ここから本文です。
中山座長 |
定刻少し前ですけれども、全員お集まりでございますので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の審査基準専門委員会、第4回会合を開催いたします。 本日はお忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。 第2回と第3回におきましては、進歩性をテーマにプレゼンテーションや御議論をちょうだいいたしました。今回は、その議論の成果物として「進歩性のケーススタディ」をまとめるとともに、新規事項の審査基準につきましても御議論をちょうだいすることになっております。今日も活発な御議論をお願いいたします。 議論に入ります前に、出席者の御紹介を事務局からお願いいたします。 |
田村審査基準室長 |
本日は残念ながら、竹中委員、榊委員が御欠席となっております。また、萩原委員が御都合により途中退席されることになっておりますので、その退席後の代理として、日本知的財産協会特許第1委員会副委員長で、補正制度について検討されております第4小委員会の小委員長でいらっしゃいます日本電信電話株式会社の豊田義元様に御出席いただいております。 以上でございます。 |
中山座長 |
よろしくお願いいたします。 次に、資料を事務局で用意しておりますので、確認をお願いいたします。 |
田村審査基準室長 |
お手元のクリップを取っていただきますと、資料が5点ほどございます。まず資料1として「議事次第・配布資料一覧」、資料2として「委員名簿」、資料3といたしまして「第3回審査基準専門委員会以降の審査基準の改訂等について」、資料4として「「進歩性」のケーススタディ(案)」、最後に資料5といたしまして「新規事項の審査基準の改訂について」でございます。そのほか参考資料といたしまして5点ほどついておりますが、参考資料1として新規性・進歩性の審査基準、参考資料2として新規事項の審査基準、参考資料3として「平成18年(行ケ)第10563号 審決取消請求事件 判決本文」、参考資料4として「先端医療分野に関する審査基準」、そして最後に参考資料5としてヨーロッパ特許庁(EPO)の新規事項に関するガイドラインを添付させていただいております。 資料は以上でございます。 なお、前回もお願いさせていただきましたが、今回も議事録作成の都合上、発言の際には、お手元のマイクの緑色のスイッチを入れていただき、マイクを近づけて御発言いただきますよう、よろしくお願いいたします。 |
中山座長 |
ありがとうございます。 |
中山座長 |
それでは、早速、議事に入ります。まずは事務局から資料の説明をお願いいたします。 |
田村審査基準室長 |
それでは、お手元の資料3に基づいて御説明をさせていただきたいと思います。こちらは昨年6月30日開催の第3回審査基準専門委員会以降に行われました審査基準の改訂等について御報告する資料でございます。 1.審査基準の改訂についてです。 1.1、先端医療分野における特許保護に関する審査基準の改訂につきましては、aにございますように、先端医療分野の審査基準改訂のポイントについて前回御審議いただき、この方向で改訂するという方針について御了承いただいたところでございますが、このポイントに沿って審査基準の見直しをさせていただきました。 その経緯がb以降に記載されています。昨年の8月6日から9月5日にかけまして、改訂案についてのパブリックコメントを募集させていただきましたところ、14の団体と個人から100以上の御意見を承りましたので、それに対応する形で必要な手直しをさせていただき、昨年の10月23日に改訂審査基準を公表し、11月1日から適用を開始させていただいております。 次に、1.2ですが、塩基配列等を含む明細書等の作成のためのガイドラインの改訂をさせていただきました。このガイドラインは審査基準の「生物関連発明」の付録として添付されております。これは遺伝子の塩基配列とか蛋白質のアミノ酸配列を明細書に記載する場合の様式的なところを規定したものですが、昨年10月にWIPOの標準が見直されたことに対応いたしまして、こちらのガイドラインを改訂させていただきました。あわせて外部から御質問の多いところも明確にさせていただいたということです。この内容については昨年の12月25日に特許庁のホームページにおいて公表させていただいております。 次に2ページに移りまして、「2.審査基準に関する三極(日米欧)特許庁での取組」です。従来、日米欧三極特許庁プロジェクトにおいて審査実務の比較研究をやらせていただいておりまして、既に記載要件と進歩性に関する報告書が作成されておりましたが、今年度は新規性に関する法令・審査基準の比較研究及び事例研究を行いました。結果、昨年11月に、成果物として、その英語版を特許庁のホームページにて公表させていただいたという状況でございます。現在日本語版を作成中ですので、近日中に特許庁のホームページにおいて公開させていただく予定でございます。 次に「3.審査基準に関する情報へのアクセス性向上」ですが、「審査基準」をハイパーテキスト化し、裁判例とか法令データベースとリンクした形で、昨年の11月2日から公開させていただいております。こちらは、2008年8月にイノベーションと知財政策に関する研究会の政策提言の中で当審査基準専門委員会の設置とともに提言されたものでございまして、第一弾として昨年11月2日に「審査基準」のハイパーテキスト版を公表させていただきました。今後、後ほど御説明させていただきます「進歩性のケーススタディ」などもリンクする方向で充実を図っていきたいと考えてございます。 具体的内容は次の横紙のページに書かれていますが、左上に特許庁のホームページの審査基準の項目のところが出ています。従来はPDFファイルでしたが、その下に「審査基準HTML版」という部分がございますので、ここをクリックしていただきますと審査基準の目次が出てまいります。そして目次から必要な項目を選んでいくと審査基準の本文が出てくるという形になっておりまして、審査基準の本文で引用される裁判例も、「裁判例」の部分をクリックしていただくと本文が出てくる。さらに、特許法等の法令についても、クリックしていただくと総務省の法令データベースのほうで最新の条文にアクセスできるような形になっております。 以上でございます。 |
中山座長 |
ありがとうございました。 それでは、ただいまの資料3につきまして、御質問等がございましたら、お願いいたします。 よろしいでしょうか。これでかなり見やすくなったのではないかと思います。 |
中山座長 |
それでは、続きまして進歩性についての議論に移りたいと思います。 第2回及び第3回におきまして「進歩性」をテーマに議論してまいりました。竹中先生や日本知的財産協会、日本弁理士会からのプレゼンテーションもちょうだいいたしました。その結果、審査基準専門委員会といたしましては、法的安定性等の観点から、現時点では審査基準を改訂しないこととなりました。一方で、審査基準を適切に理解するために、裁判例を整理した「進歩性のケーススタディ」を作成し、審査官や制度ユーザーに提供することとなっております。今回、事務局にその案を作成していただきましたので、説明をお願いいたします。 |
田村審査基準室長 |
それでは、お手元の資料4、「「進歩性」のケーススタディ(案)」というペーパーを出していただけますでしょうか。こちらにつきましては、弁理士会さん、知財協さんから御提出いただいた裁判例をベースに、知財高裁判決を審査基準の観点から整理させていただいた次第でございます。 また、前回の会合で野間口委員から、知財協さんの中に進歩性に関する裁判例をここ数年検討してきたグループがあるので、特にそことも相談するようにというような御指示がございましたので、そちらのグループとも適宜相談しつつ、このケーススタディを作成させていただいております。 さらに、バランスのとれたものを作成するようにというような御要望も委員の皆様からございましたので、審決が支持されたものが7件、そして審決が残念ながら支持されなかったものが9件という形で、勝ったものと負けたもの、バランスのとれたケーススタディをつくらせていただいた次第でございます。 1ページめくっていただきますと、「はじめに」がございます。第1段落、第2段落では審査基準の位置づけと役割がざっとまとめられておりまして、ここは前回から変更がございません。 3段落目の中ほどから審査基準専門委員会について触れられておりますが、「審査基準の点検において、制度改正、新たな判例、新たな技術の進展、国際情勢の変化等に応じて迅速に見直すことが求められているとともに、安定した権利付与、権利付与された特許の安定性の観点から、必要以上に改訂するべきではないというコンセンサスがあった。そして、審査基準の点検に当たっては、変更が必要な点があれば審査基準の改訂を行う一方で、審査基準の理解を助けるための資料も提供することとした」というふうにさせていただいております。 また、「本資料は、進歩性に関する裁判例を取り上げ、審査基準を具体的事例に当てはめる際の留意点をまとめ、審査基準のより良い理解を助けるための参考資料として審査官(補)や制度ユーザーに提供するものである。ただし、各裁判例における判示内容・摘記内容は、そのまま一般化できるものではないことに留意されたい。」という注意書きを入れさせていただいております。 そして、この資料の取り扱いにつきましては、「本資料の提供方法」というところに記載があります。先ほども申し上げましたが、本資料は審査基準のハイパーテキスト版にリンクする形で皆様に提供させていただきたいと考えております。しかしながら、上のほうの説明書きにございましたように、これが審査基準の一部であるのではないかというような誤解を招かないように、リンクの仕方も工夫させていただきたいと考えてございます。 それでは内容に移らせていただきますが、2ページです。 まず「1.引用発明の認定について」という項目がございます。一番上の枠囲いされている部分が審査基準の本文でございまして、この中に「引用発明の認定」というころがございます。進歩性の審査基準の中では、「引用発明の認定」については基本的に新規性の判断と同じということで、そちらを引用したような形になっています。実際、この部分の右上に、例えば「進歩性のケーススタディ」というようなアイコンを設置して、そのアイコンをクリックしていただくと、先ほど御説明しましたケーススタディの位置づけがわかるように、すなわち審査基準の一部というわけではなくて、審査基準を読む上で留意すべき観点を裁判例を用いて説明している、そういう位置づけであるということを理解していただいた上で、二重線以下のケーススタディ本文が出てくるようにしたいと考えております。 具体的には2行目あたりから記載してございますが、「進歩性の判断において、引用発明の認定が論点となっている裁判例を以下に示す。進歩性が論点となった裁判において、特許庁の判断が誤りであると判示されたものには、引用例から引用発明を認定する際に、本願発明に無理に近づけて引用発明を認定していると判断されたものが多い。」というコメントを入れさせていただきまして、具体的には特許庁が負けた裁判例を2件引用させていただいております。こちらは、前回、前々回、特に弁理士会さんのほうから後知恵防止が非常に重要であるという御指摘をいただきました際に、こんな裁判例が出ているということで提出していただいた2件の裁判例をまとめさせていただいております。 1つ目の参考裁判例は「成形可能な反射多層物体」でございまして、「審決が隣接する高屈折率の層と低屈折率の層を一対として一単位の光学的層ととらえて引用発明を認定したことは、本件発明を知った上でその内容を刊行物2の記載上にあえて求めようとする余り、認定の誤りをおかしたものとされた例」としております。この辺の文言は、極力、裁判例の「当裁判所の判断」の言葉を忠実に書かせていただいております。 2件目の裁判例は3ページの下半分に書かれています。こちらも同じように弁理士会さんから後知恵防止という観点でぜひ参酌してほしいということで御提出いただいた案件でございます。「被告は、引用発明の認定において、引用例2の記載が周知技術に照らせば患部が「上気道」であることを含むと理解できると主張したが、裁判所は、投与経路として鼻内投与を選択し得ることが周知であったとしても、引用例2に「気道下部」の疾患であると繰り返し述べている明白な記載に反してまで、「上気道」をも含める記載であると解することはできない」という判示があったことを説明させていただきまして、これに対応する裁判例の記載部分を摘記させていただき、さらに、実際にはそこから本文に当たっていただけるようにリンクを張らせていただきたいと考えております。 次の項目は5ページから始まっていますが、「2.いわゆる「設計的事項」について」というところで、枠囲いの部分に審査基準の本文が載っています。「最適材料の選択・設計変更など」というのが「いわゆる設計的事項」と呼ばせていただいたものでございます。 審査基準の本文では、「一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更などは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到することができたものと考えられる。」と記載されていまして、特にこの中の「数値範囲の最適化又は好適化」に関する裁判例と「技術の具体的適用に伴う設計変更」に関する判示を行った裁判例が2つ並んでいます。 まず、5ページの下半分にありますのは光学分野の事例です。こちらは特定OH基の割合の数値範囲が特許請求の範囲に記載されているわけですが、その数値限定を行った作用効果(技術的意義)がはっきりしないというところをもって、裁判所では「当該数値範囲は単なる設計的事項以上のものということはできない」という判示をいただいております。そこについては審査基準の本文の「数値範囲の最適化又は好適化」の部分に該当するのではないかということで、角括弧書きで追加して、対応関係がわかるようにさせていただいております。 さらに、6ページの下半分ですが、こちらは貨車の連結部材の事例です。引用発明のほうは上側から連結部材を設置するところ、本願は下から連結部材を設置するということで、その点の違いがあったということですが、上からやるか下からやるか、その部分について、裁判例の中では「適宜採用可能な選択肢の一つである」というふうに判示して、進歩性を否定した例でございます。これについては、審査基準の「技術の具体的な適用に伴う設計変更」の部分に該当するのではないかということで、括弧書きをつけさせていただいております。 一方、7ページの一番下にあります裁判例は、ヘーズ値が特許請求の範囲で限定されているわけですが、特許庁がこの部分について「数値範囲の最適化又は好適化」であるというふうに主張したところ、この数値限定が特定の課題を解決し、所期の効果を得るという技術的意義を有するものであり、適宜定め得るということができない、こういう判示をいただき、特許庁が負けた事例でございます。こういう誤りは犯さないようにということで、こういう裁判例も掲載させていただいております。 次に、10ページにまいりまして、「3.具体的な動機づけについて」という項目がございます。こちらは、審査基準の本文では「論理づけの具体例」の中の「(2)動機づけとなり得るもの」の部分に該当します。 この中には4つの観点が書かれていますが、4つの観点のどれか1つだけ取り出して論理づけをすることで本当にいいのかどうか、そういう御議論を前回もしていただいたかと思います。特に永井委員からは、裁判所にいらした経験から、実際に論理づけをしていくことはいろいろな観点を総合的に考えて最終的に判断するのであって、いずれか1つの観点が特に重要だという話ではないという御意見もいただきましたので、ケーススタディの本文としては、枠囲いにしておりますように、これも審査基準に載っている部分ではありますが、「進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを常に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う。」とさせていただきました。本来論理づけというのはこういうふうにやるものであって、それぞれの観点が特に重要というものではないと。 その後に追って書きがされていますが、こちらは特に知財協さんの進歩性を研究されているグループからも御助言いただきまして、「すなわち、引用発明、本願発明の技術分野、当該技術分野の技術水準等、いろいろな要素を総合的に勘案し適切な動機づけがあるかどうかを検討し、拒絶理由通知を行う際には、その動機づけの根拠を記載する。」ということで、これら4つの観点を「総合的に」勘案して動機づけをやっていくというところをはっきりさせていただいた次第でございます。 そういう意味では、それぞれの観点に軸足を置いた裁判例が実際に出されているところですが、リンクを張る際には、それぞれの観点から裁判例にリンクするのではなく、むしろ動機づけという一番上位のところにリンクを張らせていただきます。ただ、ここの部分には裁判例もたくさんございますので、裁判例の中で特に論点となったような観点で並べさせていただいたところです。 なお、ここには9件の裁判例がございますが、バランスをとるため、特許庁が勝った裁判例が4件、特許庁が負けた裁判例が5件という形で配置させていただいております。 1つ目が「技術分野の関連性」という観点に特に軸足を置いた裁判例でございます。こちらは技術分野の共通性は動機づけとして働き得るものであるというところを判示していただいたものでございます。 一方、11ページの下5行目あたりから始まっている案件は、主引例と副引例を組み合わせる際にいわゆる阻害要因があるから、技術分野が同一であっても、動機づけ、論理づけができないということで、特許庁が負けた裁判例でございます。 13ページにまいりますが、こちらは知財協さんの進歩性の裁判例を研究されているグループから御提示いただいたものです。「課題の共通性」とは何なのかというところをしっかり判示していただいたものでございまして、出願人は本願発明と引用発明の間の課題の共通性の相違を御主張されたということですが、本来、「課題の共通性」というのは主引例と副引例の課題の共通性を考えて、結果的に本願発明に至ることができれば、本願発明の課題と多少相違していても論理づけはできるというところを判示いただいたものでございます。 14ページに移ります。こちらも同じく「課題の共通性」ですが、こちらはむしろ一般的な動機づけが「課題の共通性」に関してあるということではございますが、「引用例に周知技術を組み合わせることを妨げる事情がある」、いわゆる阻害要因があるということで、進歩性を否定した審決のほうが否定されたケースでございます。 16ページにまいります。これも同じような案件ですが、先ほどの案件は装置の関係の阻害要因があった事例で、こちらは化学分野の高分子フィルムの加工において、「課題の共通性」が主引例と副引例にあるというところは認定されているわけですが、適用する際に「阻害する要因が存在する」ということで、進歩性は否定できないという判示をいただいたものでございます。 18ページの上のほうもやはり「課題の共通性」の観点でございます。こちらは知財協さんと弁理士会さんから後知恵防止ということで特にお話のあった裁判例でございます。靴の事例ですが、靴が蒸れないように、通気性を維持しつつ、なおかつ防水性を向上させるというところが、主引例のほうで既にその辺の課題は達成されていところに無理やり課題を設定して副引例を組み合わせるようなことはできませんよということで、後から論理づけされたという判断が示された事例でございます。 ここまでが「課題の共通性」です。動機づけについてはやはり「課題の共通性」のところが論点となるものが多いのですが、基準の中には4つの観点の1つとして「作用、機能の共通性」という部分もございます。ちょっと古い案件ですが、19ページの中ほどにありますのは、天ぷら油の発明です。主引例のほうは天ぷら油の技術分野ですが、天ぷら油の固形不純物質を濾過する装置についての副引例として、20ページの上のほうに書かれていますが、自動車の潤滑油の濾過装置を持ってきたものです。これは技術分野は天ぷら油と潤滑油ですから非常に違っているのですが、主引例と副引例いずれの引用発明も、液体から個体を除去するという作用と機能において共通しているということで、進歩性を否定した事例でございます。 こちらは古い事例でしたので、知財協さんに御相談させていただきましたところ、新しいもので似たようなものもありますということで入れさせていただいたものですが、20ページの下半分のところでございます。こちらは平成17年に出た裁判例で、本願のほうはクレンジングパッド、引用例のほうはヘアブラシですが、柔軟な素材を用いて皮膚にフィットさせるという作用の点で共通しているので、引用例となり得るのだという判示がされている案件でございます。 動機づけの最後、21ページの下になります。こちらは弁理士会さんから後知恵防止ということでぜひにと言われた案件でございまして、平成21年の1月に出て、後知恵防止ということを高らかに判示されているので非常に有名になった案件です。これをどこに入れるかと考えました結果、「引用発明の内容中の示唆」という部分がよいのではないかと判断しました。具体的には、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆が引例のほうにないのに、それを無理やり後知恵という形で進歩性を否定したところがとがめられた裁判例でございます。 次に、23ページにまいりまして、「4.周知技術・慣用技術について」です。前回御議論いただきました際には「周知技術とは何か」というところから始まりましたが、その本意をいろいろお聞かせいただきますと、結果として、拒絶理由通知で引用されていなかった文献を周知技術だと称して拒絶査定される、そして出願人の反論の機会がないといったところが事の発端ではないかということでございます。 リンク先は「進歩性」ではなく、審査基準の中に「審査の進め方」という部分がございまして、枠囲いの下から2行目あたりからになりますが、「拒絶査定においては、周知技術又は慣用技術を除き、新たな先行技術文献を引用してはならない。」という記載のところで周知技術に当たるかどうかというところが重要になってくるわけでございます。 これに関しては、ケーススタディの本文に「その技術分野において一般的に知られ、当業者であれば当然に知っているべき技術である周知技術について、その周知技術の根拠を示すために先行技術文献を新たに引用して拒絶査定することができる。」と記載してございます。ここはこれから御説明させていただく裁判例でオーソライズされているところかと思われます。 「一方、周知技術の根拠として挙げた文献に記載された事項が周知ではなかった場合、すでに通知した拒絶理由通知において、「通知した拒絶理由」とは異なった理由となるから、新たな拒絶理由通知を発し、出願人に意見を述べる機会をあたえるべきである。」ということも書かせていただきました。まず一つ、前半部分に対応する裁判例を記載させていただいております。 24ページに「当裁判所の判断」の摘記がございますが、拒絶理由通知制度の趣旨と、拒絶理由を差し上げて出願人がしっかり反論する機会を保障しなければならないということが書かれております。しかしながら、24ページの下から5行目あたりですが、「周知慣用技術は、当業者が熟知し、よく用いられている技術であるから、周知慣用の技術内容を特定すれば足り、その根拠を一々例示することを要するものではない。」ということで、今、特許庁でやられておりますような、特にそこの周知技術について反論の機会を設けることなく拒絶査定するといったところも是認いただいているかと思われます。 一方、25ページの裁判例は、特許庁側は先ほどの裁判例を引用して周知技術だというふうに主張したわけですが、ここはどう見ても周知技術とはいえない、むしろ主引例・副引例の副引例ぐらいの話であるから、そういう拒絶理由については出願人に意見を述べる機会を保障しなければいけないという意味では手続違背であると、こういうふうに特許庁のほうがたしなめられた裁判例でございます。 以上、特許庁のほうが勝った事例、負けた事例を記載することで、審査基準のこの辺の文言をどういうふうに読むかというところの参考になるような裁判例を並べさせていただいております。 1点、前回の議論で、「意見書等で主張された効果の参酌について」に関してですが、審査基準の中の「明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、進歩性の判断においてその効果を参酌する」といった文言について、裁判例を載せていただけないかという要望が弁理士会さんのほうからございました。実際に探してみたのですが、なかなかバランスのとれた事例が見つかりません。最近はどちらかというと特許庁が勝った裁判例が多ございまして、それだけを載せると、勝った事例、負けた事例をバランスよく載せて、どのあたりがボーダーラインになるかということを判断する上での資料という本来の目的を達することができないのではないかと考え、弁理士会さんとも相談させていただきました結果、この項目は特に入れなくてもいいのではないかという結論にさせていただきました。したがいまして、御議論はいただいたのですが、項目は削除させていただいたということを御報告させていただきます。 以上でございます。 |
中山座長 |
ありがとうございました。 それでは、ただいま説明のありました「進歩性のケーススタディ」につきまして、討論に入りたいと思います。 まず最初に、資料4において前回議論された「意見書等で主張された効果の参酌について」という項目を削除したという説明がありましたけれども、その点につきまして何か御意見がございましたら、お願いいたします。 弁理士会のほうから、何か御意見ございますか。 |
筒井委員 |
特にありません。 |
中山座長 |
これでよろしいですか。 |
筒井委員 |
はい。 |
中山座長 |
ほかに、この点について御意見がございましたら、どうぞ。 |
長岡委員 |
特に意見ということではないのですけれども、大学等、まだ特許実務にあまりなれていないところもどんどん出願をしてくることを考えると、かなり自明なことであっても、判例の蓄積があれば載せること自体、問題はあまりないのではないか。載せてほしいということではないのですが、積極的に落とす理由もないような感じがするのですけれども、そのあたりはいかがでしょうか。 |
田村審査基準室長 |
ここは特許庁の中の事情かもしれませんが、推論できる範囲を非常に狭く解釈している審査官もいるかと思いますので、その場合に、一方的に特許庁が勝った事例だけを掲載させていただくと、間違ったメッセージを発する場合もございます。研究材料としてそういうものを提示するということは確かに長岡委員のおっしゃるとおりかと思うのですが、審査基準専門委員会のメッセージとして出させていただくということを考ますと、変なメッセージが伝わらないように、極力、慎重に対応したほうがいいのではないかいうふうに考えさせていただいた次第でございます。 |
中山座長 |
よろしいでしょうか。 |
長岡委員 |
わかりました。 |
中山座長 |
ほかに何かございましたから、お願いします。よろしいでしょうか。 それでは、「進歩性のケーススタディ」全般につきまして、御意見あるいは御質問がございましたら、お願いいたします。 |
萩原委員 |
知財協の提案もいろいろ組み込んでいただいて、ありがとうございます。そこで一つ確認です。これは今後公表されていくわけでありますけれども、新しい判決が出たり適切なものが出てきたときの追加とか、コメントの修正とか、そういうものは随時やられる予定なのか。それとも、こういう委員会を開催して、まとめてその妥当性を確認した上でそういうことをやるのか。その辺の確認をお願いしたいと思います。 |
田村審査基準室長 |
こちらの資料は、表紙に書かれていますように基本的に審査基準専門委員会が作成したものということで、非常に重みのある資料とさせていただいておりますので、逐次、審査基準室が勝手に改編していくようなことは現在のところ考えておりません。 いずれにいたしましても、新しい裁判例を取り込むことは必要かと思われますので、また審査基準専門委員会で検討させていただいて、これをリバイスしていくことはあろうかと思われますが、審査基準専門委員会のほうもほかにいろいろ課題がございますので、その課題が一通り整理を終えた上で、もう一回、進歩性について見直す機会に一緒にやらせていただければというふうに考えてございます。 |
萩原委員 |
了解しました。 |
中山座長 |
ほかに何かございましたら、お願いします。 |
永井委員 |
印象論で申しわけございませんが、ただいまの報告をお聞きし、また、資料を見てみますと、知財協あるいは弁理士会の御意見も十分取り入れられておりますし、バランスという観点からもそれなりの配慮がされているような気がいたします。とりわけ「具体的動機づけ」のあたりでなかなか微妙な問題もあるわけですけれども、このぐらいの判例があれば、少し参考になるのかなという感じもいたします。そういった意味で、私の個人的な感想としては、バランスよく整理された参考資料だなと思っております。抽象的な印象論で申しわけございませんが、以上です。 |
中山座長 |
ありがとうございます。 ほかに何かございましたら、お願いします。 |
片山委員 |
非常にまとまった資料で、大変よいものではないかと思います。出願人が外国にもたくさんいますし、外国の実務家の方にできるだけわかるように発信されたらどうかと思いまして、これだけまとまったものは大変参考になりますので、英語化をどこかで検討していただけないものかなということでございます。これは希望でございます。 |
田村審査基準室長 |
御指摘、ごもっともでございますので、前向きに検討させていただきたいと思っております。 |
中山座長 |
ハイパーリンクなものですから、リンク先までやるとなると、判例とかなんとか、全部の英訳はなかなか大変だと思うのですけれども、確かに有益だと思います。 |
片山委員 |
最後の判例まではなかなか難しいでしょうけれども、せめてそれの入り口に……。これで結構まとまったものになるのかなという感じがしました。 |
中山座長 |
確かに有益であることは間違いないので、ちょっと御検討をお願いいたします。 ほかに何かございますか。筒井委員、どうぞ。 |
筒井委員 |
日本弁理士会としましては、前々回とか前回、我々のほうから当委員会にいろいろ意見を提唱させていただきまして、その辺を取り入れていただいておりますので、まことにありがたいと申しますか、先ほど皆さんもおっしゃっていますように、判断基準がわかりやすくなったということで、権利の安定性に資するものだと考えております。 また、我々が希望しておりましたいわゆる後知恵の防止というあたりも意識していただいて、いろいろなケースを挙げていただいているようですので、そういった意味でも結構な内容かなと思っております。弁理士会としては審査基準に改めて明文化ということをお願いしていたのですけれども、そこに至るまでの一歩前進だと考えております。 あとは、システムをいろいろ整備していただいておりますし、また運用のほうも、我々の希望としては真のプロパテントとかプロイノベーションといったものが実現されるような運用にしていただければありがたいと思う次第です。また、世界的に統一された進歩性の判断ということも非常に重要だと思います。そのようなものを通じて、特許法の目的である産業の発達とか産業競争力の向上、そういったものに資するような運用をしていただければありがたいというふうに考える次第です。 |
中山座長 |
ありがとうございました。 ほかに何かございますか。よろしいでしょうか。 それでは、「進歩性のケーススタディ(案)」の「(案)」を取りまして、これを公表し、審査基準の明確化を図っていくということが当委員会の意見ということで、よろしゅうございましょうか。 〔「異議なし」の声あり〕 |
中山座長 |
ありがとうございます。 |
中山座長 |
それでは、引き続きまして、新規事項の審査基準について、まずは事務局から資料の説明をお願いいたします。 |
田村審査基準室長 |
資料5、「新規事項の審査基準の改訂について」というペーパーを取り出していただけますでしょうか。 まず、1.背景でございます。「ソルダーレジスト(除くクレーム)事件」というのは、「除くクレーム」に関する訂正を行った場合の適否が論点になった事件です。知財高裁の大合議判決が一昨年の5月30日に言い渡されておりまして、その中で審査基準に言及する部分がございます。しかしながら、この大合議判決に上告・上告受理申立てがされていましたことから、特許庁としてはそちらの結果を待って検討するという状況になっておりました。結果、上告事件のほうが取り下げられて、確定いたしましたので、今回、後続判決の調査を踏まえて、当審査基準専門委員会で審査基準の改訂を行うかどうかという点を御検討いただきたいと考えてございます。 2.では大合議判決とは何かというところを書いてございます。知財高裁では通常3人の裁判官からなる合議体で判断を行っていますが、この件につきましては5人の裁判官による特別の合議体、大合議制度を利用していることから、非常に重要な判示であるという位置づけのものかと思われます。 さらに、「除くクレーム」という訂正を行った事件でございます。訂正というのは本来審判部で行われている手続ですが、特許法上、訂正と補正の規定は同じ文言を用いて記載されていますので、実際は訂正の判断と補正の判断は同じということで、審査基準の中の補正の判断である「新規事項」の基準に大きく影響してくる判示内容であります。具体的に、「新規事項」の審査基準に対して、大合議判決が判示されている部分がございます。 訂正・補正に関しては特許法第17条の2第3項に規定がございまして、補正・訂正は、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」でなければ認めてはならないといった文言が記載さてございます。 その趣旨ですが、1ページの下半分に枠囲いされているところが大合議判決の判決文の摘記でございます。「以上によると、平成6年改正前の特許法は、補正について「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」しなければならないと定めることにより、出願当初から発明の開示が十分に行われるようにして、迅速な権利付与を担保し、発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性を確保するとともに、出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにし、さらに、特許権付与後の段階である訂正の場面においても一貫して同様の要件を定めることによって、出願当初における発明の開示が十分に行われることを担保して、先願主義の原則を実質的に確保しようとしたものであると理解することができる。」というふうに判示いただいております。この辺の新規事項を制限している制度趣旨については、平成5年に特許法の改正を行いました際、審議会の答申に記載されたところをここにまとめていただいているというふうに考えてございます。 そして、こういう趣旨を踏まえた上で、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」の文言の意味を、以下のように判示いただいてございます。2ページの上の枠囲いですが、「すなわち、「明細書又は図面に記載した事項」とは、技術的思想の高度の創作である発明について、特許権による独占を得る前提として、第三者に対して開示されるものであるから、ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ、「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」という判断基準を御提示いただいております。 以後、この判断基準を「大合議判決基準」と呼ばせていただきたいと思います。この大合議判決は、上記のとおり、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の判断基準を示した上で、例えば、以下に摘記するように、現行の審査基準の「基本的な考え方」などの記載は、「大合議判決基準」に整合するものであることを示していただいております。 次の枠囲いですが、「もっとも、明細書又は図面に記載された事項は、通常、当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから、例えば、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において、付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や、その記載から自明である事項である場合には、そのような訂正は、特段の事情のない限り、新たな技術的事項を導入しないものであると認められ、「明細書又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができるのであり、実務上このような判断手法が妥当する事例が多いものと考えられる。」ということでございます。現在、審査基準の中では、ここに書かれています「当初明細書等の記載から自明な事項」の補正を新規事項ではないとして認めている実務がございますが、そういう実務についても、特段の事情がない限り、大合議判決の基準と整合しているということを書いていただいております。 そして、当事件の「除くクレーム」とする訂正を上記「大合議判決基準」に照らして認めるべきものであるとした上で、審査基準における「除くクレーム」とする補正に関する記載は、「例外的」とする点について「特許法の解釈に適合しないもの」として、以下のように示されているということです。「除くクレーム」という類型が審査基準のほうに書かれています。この事件の場合、先願がございまして、その先願の部分を特許請求の範囲から除くような訂正――訂正というのは、結果、補正と同じということになりますが、そういうものをやったところ、特許庁のほうはそういう訂正を認めて、裁判所のほうも特許庁の判断を御支持いただいたわけです。 ところが、原告が、「除くクレーム」というのは例外的に認めるというふうに基準に書いてあるから、非常に厳格に判断すべきであるというような主張をされまして、基準に書かれた「例外的」の趣旨は何かというところを御判示いただいているということかと思われます。そういうことで、「「例外的」な取扱いを想定する余地はないから、審査基準における「『「除くクレーム」』とする補正」に関する記載は、上記の限度において特許法の解釈に適合しないものであり、」というような御判示をいただいております。ただ、3ページの上のほうにございますように、「審査基準において特許法自体の例外を定める趣旨でないことは明らかであるから、」ということで、「例外的」というのは特許法から外れて例外を設けるという趣旨ではなかったのであろうというところも御理解いただいているようでございます。 3.以降、大合議判決の後続判決についても調査をさせていただきました。補正・訂正に関する新規事項の判断を行った後続判決が、「技術的事項」という文言を用いて検索した結果、14件ほど見つかってまいりました。その中で特に「除くクレーム」の補正・訂正を行ったものとして、知財高裁の判決が2件、東京地裁の判決が1件、計3件見つかりました。しかしながら、この3件は一つの特許権に基づく事件でございまして、実際の判断としては一つということになろうかと思います。 大合議判決は特許法第29条の2の先願を除く補正・訂正でしたが、本件の場合は39条の同日出願に基づく「除くクレーム」に関する判断でございます。こちらについては上告・上告受理申立てがなされていましたが、1月14日に「上告棄却」、さらに上告受理申し立てのほうも「受理しない」という決定が行われ、知財高裁の判決が確定しました。これにつきましても、先ほどの大合議判決と同じように、39条に基づいて「除くクレーム」を行ったということを特許庁が認めたわけでございますが、それを知財高裁のほうで支持していただいた、こういう案件でございます。 この中で特に言われているところが3ページの下の枠囲いの部分でございまして、「特許庁審査官が審査する際の審査基準は、上記にいう「除くクレーム」について、下記のように定めているが、その趣旨は基本的に上記アと同一と考えられる。」と。この「上記ア」というのが大合議判決基準そのものでございまして、審査基準の「除くクレーム」の項目では、39条の関係で補正が認められるということが書いてあるわけですが、そこの部分も含めて、「除くクレーム」の審査基準の記載が、大合議判決基準である「新たな技術的事項」を導入するか否かに照らして特に問題がないというような判示をいただいております。しかしながら、「例外的に」という記載の部分は除くということで、「例外的」という言葉があるがために特許法の例外じゃないか等々、あらぬ誤解を招くという点での問題指摘がなされている状況でございます。 4ページにまいりますが、さらに「除くクレーム」以外の新規事項に関する裁判例が11件ほどございまして、その中をいろいろ解析させていただきますと、すべての案件が大合議判決基準、すなわち「新たな技術的事項」を導入するか導入しないかというところを必ず判示いただいているということで、知財高裁のほうでは今後はこの判断基準を必ず使っていくという意思表示をされているように思われます。 一方、審査基準に書かれた「自明な事項」であるか否かという判断手法も、裁判例の中では、るる使っていただいているということで、この辺の審査基準とか、それに基づく審査実務を否定されるような判決は発見できなかったわけでございます。もちろん特許庁が負けたような事例もございますが、それは審査基準自体を否定するものではなくて、審査基準の当てはめの部分で特許庁の判断に問題があったというような御指摘です。 さらに、4.以降で現行の審査基準の整理をさせていただいております。先ほどから御説明しておりますように、現在の審査基準では、基本的な考え方、基本的な判断手法といたしまして、「当初明細書等に記載した事項」とは、「当初明細書等に明示的に記載された事項」だけでなく、明示的な記載がなくても、「当初明細書等の記載から自明な事項」も補正が認められるという基本的な考え方が示されておりまして、さらに、裁判例を引用する形で、「自明な事項」とは、「その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。」という定義がされています。 これが一般的な判断手法ですが、「自明な判断手法」以外にも、「各論」として、審査基準の中に幾つか記載がございます。例えば、5ページの上のほうから始まっております「上位概念化、下位概念化等」という項目のところです。平成5年に法改正が行われてから、上位概念化、下位概念化は「直接的かつ一義的」に導き出せない場合がほとんどであるというような記載が①にございまして、②の記載は平成15年に審査基準を改訂させていただいたときに新たに入った項目でございます。 その中では、「請求項の発明特定事項の一部を削除して、これを概念的に上位の事項に補正する場合において、削除する事項が本来的に技術上の意義を有さないものであって、この補正によって新たな技術上の意義が追加されないことが明らかな場合(削除する事項が、任意の付加的事項であることが明細書等の記載から自明である場合も同様)は、新たに追加される事項がないから、当初明細書に記載した事項の範囲内でする補正といえる。」ということで、平成15年の基準改訂の際に入れられた「任意の付加的事項」の削除等の上位概念化であって、技術上の意義が追加されない、変更されないケースについては、補正が認められるというところが入っています。「技術上の意義」と大合議判決の「技術的事項」という表現ぶりの違いはございますが、特許法の施行規則の中では「技術的事項」という言葉は出てまいりませんで、詳細な説明では「技術上の意義」を理解する上で必要な事項を記載すべしというふうに書かれているところを引用して、こちらのほうに入れさせていただいています。そういう意味で、大合議判決の基準に近い思想が平成15年の基準改訂で既に入れられているということかと思われます。 さらに、数値限定についても、従来は「望ましくは24~25℃」というような明示的な記載がなければ補正をすることがなかなか難しいということが書いてあったわけですが、平成15年の基準改訂の際には、24℃と25℃の実施例があれば、基本的に「24~25℃」という数値限定を入れることは認められる場合が多くなるということが記載されてございます。 しかしながら、下線の部分に記載されていますように、こういう数値範囲を判断する際には、「課題・効果等の記載からみて、ある連続的な数値範囲の上限・下限等の境界値として記載されていると認められるとき」という文言が入っていますので、課題とか効果も判断材料として考慮すべきであるという発想が入っている意味からいけば、自明のテスト一辺倒ではなく、先ほどの「技術上の意義」とか「課題とか効果」も、各論のより細かなところでは、審査基準の中で判断せざるを得ないような状況でございます。 それから、4.3(1)は先行技術文献の内容の追加です。平成14年の特許法の改正によって先行技術文献情報の開示要件が入ってきたわけですが、それに対応して、先行技術文献の書誌的事項だけではなく、内容についても明細書に補正で追加できるように、ということでございます。こちらは特に産業構造審議会特許制度小委員会の答申に基づいて入った事項でございまして、どちらかと言いますと、皆様の御議論の結果として、自明の判断手法とはちょっと離れたようなものも、各論のほうには補正が認められるような形で入っているということでございます。そういう意味では、審査基準の中には画一的な判断というよりは、むしろ裁判例に基づく判断であるとか、制度ユーザーの皆さんとの議論の末に、こういう補正は認めるべきとか認めるべきではないというものがいろいろ入っている現状でございまして、この辺の判断は大合議判決の判断基準ともそれなりに整合していると考える次第でございます。 こういう状況を踏まえまして、6ページの「5.審査基準改訂の方向性」のところで今御説明したところを整理させていただきました。「大合議判決では、「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであると解釈している。」ということで、知財高裁では大合議判決基準というものが確立されてきているのではないか。 一方、大合議判決において、補正の可否について、"明示的記載+自明"な事項に該当するか否かで判断すること、この自明の判断手法は、「実務上このような判断手法が妥当する事例が多い」ものとして肯定していただいております。そして、審査基準の「各論」で示されている補正の判断については、「除くクレーム」の判断において「例外的に」という記載がある部分以外で否定されているところはないということでございます。後続判決14件ほどを拝見させていただきましても、「新たな技術的事項を導入」するか否かという「大合議判決基準」を一貫して用いているものの、現行の審査基準に基づく審査実務を否定するものは発見できなかったという状況でございます。 以上を踏まえまして、現行の審査基準に基づく審査実務を変更せず、大合議判決との整合性をとるという観点から、以下のような骨子(案)で審査基準の改訂を検討すべきではないかという御提案をさせていただきたいと思っております。 7ページに本日御検討いただく骨子(案)をまとめておりますが、aとして、先ほどから申し上げております大合議判決の判断基準を一般的な定義として審査基準の中に明記させていただくということでございます。 また、bは「「新たな技術的事項を導入しないもの」の類型についての整理」ということで、既に審査基準の中に自明の判断手法がございますので、特段の事情がない限り、「自明」という判断手法で補正が認められるというふうに従来から判断されているものにつきましては、「新たな技術的事項を導入しないもの」であるというふうにさせていただければと思っています。 また、自明の判断手法に言及しないで、「各論」の中で、裁判例に基づいたり、さらには制度ユーザーの皆さんとの御議論の末に入っているような事項、そういうところで「補正が認められる」とされているようなものについては、「新たな技術的事項を導入しないもの」として補正を認めることとする。反対に、現行審査基準において「補正が認められない」とはっきり書かれているものについては、「新たな技術的事項を導入しないものとはいえない」として補正を認めないという方向で審査基準の手直しをさせていただきたい。 最後に、c.は「除くクレーム」です。これも「各論」の中に入っているものの一つですが、大合議判決の中では、「除くクレーム」を例外的に認めているかのような記載はおかしいと言われておりますので、「例外的に」という文言を削除させていただく。さらに、結果的に、「除くクレーム」――これは29条の2の先願を除くとか、39条の先願を除く、それに加えて29条1項3号の新規性欠如に係る先行技術を除くものは補正が認められることが書いてあるわけですが、そこについても、基本的には「新たな技術的事項を導入しないもの」として補正を認めることとさせていただければと思っております。 ただ、新たに大合議判決の判断基準を入れさせていただきますので、これまで補正が認められていなかったようなものでも、この新しい判断基準に照らせば補正が認められるのではないかということでチャレンジされてくる出願人もあろうかと思われます。そこで、「d.審査基準のいずれの類型にも該当しないものの取扱い」といたしまして、「現行審査基準に示されていない類型の補正について上記a.の一般的定義にしたがって判断する際の審査基準の適用に関する方策を、改訂審査基準に記載することとする。」というふうに入れさせていただいております。具体的に申し上げますと、自明でなく、「各論」にも「補正が認められる」というふうに明示的に記載されていないような新しい類型、すなわち従来「新規事項」であると考えられていたような補正が提出された場合に、審査官が慎重に審査するための方策を審査基準の中に明記したいと考えております。 ただし、審査基準には、過去の裁判例や実務者が想定し得る類型が既に網羅的に記載されていると考えておりますので、大合議判決基準に照らしても、新たに補正が認められる類型は基本的にないのではないかという理解で審査実務を今後もやらせていただければと考えている次第でございます。 以上でございます。 |
中山座長 |
ありがとうございました。 それでは、新規事項の審査基準につきまして御議論をちょうだいしたいと思います。特に、ただいま説明がございました大合議判決の解釈とか審査基準改訂の是非、審査基準改訂の方向性、骨子(案)、それぞれにつきまして御意見をちょうだいできればと思います。 何か御意見がございましたら、お願いいたします。 |
豊田氏 |
知的財産協会の豊田でございます。企業サイドといたしましては、大合議判決を読んだとき、この資料で言うところの大合議基準が出されて、先ほど紹介があったように自明でなくても大合議基準に当てはまれば補正は認められると大合議判決に書いてあるということで、それですべて補正を判断するのですねという理屈もなくはないといいますか、そういうおそれもあるなということで、私たちの委員会のほうでは、大合議判決以降の判決を特許庁と同じように見てきました。では、そのような類型であるのですかというと、今回の資料でもあるように、うちとしても、今のところ、それはないだろうと思っています。 そういう背景のもと、審査基準をどうしますかということで、最終的には大合議基準ですべて判断するのですねとなりますと、実務上、審査は必ずぶれるでしょう。なぜかというと、大合議基準は抽象的だし、その後の具体的な類型なり新しい考え方を示せる判決例もないので、審査はぶれると思います。そうすると、出願人にとっても混乱するし、第三者からすると補正が認められる範囲が読めないという意味で監視負担がふえるのではないかという点を危惧いたします。したがって、実務としては、新裁判例が蓄積されていない現状においては、今書いてある審査基準で認められている自明基準を基本とした実務をそのまま維持していくことが最も望ましいと考えます。以上です。 |
田村審査基準室長 |
我々も同じような見解を持っておりまして、審査基準の中には、制度ユーザーの皆さんといろいろ御議論をさせていただいた上で既に妥当な範囲が書き込まれていますし、その際に参酌されたものがまさに高裁の裁判例でございますので、結果的には裁判所の判断とも整合しているのではないかというふうに考えさせていただいた次第でございます。 |
中山座長 |
ほかに何かございましたら、お願いします。 永井委員、どうぞ。 |
永井委員 |
大合議判決の中身を見ますと、「「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の意義について」ということで、沿革を含めて随分丁寧な判示事項がございます。それのみならず、さらに「審査基準について」ということで、もちろん「除くクレーム」との関係でもっぱら論じているのですが、ここにもそれぞれ丁寧な判示がしてあります。 これを読みますと、一般論としては、相当よく練られた、合議をされた結論として整理されたものだなという感じがしております。そういう意味で、一般的なルールとしては極めて正当なことを言っている。しかも、幸いなことに、特許庁における審査基準について、まさに裏づけしているような感じのところもあるわけですね。ただ、「除くクレーム」の審査基準の表現が、おっしゃるとおり「例外的」という言い方になっていますので、そこの部分を削除すれば大合議判決とほとんど同じことを言っているのではないかという感じもいたします。ある面で、大合議判決は実務をよく見た上で検討されているというように思われます。 そういった観点から、新規事項の審査基準自体は、むしろ大合議判決によって認知されたというような印象すらあるわけでございます。「新たな技術的事項を導入しない」という表現ぶりにすることや御提案になった「除くクレーム」についての表現ぶりを改めることについては全面的に賛成したいと思います。また、先ほど御意見がございましたとおり、いずれの類型にも該当しないものが出てくるのかどうかということについては、もう少し時間を待ってみたいという印象を持っております。 そういった意味で、基準の改訂の骨子(案)については基本的に賛成するものでありますし、これをさらにもう少し具体化し、表現を変えていくことで足りるのではないかと思っております。以上です。 |
中山座長 |
ありがとうございます。 ほかに何かございませんでしょうか。筒井委員、どうぞ。 |
筒井委員 |
審査基準の改訂ということでありますと、新しい類型があるかどうかということもあるのでしょうけれども、先ほど審議された「進歩性のケーススタディ」ではありませんが、改めてそういったものを新しくつくっていただければありがたいなと思います。というのは、我々弁理士は、こういう補正とか新規事項の問題は、日常、非常に頻繁に接しておりまして、いろいろ考えたり迷ったり悩んだりしながらやっている弁理士が多いと思いますので、時代に合った新しいケースを示していただければ、より統一的な方向に行けるのかなというふうに考える次第です。 |
中山座長 |
これもやはりハイパーテキスト化をするわけですか。 |
田村審査基準室長 |
大合議判決が出て、まだ1年半でございます。今おっしゃられたのはどちらかというと大合議判決基準に基づく補正の判断を整理したようなケーススタディかと思われますので、また裁判例が蓄積されましたら、その辺を整理することも検討させていただきたいと考えております。 |
筒井委員 |
よろしくお願いします。 |
中山座長 |
ほかに何かございましたら。 |
豊田氏 |
最後に口頭でフォローがございましたこと、つまり出願人がチャレンジしてきた場合ですけれども、それについて審査官がどのように対処するのかということが、審査官ごとにぶれないように。つまり、審査官が勢い余って自ら類型をつくり出すようなことをやってしまうかもしれないので、それがないように、審査の運用の徹底をよろしくお願いいたします。 |
中山座長 |
わかりました。 ほかにございませんでしょうか。では、片山委員。 |
片山委員 |
事務局の御提案で結構だと思います。先ほど永井委員がおっしゃったように、この段階で大合議のこの問題について丁寧な判断をされたのはなぜなのかなということが若干気になったのですけれども、訂正合戦といいますか、無効審判と訂正の非常にこんがらがった事案がたくさん生じているので、このあたりで整理をしておきたいと。これは想像にすぎませんけれども、そういうことで一度検討しておいたらということかなと思いました。そういう意味から言うと、全般的な検討をした結果、こうであったと。この事件の事実関係では少しトゥイストした形で出てきているように思えますが、判例というものはこういうものかなという感じがします。結論としては、整理をするニーズがユーザーにとってもあったのだろうという感じがしますので、それに基づいた審査基準の改訂をしていただくことは、最初に申し上げたとおり、賛成でございます。以上です。 |
中山座長 |
ありがとうございます。 ほかに何かございますか。よろしいでしょうか。私もこれはかなりよくまとめられているペーパーではないかという気がしております。 それでは、この方向で基準改訂を進めていきたいと思っておりますけれども、それでよろしゅうございましょうか。 〔「はい」の声あり〕 |
中山座長 |
ありがとうございます。では、そのように進めさせていただきたいと思います。 |
中山座長 |
少し時間が予定より早いようですけれども、最後に、今後のスケジュール等につきまして、事務局から説明をお願いいたします。 |
田村審査基準室長 |
本日はお忙しい中、御参加いただきまして、どうもありがとうございました。 本日「(案)」を取らせていただきました「進歩性のケーススタディ」につきましては、近日中に特許庁のホームページにおいてハイパーテキスト版の審査基準の附属資料として公開をさせていただきたいと考えております。また、本日いただきました御意見を考慮した上で、審査基準の骨子に沿いまして、新規事項の審査基準改訂の作業を進めさせていただきたいと考えています。以上でございます。 |
中山座長 |
ありがとうございました。 それでは、以上をもちまして第4回の審査基準専門委員会を閉会いたします。本日はありがとうございました。 |
[更新日 2010年2月18日]
お問い合わせ |
特許庁調整課審査基準室 電話:03-3581-1101 内線3112 |