• 用語解説

ここから本文です。

第4回紛争処理小委員会 議事録

特許庁総務部総務課
制度改正審議室

  1. 日時 :平成14年9月9日(月曜日)15時00分~17時00分
  2. 場所 :特許庁庁舎 特別会議室
  3. 出席者 :
    大渕小委員長、中山委員、蘆立委員、秋元委員、伊藤委員、斎藤委員、作田委員、佐藤委員、竹田委員、中西委員、牧野委員、松尾委員、丸島委員、諸石委員、山下委員
  4. 議題 :新制度における審決取消訴訟・訂正審判の在り方について
議事録

大渕委員長

それでは、まだお見えでない方もいらっしゃるようですが、定刻となりましたので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会の第4回紛争処理小委員会を開催させていただきます。
本日もご多忙の中、皆様お集まりいただきまして、まことにありがとうございます。
それでは、まず最初に、7月30日付で特許庁長官に太田信一郎長官が就任されましたので、ご紹介いたします。一言ごあいさつございますでしょうか。

太田特許庁長官

ただいま委員長からご紹介いただきました太田でございます。7月30日、及川の後を受けて長官に就任いたしました。よろしくお願いしたいと思います。
私、特許庁で仕事をするのは初めてでございまして、ほんとに何もわからないと思います。一から勉強しなくちゃいかぬというつもりで、できる限り早くキャッチアップして、皆様方と看過なく議論ができるようになりたいと思っております。
そういうことですので口幅ったいこともいえないわけですが、長官に就任する前から、日本全体で知財戦略をきちんと立てなくちゃいかぬ、それによって知財立国というかそういうことを目指そうという動きは、前職はITを担当しておりましたが、そういう職場でもひしひしと感じてまいりました。これもひとえに本委員会の皆様方を初め多くの方々のご尽力、いろいろなところでのご活躍の賜物、成果だと思います。
皆様方からすれば、そういう高まりは当然のことと思われると思いますが、30数年役人をやっていますと、なかなかこういうチャンスというかこういう高まりは得がたいものだと思います。恐らく10年、20年に1回ぐらい来るか来ないかのチャンスじゃないかと思っておりまして、そういう意味では、こういうエネルギーを前向きに活用すれば、今までなかなかできにくかったことも実現がより容易になるという経験を、私もいろいろなところでしてまいりました。
ただ一方で、知財制度というのは、いろいろな意味で地に足をつけてきちんとした議論をしないと、またそれはそれで大きく方針を誤ってしまうという面もあるかと思います。
そういう意味で、大変お忙しい方ばかりの中でこういうお願いをして申しわけございませんが、限られた時間の中でインテンシブにご議論を頂ければと思います。これもまさに知財立国、大きな方向に歩むための準備ということでご理解を賜ればと思います。簡単でございますが、就任のごあいさつと併せ、ごあいさつとさせていただきます。どうもありがとうございました。

大渕委員長

ありがとうございました。
それでは、早速議事に入らせていただきます。
まず、本日の議題であります新制度における審決取消訴訟・訂正審判の在り方というこのペーパーにつきまして、事務局からご説明をお願いいたします。

木村審議室長

最初に、配布資料の確認をさせていただきたく存じます。
「第4回紛争処理小委員会」と書いたクリップどめの、まず一番上が議事次第になってございますけれども、1枚めくっていただきますと、皆様方、委員の先生方の名簿でございます。その後が今日の本論でございますけれども、新制度における審決取消訴訟・訂正審判の在り方、全部で17ページの紙がございます。それの次に、「第4回紛争処理小委員会参考資料集」と書いた資料でございます。皆様、お手元にすべてございますでしょうか。ご確認いただければと思います。
それでは、内容の説明に入らせていただきます。本日、大きく分けましてテーマは2つございまして、1つが、現在検討しております新しい無効審判制度、それにおける審決取消訴訟の在り方、構造についての議論が1点目でございます。2点目でございますけれども、本論でまいりますと7ページ目以降、審決等取消訴訟継続中の訂正審判の在り方、主としてキャッチボールという問題で議論されておるテーマでございます。
まず第1点目、新制度における審決取消訴訟につきましてご説明を申し上げます。まず、審決取消訴訟の全体の枠組みと申しますか訴訟当事者についての考え方でございます。いうまでもなく現在の無効審判は当事者同士で争っておりまして、その審決取消訴訟も当事者同士で争っております。異議申し立ては、特許庁長官を被告とする形で訴訟において争われるという形になっております。諸外国における例をみましても、基本的には、私人を訴訟当事者とする構造を採用しているところが多いわけでございます。
従いまして、「具体的検討」というところに書いてございますけれども、新たな審判制度におきましては、基本的に当事者対立構造を軸に現在検討しておるところでございますけれども、そこの審決に対する不服申し立てにつきましても、特許権者と審判請求人をそれぞれ訴訟の当事者とするというのが適切ではないかと考えております。当事者対立構造によりまして審理の充実を図る、あるいは当事者の納得が得られやすいというメリットはございますし、基本的に特許権は私権でございますので、私人間の争訟によって解決を委ねるというのは不当ではないと考えられます。あるいは先ほど来申し上げておりますとおり、新しい審判制度は当事者対立構造とするということを前提にいたしますと、それとの整合性からも説明はつきやすいということだと思います。
1ページめくっていただきまして、審決取消訴訟において特許庁が関与するあり方を新たに考える必要があるのではないかという論点でございます。現在、無効審判の審決取消訴訟は当事者間で争われております。従いまして、特許庁は原則参加をしておりません。特許庁そのものは行政処分を行った処分庁であるという性格とともに、当事者対立の裁断者であると、そういう一種の二面性をもっているわけでございますけれども、公益的理由により関与が必要とされる場合というのがまずあるのではないか。
1つは、例えば特許庁の法令解釈でございますとか運用基準のあり方が争点となるような場合、あるいは職権探知で無効理由・証拠を打つことがあるわけでございますけれども、それが審決取消訴訟における争点となるような場合は、特許庁の訴訟関与を認めていくべきではないかという議論がございます。現在、審決取消訴訟は行政事件訴訟法33条に基づきまして、行政処分を取り消す判決というのは、当該事件について行政庁を拘束するわけでございまして、そういう観点から法令解釈、運用基準に大きな影響をもつということもございます。そういう場合について積極的に訴訟に関与していくという必要があるのではないのかという論点でございます。
それからiiで書きましたのが、審理充実のために特許庁の関与が必要とされる場合。審判の審理過程で出てまいります前提資料等は、審決内容に必ずしもあらわれておらないこともございますので、例えばその過程でございますとか技術的内容を明らかにするために特許庁の説明ですとか意見ですとか、そういうものを訴訟過程において明らかにしていくという必要性があるという考え方もあると思います。諸外国でございますけれども、英国、ドイツ等では、特許庁が訴訟に関与する規定を置いておるようでございます。
3ページでございますけれども、3)具体的検討というところでございますが、そのあり方でございますけれども、積極的な関与の仕方として特許庁の訴訟参加、それから、それほど重要ではないけれども意見を述べた方がいいと、そういう場合のために意見陳述・求意見制度というもの、2つの類型に整理して考えてはどうかということでございます。
まず訴訟参加でございますけれども、1つの形としては、裁判所の要請もしくは特許庁の申し立てにより特許庁が審決等取消訴訟に訴訟参加するという形態でございます。特許庁の法令解釈でございますとか運用基準あるいは職権探知の内容というのが争点になる場合は、特許庁としてその趣旨を説明するということが適切であろう、そういう場合が多いと思いますし、その判決内容はその後の運用を変更することにもなりますので、特許庁自身が主張し、立証活動を行うということも想定し得るのではないかと思います。
また、審理充実のためにも、こういう積極的な訴訟参加が必要になる場合も、場合によってはあるのかもしれないということでございます。翻って考えますと、現在、行政事件訴訟法第23条という条文がございます。これは抗告訴訟に関する規定でございますけれども、下に条文を引用してございますが、第1項で、「裁判所は、他の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者もしくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもって、その行政庁を訴訟に参加させることができる」という条文がございます。
他方、4ページでございますけれども、行政事件訴訟法は特許のこういう訴訟につきましてそのまま適用できるのかどうかということについて幾つかの論点がございます。まずは、行政庁による主張の機会を必ずしも保障しているものではないことから、不服申し立ての手続というのは置かれておりません。それから、当事者の訴訟活動に抵触する行為というのはできません。通常、他の行政庁と本来の行政庁という関係に立つわけでございますので、抵触する行為というのは本来余り想定しにくいのかもしれませんけれども、いずれにしても、こういうことはできないということになっております。文言上も、基本的に行政事件訴訟法23条は、典型的な抗告訴訟を念頭に置いておりますので、「他の行政庁」という文言がやや文理上ハードルになる可能性もあるということで、この際特許法に審決取消訴訟に固有の参加制度というものを、置いてはどうかという案でございます。
その中身でございますけれども、「公益的理由がある場合、または審理充実に資すると認められる場合は、当事者の主張との抵触の有無に関わりなく、特許庁が独自の主張立証その他の訴訟行為をすることができる」という制度にしてはどうかというのが案でございます。基本的には訴訟活動の範囲、これは民事訴訟法45条が準用されております。行政事件訴訟法第23条において準用されておるわけでございますけれども、下に条文をそのまま書き写しておりますけれども、民事訴訟法45条によりますと、補助参加人は一切の訴訟行為を行うことができるということになっております。他方その2項で、被参加人の訴訟行為に抵触するときはその効力を有しないということで、例えばその下の(注1)に書いてございますけれども、原告が主張する対象技術の特定に関して、原告のなした文献の解釈について被告が争わない、すなわち一種の自白を行うような場合に、特許庁がこれを積極的に争うといった場合が例えばあり得るわけであって、したがって、2項は必ずしも準用をする必要がない。すなわち、抵触をする行為であってもできるというふうに理解するのが素直ではないかということでございます。
ただ、1項によりますと、上訴権を特許庁がもつということになりますので、これはやはり参加の必要性の観点から、そこまで本当に必要かどうかというのはよく検討する必要があるのかなということでございます。
5ページでございますけれども、特許庁が参加するための要件、手続でございます。行政事件訴訟法の規定を参酌いたしまして、例えば参加の趣旨に照らして、特許庁の申し立てにより裁判所が決定をもって参加を認めるというのが一つの考え方でございます。それから、参加の可否を決定するに際して、当事者の意見を聞くか否か。それから、参加申し立てが却下された場合に、不服申立権を認めるべきかどうかという論点がございます。
それから、裁判所の要請による参加の決定。この場合、特許庁の意見を聞くということにするかどうか。
それから、実際問題として参加の実質的要件。先ほど来、公益的理由でございますとか審理充実といったようなことを申し上げておりますけれども、そういうことを実際書くかどうか。法令上明記をする必要があるかどうかというのも論点かと思います。
それからBでございますけれども、訴訟参加には至らないケースとして求意見・意見陳述というものを考えてもいいのではないかということでございます。例えば現行法上、民事訴訟法に調査嘱託でございますとか、6ページに進んでいただきまして、あるいは鑑定嘱託といったそれぞれ制度がございますけれども、それぞれ特許庁が訴訟に参加をしていく形態として活用するのは必ずしも適していないのではないかということでございまして、例えば独占禁止法83条の3、これは平成12年に差し止め請求の絡みで新設をされた条文でございますけれども、ここでの求意見ないし意見陳述、そういうものに類似した制度を導入してはどうか。そのことによりまして特許庁に適切な意見を述べる機会を与え、または裁判所がそのような意見を求める手段を設けるというのが望ましいのではないかということでございまして、この点も含めてご議論いただければと考えております。
7ページでございますけれども、2番目の大きな論点で訴訟と審判の間のいわゆるキャッチボールの問題です。審決等取消訴訟係属中の訂正審判をめぐる論点でございます。現在は、特許権者は特許の訂正というのが当然できるわけでございますが、無効審判の係属中というのはすべて制限をされている。原則、訂正審判請求というのはできないという構造になっております。他方、一たん無効審判の審決が送達された後は特許庁の係属を離れるということでございまして、審決等取消訴訟を提起するとともに訂正審判を請求するという事態がないようです。
2のところに書いてございますけれども大径角形鋼管事件に関する、平成11年の最高裁判所の判決が出ておりまして、無効審決等取消訴訟係属中に特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判が請求され、訂正を求める審決が確定したときは、裁判所は当該無効審決を取り消さなければならないという判決が出ております。
従いまして、事実上特許請求の範囲を減縮する訂正審決というのがなされる場合は、もともとの争いの対象になっております無効審決がほぼ自動的に取り消される、そういう裁判実務が定着することになっております。
8ページでございますけれども、訂正審決の確定に伴いまして裁判所が無効審決を取り消しますと、特許庁では訂正された特許の有効性について、無効審判を再開して審理審決を行うということになりますし、場合によっては、この審決に対してさらに審決等取消訴訟が提起されるということもございます。こういう特許庁と裁判所の間での事件の往復というのがいわゆる事件のキャッチボールと呼ばれるものでございまして、別添の資料集でございますけれども、これは非常に複雑な問題でございますので、必ずしもこの絵がどれだけおわかりやすいかというのはやや内心じくじたるものがあるんですけれども、図3をみていただきますと、「現行制度における事件のキャッチボール」というのが書いてございます。現在、特許庁の無効審判で無効審決を行うと。それが出訴されまして、それと同時に訂正審判請求を行うということになっておりまして、訴訟中止がなされる場合となされない場合、これは訴訟指揮によって両方あり得るわけでございますけれども、訂正が確定いたしますと、事実上審決は自動的に取り消されます。その場合、無効審判を再開して再審決。場合によっては再度の訴訟提起ということで、特許庁と東京高裁の間を行ったり来たりというのがあるわけでございます。
件数でございますけれども、1ページ戻っていただきますと棒グラフ等があると思うんですけれども、例えば図1で「訂正審判請求件数の推移とその内訳」というのがございますが、1999年には、この棒グラフの白いところを2つ足していただきますと43件、これが訴訟係属中の訂正審判請求であったということでございますけれども、恐らく先ほどの角形鋼管事件の判決が影響しているんだと思いますが、2001年、平成13年におきましては99と51ですから合計150件に及ぶということで、急激に訴訟係属中の訂正審判請求というのは件数としては増えているということでございます。
本論の方にお戻りいただきまして、8ページの3)のところ以下でございますけど、これ自身は当然制度がそうなっておるわけでございまして、それに基づいて特許権者が合理的に行動した結果ということでございますが、こういう実態、審理の長期化でございますとかあるいは非効率な、あるいは無駄な訴訟審理というようなものが生じるその原因というのは幾つかございます。1つは、審決後訂正審判請求するには基本的に制限がないということで、1に書いた論点でございます。従いまして、訴訟審理開始後の請求が行われることによって審理の無駄が生じてしまうと。特に上告と同時ぐらいに訂正審判を請求するケースというのもあるようでございまして、その場合、非常に無駄が甚だしいという議論がございます。
それから訴訟審理の範囲というのは、先ほどの最高裁の判決に基づきまして非常に厳格に制限をされております。従いまして、再度の無効審判というのを余儀なくされる。当事者の対応負担というのが、特に無効審決を勝ち得た請求人にとっては大きいものがあるのではないかという議論もあると思います。
それから、3で審判審理の分断ということでございますけれども、まず訂正審判というのが起こされて、そこで訂正の可否について特許庁で判断するわけでございますけれども、そこでは、基本的に特許権者以外の言い分を聞く、そういう構造になっておりません。従いまして、訂正審判の結果につきましては、例えば再度の無効審判をやって、そこで争うといった、そういう二度手間が生じているのではないかと。そういう議論もあろうかと思います。
これを解決する方法で検討するとすれば、10ページの4)で「検討の方向性」ということで書かせていただきましたけれども、審決取消訴訟における訂正機会の制限、あるいは審決取消訴訟における審理範囲の制限の緩和、あるいは訂正審判と無効審判を分離して二重に行われることを回避する、こういった方策があろうかと思います。
我が国でどうするかという前に、諸外国でどうなっているかというのを簡単に確認させていただきますと、米国におきましては、基本的に日本に近い形がとられているという認識でございます。それからドイツ、オーストリアでございますけれども、これは裁判所中心形といいますか、裁判所万能形というか、そういう形式で処理をしておるということでございます。それから韓国でございますけれども、法律の構造は日本に非常に近いわけでございますけれども、判例で裁判所が訂正後の特許について判断できるということになっておりますので、キャッチボールを生じさせるということはないと。それから中国でございますけれども、訂正そのものを認めていないと。そういうそれぞれのあり方でこの問題に対処しているということでございます。
11ページでございますけれども、じゃ具体的にどういうふうにすればいいのかということでございます。これにつきましても、先ほどの参考資料にございますポンチ絵を横に置いていただいて、それで進めていただければというふうに思うんですけれども、まず、一番ドラスチックで単純明快な案がAでございまして、訂正請求期間経過後審決が確定するまでは、訂正審判の請求というのは禁止をするというやり方でございます。これですと、キャッチボールというのは完全に遮断をできるわけでございます。基本的な根拠といたしましては、審決取消訴訟で、審判で提出され審理判断されなかったような新しい無効理由ですとか証拠が出てくるということはないわけでございます。これは最高裁判所の大法廷判決でメリヤス編機事件判決というのが出ておりますけれども、それに従う限りにおいてそれはできません。従って、特許権者は不意討ちを受けるようなことはなくて、基本的に問題となる無効理由というのは、無効審判係属中にすべて了知することができる。
従いまして、無効審判係属中にそれに呼応する形で訂正を行うという機会は保障されているので、基本的に当事者の手続保障の観点からそれが問題であるということにはならないのではないかというのが根拠でございます。
他方、これには批判もございまして、12ページでございますけれども、実際どのような理由で無効になるのかというのは審決の時点までわからないケースが多いので、それについてはやはり一種の過剰防衛でございますとか誤想防衛といいますか、そういうようなことをしてしまう。従って、必要以上に特許権を減縮し過ぎるといったことにもなりかねないので、それは権利者にとって酷じゃないかという反論があり得るところでございます。
次に、12ページの下のところで、Bという案でございます。左の絵でいいますと図5でございますけれども、これは基本的にキャッチボールはキャッチボールとして正面から認める。そのかわり、出訴後の一定期間に、訂正審判請求を行える機会というのを限定しようじゃないかと、そういう考え方でございます。最大の問題は、やはり高裁での審理が熟してから訂正審判が申し立てられるということで、審理が無駄になるというのをこれによって避けることができるのではないかという理解でございます。
他方、批判といたしましては、キャッチボールそのものは当然構造的にはなくならないわけでございますので、審理の長期化の問題というのはやはりどうしても残ってしまうという問題がございます。
それから、13ページのCでございますけれども、訂正の機会制限をするとともに原則的に特許庁に差し戻す構造というのを考えたらどうかと。現在、訂正審判において訂正がなされておりますが、その場合においては、当然、一方当事者の意見を聞く機会というのは原則ないわけでございます。他方、特許庁の専門的能力というものを最大限活用するということを前提に考えますと、それは無効審判に戻すというのが一番効率的なのじゃないかというのがC-1ないしは2に全体つながる考え方でございます。
まず、C-1でございますけれども、これは出訴後の一定期間に限って、特許権者が裁判所に特許の訂正許可の申し立て、とりあえずこういうふうに呼んでおりますけれども、そういうものを行う機会を付与してはどうかと。訂正許可の申し立てがある場合は、裁判所は原則として特許庁に事件を差し戻すということで、差し戻しに関する規定を新たに置きまして、差し戻し後の無効審判の中で訂正請求の機会を付与してはどうかということでございます。この場合ですと、13ページの下の方でございますけれども、「根拠・利点」というところですが、一定期間に限って訂正許可の申し立てというのができるということで、裁判所での審理の無駄は省けるという利点がございますし、事件の差し戻しにより直ちに無効審判が再開をされる。その中で訂正請求の審理と特許の有効性の審理を併せて行うということで、訂正審判と再度の無効審判というのを一体として処理することができるのではないか、そういうメリットがあるのではないかと理解をしております。
他方、訂正の意思表示があった場合に原則として差し戻すということでございますと、訂正後の特許について裁判所が審理判断できる場合があるとすれば、そういうものについても特許庁に差し戻すということになりますので、訂正審判と無効審判を2度やるという手間は解消するものの、当事者の対応負担等々の観点からやはりキャッチボールというのは温存されるし、紛争も長期化するという問題はあろうかと考えております。
それから、14ページのC-2でございますけれども、これはC-1の一種の傍系でございまして、訂正後であっても裁判所が判断できるケースがあり得るということを念頭に置きまして、C-1に加えて裁判所の審理範囲内と認める場合は、無効審判に差し戻すのではなくて、特許庁に訂正審判をまず係属させまして、その結果を待って、訂正後の特許について裁判所がそのまま審理をするという形も加味して考えております。
C-1と同様、訂正が認容される可能性が著しく低いと、そういう場合には訂正前の特許についてそのまま審理を続行する。これは現在も裁判実務はそうなっておるようでございますので、それは当然そういうものとして残す。ポンチ絵をみていただいてもルートは非常に複雑に分かれているんですけれども、基本的には訴訟提起から一定期間に限って裁判所に訂正許可の申し立てを行う。その場合、これは特許庁に戻した方がいいという判断がなされる場合は、無効審判に差し戻し判決をもって戻していただく。審理範囲内なのではないかという理解ができる場合は、訂正審判をそのまま認めて、その結果を待って、その後、訂正後の特許について審理を再開をするということが基本形になっております。
これの根拠・利点でございますけれども、基本的には一定期間内に訂正の申し立てというものを制限しておりますので、そういう意味での審理の無駄というのは省くことができるのではないか。
それから、無効審判が基本形になっておりますので、当事者構造で争えるということ。それに加えて、裁判所でみずから判断できるという場合は訂正経由の道も残すということでございますので、オプションが幾つかあるということでございますし、実際問題、現在の最高裁判例を、訂正された特許について審判の第1次的審理を経ずに裁判所が直接審理することができる場合もあると、そういうふうに解する余地はあるのではないかということでございます。不明瞭記載の釈明の場合でございますとか、少なくともそういう場合につきましては、第1次的審理の必要性というのを判決の中でも明示をされておりませんので、こういった訂正ルートで裁判所がそのままの形で判断をするというケースもあり得るのではないかということでございます。
ただ、これについては当然批判があるわけでございます。「批判・問題点」というところに書かせていただきましたけれども、事実上、裁判所が訂正の可否というものについての実態的な判断に踏み込んでいるのではないかという論点がございますし、特に審理範囲内と認めた場合に、まず訂正審判をやる場合、相手方が従来の無効原因について補強証拠を提出したりできるのは訴訟の再開後になります。したがって、審理の分断による二度手間というのはあるのではないかと。
それから、裁判所の審理範囲内とはいえ、今まで審理していなかった訂正特許についての有効性の判断を裁判所が行うことになる。
あるいは、必ず裁判所が訂正後の特許について判断をしなきゃいけないというふうに解釈するのはやや酷でございましょうから、その場合は、特許庁に取り消しないし差し戻しということはあり得るわけでございますけれども、それを基本的な常態形というふうにいたしますと、結果的に事件のキャッチボールが実際起こってしまうということになるわけでございます。
16ページ、Dでございますが、これは原則、訂正後の特許についても裁判所が判断し得るということを念頭に置いた案になっております。図8と図9をみながらお聞きいただければと思います。基本的には、これも一定期間内に限って訂正審判請求の機会を認める、その上で訂正審判の結果を待って、訂正の違法性、訂正の特許の有効性について訴訟の中で判断をするという構造を考えております。
基本がD-1でございまして、訂正特許について全件裁判所が判断するというのが裁判所にとって酷であるという判断も当然あり得ると思いますので、そういう場合は訂正特許について特許庁による審理を経ることが必要だという判断に基づいて、判決で審理を特許庁に差し戻していただくということも考えられるわけであって、それがDー2という案でございます。
これですと、キャッチボールというのはかなり抑制できるという効果はあろうかと思います。ただ、これの難点といいますか、現在考える上での論点といたしましては、やはり無効審判制度の基本的性格、つまり公知事実というものを基本的には特許庁が一時的に判断し、裁判所はその判断結果を再検討する機関であるというふうに位置づけるのであれば、その考え方を変更することにはなるのであろうということでございますし、それから訂正後の特許の有効性判断で、当事者がどのような証拠を出すのかということにもよりますけれども、例えば新たな無効原因の審理ができるということにした場合は、それに対してさらに訂正審判請求のようなものを認める必要性が生じるかもしれないということで、特に特許法131条という条文があり、早期に無効原因の主張をさせようというようなことで、これは訴訟そのものにそのままの形で適用されるわけではないと思いますけれども、その趣旨との関係というのにも留意をする必要があるのではないかということでございます。基本的には、裁判所の負担がかなり重くなる案ということはいえるかもしれないということでございます。
それから、長くなってしまって恐縮でございますけれども、一番最後のページ、Eという案でございますが、これは審決等取消訴訟係属中の一定期間内に限って訂正の機会を認め、かつ裁判所がそもそも訂正の適否の審理も行ってしまおうということでございます。すなわち、訂正審判というものを特許庁に係属させることなく裁判所ですべて判断できるという形でございまして、これはキャッチボールそのものはなくなるということでございますし、特許権者は訴訟にのみ対応すれば足りるということでございます。ただ、この場合は特許庁と裁判所の役割分担といいますか、基本的性格の大きな変更につながる可能性があるということ。それから、現在、特許の訂正というのは行政処分として当然行われておりますので、現行制度では特許庁に対して請求をして、特許庁がこれを判断しているということでございますが、これを裁判所が行うとした場合の法律構成の点で難しさがあるのではないかということでございます。
以上、行き届かない説明で申しわけございませんでしたけれども、説明としては以上でございます。

大渕委員長

それでは、ただいま事務局の方からご説明がありました新制度における審決取消訴訟・訂正審判の在り方という点につきまして自由にご検討いただければと存じますが、論点としては、大きく1.の新制度における審決取消訴訟というのと、7ページ以降の2.の訂正審判の在り方という2点に分かれるかと思いますので、スムーズなご議論の趣旨から、この2つの点に分けてご議論いただければと思います。
まず、最初の新制度における審決取消訴訟という点につきまして、ご質問、ご意見等をお願いいたします。
どうぞ。

竹田委員

訴訟参加についてですけれども、私は、現行法でも行政事件訴訟法の23条によって参加は法律的に可能だと考えていますが、先ほど審議室長がいわれたような疑義があるので、この際、特許法に明確に特許庁が参加できる規定を設けるというのは、考え方としてはそれはそれで理解できます。問題はどういう場合に参加するかということで、4ページに「公益的理由がある場合」ということがあります。この「公益的理由がある場合」は非常に広い概念で、例えば123条の1項の無効理由は1から8まで規定されていますけれども、この中で、例えば6号のいわゆる冒認出願が私益的理由によるということはまず明らかだと思いますが、そのほかのものはおよそ公益的理由に入るものと普通は考えられていると思います。例えば29条の進歩性や新規性にしましても、この特許制度要件はやはり私益的なものでなくて、特許権が認められて独占的な権利として行使される以上は、すべての第三者に対してかかわっているという意味では公益的ですから、かなりその範囲が広くなる。範囲が広くなると、その範囲の広くなった中でどういう基準で特許庁が申し立てて参加するかということについては、実際上どれだけできるかという能力や量の問題もあるでしょうけれども、一つの問題点になるだろうと。
特にこういう形の参加といっても、結局は無効審決に対して不服での審決取消訴訟が提起されて、特許庁が参加するということになれば、結局無効審決を維持する立場で参加するということになるわけですから、それは当事者の一方に立っての参加ということになった場合に、何十万件もある出願の中で、特定の被告についてその無効審決を維持するために参加するということになることに公平上の問題がないかという点が1つであります。
もう一つは、一体特許庁がどうやって、これは申し立てなければならない、参加しなければならないということを判断して参加してくるのか。審決取消訴訟は当事者主義で行われる訴訟ですから、一々訴状や答弁書や準備書面が特許庁に提出されるわけではありません。そうすれば、例えば4ページの注1で、「原告が主張する対象技術の特定に関し、原告のなした文献の解釈について被告が争わない場合に特許庁が争う、といった場合などが考えられる」ということは、特許庁はどうやってそういうことを知って、かつそれは公益的理由あるいは審理の充実に資するということで参加してくるのか。実際の手続、その辺のところが全くみえてこないので、特許庁の見解をお聞きしたいと思います。

木村審議室長

まず最初の論点でございますけれども、どういう場合が公益的理由かというのは、一応このペーパーの中では特許庁の法令解釈なり運用基準というものがその争点になる、あるいは職権探知に基づく無効理由証拠というのがその争点になるということを考えております。確かに先生おっしゃるとおりでございまして、特許権そのものというのは公益的側面をもつ排他的権利であるということでございますので、そういうものについて幅広く、逆にいうと参加をするということも一つの案かもしれませんけれども、2ページの注2のところで書かせていただいたんですが、出訴後に例えば当事者が結託して請求を認諾するような場合が、かなりレアケースだと思いますけれども、あり得るだろうと。あるいは途中の「また」以降のところで書いてございますけれども、審決の維持そのものというのが目的になる、そういうケースというのがあり得るとは思います。ただ、こういう場合は、基本的に特許庁が積極的に訴訟に関与をしていくところまでの必要性はないというふうに、我々としては今のところ考えているということでございます。
また、別途、これは5ページになりますけれども、参加の実質的な要件でございますとか手続のところで、例えば当然特許庁が参加するためには裁判所の決定をもらわなきゃいけないということ。それに際しては、例えば当事者の意見を聞くべきかというふうにここでは問いかけになっておりますけれども、行政事件訴訟法23条1項は当事者の意見を聞いて、ということでございますので、手続保障はここで一定程度担保されているという理解もできるのかなということでございます。あるいは参加の実質的要件というところ、例えば現在の行政事件訴訟法の23条は特に実質的要件を何も書いてございませんけれども、そういうものについてどう考えるかという書き方の問題というのがあるのかもしれないと思っております。
それから公平上の問題というのは、確かにほぼ必ず被告側に参加をして、そのことによって、実際、特定の被告を結果的には利するということはあり得るんだろうと思いますけれども、基本的には、参加というのはちょっと開き直りの議論かもしれませんけど、それはそういうものであるという理解がそこはできないんだろうかと。ただ、そこは、場合によっては抵触を恐れずに議論をするという余地というのを考えてはどうかということでございます。
それから、確かに最後の先生ご指摘の、どのようにして特許庁がそういうことになっているというのを察知するのかというのは、実は非常に難しい問題だと思います。これは裁判所と特許庁の間の連絡を密にさせていただくということでとりあえずは解決するしかないのかなというふうに思いますけれども、引き続きそこは検討させていただきたいというふうに思います。

竹田委員

最後の点ですけれど、裁判所と特許庁が全体の迅速処理のためにいろいろ連携することについて、私も必要だと思いますし、私も現職時代からできるだけその点は考えてきましたけれども、やはり司法と行政ですから、それには非常な限界があると思います。特に、一々事件の記録を特許庁が第三者として訴訟閲覧や謄写をするというのなら別ですけれども、それ以外にこの事件については、ここでいう公益的理由があると考えられるということを一々裁判所から通告するというのはなかなかできかねることだと思いますので、そういう点からいうと、どうやって実効性を確保するのかなという点に疑問をもっていますので、そういう視点からもぜひご検討いただきたいと思います。

木村審議室長

次回、侵害訴訟、いわゆるキルビー判決との関係でご議論いただければというふうに思っておりますので、そのときにあわせてその論点についてもご議論いただければ幸いでございます。

大渕委員長

ほかに、どなたかご質問、ご意見ございませんか。
どうぞ。

丸島委員

訴訟参加に関してですが、「裁判所の要請により、または特許庁の申し立てにより」となっているんですが、これは当事者の一方からの要請ということは考えられるのでしょうか。

木村審議室長

今は少なくともそういうふうには考えておりません。そこはちょっといわく言いがたい世界だと思うんですけれども、事実上どちらかの当事者を資することになる。主として被告側の当事者を利することにはなると思うんですけれども、特許庁が訴訟に参加して、そこで図るべき利益というんでしょうか、そういうものというのは非常に公益的な法の運用であり、あるいはみずからの打った職権無効理由といいますか、そういうものの帰趨でございますので、当事者の方の請求に基づいてそのような形をとるというのは、形態としては考えておりませんけれども。

丸島委員

先ほど竹田先生からもお話がありましたけれども、特許庁は、参加というか当事者として出るのを義務づけた方がむしろ自然じゃないかと思うんですが。判決で拘束されるとはいっても、その判決に対して、また別の無効理由で再度審決するということもあり得るわけですよね。これは特許庁が不満だからだと思うんですね。私は、その不満をもつ要因はできるだけ1カ所で解消すべきじゃないかなという考えからすると、3者集まった方が一番いいのじゃないかと思うんですね。ですから、参加が難しいというなら、むしろ積極的に参加を義務づけて、自分の判断を主張する立場で裁判に出たらいいのじゃないかと思うんですが。その方が当事者の争いというのは1カ所でできる。それが次へつながらない一番いい方法だと私は思っているんですが。法律的に無理なのかどうかわかりませんけれども、一番いい方法だと思っています。

小林審判企画室長

審決取消訴訟で必ず特許庁が訴訟参加するように義務づけると、あたかも当事者のような扱いということになるんだろうと思いますが、そもそもそういう位置づけがいいのかどうかというところだと思うんですね。この1.の議論の一番最初のところで、基本形は特許権は私権であるので、無効審判請求人と特許権者の間で新審判制度は争っていただいて、その審決についての争いもまた、審決取消訴訟という形で両当事者の間で争っていただくというのが基本形だというふうにここでは整理をさせていただいています。
その上で、どうしても特許庁が訴訟に関与しなければならない、関与した方が適切だというケースがあるとすると、どういう場合だろうかという方向からをむしろ発想して考えたんですけれども、その結果出てきましたのが、1つは、従来からございますけれども、審決にあらわれてない部分についての裁判所側からのある種の問い合わせ的な類型のもの、それから冒頭申し上げた公益的な理由、あるいは職権による無効理由でもって無効審決を書いた場合――これは当事者が申し立てていない理由でございますので――そういった類型にとどまるのかなというふうに考えた次第です。
他方、それを超えて、必ず特許庁が訴訟参加することを義務づけるという考え方をとった場合に、実態上どういうことが起きるかというと、基本的に審決取消訴訟を必ず3人で争うということになるわけですが、果たしてこれが本当にいいのかどうかという問題もあろうかと思います。ただでさえ複雑な論点について2人で争っているところに、特許庁が独自の観点でもう一人、必ず、常に訴訟の当事者として、あるいは参加者として関与するというのが本当にいいのかどうかという点については、実態上の観点からも問題があるのかなという気がします。もちろんそれ以前の問題として、そもそもこの争いはだれとだれの争いであるかというふうに整理するかという問題もあると思いますけれども。

丸島委員

今ご説明いただいた公益的理由というのは、ほとんどの事件が公益的理由を含んでいると私は思うんですね。ですから、公益か公益でないかという判断すること自体が非常に難しいのじゃないかというのが考えられると思うんです。
それから、特許庁の判断、運用基準が争われるというけど、これはほとんどそうだと思うんですね。ですから、ほとんどの事件でそういうことが該当する。その場合は、参加するというのなら、もともと全部参加しても同じじゃないかなという感じがするんです。ですから、参加というなら認められる、当事者としてというのだったらだめだというなら、必ず出るような方法を考えていただいた方が、むしろ1回ですっきりするのじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

小林審判企画室長

先ほどの竹田先生のご質問に対する回答にも関係しているかと思うんですが、「公益的理由」という言葉がちょっと誤解を生んでいるようで余りよくない言い方なのかもしれないですけれども、ここで申し上げている公益的理由というのは、無効理由で123条に幾つか並べてございますうちで例えば異議申し立ての理由と無効理由を区別するために、よく公益的理由と権利帰属に関する理由というふうに分けて申し上げるんですが、その意味での公益的理由という意味ではございません。
したがって、例えば新規性とか進歩性とかいうものは、異議理由と無効理由との区別の関係では公益的理由だというふうに整理をされているんですけれども、その理由でもって無効審決を書かれたものがすべて、ここでいう公益的理由というふうには考えていないというのが1つです。
もう一つは、もちろんある特許権が無効になるかどうかというのは法律の適用によるわけですから、その適用がよいかどうかというのはほとんど100%問題になるんだろうという整理をすれば、そのとおり法令とかあるいは基準の適用というのが問題になるわけですが、ここで申し上げているのはそういう判断の結果が良いかどうかということではなく、判断基準たる特許庁の法令解釈とか、あるいは判断基準であるところの特許庁の審査基準あるいは審判基準に書かれていること自体が誤りだというふうな争いが起きたときという趣旨でございます。我々の経験によれば、そういう争いが起こるのはそれほど多いケースではないと考えています。

作田委員

ちょっと今の丸島委員と反対の話になるかもしれませんけれども、先ほど竹田先生がおっしゃった公平性について、審議室長の、参加とはそういうものだというふうに考えればそれでいいのかもしれませんけれども、審決取消訴訟というのは審決そのものの正当性をもう一回審議するものであります。二審なのか一審なのかというような議論はあるにしても。そこへ審決を書いた人が出てきて、今小林室長おっしゃったような審査基準とかそういう問題じゃなくて、有効性の判断についてもやはり公的機関としての特許庁が参加するということは、被告にとって、心証という意味で相当影響力がある、現実の問題としてはそういうふうになるのではないでしょうか。
したがって、公益的理由とかいろいろいっても、結局は最終的には有効性の判断についての審決の正当性が争われるわけですから、そこで審決を書いた特許庁が出てくるというのは、僕は公平性の問題でかなり疑問があるのではないかなというふうに思います。
したがいまして、こういう参加する場合、あるいは丸島委員のような当事者としての参加でもいいんですけれども、特許庁が参加する必要性があるというのはわかるんです。どういうことについてというような限定的にする必要があるのではないかと思います。

秋元委員

私どももいろいろこの問題、非常に議論いたしまして、どちらかというと作田委員と似たような考え方で、やはり司法と行政という意味、それから公平性という意味で、特許庁は非常に限られた参加にすべきじゃないかと。そうしないと、やはり公平性が保てないのじゃないかと。その場合、今度は丸島委員の意見のところにもちょっと関連するんですが、ここに書いてございますように「裁判所の要請により、または、特許庁の申し立てにより」と。庁の申し立ても、いろいろ事実をつかむのに問題があるんでしょうが、それよりも、当事者が要請して裁判所が認めたというような方をむしろ入れてもらいたいというふうに私どもは考えております。
したがって、裁判所が独自に審査基準にしろ何にしろ必要であると思って判断されたような場合、あるいは当事者がどうしても庁の参加が必要であると、そして裁判所がそれを必要であると認めた場合、そういう場合に限ってほしいというのが私どもの意見でございます。

松尾委員

私は、基本的には丸島委員の考え方には賛成しかねます。私は公平な立場からみて、また、特許権は私権であり、争いというのは、当事者間の争いです。そこに審決を行った特許庁が出てくるということになりますと、どうしても心理的に圧力が加えられるわけですから、私は、とてもじゃないけれども賛成しかねるわけです。
それから、法律の解釈というのは通常であれば裁判所が十分できることであり、かつ運用基準というのも法令にのっとってやるべきことですから、これを公益的な理由があるという必要はないと思います。しかし、法律の中の非常に細かい運用基準で、滅多にないと思いますが、私は滅多にないのを1度ばかり経験したことがありますが……そういうことでは、この5ページにある「求意見・意見陳述」により、特許庁の意見を聴取できるだけではなくて、特許庁がぜひというときには意見を陳述できる、そういう機会を与える規定を設ければよいだろうと思います。それ以上は当事者間の争いを助長するというか、当事者間がやめたくても参加人との関係がありますし、そこら辺もどうなのかと。いろいろこの参加の内容と参加の要件、参加人がどうなのか検討する必要があると思います。また、その事件に参加するのか、ある問題点に参加するのかというのもちょっとわからないんですが、問題点に参加するのであったら、とにかく求意見とか陳述でいいわけで、ぜひその程度にとどめていただきたいものだと思います。

丸島委員

私の発言が、特許庁の審決した人が出ると圧力がかかるような印象でとられているんですが、私は逆だと思っているんですね。むしろ特許庁の審決を本当に意味が当事者としてわからないで、そのために負けるというケースもあるので、出てもらった方が得だという場合も多いと思うんですよ。ですから、必ずしも審決した人が出ると圧力がかかるということじゃないと思っているんですね。判断するのは裁判所ですから。特許庁の中でもう一回判断するというのなら確かにそういうことになると思いますけど、裁判所が判断するんですから完全に切れているわけで、司法が判断する、行政と分かれているわけですから、どなたが出ていっても判断は変わらないと私は思っているんですね。真実がそこで全部わかることが一番いいと私は思っております。それがなぜいけないのか、よく理解できないんですよ。

伊藤委員

先ほど来からのご意見を承ってますと、主として公益的理由から特許庁が、仮に「参加」という言葉を使いますが、訴訟に加わって何らかの行為をするというのは、例えば法令の解釈ですとか――法令の解釈までいかなくても、先ほどの文献の解釈というようないわば経験則の解釈、こういった事項に実際上は限定をされるのだといたしますと、訴訟参加とか、それから同じく訴訟参加でも補助参加人よりはもっと強い地位を認めるというのは、ちょっと大げさ過ぎるのではないかという印象がございます。先ほども室長のご説明でしたか、例えば当事者、被告の方ですか、認諾をしているけど、それはけしからぬからというので争うということになりますと、実際には、もうあとの訴訟は全部特許庁がやるということになりまして、そもそもこういった当事者形の訴訟構造にしたこと自体と果たして調和するのだろうかということ。しかし、もちろん実際にいろいろな主張をし、場合によっては資料を提出するという必要があること自体は、私も何となくわからないではございませんが、それは意見の陳述とかそういったルートで、もし要請がそのことが中心であるというならば、十分ではないかという印象がございます。
以上です。

佐藤委員

私も、参加までは認めなくてもよろしいのじゃないかと思います。この意見陳述・求意見でよろしいと思っています。理由は、先ほど来ご説明の中にありましたように、審決そのものの結果についてサポートするために特許庁が参加したいということではなくて、特許庁の審判の法令解釈なりそういうものについて十分に審決取消で反映してもらいたいということが趣旨であるとすれば、それはその範囲で十分足りると思います。そういう意味で、参加ではなくて求意見また意見陳述で十分に目的は達成すると思います。
当事者対立構造に第三者である特許庁が入ってきて、それぞれの利害が対立した場合に、訴訟構造として非常に複雑になってしまうのじゃないかというふうに思います。したがって、そういう意味で今回、訴訟参加というところまではいかなくてもいいと思っております。

木村審議室長

先ほどの伊藤先生の認諾等のケースにつきましては、2ページの注2に書かせていただいたとおりでございまして、まさにこういう当事者間で本来争われるべき特許権の消長そのそのものについて、特許庁がそれに差し出がましいことをするという趣旨ではないということで考えておりますので、ここでいう公益的理由というのは、ある意味では先ほど小林の方からもご説明申し上げたとおり、非常に狭いものとして理解はしております。
ただ、確かにご指摘のとおりでございまして、行政処分をしたという意味においてはいわゆる処分庁であるという性格ももちながら、かつ当事者対立の中の無効審判で審決を書いたということで、裁判官的なそういう位置づけもあわせもっているということは事実でございますし、若干それはつまみ食いをしているのじゃないかというようなご批判があるのかもしれませんけれども、どういうふうにそれを性格としてとらえるかということにもよると思いますので、改めてその辺はこちらの方でも、今日いただいたご意見を踏まえて検討させていただきたいと思いますし、先ほどおっしゃられました結果のサポートということであれば、ここのBというところで書いた求意見制度とかで十分かどうかということも含めて、再度我々としては検討してみたいというふうに思っております。

大渕委員長

ほかに、どなたかご意見、ご質問等ございませんか。
それでは、時間の関係もございますので、また後半の議論の関係で1.の方に戻ることもあり得るということで、とりあえず2.の訂正審判の在り方という論点の方に進ませていただきます。
この点につきまして、ご質問、ご意見等をお願いいたします。

中山部会長

私の方から最初に申し上げていいかどうかわかりませんけれども、一般論として特許法あるいは日本の知的財産法は余りにも複雑過ぎます。今日の資料の最後についている絵をみましても、素人がみてもわからないのはもちろんですけど、プロがみたって何を述べているのか、一見してわからないという非常に複雑な構造になっているわけです。私はよく講義でいうのですが、これは老舗の高級料亭旅館のようなもので、本館は立派なものがある。別館とか離れとかあって、廊下でつながっていて何が何だかわからないし、火事が出たら死者が出るという、そういうのが現在の知的財産法ではないかと思うんですね。シンプルでいかなければいけないと思います。
といいますのは、余りがちがちに作ると、将来の状況の変化に対応できませんし、将来予測は非常に難しいんですね。将来予測を間違えた場合にも対応できない。現に訂正審判はちょっと前に改正したばかりなんですけど、もう対応できてないわけですね。何が原因かというと、やっぱり余りにも精緻にがちがちに作ったことが原因じゃないかと思うわけです。それを解きほぐす手段としては、実は「知的財産戦略大綱」に書いてありますが、これからは裁判所を重視することが大切です。特に特許関係の裁判については、人員にしろ調査官にしろあらゆる面で知的財産の裁判を重視する、拡充するということをうたっているわけでありまして、現に司法制度改革推進本部も新しい検討会をつくることになったようです。基本的には裁判所を重視し、かつ信頼をしていかなければならないだろうと私は思っております。
審判と訴訟二本立てになっているわけですけれども、一番シンプルなのは、審判全部やめ全部訴訟にもってゆくことですけれども、多分それは一般のユーザーのニーズに合わないでしょうし、それに近かったアメリカもだんだん日本の審判のようなものに近づきつつあるわけです。ということになりますと、審判と訴訟は必ずどっかで調整をしなければいけない。調整するときに、従来はどうしても精緻にかつがちがちに縛り、シンプルでないシステムをつくったために、どうも長期間に耐え得る法律ができてないのではないかという感じがするわけです。
私は、これは問題は訂正審判だけじゃなくて、この前のキルビー判決も全く同じだと思いますが、裁判所ができるものは裁判所がやる、裁判所ができないと思ったら特許庁に戻す。戻すというのは、いろんな訴訟形態によって審決取消とか中止とかがありますけれども、とにかく戻す、判断を仰ぐという簡単な構造でいいのではないかという気がしているわけであります。そうしませんと、好ましからざるキャッチボール現象はなくならないという感じがするわけであります。
これは、つまり裁判所がどのくらい充実するかということに関係しているわけで、調査官も含めて裁判所が充実すればするほど、裁判所で判断できる分野がふえてくる。こういうことは実際的じゃありませんけど、そういうわけで、裁判所の自主性、判断というものを信頼したシステムをつくるということが重要じゃないかと考えております。
そういたしますと、当然昭和51年の最高裁判決、先ほど室長がおっしゃいましたメリヤス編機事件ですけれども、この判決も見直さなければいけない。あの辺から、キルビー判決から、訂正からすべて一貫したシンプルなシステムというものができるのじゃないかなと考えております。

竹田委員

今中山先生がいわれたことは、各論になると私の見解も違う点があるかもしれませんけど、総論的にいえば大賛成で、法改正はそうあるべきだと思っております。そういう視点からこの訂正の問題をみたときに、これはキャッチボールをすべてなくして、まさにシンプルにして問題の解決を迅速にできるという方向に行くならば、A案よりほかにないと私は思います。
A案をとる場合にまず問題になることというのは、多くの場合には、無効審判手続において訂正が行われた場合は別として、私も弁護士として経験するのは、特許庁の審決を権利者の立場で被請求人代理人としていろいろ答弁をして、そして、いざ審決をもらってみると、こんな理由で無効になるとはと思うようなことが出てくる。これだったらば最初から訂正をしておくのだったということがある場合に、多くの場合に侵害訴訟で権利行使している特許権の問題ですから、訂正の機会を与えた方がいいという意見は、私も理由があるように思いますが、それをやりますと、どこまで認めるかということになって、どうしてもそのためには期間的な制限を設けざるを得ないだろうと。今の理由以外にまだ理由があるということになれば別ですが、そうであるとすれば、せいぜい1カ月とか2カ月の間だけは訂正を認めるという方向も一つの妥協的な考えかなとは思います。
ただ、それをやりますと、いろいろな問題が出てきます。1つは、無効の審判請求がさらに特許庁に係属している場合には、訂正請求をそこでやらなければならず、別に訂正審判請求はできないのが今の制度ですから、そうしますと、そこで訂正を請求して、仮に認められて審判請求が成り立たないという審決をもらいましても、今度はそれの審決取消訴訟を係属すると、東京高裁には前のクレームに基づいてなされている無効審決の取消訴訟と、次の訂正されたクレームに基づいて判断された無効審判請求が成り立たないとした審決の取消訴訟が係属するような状況はどうしても避けることができない。現実にそういうような事態も起きていると聞いています。
また、現在の裁判所の運用は、多分今でもそうだと思いますけれども、訂正請求が、審決取消訴訟が提起後に出された場合にも、その訂正について当事者双方が中止して結果を待ってくださいという場合は別ですが、そうでない限りは、ある程度このペーパーのC案、D案にも出てくるような訂正の見通しがなければ、手続は進めていると思うのですが、例えば2カ月間だけ訂正ができますといって訂正請求をしているのに、訂正審判の結果を待たないで裁判所は手続を進めるわけにはいかなくなるのじゃないか。期間を限定してならできますよと認めている以上は、それを無視して手続を進めて、特許庁の技術官庁としての一次的判断を待たないで判断してしまうということに、問題がある。
そうすると、それを解決するためには、まず最初の点についていえば、そういう期間を限った訂正請求は訂正審判請求として認める。無効審判請求手続が係属していても認めるというような例外の例外をつくるということが必要になってきますし、後者についていえば、裁判所がその点は訂正の結論が出るまで待つということも必要になってきますし、そうなってくると訴訟の迅速な運営にはどうしてもそぐわない。
その上、もう一つ必要になってくるのは、今度は訂正を特許庁が認めた場合にどうするのかという問題があって、現在のように要旨認定を誤ったということで特許庁に戻してしまいますと、まさにキャッチボールは終わらないという事態が生じてしまいます。それを解決するためには、今度はD-1案にあるような訂正審判について特許庁が訂正審決をした場合には、その訂正審決に基づいて、請求に理由があるかどうかを裁判所が判断するということもしなければ、また迅速な解決を妨げるということになります。
中山先生がいったように、本当にこの絵を専門家でもよく理解するのは大変難しくて、それぞれに、細かくはいいませんが問題点があろうかと思います。そうすると、先ほどのような点で、何か短い期間だけ訂正請求を認める方がいいという考えに仮に立ちますと、かなりな点で手当てをしないと、その制度を運用して、かつキャッチボールの弊害を避けるということはできない。それならば、この際、すっきりとA案でいった方がいいのではないかというのが私の考えです。

丸島委員

私は、結論的にはC-1案がいいのじゃないかと思っています。これで、今竹田先生がおっしゃったように不都合が生ずるとは考えていないんですが、図の理解があるいは間違っているのかもしれませんが、基本的には当事者が議論を尽くすというのが、何回も何回も事件を起こさせない一番のもとだと私は思っているんですね。そういう意味で、一定期間で訂正審判を認めたら、すぐ差し戻し判決をした方がいいのじゃないか。当事者は、それでまた無効審判と一緒に議論すればいいのじゃないか。それを裁判所がみる、そこで審決が出て当事者が納得すれば、それで終わりじゃないかと思うんですね。そういう意味で、C-1で何回も繰り返すということは考えられないのじゃないか。
C-2の方は、差し戻し判決とほかに3番の例が出ているんですが、「裁判所の審理範囲内と認めるとき」と書いてあるんですが、この場合、訂正確定までの間は当事者が関与してないんですね。そうすると、また右に行って「相手方の反論」と出ている。これまた差し戻し判決みたいなことが起こるだろうと思うんですね。ですから、3で訂正確定までの間、当事者が合意して戻るというケースがあるならいいんですが、そうでないと、どこかでまた相手方当事者が反対の意見を述べるだろう。ということを考えると、C-1の方がすっきりしているのじゃないのかなと私は思うんですが。
先ほど中山先生のおっしゃったシンプル、私もシンプルが一番いいと思うんですが、あれは裁く方にとってシンプルにはみえるんですが、裁かれる方にとっては非常にシンプルじゃないと思うんですね。というのは、裁判所ができる範囲はやりますよというのは、中山先生のお話ですと、できる範囲が時代とともに変化するというようなことも含まれているわけで、これはフレキシビリティーは非常にあると思うんですけれども、裁かれる方としてみれば真剣そのものなので、できる範囲って何なんだろうかという、そこを――例えば今ですと、キルビー判決で明白な場合、明白な場合だっていう主張をしなきゃならない。その結果、明白じゃないという判決が出ると、無効審判を特許庁にまたお願いしなきゃならぬ。やっぱり二重構造が出ていると思うんですね。
ですから、二重構造をなくして――シンプルというのは、1つでできるのがシンプルだろうと私は思うんです。ですから、その原則は、不服がある当事者にとにかく議論を尽くさせる。先ほど特許庁も巻き込んでと申し上げたのは、特許庁も不服だったら、もう一回別な審決をする場合もあると思うんですね。そういう意味で、とにかく不服を後で出すような人は、1回議論させてみるというのが一番シンプルでなびかないいい方法じゃないのかなと。そういう意味からして、訂正審判に対して私はC-1がいいのじゃないかと思っています。

山下委員

これは非常に誤解を受けるかもしれませんが、それを省みずあえて申しますと、キャッチボールという概念が私は非常に気になるんです。今回のこの書面を拝見しましても、まず出だしが「訴訟と審判との間の事件の『キャッチボール』」とバッと出ているんですね。これは普通の人がみれば、まずよくないものだというようにお考えになるだろうと思います。私はあえて申しますと、キャッチボールというのはいいものだと思っているんです。つまり、今の丸島委員の意見でも、1回どっかでやるのが一番シンプルでいいとおっしゃったんですけど、それはどこでやっても同じだという前提があるんだと思うんですね。だから、特許庁と裁判所というものが、要するに1つになったものができれば全くそれが当てはまると思うんですけれども、これは法の理念、それから制度の上でも、現実の上でもそうじゃないんですね。そういったときにそういうことを捨象して、とにかく1回でやればいいんだというようなことは非常にわかりやすいんですけど、これはとんでもない誤りにつながるおそれもあるだろうと思っているんです。
現に裁判をやっている者からしますと、キャッチボールなんてしたくてやっているんじゃないんですね。なるべく1回で済ませたいと思って、今の我々が考え得る判例の範囲内で、何とかかんとか工夫を凝らしながらやっているんですね。しかし、それは少なくとも現在の裁判所というものと特許庁というもののそれぞれの性格、裁判所というものが置かれている立場というのを考えれば、これはやむを得ないことだと思っています。ただ、もちろん今現在行われているキャッチボールが全部やむを得ないことで済ませていいことかどうかということについては、私自身も決していいと思っているわけじゃなくて、むしろそれには、立法で手を打てることは最大限に打たなきゃいけないだろうと思っています。
しかし、どうも私、最初からこの問題は気になっているんですけど、どっかに要するに裁判所と特許庁というものが区別がなくなっちゃって、1つのものとして存在しているかのような感覚で、何か無意識のうちに議論がされているのじゃないだろうかと。これは現状は少なくとも全くそうじゃありませんし、制度の上でも理念の上でももちろんそういうものを考えることはできますけれども、そうするためには、非常に幅の広い議論をやってからじゃなきゃいけないだろうと思うんです。それをやらないでやるのは、いってみれば知的財産権関係者の、ちょっと言葉は悪いんですけれども、わがままといいますか、悪くいえば、もっといえば思い上がりといいましょうか、そういうことにつながりかねないのじゃないかというぐらいに思っています。
したがって、まずそこで、キャッチボールというものには、2つの性質の違った特許庁と裁判所というものが関与するという、そのことを前提にした場合には、むしろそれを有機的につなげて有効に、本来からいえば、なるべくむだをなくして早くするための工夫の一つだという面があるんだということも考えておかなきゃいけないのじゃないかと私は思っているんです。そのことをまず大前提として、そのことを前提にした上で、なおかつこの訂正との関係で今行われていることが大いに問題だということは、非常に強く、毎日裁判をやってるだけに余計に強く感じております。
具体的に申しますと、じゃどうしたらいいかというのを考えますと、キャッチボールをなくすのは簡単なことなんですね。今のこれで例えばA案をとれば、キャッチボールはなくなります。それに対しては、どうも実際にその制度を利用される方からみるというと、特許庁の考えていることは自分の考えていることと大いに違うことがあると、竹田委員もおっしゃってましたけど。それだったら、特許庁の判断をみた上で一定の期間、とにかく訂正の機会はあげますよと。もっと端的にいえば、その間は審決は確定しませんよと。だからその間待っててあげますから、その間に訂正を申し立てなさいと。訂正の申し立てがあったら、じゃその段階でもう一遍審理を再開して、無効審判の審理をやりますよと。そこでまた判断して、そのかわり、もうそれについてはだめですよと。要するにキャッチボールの必要がなくなる。訂正がなされることによって、そのことを理由に取り消したりする必要がない状態にして、つまり訂正というのが審決取消訴訟を行っている段階では起こらないような状態にしてもってきてくだされば、その必要はないんですね。
だから、本当に訂正を理由にするキャッチボールということをどうしてもなくしたいんだというならば、それは簡単だと思っているんです。そういう制度を採用すればよろしい。つまり、今1カ月ですか、審決が出てから。どのくらいの期間その訂正を認めかという問題もあるんですけれども、極端な一つの例として1カ月間という、今の出訴期間と同じ期間内に申し立てるなら申し立てなさいと。訂正を申し立てないでそのまま審決取消を求めるならば、それでやりなさいと。そのかわり、その間に申し立てなかったならば後はだめですよとなれば、裁判所に事件が来たときには、これはもう訂正のことを考える必要はありませんから、差し戻しも取消も考える必要はないということになります。
ただ、そうしますと、私が先ほどキャッチボールというのも時には必要ではないかと申し上げたのは、とにかく訂正の申し立てをなされると、訴訟は全然、裁判所には事件が来ませんから、その間、とにかく事件の解決は延びます。ところが、今現在やってることであっても、例えば審決取消訴訟が提起されて、たとえ訂正審判の申し立てがあっても、先ほどありましたけど、これはどのくらいの割合かというのはともかく、そのままこれは無効にできると。訂正なんかならぬだろうという見通しを裁判所が立てたときにやっちゃって、いってみれば訂正審判がどうのこうのやってる間に無効が確定しちゃって、その特許はだめになるということだってあり得るわけですね。そういうことができなくなります。つまり、キャッチボールということを一切なくするということになれば、そういうことが出てくるわけです。ですから、キャッチボールというのはやり方さえよければ非常にいい方法だということをお考え願いたい。そう思っています。
だから、そのことを忘れて、とにかく――これを私拝見して気になったのは、キャッチボールの減少あるいはなくするということ自体が自己目的になっているのじゃないか。これは間違いだと私は思っています。キャッチボールをなくするために、例えばずっと特許庁での審理が終わるまで待っているなんていうのは、その段階でパッと返したって待ってたって同じことですよ、事件が片づかないという点では。むしろすっきりするという点でいったら、裁判所にもかかっている、特許庁にもかかっているなんていうよりも、むしろ全部特許庁に返してやった方がすっきりしているということは単純明快ですね。そういう面からもお考え願いたいと思います。ですから私は結論的には、いろいろどうやったらいいかと考えてみまして、結局このA案とC案の中間みたいなところが一番単純明快にして裁判所にとってもいいことになるのじゃなかろうかと思っております。

竹田委員

山下委員にお聞きしたいんですが、今の山下委員のお考えでいって、A案をとるとどこに問題があるわけですか。

山下委員

A案ですと、私自身はもともとA案でいいんじゃないかと思っていたんですが、結局それはきついとおっしゃるんでしょう。一切特許庁の考え方がわからない、わからないから自分の方では、まさか特許庁がこんなご判断をすると思わなかったのにそれをやっちゃったために、わかってるんならば訂正したのにということがある、そういう場合に対応できなくなりますね。それは非常に厳しい見方をすれば、特許権者の甘ったれだという見方もできないことはないと思います。非常に厳しくいえばですね。だって、何の予告もない段階で、何の予告もなしに無効が出ることはあり得ないんですね。当事者が出した無効理由か、特許庁が職権で通知した無効理由によってしか無効にはならないですから。予想から全く外れたということは、厳しくいえばあり得ない。だから、そういう状態で無効になったからといって、後で何の泣き言をいってるかということも、厳しくみればいえないではない。
しかし、そうはいっても、私は裁判官ですからそういってれば済むんですけれども、恐らく特許権者とかあるいは代理人になられる方は、それでは恐らく済まないだろうということも実は特許庁の方からお話を伺ってわかりましたので、そうならばそれに対する方法として、審決が出た後、一定期間ならば、いってみれば時期をずらすということです。ネジを巻き戻して、それでその段階にもっていく。そして改めてやる。そうすれば、双方がそこでまた、丸島委員のおっしゃった議論を尽くして結論が出る。その間、裁判所は何もしません。事件は来ませんから。非常に単純明快ですね。皆さん、これにしませんか。

竹田委員

もう一度質問させてください。

大渕委員長

どうぞ。

竹田委員

C案の場合は、無効審決が出て、審決取消訴訟を提起して、そして裁判所に訂正許可の申し立てをするわけですよね。山下委員の考え方だとそうではなくて、無効審決が出たら、裁判所に訴えを提起しないまま、一定期間において訂正の申し立てが出てきて、訂正を認めたら、訂正されたクレームに基づいてまた無効審判をやり直す。裁判所へは全然来ないわけですね。

山下委員

だから、裁判所としては非常にいいんですね。何も考える必要がないですから。ただ、それはさっきいいましたように、それをやりますと、今やっている早く解決している事件も遅くなっちゃう。つまり今の事件は、それは要するにキャッチボールをなくするにはいいけれども、事件の早期の解決という点ではそれが最高だと思わない。やっぱりキャッチボールが必要じゃないかといったのは、キャッチボールがあるということを前提にしますと、その場合でも事件をもってきてもらえるんですね。裁判所からみて、おれはこんな訂正なんか通りっこないよと思ったら、どんどんいけば、訂正審判をやってる間にというか、何かやってる間にその特許は無効になっちゃうわけです。無効になっちゃって、訂正もくそもなくなりますから、これでもって落着と。単純明快に片づくんですね。ということを申し上げたかったんです。
ただ、どうしてもキャッチボールが嫌だということにこだわれば、C案じゃなくてA案の修正形態ですかね。極めて単純にいいますと、1カ月間の猶予でいいと、審決出てから訂正申し立てまでに。ならば、提訴期間は1カ月でしたっけ、1カ月ですね。1カ月間にして、とにかく訂正申し立てるなら申し立てなさいと。そうすれば確定はしませんと。確定しないで無効審判が再開されますと。それから、その期間に訂正を申し立てなかったら、それは訴え提起をするかあきらめるかどっちかで、いずれにしても、裁判所に事件が来たときにはもう訂正ということは不可能ということになるんですね。実に単純明快でよろしいのじゃないかと。しかも、特許庁の無効の判断をみた上で訂正ができるということもできると。これ、八方いいんじゃないでしょうかね。

竹田委員

今の意見を踏まえて申し上げますと、確かに再審決しますよね。再審決にしたって、また同じ問題が起きるわけですが、そこのわがままは許さないで、もうその再審決に対しては必ず審決取消訴訟を提起するほか道がなくて、かつ訂正請求はそこでは絶対許さないと、こういうことになるわけですか。

山下委員

はい。1回勝負するというやつ。

竹田委員

そうすると、キャッチボールにならないという点ではそれは同じだけれども、無効審判手続の中でいわば手続が2度繰り返されることになると、こういうお考えなわけですね。

山下委員

訂正を認める以上、これは繰り返しは避けられない。だから、繰り返しが嫌なら、とにかく訂正という制度をなくすりゃいいんですね。訂正という制度を認めるということは、とにかくやり直すということですから、何らかの意味で。どれかがやらなきゃいけないんですね。どれかがやらなきゃいけないのは、だれがどういう段階でやったらいいかというだけのことであって。だから、それはどうしたってある意味での繰り返しというのは避けようがないと思うんですね、訂正という制度を認める以上。

牧野委員

私も元裁判官をしていたせいか、いつまでも訂正で、自分に不利益な結果が出れば訂正で直してというのを繰り返すような制度というのは甚だまずいという感じがいたしまして、それならばA案ということになるだろうと思っておりました。ただ、A案を採用すると、結果の予測ができないということをおっしゃるものですから、それなら特許庁として今の取消決定の場合と同じように、無効にするなら無効理由通知を全部出すと、あらかじめ出すということで、それなら予測可能性ができますから、それに対応して訂正請求ができるという、その制度がいいのじゃないかなというふうに思っていたのですが、それは余りにも特許庁の負担が多過ぎるということであれば、今山下部長がおっしゃったような、無効審決が出た後にもう一度訂正請求の機会を与えるというのは、なかなか制度としてうまくいくのかなというふうには思います。
ただ、どうしてもその間、裁判所の手を離れるわけですから、そこは特許庁の努力によって訂正請求あるいは訂正審判について早く判断をなさるということに尽きると思いますけれども、もしも裁判所に事件が来てから訂正を認めるというのであれば、裁判所の裁量で、これはいずれにせよ無効になるというのは、訂正の結果をみずに判断をするという案の方がいいだろうと。ちょっと今どれがいいと、実は決めかねておりますが、基本はそういう考えでおります。

木村審議室長

先ほど来出ておりますご議論で、すべての案件について、最終審決というんでしょうか、それを出す前にある種の予告的な審決のようなものをして、それに対して訂正の機会を再度1回認めてはどうかというご意見、内部でも当然検討はしたいと思いますけれども、若干懸念があるといたしますと、恐らく最終的には、そういう制度をつくりますと全件について必ず利用されることにはなるような気がいたしておりまして、それで最終的な審決が長引くといいますか、当然訂正が出てきたらそれに対して対応しなければならないということになりますので、そのことによる手続の遅延といいますか、そういうことがある。
それから、最終的に審決案をみて、それで訂正をすればいいやということだと、当初からまじめに訂正をする人というのは恐らく余りいなくなるのかなという気もしておりまして、特許庁の事務負担云々ということももちろんあるんだと思いますけれども、それ以前の問題として、その辺どういうふうに調和させればいいのかということは、よく我々としても検討する必要があるという気がいたしております。

小林審判企画室長

今の件で数字的なことを補足させていただきたいのですけれども、複数の委員ご指摘の事項、非常によくわかりまして、内部でも実は検討したのですけれども、定性的な議論のほかに量、マグニチュードの問題も考えておかなければならないと考えております。このペーパーの中でもグラフを使って、今どのぐらいキャッチボールが起きているかというのをご説明したのですが、その件数はほぼ年間50件ぐらいです。増えてきたといっても、年間50件ぐらいのキャッチボールが起きているにすぎません。それに対して、特許付与後の審判、異議申し立てと無効審判合わせてですけれども、請求が4,300件ございます。それに対して、審決を書く件数といいますのは千数百件ございます。その千数百件の中の50件でこういう事件が起きているわけですね。そうしますと、増えてきたとはいえ、一部のケースについて起きていることなんですね。それに対して対応するために、千数百件マイナス50件の部分をいじるかどうかということだろうと思っています。
確かに理屈から考えれば、すべての事件について無効審判の審決を書く前に全件無効理由通知を出して、無効理由になることを当事者に知らしめた上で審決を書くというのも理屈としては成り立つんですけれども、多くのケースについては今そういうことをやっていない。また、できるだけ審判合議体の心証を示すという口頭審理の運用を行うべく検討を始めているんですけれども、それを超えて、全件に対してやることが本当にほかのユーザーにとって合理的かどうかという問題があります。
それから、先ほど審議室長も指摘しましたけれども、無効審決が出た後には必ず一定期間、特許庁に係属したままもう一度だけ訂正審判ができるといったときに、果たしてまじめに最初の段階から訂正をして、まじめに無効審判に取り組む人が本当にいるのかどうか。そのときに、最初の無効審決とは一体何なのか。もはや無効審決ではなくて審決案という形にしかならないのではないかということもございまして、なかなかその案は採りにくいと考えております。

秋元委員

先ほどから、裁判所の方からあるいは裁判官の方から非常に厳しい意見が出たんですが、先ほど牧野委員がいわれたように、産業界としては一定期間訂正の機会を与えてほしいというのが実情で、これは甘ったれかもしれませんが、いろんなケースが存在しますので、やはり何らかの救済措置というものが必要だと思います。
それから、どの案がいいかといいますと、先ほどいいましたように予告的な審決とかそういう議論がここには載っておりませんでしたので、このA案からE案の案についていろいろ検討させていただきました。やはり私どもライフサイエンスの分野では非常に高度な技術の判断ということがございますので、どうしても特許庁の判断に頼らざるを得ないと。それから、キャッチボールという言葉がいいかどうかわかりませんが、やはりスピードというのも考えなければいけないと。
そういうことで考えますと、この中で幾つか候補が残ってきますが、私どもの考えでは、C-2案、D-2案、これがほぼ半数ほどの意見として、ライフサイエンス業界としてはございました。新しい制度ということに移行するのであれば、それがかなり実施できるのであれば、やはりD-2案がいいのではないかという意見が大体集約されて出ております。ただ、D-2案でも満足ではございません。なぜここにC案みたいに訂正審判請求が行われたときに、相手側の反論というか反対側の方がなぜ書いてないのかということです。D-2案のところに、もう一回差し戻しの方、審決取消訴訟にいくのであれば、同じく被告、原告の立場になるわけですから、この訂正審判のところできちっと相手側の反論が入ってくれば、上に上がるというようなむだな争いはなくなるのじゃないかということです。従ってこのD-2案プラスアルファというようなことが考えられるということでございます。

佐藤委員

私自身はやはりこのキャッチボールの問題は、この委員会そのものが最初から一回的解決ということを前提に議論を始めてきた、それが紛争解決のために必要ではないかということで始まったというふうに理解しております。このキャッチボールを避けるという点で考えれば、先ほど来竹田委員からお話があったように、審判段階で審議が尽くされると、審決取消にいって、また訂正をやるなんていわない、審判段階で攻撃、防御は尽くされることによって解決できれば、問題は解決できるんだろうと理解しています。そういう意味で、訂正、攻撃、防御を審判段階で尽くさせるという審判制度の仕組みをつくるということが、このキャッチボールを避けるためにはやっぱり重要ではないかと思います。
そういう意味で、キャッチボールを避けるならA案でいけば確実にできると思います。ただし、そうすると、権利者側として防御としての訂正のチャンスが少なくなってしまうというリスクを、どうやって審判制度の中で吸収するかというのが一つの解き口ではないかと思います。先ほど山下委員から出たような、審決後にもう一回チャンスを与えるというのも一つの手法でしょうけれども、先ほど企画室長からお話があったように、それでは最初からまじめにやらないのじゃないかというお話もあるということもあって、それで私も前回の委員会でちょっと申し上げましたけれども、訂正を審決後は認めないという制限をするのであれば、やはり複数の訂正請求を同時に審議できるような、いわゆるEPのスタイルのような予備的請求ができるという形でやれば、どこまでその予備的請求を認めるかということについてはやっぱり審理上の制限があるかとは思いますけれども、複数の訂正案を同時並行で審議して、それによって実際に審判官の考えていることがみえれば、また攻撃、防御もそれを介して尽くされるということで、納得いく訂正が、落としどころが審判でみえれば、後で不満は残らないのではないかというふうに思います。
ここの案にはございませんが、予備的請求という点もご検討いただいたらいかがかと思います。

作田委員

審決後に訂正を行うことは知財に対する熱意だとご理解いただければいいと思います。
C-1がシンプルでいいかなと思ってみてたんですけれども、審決取消訴訟を起こして差し戻すということは、訂正の可否並びに訂正後のクレームについて判断する権限がないのに、裁判所が何でこれを受け付けなくちゃいけないのか、という疑問があります。結局、特許庁に戻ってくるわけです。そうしますと、冒頭中山先生がおっしゃった、今後は裁判所に委ねることになれば、全部裁判所で行うというE案の方に近づいていくわけですけれども、E案に近づけるよりも、訂正は審判制度の中で吸収することを考えた方がよろしいのかなというふうに思います。A案に戻るのはちょっと勘弁していただきたいというふうに申し上げておきます。

丸島委員

私は、まだC-1がいいと思っておりますが、裁判所の立場で特許庁の中でもう一度審判をやってきたらいいじゃないかと。事実上、これ同じだと思うんですね。裁判所は何も手を下さなくていいわけだから、一定期間黙っていればいいわけですね。一定期間に訂正審判が起きたら、自動的に特許庁に戻るので。訂正審判がなければそのまま裁判所へ係属。裁判所は係属したら訂正がなしということですから、お手を煩わすこともないし。
それから、先ほど特許庁の方の心配している、1,000何百件のうちのわずかのために、全件、審決を2度やるのかという問題が避けられるということを考えますと、事実上は、これ一番シンプルでいいんじゃないかと思うんですね。再審決を出して、当事者が満足していれば訴訟は係属しませんし、ここから訴訟係属したら、後は訂正なしですから、裁判所もここから本気になってやっていただければいいのじゃないかと思うので、先ほどおっしゃったような意味でも、私はC案が理想的だと思っているんですが。

山下委員

今の丸島委員にちょっと弁解しておきますと、私がいったのは、C案でもキャッチボールといえばキャッチボールなんですね。キャッチボールを認めているからC案がいいとおっしゃるんだろうと思うんです、結局。キャッチボールをなくそうと思ったら、先ほど私がそれしかないといったそういう案になるんですね。だから、キャッチボールがいい働きをするというむしろ例として、私はC-1案を私が最初に独自に提案したものと比較して申し上げたのは、キャッチボールを認めるということがいい働きをする例として申し上げたのであって、これをやめろというつもりで申し上げたのではないんです。

大渕委員長

山下委員のお考えとしては、キャッチボールには良いキャッチボールと悪いキャッチボールがあり、キャッチボールが一律悪というのは妥当でなく、良いキャッチボールは行っていくが、悪いキャッチボールはなるべく避けていくというご趣旨のようですが、このような観点からすると、どの案がいいということになるのでしょうか。

山下委員

C-1なんか割にすっきりしてますね。

竹田委員

余りキャッチボールという言葉にこだわることもないとは思うのですけれども、山下委員が先ほどいわれたのはC-1案のまた変形で、訴え提起がないわけですよね。つまり、無効審判手続の中でのキャッチボールはあるということで。一般的にキャッチボールという場合には、特許庁と裁判所の間の往復をいってるのですから、特許庁内で2度審決するという意味で、そこでキャッチボールがあるといえばあるだろうと。それはいいキャッチボールだというのであれば、それもそうかもしれないと思いますが。
その上で、一言だけつけ加えたいのは、先ほどいいましたように、私はA案の方が問題の解決にはすっきりしていいと思いますが、その場合に、先ほどから出ている、審決が出た後権利者の救済として、こんな審決が出るのだったらばこういう訂正をしたかったという機会を与えるという意味では、A案をとった上で、牧野委員がいわれたような、無効理由通知だけでなしに無効審判請求をした請求の理由の中から、特許庁がどの理由で無効理由があるよという通知をして、それで訂正の機会を与えるというのも一つの解決方法だと思いましたし、また、山下委員がいわれるように、審決をして一定期間後に訂正請求をすれば、その当否を判断した上で再審決というのもそんなに大きくは変わらないのかなとは思いますが、その上に立ってみて、制度的にはどうしてもそこのところに何とか手当てが必要だというユーザーニーズを考えれば、A案を前提にした上で、今いったようなことで具体的な解決を図るというのは必要なことだと思います。
ただ、そのいずれをやったとしても、特許庁の審判自体が今300件と4,000件、それがどれだけになるかというのは前からしばしば私が危惧しているところですが、当事者対立構造をとり、それだけの審判でがっちりとした手続をとった場合に、果たして特許庁の審判部がもつのかなというのが私の率直な不安です。審判部を強化すればいいということは簡単ですけど、なかなかそうもできないのが現状だと思いますす。
その辺のところで、ぜひ一度、技監に審判部の現在の状況等を踏まえて、特許庁で今のような制度が可能なのかどうかということについてのご意見をちょっと聞かせていただきけたらと思うんですが。

小野特許技監

ただいまの竹田委員のご質問でございますけれども、先ほどから小林室長がお答えしていますように、今現在300件、4,000件の異議、合わせて何件になるかというシミュレーションでございますけど、これはわかりませんけれども、恐らくよくて半分ぐらい、2,000~3,000という形になりますと、これに対して全件いわゆる予備的に無効理由を出すということになると、確かに非常に重たいのかなという感じはいたしております。
そういうこともございまして、我々も当然裁判所に行かない前に何らかの手当てをする方法がないかということは議論したわけでございますけれども、量的な関係からこれは非常に難しいのではないのかなということになりました。それで、先ほど議論も出てますようにC案というのがございますけれども、これは裁判所にはご迷惑をかけない、自動的に一定期間後こちらへ戻ってくると、選ばれたものだけ来るという方向ですが、むしろこれの変形はあり得るのではないかと思っております。
先ほど山下委員からございましたように、裁判所でできるものは直接今でもご判断されているとならば、その辺を考慮した案があり得るのではないかと思っています。以上まとめますと、竹田委員のご質問に関しては、量的には非常に難しいなというふうに考えておりますので、むしろ提示案の中ではその案は入れていなかったというのが私の答えでございます。
以上でございます。

諸石委員

今の技監のご説明に対する質問なんですが、審判の中で訂正をやるということであれば件数はふえるけど、一たんそこで審決取消訴訟を経て、それから一定期間の間にという、その手続を入れると数は相当減るだろうと。実質的にはC案と引き続きとは同じことですね。そこで何が違うかというと、一遍裁判所を経由してくる。そうすると多分相当面倒だからというか、手続として重いから、余り熱心でないのが落ちてくるだろうと。現実にその効果を期待すると。いきなり訂正をさせるのじゃなくて、裁判所を経由した方がちょうどいいぐらいになるだろうと、こういう理解でよろしいのでしょうか。

小野特許技監

今の諸石委員のご質問でございますけど、私どももやはり裁判、出訴するということは、手続上又は経済的に、出訴手続に関してそれなりの負担もかかる、準備をしなきゃいかぬということですので、恐らく当事者の方は、できる限り審判なり行政庁の方で極力終えたいというように考えると思います。ですから、審判でもう一度できるということになると、先ほど申し上げましたように審決自体が非常に軽くなったり、最初の訂正が軽くなってしまい、件数が増えるという懸念がございます。あともう一つ、1回こういう形で裁判所に上がったときに、C案の場合は自動的に差し戻し的な記載でございますけれども、先程申し上げたように、もし続けて、裁判所の方で訂正を考慮しても審決を支持できるという案がとれれば、審判での訂正を慎重に行うだろうし、紛争の早期解決というのもあり得るのではないかと考えています。ご質問に関しては、諸石委員ご指摘のとおりに考えております。

大渕委員長

再び山下委員にご質問させていただいて恐縮なんですが、先ほどの良いキャッチボール、悪いキャッチボールという観点からすると、この大径角形鋼管事件みたいな非常に小さいレベルのほんの少しのクレームの訂正というようなケースの場合には、どういうことになるんでしょうか。

山下委員

あれは、結局、今のこの新しい制度のもとの制度じゃないんですね。

大渕委員長

大径角形鋼管事件と同じ事件が現行法の下で生じたとした場合にはどうなりますか。

山下委員

現行の、また別にあるという制度。実際には、それで既にできちゃっているんですね。あの事件で問題だったのは、訂正になったものを前提に、同じ手続の中で、もとの訂正前の無効事由に基づいて無効になっているその審決に対する取消訴訟の中で、訂正後のものについても判断できないかという問題になってくると思うんですね、法律的にいえば。私の考えていたのは、もとの無効審決で特許庁が判断している、その判断のいってみれば射程距離といいましょうか、その判断の射程距離。もっといえば、結局問題になる事件というのは、訂正後のものを前提にしても、訂正前に使われていた公知事実、それによって無効にできるのじゃないかと裁判所が考えられる場合のことなんですね。そういう場合には、できるようにしたらどうだろうかということなんです。簡単にいいますと。
しかもその判断については、もちろんまた難しい判断がたくさん出てくるとなると問題ですけど、どうももとの無効審決の特許庁が判断していることの範囲内で、それに対する評価として、裁判所が訂正後のものについても、これは無効だということができるのではないかという判断ができるときには、その同じ手続の中でやっぱり無効審決を維持するというようなことは考えてもいいのじゃないだろうかと思っております。現にあの判決をおやりになった竹田委員がおりますから、恐らくそういうお考えだったんじゃないかと推測しているんですけどね、それをやってみて。
結局、ただそれはだめだということになったものですから、今は基本的には訂正がなされますと、特許請求の範囲が減縮となると、返そうということには基本的になってますけれども、それはちょうど侵害訴訟でも、無効理由が明らかなときには特許庁の判断を経ないで、現実にはやってますね。あくまで侵害訴訟と審決取消訴訟というのは効力も違いますから、全く同じに扱っていいとは思いませんが、ただ発想としては、裁判所は特許庁とは違うんだけれども、違ったといっても裁判所がいて、かつ前の無効審決があると。それに対する攻撃、防御は当事者が尽くしていると。そういうことを前提にした場合、やっぱりこれは明らかにこうだということを裁判所にいえるような場合であれば、それはそのままやるというようなことにすれば、私のいう、よくないキャッチボールが避けられるのじゃないだろうかということ。
ただ、その中では非常にまたいろいろやらなきゃいけないようなことになったときは、それはパッと、特許庁さんお願いしますということで返した方が、はるかに全体として早くなるだろうと。裁判所がやらなきゃいけないんだということになると、それは中山会長がおっしゃった、裁判所の充実ぶりといいましょうか、いろんなこともあると思いますが、ただ同時にそれだけじゃなくて、制度としても今の制度をはみ出る要素がどっかから出てくるかもしれませんから、それはやっぱり検討しなきゃいけないだろうと。ただ、今の制度のもとでも、それは基本的な特許庁と裁判所との関係を変えないままでも、多分今よりももっと柔軟にできることはたくさんあるのじゃないかと。そして、今いろんなキャッチボールがよくないという批判のもとになっている相当のものが除去できるのじゃないかと個人的には考えています。

斎藤委員

A案に再度の訂正審判請求を加える場合、それからC案において訂正許可の申し立てをする場合に共通の質問というか疑問なんですが、その場合の訂正申し立て要件というのを絞るというのはできないんですか。こういう訂正については、無効審判段階でやってしかるべきだと。そうすれば、特許庁の方の負担というのもある程度回避できるという気がしたものですから。もちろん非常に非現実的であるといわれればあれですけれども、ちょっとご検討いただければと思いました。

木村審議室長

今のお話については、検討させていただきます。あり得るような気もいたしますけれども、済みません、ちょっとにわかには。私どもとしてどういうケースがそれに該当するか含めて、検討させていただければと思います。

竹田委員

今の点ですけれども、先ほどのような設例で訂正をするというのは、無効審決の理由となったところを回避して有効を保持するためのものですから、もう範囲は決まってると思います。そんなにいろんなものが出てくる、ほかのことと関連して訂正請求するということはまずあり得ないわけで。だから、原則的にはクレームの減縮、不明瞭な記載の釈明もあるでしょうけれども、それはあくまで審決が無効としたところにねらいをつけて、逆にそこを回避するための訂正をする以外はまずあり得ないのじゃないかと思いますが、それ以外の訂正をしてみたところで、全然特許は生き返ってきませんので。だから、その点での要件絞りというのはなかなか難しいかなと思いますけど。

斎藤委員

ただ、実体的な訂正理由だけではなく手続的な観点ですね。一番極端な例ですと、先ほどから議論が出ています職権探知の場合には、事前に無効理由通知があるわけですから、それにもかかわらず審決が出てから訂正を出してきた、それがいいのかどうかという問題があるのではないかなと。

竹田委員

それはあるかもしれませんね。

中山部会長

時間も少ないので簡単にいいますけれども、キャッチボールをなくすとすれば、それは山下委員おっしゃったとおり、A案かそれをモディファイしたものしかないと思います。ただ私は実務家でないのでわかりませんけれども、ユーザーの要望にたえ得るかどうかという点と、特許庁のキャパシティーに耐え得るかという点にかかっていると思います。私は、多分難しいのじゃないかという気はしているんですけれども、それは実務家でないからよくわかりません。そうでないとすれば、これは先ほどから山下委員もおっしゃっているとおり、審判と訴訟の二重構造というのは避けがたいわけです。
したがって、どっかで必ず何か問題は起きてくるんですけれども、私はやっぱり山下委員のおっしゃったとおり、なるべく裁判所でわかるものは裁判所で判断してしまうことがよいと思います。キルビー判決の趣旨ですね、あの趣旨というのは、なるべく裁判所でもできるものはやる、わからないとか自信がないとか明らかなでないものは、それはキャッチボールでもう一回特許庁に返すのもやむをえない。このキャッチボールはシステム上やむをえないと思うんです。裁判所がどこまでやるかというのは、平成11年最高裁判決等ありまして、現在のところかなり厳しい。むしろ特許庁に戻すのが本筋であると考えられていると思います。C案でも、原則として差し戻すということでもありますけれども、私はむしろ差し戻しできるぐらいで、裁判所が自分で判断できないと思ったら差し戻すという程度が、実際は一つの紛争を短くするための一番いい手段じゃないかと思うわけです。
先ほども述べましたが、ほんとは昭和51年大法廷判決も考え直してもらいたい。この大法廷判決があると、一つの訴訟は早く終るかもしれないが、またもう一回無効審判が起きるというところがあるわけです。キャッチボールはなくなっても、新たなボールを投げてくることになり、結局一つの紛争としてみた場合には、終結に時間がかかることになります。裁判所ができるものは裁判所でやるという方針が私は一番いいと考えています。

牧野委員

差し戻し判決とありますが、これは決定ではだめなんですか。こういう特許庁に戻すだけの裁判なら、必要的口頭弁論を経ずしてやった方が、裁判所としては早いような感じがするんですけど。

小林審判企画室長

決定か判決かという手法については決め切ったわけではないのですけれども、内部で検討した折に、訂正が絡むケースなので差し戻しの審判の結論ともとの審決の結論とが逆転することがあるだろうという議論がありました。そうすると、審決取消訴訟をそのまま係属状態におくと、原告、被告がどっかで入れかわるケースが生じかねないことになります。そうだとすると、最初の事件についていったん訴訟係属を切る形の措置の方がよいのではないか。そのためには、差し戻しの決定ではなくて差し戻しの判決の方がよいのではないかということで、一応このように書き起こした次第でございます。

大渕委員長

そろそろ時間も過ぎてまいりましたが、ほかに、最後に特にご意見等ございましたら。
それでは、本日の小委員会はこれくらいにしたいと思います。
それでは、最後に事務局の方から事務連絡をお願いいたします。

木村審議室長

次回の小委員会でございますけれども、9月30日月曜日午後3時からの開催を予定させていただいております。よろしくお願い申し上げます。

大渕委員長

それでは、本日の第4回の紛争処理小委員会を閉会させていただきます。
本日も長時間のご審議、ありがとうございました。

――了――

[更新日 2002年10月7日]

お問い合わせ

特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室
電話:03-3581-1101 内線2118
FAX:03-3501-0624
e-mail:PA0A00@jpo.go.jp