エストッペル条項が入ってきたり真の利害関係人を出さなければいかん。このように違うのですが、日本で例えば「具体的検討」のBのところで一定の枠をはめているわけですけれども、その辺の違いというのは現実に運用していった場合どのような違いが出てくるかというのは具体的にどのように予想したらよろしいのでしょうか。
例えばアメリカ式にいったら非常にクリアカットで私はいいのではないかと思うのですが、それをとらない、あるいはドイツ的な方法もとらない、日本的なものがこの中間に出てきている。その辺の違いと予測される状況についてご説明いただけたらと思うのです。

小林審判企画室長

ドイツ、アメリカにつきましては、詳細な運用まで完全に調べ上げているわけではないので、こういう制度を採用したときにどこまで実務上の影響があるのかまでは確定的なお答えはできないのですけれども、考え方としまして、12ページの一番下の●に①、②、③と書いてございます。Bの選択肢自体、その上の●に書いてございますように、余りに厳格な蒸し返し防止をした場合に別の弊害がございますから、必ずしも事務局としてB案を強力に提示しているわけではないのですけれども、その前提の上で●の一番下をみていただきますと、①、②、③とございまして、①の「無効理由の法条が同一である場合」というのは、外国制度でいきますとドイツの制度ということになると思います。これは何を意味するかというと、例えば特許性の観点でいいますと進歩性というのがございますが、発明の進歩性についてだれかが争って、ところが進歩性を欠くという、違反はないと判断されて特許無効の請求は成り立たないという審決が確定したという場合には、別の証拠であっても進歩性違反ということを再度蒸し返すことができなくなる。そういう意味をもちますので、非常に広い範囲で後の請求を禁止するということになります。それが①の意味でございます。もちろん、それがいいかどうかということはまた別でございます。
②で「無効理由を基礎付ける事実が同一の場合」と書いてございます。現在の一事不再理の規定では同一事実及び同一証拠となっておりまして、同一証拠の方が狭い概念でございますから、基本的には同一証拠の場合だけしか後の再度の請求を遮断していないのですけれども、仮に②のように「無効理由を基礎付ける事実が同一の場合」ということで、「及び同一証拠」というのを削ったような形を考えたとすると現行と何が違ってくるかといいますと、典型的には公知公用に基づく新規性ないしは進歩性の欠如というふうな無効理由が考えられると思っています。
どういうことかと申しますと、ある特定の日にこの発明については公然知られる状態になっていたとか公然用いられていたというふうなことを立証しようとする。それが「事実」ということだと思いますが、それに対して使える「証拠」というのは複数あり得る。ある特定の証人であったり、ある特定のカタログであったりということが考えられるわけですが、その場合にその「事実」を主張して、実はその主張が通らずに特許が有効だ、このように確定審決が出た場合には、その後、別の証人とか別のカタログといった別の証拠の形でも請求ができなくなるということで、多少今よりも遮断の範囲は広いのですけれども、公知公用に限られるのでさほどの違いはない。
片や、いわゆる刊行物公知といっていますけれども、刊行物に記載された発明である、あるいは刊行物に記載された発明から進歩性がないというふうなものですと、基本的には「事実」イコール「証拠」という形になって、先ほど申し上げた公知公用の場合とは少し違って、「証拠の幅」イコール「事実の幅」に近いので、その点では現行の一事不再理の「同一事実及び同一証拠」とほとんど変わりがないということだろうと思います。
③はアメリカのような形になるかと思うのですが、アメリカのエストッペルの考え方も賛否両論があると考えておりまして、今のアメリカの当事者系再審査が使われない理由の1つが、この余りに強力なエストッペルの制度があるがゆえに怖くて使えない。1回請求をして失敗した場合に、二度と同じ主張はおろか別の主張すらできなくなるかもしれない。また「主張できたであろう事実」というのは一体どういうことかというのは客観的にかなり決まりにくいと思いますので、そう考えますと非常にリスクが大き過ぎて当事者系再審査を使いにくいという声も実はアメリカの中ではあるようでして、それによりますと非常に強力な蒸し返し防止策ではあるのですが、その反面で弊害もありそうだ。実務的には、以上のような違いになってくるのだろうと思います。

松尾委員

ちょっと蒸し返し的ですけれども、私の読み方と先ほどのご説明と違っていたのでおやっと思ったのです。7ページ以下の「時機に遅れた理由・証拠の提出」のところですが、先ほどのご説明ですとB-1がある意味では一番広くて、B-2、B-3だと厳しくなるというようなところがございましたね。そうでもないですか。そうでなければいいのですが。
B-1というのはとにかく民訴の規定をもってきて、民訴でも余り使われてないでしょうということだから、ある意味では漠然としている。B-2のポイントというのは「回数を明示するとともに」、ここにあるのではないかと思ったのです。B-3というのも合議体の裁量に結果的にはなるのですが、ここには回数がなくて内容の方から判断していくというわけです。私は回数ではなくてぜひ内容の方からみていっていただきたいなと思っております。以上です。

木村審議室長

先ほどの点につきましては、必ずしも広い狭いということで申し上げているわけではございません。B-1というのは一般法理を使っているということを申し上げておるわけであります。ご指摘はよくわかります。

大渕委員長

B-2では、回数の数字のところが重要な意味を持っているように思われます。この数字のところで、最初の1回だけとすると、他のB―1,B-3とはあまり差がないことになりそうですが、2回(以上)にすると、最初の1回以外に、権利として追加等できるという点で、他のB-,B-3とは大きな違いが出てくるように思います。そういう意味では、B-2の中には、回数を1回にするか2回(以上)にするかで、非常に違った2つの可能性が含まれているように思います。

竹田委員

今のB-1からB-3のところに関係するのですが、9ページのところで「いずれを採用するにしても、後に提出された無効理由・証拠が強力なものである場合には」、これは法律事項としてどのように書くのか自体がよくわかりませんけれども、「審理の進捗状況、理由・証拠の提出の時期、後の再度の審判請求の可能性等を考慮して、審判合議体が採否を決定する」というのですね。ところが、一方で13ページのところでは職権探知主義は維持するといっているわけですね。そうすると職権探知主義との関係はどうなるのでしょうか。現行でさえ参考資料等として強力なものが出てくれば無効理由通知をとって職権主義でどんどんやれるのに、今度はこういうことがないと合議体が採用できないということになると、その意味で職権探知主義を制限することになるのかどうなのか、その辺のところがよくわからないのです。
要するに審決取消訴訟で審決の違法性が争われる場合には、実体的な違法と手続的な違法があるわけですけれども、こういう規定を設けると手続的違法の問題も当然生じてくることになりますよね。職権探知主義があるならばこの規定を設ける必要もないような気がするのですが、その点との関連はどう理解されているのかお聞きしたいと思います。

木村審議室長

基本的に現在、上申書を使って現実に無効理由通知を打って、それで対応しているという実務がございます。ただ、それ自身、当事者の方からしますと必ずしも自分が上申書に書いた理由とは同一でないような使われ方をするということもあるようです。それはいずれにしても現在の理由・証拠の追加が厳格に過ぎるのではないかということが1つの原因になっているということだと思いますので、そこを実務的には緩めていって、より当事者が審理を尽くすというような形態を採用していくというのがいいのではないかという考え方です。それは職権探知主義をとることと二律背反と申しますか、必ずしもそういうことになるわけではないのではないかなと。だから、完全に当事者主義を推し進めて、確かにそういう要素がふえるとは思いますけれども、だからといって必ずしも職権探知主義を放棄する必要まではないのではないか。それは特許というのが対世効をもつ一種公的な側面をもった私権であるということと、特許庁が専門的な能力をもっているということから職権探知主義を全体として放棄する必要はないのではないかという考え方なのです。

竹田委員

そうするとこの9ページの審理の進捗状況のところからいえば、書面審理にしても口頭審理にしても、審理終結に近いような状態になっている。そうすると、今の説明ですと、無効理由としては強力なものであっても採用できない、だけど職権主義を働かせて特許無効理由通知を別に出すというようなことはできるということになるのですか。

小林審判企画室長

職権探知の方も「できる規定」ですので、職権探知を義務づけているわけではなくて、職権探知の裁量を働かせることができるようになっている。片や9ページの方に書かれていることも新たな理由・証拠の採否についての裁量ということですので、その限りにおいては両者が相矛盾することはないのではないかと考えます。
ただ、現実にその証拠が出てきたときにどこまで採用した方がいいのかというのはまた別の論点だと考えていまして、そのときに必ず採用するという考え方をとった場合には、後出しというのがどのくらいあるかは別としても、故意に後出しをするということを助長しかねないのではないかという問題意識で書いたものでございます。

大渕委員長

ほかにどなたかございませんでしょうか。

中山部会長

私が聞くのもなんですけれども、平成10年より前にはいろいろ弊害があったので狭くしましたが、今度広くするに当たっては平成10年に戻っちゃいかんということで苦労しているわけです。平成10年にけしからぬ新しい理由・証拠の提出請求があったはずですが、それは一体どういうたぐいか。といいますのは、実務の方の話を聞いていると、ほとんどが補充的なものだと。多分それはけしからぬものじゃないということだと思うのですけれども、一体どういうものが平成10年より前には多かったのでしょうか。

小林審判企画室長

内容的にみれば、当然のことながら審判請求人は特許について無効にすべく理由・証拠を探すわけでしょうから、その観点からいけば適切でない事例はないということになるのかもしれないのですが、他方、審理をしている観点からいいますと、何回目かの攻撃・防御の時機に遅れて理由とか証拠が提出されるということはあったというのが当時の事情だろうと思います。その件数がどのくらいあったかというのは、すみませんが、手元にございません。

中山部会長

弊害が何かによって回数制限した方が効果的なのか、あるいは争点で制限した方が効果的なのか、平成10年の反省をもとに決まってくるのではないかという気がしたものですからお伺いしたのです。

小林審判企画室長

その観点を踏まえて検討したいと思います。

大渕委員長

今いわれたのは、内容的に適切でないものを出してきているというよりは時期的に遅いので弊害があった、そちらの方にアクセントがあるということですか。

小林審判企画室長

そうですね。

竹田委員

今の点について、私の理解では、それは実際的にどういう弊害があるかというような観点は余りみていないで、できるだけ1つの無効審判請求については一回的な主張だけで早期に審理を進めて結論を出そうと、その要請が絶対的な要請だというところから来たのだろうと思います。だから、それがユーザーニーズだったのだと思っていましたから、先ほどから検討されている方向でやっていく場合に、本当はそちらの方がユーザーニーズだったので、あのときの改正の方はニーズにこたえない改正をしたのだというなら、それはそれで軌道修正なのかもしれませんけれども、基本的にはそういうことなのではないかと思っています。

小林審判企画室長

もちろん現行のニーズというのは、この会議とか、まさに利用されているユーザーの方々から意見を聞いていきたいと思っています。

大渕委員長

それでは、時間の関係もございますので、このペーパーでは14ページ以下ですが、「3.審判制度における審理の適確生確保の方策」、この点につきましてご意見をお願いいたします。

松尾委員

何となく法律専門家といったのは私の声ではないかなと思いますので発言しておきますが、私が一番言いたかったのは、法律専門家という名前をもつかどうかは別として、論理的に審決を書いていただきたい。というのは、私は審決取消訴訟を幾つもやっておりますと、例えば周知技術といいながら、現実に採用されてなくて、しかも候補の中にこれはよくないと書いてあるようなものを1件だけ出して周知技術だとしてみたり、組み合わせがいかにも離れ過ぎていて、私どもは審決取り消しは弁護士と弁理士で組んでやっているのですけれども、論理的にどうしてつながるんだろう、おかしいなというようなことで、依頼者も頭で納得いかないから、どうしてもこの結論は納得いかないから裁判所にもっていこうと、裁判官はもう少し常識があるのではなかろうかというようなことにいつもなるのです。技術に詳しい方はそこのところは非常に詳しいのですが、全体に記載された審決の論理の展開がちょっと乏しかったりする。そういうところを考えたわけなので、優秀な弁理士さんでももちろんいいですし、審判官の中にも優秀な方はたくさんいらっしゃると思いまして、法律家というその名前には私はこだわる必要はないと思いますので、お願いいたします。

丸島委員

私もなぜこんなのが必要なのかなという感じがするのです。実際のことはよく聞いていてわかるのですが、審決の文章が悪いために裁判所でひっくり返ってきたというようなことをよく聞いているのです。確かに法律家の方は文章だけで判断するので、文章の表現が非常に難しいのだろうという気がするのです。逆に裁判所で、文章が多少下手でも中身からみて無効にしていいんじゃないかというところは判断できないのでしょうか。
余りにも表現だけの争いでやっているからおかしさが出るのではないかなという感じも私はするのです。だから、その辺は多少大目にみてというのはできないのでしょうか。

小林審判企画室長

審判の観点からのみ答えさせていただきたいのですけれども、松尾先生がご指摘になったような問題については、我々としても常に認識を新たにして取り組む必要があるとは考えております。ただ、言訳ではないのですが、マグニチュードからみていただきますと、特許分野だけですけれども、今、毎年1万2,000件以上の審決書と決定書が出ております。その中で毎年出訴されますのは400件強ということですから、1万2,000件審判で判断してそのうち400件だけが出訴される。その中には、今松尾先生がご指摘されたような事情ではない事情で出訴されているのも当然あるわけでございます。また、特許庁の審決について高裁で支持していただける率というのは、ありがたいことに最近大分向上しておりまして、99年では4法全体で34%ほど審決が取り消されておりましたが、今年の上四半期、―――一番直近の数字でございますが--は、24%ぐらいに減少しておりまして、10%ポイントぐらい改善しております。このように2年ちょっとの間でかなり改善しておりますので、少しずつではあるかもしれませんが、改善の効果が出てきているのかなという気がしています。したがいまして、ほとんどのケースについては大きな問題がないようなケースでございます。ただ、他方で不適切な事例があるのも確かに事実だろうと思いますので、その一部のケースをどのように改善していったらいいのかという工夫が要ると考えております。
特許分野の審判では約90合議体があるのですけれども、法律家という名前かどうかは別としても、90合議体すべてにそうした者を張りつけて一部の事例に対処するというのもまた非現実的な部分もございますので、何らかの運用の方策ないしは制度化する必要があるかもしれませんが、いずれにしましてもその一部の事例についてどう効率的に不適切事例をなくしていけるのかというのは、我々としてもいろいろ検討したいと考えています。

松尾委員

一番目立つのは、証人調べがあるときと、それから証拠がたくさんあって陳述書のような証拠がいろいろ出ているときなので、そういうところの審理は単なる技術とちょっと違いますので、そこら辺は工夫していただいた方がいいと思います。

丸島委員

先ほど申し上げた点に関連するのですが、職権審理が働く場面というのは代理人のよしあしで結果が変わるというのはない方がいいと基本的に思っているのです。というのは、代理人がうまいから通ったとか下手だからだめだとかというのは本来あってはならないことだと思っているのです、事実は1つなのですから。その事実が人によって変わるというのはおかしいと私は思っているのです。
ところが、裁判所へ行くと今度は逆になって、代理人の腕で相当結果が変わる。事実と違うことも起こるのではないか。その1つが審決の表現だけで勝負が決まるということだと思うのです。そこで、裁判所へ行ったときも審決の表現だけではなくて、そこで中身を議論するような仕組みに連動できないのだろうか。そうすれば一々戻ってきて再度やらなくたって済むのではないかなという感じもするのですけれども、いかがなのでしょうか。難しいのでしょうか。

松尾委員

一言だけいわせてください。私たち代理人は、勝つべき事件で負けてはいけない、負けるべき事件で勝ってはいけないと思っておりますので、よろしくお願いします。

山下委員

その点は裁判所も同じでして、勝つべき当事者を負かしてはいけない、負けるべき当事者を勝たせてはいけないというのです。
それから、先ほど裁判所へ来たら何か言葉だけでやっているかのように、少なくともそういうつもりではありませんでして、審決が何をいいたいのかということは、我々に専門的知識があるということを前提にされていない、素人である裁判官が、調査官という専門家の補助を得ながらできる範囲内で実態をみて、それで説明できる範囲内では審決の本当にいいたいことを把握して、それに基づいて結論を出すという心構えで大抵の人がやっていると思います。
ただ、どうしても審判官が自分でやられる場合とは違ってくると思います。裁判所というのはそういった点では基本的に専門的な力がないということを前提にしていますので、入っていける範囲に限度があるということは、今の制度のもとではやむを得ないのではないかと思います。明らかに表現がまずいのであって、審決は本当はこういうことをいいたいんだろうということを我々が自信をもっていえるときには、そのことを前提にして判決をしているつもりです。

丸島委員

大変認識が間違っておりまして、失礼しました。おわび申し上げます。

大渕委員長

ほかに3.につきましてどなたかご意見ございませんか。

作田委員

最後に一言だけお願いをしておきたいのですけれども、基本骨格案で1から4まで4つの事項について書いてあります。先ほど若干の議論があったかと思いますが、きょうの議論はどちらかというと審理の充実に向けられていたと思うのですが、その裏腹として審理期間をきちっと認識する必要があるのかなと思います。
審理期間をいついつから何年以内ということは大変難しい面もあろうかと思いますけれども、審理の計画とか案件ごとの――両当事者対立構造ということであれば審判長さんと両当事者との間で審理スケジュールの合意をするとか、さっきの請求理由ないしは証拠の追加につきましても、その辺で合意の上で最終の審決をにらみながら計画を立てるとか、そういったことも、せっかくこういう充実した新審判制度を考える上でぜひ基本骨子案としてご検討いただければと思います。

小林審判企画室長

非常に重要な観点だと思っています。今回の直接の議論対象のペーパーに入れてございませんが、「別添」の中で今後やっていくべきことということで最初に「計画審理の推進」というのを挙げさせていただきました。実は昨年の7月からトライアルベースで、昨年7月以降処理する無効審判について開始をさせていただいております。今その試行結果をレビューしている最中でございまして、このレビュー結果を踏まえて、どういうやり方が一番いいのかというのを検討し直しながら、こういったことも含めて検討していきたいと考えています。

大渕委員長

ほかに全体にわたって何かございましたら。
それでは、本日の小委員会はこれぐらいにしたいと思いますが、事務連絡をお願いいたします。

木村審議室長

次回の小委員会でございますけれども、9月9日月曜日午後3時から予定をさせていただいておりますので、委員の先生方、よろしくお願い申し上げます。

大渕委員長

それでは、以上をもちまして第3回紛争処理小委員会を閉会させていただきます。本日も長時間のご審議ありがとうございました。

-了-

[更新日 2002年10月29日]

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