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特許庁総務部総務課
制度改正審議室
大渕小委員長 |
それでは、まだおみえでない方もおられるようですが、定刻となりましたので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会の第3回紛争処理委員会を開催したいと思います。 |
木村審議室長 |
それでは、ご説明申し上げます。本日の配付資料でございますけれども、1点のみでございまして、お手元にございますでしょうか。「特許の有効性に関する審判等の在り方~基本骨格と審理の充実~」という紙に沿いまして、簡潔にご説明したいと思います。 |
大渕小委員長 |
詳細なご説明をありがとうございました。 |
竹田委員 |
1点だけご質問します。 |
小林審判企画室長 |
この議論に関連しまして、前回の審議会でもご指摘をいただいたところかと思いますけれども、例えば当事者系構造の審判での審理を採用するときに審理負担をどう考えるのかという議論が前回もあったかと思います。その点については前回もご説明させていただいたのですけれども、必ずしも査定系構造の審理の方が審理の負担が軽いということは実態としてございませんので、その点については、繰り返しになりますけれども、当事者系構造にすることの固有の問題とは考えておりません。それが1点ございます。 |
山下委員 |
今、竹田委員が質問されたのでちょっと思い出して……。第1回でしたか、竹田委員から、今検討されているような形で一本立てにした場合に裁判所はそれでもつのかというような質問をされたと思うのです。つまりやっていけるのかと。私もこれは実はイメージがわかないものですから、当面は特許庁でどのように行うべきかということが問題になっているものですから、そういうことだけに問題を絞って、特許庁の段階だけでみて一番いい格好はどういうものかということを考えながらやっていくべきだろうというのでみてきたのですけれども、最終的には裁判所で事件を担当している者からみると、そうなった場合に裁判所には一体どういう影響が及ぶだろうということは考えざるを得ないのです。 |
小林審判企画室長 |
これもまた前回の会合でも概略を答えさせていただいたと思うのですけれども、今、山下委員がおっしゃったような推定の数字にはならないだろうと考えております。その根拠をご説明いたしますと、これは特許分野でございますが、現在、東京高裁に対して特許庁の無効審判の審決、異議申し立ての取り消し決定に対して審決取消訴訟あるいは決定取消訴訟が出ている件数はどのくらいあるかと申しますと、異議で特許が取り消された場合に対して148件出ております。それから、無効審判の審決に対しては審決取消訴訟が141件ですので、合わせて289件ですから300件弱と考えてよろしいかと思います。 |
山下委員 |
今は結局、異議取り消しの場合には権利者しか提訴できませんね。今度無効審判一本になるということになると、とにかく文句をつけたい人はそれでいくしかないという形で最初からそちらに行く。やった以上はその勢いといいますか、ついでといいますか、裁判所まで行こうということになることもあり得るのではないだろうかと、当事者としては非常に心配しているのです。そのあたりのことも十分お考え願いたいと思います。きょうはご説明を伺いましたので、じっくり考えて、また思いついたことがあったら後ほど申し上げたいと思います。 |
丸島委員 |
ちょっとよろしいでしょうか、今の関連で。 |
大渕委員長 |
はい、どうぞ。 |
丸島委員 |
そういう懸念も多分にあるのではないかと私も思うのです。ただ、それはきょうご説明いただいた中の一事不再理、これがどう決まるかによって相当影響するのではないのかなと私は思うのです。今までの感覚で異議の申し立てと無効審判というのは、申し立てる方からするとちょっとウエートが違っていると思うのです。異議申し立ての方は、どちらかというと審査官の審査の援助みたいな気持ちでやっている場合が多い。自分の実質とはほとんど関係ない場合も多いと思うのです。その場合は、負けても別にそれ以上先へ行くことはない。ただ、多少そういう機運があったとしても、将来の問題だということで余り気にしていないわけです。 |
小林審判企画室長 |
これも暫定的なヒアリングの結果なのですけれども、幾つかの企業に伺ったところでは、こういった形の制度になればある種本当にというのでしょうか、実際に困った事態になった場合に利用するという行動パターンに移るのではないかというようなご指摘もいただいておりますので、今の一事不再理の観点とか、検討事項になっております請求人適格でしょうか、「何人も」とするか、時期的なこととも絡み合わせてかもしれませんが、ある種の請求人適格を考えるかというふうなこととも関連して行動パターンはかなり変わってくるのではないかという気がしております。その点では現行の異議申し立ての件数をそのまま当てはめたような議論にはなりにくいのではないかという気がしております。 |
大渕委員長 |
それでは、時間の関係もございますので、今から1.2.3.と順次ご議論いただきますので、その中であわせてご質問もいただければと思います。 |
松尾委員 |
2ページのところで無効審判のやり方ですか、ここで原則口頭審理というのをどうしようかということが議論されております。確かにいかなる場合でも原則口頭審理だからという必要はないと思いますけれども、今でもいろいろな形の口頭審理が特許庁で行われていますので、これをよく検討する必要があると思います。 |
小林審判企画室長 |
今ご指摘の点は、多分この新制度だけではなくて、現在行われている口頭審理についての運用の改善ということとも関係しているかと思いますので、若干ご説明いたしますと、確かに訴訟での審理のやり方と審判での審理のやり方はかなり違う面がございます。口頭審理といいますと「口頭」という語がついているので、ワーディングからすると裁判所における審理と似ている部分があるので若干の誤解を生じる部分があるのかと思いますけれども、審判では弁論主義を採用しておりませんので、当然のことながら口頭弁論という概念はございません。したがいまして、準備手続という概念もまた無いというのが審判でございます。したがいまして、審判の方では口頭審理をするか書面審理をするかという、まさに審理の方式の区分けしかございません。そういう関係から書面審理でやっていることをある種そのまま口頭審理で口頭の場で行うと考えている部分がございます。したがいまして、例えば訴訟で行われるような準備手続を何回か経て、相手方のいうことも、当然のことながら裁判官の心証もその中でわかってきて、さらに最後に口頭弁論がある。そのような審理の進め方はもともと採用していないという部分がございます。 |
松尾委員 |
追加です。審判官が何考えているかという心証というよりも、無効審判ですと当事者の争いになりますが、相手の考えていることと、今度は審決が出てから、ええっとお互いにびっくりするというようなこともありますので、当事者の意見が適切にかみ合っているかどうかというのも非常に重要なのです。そういうところがきちんと来て、それで適切な証拠があり理由がなければ当事者は納得がいかない。納得いかないとちょっと常識のある裁判官にというようなことになりかねませんので、そこら辺考えていただきたいと思います。 |
竹田委員 |
松尾委員がいわれたような審理の充実という要請があることはもちろん重々理解しますが、ここで請求人は何人も請求を可とし、当事者系構造をとり、審理を充実したものとし、かつ最初の事件において適切な理由・証拠はできるだけ出し尽くすことを保障するという制度をとっていった場合に、一体審判というのはどうなっていくかということを考える必要があると思うのです。当然のことにそれだけ審判体に対する負担は増大しますし、審理期間は長引くというのは目にみえていると思うのです。それで迅速な手続をどうするかというのは、ある程度、計画審理とか法律の規定以外のところで改善の余地があるということはわかりますけれども、それだけで果たして対応できるような状況になるかどうかということが非常に問題ではないかと思います。 |
丸島委員 |
今の点、私感じますのに、職権審理が並行されるという前提で物事を考えておるのですが、当事者系をとったとしても職権審理というのは相当ウエートをもつべきだろうと思っているのです。それを活用すれば、従来系、今の異議の申し立て等もそう変わらないで進行できるのではないかと思うのです。ですから、私の基本的にイメージしているのは、職権審理が前提にあって、当事者の主張もどんどんやる、攻撃・防御をそこでやらせる、それを職権審理と連動させながら進行させるというのは、そんなに審理も長くかからないで内容もよくわかるし、お互いのいいたいことが全部1回でいえるのではないかというような気がしているのですが、いかがなものでしょうか。 |
小林審判企画室長 |
多分、今の丸島委員の議論は、迅速性と適確性を両立させろ、紛争の一回的解決の観点も勘案すべしということかと思いますけれども、これはまさに第1回の会合のときに当方から提示させていただいたペーパーの中で、今の審判制度を取り巻く要請として3点あるということで、1つはもちろん迅速な審理、2点目は適確な審理、3点目は紛争の全体的な解決という視点も勘案すべしというふうなことを掲げさせていただきました。その折に、それら3つの観点はある種、別の観点からのことでございますので、局部的にみますと当然相反する状況になることもあり得るけれども、その3つの観点の一番適切なバランスを図っていくべきではないかというようなことを第1回目の会合のときのペーパーで提示させていただいて、ある種ご了解を得たと考えております。考え方としては、そのようなところを目指していくべきだと私どもは考えております。 |
丸島委員 |
私のイメージしている職権審理を当事者系に入れるという意味は、松尾先生がおっしゃったように、だれが何を考えているかということがわかるのが一番いいと思うのです。私が実務をやっていたときに審査官面接をしても、こうだということをいっていただけないことが一番時間がかかることだと思うのです。これがいえないのか。ドイツの審査官みたいにちゃんといってくれるとすごく効率がいいんですね。ですから、私のイメージしているのは、職権というのは、論争している内容について審判官としての考えを示しそれをまた当事者に議論させるというのが一番良いかなと思っているのです。ですから、そういうことが仕組み上いえないのかどうかというのが一番大きいのかなと思うのです。ある方にいうと「法律的にそんなことはできません」とおっしゃった方もいるのですけれども、そうかな、ほかの国の審査官はみんなサゼスチョンしてくれるのにという気がするのです。それをむしろ積極的に入れてくれれば非常に速くなるのではないかという気がするのですけれども、いかがでしょうか。 |
小林審判企画室長 |
法律的にそういうことをすることが禁じられているということはないと理解しています。事実、今おっしゃったのは審査段階のことだと思いますけれども、審査段階のところでまずご説明しますと、今、面接というのは求められればー出願について1回以上は必ず受けることになっておりますし、その中で補正案のやりとりもやっておりますし、そのときに審査官からの示唆をすることも運用上――ガイドラインにも書いてあるのですが、当然認められております。これは拒絶査定不服審判におきましても、基本的に同じでございます。 |
伊藤委員 |
審理の方式のことですけれども、訴訟の場合にはご承知のような憲法上の要請などもあって現在のような構造になっているわけですけれども、こちらの方は私は基本的には原則がどうかとかいうことはあえて決める必要もないと思うのです。審判の主体が最も適切な審理の方式を選ぶということで足りると思うのです。ただ、選ぶときについて何の手続的規律を設けなくていいかということになりますが、それは別の方面から、例えば後から出てまいりますが、当事者の攻撃・防御の提出について適切な機会を保障しなければいけないとか、手続の迅速な遂行に努めなければいけないとか、そちらの方からの規律を設けておけば、その規律に即した形で、必要であれば事件の特性、当事者の特性に応じてしかるべき審理の方式を組み合わせて採用すればいいと思いますので、あえて原則口頭か、あるいは書面かというようなことまでがっちり決めておく必要はこの場合にはないのではないか。以上でございます。 |
秋元委員 |
皆さんのご意見にほぼ私も賛成でございまして、特に先ほどいわれたようにスピード、適確性、一回的解決、これは第1回のときにもお話ししましたが、多少温度差があるにせよ、すなわち、産業によって若干順位は変わるにしても、この3つのバランスでやるということは当然必要だと思います。 |
小林審判企画室長 |
攻撃・防御の回数ということですね。 |
秋元委員 |
はい。それは裁判に行くことも同じだと思います。 |
大渕委員長 |
時間の関係もございますので、それでは2.の「審理充実のための要件」に移ってまいりたいと思いますが、ご意見をお願いいたします。 |
牧野委員 |
先ほどから出ておりますけれども、充実した審理をして適確な判断をするということが、訴訟も含めた全体としての迅速性に資することだろうと思います。そういう意味では、余り細切れ的な無効審判の請求を何回も繰り返すような要因はなるべくとった方がいいだろう。ただ、無制限に何でも攻撃・防御方法について主張を許すということになりますとむだなことだろう。恐らく後で重要な証拠が出るというような場合を除けば、審判請求のときには請求人としてはどういう無効理由があるかというのはかなり調べて起こすわけですから、追加するにしても補充証拠、あるいは見方を変えてこの証拠を1つつけ加えれば従前の、例えば遂行性について、より適確な主張ができる、そういう場合だろうという気がするのです。そういう範囲での攻撃・防御方法の追加がある程度柔軟にできるような形の制度の方がいいだろうと思っております。 |
大渕委員長 |
ほかにどなたかございませんか。――どうぞ。 |
斎藤委員 |
9ページの真ん中のB-1からB-3の採用と審判合議体の裁量による採否の決定ですけれども、先ほど牧野委員がおっしゃられたことと関連しますが、当事者にとって全く不意打ち的に別の観点が出てくるというのは、行政決定として裁量だといわれても望ましくない場面があります。その場合にはなぜこういう観点をとりあげたのかという理由を十分に提示することが必要ではないかと思われます。裁量権の行使に当たっても当事者に対して理由をできるだけ提示するというのは最近の行政手続の方向だと思います。 |
丸島委員 |
私も今の牧野先生のご意見、全く賛成なのです。攻撃・防御は最初から目的、方向は大体決まっていると思うのです。それを十分に攻撃・防御できるというのが一番大事だと思うのです。ですから、攻撃されたところは訂正したい、訂正したものにもう一回意見があればいうというのをやらせていただくというのが一番大事かなと私は思います。それ以外の新規の理由を後から追加するというのはほとんどないのではないかと思うのです。 |
松尾委員 |
今のところですが、私もそう思いますね。調べていると何かのところでいいところにつくって、そこでぱっといいのが出てくる。11ページのところに「諸外国の状況」ということでアメリカの例が出ておりますが、「新たに発見した先行技術に基づく主張は可能であるものの、その範囲は最初の再審査の時点で入手可能でなかったものに限定される」と。こういうことも考えて、「時機に遅れた攻撃・防御」というような言葉は民事訴訟法の中ではそれなりの歴史がありますけれども、特許法の中では余りないので、よその言葉を使わないで、ここで十分考えたもので整理していただきたいと思います。 |
佐藤委員 |
基本的に必要な措置を講じた上で、理由・証拠の追加・訂正の機会をふやすということは、審理充実とむだな審判請求を避けるという意味で大変結構だと思っています。 |
小林審判企画室長 |
予備的請求というのは、私の理解によりますと、もともとはヨーロッパでドイツの連邦特許裁判所などが採用している考え方で、それがEPOの審判にもやはり同じように採用されているものだろうと思います。他方、例えばアメリカのように必ずしも予備的請求の制度をとっていない国もありまして、審理対象を1つに決めろという立場の制度を採用している国もまた多々あるのかなと感じています。 |
佐藤委員 |
次回以降に議論される審決取消訴訟と訂正請求の制限というところとこの問題は関連してくるかと思うのです。もし審決取消訴訟以降は訂正請求が認められない、そういう制限をしたとすれば審判段階でしか訂正できない、それが一発勝負だというようなことになると権利者としては大変しんどいなということもあるということで、次回以降の議論とも絡む話かなとは思っています。 |
大渕委員長 |
ほかにどなたかございませんか。 |
佐藤委員 |
別の観点で蒸し返し防止の方なのですが、先ほどのご説明のときに、12ページのA案とB案があって、A案に加えてB案というご説明であったかと思うのですが、そういうご趣旨なのでしょうか。 |
木村審議室長 |
はい。 |
佐藤委員 |
ということは、このペーパーは、基本的には一事不再理はこのまま残す、その上でさらに制限するのかどうかという議論をするということでしょうか。 |
木村審議室長 |
基本的には、現行の一事不再理のあり方そのものについてもいろいろなご議論があります。例えば下手な立証で負けてしまった場合、他人が同一の証拠で争えないというような議論もございますので、基本的にそういうことも含めてもちろんご議論はいただいても結構かと思うのですけれども、基本的に我々の案といたしましては、現在の規定を維持するということをまず原則に置いて、それに加えるということ。全体の中ではその議論を案としてはご提示させていただいているという理解でございます。 |
佐藤委員 |
それの関連でよろしいですか。 |
大渕委員長 |
はい、どうぞ。 |
佐藤委員 |
弁理士会の中の議論としては、一事不再理というのが第三者まで縛ってしまうということに対して非常に不満が出ておりまして、人が失敗したものまでなぜ自分が責任を負わなければいけないのだ、審理を十分に尽くして適切な権利保護を図るのであれば、やはり争うチャンスは平等にあるべきじゃないかという考え方があって、今の一事不再理というのはちょっと行き過ぎではないかという意見が多数出ています。 |
小林審判企画室長 |
まさに12ページのAの黒い丸の2番目に書いてあるとおりなのですが、仮に現行の一事不再理の規定をなくして同一当事者だけを拘束するという考え方をとった場合には、ほかの人は当然のこととしても、同一当事者であっても――これは「何人も」というふうな請求人適格をするかどうかとも関係はしているわけですけれどもー、―第三者の名前で結局のところは事実上同じことが繰り返しで請求できてしまうのではないかという懸念もございまして、それが特許権者側からみた場合に本当に良いのかどうかという懸念も実はもっております。 |
佐藤委員 |
それとの関連で請求人適格の話ですが、この審議会が立ち上がった段階では「何人も」という形で異議申し立ての性格を残しながら審判を一本化するという意見が弁理士会では多数だったのですが、この蒸し返し防止の問題が出てきて請求人適格とやはり絡む話だということをだんだん認識をして、そういう意味では「何人も」でいいんだろうか、むしろ今回の請求人適格で出ている③の6カ月は「何人も」で、それ以降は縛るというような形をどうだという意見が最近結構出てきております。蒸し返し防止の問題というのは請求人適格との絡みも当然あるわけで、それをセットで考えなければいけないのだと思っております。 |
丸島委員 |
私も前回申し上げたように、1ページの③が適当かな、一番いいんじゃないかなと思っているのです。 |
斎藤委員 |
請求人適格に関連してですが、②にせよ③にせよ、法文上明記しないと、審判段階では運用で緩やかにしても、裁判所が法解釈でがらっとひっくり返すという可能性が、最近の行政法関係の最高裁の判例をみておりますとあり得ます。特に③の6カ月以内は何人でも請求可という場合、特許庁の運用で行ったとして、訴訟の段階へ上がってみたらそれは客観訴訟だから適格なしという判断が出ることもありますので、請求人にとっての予測可能性を考えると法文化が望ましいというファクターも押さえておいていただきたいと思います。 |
木村審議室長 |
その点も含めて検討させていただきます。 |
大渕委員長 |
ほかにどなたかございませんか。 |
伊藤委員 |
これは意見でなくて質問ですが、この理由・証拠の追加について、B-1ないしB-3という考え方がございますね。言葉や表現のことは別として、B-1ないしB-3が実質的にどのように違いが出てくるのか、またその違いが出てくる基本的な考え方といいますか、それは何なのかというのがどうももう1つまだわからないものですから、少しそのあたりを補充して説明していただけるとありがたいと思いますが、いかがでしょうか。 |
木村審議室長 |
先生ご指摘のとおり、最終的には審判合議体の裁量で認める認めないということを何らかの形で担保しているということにおいては、確かにB-1からB-3というのはさほど有意な差がないようにも思えるのですけれども、B-1につきましては「時機に遅れた」というところをかなり定性的な書きぶりにしておりまして、これは現行の民事訴訟法の規定を参考にした書きぶりになっている。ただし、その判断基準につきましてはやはり何らかのものがないと、裁判と審判、もちろん全く同一ではございませんので、ある意味では審判官の裁量で何もかも決められるという状況ではございませんので、そこは判断基準をクリアにするべきではないかというのがB-1でございます。 |
伊藤委員 |
そうすると、比喩的にいうとB-3というのが主張という意味でも訂正という意味でも最も厳格だということで、それに対してB-1というのは全く一般法理にゆだねてしまうわけだから、そういう意味では緩やかで、B-2というのがその中間的なところにある、規律としての厳格さという意味ではそういう整理になるのでしょうか。 |
木村審議室長 |
必ずしもB-1からB-3というのは1つだけに限定をしたいという趣旨でご提示しておるものではございません。例えば内容面の制限ということでB-3をとりながら、かつ回数の制限を加えるということももちろん可能だと思いますし、おっしゃるとおり、B-1というのが一般法理にゆだねるという意味で一番広いということはいえるのかもしれませんけれども、B-1、B-2とB-3というのは、いってみますと切り口が違うということで、それは両者組み合わせることも可能と考えております。 |
秋元委員 |
ちょっと教えていただきたいのですけれども、今、請求人の適格性の問題は③がいいだろうという意見に傾いておりますが、私はもともと利害関係があるんだから②がいいいじゃないかということを第1回目にいっております。、一方、諸外国の状況のところでドイツは、理由はかなり広く解釈されるけれども、同一人が同一の理由ではだめだと。しかしながら、「何人も」というのがあるので、再度の請求は可能である。また、アメリカの場合は、エストッペル条項が入ってきたり真の利害関係人を出さなければいかん。このように違うのですが、日本で例えば「具体的検討」のBのところで一定の枠をはめているわけですけれども、その辺の違いというのは現実に運用していった場合どのような違いが出てくるかというのは具体的にどのように予想したらよろしいのでしょうか。 |
小林審判企画室長 |
ドイツ、アメリカにつきましては、詳細な運用まで完全に調べ上げているわけではないので、こういう制度を採用したときにどこまで実務上の影響があるのかまでは確定的なお答えはできないのですけれども、考え方としまして、12ページの一番下の●に①、②、③と書いてございます。Bの選択肢自体、その上の●に書いてございますように、余りに厳格な蒸し返し防止をした場合に別の弊害がございますから、必ずしも事務局としてB案を強力に提示しているわけではないのですけれども、その前提の上で●の一番下をみていただきますと、①、②、③とございまして、①の「無効理由の法条が同一である場合」というのは、外国制度でいきますとドイツの制度ということになると思います。これは何を意味するかというと、例えば特許性の観点でいいますと進歩性というのがございますが、発明の進歩性についてだれかが争って、ところが進歩性を欠くという、違反はないと判断されて特許無効の請求は成り立たないという審決が確定したという場合には、別の証拠であっても進歩性違反ということを再度蒸し返すことができなくなる。そういう意味をもちますので、非常に広い範囲で後の請求を禁止するということになります。それが①の意味でございます。もちろん、それがいいかどうかということはまた別でございます。 |
松尾委員 |
ちょっと蒸し返し的ですけれども、私の読み方と先ほどのご説明と違っていたのでおやっと思ったのです。7ページ以下の「時機に遅れた理由・証拠の提出」のところですが、先ほどのご説明ですとB-1がある意味では一番広くて、B-2、B-3だと厳しくなるというようなところがございましたね。そうでもないですか。そうでなければいいのですが。 |
木村審議室長 |
先ほどの点につきましては、必ずしも広い狭いということで申し上げているわけではございません。B-1というのは一般法理を使っているということを申し上げておるわけであります。ご指摘はよくわかります。 |
大渕委員長 |
B-2では、回数の数字のところが重要な意味を持っているように思われます。この数字のところで、最初の1回だけとすると、他のB―1,B-3とはあまり差がないことになりそうですが、2回(以上)にすると、最初の1回以外に、権利として追加等できるという点で、他のB-,B-3とは大きな違いが出てくるように思います。そういう意味では、B-2の中には、回数を1回にするか2回(以上)にするかで、非常に違った2つの可能性が含まれているように思います。 |
竹田委員 |
今のB-1からB-3のところに関係するのですが、9ページのところで「いずれを採用するにしても、後に提出された無効理由・証拠が強力なものである場合には」、これは法律事項としてどのように書くのか自体がよくわかりませんけれども、「審理の進捗状況、理由・証拠の提出の時期、後の再度の審判請求の可能性等を考慮して、審判合議体が採否を決定する」というのですね。ところが、一方で13ページのところでは職権探知主義は維持するといっているわけですね。そうすると職権探知主義との関係はどうなるのでしょうか。現行でさえ参考資料等として強力なものが出てくれば無効理由通知をとって職権主義でどんどんやれるのに、今度はこういうことがないと合議体が採用できないということになると、その意味で職権探知主義を制限することになるのかどうなのか、その辺のところがよくわからないのです。 |
木村審議室長 |
基本的に現在、上申書を使って現実に無効理由通知を打って、それで対応しているという実務がございます。ただ、それ自身、当事者の方からしますと必ずしも自分が上申書に書いた理由とは同一でないような使われ方をするということもあるようです。それはいずれにしても現在の理由・証拠の追加が厳格に過ぎるのではないかということが1つの原因になっているということだと思いますので、そこを実務的には緩めていって、より当事者が審理を尽くすというような形態を採用していくというのがいいのではないかという考え方です。それは職権探知主義をとることと二律背反と申しますか、必ずしもそういうことになるわけではないのではないかなと。だから、完全に当事者主義を推し進めて、確かにそういう要素がふえるとは思いますけれども、だからといって必ずしも職権探知主義を放棄する必要まではないのではないか。それは特許というのが対世効をもつ一種公的な側面をもった私権であるということと、特許庁が専門的な能力をもっているということから職権探知主義を全体として放棄する必要はないのではないかという考え方なのです。 |
竹田委員 |
そうするとこの9ページの審理の進捗状況のところからいえば、書面審理にしても口頭審理にしても、審理終結に近いような状態になっている。そうすると、今の説明ですと、無効理由としては強力なものであっても採用できない、だけど職権主義を働かせて特許無効理由通知を別に出すというようなことはできるということになるのですか。 |
小林審判企画室長 |
職権探知の方も「できる規定」ですので、職権探知を義務づけているわけではなくて、職権探知の裁量を働かせることができるようになっている。片や9ページの方に書かれていることも新たな理由・証拠の採否についての裁量ということですので、その限りにおいては両者が相矛盾することはないのではないかと考えます。 |
大渕委員長 |
ほかにどなたかございませんでしょうか。 |
中山部会長 |
私が聞くのもなんですけれども、平成10年より前にはいろいろ弊害があったので狭くしましたが、今度広くするに当たっては平成10年に戻っちゃいかんということで苦労しているわけです。平成10年にけしからぬ新しい理由・証拠の提出請求があったはずですが、それは一体どういうたぐいか。といいますのは、実務の方の話を聞いていると、ほとんどが補充的なものだと。多分それはけしからぬものじゃないということだと思うのですけれども、一体どういうものが平成10年より前には多かったのでしょうか。 |
小林審判企画室長 |
内容的にみれば、当然のことながら審判請求人は特許について無効にすべく理由・証拠を探すわけでしょうから、その観点からいけば適切でない事例はないということになるのかもしれないのですが、他方、審理をしている観点からいいますと、何回目かの攻撃・防御の時機に遅れて理由とか証拠が提出されるということはあったというのが当時の事情だろうと思います。その件数がどのくらいあったかというのは、すみませんが、手元にございません。 |
中山部会長 |
弊害が何かによって回数制限した方が効果的なのか、あるいは争点で制限した方が効果的なのか、平成10年の反省をもとに決まってくるのではないかという気がしたものですからお伺いしたのです。 |
小林審判企画室長 |
その観点を踏まえて検討したいと思います。 |
大渕委員長 |
今いわれたのは、内容的に適切でないものを出してきているというよりは時期的に遅いので弊害があった、そちらの方にアクセントがあるということですか。 |
小林審判企画室長 |
そうですね。 |
竹田委員 |
今の点について、私の理解では、それは実際的にどういう弊害があるかというような観点は余りみていないで、できるだけ1つの無効審判請求については一回的な主張だけで早期に審理を進めて結論を出そうと、その要請が絶対的な要請だというところから来たのだろうと思います。だから、それがユーザーニーズだったのだと思っていましたから、先ほどから検討されている方向でやっていく場合に、本当はそちらの方がユーザーニーズだったので、あのときの改正の方はニーズにこたえない改正をしたのだというなら、それはそれで軌道修正なのかもしれませんけれども、基本的にはそういうことなのではないかと思っています。 |
小林審判企画室長 |
もちろん現行のニーズというのは、この会議とか、まさに利用されているユーザーの方々から意見を聞いていきたいと思っています。 |
大渕委員長 |
それでは、時間の関係もございますので、このペーパーでは14ページ以下ですが、「3.審判制度における審理の適確生確保の方策」、この点につきましてご意見をお願いいたします。 |
松尾委員 |
何となく法律専門家といったのは私の声ではないかなと思いますので発言しておきますが、私が一番言いたかったのは、法律専門家という名前をもつかどうかは別として、論理的に審決を書いていただきたい。というのは、私は審決取消訴訟を幾つもやっておりますと、例えば周知技術といいながら、現実に採用されてなくて、しかも候補の中にこれはよくないと書いてあるようなものを1件だけ出して周知技術だとしてみたり、組み合わせがいかにも離れ過ぎていて、私どもは審決取り消しは弁護士と弁理士で組んでやっているのですけれども、論理的にどうしてつながるんだろう、おかしいなというようなことで、依頼者も頭で納得いかないから、どうしてもこの結論は納得いかないから裁判所にもっていこうと、裁判官はもう少し常識があるのではなかろうかというようなことにいつもなるのです。技術に詳しい方はそこのところは非常に詳しいのですが、全体に記載された審決の論理の展開がちょっと乏しかったりする。そういうところを考えたわけなので、優秀な弁理士さんでももちろんいいですし、審判官の中にも優秀な方はたくさんいらっしゃると思いまして、法律家というその名前には私はこだわる必要はないと思いますので、お願いいたします。 |
丸島委員 |
私もなぜこんなのが必要なのかなという感じがするのです。実際のことはよく聞いていてわかるのですが、審決の文章が悪いために裁判所でひっくり返ってきたというようなことをよく聞いているのです。確かに法律家の方は文章だけで判断するので、文章の表現が非常に難しいのだろうという気がするのです。逆に裁判所で、文章が多少下手でも中身からみて無効にしていいんじゃないかというところは判断できないのでしょうか。 |
小林審判企画室長 |
審判の観点からのみ答えさせていただきたいのですけれども、松尾先生がご指摘になったような問題については、我々としても常に認識を新たにして取り組む必要があるとは考えております。ただ、言訳ではないのですが、マグニチュードからみていただきますと、特許分野だけですけれども、今、毎年1万2,000件以上の審決書と決定書が出ております。その中で毎年出訴されますのは400件強ということですから、1万2,000件審判で判断してそのうち400件だけが出訴される。その中には、今松尾先生がご指摘されたような事情ではない事情で出訴されているのも当然あるわけでございます。また、特許庁の審決について高裁で支持していただける率というのは、ありがたいことに最近大分向上しておりまして、99年では4法全体で34%ほど審決が取り消されておりましたが、今年の上四半期、―――一番直近の数字でございますが--は、24%ぐらいに減少しておりまして、10%ポイントぐらい改善しております。このように2年ちょっとの間でかなり改善しておりますので、少しずつではあるかもしれませんが、改善の効果が出てきているのかなという気がしています。したがいまして、ほとんどのケースについては大きな問題がないようなケースでございます。ただ、他方で不適切な事例があるのも確かに事実だろうと思いますので、その一部のケースをどのように改善していったらいいのかという工夫が要ると考えております。 |
松尾委員 |
一番目立つのは、証人調べがあるときと、それから証拠がたくさんあって陳述書のような証拠がいろいろ出ているときなので、そういうところの審理は単なる技術とちょっと違いますので、そこら辺は工夫していただいた方がいいと思います。 |
丸島委員 |
先ほど申し上げた点に関連するのですが、職権審理が働く場面というのは代理人のよしあしで結果が変わるというのはない方がいいと基本的に思っているのです。というのは、代理人がうまいから通ったとか下手だからだめだとかというのは本来あってはならないことだと思っているのです、事実は1つなのですから。その事実が人によって変わるというのはおかしいと私は思っているのです。 |
松尾委員 |
一言だけいわせてください。私たち代理人は、勝つべき事件で負けてはいけない、負けるべき事件で勝ってはいけないと思っておりますので、よろしくお願いします。 |
山下委員 |
その点は裁判所も同じでして、勝つべき当事者を負かしてはいけない、負けるべき当事者を勝たせてはいけないというのです。 |
丸島委員 |
大変認識が間違っておりまして、失礼しました。おわび申し上げます。 |
大渕委員長 |
ほかに3.につきましてどなたかご意見ございませんか。 |
作田委員 |
最後に一言だけお願いをしておきたいのですけれども、基本骨格案で1から4まで4つの事項について書いてあります。先ほど若干の議論があったかと思いますが、きょうの議論はどちらかというと審理の充実に向けられていたと思うのですが、その裏腹として審理期間をきちっと認識する必要があるのかなと思います。 |
小林審判企画室長 |
非常に重要な観点だと思っています。今回の直接の議論対象のペーパーに入れてございませんが、「別添」の中で今後やっていくべきことということで最初に「計画審理の推進」というのを挙げさせていただきました。実は昨年の7月からトライアルベースで、昨年7月以降処理する無効審判について開始をさせていただいております。今その試行結果をレビューしている最中でございまして、このレビュー結果を踏まえて、どういうやり方が一番いいのかというのを検討し直しながら、こういったことも含めて検討していきたいと考えています。 |
大渕委員長 |
ほかに全体にわたって何かございましたら。 |
木村審議室長 |
次回の小委員会でございますけれども、9月9日月曜日午後3時から予定をさせていただいておりますので、委員の先生方、よろしくお願い申し上げます。 |
大渕委員長 |
それでは、以上をもちまして第3回紛争処理小委員会を閉会させていただきます。本日も長時間のご審議ありがとうございました。 |
-了-
[更新日 2002年10月29日]
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