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第5回紛争処理小委員会 議事録

特許庁総務部総務課
工業所有権制度改正審議室

  1. 日時:平成14年9月30日(月曜日)15時00分~17時00分
  2. 場所:特許庁 特別会議室
  3. 出席委員:大渕小委員長、中山委員、秋元委員、斎藤委員、作田委員、佐藤委員、竹田委員、中西委員、牧野委員、松尾委員、丸島委員、蘆立委員、山下委員
  4. 議題:侵害訴訟と審判制度との関係、判定の在り方について
議事録

大渕委員長

定刻となりましたので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会の第5回紛争処理委員会を開催いたします。
本日も御多忙の中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。
早速、議事に入らせていただきます。

大渕委員長

それでは、まず本日の議題であります侵害訴訟と無効審判との関係、それから判定制度の在り方につきまして、事務局より御説明をお願いいたします。

木村制度改正審議室長

それでは、まず配付資料の確認をさせていただきます。
クリップ止めをとっていただきまして、資料は2点でございます。まず資料1が「侵害訴訟と無効審判との関係について」、それから資料2でございますけれども、「判定制度の在り方について」でございます。御確認いただければと思います。
それでは、資料に沿いまして簡単に御説明を申し上げます。
まず、侵害訴訟と無効審判との関係でございます。
これにつきましては、キルビー判決が平成12年に出まして、それの影響が縷々取りざたされておるわけでございますけれども、基本的には現行制度を前提に考えた場合、どのような改善、改革があり得るのかという視点からことで紙をまとめさせていただいております。
まず現行制度でございますけれども、特許権の侵害行為の有無を争う民事訴訟である侵害訴訟と、それから有効性を争う無効審判である行政訴訟が併存しておりまして、対象が異なっている。これらにつきましては、審判前置主義というものを前置しておりますし、それから訴訟手続を中止することができるという規定は置かれておりますけれども、それ以上の具体的な調整規定というのは置かれておらないわけでございます。
キルビー判決以前は大審院以来、ずっと裁判所において特許の当否、その効力の有無を判断することはできないということで一貫してまいっておりまして、したがいまして、無効審判継続中は訴訟を中止するという運用が行われてきたということでございます。
2ページ目に進まさせていただきまして、キルビー判決が平成12年4月に出された。これは具体的には特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は特に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができるとすべきであるという中身になってございます。審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差し止めまたは損害賠償等の請求は特段の事情がない限り権利の濫用に当たり、許されないという判示がなされているということでございまして、具体的なその理由でございますけれども、1つは、やはり無効が明らかであるような特許権に基づいて差し止め、損害賠償というのは公平の理念に反するのではないか。それから、短期間に1つの手続で解決するということになりますと、必ずしも無効審判を通じて対世的な無効まで求める意思のない当事者にそれを強要することになって、それは必ずしも適切ではない。それから、現在、中止できる旨の規定が特許法に置かれておりますけれども、それは必ずしも訴訟手続を中止すべきであるということを意味はしていないということでございまして、判決後、様々な影響が出ておるわけでございます。
1つは権利濫用の抗弁というのが侵害訴訟で行われる件数が顕著に増加しているということでございまして、直近の1年間をとりますと103件中50件という比率になっております。
それで、権利濫用の抗弁と無効審判双方が使われるケースも当然ございまして、後ろに表をつけてございますけれども、約30%程度あるということでございます。
どうしてこれは重複して使われるのか。1つの理由は、やはり裁判所の明白性の判断基準というのが必ずしもまだ判例上、十分定まっていないということがありますし、やはり無効審判は対世効があるわけでございますので、当事者がその使い分けを行っているということがございます。当然、こういう重複的請求が行われているということは、すなわち双方の判断が異なるという場合があり得ることを意味しておりますが、双方の判断が相違したケースとして2件あるということでございます。
具体的には、侵害訴訟の判決では、明白な権利無効であるということを認定したにもかかわらず、審決において権利を有効としたケースということで2件ございます。
他方、中身を見てみますと、下に「注1」というところで書かせていただいておりますけれども、ケース1は当事者の理由の出し方が異なっているケース、ケース2というのは、法律解釈の違いに判断が相違した理由が求められるものになっております。
4ページでございますけれども、具体的にこの問題は一体何が問題なのかということについてまず頭の整理をさせていただいた上で、その上でどのような改善があり得るのかということを検討するのが順序かなと考えております。
当然、1つございますのは、それぞれの判断の相違というのが起こるという問題でございます。それから、双方で同じように権利の有効、無効が争えるわけですから、権利者の対応負担というのが出てくるということでございます。
まず判断の相違でございますけれども、特にやはり侵害訴訟において明らかに無効であるということが認められながら、特許庁が有効の審決をするというケースにおいて、その問題性というのはより顕著になるのかなと考えております。他方、いわゆる訴訟一般におきましては、同一の社会的事実について結論が異なるということは、それ自身はあり得るわけでございまして、例えば同一の特許権をめぐる2つの侵害訴訟が起こって、一方で権利濫用の抗弁が認められて、他方では認められないということも当然それはあり得るわけでございまして、これは自由心証、あるいは裁判官の独立といった民事訴訟の基本原理から出てくる問題であるということでございます。
産業財産権のこうした領域につきましては、行政処分と民事訴訟というのが分離されて独立したものとして存在しているわけでございますけれども、基本的にはこれは特許庁と裁判所の機能が分かれているということよりも、むしろやはり行政事件と民事事件というものが最終的には分離をしたものとして併存している。そのそれぞれで有効、無効が争えるという形になっているということがもともとの基礎にあるのではないかということでございます。
そこまで振り返って考えますと、行政審判と民事事件、行政事件と民事事件はその制度の目的というのは全く異にするわけでございまして、職権主義と当事者主義、あるいは対世効と相対効といった、そういう問題まで考えていきますと、それぞれが結論的に違うことそのものが問題ということでは必ずしもなくて、ことさらに結論を合致させるというのはある意味では適切ではないとも考えられるわけでございます。もっとも、その「紛争の一回的解決」という観点から両者を統合する、あるいはそのいずれかをなくすといった、そういう結論もあり得るのかもしれませんけれども、そこまで行きますと紛争処理制度の在り方そのものも、全体を見直すということになるわけでございます。
それで、(2)の対応負担の問題でございますけれども、1つは、無効審判の結果には対世効があるということで目的が違うわけでございます。それから、第三者による無効審判というのを排除することはできないわけでございまして、権利者が確かに2つの手続に対応しなければならないということはそのとおりでございますけれども、それは制度の趣旨が違うのであろう。あるいは、仮に侵害訴訟で片づくのであれば、無効審判をことさらに請求する必要がないというケースもあり得るわけであって、必ずしもこのことをもって権利者の対応負担が著しく増加していると評価することは適切ではないのかもしれないとも考えております。
それで、基本的方向性と解決の可能性というところでございますけれども、そうは申しましても、実際に無用な判断の相違というのが仮に起こるとすれば、そういうものをなくしていくということはできましょうし、あるいはそれぞれの役割分担であるとか連携の在り方というものを、現在の制度を前提にしてもより強化するということはできるのではないかということでございます。
2つ大きく分けてございまして、1つは審判と侵害訴訟の進行調整でございます。6ページでございますけれども、特許庁と裁判所の間の判断の相違というものを縮小していく、そのためにどちらかの一方を例えば中止をする、他方を優先的に行うといった進行調整を行うというのが一案でございます。現在、当事者から中止の申し出がなされた場合であって、裁判所が必要と判断する場合は、裁判所は訴訟を原則中止しておられるわけでございます。特許庁でも無効審判を中止するという手続はございます。他方、さらにこれを進めまして、何らかの進行調整というのを在り方として強化するということはあり得るのかどうか、それについて御議論いただければと考えております。
ただ、実際、進行調整には限界もございまして、当然、無効審判は第三者から起こされることもあるわけでございますので、そこまで進行調整の対象に広げることは難しかろう。それから、無効審判そのものを当然早く終わらせるということは重要なわけでございますけれども、侵害訴訟が終期になりました段階で、そういうケースで無効審判が請求される、そのような場合はやや特許庁のみではいかんともしがたい場合があろうかと考えております。
それから7ページでございますけれども、当事者の主張・立証情報の共有化ということでございます。(1)がどちらかと言いますと手続面での在り方だとすると、(2)はより実質面での情報の共有化という問題があり得るということでございます。
1つは、特許等の有効性に関する主張・証拠等ということで、maru01でございますけれども、例えば無効理由の証拠がそれぞれ別のフォーラムですので、別のものが出されてくるという可能性があり得るわけでございまして、これは情報を共有してはどうかというのがあり得るということでございます。現行の特許法では、実際は開始とか終結の時期、あるいは審判請求の有無といったものの情報を共有しているにすぎませんので、中身については必ずしも十分情報が共有されているわけではないということでございます。
他方、侵害訴訟は民事裁判、民事訴訟でございますので、当然口頭弁論で主張された事実と証拠のみを基礎として判断されるというのが前提でございますので、それについて逆に特許庁サイドから余計なことを申し上げると言いますか、そういうことは妥当ではないということは当然あるわけでございます。逆は当然あり得ます。無効審判は職権探知主義をとっておりますので、そういう問題はないわけでございます。
ただ、当事者が主張・立証する、そういう構造を前提に無効審判も展開はしてまいるわけでございますので、職権調査と言いましても、どこまでそういうことに踏み込んでいくべきかという問題はあるのかという気がしておりますし、それから通常、無効審判においては十分に強力と考えられる無効原因というのは、通常は当事者から出てくるということでございますので、余りこういう議論そのものは実益がないという見方もあり得ると思います。
それから、クレーム解釈についての主張というのがmaru02で書かれてございます。8ページに進んでいただきまして、一般的に特許権者は、侵害訴訟では侵害被疑物件を包含するように権利範囲を広く主張する。他方、無効審判においては無効原因を包含しないように権利範囲を狭く主張するという傾向があるわけでございまして、これは当たり前のことかもしれませんけれども、フォーラムがそれぞれ分かれていてお互いに連絡がないためにそういう主張の相違というのが顕在化しにくいということはあろうかと思います。そのために、審判合議体が侵害訴訟において両当事者の主張を知らないままに無効審判の審理を行って有効性の判断を行う、その結果、豊富な証拠に基づく適切な審判の審理結果が期待できないという事態もあり得るわけでございまして、これと同様のことは訂正審判においても起こり得るということが考えられます。
当然、職権探知で無効審判を進めていくわけでございますので、当事者の方に求釈明を使って釈明を求めるということもあり得るわけでございますけれども、それでも明らかにならない場合は、具体的に裁判所サイドから何らかの情報を入手するといったことがあり得るのかどうかという点でございます。
それで9ページ、具体的な御提案でございますけれども、(1)でございますが、まず中止による侵害訴訟と無効審判の進行調整ということで、優先審理を具体的に考えてはどうかということで、必要的中止規定のようなものを設けるということが考えられるということでございます。現在、実用新案法は実は必要的中止規定が置かれているということでございます。ただし、実用新案は無審査主義でやっておりますし、それから具体的には弊害として訴訟の進行妨害といった、そういう趣旨での無効審判請求を助長しているのではないかという議論もございまして、そのまま特許法に採用するということがいいのかどうかということはございます。
それから、第三者からの請求の場合、あるいは必ず中止するということになりますと、有効、無効の判断のみならず、例えば侵害の有無といった判断もすべてできなくなってしまうということになって、これは必ずしも訴訟経済上、好ましくないという考え方もあり得るというわけでございます。
実態問題としては、現在、裁判所と特許庁の間で侵害訴訟と無効審判の審理の進捗状況については問い合わせであるとか回答ということはなされておりますので、こうした実務を一層機動的に行うということで、現行の中止規定というのをより一層活用していくということはあり得るのではないかと考えております。
10ページでございますけれども、情報の共有化でございまして、まず裁判所から特許庁サイドへは求意見制度、これは第4回の小委員会でも別の形で御議論していただいたポイントでございますけれども、そういうものを置くというのが一案ではないかと考えております。独占禁止法83条の3に類似の制度がございまして、その条文がここに引用されておりますけれども、求意見というのが1つある。それから、特許庁サイドへの鑑定嘱託というのもあり得る。これは現行の民事訴訟法上でも嘱託鑑定というのはあり得るのではないかということだと思いますけれども、特許法の71条の2という条文を見ますと、「裁判所から発明の技術的範囲について鑑定の嘱託があったときは、3名の審判官を指定して」ということで、ことさらに特許庁の中の体制の問題をここで条文化しておりますので、こうした審理体制に関する規定を無効理由等についても整備をするというのも一案かと考えております。
ただ、前回もたしか議論させていただいたと思いますけれども、こういう鑑定であるとか求意見であるとか、こういうものにつきましては、特許庁自身がそのために十分な情報というものを双方の当事者から聴取するという手続になっておりませんので、その辺で十分な議論に基づいた責任ある判断というものをしていくことに限界がある。もし求意見で述べた内容と、仮にその後、無効審判が請求されて、そこで行った審決の結果が異なってしまうということになると、そういうこともあり得るとは思うのですけれども、訴訟当事者にとっては非常に不満、あるいは不信といったものが生じる可能性はあるのかなということでございます。
最後でございますけれども、侵害訴訟における当事者の主張・立証情報の入手の容易化ということで、訴訟で主張された権利濫用の抗弁に関する情報ですとか、あるいは侵害の存否におけるクレーム解釈、そういった情報を十分考慮して無効審判、訂正審判での審理というものを充実していくということでございますので、当事者に侵害訴訟でも主張・立証情報の提出を促すということは当然でございますけれども、裁判所からも情報取得というものを容易化するということが果たして妥当かどうかということについて御議論をいただければありがたいと考えております。
時間もございませんので、続きまして資料2を急いで説明をさせていただきたいと思います。
済みません、中身はガラッと変わりまして判定制度の在り方でございます。
判定自身はある種、ADR、裁判外の紛争解決手続として位置づけられている、そういう側面もございますので、まずそれとの関係で議論をした方がいいのではないかということで、「ADR拡充の必要性と判定制度」というタイトルで1章を起こさせていただいております。今、当然のことながら、現状、ADRというのは司法、行政、民間、さまざまなものがあるわけでございまして、ADRの利点というのは紛争解決の迅速性、あるいは柔軟性、あるいは秘密保護といった点で訴訟を回避しつつ、その中で適切な手法が選択できる、そういうところにメリットがあるとされております。
注では調停でございますとか仲裁でございますとか、そういうことについての解説をさせていただいております。
2ページでございますけれども、特に知的財産に関する紛争解決は迅速性が求められますし、営業秘密の保護といった観点から処理過程の秘密が保たれるということが重要である、そういう場合もあるわけでございます。他方、知的財産の領域を含めまして、我が国でADRというのは必ずしも活用されてきたわけではございません。特に、性質上、企業間の複雑な取引であるとか、あるいは知的財産の侵害に関する紛争といったものにどこまでADRというものが対応し切れているのかということでございまして、訴訟に比較するとその利用件数というのはごく少数になっているということでございます。
(3)で、さはさりながら、いろいろな御指摘をいただいていることも事実でございまして、まず2段落目ぐらいに「司法制度改革推進計画(平成14年3月19日)」というのが書いてございますけれども、ここでは「日本知的財産仲裁センターや特許庁(判定制度)等のADRを拡充・活性化し」と書いてございまして、平成16年3月までに各種の所要措置を講じるということになっております。
それから、3ページ目でございますけれども、知的財産戦略大綱、ここでは「仲裁等の裁判外紛争処理手続(ADR)の強化を図るべきである」と指摘されております。いうことで、特に判定等についての言及は直接的にはここでは行われていないということでございます。「2005年までに日弁連、日本弁理士会等の関係者間で検討を行い、所要の措置を講ずるように要請する」という表現ぶりになっているわけでございます。
それで、こういう流れの中で、現行の判定制度というものをまず評価する必要があろうということでございまして、これは御承知のとおり特許庁が当事者の請求に基づいて特許発明の技術的範囲を判定する制度であるということでございます。やはり技術的範囲というのは非常に重要な問題であるけれども、こうした認定というのは容易ではないということで、そういうニーズにお応えする制度として昭和34年来置かれているものでございます。これは特許庁の意見表明であって、法的拘束力はございません。それから、これの申し立てについては利害関係が要求されない、それから被請求人が判定の利用について同意していることも必要ではございません。仮想事例について判定することもできるということで、非常に幅広いものになっているわけでございます。
それで4ページでございますけれども、平成11年の法改正で、従来、制令で定められておりましたこの手続を特許法に格上げをいたしておりまして、手続規定をより充実させるということにしております。
現在の利用状況でございますけれども、年間、特許で大体100件程度ということでございます。件数的にはさほど多くないという評価も可能かもしれませんけれども、アンケート調査等を行いますと、やはり個人の方、あるいは中小企業に方にとって利用されやすい制度になっているということで、これは1件4万円という非常に低廉な費用で使っていただいているということにもよるのかもしれないということでございます。
いずれにしても、技術的範囲を評価するだけでございますので、それ自身はADRではないわけでございます。他方、双方、当事者が結果に従うといった合意をもってADR的なものとしてこれを使うということもあり得なくはないわけでございまして、少なくともそのベースになるものであろうということでございます。そういう意味で言うと、判定制度に対するニーズというのはあることは事実であろうということでございます。
5ページの3でございますけれども、判定制度以外に現在存在しております民間のADRについて一言触れさせていただくと、仲裁センターがございます。これにつきましては日本弁護士連合会と日本弁理士会が設立した法人格のない機関であるということで、仲裁鑑定も行っておられるわけでございますけれども、利用実績は今のところ必ずしも伸びている状況にはないということでございまして、民間のADRがまだ十分定着しているという状況は、必ずしもそういうふうには評価しがたいわけでございます。
4.で、こういう民間の現状ないしは世の中の議論の状況をかんがみまして、判定制度をどうするのかということでございます。繰り返しになりますけれども、判定そのものというのは完全なADRではないわけでございますけれども、ADRの機能強化という文脈の中で仮にこれを検討するということにするとどうなるのか、そのための前提として3つほど基本的な問題意識を挙げさせていただいております。
1つはADRに対する官民の役割分担ということでございますが、基本的には司法とか行政は基礎的なインフラとしての裁判制度であるとか、あるいは特許庁であれば特許査定、あるいは審判といったそういう基本的なインフラの維持運営に集中をすべきであって、基本的には私的自治の原則が適用されるべき、そういう領域において、民と民の紛争に官が出しゃばると言いますか、そういうことは本来必要ないのではないか、そういう議論というのはあり得ると考えております。それから、仮に国がADR的な機能の一翼を担うべきであるとするならば、司法か行政かというような問題もあるのかもしれません。
それからmaru02でございますけれども、公的サービスとして仮にADRを提供せよということであるならば、当然料金水準というのはやはり慎重に決定しなければいけないということだと思います。現在、4万円という非常に廉価でこれを提供しておるわけでございまして、こういう廉価なサービスというのは出願その他の費用から回していると言いますか、そういうコストの転嫁が起こっているわけでございます。このように行政処分性が全くない、紛争解決の一種のお手伝いのようなものについて実費を取らないということ、あるいはそれがひいては民業圧迫になりかねないのではないかという御批判があることは事実でございまして、政策的にその料金水準というのはやはり改めて判断をしていく必要があるのかということでございます。
maru03で特許庁の機能限界ということでございますけれども、紛争全体の解決を図るということになりますと、当然損害額の認定でございますとか、あるいは両当事者に例えば和解の勧告をしたり、いろいろなことが必要になるわけでございまして、一種それは非常に裁判所的な機能だと思いますけれども、そういうことを十分やれるだけの経験の蓄積、人的資源というのは今の特許庁にはないだろうということでございます。
選択肢としては7ページに3つとりあえず書かせていただいております。1つは判定制度を本格的なADRとして強化拡充するというものでございます。双方、当事者の同意のもとに損害額の認定、最終的な紛争解決-、仲裁を1つ念頭に置いたものだとするとそうなりますけれども-、そういう総合的なADR制度というものを官で持つのだというのが1つの案ではあろう。ただし、これは先ほど特許庁の機能限界として申し上げたように、直ちにこれを特許庁ですべてやるというのはさすがに難しいかなということでございまして、別途の体制整備が必要になると思われます。
それから、判定制度を廃止するという案、これはやはりADRとして本来発展すべき民間のADRをこうした廉価なサービスの提供が圧迫をしているのではないか、あるいは基本的なコストの転嫁が起こっているのではないかということを考えますと、もはやこういう民間の基本的な紛争処理のお手伝いと言いますか、そういうことはもう私的自治の原則に従って民間のADRに全面的に委ねてはどうかという考え方もございます。他方、当然のことながら、現在の判定制度には顧客があるわけでございますので、そのユーザーニーズというものを十分評価、検証する必要はあろうということでございます。
それから、Cでございますけれども、現在の判定制度は判定制度として維持をしつつも、民間ADRの発展に向けた支援として位置づけてはどうかということでございまして、判定業務に民間ADRの専門家を例えば導入する、あるいは判定業務の全部または一部を民間ADR機関に委託するといったことが考えられるということでございます。
ただし、そのことに伴いまして、民間のADRが実際にそれで強化をされるのか、あるいはやはり看板というものが仮に重要であるとすれば、民間にそういうことを委託させていただいた場合に信頼感の向上といったものに直結するかどうかといったそういう問題については十分な見極めが必要になるのではないかと考えております。
事務局からの説明は以上でございます。

大渕委員長

詳細な御説明、ありがとうございました。

大渕委員長

それでは、今、御説明のありました侵害訴訟と無効審判との関係、それから判定制度の在り方というこの2つの論点について自由に御討議いただきたいと思いますが、論点が非常に違っておりますので、分けて、まずこの資料1の侵害訴訟と無効審判との関係につきまして、御質問、御意見等をお願いいたします。
どうぞ。

竹田委員

前半の部分について、3点ばかり意見を述べさせていただきます。
まず、一番最初に4ページから5ページにかけてですが、判断の相違についてということで、侵害訴訟と無効審判の判断の相違について、行政手続、訴訟手続の違い等から来る判断の相違が生ずることは、これは制度的に当然のことであるという趣旨に基づいて書かれているわけですが、4ページの終わりから2行目のところに、行政事件、とりわけ行政審判と民事事件とはその制度、目的を異にするものであり云々と続いて、5ページのところで、「侵害訴訟の結論と無効審判・審決取消訴訟の結論をことさらに合致させる必要はなく、むしろそのようなことは適切ではないとも考えられる」とありますが、このような考え方というのは、私は間違った考えではないかと思っております。
今言ったように、行政手続である行政審判と民事訴訟というのが、これはどういう違いがあるかということはだれでも知っていることでありますが、特許権のように審査、さらには審判手続、厳格な行政手続を踏んで設定登録されて、そして権利として成立しているものについて全く異なった有効性について、有効、無効というような異なった判断が出るということは、これは明らかに法的安定性を害することにはなるわけで、それが望ましいことであるとは決して思いません。むしろその2つの結果が手続的に違っても、そこで出てくる判断の結論ができるだけ一致するようになっていくのが本来望ましい制度ですし、それがあるからこそ、また紛争の一回的解決の問題も出てくるわけです。そういう意味で、そういうことはむしろ適切ではないというのは、私は決して正しい考えではないと思います。
その上、もう一つ考えてもらいたいのは、権利者の立場のことをやはり配慮したような文章を書いてほしいということです。今言ったような手続で権利者が苦労して特許権を取得して、そして自分で特許発明を実施する、ライセンス契約をする、侵害者に対して権利行使をする、裁判所から侵害だと言われて、いざ最終的な判断に至ろうとするときに無効の判断が出る、そういうようなことがあるということは、権利者にとっては非常に厳しい状況に置かれることであって、そういう状況というのはできるだけ避けなければならないからこそ、今のような従来の裁判所と特許庁との権限配分の上に成り立つ日本の特許制度をどうすべきかということが問題として出てくるわけで、少なくとも、ユーザーフレンドリーを旗印にしている特許庁がこういう文章を書くということは、私はいささかどういうものかという感じがいたしております。
そこのところはそれだけですが、2番目のところは訴訟手続の中止に関するところが6ページと、それから今後の法律の改正の問題が9ページとに出ております。6ページのところで、現在、当事者から中止の申し出がなされた場合に裁判所が必要と判断したら訴訟手続を原則中止しているとあるのですが、私はそのような、申し出があれば原則中止するというような手続が行われているとは理解していません。特に、キルビー特許判決以前におきましては、特許庁で無効の審決がなされて、審決取消訴訟が提起されますと、むしろ原則的に中止することが多かったと思いますけれども、現在は、キルビー特許判決以後は、むしろ審決取消訴訟が提起されても手続を進行するのが通常であり、例外的に中止する場合もあると思いますが、そちらの方が通常であって、それだからこそ権利濫用、特許の無効であることが明らかであることを理由とする権利濫用による請求棄却の判決が相次いでいるわけです。その点から言うと、どのような資料の調査のもとにこういう記載がなされているのかについてお聞きしたいと思います。
それの延長線上にありますのがこの9ページのところで、無効審判請求がなされていることを理由に中止の申し立てがあったときには、明らかに必要がない場合を除いて、審決があるまで訴訟を中止しなければならない。まさにこれこそ先ほど私が言ったようなことで、制度的にどうしていくべきかを検討している流れに逆らうような規定になると思います。これは紛争の一回的解決をどうするか、2004年12月までに決められることで、話によりますと、司法改革本部等でその点は検討されるようでありますけれども、それにしても明らかに流れにその逆らうような規定をここで設けるようなことはやるべきではない、私はそう思います。
それから、3番目が特許庁と裁判所の情報の共有化です。これは可能な限りは私も現職中には特許庁と裁判所の間の情報の共有ということは考えてきましたし、その後、法律改正等でなお進んでいるとは思うのですけれども、そうだからと言って、行政と司法とは手続的にはやはり厳密に区別して行わなければならないのであって、10ページの一番頭に書いてある権利濫用の抗弁がなされたときに、裁判所が特許庁に意見を聞いて、それで特許庁がどういう意見を言うかわかりませんけれども、それは無効になりそうですという意見などを言ったとしたら、それこそまさに審判手続の結論を事前に公開の法廷で開示することになりますし、ほかにその点で独禁法で出ているような法律の適用その他の必要な事項というのはどこまで言うのかは私も精査しているわけではありませんけれども、このような特許の有効、無効に関するような点に関して、そこで特許庁が意見を述べる制度というのは到底考えられないであろう、そういうふうに思います。
鑑定の嘱託で技術的範囲に関すること等についての嘱託がなされるということは、これは規定から出ていることですし、それはまた鑑定という訴訟手続を使っての手続ですから、それは次元を異にする問題である。一応、その3点について意見を述べます。

木村制度改正審議室長

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

木村制度改正審議室長

まず2点目にいただきました竹田先生のコメントでございますけれども、済みません、ちょっと言葉足らずだと思いますけれども、あくまでも中止の申し出がなされた場合で、裁判所が必要と判断した場合、訴訟を中止しているとそこはお読みいただければと思います。「原則中止している」というのが言葉として非常に強いのかなということだと思いますし、これについては実態を再度、精査をしたいと思います。
それから、一番最初のポイントでおっしゃられた全く違った判断が出るということで法的安定性が害されるというのはまさにそれはおっしゃるとおりでございまして、逆に言うと、無用な判断の相違というのは極力なくす方向で我々としてその手続なり、あるいは実態的な情報の共有化ということで何が適切かということをまさに御議論いただければありがたいと存じます。それにつきましては、現行制度の枠内で、ということでとりあえず私どもも考えておりますので、そういう趣旨であると御理解をいただければありがたいと思っております。

作田委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

作田委員

今の竹田先生の話と若干オーバーラップするかもしれませんけれども、まずいわゆる提言として書いてあることに関してですが、そもそもこの議論は紛争の一回的解決ということからスタートしておりまして、今まで知財研-知的財産研究所、あるいは経済産業省での阿部委員会等々において相当議論をされて、いわゆるキルビーを超えて侵害訴訟における有効性の判断をするかしないかという議論がなされ、産業界としては侵害訴訟、つまり裁判所で有効性の判断もしてほしいと要望をしてまいったわけでございます。しかしこの議論は司法制度改革でやるべきであるということで、本小委員会では取り上げないのであれば、この提言に書いてあるような改正を司法制度改革と分離した形でやっていくというのはいかがなものかというのが1点でございます。
それからもう一点は、本日の資料に関してでございますが、一言だけ言わせていただきますと、7ページのところに「クレームの解釈に関する主張等」という項目がございますが、その次のページの真ん中から下の方に、「このように当事者が侵害訴訟と無効審判や訂正審判との間で矛盾する主張をしたとしても」云々として、「不適法とは言えない」というふうに片づけられております。しかし、これは紛争の当事者としては、「不適法と言えない」の一言で片づけられたらたまったものではないと言わざるを得ないのであります。
したがいまして、今回の知財大綱等で議論されておりますとおり、本件に関しては、特許庁の役割と裁判所の役割というものをもっと明確にするべきではないかと思うわけであります。無効審判の在り方で当事者系云々という話がございましたけれども、私は特許庁における審判制度というのはあくまでも審査の正当性の担保であると考えており、侵害訴訟における有効性の判断という民・民の争いにまで行政庁たる特許庁が何故出てくるのだという議論がありましたように、民・民の争いの侵害訴訟における有効性の判断について、特許庁が行うのはおかしいと思います。即ち、クレーム解釈について、対公知例、対公知物件に対しては特許庁がやる、それに対して、対イ号物件については裁判所がやるということになるわけでございまして、ユーザーとしての権利者ないし請求者にとっては、利用しやすい制度ではないと考える次第でございます。

小林審判企画室長

最後の点だけちょっと釈明をさせていただきますと、まさに作田委員がおっしゃったような問題意識でペーパを書いたつもりでございます。例えば8ページの注1を見ていただきますと、無効審判と侵害訴訟における有効、無効の判断、これが別のフォーラムで起きているがゆえにこういう問題が起きるというのがここで書いた問題意識の背景でございまして、作田委員が御指摘の点は理解した上で書かせていただいたつもりでおります。またそうした問題が良いことだという立場では書いたつもりはございません。

丸島委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

前回の件にも多少関係するのですが、先ほど、竹田先生がおっしゃった行政と司法の間の特許に関する有効性、無効性の判断は、私は一致してほしいという考えでは竹田先生と全く同じなのですね。これは権利を尊重するという立場からして、それの食い違いがあって当たり前だということになると、権利を尊重する側からして判断しにくくてしょうがないと私は思うのです。前回でもそういう意味で、審決取消訴訟でも当事者系だとはおっしゃっていても、職権の問題が入っている。だから、裁判所で特許庁も参加して、とにかく考え方を合わせるように特許庁も入ったらいいのではないかという考えで私は申し上げたのですけれども、いずれにしても、有効性、無効の判断というのは余り食い違うというのは好ましくない。審査を厳しくやるとかやらないとかという問題ではなくて、判断が一致することが大事だと私は思うのですね。しいて言えば、方向性を一致した判断をしてくれるのが企業にとっては予見性が一番高まるわけです。それが崩れるようだったら、知的財産管理が非常にしにくくて困るというのが大前提でございます。
今回もそういう意味で、私は一回的解決ということを前提で、侵害訴訟における有効性の判断というものはやっていただきたいという点では作田委員と同じ考えなのですけれども、ただ、竹田先生がおっしゃった司法改革本部ですか、そちらの方でやるということで、それに水を差すとおっしゃられたのですが、私はそちらの方で本当に前向きで検討していただけるのかどうかむしろ疑問を持っている方なので、ここで前向きな考えをまとめてそちらに出すというぐらい考えていただきたいと思っているのです。そういう意味からすると、提案したこの1、2、3という案は余りにも消極的過ぎて、中途半端になって、今ここで結論づけるにはむだなような気がしてしょうがないのですね。
だめになった場合にどうするかという問題は、いろいろ意見はあるのですが、皆さんのおっしゃるように現行のことからだめだ、だめだ、だめだと言われるとやりようがないので、現状のまま放置した方がいいのではないかと思うぐらいなのです。ですから、そういう程度でとどめるのではなくて、一回的解決が進行するようにぜひ両方で連携をとって進めていただきたいと思います。
以上です。

松尾委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

松尾委員

無効審判と侵害訴訟をできれば一回的に解決した方がいいと思いますが、やはり被告物件との関係の場合と、それから離れた一般的な公知事実との関係で権利が無効かどうかというのとは争点が違う場合もあると思います。そして、そこで私はこの前の訂正審判と、審決取消訴訟ではありませんけれども、同じように、無効審判と侵害訴訟が同時に起きた場合には、恐らくこれもまた侵害訴訟の種類によって無効審判における主張と全く同じ主張を侵害訴訟でできるとは限らないと思います。それで、無効事由が明らかであるから権利濫用だという主張が当事者から、被告の方から裁判所に提起された場合、裁判所はそれを見て判断して、これは自分の方で判断できない、非常に難しいから特許庁の方の無効審判でやってほしいということであれば中止をしてそちらを進める、そうでなければ裁判所が侵害事件を判断する場合に、どうしても特許権の内容、範囲とかそういうものをすべて解釈しなければいけませんから、むしろ原則は裁判所の方でやってもらいたいし、裁判所はできるはずであろうと私は考えます。

中山部会長

1つ質問してもよろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

中山部会長

この問題が司法制度改革推進本部で議論されるか、あるいはどのように議論されるか私はまだ聞いておりませんけれども、いずれにいたしましても、向こうは法律家が当然多数を占めることになると思いますので、こちらがもし仮に何か言うとしても、こういう気持ちだと言うだけでは話にならないので、もっと法的に詰めてなければなりません。今事務局が出したペーパーも一致させることが好ましくないとは書いていないので、無理に一致させることはむしろよくないということが書いてあるだけです。恐らくこれは審判と侵害訴訟は先ほどから話が出ているとおり、職権主義と当事者主義の違いがあって、必ずしも同じことが審理されるとは限らない、別のことが争われているかもしれませんし、いろいろな理由で異なったフォーラムになっているわけで、さっき作田委員がおっしゃったように、主張が違てもしかたがないのですね。違った主張をしても別にサンクションはないわけでして、したがって、異なった判断もあり得るわけです。これをもし無理に一致させようとしますと、前回も言いましたとおり、審判をなくす、全部裁判でやる、特許の無効などということはない、裁判で効力が認められない、この当事者間では認められないということになる。昔のアメリカのようになる以外に手はないわけでして、やはり審判を残して、かつ侵害訴訟も残すということになりますと、それはどこかで矛盾は出てくる可能性がある。無理に一致させることはできないが、なるべく一致させるようにいろいろ、先ほども、何ページですか、情報の共有とか何とかいっぱい書いてありますけれども、こういう小手先でやらざるを得ない。もし一本化させる、審判を廃止する以外に何か結論の一致というものを見るというふうに持っていくとすれば、その方法は一体どうしたらいいのか。現在のところ方法はないということだろうと私は思うのですけれども。

丸島委員

よろしいでしょうか。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

中山先生に方法がないとおっしゃられると私など申し上げる資格が全然なくなってしまうのですけれども、(笑声)申し上げたのがちょっと誤解されたのかもしれませんけれども、原則は、考え方は一致するべきだと、有効性、無効性の問題ですよ。侵害か非侵害は、これは裁判所の問題で、私は事件、事件で食い違ってしかるべきだと思っておりますけれども、有効性について、例えば同じ証拠が出ているのに片方では有効、片方では無効という判断が出ることが当然というのはおかしいという意味で申し上げたのですね。ですから、主張が違っていて判断が違う、これはあり得るでしょう。そこまで一致させるべきだということは当然申し上げていないつもりなのです。問題は、侵害訴訟で裁判所で有効性を争うときに、キルビー判決で明白な場合は争える、むしろ争えるというより裁判所がそこしか判断しないということが当事者にとっては非常に不便だと私は思っているのですね。全部やっていただいた方が、そこで有効性、無効性の抗弁が裁判所の侵害訴訟の中で1回でできるのではないでしょうか、それがなぜいけないのかということなのですね。
考えるのは、裁判所のロードが重くなって、期間が長くなる、今は裁判を早くせいと言われているから判決を早くしようということに力点を置かれているので、長くやるのは困るというのが1つの理由だと思うのですね。でも、トータルで短くなれば、私は裁判所で多少長くなってもいいのではないかという前提を置けば、裁判所でやること自体が私は一番理想だと思っているのです。ですから、侵害訴訟に限っては、裁判所で無効の抗弁を全部やっていただくというのが一番いいのではなかろうか。それとは別に、対世効を持たせるような無効審判は特許庁でやる、これは侵害とは無関係に存続させて予防法的に活用できる仕組みというのは、私は一番いいのではないかと思っております。
以上で、もし誤解を招いたようだったら、大変失礼いたしますが。

中山部会長

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

中山部会長

先ほど言いましたように一方が職権主義で一方が当事者主義をとっていると、完全に同じ証拠で同じ主張という保証はないわけですし、場合によっては当事者が違うということもあり得る、審判を残しておく以上はあり得るわけですね。したがって、できる限りそれは同じ証拠で一致すれば好ましいのですけれども、そういう保証はない。そういう保証を法的につくるためには先ほどのような方法しかないだろうということを申し上げているわけです。一致させるようにいろいろ細かい先ほど言った情報の共有等々をやることはもちろん必要だしと思うのですけれども、一致させなければいけないということになりますとこれは日本の訴訟体系全体をいじくらなければいけないということになるだろうと思います。

山下委員

ちょっとよろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

山下委員

済みません。
これは感想なのですけれども、そんなに裁判所の判断と特許庁の判断が違うかどうかと、心配しなければいけないことなのですかね。これは35件もすでに出ているのですね。これを見ますと一見違ったように見えるのが2件だけだというのでしょう。1件はこれは違っているとは言えませんね、だって全然違うのですから、判断の対象が。それからもう一件の方は、これははっきり言えば違ってもしょうがない、これは一般的に特許庁の傾向と言えるかどうかわかりませんし、裁判所の傾向と言えるかどうかわかりませんが、やはり実際に裁判をやっていまして、明らかに特許庁の全般に見られる判断傾向と裁判所の判断傾向が違うという分野はあるのですね。そういうときにこれは違うのはやむを得ないのだと思うのですね。そんなときにむしろ合わせるのはこれこそよくない。この2つを見ますと、要するにないのですね、結局。だから、そんなに血相変えて一致するとか、しなければいけないかというような議論をやらなければいけないほどの問題かという気もするのです。私は、実はこれはもっとあるのではないかと思っていたら、これは意外に少なくて安心しているのですけれどもね。特に、これは「明らかに」という要件が裁判所にやることに入っていますから、今、丸島委員がおっしゃったように、全部、例えば裁判所で無効の事由が出たらやるのだとなれば大分違うかもわかりませんが。
それから、ついでと言っては申しわけないのですけれども、今、丸島委員がおっしゃった無効を全部裁判所でやるということについては、私は賛成はしかねます。これはもともと裁判所と特許庁の役割分担という大きな問題はありますが、現実問題として、そういう手続になった場合にどうなるかということをいろいろ考えますと、とにかく見通し得る限りの今の裁判所の体制でそれに対応できるとは思えない。これは恐らく訴えを提起された側に立ってお考えいただければわかると思いますが、裁判所がそういうことを必ずやらなければいけないとなったらどうなるかということになりますと、それはもう次から次へと出てくる無効の申し立てに対して裁判所が全部判断しなければいけなくなるとなったらどういうことになるか。これは間違いなく裁判は遅くなると思います。それに対して何か手当を加えるとなったらどういう手当が考えられるか。そこまで考えておかなければ、これはとんでもないことになりかねないという具合に、私は一種の危機感を感じています。
今、裁判所の裁判が非常に早くなったと言われておりますが、これは当然に早くなったわけではなくて、このキルビーでも、とにかく裁判所がこれを使って結論を出せば早く片が付けられるというのだけをやっていますから早くなるのは当たり前なのです。そうではないのは使わないのですから、それを全部やらなければいけなくなったら、これは逆になりますね。だから、こんなことを申し上げてはなんですけれども、訴えられた方としては、何とかしようと思えば、次から次へと無効事由を出せばいい、それが片づくまでは判決は出ない、そういうことが単なる可能性ではなくて十分考えられると思います。だから、そういうことに対する手当を十分に尽くしてからでなければ、そういうことはおよそ考えられない。だから、特許庁と裁判所というものの役割分担という大きな制度の問題を離れて考えて、現実の問題として考えても、やはりそこまで考えた上でなければ、そう簡単に一本化、一本化、一本でやってしまえということは、かえって危険だという具合に私は思っております。
隣においでの丸島委員に対して激しく反対申し上げて大変申しわけございません。(笑声)

丸島委員

よろしいでしょうか。

大渕委員長

関連しているのですね、どうぞ。

丸島委員

そうおっしゃるだろうと思って申し上げていたので1つも驚いておりません。(笑声)ただ、この間も新聞に出ていましたように、違う件ですけれども、訴訟指揮と言いますか、早くするためにと、裁判所はいろいろ頭を、知恵を使って当事者の行動を制約するような方向をいろいろとられているわけですね。今のお話の中でも、有効性の争いで次から次へと証拠が出るという、そういうことを必ずしも全部許さなければいかんという仕組みでもないと私は思うのですね。ですから、大変だ、大変だとおっしゃるけれども、そんなに大変なことはなかろうと。現在の人員でどうかわかりませんけれども、体制強化すればできないはずはないだろうと。専門員制度の改革の話もあることですし、特許庁の審判との連動もあるだろうと私は思っているのですね。ですから、人的補強をすれば可能性はあると思っていますので、余り頭からだめだとおっしゃらないで、御検討いただきたく、よろしくお願いしたいと思うのですが。

竹田委員

よろしいですか。

大渕委員長

はい。

竹田委員

中山部会長が言われた意味での、それなら制度設計はどうあるべきかというのは、私自身の意見は第2回の委員会で制度設計はこうあるべきだという私案を提出してありますので、まあお読みになったか、あるいは読まれていないとしたらその点をまた皆さんで御検討いただければと思います。必要があれば幾らでも質疑応答いたしますけれども、それはきょうの本論ではありませんからそれはやめにいたしまして、先ほど3点言ったうちの第1点について言ったことは、最初に発言しましたように、その2つの行政審判と民事訴訟という制度的違いは重々承知した上で、この結論をことさら一致させることなく、そうすることはむしろ適切ではないと書いてあることについて、この表現はいささかどうだろうかということを申し上げているわけですね。つまり、法的安定性の面から言えば、できるだけそういう判断の一致するような制度に持っていく、あるいはそれは規定の上で、あるいは運用の上でそう努めるのがやはり我々この知的財産訴訟制度に関わる者の1つの仕事だと思いますので、そのことからすればこの表現ではいささか適切ではないのではないでしょうかということを申し上げているのだということだけは御理解ください。

秋元委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

秋元委員

いろいろな御意見が出て、私、お聞きしたのですが、侵害、被侵害というのは司法の問題で裁判所であろうし、明白な無効理由もこれは裁判所でいいと思うのですが、要は有効か無効かというのはサイエンスの問題だと思うのです。要するに、法律の問題というよりも、それが本当に有効であるか無効であるかという判断を一番よく出来るところがして、早く的確にしていただければいい問題であって、先ほど検事さんが言われたように、裁判所と特許庁の方と余り齟齬がないということは、これは非常に歓迎されるべきことでございますけれども、一方、すべて裁判所に持ってくると非常に大変だということもあります。そういうことを踏まえて、やはり的確に早くサイエンスとして有効か無効か判断できる、そういうことを考えると、裁判所というよりも、裁判所が必要と認めればやはり特許庁の方でそういう手当をすべきではないかと私は思います。

佐藤委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

佐藤委員

この問題は、今、審判と訴訟という関係で同時並行の問題をどう調整するかという次元の議論になってきていますけれども、基本的には無効審判と侵害訴訟が併存したときに、無効審判の審議が早く決着がつけば、訴訟には完全に有効に機能するのだろうと思うのです。したがって、この問題をこの次元だけで考えるのではなくて、もともとの無効審判をいかに効率的に的確に、迅速にやるかということを前提としてこの議論は考えないと、このフェーズだけ取り上げて議論しても私は始まらないのではないかと思います。そういう意味で、この審議会の議論というのは、異議と無効審判を一体化するというところから始まったわけですけれども、その辺の制度設計、訂正審判との関係、その辺のところがうまく迅速にいかないと、ここら辺のフェーズの問題がもろに効いてきてしまうという話だろうと思います。
そういう意味で、今までやってきた議論の中の前段の議論のところの制度設計をどうするかというのが一番キーポイントではないかと思います。そういう点を踏まえた上で、前段で議論してきたことをうまく制度設計できれば、ここの問題はある意味では末梢的な議論になるのではないかと認識しております。

丸島委員

ちょっとよろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

今のお話の中で、早くすればすべて解決するようには思えないのですね。無効審判が提起されて、それを早く審決を出せば解決できるというふうなお話のように受けたのですが、いつ提起するかという問題が解決されていないと、結果的には審決そのものを早く出しても解決できないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

佐藤委員

その問題は実際にこれは争いごとですので、攻める方も守る方も自分の都合のいいような争い方をするわけで、理想的な展開というのはあり得ないと考えた方がいいと思います。そういう意味では、幾ら制度設計をうまくやっても利用する方がそれを邪道に使う限りはいろいろな問題が起こるということだろうと思います。そういう意味では、制度設計なり運用でカバーできるというのは、やはり限界があるのではないかと思います。ただ、問題はやはりどうやったらより迅速に、より的確に結論を早く出せるかということを制度的に、運用的に担保するという仕組みをどう構築するかということであって、十全的にすべての問題をクリアできるような制度設計というのは、私は難しいのではないかと思います。
ただ、この今回の問題としては、やはり無効審判と侵害訴訟を併存させるという前提で、それについては基本的に、将来は別として、現状では異論はないのではないかと思います。そうである以上、両制度の権限配分が違う以上、そこでやはりきしみが生じる部分というのはどうしてもある。そうすると、それをどの程度可能な範囲で吸収し、解決できるかという解き方しか現状の土俵ではないのではないかと思っております。
そういう意味で、丸島先生が御希望されている、できるだけ一回的解決でという形というのは私も理想だと思うし、そうありたいと思いますけれども、やはり2つの制度が併存した形でやっていく限りは、どこかで限界があるのではないか。その中で一番重要なのは無効審判制度をどうやるかということが一番基本ではないかと理解しておるのです。

松尾委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

松尾委員

これはここで議論すべきことではないかもしれませんけれども、特許権に無効審判が起きたときには原簿に記載されますから、どういう無効審判が起こされているかというのは第三者にわかります。もちろん、当事者であれば特許庁でどうなっているかというのはすぐ記録閲覧の申請をすると思います。ところが、裁判所の方になりますと、無効審判の無効事由があるという主張をしているようだということがわかっても、裁判所の訴訟記録というのは簡単に、謄写したりとかということは制限されています。それで私は何かむだをしないようにということであるならば、無効の事由に関する部分の訴訟記録の閲覧謄写を許すといった便利がないと非常にやりにくい。せっかく民訴の改革推進本部と連携できるのであれば、そういうところの特別な措置でも考えていただきたいと思います。

大渕委員長

特にほかにこの論点につきまして御質問、御意見等ございませんか。

牧野委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

牧野委員

無効審判と侵害訴訟での無効判断を別々の判断機関がするという制度のもとでその判断に矛盾が生ずる場合があることは制度上やむを得ないという理解はそのとおりだろうと思います。ただ、現実の問題として、先ほど山下判事がおっしゃったように、無効理由の存在が明らかな場合という判断枠組みの中で裁判所が特許の無効の判断をする限り、現実問題としてはそれほど両者の判断に食い違いが生ずることは本来は少ないはずだろうと思います。そうしますと、少ないとしてもなお生じ得るかもしれない判断の矛盾を避けるためにはどうしたらいいかというのがここの議論だろうと思います。
そこで、その改善措置の提案としてここに挙げられているところですけれども、やはり情報の共有化というのは、何らかの形で実現する方がいいだろうと思っております。鑑定嘱託という形なら一番訴訟制度、民訴法上も許されるところですし、これによって、裁判所としていま一歩明らかということに自信がないと言いますか、いま一歩決めかねるというときに特許庁の専門的な判断を提示してもらって、これを十分に考慮して最終の判断をするということができます。この鑑定意見での判断は、同じ無効理由について、恐らく特許庁の方の無効審判でも同じような判断が出るだろうということがわかりますので、その無効事由についてはある意味の一回的解決が図られる、実際上、それで早くなるということになります。
次に、情報共有のための求意見制度、これはどの程度の求意見ができるのかというのはかなり法律的に問題があるでしょうけれども、例えば裁判所は、特許庁においてどういう無効理由についての無効審判の請求が出ているのか、無効審判手続がどの程度進行しているかというようなことも当事者があえて主張しないとわからないわけですから、その点についての資料の提供を受けることも、有用であると思います。
あと中止との関係では、それは裁判所の判断で、これは無効審判の方で早く先に判断を出してもらった方がいいという事案についてはそうする。いろいろな具体的な運用というか、運用がやりやすいような改正を現段階では考えるべきだろうと思っております。
以上です。

松尾委員

いいですか。

大渕委員長

どうぞ。

松尾委員

今の牧野委員の御発言にちょっと付加させていただきたいのですが、10ページのところにあります求意見とか鑑定嘱託ですね。これは当事者が意見の結果に対して意見を言う、そういう機会を与えられる制度にすべきだろうと思います。その下のところにある現在、裁判所の調査官を活用して判断していると、こういうふうに書いてあるのですが、これは全くそのとおりなのですが、これに対しては当事者や、弁護士はこぞって、代理人はこぞって反対しております。理由に陰で何をされているのか、どんな意見を言われているかもさっぱりわからない、こういう調査官制度は廃止すべきであるというのを非常に強く言っておりますので、そのことは御記憶いただきたいと思います。

竹田委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

竹田委員

今、松尾委員の言われた調査官制度については、私は高裁で15年間、調査官と一緒に仕事をしてきて、決して、弁護士の意見ではそれに対する批判がいろいろあることと、それからもう少し情報開示的なものを進めなればならないという点は私も感じておりますが、基本的に調査官制度は私は非常にすぐれた制度だと思っています。
まあ、機会があればまた申し上げることにして、この求意見というのが、先ほど牧野委員がおっしゃったような、現在、無効審判が継続しているということは今の場合でもわかると思うのです。情報の提供はあるとは思うのですけれども、では、どういう理由でしているのかということを聞くというようなことのために何らかの制度が必要かという点では、私はそれはそれでいいだろうと思います。ここに出ているのは、無効の抗弁は成り立つかという、いわばそういう意見を聞くような形で聞くことは問題だろう。それから、今言った程度のことなら私は現在の民事訴訟法の調査嘱託の規定でも十分賄えるのではないだろうかと思います。
それから、中止に関しても、基本的には牧野委員のおっしゃったとおりですけれども、私が先ほど申し上げたのは、9ページのところでは「中止しなければならない」となっているから、そこのところはやはりどこにウェートを置いて読むのかというのは、先ほど審議室長からもありましたように、「明らかに必要がない場合を除き」というのですから、明らかに必要がない場合を除きということになれば、何をもって明らかに必要ではないと言うのかということの問題がありますし、これを今中止しなければならないという形の規定を設けるということは、侵害訴訟の進行をむしろ非常におくらせるもとになることになりますから、これはここまでの規定を今の段階で特に設けるのは今後の2004年の12月の新しい制度との関係を踏まえても、それはやらない方がいいのではないかということを申し上げているわけです。
以上です。

丸島委員

ちょっとよろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

情報共有に関連して、今、鑑定ということのお話が出たのですが、ちょっと教えていただきたいのですが、当事者が裁判所で主張している、裁判官が明白かどうか疑問を持つ。それを特許庁に鑑定を求めましょうと、特許庁が判定をして、それは有効性がないと判断した場合のまずは効果なのですが、これは対世効を持つのでしょうか、もたない、当事者だけ。ということになると、主張の範囲での判断をしているだけですね。そうすると、被告の方から有効性ということで、侵害訴訟の中でほかに争う余地というのはまだ持っているわけですね。そうすると、その点で特許庁が例えば、これは有効性がないと判断しても決着はつかないですね。結局、明白だという範囲で当事者がというか、被告の方が特に裁判所で主張している範疇だとしますと、その限りにおいて裁判所が特許庁に明白かどうか疑問があるから判断してほしいと鑑定を頼んだとしても、前提が明白性の主張の範囲のことしか抗弁していないわけですから、無効審判をしようと考えている被告が、明白性の抗弁を先にやったとすればその範囲でとどまるはずですね。そうすると、また無効審判が後で起こるということですね。こういうことで、鑑定を頼んでも余り意味がないように思うのですよ。
ですから、前提として、すべての有効性の抗弁と無効審判が同時に起きているとか、そういう前提がないとなかなか機能しないのではないかと思うのですね、お互いに情報交換した場合でもですね。いかがでしょうか。タイミングの問題があるわけですから、情報交換してもスピーディーには行かないのではないかと私は思うのです。
というのは、私の被告の立場からすれば、まず第一に明白性の無効の抗弁を裁判所でするでしょう。それに対して特許庁と裁判所はどういう連携をとるのでしょうか。連携をとって、特許庁がそれは有効性があると判断した場合ですね。その場合に被告としてはさらに別の理由で無効審判を起こしますね。またその段階で裁判所が特許庁と協力をとるということですから2段階になるのはやむを得ないと思うのですね。これが効率的かという問題だと私は思うのです。情報交換しても、効率的には行かないのではないかということを申し上げたいのですね。

牧野委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

牧野委員

明白性の範囲でしか言わないとおっしゃるところですけれども、被告としては自分が考えている特許無効事由というのは、有力なものは裁判所でも同じように主張するだろうと思います。そして、それについての主張・立証がお互いにされて、裁判所がそのときに、これが特許庁としては無効という判断を出せるのかということでありますと、もちろんそれが無効という判断を特許庁で出せるという鑑定意見が出ますと、それは裁判所の心証としては裁判所で主張されている無効事由が後の無効審決で確実に無効とされる心証を得たということになるはずですから、明白性の要件は備わるということになります。ですから、後出しをどんどんされるというようなことに対しては、訴訟指揮権を発動して、無効理由は全部ある段階で出して、もうそれ以上は主張させないとかによって措置ができます。もっとも、あとで無効審判をまた別に起こすということに対しては、これはもうどうしようもないことだろうと思います。
裁判所が鑑定嘱託をするようなのは、恐らくかなり無効性が、裁判所の心証としても高いのだけれども、いま一寸というような、そういう場合だろうと思います。裁判所が無効の心証を固めて、これはもう明白だ、明白に無効事由があると言えばそれで判断してしまうわけですから、ですから、鑑定嘱託という制度は、私は裁判所にとってはやりやすくなる制度ではないかなと思っております。

丸島委員

よろしいですか。

大渕委員長

はい。

丸島委員

たびたびでまことに申しわけないのですが、そうすると、明白性というのは進歩性の判断まで当然含んでいるという前提ですね。

牧野委員

はい。

丸島委員

そうですか。そうすると、言葉は「明白性」と言うけれども、すべて包含しているということなのですね。

牧野委員

裁判所も本当に進歩性がほとんどないような、無効理由が明らかな場合は、権利濫用として請求を棄却しております。

丸島委員

そうすると、余計矛盾するような気がしてしょうがないのですね。そうすると、なぜ全部やると言わないで、その中で「明白性」とこう言っているのかなと、こういうのが……。

松尾委員

明白なときに権利濫用だというだけのことでしょう。

丸島委員

ですから、御都合主義だと私は思っているのですよ。だから、御都合のいいときだけ判断するけれども、都合が悪ければ判断しない、別のところでやっていらっしゃいというのはどうでしょうかと。

松尾委員

お願いします。

大渕委員長

山下委員、どうぞ。

山下委員

まさしく御都合主義なのです。(笑声)私は御都合主義が一番いいと思っているのです。つまり、特許庁と裁判所で役割を分担しながら、しかしなるべく早く解決するというのは、今のキルビー判決が出て以来の状態というのは、運用さえよければ理想的な状態だと私は思っているのです。なぜかというと、裁判所にはできることとできないことがある。できないことがあるということに重点を置いたのがキルビー以前の状態なのですね。そういったって、それを前提にしても裁判所にだってできることがあるでしょうということで、それを実現するようにしたのがキルビーだったと思うのですね。だから、せっかくそうなったのだから、裁判所は自分ができることはやらせていただきますと。だから、それは無効審判で特許庁まで行っていらっしゃいなどということは、この事件では言わなくて済むというときにはやりますね。だけども、それをまた自分の方でやろうと思ったらどうなるかわからないということになったら、早く解決しようにもできない。だから、そういうときにはこれは特許庁に行ってやってきてください。その方が結局早いですと。そういう点で、そこのところを見ればまさしく御都合主義で、御都合主義を最大限に活用したのがキルビー以後の今の裁判所の状態で、だから非常にいい状態に今向かっているのではないかと思っているのです、審理が早くなった。
もう一つ、これは裁判所にいてこんなことを言うのは不謹慎かもわかりませんが、要するに無効であることが明白だということになると、裁判所は後のことはやらなくて済むわけです、判決で。損害額がどうだとか、何もやらなくたっていいのですね、アテハメのことだとか。こんな楽なことはないのですよ、裁判官にとって。だから、あれは簡単に使えるのですね、結局。それが、逆に無効にならないようなものについて1つずつ判断しなければいけないということになったら大変時間がかかって、しかもおまけにそうなってきたら、今度は損害をやらなければいけないということになって大変遅くなります。これだけは間違いないと思うのですね。だから、そういった点で、今御都合主義で非常にいいところをとってやっているから審理が早くなっているのですね。だから、それを御都合主義と言えば御都合主義ですけれども、御都合主義が何で悪いのだと、こういうことになるのだろうと思いますね。(笑声)
以上です。

丸島委員

裁く方にとっては非常に便利だと思いますけれども、裁かれる方にとっても非常に便利だとお考えでしょうか。

山下委員

全くそのとおりで、要するにあるべき判決がなるべく早く出るというのがいいというのが、裁判官から見てもそうなるのが望みですから、そういった点で今は特許庁と裁判所との役割分担、裁判所の限界ということを前提に置いた場合には、運用さえよければ非常にいい制度だと思っています。

松尾委員

はい。

大渕委員長

では、どうぞ。

松尾委員

済みません、当たり前のことを言うのですけれども、ぜひそういう簡単に、権利濫用ということで片づけられないように、特許庁は裁判所でどういうふうに判断するだろうとか、どうなるだろうとかということは余り気にしないで、特許性についての審理を十分にやっていただきたいと思います。今は早く、迅速の方が先に行って、ちょっと審理が粗雑になっているのではないかという印象を受けますので、そこをぜひきちんとお願いしたいと思います。

大渕委員長

それでは、特にほかになければ、時間の関係もございますので、本日の2番目の論点であります判定制度の在り方について、御議論いただければと思います。
御質問、御意見等ございませんか。

丸島委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

私はこの中の案とちょっと違うのですが、判定制度をADRに活用するとしたら、民間ADRの中の判断を受け持つというのがいいのではないかという気がするのですね。当事者にとって一番大事なのは侵害するのかしないのか、有効か、無効かという判断をある程度公的機関にお願いしたいという気持ちは非常に強いと思うのですね。ですから、侵害するかしないか、あるいは有効、無効という問題について判定を活用するというのが一番うまく動くのではないのかなと個人的には思いますが。
と言いますのは、やはり結論において相当影響が大きいものですから、判断というものを、民間ADRがなかなか活発に利用されないというのはそこに大きな理由があると思うのですね。信頼感なのですよ。やはりどっちかの味方になっているのではなかろうかという不安ですね。これは職業でついている弁護士さん、弁理士さんは広い意味でどこかの代理人をやっているわけですから、判定の当事者とは関係ないと言いながら、ずっと回ればどこかで関係しているということも非常に不信感を持つ要因になっていると思うのですね。それが1点。
それから、当事者で判断できるぐらいだったら事前に解決しています。できないからADRに持ってくるわけですね。そのときの一番の基本になるのがやはり有効性と侵害しているかというこの判断、この争いだと思うのですね。ですから、これの判断をせめて判定制度でしていただけるというのなら、私は信頼性というのは高まるのかなという感じはするのですが。
斯業の人で、全く申しわけないことを申し上げたかもしれませんが、これは能力がないという意味で申し上げたのではないので、誤解しないでください、怒られてしまうといけないから。

竹田委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

竹田委員

丸島委員のおっしゃった意味、私、もう一つよくわからなかったのですが、民間型ADRで特許庁の審判官の判定をするのですか。

丸島委員

そうです。

竹田委員

そういうことですか。そうすると、どういう手続でそれができることになるのでしょうか。

丸島委員

できるかできないかわからないのですが、民間、例えば仲裁機関があったとしますね。そこへお願いして、そこですべてやらなくても、そこから特許庁に対して判断を依頼するということはいかがなのでしょうか、それは制度的にできないのでしょうか。

松尾委員

どうして直接やらないのですか、特許庁で。(笑声)

丸島委員

特許庁。

松尾委員

ええ。

丸島委員

先ほど言ったようにADRのすべての機能を、今、判定制度が持っていないと言うからです。ただ、侵害しているかどうかというだけの問題でしょう。技術的範囲の判断だけしかしておりませんという説明でしたから、ADRというすべての問題を解決できないでしょうと。特許庁の中にADRのすべての機能を持っていくように判定制度を拡大するのも1つの方法だと思いますが、そうすると民間ADRの活用という方向性から反して、特許庁が民間のADRを食ってしまうのではないかという御説明が先ほどありましたね。ですから、そういう公的機関でのADRということの推奨になってしまうので、それはまずかろうということで私は折衷案をとったつもりで申し上げたのです。ですから、民間ADRの中に、当事者が一番気にする判断の部分、すなわち侵害するかしないかを判定で、それからどういう条件でお互いが解決したらいいかというのは、そのADRの中でやっていただいたらいいのではないでしょうか。

木村制度改正審議室長

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

木村制度改正審議室長

済みません、今、多分おっしゃられているのは、今の判定制度というのは、恐らくそこで得られた技術的範囲についての評価があって、それを当事者の方がどういうふうに用いるかということは全く皆さん方の任意に任されていて、判定の結果を踏まえてで仮に示談をされるかもしれないし、和解をされるかもしれないし、あるいは侵害訴訟に出てくるかもしれない。あるいは、ADRに行くかもしれないという状況だと思うのです。したがって、今、恐らく丸島委員がおっしゃられているのは、判定は必ず両当事者がADRをその後使いますという合意がある場合だけ受け取るようにという、そういう仕組みなのかなとは理解したのですけれども、そういうことでよろしいですか。

丸島委員

いえ、そうではなくて、そもそも活用が余りされていないのはなぜなのかというところですね。恐らくADRに携わっている先生方の能力というのは皆さんすばらしいと私は思うのですよ。だけれども、余り活用できないということは、当事者の気持ちの問題だと私は思っているのです。ですから、ある程度裁判所なりですよ、裁判所でやるというのは一番いいのですけれども、裁判所外でと言うから、そうすると特許庁みたいな公的機関で判断をしていただくという要素をADRの中に盛り込んだらどうでしょうかということを申し上げているのです。ですから、それに拘束されなければいかんとか、そういうことはどちらでもいいのですね。だって、ADRの最終判断に拘束されるのか、されないのかということだって別にあるわけでしょう。されるとなると、さらに慎重になるわけですね。それだったら裁判所へ行った方がいいなと思うかもしれない。ですから、その辺を当事者の心情をよく理解しないと、なかなかこの仕組みははやらないと私は思うのですよ。理屈だけではなくて、裁判はふえるけれども、ADRはふえないというのはそこにあると私は思っているのですね。
ですから、今の仕組みで合致するのかどうかわかりませんけれども、判断の中の、侵害しているかどうかという判断と、全体の判断の中ですよ、それから有効か、無効かということについての一番核心にするところの判断を判定でやられたらいかがでしょうか。それをベースにして全体の当事者の主張を加味して、全体の解決をADRの機関でやったらいかがでしょうか、こういうことが可能ではないのでしょうか。

斎藤委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

斎藤委員

判定をADRの中に組み込んで、しかもそれに従うかどうか、当事者の選択というか、それを認めるということになると、さらにそこから無効審判が起こったり、そういうことで、結局早期の解決にはならないので、そうすると判定の方に限られた特許庁のリソースを投入するよりは、無効審判なり、その前段階の審査の方に投入して、正式の方の判断が早く、かつ正確に出るという方向にすべきではないかと思います。
現在の制度においても、例えば判定の結果には従うというような契約を結んで、それで解決を図ることはできると思うのですけれども、現実にはそういうことはやられないわけですね、最終的に権利があるかどうか、侵害しているかどうかについてはやはり裁判ルートを利用したいというのが大きなニーズでございますから、そうすると余り判定の方に力をかけるというのはどうも合理的ではないような気がいたします。

丸島委員

よろしいでしょうか。

大渕委員長

はい、どうぞ。

丸島委員

私が申し上げたのは、早期に解決するということはほとんど考えていないのです。裁判外の解決をふやした方がいいのではないかという前提で申し上げたつもりなのです。前提が、拘束されるとか何とか、そうした方が早く決着がつくでしょうというのだったら、そういう仕組みをつくればよろしいのです。利用しないだけです、それだけなのです。利用しない仕組みをつくるのか、決着はしないけれども、利用してもらえる仕組みをつくるのかという、そのやっている間で満足すればそれで終わるのですよ。要は満足するような判断が出るかどうかなのですね。おわかりでしょうけれども、単なる普通の金銭ではない、いろいろな問題が絡んでいるわけです。ですから、私は判定でやるというのは非常に難しいなと基本的には思っているのです。ですから、それを早く決着させるためにADRの仕組みというのを強制的につくったとしても、当事者は利用しないだけだと思いますよ。
反論があったらどうぞおっしゃってください。なぜふえないのかというのは、多分そうだと思います。

小林審判企画室長

反論というわけではなくて、むしろ若干御参考までにということで発言させていただきます。丸島委員のおっしゃったことの変形例かもしれないのですが、今でも判定の請求をして、その結果を得た後に、当事者は何がしかの形でその結果を使っているのだろうと思います。この点につきましては、松尾先生からも、第1回会合だったでしょうか、判定結果についてどういう利用がなされているか追々調べたらどうかというような御提言がありましたので、まだ完全には集計はしていないのですけれども、過去2年ほどの間に決定が出た判定の請求者に対してアンケートをさせていただきました。やはり答えにくかったらしくて、回答率は非常に低いのですけれども、回答結果を見ますと、侵害警告の資料として相手方に提示をするとか、あるいはライセンス交渉の相手に提示をするとかいう利用形態が非常に多くて、それ以外の使い方はそれほどなされていないような状況でして、ましてや民間ADR機関にその結果を持ち込んで、そこから拘束力のある手続を開始するというような使われ方は実際にはされていないようでございます。こういう状況を見ますとそこには、判定結果を民間ADRで使わないそれなりの理由があるのだろうと思います。

佐藤委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

佐藤委員

日本弁理士会と日弁連は仲裁センターをやっているわけですが、これがなかなか活性化しないというか、再利用していただけないということについてセンター側の方と話をしてみたのですけれども、現実問題として、判定がいかにも安すぎる、値段的に全然バランスしない、これがまず大きな1つの理由のようです。やはり民間でADRをやろうとすると、自前のお金でやらなければいけない。そうすると、自前でやるためにはある程度のフィーをいただかないとできない。そうなってくるとやはりハードルが高くなって、小さな事件でADRに向いているような事件であっても、なかなか利用してもらえないという点が1つございます。
それからもう一つは、先ほど来、民間ADRがなかなか利用されない理由としてあげられているように、やはり権威が欲しい、ある程度公的機関の判断というようなものがないとなかなかお互いにおさまらないというような点もあって、そういう意味でもなかなか仲裁センターそのものの信頼感が上がらないという点もあるのではないかと言っております。
ただ、このADRの利用の問題というのは、基本的には今まで司法でしか解決しなかったものを、できるだけ民・民の世界で解決できるものはしようではないかというのが大きな流れだろうと思います。そういう意味ではやはり民事仲裁の方の民・民で解決する道を育てていくというような施策が必要ではないかと思います。それが将来の紛争が多発する時代を迎えたときの日本のあるべき姿ではないかと思います。そういう観点から見ますと、今の判定制度は、ある意味でここでも資料に書いてありますように、非常に中途半端な制度だろうと思います。ADRとしては単に属否の判断しかしない、これをさらに一歩進めると、当然、有効、無効の判断まで踏み込まなければいけない。片方、無効審判の方と併存しながら判定の方で有効、無効の判断までするとなると、今度は両方がダブった形の制度になってきてしまう。さらにそれを一歩進めて、紛争解決の損害賠償なり和解条件の設定まで行こうとすると、それは今の特許庁の資源が足りないと言われている状況では、到底不可能ではないか、と思います。そうなると、今の判定制度を改革するのが難しいということになれば、やはり何らかの形で民間のADRをもっと活性化するような方向で施策を考えるべきではないかと私は思います。
その点で、一番ポイントは、民事のADRを活性化するのであれば、民・民で解決できる財源をどうやってサポートするかということが一番大きい問題ではないかと思います。やはり低廉で民・民が解決する場をつくっていくという施策がない限り、やはり利用はされない、権威の問題はまた別としまして、やはり経済的に低廉に利用できるような仕組みになるのであれば、もっと活性化されるのではないかと思います。
そういう意味で、判定制度そのものを強化方向で行く、それの道が開けるのであれば、それはそれで行政ADRとして1つの道かと思いますけれども、やはり将来的な展望を考えると、民間のADRを活性化する方向の制度改正を考えられる方が、私はベターではないかと思います。

丸島委員

ちょっとよろしいでしょうか。

大渕委員長

はい、どうぞ。

丸島委員

費用の面が重視されるとは私は思わないのですね。例えば、中国でADRというか、仲裁の件数が非常に多いと言われましたけれども、あれはなぜ多いかと言うと、強制的に契約の中に仲裁規定を設けさせられているのですね。そこでやりなさいと、そういう強制が前提にあるから仲裁の件数が非常に多いのですね。ですから、とにかくこの規定、民間で活性化してできるのは私も一番いいと思っていますけれども、企業側がどういうことでお願いするかという、この気持ちをやはり本当に考えていただかないと、仲裁する側の人の都合でこの仕組みをつくっても絶対にだめだと思うのです。
ほかの企業の方も御意見をおっしゃっていただきたいと思うのですけれども、私は民間の活性化を否定しているわけでも何でもないのです。どうせやるなら、活性化するような実質的なものをつくっていただきたいと、それだけなのです。ですから、つくって動かないよりは、つくったら皆さんが利用するような仕組みをぜひ考えていただきたいと思うのです。

竹田委員

ちょっとよろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

竹田委員

判定が紛争解決機能として一定の役割を今まで果たしてきたことは私もそれなりに認めますし、積極的に判定制度をなくすことに意味があるということを思っているわけではありませんけれども、判定制度について審判官の人たちとも何度も意見交換もしたこともありますが、判定制度の機能的な限界というのは、佐藤委員も今おっしゃいましたけれども、侵害物件の特定の問題、技術的範囲にどこまで踏み込めるか、特許の有効性との関わりをどうするかとか、非常な限界があるわけですね。だから、どうしてもその判断をいわゆる裁判所の侵害論のような形では示すことができない。そういう限界の中でこの制度を運用するということは、最近のように、特に技術的範囲の解釈にいろいろな多様な問題が入ってくるとかなり難しいところがあるという点をやはり考えていかなければならないと思うのです。
それにもう一つは、これは本来は審査官や審判官の増員で対応すべきでしょうけれども、実際上の問題としてそう簡単にそれができない。しかも、今は知的財産戦略等で出願もふえてくるでしょうし、審査の滞荷もふえてくる。そういう状況の中で、少しでもやはり特許庁の審判官の体制をスリムにして、そしてそれを審査なり審判に振り向けていく、この方が日本の知財制度全体から見れば今のまま判定制度を残していくよりはずっと有益な解決ではないか。そういう意味から、この際、判定制度の今までの役割は私も十分認めますけれども、その上に立ってもなお判定制度をこの際、特許庁の制度の中から削除するということはやむを得ない状況にあるのではないか、そういうふうに思っています。

松尾委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

松尾委員

丸島委員が費用の問題ではないのではなかろうかと言われましたけれども、現実には、やはり費用というのは非常に重要ではなかろうかと思います。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

いつも誤解されて、表面だけで反論されるのですけれども、(笑声)本質をちょっと見ていただきたいと思うのですよ。本当におかしいと思うのですね。皆さん、表面の言葉だけで反論される。やりたかったらどうぞやっていただきたいのですけれども、私は費用を高いのを好む人はいないと思います。原則は安い方がいいと思っていると思いますよ。だけど、特許庁の判定の費用と競争しているのですかということなのです。そんなことではないでしょうと。特許庁の判定費用が安いから、今の仲裁が妨害になっていますと、そういうことではないでしょうということなのですよ。

松尾委員

私はそんな妨害になっているなんて全然言っていませんよ。

丸島委員

だったら、何をおっしゃっているのですか、判定が5万円で、仲裁だと1人何百万かかるからとおっしゃるのはどういう関係でおっしゃっているのですか。

松尾委員

私が言いたいのは、全体をセンターで受け入れることができるかどうかというのは、仲裁ですと合意が要るのですね。そういう合意というのがなかなかできないのです。それでまた一方では日本の仲裁法というのは明治ですか、何十年という古い法律であり、現在根本から検討が行われているような状況で、制度設計するにしても、制度設計する場合には器の機構をつくらなければいけない。そうすると、そこでは費用の問題も当然できてくるということであって、その要素の1つに費用はどうしても避けられませんということですよ。

丸島委員

そうでしょうね。ですから、そうおっしゃるなら、弁護士さんの費用は200万かかります、さらに判断をしようとしたら大変でもう1人追加しなければならない、600万かかりますと言ったときに、そこに判定制度を取り込めば5万円足せばいいのですから、費用は削減できるではないですか。そういう活用の仕方をしたら、クライアントは喜ぶと思いますよ。私はそういう趣旨で申し上げたのですよ。みんな民間の専門家だけで全部判断していこうと、これは信頼性の問題と、費用の面もあるでしょう。むしろその中に特許庁の判定を組み込んだ方がずっと安上がりで済むではないですか、信頼性も上がるではないですかと。

木村制度改正審議室長

特許庁の判定制度は確かに、今は4万円で運用しているのですけれども、それ自身別に実費をいただいているわけではなくて、政策的な料金設定になっている。ですから、それが妥当かどうかということについては、論点としては、当然それはほかの出願人の方、審査請求料なり、あるいは特許の維持料からお金としては回っているという、そういう側面があることは事実でございまして、したがって、4万円というのをアプリオリに前提にして判定制度というものを云々するということは必ずしも我々として常に適切かどうかというのは、そこは評価が分かれるところではないかという気はいたします。

中西委員

はい。

大渕委員長

どうぞ。

中西委員

私は丸島委員の言っていることはよく理解できるのですね。なぜ使わないのか。というのは、やはり判定の精度に不安があるという、もう一言に尽きると思うのですよ、今のまま行きますとね。だから、その辺をやはり充実しないといけない。費用の問題というのは、その次に来る問題だと思っています。

佐藤委員

よろしいですか。

大渕委員長

どうぞ。

佐藤委員

今、実は大阪地裁で、民事調停で特許権侵害の調停をやっています。民事調停が今まで非常に少なかったと言われているのですけれども、何で今回それがそういう方向になったかというと、やはり裁判所が関与しているという安心感は1つあります。そういう意味では、今、丸島委員がおっしゃるように、民・民だけの調停よりは、裁判所なり、何らかの公的機関が入るということに対しての信頼感というのは、やはり企業側なりには確かにあると私も実感しております。したがって、その点が今の民間だけの仲裁という形がなかなか受け入れにくくなっているという環境でもあるということも現実にあるだろうと理解しております。そういう意味で、一挙に民・民だけの仲裁で利用が上がるかという点については、確かにそういう傾向があると思います。
ただ、やはり流れとしては、それをどういうふうに利用できる方向に育てていくかということをもうちょっと努力した方がよろしいのではないかということを申し上げているのであって、丸島委員がおっしゃっていることを、私は全くお金だけの問題だというふうな意識で申し上げたつもりではございません。そういう現状は現状として踏まえながら、何とか育てていく、また利用されるような仕組みにするにはいかにすべきかというような形での検討が必要なのだろうということは事実だと思います。

丸島委員

よろしいでしょうか。

大渕委員長

どうぞ。

丸島委員

私が思うのは、本質の問題になっているのだろうと思うのですね。それは企業間の争いという前提で置いた場合、民・民で解決してもらわなくても自分たちでできるという前提があって、それでできないものを民・民に頼むというような状況ではないだろうというのがまず1つあると思うのですね。ですから、頼むとしたらやはり公的機関が介在しない限り頼む意味がないだろうという感じがするのです。ですから、お願いする人というのはむしろもっと違う立場の人ではないのかなという感じがするのですね。
それともう一つは、今、1件とか2件の問題で話が済むのではなくて、恐らく技術単位というのか、マスで話が進むのが普通だと思っているのですね。ですから、そういう話に適切な機関であるのかということもあると思うのですね。ですから、裁判でやるときの1件の争い、1件の特許の侵害、あるいは有効、無効の争いというのと違って、技術を単位としたマスの話というのが企業間で行われるのが非常に多いと思うのです、大きな取引の中ではですね。そういう流れの中で仲裁が機能するのだろうかということも私は考えているのですね。ですから、そう活発には企業間の中ではないのだろうという気がするのです。
ですから、民間の仲裁、ADRを活性化して裁判の量を軽減しましょうという方向が、本当にそのとおりになるのだろうかということに私は疑問を持っていますけれども。むしろ裁判の方をうまく拡大していった方が、民間にとってはありがたいのだろうという感じは持っております。
以上です。

山下委員

いいですか。

大渕委員長

はい。

山下委員

この判定制度について、実は私は余り深く考えたことはなかったのですけれども、ほかのことを考えなければ、純粋に民間で、あるいは一企業で、特許庁という専門官庁がある特許についてどういう判断を下してくれるかということがわかるというのは非常に価値のあることだと思うのですね。それからさらには、純粋に民間の、例えば仲裁機関なら仲裁機関で何かやろうとしているときに、特許庁の判断を知りたい、あるいはそういう方法があればそれを判定で取り込むということも考えられましょうし、それから、これは恐らく現在でもできるのではないかと思うのですけれども、例えば調停ですね。調停で裁判所の、これは公的な機関としてやるわけです。そのときに特許庁の方に判定という格好になるのか、あるいは鑑定ということになるのか、いずれにしてもそういう形で、特許庁という専門官庁の意見を聞いて、それを取り入れるというようなことは考えられるだろうと思うのです。
ただ、先ほど竹田委員がおっしゃっていましたけれども、特許庁がそんなことをやっているゆとりがあるのかなというのが私の正直な感想でありまして、裁判所で訴訟をやっている者から見れば、そんな暇があったならば、無効審判をもっと早くやってくれというような気がするわけであります。
したがって、確かに今まで利用されてきた企業の方でごらんになれば、判定制度がなくなるというのは困るという面があることは間違いないと思いますし、そういう点で大いに役立ってきたのだろうとは思うのですけれども、結局選択の問題で、限りあるエネルギーをどこに割くかということになったら、今の状態では、あるいはこれから先、恐らくこの制度が変わると無効審判も多くなるでしょうし、そうなりますとそちらの方にエネルギーを向けるというのが正論ではなかろうかと感じております。その点では先ほど竹田委員がおっしゃったのと全く同じことであります。

大渕委員長

ほかにどなたか御意見、御質問等ございませんか。

牧野委員

質問させてください。

大渕委員長

はい。

牧野委員

今、東京地裁や大阪地裁は知財事件の専門調停を行っておりますが、そういう手続を利用するお気持ちが企業の方はおありなのかというのをちょっとお聞きしたいのです。

大渕委員長

どうぞ。

秋元委員

私どもは使う気は一切ございません。ただ、特殊な契約がありまして、争いたくないという場合には契約上で、日本の場合は使いませんけれども、例えばスイス法に準拠してやるというような、そういう契約はいたしますけれども、日本のものを使うということは今までありませんでしたし、これからもないと思います。

丸島委員

契約上の問題として、日本を使うチャンスがないということはまことに残念だと思うのですけれども、結局は外国の裁判所を主に、何と言いますかね、仲裁地として選ばされてしまっているということもあるのだろうと思うのですね。そういう意味で、これからは日本でということも契約上考えなければいけないと思うのですけれども、力関係で決まることなので、自分が理想だと思ってもなかなかできないという事情が今まであったと思うのですね。
ただ、仲裁を私はずっと好んでやってきませんでした。仲裁があったとしても裁判所へ行けるという最終判断にしない形でずっとやってきました。なぜかというと、やはり仲裁ということに対して、これは日本だけではないですよ。外国においても信頼を持っていないからなのです。ですから、私はあくまでも裁判に行く道は最後まで残してやってきました。満足すればそれで終わりますけれども、そうでなかったら裁判所へ行けるような道、そうでないと、「仲裁」という言葉は間違いかもしれません、「調停」かもしれませんけれども、裁判に行けるということを最終判断として必ず残すように運用はしてきましたけれども。
そういい意味で、今の御質問は直接的には裁判所で調停のお話があったときということですね。

牧野委員

はい。

丸島委員

私はお金で解決するものだったら、それが一番いいと思っているのですよ。それに従えないというのは、ライセンスを出せない、判決をもらわないという、要するに事業をとめたいというときの訴訟だろうと思っているのですね。お金で解決するならそれでできるはずだと思っているのです。私は逆に言うと、そこまで行って調停をいただくぐらいだったら、事前に交渉でやった方がいいのではないかとも思っていますけれども、裁判所の手を煩わさないとできないというのも情けないなとは思っているのです。だから、判断いただくならとことん判決がほしいものだけ裁判をやればいいのではないかという趣旨からしますと、調停はのめないのかもしれませんが、お金だけで解決する訴訟というのは結構あるように思うのですね。そういうものは調停をのんでしかるべきではないかと私は思います。

秋元委員

ちょっと誤解があるので一言付け加えさせていただきますと、私どもは何も外国で負けたからやるという意味ではなくて、第三の地域でやるということであって、スイスでやるというのはそこが中立というか、両方に属さないからやるということでございます。
それからもう一つは、裁判所ではこのごろ、裁判所の裁判官もかなり商売っ気が出てきまして、和解というのを非常によく勧めますから、大体最後に決着ということではなくて、和解で解決するということも非常にたくさんございます。

松尾委員

ちょっといいですか。

大渕委員長

どうぞ。

松尾委員

質問ですが、このごろはあちこちで、いろいろなところで民間ADRの活用ということを言われているのですが、皆さんの、特に企業の方などの御発言を伺っていると、全然活用したくないような感じなので、(笑声)一体そういうADRの活用という話がどこから出てくるのか、ちょっと私はそれを教えていただきたいと思います。

秋元委員

1つは、かなり手間が、やはり裁判と同じぐらいかかります。金額の多寡というのは多少安いかもしれませんが、間接的な経費も含めるとそんなにも安くない。和解であれば裁判上でもできますから、やはりそういう手間暇を考えればそういうふうにしていく。それから、さっき言いましたように、あとは第三国での仲裁ということを使うというふうにしております。

丸島委員

私も聞きたかったのです、今の先生のお話。先ほど申し上げたのは、何かそういうことをやれば裁判の軽減になるのではないかということですごく伝わっているわけですね。だけども、本当にそうなるのでしょうかと私は疑問を持っているからあえてこう申し上げているのですね。私は企業から出た話では絶対にないと思うのです。(笑声)ですから、企業から出て、企業を攻められるのだったら責任をとりますけれども、企業でそういうことは、私は今まで1回も発言したことはないのですね。ですから、どこで出たのか私も知らないのですが、問題は、民間ADRが方策だけ考えれば活性化していって、裁判の方がずっと適正に動くのですと、余り裁判官を増員しなくても大丈夫なのですというような感覚を植え付けるために出てしまっているのではないかというので、裁判所から出ているのですか。(笑声)これは冗談ですよ、申しわけない。
でも、本当に不思議なのですね。これは大きな流れから見て、何でこれだけそういうふうになってきたのかというのは私も不思議なのです。本当に活性化するなら意味があると思うのですが、難しいなと私は本当に思っているのですよ。

丸島委員

扱う人の能力とか何とかの問題ではなくて、非常に難しいと思っているのですね。

丸島委員

そうなのですね。ですから、それを余り活性化するということをバーッと打ち上げて、本当に効果が出るのかなという疑問は持っています、はっきり言って。

大渕委員長

そろそろ時間も押してまいりましたけれども、最後に本日の議題について、何か特に御発言されたいということはございますでしょうか……。
それでは、特に御発言もないようですので、本日の議事は以上にいたしたいと思います。
それでは、事務局の方から事務連絡をお願いいたします。

木村制度改正審議室長

次回の小委員会でございますけれども、10月25日金曜日、午前10時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願い申し上げます。

大渕委員長

それでは、以上をもちまして、第5回紛争処理小委員会を閉会させていただきます。
本日も長時間の御審議をありがとうございました。

太田特許庁長官

どうもありがとうございました。

――了――

[更新日 2002年10月29日]

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