• 用語解説

ここから本文です。

第3回医療行為WG 議事録

特許庁総務部総務課
権制度改正審議室

  1. 日時:平成14年12月5日(木曜日) 14時00分~16時00分
  2. 場所:特許庁庁舎 特別会議室
  3. 出席者:相澤委員、大野委員、片山委員、熊谷委員、澤委員、菅沼委員、竹田委員、津國委員、長井委員、古川委員
  4. 議題:特許法における医療関連行為発明の取扱いの方向性(その2)
議事録

相澤座長

時間でございますので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会第3回医療行為ワーキンググループを開催いたします。
本日は、ご多忙な中、ご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
早速議事に入らせていただきます。
まず、本日の議題であります「特許法における医療関連行為発明の取扱いの方向性(その2)」について、事務局より説明していただきたいと思います。

木村室長

まず、配付資料の確認をさせていただきたいと思います。クリップをお外しいただきまして、一番上が議事次第でございます。次に、「第3回医療行為WG資料」と右肩に書いた資料がございます。3点目が「参考資料集」ということで、4部作になってございますけれども、これはすべて今まで使わせていただいた資料でございますので、参考までにということで席上に配付させていただいております。過不足等ございましたらお申し出いただければと思います。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、早速説明をさせていただきます。「医療関連行為発明の特許法における取扱いの在り方(その2)」という資料に基づきまして、ご説明を申し上げたいと思います。今まで会議を2回開催させていただきましたが、まだ特定のコンセンサスには収れんしておらないという認識でございまして、あくまでそれを目指していく上での議論のたたき台ということでご承知おきいただければありがたいと思います。
まず、「前回の議論のまとめ」でございますけれども、1つは、医行為そのものに対して、特許法上の権利行使をすべきであるという意見はほとんどないということが前提かと思いますが、医行為そのものではないけれども、医療関連行為、例えば、皮膚等の組織を切除して、培養して拡大し、再度同じ患者に移植する場合における培養方法などを特許の対象として、権利行使を可能とするべきではないかということについては、相対的には多くのご賛同があったのではないかと思っております。
また、その場合の法制度のあり方といたしましては、医行為以外の医療関連行為について、広く特許を認めることが可能であるし、もちろん、その医師に対して、直接の権利行使はあり得ないにせよ、予備的行為に対しても権利行使をすることができることから、前回、川上・川下ということでご説明申し上げたのですけれども、いわゆる川下規制が適切ではないかというご意見が多かったのではないかというのが全体の総括でございます。
他方、引き続き議論すべき論点はいくつかございます。ここでは懸念されておりますものを5つ挙げておりまして、まず第1点は、特許を認めることの効果と影響について疑問があると。特許法第1条に目的規定がございまして、発明の奨励を通じた産業の発達が特許法の大目的になっているわけでございます。したがって、医療関連行為に特許付与を行った場合、いかなる政策効果がもたらされて、ひいては国民の健康増進にどのように寄与していくのかということを明らかにすべきではないかというご指摘がございました。
また、医療関連行為に係る発明は、医療機関、研究所、患者の方々など、さまざまな関係者の寄与があって生まれるものであるので、権利者となった人だけが独占的な利益を受けるのは、果たして妥当かどうかという疑問も出されておるわけでございます。
発明の貢献者はだれかという問題は、一般的にどの分野にも妥当する議論でございますが、これまで特許制度が触れてこなかった医療関連行為の部分に、新たに特許が登場するわけでございますので、具体的な研究開発活動や発明行為に対して、どのような影響があるかということについては確認しておく必要があるのではないかと考えております。
2ページ目でございますが、「排他的独占権を与えることによるコストの上昇・実施の制約」ということで挙げさせていただいております。
1つは、特許権は独占権でございますので、こういう培養方法を独占的な事業として行う、あるいは他者に行わせるといった場合、例えば高いライセンス料を設定すると、医療費が高騰してしまうのではないかという懸念があるだろう。また、特許権の対象とすることによって、全体として紛争が増加するのではないかというご懸念もあったわけでございます。
これもある意味では特許権そのものの一つの性格と申しますか、一般的に妥当する論点でございますけれども、医療関連行為が行われる環境の特徴を踏まえた上で検討する必要があるのではないかということでございました。
川下規制をとった場合、安全性確保の観点から懸念はないのかというご指摘がございました。すなわち、ある方法に対して特許が付与されることになると、何らかの安全性が認められたかのような印象を世の中に与えてしまうことはないのかということでございます。
これにつきましては、そもそも特許制度は、技術的に、従来の技術に比べて新規であるか否か、進歩性があるか否かを判断する制度でございまして、安全性を保証するものではないということで、これ自体はすべての特許対象について妥当する議論でございます。逆にいうと、川上規制を採用したとしても、特許権が付与される部分について、別に安全性の保証があるわけでもないということでございます。
ただ、現行の特許法32条で、公序良俗、公衆衛生の観点から特許にしないという条文が既に置かれておりますので、一見して明らかに安全でないような技術は、公衆衛生の観点から拒絶することはあり得ると思いますけれども、基本的には、特許法は安全性を担保するものではないということだと思います。例えばある研究開発が行われて、その成果が発明ということになるわけでございますが、その発明そのものが特許の対象となるわけでして、安全性の確認は特許制度の役割ではございませんし、逆にいうと、不特許になったからといって使えなくなるわけでもない。ある意味では、特許がない以上、だれでも使えるということもいえるわけでございます。すなわち、使用できるかできないかということのお墨つきを、何らかの形で特許法が与えているわけではないということでございます。
ただ、とりわけ医療行為につきましては、安全性に関する要請が高いのはいうまでもないことでございます。したがって、特許制度のこうした性格、あり方を踏まえまして、安全性確保のあり方を総合的に考える必要があるのではないかということもいえるわけでございます。
また、医行為とそれ以外の医療関連行為の区別はちゃんとできるのかという論点がございます。
5番目、先端医療技術とその他の医療関連行為発明を分けて議論してはどうかというご指摘もございました。今ニーズがあるのは、再生医療、遺伝子治療でございまして、総合科学技術会議、あるいは知財大綱等でもその旨の指摘がなされておるわけでございます。したがいまして、そういう考え方もあり得るわけでございます。
これにつきましては、そういう先端医療技術の概念や範囲を制度上明確にしていくことができるかどうか、あるいは、これらだけが政策的に特別扱いされることの必然性など、クリアする必要があるわけでございますけれども、議論を進めていく一つの観点から、こういったニーズが顕在化している分野を念頭に、まずは検討してみるのも一つの案ではないかということで考えております。
3ページでございます。これらの論点の中で一番重いと申しますか、課題になるのは、特許を認めることの政策効果なり影響のところの整理ではないかと思っております。3回目にしてこういう議論をするのは若干時宜を得ているか疑問もあろうかとは思いますけれども、とりあえずの整理として、幾つか論点を挙げさせていただいております。なおこれも、一般的な医療全体について議論する場合、再生医療、遺伝子治療の先端医療技術のみに限定して考察する場合、それぞれ考え方が異なってくる可能性もあると思っております。
まず、1点目でございますけれども、「医療関連行為発明への特許付与による技術の普及・健康の維持増進の可能性」ということでございまして、医療関連行為発明が特許によって保護され、出願から1年6ヵ月で公開されますので、発明の公開が促されることになった場合、その医療関連行為に対する研究開発、あるいは発明が一層刺激されるのではないかということで、これは特許一般に当てはまることでございますが、医療についてもいえるかなということ。その結果、医療関連行為の担い手が医療現場の外などでも育成される、あるいは産業としての広がりを有することになりますと、結局、幅広い範囲の医師の方にとっても新たな医療技術に対する選択の幅が広がる、あるいは国民の健康の維持増進に寄与することになるのではないかとも考えられるわけでございます。
他方、特許が成立いたしますと、それ自体、独占権でございますので、実施例の蓄積が阻害されて、技術の改良が進まないといったこと。結局、それによって、医師の方が当該方法の使用をちゅうちょすることになる懸念があるのかどうかについての検証が必要ではないかと思います。
我が国発の医療関連技術が海外流出、あるいは国内空洞化してしまうのではないかという懸念もよくいわれることでございます。米国や豪州等では、医療関連行為発明に対して権利が付与されるわけでございますけれども、我が国では特許が認められていないということで、我が国において行われた発明であっても米国で出願し、かつ我が国では秘匿・囲い込みをするということになると、結局、その研究成果は海外にばかり技術移転されて、かの国の産業や国民のみが、そういった技術の普及、あるいは健康の維持増進といった利益を享受する。日本の患者の方のためにならないのではないかという議論があろうかと思います。
3点目、仮に医療関連行為発明に特許を付与することにいたしましても、正当な医行為、あるいは医業に対して、例えば差止請求や事後の損害賠償請求などが行われることを懸念するがゆえに、安心して治療活動ができない。そういう抑制的な効果をもたらしてはならないことはいうまでもないわけでございます。この点をどう担保するか。
なお、この点につきましては、たとえ法的には可能であっても、医師の方に対して権利行使をやる人は実際にはいないということがいわれるわけでございます。仮に医療関連行為発明に特許が認められれば、海外の企業や個人が我が国に出願してくることが常態化するわけでございますけれども、そういった議論が引き続き妥当するかどうか、考慮する必要があるのかなと思います。
特許が付与されることになった場合、いわゆる間接侵害という行為が規制対象になるということでございまして、例えば当該行為それ自身は権利行使の対象にならないということを想定するにいたしましても、そのために専用の医薬品や医療機器を提供するといった行為を特許権者の許諾なしに行うと間接侵害になるということでございます。これは、逆にいえば、そういう侵害に対するペナルティーがあるからこそ、研究開発のインセンティブとして機能し、産業の発展にとって有益であるという評価があるわけで、先般来、産業界からおみえになられております委員の方もおっしゃられておりますとおり、これはそういう評価ができるということでご理解させていただくということでよろしいかどうかということでございます。
4ページでございますが、以上の点がかなり大きな政策的な論点でございまして、私どもとしても、何がしかのコンセンサスなりを形成していきたいなと希望しておる点でございますけれども、さらに、先ほど来出ております安全性に対するご懸念、医行為とその他の行為についての区別、医行為、あるいは医師の行われる行為に対する悪い影響を予防するといった観点から、前回、現行の運用では対応が困難な事例として挙げた中で、特に皮膚の培養工程を含む再生医療技術の場合を例にとりまして、これについては、一定の範囲内で権利行使することができるということを前提に、川上規制、川下規制を行った場合に考えられる種々の利点・留意点をお示ししたいと思っております。現在、運用基準で認めていないということもございますので、それについても一つのオプションと考えられるわけでございますけれども、ここでは、とりあえず法制度を念頭に置いた議論にさせていただいております。
まず、川上規制でございます。特許法において、特許の対象とすべきではない医療関連行為の方法の発明について、特許を受けることができない旨を定めるのが一番正攻法のやり方でございます。現在、そういう規定は当然ないわけでございますけれども、特許法の29条の条文で、産業上利用可能でないという解釈をもって拒絶しているということでございますので、今もある意味で川上規制なのでございますが、それをより明確化するということが一つの案でございます。
後ろの「参考資料集」に条文をつけてございますけれども、参考までに、特許法32条の条文を、次のページにまたがって書いてございます。現在は第5号に属する「公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明」だけでございますが、過去には、飲食物または嗜好物の発明や医薬についての発明など、特許しない対象として規定していたという歴史的事実があるわけでございます。これは順次廃止されまして、今、5号だけが残っているということで、ある意味では特許法も一つの産業政策の担い手であることを示しておるようでございますけれども、他方、特許法は、個々の分野について、それが特許されるべきか、されるべきでないかといったことについて、口を差し挟むべきではないというご見解もあるということでございます。
いずれにしても、川上規制案を置くということで考えてみますと、例えば、医行為に該当する方法の発明については、特許を受けることができない旨を規定するというのが一つの案でございます。ここでは医行為は、前々回、厚生労働省からもご説明がございましたとおり、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または及ぼすおそれのある行為」、あるいは「医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは、生理上危険ある程度に達している行為」ということで理解して、医行為に関する発明が出願された場合について、これは不特許であるということで拒絶する案になるわけでございます。
この場合、(ア)、(イ)、(ウ)に留意点を書かせていただいておりますけれども、皮膚の培養方法に係る発明は、同一人への移植を前提としたものであっても、それそのものは医行為ではないという解釈をとって、特許の対象となるということでございます。特許の対象になるわけでございまして、この条文だけが置かれることになりますと、だれに対しても特許権を主張することができるわけでございます。これらの方法を行う人たちに対して専用部品を提供するといったことをやると間接侵害になるわけでございます。
逆に、皮膚の切除や移植の工程そのものを含む方法に係る発明は、明らかに医行為そのものを含んでおりますので、これは特許を受けることはできないということになります。したがって、権利がないわけですから、権利行使も当然行われませんし、専用部品を提供するといった行為も当然間接侵害にはならないということでございます。なおここでは「医行為」という言葉を使わせていただいておりますけれども、これ自身、ある意味では定性的な概念でございます。したがって、審査段階で、それに該当するかどうかの判断がはかなり難しいことは事実でありましょうし、その場合、法的な不安定性をはらむことになろうかと思います。
次に、川下規制の案でございます。幾つか出させていただいておりますけれども、基本的には、川下規制は特許の取得を認める。ただし、取得された方法の特許につきまして、例えば医師が医行為として実施している場合などを類型化いたしまして、これらに対しては、権利行使が認められないための特別の規定を定めるということでございます。これもページがまたがっておって恐縮ですけれども、下に69条第3項の条文を挙げさせていただいております。現在も、「二以上の医薬を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は、医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬には、及ばない」ということで条文を定めております。こういうものを念頭に置いていただいてお考えいただければと思っております。
ここでは、仮定でございますけれども、川上規制はない状態で、皮膚の切除・培養・移植に係る発明全体について特許が付与されたことを想定いたしまして、個別の規定ぶりとともに、権利行使のなされ方を確認したいと思います。
まず、A案として書かせていただいたのは、特許権の効力は、医行為には及ばない旨を規定する。川上規制と同じ概念を使おうということでございます。これはある意味で先ほどと同じ概念でございまして、皮膚の切除・移植は医行為に該当いたしますので、これはだれが行っても権利行使の対象にはならないわけでございます。
他方、皮膚の培養は医行為に該当しないとしますと、これは逆に、だれが行っても権利行使の対象となるということでございます。
間接侵害は、特許権自身は成立しておりますので、成立するということになろうかと思います。
B案は、医師が行う行為という概念を使ってみたわけでございます。これは、医行為に該当する皮膚の切除・移植を医師が行っても権利行使の対象となりませんし、皮膚の培養についても、医師が行う場合には権利行使の対象とはならないわけでございます。
この場合、「医師が行う行為」とは何かという議論があろうかと思います。それは、例えば看護師が医師の指示を受けて行う場合も含まれるかどうかといった解釈上の問題が出てまいる可能性もございますので、そこは書きぶりとして、その概念が明確になるように工夫することはできるかなと思っております。
これも特許権自身は成立しておりますので、間接侵害は常に成立するということでございます。
C案でございますけれども、特許権の効力は、病院または診療所で行われる行為には及ばないということで、これは場所的概念を使って規定してみた案でございます。これは、当然のことながら、皮膚の切除・培養・移植といった行為が病院で行われている限りにおいては権利行使の対象となりませんし、病院外であれば、その主体がだれであれ、権利行使の対象となる。間接侵害も成立するということになるわけでございます。
D案は、客体といいますか、患者に対して直接行われるような場合には及ばない旨を規定した案でございまして、患者の方に対して行われる皮膚の切除や移植は、どなたが行われようと権利行使の対象とならないし、逆に、皮膚の培養は、その患者に対して直接行う行為ではないということで解釈いたしますと、権利行使の対象となるわけでございます。これも間接侵害が成立ということでございます。
こういういろいろなオプションを出させていただいたわけでございますけれども、念の為に申し上げれば採取した方と別の方に治療のために戻すことを前提にして、例えば細胞なり皮膚を処理するといった方法自身は、現行制度のもとでも特許権の対象となっております。要は、特許を拒絶しておりますのは「自家」の場合であるということでございます。また、現在は、川下規制のような適用除外規定は特に置かれておりませんので、概念的には、特許が成立した以上はすべての方に対して権利行使が可能な状況にはなっているということでございます。
現行法の体系では、69条第3項で効力の除外が認められている場合を除きまして、医薬品や医療機器の特許権を侵害する行為、これは製造、使用、譲渡といったものでございますけれども、そういうものについては、どなたの行為であっても、観念的には権利行使の対象となっているわけでございます。
ただ、これは、今まで実害はないといいますか、医師の方を訴えるような方はどなたもいらっしゃらなかったということだろうと思いますが、それについて、今回、仮に何らかの法改正なり制度的な手当てをすることになりますと、こういう点まで含めて措置する必要があるのかどうか、同時に見極める必要があるのかなと思っております。
いずれにいたしましても、これまでのご説明につきましては、すべて類型化した議論でございまして、現実の選択肢といたしましては、さまざまな組み合わせを考えることも、案としては当然あるわけでございます。
川上規制、川下規制、それぞれの問題点といいますか、留意点として最後にまとめさせていただいておりますけれども、川上規制につきましては、特許そのものを与えないという部分があるわけでございますので、与えないと決めた部分につきましては、特許の効果といいますか、産業の振興といった効果が期待できないのは当たり前の話になるわけでございます。
医行為はそれ自体が定性的な概念ですし、これに該当するか否かを審査段階において事前に完全に区別するのはかなり困難であろうと思います。したがって、そういう意味での法的な不安定性はございます。
また、川下規制においては、行為主体や場所、客体など、いろいろな切り分け方が可能なわけでございますが、特許は、基本的に発明に対して与えられるものでございますから、それを川上規制の不特許事由の外延として使うのは無理であろうと私どもは考えております。
これも観念的な議論だとは思いますけれども、本来医行為でないとして特許が付与された方法が万一医行為として行われた場合、川下規制を併せ持っていなければ、主体がだれであれ、場所がどこであれ、権利行使される可能性はあるということになるということでございます。
なお、川上規制におきまして、権利付与を行うかどうかの判断は、一義的に特許庁が行うことになりますけれども、それで拒絶をする、権利付与しないということになった場合、不服を申し立てることが可能でございまして、それは拒絶査定不服審判を経て東京高等裁判所に申し立てられることになって、そこで医行為の解釈などをめぐる争点が明らかになることがあろうかなと思っております。
丸2で「川下規制各案の比較」ということで書かせていただいておりますが、「医行為」という言葉を使うと、これ自身、定性的な概念でございますので、やはり不明瞭性はあるだろうということでございます。
また、場所や客体といった概念、先ほどのC案やD案を使いますと、例えば病院の外ではなぜ常に権利行使され得るのか、あるいは医師が行う皮膚の培養はなぜ権利行使の対象となるのかとか、権利行使すべき場合に権利行使が制限されたり、あるいはその逆といった場面があり得るわけでございまして、その中では、主体がだれであるかということで切り分けるのが比較的一番安定的ではないかと考えられるわけでございます。その場合、その主体に、医師のみならず、看護師等の医師の指示を受けた方を含める必要があるのではないかと考えられるわけでございます。
川下規制におきましては、基本的に特許は常に成立するということでございますので、侵害の有無につきまして、個々の行為ごとに一義的に裁判所で判断される。これは地方裁判所になると思いますけれども、そこで判断されることになります。
最後に、くり返しになりますが「現行制度における問題点の解消」ということで、現在、69条第3項で効力の除外を認めておりますけれども、これ自身、必ずしも幅広いものにはなっていないわけでございまして、医師や看護師の行為であっても、観念的には権利行使の対象になる局面はあり得るわけでございます。
今回の措置とともに、こういう状況を確実に回避できるような措置をあわせて講ずる必要があるかということも検討の対象であろうと思っております。
政策的な大所高所論と技術的な論点の組み合わせになっておりますので、おわかりにくいところがあろうかと思いますけれども、何らかのコンセンサス形成に向けた議論のたたき台としてご理解いただいて、ご議論いただければありがたいと思っております。

相澤座長

ありがとうございました。
それでは、ただいまの説明に基づきまして議論をしたいと思います。きょうは、特許を認めるべきかどうかということについての最初の議論をしたいと思います。
最初に、私が若干の説明をしたいと思います。特許制度の目的について、議論の土台として、その点をちょっとご説明したいと思います。
現在のところ、特許制度の目的に関しては幾つかの議論がありますが、発明のインセンティブを与えることにあることが一番にあげられます。これは経済学的な議論でありまして、情報の過少生産を助けるために、創作者にインセンティブを与えることが必要であるという議論でございます。
2番目に、発明の普及といいますか、情報をよく流通させようということです。これにつきましては、財産権を認めるというのと逆のような議論でありますが、財産権を認めることによって、かえってその情報財を取引させるということです。知的財産戦略大綱、あるいは総合科学技術会議における議論におきまして、知的財産権の役割が強調されているのも、この点であろうかと思います。
そのほか、歴史的にいいますと、外国の技術に特許を与えることにより、外国の技術を国内で実施することへのインセンティブを与えるという技術導入的なものでございまして、これは特許制度の初期の目的として掲げられた議論でございます。
そのほか、現在、特許は広く公開されますので、特許を公開する制度によりまして、技術情報が広く公開されるということがあげられます。
特許制度は、新規事業者の参入を規制する面と、発明をもって新規事業者が参入するという面があります。寡占市場に参入することが可能になるという議論でありまして、ギルド制度に対して、特許制度の効果を主張する議論があります。
このほかに、フランス革命のころには、発明に対する権利は自然権であるというとらえ方もあったかと思いますし、あるいは、発明は社会に情報財を提供しているので、その社会的貢献に報いるという考え方もあったかと思います。
特許制度は、いくつかの機能をもっているものと理解されていると考えていただいてよろしいのではないかと思います。
今の点につきまして、もし何か不十分な点がありましたら補足していただきたいと思いますが、そういうことを踏まえましてご議論いただければと思います。
前回、澤委員の最後のご発言に対して、私の方で時間を切ってしまって申しわけなかったのですけれども、最初に、その点について、ご議論を続けていただければと思いますが、よろしゅうございましょうか。

澤委員

ただいま室長からもご説明がありましたように、医療行為における新しい発明や発見は、その医師だけではなくて、患者さんの協力もも全部入っているのだということと、例えば皮膚の培養が業として行なわれるのであれば、生物由来製品か特定生物由来製品という名前がつくわけですね。その安全基準は、今、まさしく厚労省でやっておる仕事でございます。このあたりとの兼ね合いをきちんとやった上でやるのかなという疑問が1つと、特許が成立しますと、「多様な現場における実施例の蓄積を阻害し」というのが本文にもあったと思いますけれども、実施が阻害されると、それだけ安全性の確認追認が難しくなると思いまして、特許と安全性は全然違うのですといわれればそうなのですが、私は、医療は特許にはそぐわないのではないでしょうかという結論にどうしてもなってしまうのです。

相澤座長

済みません。前回、私の方で、先生の最後の質問を遮ってしまったような形になりましたので、それで最初にお願いしただけであります。
今の点について何かありますか。

古川委員

今ご発言がございましたが、私はそうは考えませんで、実際に診療に携わっている側からしますと、特許権が成立していようが成立していまいが、患者さんにとって有益な方法を使うのが医師の義務でございます。これは裁判所も明確にしている注意義務がございまして、医療行為が発達して、それによって医療水準が上がってくる。これにかなった行為をすることが、患者に対する医師の診療契約上の義務でありまして、これを行わなければ違法な行為なのですね。ですから、そこにいかなる特許権があろうとも、保険適用が何割か、あと、自己負担分のお話を患者さんにしっかり申し上げて、インフォームド・コンセントの上で適切な治療を行っていくことが医師の義務でありまして、これは、特許の成立があるかないかに全くかかわらない当然の義務でございますね。
先ほど、厚生省の通知との関連性が、というお話がございましたけれども、これは全く別個の基準でございまして、薬事法上の細則の規制の問題でございまして、これと、特許が成立するかどうか、それに新規性があるかどうか、進歩性があるかどうかといったことは全く別の判断になる。安全性が認められないならば、幾ら特許があっても、当国ではそれをやってはいけないわけであります。だから、そこを関連させて議論するのは、大きな法律のとらえ方が間違っていると私は考えるところでございます。

澤委員

今、厚労省でやっているのは、まさしく安全性の議論で、どうやって安全性を確認すればいいのだというところの議論。
それから、例えば69条には「試験又は研究のため」云々ということで、これは無理だというのを私はこの間思い出せなくて、一番最後に座長がおっしゃって……。特に慎重にならなければいけないのは、いわゆる先端医療は、安全性が確認されていないことが多うございまして、幾つかのフェーズを経て、改めてこれが医療として認められる。前にもどなたかの発言でありましたが、特許が認められたら、世間的には、もう既に確立した医療であるかのように誤解されるのではないかという心配をもっているわけでございます。

古川委員

1つ確認しておきたいのは、現在、私どもが試験、あるいは研究として行っている診療行為にかかわる部分でありましても、既存特許の部分をいろいろ応用してやっていることはたくさんあるわけですね。それらは既に安全性が確立していなくて、安全性についての議論はその後行われるわけですね。それは特許権が幾つも成立している上に成り立っている医療行為でありまして、こういったものは、安全性の問題から翻って、今さら特許権を不成立にすることはできないわけですね。それは現状として既存のものですので、現在、新しい医療行為だけが問題になるものでは全くないと考えております。

竹田委員

審議室長に質問なのですけれども、4ページの3のところ以下に書かれている川上規制、川下規制に関する、例えば法改正をするならばという各案は、4ページの一番上の段落をみると、「以下の考察においては」ということで、先端医療技術について特許制を認める場合の法改正のスタンスとしては、こんなものがあるという意味に理解すればいいのですか。それ以外のものについての法改正であればどうかという点についてはどのようにお考えなのか、そこのところを聞きたいのです。

木村室長

常識的に申しますと、川下規制であれば、医行為も含めて、すべての行為に対して特許を付与し、かつ、医師の方ないしは医師の直接の指示を受けた看護師の方が行われるような行為について、その適用を除外するという考え方があろうかと思いますので、その場合は、仮に川下規制だけでやろうということであれば、それは必ずしも再生医療技術だけにとらわれない議論が中心となるのではないかとは思っております。
ただ、今回、喫緊の課題といいますか、ニーズとして出てきておりますのは再生医療技術だけである。したがって、まず、それについて特許を付与するのかしないのか。したとすれば、その後、例えばその医師の方に対する効力除外のようなものを置く必要があるのかないのかといったことを分けて議論することも一つの案かなということで、そこは混然一体となっているところが確かにあるとは思います。私どもとして、ここでどちらかに決めつけているというわけでは必ずしもないということです。

竹田委員

関連して、もう一度質問なのですが、先端医療技術に関して、早急に特許制を認めるべきだと私も考えていますが、あとの方はすべてペンディングにするのではなくて、それ以外の医療関連行為に関する発明についても何らかの措置をとるか、それについての方向性は出していくべきだと考えています。
とりあえず先端医療技術に関してということを前提にした場合、4ページ以下に出てくる川上規制のこういう法律を設けて法改正をした上で、なお先端医療技術は特許性がありますよという解釈をする余地があるのですか、ないのですか。ここでいう川上規制をするということは、先端医療技術についても特許制を認めないという意味なのですか。

木村室長

そういうことではないですね。ここで書かせていただいているのは、医行為に該当する方法の発明ですから、先端医療技術が医行為でなければ、前々回なりご議論あった絶対的医行為、相対的医行為に概念として包含されなければ、それは特許性があると、ここでは理解しています。

竹田委員

その場合にしばしば問題になる、自分の皮膚をまた自分に戻すといった行為はどう考えるのですか。

木村室長

培養方法については、医行為ではないという解釈が可能だと思いますので、特許対象になろうということでございます。

相澤座長

3の部分については、法技術的な問題解決の方法ということで、それを提示しているとご理解いただければと思います。特定のものを保護するのにこういう制度があるというよりは、法技術的な制度の解決の方法として、今、審議室長から説明がありました方法があるということです。これは、今もご説明がありましたように、特に再生技術を保護するとか、全般を保護するとかということにかかわらず、問題解決の法技術的な方法の提示であるとお考えいただいた方がいいのではないだろうかと思います。ですから、今のお答えは、この条文を使って、再生の方法だけを除外することは全くできないかといえば、そうではないだろうという趣旨だと思います。技術的に全く不可能ではないだろうということを今申し上げたということでございます。

熊谷委員

資料を拝見させて戴いて、非常によく整理されていると思いますが、前回もお話ししましたように、いろいろな選択肢の中で解決可能なものと解決が非常に困難なものというマグニチュードで考えますと、川上規制における審査段階で医行為であるということを判断することが特許庁単独でできるかどうかということと、迅速的確な審査という観点からも審査段階で判断することが、全体的なバランスからみて妥当であるかどうかということがあるのではないかと思います。
また、資料ではいろいろな問題点が挙がっておりますが、別に個人的な意見を押し通すわけではありませんが、川下規制を採用することにより、運用である程度改善できるものが幾つかあるのではないかと思っております。その点で、川上規制はある意味で致命的な問題を抱えているのではないかと思っております。
もうひとつは、相澤座長に特許制度のそもそも論をご整理いただきましたが、特許制度の議論をする上では当たり前のことであり、ここで一々議論することではないと思いますが、技能はあくまで特許の対象ではありませんから、医行為の中に含まれている技能的なものは、いい悪いは別にして、発明の定義規定から外れることを明確にした上で議論することも必要かと思いました。
さらに、安全性の議論についても、32条で解決するだけではなくて、100%考慮することはできないとしても、場合によっては開示要件である程度考慮することもできるかということと、新規性・進歩性等の要件を満たしたもののみが特許の対象になるというのは当然の前提の議論だとは思うのですが、それらの要件をクリアする医行為なり医療方法についてどう考えるのかということをより明確にした上で議論した方が、議論が散逸しないのではないかと思います。

長井委員

まず最初に澤委員の方で、医療の話で安全性の担保というお話が出て、古川委員の方で、いや、そんなことはないのではないかということなのですが、先端医療とその他の治療を段階的にやる、やらない以前に、治療方法自体について、特許化を認めるべきかどうかという議論を先ずやっていただきたい。私は古川委員の意見に賛成なのですが、その点について、澤委員はどのようなお考えなのか、再度教えていただきたい。要するに、特許を与えると、一般の人は安全性があるかのごとく受け取るので、特許を与えるときに安全性を担保することが必要なのではないかという意見ですか?

澤委員

そうですね。

長井委員

そういうものが担保されない以上、今時点では、治療の特許化はまだ時期尚早だというご意見なのですか。

澤委員

はい、おっしゃるとおりです。

長井委員

今、熊谷委員の発言は、その担保の仕方として、例えば32条や開示要件があるとの示唆であると思います。これは昔の話ですが、物質特許が導入され、医薬の用途特許が認められた時にも多分同じような議論があったと思います。その時は、安全性を担保するために急性毒性を開示要件として求め具体的には少なくとも急性毒性を開示させ、毒性がないことが特許取得には必要とされる運用が採用され、運用で安全性を担保することを条件に認められたのではないかなと思います。今回も同様に担保することとした場合はどうでしょうか。何か安全性を担保するような要件を入れるべきなのか。その担保の仕方はいろいろなやり方があって、今回、特許化を認めるに際して、何かそういうことをやってもやはり問題ですか。

澤委員

はい。私が特にそれを強調しますのは、大綱でもいっていますように、ポストゲノム研究成果の適切な保護、再生医療、遺伝子治療関連技術の特許法における取り扱いの明確化だけではなくて、すべてにと座長も先ほどおっしゃいましたけれども、そういった新しい医療の場合、これはいい医療ですよと患者さんにぽんとできる先生はいないのですよ。どの医療はどういう副作用があって、というのはまるっきりわからない。ですから基礎研究を特許化することと、そのさきにある医療行為を特許化することを同次元には考えられないのです。
医療か、医療の関連技術かということもそうなのですけれども、皮膚等の培養は、何となく医療の外のようにみえますが、例えば卵子を外に取り出して体外受精して、子宮内に戻す。これは医療行為であると。このあたりも、つまり医療かその関連技術かと区分することも考えれば考えるほど難しいように私は思うのですね。

大野委員

資料8ページの第3節目の上の方に「本来医行為でないとして特許付与された方法が、万一医行為として行われた場合には」云々とあって、「主体が誰であれ、場所がどこであれ、客体が誰であれ、権利行使される可能性がある」という指摘がありますが、これは重要だと思います。今までの話の中で、こういった医療行為関連特許、方法特許は、研究者だけではなくて、医療施設やお医者さん、患者さんなどの関与が非常に大きいのではないかというご意見もあるのですが、最近のいろいろな先端医療での特許をみますと、基礎研究の段階で出されている特許が多くなりつつあります。例えば、実際、人間にまで適用されていないものを、人を含む形で権利範囲を定める。例えばマウスでやったものを、哺乳動物として権利をクレームすることもできるわけでして、その方法自体が最終的には医療に使われた場合、医療行為になり得るような方法特許は十分考えられる。そういうケースが起こり得ることをある程度想定しておかなければいけない。
医療関係の方法特許について検討する範囲について、前回とか前々回までは、先端医療分野を切り分けて議論するのは大変難しいということで、従来の分野の医療行為特許全体をまとめて議論しているようなところがあったのですが、もし切り分けが可能であれば、切り分けるべきで、今いった先端医療の基礎研究で出されるような方法特許が、はっきりいって、一番基本的な特許になり得て、その後の産業の発展にいろいろな影響を及ぼす可能性のある特許になり得るということであります。
もう一つの問題として、安全性の問題は、実際に人に利用される段階になって初めて、いろいろな方法で安全性が確認され、安全性に関する規制当局の幾つもの要求事項を満たした上で承認されるものですので、基本的には、安全性という問題は、特許になるかならないかという議論の中にはまだほとんど入ってくることはないのではないかと思うのです。

古川委員

議論がちょっと混乱してしまったみたいなところがあるのですけれども、安全性の問題でいきますと、治験・臨床にかなり近い部分で、しかしながら、安全性に関して検証が行われていないもので、大学の知的資産センター等を通して、たくさんの特許権が成立しているというのが現在の状況でございまして、研究者は特許権をどんどん行使しております。今、新しい遺伝子が容易にみつかるようになっていますけれども、それが機能を少しもっている段階で、自由に特許をとっているような段階でございまして、これは、今リサーチをかけてみれば明らかですね。既存の有益な分子は、ほとんど特許権が押さえられているような状況でございまして、医薬について、すべて安全性が確認されているかというと、とんでもないわけですね。全く試行状態ということになります。
今、直前にご指摘があった点につきましては、恐らく川上規制の問題点のことをおっしゃっているのだと思うのですね。川下規制にしておけば、医行為として行われるものは、当然権利行使の対象にならないわけですが、医行為以外のものであれば、当然権利が行使されるという部分で、問題がないだろうとも考えられるわけであります。
川下規制の各案について、8ページの丸2にまとめてあるところでありますが、これを一読いたしますと、主体によって分けるのが一番クリアカットのような書き方がなされていますが、医師自体におきましても、医師の免許をとった後、患者さんの診療を一切せずに研究に従事していて、それこそ特許発明に従事している人もいるのですね。その人が突然、自分の研究成果をもって、患者さんに診療としてやる。診療のはざまでいろいろな行為をする。これを全部特許権の行使外としていたら大きな問題が生じてしまう。これは実質的には医師でない。医師の免許をもちながらも、非医師と同じ方はたくさんいるわけですね。ですから、医行為自体、判断が非常に困難ということでありますと、患者に対して用いられるという客体で分けた場合にも、どこまでを患者に対してかという解釈上の問題が出てくるのですね。そうしますと、こういったことは法律一般に起こるのですが、診療行為として行われるような行為という規定の仕方が穏当ではないか、医行為というと医師法17条の解釈になってまいりますし、その他の客体、患者さんに対して行われる場合も、この条文の解釈が問題になってきてしまう。「診療行為として行われる」なんていう書き方をすると、それの解釈上問題になるのですが、もしそこ自身を判断するとしたら、もう裁判所にゆだねるしかないという気がいたします。いずれにしても、この点について、明確な条文をつくることは、立法技術的には難しいだろう。どれが一番いいかといえば、主体がいいというのは恐らく間違いであろうというのが私の意見でございます。

竹田委員

では、今度は私の意見をいわせてもらいます。前に述べたことはできるだけ省略していいますが、治療方法発明は、産業上利用できる発明に当たるということは既に判例にさえ出ていることであるし、知的財産戦略会議や総合科学技術会議における議論をみても、先端医療技術を中心として、医療行為発明にも特許制を認める方向で対処すべきだというのは国民の声といってもいいし、大きな流れだと思うのですね。だから、ここで、将来、医療発明をどうすべきかということを考える場合には、それを受けとめて考えなければいけないと思います。それぞれの産業界や自分の利益代表の背景を考えれば、いろいろな事情はおありかと思いますけれども、今、本当に必要としているのはどういうことかということが、どれだけ多くの分野から起きているかということを前提に議論してほしいと思います。
そういう視点からみれば、私は前から2段階に、ということを申し上げているのですけれども、先端医療技術について、特許制を早急に認める方向で対応すべきだと思いますし、その場合には当然川下規制でいくべきであって、今の時代に、川上規制のように、特許を受けることのできない発明に医療の発明があるなんていうことを規定したら、それこそ時代の歯車を逆に回すようなものだと私は思います。ぜひとも川下規制の方向で皆さんの意見がまとまることを私は希望します。
今、提示されている安全性の問題とか、果たしてそれが医療技術の進歩に本当に役に立つのか、かえって阻害することにならないのかという議論は必要な議論でありますが、それは、基本的な方向さえ決まってくれば、具体的な審査・審判等を通じて特許制を認めていく過程の中でも十分検討していくことができることであって、そこに拘泥して先へ進めないのでは、せっかくみんなでこうやって議論していく意味がないのではないかなというのが私の意見です。

長井委員

今の竹田委員の発言は全くそのとおりだと私も思っています。2段階で、特に第1段階の先端医療技術については、国家政策、あるいは国民のニーズという点で早急な特許化が望まれている。その他医療技術ほかについては、段階的に2番目としてやっていく。規制のやり方も明瞭な川下規制がいいのではないかという意見に全く賛成です。
先ほどの古川委員のところで、川下規制のやり方で、医師の行う行為について法制化することは難しいのではないかということでございました。先ほど挙げられた、医師の免許を持っていても医師でないという例はちょっと特殊過ぎて、一般的に、主体・医師は国家資格をもった人で、それが業としてやるのが医療行為だと教えられるので、そこのところで規制するというB案を法律で規定する方向でいった方が明瞭になるのではないかなということです。
もう一つ、付け加えさせていただきます。2段階でやるとき、先端医療を先ずやるというのは結構でございます。今、社会的なニーズとして、先端医療の特許化が望まれているというのは確かだと思いますが、それプラス医薬品の使い方のニーズも現実にあります。医薬品の使い方等の特許については、現行法制では認められないということで、ちょっと技術用語になりますが、変形剤クレームという特殊な形で、今、現実に出願が出されているということは、そこに特許化を必要とするニーズがあるということです。先端医療を第一にやるのは結構です。その次の段階のものも、遅れないで、きちっと論議していただきたいなということを付け加えたい。

古川委員

診療しない医師は非常に特別だというご発言について、ちょっと補足なのですけれども、医学部を卒業して、約1割の医師が診療に従事しないところに行くのですね。基礎の者になる場合があります。それから、診療を行いながら研究に従事している医師は3割近くを占めるのではないかと。どこかでみんな研究的な行為に携わっているということになりますと、全く特殊ではないということになります。例えば国立病院や大きな病院になりますと、臨床試験に少なからず巻き込まれますし、国公立の病院においては研究費が必ず出るのですね。これは厚生省から給与されまして、これに従って、その病院においての研究成果をまとめることが義務になっております。そうしますと、そういった研究成果を必ず出していく。ここにおいては、特許を侵害する可能性は当然出てくるわけですね。そういう面から、非常に特殊とはいいがたいものがあるだろう。ちょっと補足でございます。

津國委員

先ほど、先端医療とそうでない医療技術を区別するという議論がおありになったようですけれども、実際に先端医療であるかどうかというのは区別が難しいのではないかなと思われるのですね。ここに体の外での皮膚の培養方法とありますけれども、再生工学の場合でも、完全に体の中そのもので再生を行うという技術は、特に日本の再生医療工学の場合は主流になっていると私は理解しているのです。ですから、先端医療とそうでないものをにわかに区別するのは難しいのかなと。ですから、2段階論というよりも、1段階で早急にやっていただきたいというのが私の個人的なお願いでございます。特許庁側のいろいろなご準備もあると思うのですけれども、川下規制でお願いしたいと思っております。

木村室長

済みません。2段階論について、私、頭の整理がちょっとできていないのですけれども、川下規制でやって、なおかつ先端医療についてだけ特許を認めるのは一体どうやってやればいいのか。69条で、医師にしろ、診療行為にしろ、適用除外を置く。そうすると、現在の東京高等裁判所の判例からすると、29条で、産業上利用可能でないということで拒絶をすることははおかしいということに多分なると思うのです。
何を申し上げたいかといいますと、川下規制だけをやって、例えば先端医療についてだけ特許を認める。それ以外について出願が出てきたら、それは拒絶をして、その理由は、産業上利用可能でないからという運用をせよということになるのかと思ったのです。32条を置かないといたしますと、必然的にそうなるような気がいたします。非常に技術的な議論で申しわけないのですけれども。

相澤座長

今の法技術的な議論につきましては、議論の余地があるだろうと思いますが、ここで法技術的な議論をしていますと時間がなくなりますので、先の議論をできればと思います。

片山委員

概念的なアプローチももちろん重要ですけれども、規制の仕方によって、条文の書きぶりによって、これはアウトになりますね、これはセーフになりますねというあたりを教えていただいた方が、我々にとってはよりわかりやすいのかなという感じがします。
最初に、絵でかかれた、例えば皮膚を培養して、といった例を出されておりますが、たくさんの患者さんのものを集めて、工場みたいなところで、例えば血液の検査をするのと同じような感じで培養がなされるとすると、そこに医者がいらっしゃろうと、どうであろうと、それは特許権の効力を及ぼすべきではないかという感じがいたしますし、他方、なかなか難しい議論だなと思いますのは、非常な速度で技術が進歩していて、こちらが予想していなかったようなものが出てくる分野なのだろうと思うのです。例えば皮膚を体内で培養したり、あるいは、最近、少し問題になっていますが、歯を埋め込んで、体内で培養するといったところになると、感覚的には、そこまで及ぼすのはいかがなものかなと。非常に直観的な話で恐縮でございますけれども、培養という問題を取り出すと、そういう感じがいたします。
これは医者を保護するのが目的ではなくて、基本的には、患者にちゃんとした医療が施されることが社会的な価値だろうと思いますので、行為者の側から例外を設けるのはちょっとどうかなという疑問がわきます。むしろ、先ほどの例で挙げられていた客体のアプローチの方がいいのかなという感じがいたします。
ただ、参考資料の中で客体の診断方法が幾つも出てまいりますが、一体ああいうものを右とするのか、左とするのかという価値判断は随分分かれるのだろうと思うのです。
申し上げたかったのは、カテゴリーに分けて、具体的な例で説明いただくと、方向性がより明瞭に出てくるのではないかなということです。

大野委員

基本的な問題にかかわるかどうかわからないのですが、この資料の中でも触れられていますが、細胞を取り出してきて、それを自家に戻すのであれば特許にならないけれども、他家の細胞を使ってやるものについては特許になるというのが現状です。これ自体、非常におかしいわけでございまして、基本的に、再生医療の医療の技術としての本質的な違いはないわけでございまして、その辺のところは、このままではいけないだろうと思うのです。
そういう中で、先ほど触れたことですが、先端医療として切り分けて扱うことが出来るのであれば、川上で規制されてしまったら何にもならないので、そこのところはぜひ特許をみとめる方向で、川下規制のところで考えていただくのが一番いいのではないか。
また、医療行為を、特許実施の主体でみるのか、客体で分けるのかという議論で、組み合わせによって決めることもできるということでありますので、そうであれば、お医者さんのやる行為が病院あるいは診療所の中で行われて、しかも対象が患者さんであるという、この3つを組み合わせれば、これが一番はっきりするのではないか。先端医療の分野では、医療行為にかかわる特許をお医者さんが医療行為としてやるのではなくて、企業に入ってやられる場合もこれからいろいろ出てくると思うのです。そういったものについては、たとえお医者さんであっても権利行使の範囲から外れる、権利が及ばないというのはやはりおかしいのではないかと考えます。

古川委員

今、片山委員、大野委員より、主体でおかしいのではないかというご意見がございまして、特に、大野委員の例で、医師の免許をもっている者が企業に雇われていて、そのまま何でも自由にできるといった不当なことが起こり得るということで、これは十分懸念されるわけであります。
片山委員が総合的におっしゃいましたけれども、客体に重点を置いた見方が非常に重要であろうというご指摘は、私もそのとおりだと思います。
あと、大野委員がおっしゃった、病院で、患者さんに対して医師が行うといった規定の分け方ですね。私、先ほど「診療としてやられる行為」と申し上げましたが、それも同じようなニュアンスでございます。
ただ、1つだけ注意を申し上げると、各点について細かいことになりますけれども、患者さんに対して行われるもの、客体で分けますと、これはすべて診療行為として行われるわけではないですね。患者サービスみたいなことで、営業的な価値をもった健康食品のお勧めがほかにやられているといったことがないわけではないですね。
それから、診療所内であればいいかといいますと、これは非常に疑義がございまして、いろいろなところの研究をやっている医療機関と併設してクリニックをつくりまして、まさに診療所の中で研究が行われているという例もございます。
ですから、組み合わせのような考え方になると思いますけれども、そこを余り細かく規定すると、いろいろな場合が考えられますので、大ざっぱに「診療として」という考え方しかできないのではないかというのが私の実感でございます。この辺は、もし次回があれば、委員長におまとめいただいて、具体的な方法を考えていただいてからもう一度考えたいと思います。

熊谷委員

いろいろなカテゴリーのものが特許になることに対する懸念があるとすれば、医療行為に該当するかどうかは別として、クローン技術等については、一種の川上規制になると思うのですが、公序良俗の基準に倫理面での基準を具体的に作成し、検討することによって、本来保護すべきものは保護されるが、保護すべきものでないものは保護されないということを別途検討することも必要ではないかと思います。今回の議論とは別の議論かと思いますが、そのような観点からも検討することは必要ではないかと思います。

菅沼委員

多分すべてのエリアがそうなのでしょうが、特許になったからといって、それが使われる特許になるかどうか。医療エリアでは非常に少ない話だと思います。薬でもそうです。特許から開発が始まって、物ができてからも、医療に使われるもの……。治療法は、医療スタッフと患者さんの関係で育てていくものになってくると思います。そういった意味で、そこがスムーズに流れていく形が一番いい。その際に、発明者の権利を守る必要は当然あると思います。
ただ、先端医療がどうのという区別については、今ニーズが出たのは、再生医療の同一の体に移す場合という実質的なものがきっかけになっていると思うのですが、ご発言があったように、実際、遺伝子の特許を含めて、研究時点でのブロードな特許は既に幾つも出願されていて、例えば遺伝子治療、再生医療という形で先端医療を区切ることはなかなか難しいのが現状だと思います。先端の研究から臨床への道が長いのですが、研究時に、臨床を含めたパテントファイリングができるということの自由度が今ありますので、その辺のことを解釈し出すと非常に難しい問題になるかと思います。
ただ、現実には、今後の新しい医療を育成していく上で、最もやりやすい形がいいのではないかなと思っています。

高倉参事官

私は、総合科学技術会議の知的財産戦略専門調査会の事務局をやっております高倉と申します。
先ほど来出てきております先端医療技術の特許化につきましては、総合科学技術会議の知的財産戦略専門調査会で6月ぐらいに中間まとめをしたという経緯もありますので、委員の方々が具体的にイメージしていたものはどういうものかということと、その特許化がどうして必要かという点、3点目として、過去2回のこの医療行為ワーキンググループの結論を踏まえた会合が先週27日に行われましたので、その3点について、簡単にご報告して、さらなる議論の材料にしていただきたいと思っております。
確かに、先端医療技術は、言葉としては非常に抽象的でございますけれども、事務局といいますか、その会議で具体的にイメージしていた内容は、細胞工学や発生工学を利用した先端的な医療技術のうち、医師以外の方々、具体的には、医療ベンチャーの方々が事業として行っているような発明、例えば遺伝子の処理、細胞の処理、人工皮膚の培養等、総称して「生物由来製品の生産」といっておりますが、物をつくる方法であると考えれば、これは当然特許の対象にするべきではないか。
調査した時点で医療ベンチャーは全部で10社ぐらいありまして、そのほとんどは、現在ですと、薬事法に基づく生物由来製品の製造と販売の認可を申請している。幾つかの企業においては、治験の申請も終わって、治験がスタートしている。物をつくる生産の方法として、特許の対象となるべきだと皆さん期待して、そのために多大な投資を行っている。これが特許にならないというのでは製品がつくれない。製品がつくれなければ、患者に行き渡ることも少ないだろう。再生医療の技術で、自分で皮膚をつくることができる方は、日本全国で50人といないのではないか。産業の存在があって初めて、組織内の胚細胞から培養した皮膚をつくれる。つくられた人工皮膚シートといったものが患者に行き渡っていく。このために特許は必要である。
現行の特許法をみますと、先ほど大野委員がおっしゃったように、他人からとったいわゆる同種、あるいは他家の製品の生産方法は特許である。にもかかわらず、自己は特許の対象にならないのは明らかにおかしい。どうしてかというと、ほとんどの再生医療は、自己の組織から採取したもので組織内幹細胞をつくっていくのであって、産業的にも医学的にも意味があるのは自家細胞。それは特許の対象であることを早急に明確にしてほしい。こういうことを念頭に置きまして、先端医療技術の特許化と。
話が長くなって恐縮ですが、それを特許の対象にすることによる具体的な効果として、前回の会合で共通の認識としてあったのが4点ありまして、1つは、先ほど申し上げたように、医療ベンチャーの投資リスクを軽減する。もちろん、厚生労働省に認可の手続をしておりますけれども、その間、多大な時間を要するわけでして、その間の投資を安心して行うためにも特許が必要である。
2点目として、全国の医者、全国の患者に生物の由来製品を、安心して、合理的価格で提供するためには、やはり事業の存在が必要である。
3点目として、研究機関と医療機関とビジネスの三者が一体になって初めて、複合的な研究開発が進んでいくのではないか。これは、前回会合に来た再生医療の関係者から聞いた報告ですが、アメリカのハーバード大学の近辺にはバイオジーンタウンというところがあって、ここで、この10年間で300社ぐらいの医療ベンチャーが新しく創設していて、その成果が研究開発や基礎研究の方にもフィードバックしている。このように学術の研究のためにもビジネスが必要であり、ビジネスを起こすためには特許が必要である。
4点目として、事務局のペーパーにもありましたが、日本で生まれた研究開発が、日本で実施することができなくて、海外に行ってしまうという点はどうかなと。これも医学関係の先生の報告にありましたけれども、日本で大やけどをした患者さんの細胞をとって、アメリカの会社で培養して、日本で治療を行った。こういうことを日本で行えるためには、やはり事業としてのビジネス化が必要。
話が長くなって恐縮ですが、少なくとも生物由来製品の方法は、自家であれ他家であれ、特許の対象にしてほしい。
もう一つ、大事な点は、こういった特許権が、医師が医師としての義務を遂行することに影響を及ぼしてはならないという点は、総合科学技術会議の過去の共通の認識でありますし、今後も当然そうである。その立法論や技術論については、ぜひこの委員会で議論を深めてほしい。
いずれにしても、特許については非常に強いニーズがある。技術用語についても、それほど難しいことではなくて、基準や法律の中で書くことができるのではないかと思っています。
いずれにしても、このままの検討が進んで、今と状況が全然変わらないということはぜひ回避して、現実にビジネス化が行われて、多くの患者が待っている製品を、速やかに世の中に提供できるような仕組みを早急につくってほしいということが前回の会議のあれでございました。時間をとりまして済みません。

相澤座長

ありがとうございました。

菅沼委員

今のご意見はすごくいいご意見だと思います。実際、米国で、再生医療の大きな2つの会社が倒産したというのは有名な話でありまして、それらの原因の1つとして、FDAへの申請、また、新しい治療であったということで臨床試験が非常に長い期間かかって、その間の資金が大変であった。結果として、出る製品の価格も非常に高くなる。そういった技術サイドの問題なのですが、そういったものが、向こうの再生医療の大きな2つの会社の経営に大きな問題を起こした。先ほどもお話ししたように、よい医療が早く育つということがその根底にあると思いますので、特許制度についても、そういった視点で考えることがよいと思います。

澤委員

生物由来製品、特定生物由来製品の特許化については、そういうのであれば、もう既に二重の安全がかかっているわけですから、全然反対するまでもないし、今やられていないとすれば、おかしいのではないかと思います。

竹田委員

先ほどの2段階実施の法技術論をいってもよろしいですか。後にしますか。

相澤座長

どうぞ。

竹田委員

私の考えている最善の方法は、医療関連行為発明について、全部特許制を認めるという前提での法改正を行って、施行時期に差を設ける。先端医療技術については、例えば1年、それ以外のものについては3年、法的に許されるならば、特許庁の実情も踏まえて、もう少し先にしたっていいのではないかと思いますけれども、そういう形で、施行期間について差を設ける。これがベストだろうと。
それから、先端技術とそれ以外の技術とは区別がなかなか難しいと。法律をつくるときは、そういう技術はみんな難しいことなので、それは、結局、法を行政が運用し、司法が判断するという過程を経てすみ分けができてくるわけで、概念規定でどんなにがっちり縛ったって、グレーゾーンはどうしても残るのが法律だと思っていただいた方がいいのではないかと思う。そういう中でやっていけば、そこのところは、実際上の問題としては解決していくだろう。基本的にはそう思います。
ただ、前段の先端医療技術についてはオーケーだけれども、あとのことについては、今の段階で法制化まではちょっと……という意見が多いのであれば、また別の立法技術を用いなければならないのですが、1つは、69条のところで、先端医療技術に関する発明についての特許権の効力は、医師の行う行為に及ばないといった規定にする。
あとは、これは私、余りとりたくないけれども、32条で、先端医療技術発明を除く医療関連行為発明は特許を受けることができないと。これは、だれが考えても余りいい案ではないなということになってしまうと思うのですね。
最後に残された手段は、これは私、余りいいたくはないのですけれども、法改正はしないで、審査基準で先端医療技術だけはまずやりましょうと。なぜこれは私、余りいいたくないかというと、審査基準は、本来、行政通達的なものであって、ともすると、それに法的な効力をもたせる方向に行きがちなのはできるだけ避けるべきだというのが私の基本的なスタンスですけれども、そうしないと、この問題は流れてしまうぞといわれるのであれば、緊急避難的にやる。ただし、その場合には、あとの医療発明については……。知財戦略会議の具体的行動計画でも、2003年末でしたか、結論を出さなければならない……。

木村室長

2002年度末です。

竹田委員

そうすると、それも一つの結論ですよね。あとの医療発明の特許制の問題については、あと1年以内に解決するといった方向は……。私は、これでいきたいとは余りいいたくないけれども、どうしてもということだったらば、流産させてしまうよりはその方がいいかなと思わないではないです。

古川委員

竹田委員が今おっしゃいましたけれども、前回、高裁の判例の趣旨をお述べになって、法改正はやはり必要ではないかというご意見ですが、そこまでおやりになっても、やはり運用を変えなければいけないと。
先ほどおっしゃって、それも私は同感なのですけれども、審議室長からもずっとご指摘がございましたが、2段階規制について、何が具体的なメリット、また、何が必要かということになりますと、私が今お聞きした限り、先端医療技術については急を要するという趣旨でよろしいですか。本来は川下規制にして、一般的な医療行為特許を付与して、その上で、権利行使について川下規制を行うという方法でいいのだけれども、特に先端医療技術については、早急に特許化を施行する必要性があるために2段階規制にする。そのように受けとめましたが、それでよろしいのでしょうか。今、竹田委員にお聞きしているのですが。

竹田委員

済みません。最後のところがちょっとわからない。審議室長に聞いているのだと思って……。

古川委員

そこは、先ほど審議室長も疑問点としてお挙げになったと記憶しておりますので、申し上げたのですけれども、メリットと必要性について。

竹田委員

今、先端医療技術だけを先行する点についてですね。

古川委員

はい。

竹田委員

それはそのとおりです。

古川委員

そうすると、竹田委員も、最終的には、医療行為全般について、特許権を川下規制で行うべきだという……。

竹田委員

私見をいえば、そういうことです。

古川委員

では、川下規制という合意の上に、後は規制の仕方という点に議論が集約されているように思うのです。

大野委員

私自身、業界として再生医療等にもかかわっていますので、先端医療分野に限って特許を認めるという考え方、流れは大いに納得のできることで、先ほど高倉さんがおっしゃったことは非常に明快で、よくわかったのですが、その中で1つ疑問に思いましたのは、その場合、医薬品業界から出た投与方法特許は先端医療に入るのか、従来医療に入るのかということです。私は医療機器業界なのですが、この辺のところがちょっと心配になりました。
もう一つは、川下規制の場合に必ず出てまいります問題で、前回も申し上げた間接侵害の問題であります。A案、B案、C案の例示のところでは皆「専用部品を提供するなど」と書かれています。専用部品である場合には非常に明快でいいのですが、私どもは、汎用の医療製品は間接侵害に当たるといったなケースが多発することを懸念している。この辺のところはどう解釈したらいいのでしょうか。専用製品であれば非常にすっきりするのですが。

木村室長

基本的に、汎用部品を我が国で供給する場合は同じです。

相澤座長

現在の間接侵害の規定を変える意図はないという了解でよろしいでしょうか。

木村室長

はい、そういう意味です。

長井委員

両方について、意見を云いたい。薬の使用法については先端医療に入っていると思って発言しているわけではありません。その他の中で忘れないでほしいということで云っただけでございます。
間接侵害のことについては、私はこの前、間接侵害が適用されると、医療用具業界は影響があるけれども、医薬品業界は余りないのではないかということで発言はした。それは現状の話でした。今回、例えば治療法についての関連発明として、医療用具関係の治療法の発明も特許化になって、間接侵害が適用されるということになったときに、医療用具業界でインパクトがあるといわれますが、それは、今まで特許にならなかったものが特許になるわけです。今までの話と将来の話は違うのではないか。今まで特許にならなかった発明が特許になる。直接であろうと間接であろうと、侵害であることには変わりない。侵害とわかっているものについて参入することはあり得ないわけですね。人の権利があるということをわかっていて無断やることはない。
例えば、医薬品でいえば、物質特許が入った。その前は、外国の製品の改良製法ということでやっていましたが、それはまずいということで、業界として体質改善したということです。それから30年ぐらいたっているのですが、その結果、今どういう状態にあるかというと、日本発の薬が世界じゅうで売られている。例えば日本の大手でいえば、数が少ないので、力は弱いのですけれども、世界中で1,000億、2,000億と売れる薬を各社が出してきている。これは、物質特許を採用して、業界の体質改善をしたことが原因だと思う。医療用具業界もそういう時期に来ているのではないか。その反対理由は、間接侵害の障害といっていながら、実態は、今まで許可になっていないものが許可になる。それによる影響があるから、その許可を認めるなという意見としか思えない。国内産業優先をやるということで、今の医療業界は果たしていいのかなと。医療用具の先端のものは国内になくて、外国のものを使用しているという話をちらちら聞くので、医療用具の業界も今後、飛躍的に発展していくためには、これを契機に体質改善していく。間接侵害云々ということで、その辺をどうのこうのというのは議論にならないのではないかなという意見でございます。

古川委員

間接侵害については、もうちょっといろいろな類型が考えられますので、外延が広いので、ここで全部を考えて一概にいうことは非常に難しいという気がいたします。
先ほど投与方法のお話がございましたが、私も、これ自体を先端の医療分野と認めることは非常に難しいと考えているのですけれども、確認しておきたいのは、すべての医療行為について、川下規制で特許権を付与していく方向で、特に施行時期を早める。先端医療分野だけを認めるという意見ではないのですね。施行時期を早めるというだけの話なのですね。ですので、これは、運用基準をつくっていく場合に、先端医療技術を優先してやっていって、その後に、必要性に応じて段階的に運用基準を考えていこうといった優先順位だとご認識いただいて、投与方法も、改正によって特許権が付与されるものに入るという認識でいていただいた方が、2段階規制説ということで、竹田委員のおっしゃっていることがよくわかるのではないかと思います。

熊谷委員

2つだけ申し上げたいと思います。ひとつは、施行時期なのですが、先端医療技術だけ施行時期を早くすることは、制度改正を行うことにより、世の中にいろいろ影響を与えるということと、特許庁内における運用体制の整備がありますから、制度改正を早くすることと施行時期を早くすることとは必ずしも同じではないことに留意すべきかと思います。逆にいえば、影響があればあるほど周知徹底を図るという意味では、施行までに一定期間は必要だということを前提として、相対的に施行時期を早くするかどうかという議論をしないといけないので、制度改正を行えば、すぐ施行できるのだという問題ではないのではないかと思います。
もうひとつは、先ほど高倉さんからお話があったようなものに特化して考えた場合に、医師が行う行為だからといって対価請求権も認めないでよいのかという議論もあるのではないでしょうか?たとえば、権利者以外の人が培養したものを医師が使用することは権利侵害ではないとしても、製造なり販売の段階で権利行使すればいいという議論もあるかと思いますが。しかしながら、治療行為に差止請求まで認めるのは論外だと思うのですが、対価請求権を認めることは検討に値するのではないでしょうか。対価請求権を認めなければいけないというつもりはないのですが、本当にそれで実効性が手当てされるかどうかということも一つの検討材料になるのかなと思います。
それと、先端医療かどうかというのは非常に抽象的かつ相対的な概念かと思いますので、竹田委員もおっしゃったように、運用しながら考えていくということもあるとは思うのですが、川下規制で対応する場合も、不明瞭さが残るので、竹田委員も可能であればすべて一括というご発言だったと思いますが、先端医療分野に限らずに、医療分野全般について検討することを優先的にすべきではないかと思います。

古川委員

時間も少ないですので、いいたいことをいっておきますと、別に先端と区切る必要はないと思うのですね。いろいろな省庁で、例えば医療分野の研究費を集めるのに、限定して、例えば20個ぐらいの分野をバーッと挙げてきて、これにかかわらないものは研究費の対象としないような募集の仕方もあるのですね。分野を挙げて、それにかかわる、かかわらないかは特許庁の判断になってくるといった運用の仕方もあるのではないか。「先端」という言葉を一例で挙げただけであって、何もそれを先端ということで考えなければいけないわけではなくて、再生医療、何々と具体的に分野をバーッと挙げていって、より細かくカテゴリーをつくれば、それで一応具体的にわかるのではないかという気がします。

長井委員

もう一回確認したいことがあります。先程の澤委員の発言は、高倉さんの云われた先端医療、特に、生物由来の特定製品に特化したものについては賛成で、それは前から変わりません、というお話でした。それと別に、竹田委員やほかの委員が云われている全体の治療法特許を認める中で、特化したものについては優先してやりましょうという案について、澤委員としてはどうお考えになっているか、お教え下さい。

澤委員

高倉参事官は、生物由来製品と特定生物由来製品のことをおっしゃったので、それに関しては、今まさに安全性を担保するところがつくられつつあるわけで、業としてやるわけですから、改正薬事法の中でも安全性が二重に確認されて、それを担保するものがもう既にあるということです。それであれば、当然のこと、同一の人に戻す。自己培養の場合でも、これは認められるべきではないかと私はいったわけです。
では、すべての新しい医療がそうかというと、先ほど古川委員から、治験ですら安全性が全然確認されていないまま、どんどんやっているのだ、という話がありましたけれども、誤解を招くといけませんので。フェーズワンでも、例えば古川先生の施設でも、IRBをきちんと通して、そこでリスク・ベネフィットを判断し、有効性があるではないかということで各研究機関が担保して、患者さんに説明をするのだろうと思うのです。それが全くあいまいなまま、どんどん出てしまうのはいかがだろうかという考えをまだもっております。

古川委員

私も同じ意見を申し上げているのですね。現在、患者さんに行える行為の安全性は、基本的には担保されているのですね。それは何を通してかというと、薬事法の規定にのっとった行為でなければ、新しい行為はできないですね。基本的にそういうことになっております。企業がこれを業として行うことは認められていない。薬事法に規制されない部分は、医師の臨床研究の部分であり得るわけです。この部分は、非常に厳密なIRBを通して、患者さんにインフォームド・コンセントを行った上で行っていますので、この基礎データにおいては、基本的に安全性がある程度担保されるという構造をとっているわけですね。だから、診療行為として特許を認めたからといって、危険な行為が行われるということには全くならないわけです。薬事法を通らなければ、普通の医療行為としてはまず行われません。そのほかに、研究機関、医療機関を兼ねたような大学、先端施設といったところで先進医療を行う。こういったところについては、非常に厳密な管理下に行われている。ここについては、危険性云々よりは患者さんのメリット、このバランスで決まって、IRBを考えてまいりますので、この部分について、特許制と安全性について触れるのもおかしいわけであります。そうすると、この安全性の問題は、今回のこの議論とは全く関係ないという結論になると思っています。

片山委員

私は、正面から法改正なのか、それとも実務的なソリューションかという点につきまして、ぜひ正面からやっていただきたいと思います。国際会議などに出ておりまして、法の改正なしでは説明のしかたが難しいことがあります。いろいろ批判されますが、日本の審査のレベルは、外国と比較して、胸を張っていいのではないかと私は思うのです。ただ、手順については、質問されたときに困ってしまうということがありますので、正面からトライしていただきたいなと思います。政府の方で、「知財立国」といっているのにもかかわらず、正面からゆくととんざしてしまうのは、全体としておかしいのではないかと思いますので、よろしくお願いします。

大野委員

先ほど熊谷委員がおっしゃられたことの単なる追加になってしまうかもしれませんが、この資料の中で、医師の行う医行為に対して特許権は及ぶべきではないということで、もう100%、権利行使の可能性を排除してしまっていることがこの議論の前提になっている書き方がされているように思いますが、その考え方は必ずしもまだ確認されたわけではないように思います。例えば通常実施権を設定するなど、権利使用の形はいろいろあり得ると思いますので、100%排除するような考え方が前提であるという書き方はまだすべきではないと私は思います。

古川委員

私も同様の意見でございます。それが施行できれば、患者さんの健康上のメリットが確保できるわけでございますので、対価性についてどうすべきかということは別個の議論が必要だと思います。

相澤座長

皆さんに熱心に討議いただいて、議論が大分煮詰まってきたのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
時間も少なくなりましたので、これぐらいにしたいと思いますが、何かご発言がございますでしょうか。
それでは、本日の議事は以上にしたいと思います。
事務局から連絡等がございますか。

木村室長

次回のワーキングループでございますけれども、日程はまだ設定しておりません。委員の皆様方のご日程を個別に伺わせていただいて、事務局で調整の上、また改めてご連絡をさせていただきたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。

相澤座長

次回の前に、場合によりましては、皆様方のご意見を紙の形でいただくといったことも手順として行うこともあろうかと思いますので、その節はご協力、よろしくお願いいたします。よろしゅうございますか。

木村室長

はい。

相澤座長

それでは、以上をもちまして、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会第3回医療行為ワーキンググループを閉会させていただきます。本日は、長時間ご審議いただきまして、どうもありがとうございました。

――了――

[更新日 2002年12月27日]

お問い合わせ

特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室
電話:03-3581-1101 内線2118
FAX:03-3501-0624
E-mail:PA0A00@jpo.go.jp