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第7回特許戦略計画関連問題ワーキンググループ 議事録

(本記事作成:特許庁総務部総務課制度改正審議室)

  • 日時:平成16年3月3日(水曜日)10時00分~12時00分
  • 場所:特許庁庁舎 特別会議室
  • 出席委員:後藤委員長、相澤委員、秋元委員、浅見委員、安念委員、石田委員、江崎委員、菊地委員、竹田委員、牧野委員、丸島委員、渡部委員

開会

長岡座長

まだ見えていない方もいらっしゃいますけれども、時間となりましたので始めたいと思います。
ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会第7回特許戦略計画関連問題ワーキンググループを開催いたします。本日は、ご多用中のところご出席いただきありがとうございます。
本日の議題ですが、議題ごとに事務局から資料について説明をしていただき、その後、委員の皆様にご議論いただきたいと思います。
最初に、事務局から資料確認をお願いいたします。

南技術調査課長

まず資料確認をさせていただきます。今日の資料、大部でございますが、まず資料1が議事次第、資料2が委員名簿、資料3-1、1枚紙ですけれども3-2、これが、本日、秋元委員からご説明いただく資料でございます。資料4は、クリップ留めしておりますが、資料本体と別紙4-1、4-2が付いております。資料5、これもまとめてクリップ留めしておりますが、本体と別に別紙5-1から5-5まで別紙が5点、以上でございます。過不足等ございましたら事務局の方にお申しつけください。よろしゅうございますか。

長岡座長

ありがとうございました。今日は、そういうことで、特許発明の円滑な使用に係る諸問題という点と、裁定制度、この2つが主な議題であります。
最初の議題から早速入りたいと思います。まず秋元委員の方から、前回の戦略ワーキンググループの補足説明をしていただけるということでありますので、ご発表をお願いいたします。

秋元委員

おはようございます。前回、私、ちょっと所用がございまして欠席して、代理の方に製薬協のアンケート等を報告させていただいたのですが、若干まだご理解いただけない点、あるいは多少誤解も入っているというようなこともあるかもしれませんので、もう一度補足説明をさせていただきたいと思っております。
ライフサイエンスというのは、他の産業と比べまして非常に特許の価値が高い分野でございまして、今後21世紀でひとつの重要な分野になるということでございます。そういう意味で、アメリカ、ヨーロッパ等も非常に力を入れているものでございますけれども、そこで、従来特許法をつくるときには想定されていなかったようなリサーチツールという問題が出てきております。資料3-1をおあけいただきたいと思います。
2枚目でございますが、まず「ゲノム創薬とリサーチツール」の関係でございますけれども、ここで定義でございますけれども、いわゆる最終製品、医薬とかそういうものにはならない、あるいはそういうものを製造する過程で使わないというようにお考えいただいて、研究段階のみに使われるというようにここでは定義させていただきます。
従来どういうことが行われていたかといいますと、公知の疾患遺伝子とか、こういうものを使ってますから、公知のリサーチで使うようなツールに対しましては、自由に使い、自由に研究を発展させ、新しいものをつくることができておりました。しかしながら、遺伝子の構造解析が進みますと、そこに新たなリサーチツール、疾患遺伝子であるとか、スクリーニング方法であるとか、そういう創薬にかかわるようなところの研究段階のみに使うようなツール、これが特許になってきております。そうしますと、医薬を製造する場合、これは後ほど申しますけれども、非常にいろいろなリサーチツールがかかわってくるということでございます。
2.をおあけください。これをもう少し、ライフサイエンス、あるいは医薬というものについて説明させていただきます。特に遺伝子という観点から説明させていただきますと、ここで、上流の研究、下流の研究と便宜的に分けてございますけれども、受容体遺伝子をとります。それから受容体の発現をさせます。リガンド探索をして、関連の疾患の解明、こういうところに遺伝子の機能解析からわかってきたような知見に基づいたさまざまな特許がございます。例えば、遺伝子の特許であるとか、ベクターの特許であるとか、蛋白質の特許であるとか、抗体の特許であるとか、リガンドの探索方法であるとか、非常に研究段階においてのみ使用するようなリサーチツール、これが非常にたくさん特許になっております。現実にスクリーニングをいたしまして、上の段の一番右側でございますが、医薬の候補化合物がまずみつかります。これは、確率的に約3万分の1検体ぐらいで候補化合物がみつかってくるわけです。したがいまして、候補化合物がみつかる前にさまざまなリサーチツールを使いますけれども、そこで生まれてくるのは3万分の1検体ぐらいの確率である。
このようにみつかったものにつきまして、今度は下流の研究(上流、下流よくないのですが)ということで動物試験をして、ヒトの臨床試験、製造承認申請、それから医薬になって上市されるということでございますが、ここで、私どもの方の統計では、候補化合物から上市されるまでに5分の1ぐらいしか成功確率がない。トータルしますと15万分の1ぐらいの確率である。そういうことで、下にまとめてございますけれども、期間としては通常約12年から20年、14~15年かかります。コストとして数百億円、先ほどいいましたように候補化合物が3万分の1、候補化合物から医薬になるまで5分の1ぐらいの確率であるということでございます。
スクリーニング方法というものがどういうものかをもう少し説明させていただきます。次のページの3.をごらんいただきたいと思います。医薬の候補化合物のスクリーニングというのはどういうことかというと、例えば合成したものであるとか、天然物から抽出したもの、あるいは最近ではコンビナトリアルケミストリーを使って大量にいろんな類縁化合物をつくる。そういうことで、何万、何十万という化合物をさまざまなリサーチツールを使ってスクリーニングいたします。スクリーニングして得られたものについて、今度は受容体を、本当に発現している細胞を用いて試験するわけですが、受容体を発現する細胞というのは1つしかないのです。世界で1つしかない。こういうところでスクリーニングしていかなければいけないということでございます。それで活性があるかないか、スクリーニングだけに使っているわけですが、活性があるかないかということを測定いたしまして医薬品にする、こういうのが実際のスクリーニング方法の過程でございます。
前回、顕微鏡の話が出たということで、これについて、どういうふうに違うかということを説明させていただきますけれども、例えば顕微鏡というのは購入可能でございます。権利も消尽して使用も自由でございます。したがって、それを用いていろいろな知見を得ることができます。従来の医薬品というのはどういうことかというと、化合物とか類縁化合物、それから伝統的な手法を使いまして、これは、実は代替性があるわけです。具体例と書きましたが、同じような作用をするようなもの、若干活性の強い、弱いはありますが、同じようなものが幾らでもあるわけです。したがいまして、この場合は代替性がございます。しかしながら、ヒトの遺伝子というものにつきましては、疾患に関連する遺伝子、これは全部人間の遺伝子を集めましても数万しかございません。ターゲットも有限でございます。代替性も全くございません。例えば、ヒト由来のインスリン受容体は1種類のみでございます。これは、ひいていえば、ヒトにおける心臓であるとか、本当に1つしかない、こういうところに特許をとられてしまっているというようなことがこのリサーチツールの一番の問題でございますけれども、では、顕微鏡みたいに購入できるかというと、実は購入できないのです。そこで差しとめ請求権というものがございますと、これを使うこともできない、研究を進めることもできないということになります。
次をおあけください。代替性がないということについて、もう少し説明をさせていただきますと、例えばがんのいろんな因子と結合するようなヒトの受容体が仮にあったといたします。そうしますと、その結合を阻害するようなものをみつければ非常にヒトのがんに効く可能性の高い医薬品を創製することができます。しかしながら、例えば同じような細胞、あるいはラットの細胞を使いまして、ヒトと創造性があるといわれているようなラットの受容体を使ってがん遺伝子の阻害物質を探すというようなことをやりますと、ラットの受容体というのは、仮に使うことができるとしても、これはヒトの受容体ではございません。ラットの受容体でラットのがんに効く薬をみつけるということになります。これは10年ほど振り返ってみればおわかりかと思いますが、米国特許庁でさえも、NIHでヒトのセルライン化がなされるまでは、ラットを使ったがんを治す薬、これはヒトのがんの薬として認めませんでした。ヒトのセルラインがNIHで確立されてから初めてヒトにかなり相関があるということで認めたわけであって、ラットの受容体を使って効くがんの薬をみつけても、ラットのがんの薬ですから、ヒトのものになりません。そういうことで、ヒトの受容体は1つしかありません。これが代替性がないということでございます。
次をおあけください。ゲノム創薬にリサーチツールは不可欠であるということを今お話しいたしましたけれども、差しとめ請求とリーチスルーということがよくいわれておりますが、リーチスルーロイヤリティの不合理性ということをまず考えさせていただきますと、先ほど上流の特許のところでは、いろいろなリサーチツールの特許であるとか、遺伝子の特許であるとか、スクリーニングの特許であるとか、大部分は上流の候補化合物を選定する段階までに使われる特許が大部分です。ここで差しとめ請求がありますと、それ以降、研究開発が完全にストップいたしますし、当然の帰結として新薬が出ないということにもなります。そういうことで、この段階での差しとめというのは非常に大きな問題ではないかと考えております。アメリカの判決等では、スクリーニング段階での問題は製品にまで及ばないという判決が既にCAFCで確立しておりますけれども、現実にはロイヤリティ交渉というところにおきましては、あくまでもライセンス交渉でございますから、医薬品の売上高をベースにしたような形での契約でないといけないというようなことがございまして、新薬をつくろうというときに、研究段階のみに使うようなリサーチツールの存在というのは非常に大きな問題になっております。
7.でございますけれども、産学の連携を考えた場合、どういうことになるかというと、大学と製薬企業との共同研究の主流というのは、遺伝子の機能解析、それに基づいた新薬の探索でございますけれども、ほとんどは上流のところ、候補化合物のスクリーニングする上流の段階、ここで使われるわけでございます。したがいまして、もし試験・研究というものから研究という問題が除外されることになりますと、リサーチツールの特許というのは、大学における研究においても、特にライフサイエンスの分野では非常に大きな影響を与えるだろう、あるいはほかの産業分野におきましても、従来問題にしていなかったかとは思いますけれども、非常に基本的な特許、こういうものが存在した場合、仮にレメルソンの特許みたいなものがあって、これが使えないとか、さっき顕微鏡の例が出ましたけれども、光学レンズというものが特許をとられて、これがどこにも出されないということになると、非常に学問の発達、産業の発達を阻害するということになります。こういうことで、リサーチツールの問題というのは、今後独立法人化した後の産官学という連携のところでも非常に大きな問題になるのではないかということでございます。
以上まとめますと、研究に使用するリサーチツールが代替性がなくて、それが特許対象の場合には、当該リサーチツールを使用する研究には、当該リサーチツールの特許のライセンスがどうしても必要になる。現実に、それは非常に不合理なライセンス条件も行われて研究を阻害している。これは前回の製薬協等のアンケートでもお話が出たかと思います。したがって、代替性のないリサーチツールの特許の存在は、研究の進展及び産業の発展の非常に大きな障害になっている。そこで、リサーチツールの特許権の利益を考慮した上で、研究の自由度、これは、ただという意味ではございませんが、研究の自由度を確保するための何らかの解決策が必要ではないかということで、69条の解釈以外に研究というものについて今後どのように考えるかということが、まさに知的財産推進計画で求められている真の内容ではないかと思っております。
ついでに、2番目をお話しさせていただきますが、資料3-2をおあけいただきますと、私ども、ここに「INTERPAT」と、上の方に小さい字で書いてありますが、INTERPATという組織がございまして、これはどういう組織かというと、世界の大きな製薬企業、1位から20位ぐらいまですべての製薬企業が加盟しております。現在29社ほど加盟しておりまして、その中には、ファイザーとか、グラクソ・スミス・クラインであるとか、ノハ゛ルティスであるとか、メルクであるとか、あるいはロッシェであるとか、こういうものすべて加盟した組織がございます。これは年に1回総会を行いますが、ことしの5月にサンタバーバラで総会が行われます。このときのアジェンダをここに添付させていただいておりますけれども、従来は単にイクスペリメント、要するに試験という問題についてどのようにしようかという議論がございました。これは従来の解釈と同じでございますし、TRIPS等でも扱っている範囲と同じでございます。しかしながら、ある会社がどこかのリサーチツールを買って、それを差しとめに使う――ベンチャーが出すということではなくて、大企業がそのリサーチツールの会社を買って、相手の会社の研究開発を差しとめをする、あるいは法外な代替の大きな商品をくれなければライセンスアウトしない、こういうような問題が非常に大きく起こってきております。アメリカのDuke大学の判決もまさに、大学における研究もだめだ、こういうことで、リサーチツールの問題というのは世界的に非常に大きな問題になっておりまして、少なくともライフサイエンス業界では世界中、どういう形で考えようかということが、まさに5月の最初にサンタバーバラで議論されるわけで、ここに2日間にわたってリサーチツールの問題について議論しましょうということになっております。
そういうことで、日本におきましても、単純に69条の解釈云々というよりも、知的財産推進計画の精神である研究、これをどういうふうに発展させ、どういうふうに産業に結びつけるか、このような観点から、ぜひリサーチツールの問題を今後検討していただきたいと思いますし、場合によっては私どもの提案も出させていただける機会があれば出させていただきたい。このサンタバーバラの会議を踏まえて検討させていただきたいと思っております。以上でございます。

長岡座長

どうもありがとうございました。
今のご説明に関して何かご質問とかコメントがございましたら、いかがでしょうか。

相澤委員

要するに代替性がないかどうかというのは、遺伝子に限らないわけでありまして、例としては、余り適当ではないのではないかと思います。
次に、ロイヤリティの話ですけれども、もし不可欠なものであって、それで成果が出るなら、成果物をベースとするロイヤリティの決定というのが不合理かどうかということは、それの決め方は、ある種、合理的ではないかという気もいたします。
最後におっしゃったのですけれども、非常に影響が大きい特許というのは、この分野に限らずあると思います。例えばネット社会において、マイクロソフトのウインドウズの著作権の影響力というのは、社会にとって極めて大きいものでございます。したがって、こういうものの効力を一般的に制限しようというのは、今出されている大綱とか推進計画の基本的な理念からすると、やや違う方向にあるのではないか。ご指摘の問題がある点については、私も個々の解釈については理解するところもありますけれども、ちょっと最初に感想だけ申し上げました。

長岡座長

遺伝子については、公的機関がかなりお金を出してゲノムプロジェクトをやってきました。それでかなり遺伝子情報を公開してきました。その影響がかなり大きいというふうにも聞いたことがあるのですけれども、公的資金で研究をやって、基礎的な情報をオープンにするという努力は一方でされていて、それが独占力を規律する面もあると思うのですが、それは余り効果が大きくなかったのか、そういうことがあったにもかかわらず非常に遺伝子情報についてのアクセスというのは重大な問題になっているのかどうか、もしコメントがあればと思います。
ほかにいかがでしょうか。

竹田委員

リサーチツールについて、普通の特許と別に考えるべきではないかと思うのです。相澤先生は普通の特許と同じようにお考えのようですけれども、リサーチツールは自由に使えるようにしないと、結局、特許制度の本来の目的である技術開発の実現ができなくなってくるのではないか。そのために権利者が非常に酷に取り扱われるというのでは困りますけれども、妥当な線をみつける努力をしないと、日本の医薬品を中心とするバイオインダストリー関係の技術の開発を阻害するのではないかと思うのです。特別に考えてもいいのではないかと思いますね。

丸島委員

質問ですが、特許がいっぱいあるというお話は聞いておるのですが、これが1つしかないというのと、特許がいっぱいとの関係をもうちょっと詳しく説明していただきたいと思います。

長岡座長

幾つか質問が出ましたけれども、秋元委員、もしよろしければお願いします。

秋元委員

いろいろ質問が出ましたので。まず座長の方から出ました公的資金云々という話ですが、実は遺伝子解析にしても、NIHを辞めたベンダーさんがセレラという会社をつくって、まず最初に解析しましたね。これは大変だということで、アメリカはその他含めてやり出したということです。
いつも議論に出ますけれども、アメリカはベンチャーを立ち上げるとき、かなり疾患遺伝子に的を絞って機能解析をやっていく、それがベンチャーにとどまっている間は、多少条件がきつくてもライセンス交渉で何とかなる場合が非常に多いかもしれませんが、先ほどいいましたように、そのベンチャーをどこかの企業が買ってしまうというようなときには、相手の企業の研究活動をストップさせるという可能性が非常に高くなるし、そのような道具として使うということも十分可能です。そういうことが現実にアメリカで起こってきているので、急遽サンタバーバラでこの会議が上がってきたという状況でございます。
そういう観点から、相澤先生のご意見に対して、先ほど竹田先生からもお話がありましたけれども、特許法の精神というのは基本的にそれを公開して産業なり学問の発展、産業の発達、これに資するところに精神があるのではないかと思います。余りにも強大な権利で、権利の濫用によって社会的コストがかかり過ぎるということは、むしろ権利の濫用につながるのではないかと思います。こういう点に関しては、アメリカではすぐ裁判で決着が出て、これは権利の濫用だ、幅を縮めろとか、そういうのはすぐ出るのですが、日本ではいかんせん、そのところが出てこないというような状況かと思います。
1つしかないのと複数という意味でございますけれども、医薬品そのものについては1つですけれども、それを見出すために、先ほどいいましたようにトータルすると15万分の1ぐらいですか、このぐらいの確率ですから、その間にいろんなテストをしなければいけない、スクリーニングしなければいけない。ただし、それは、生産とかそういうものには関係しないということで、私が非常にたくさんあるといったのは、リサーチツールの段階では非常にたくさんあるけれども、基本的に物質と、あるいはそれを保護している特許は少数であるということで、物質のところを弱くしろ、これは従来の特許と同じですから、そこを弱くしろという意味ではございません。先ほどいいましたが、あくまでも研究段階で使うようなところについては、先ほど別な方もご意見がございましたけれども、そういうすぐれた発明を見出した方には、それ相当の対価を払った上で使えるようにすべきであろうというのが私どもの考えでございます。以上でございます。

長岡座長

ありがとうございました。

江崎委員

質問ですけれども、ヒトの遺伝子に代替性がないというのはよくわかりましたが、スクリーニング方法というのは、やっぱりないわけですか。

秋元委員

ヒトの遺伝子を使って産物とか受容体、そういうのもつくります。さっき代替性がないというところで説明しましたけれども、ラットのそういう遺伝子を使ったら、作用としては若干あるかもしれませんが、それはあくまでもラット特有のものでございまして、そのものをヒトに当てはめることができるかというと、実はできない。それは、NIHでも昔、がんのスクリーニングのときにはラットのスクリーニングで見出したがんの薬については、ラットのがんの薬であって、ヒトの薬としては認めなかったということがございます。同じように、ヒトの遺伝子と動物の遺伝子は相同性がございますが、あくまでも異種動物の類似品ということだけであって、そのものではないということです。

丸島委員

今のご説明でまだわからないのですが、ツールはいっぱいある、製品は1つだ、ツールがいっぱいあるならなぜ困るのでしょうかという質問です。

秋元委員

ツールがいっぱいあるというのは、1つのところをやるツールではなくて、各ステップごとにツールがあるという意味でございます。各ステップごとにそれしかない、代替性のないツールがあるという意味です。

相澤委員

非代替性をいわれるとすると、製薬企業さんの成果物である薬も非代替的である場合があると思いますが、これについても特許の効力を制限するというようなご意見でございましょうか。

秋元委員

製薬産業の化合物につきましては、例えば同効同種の薬というのがございます。例えば違う会社で同じような糖尿病の薬が出るとか、あるいは胃酸分泌を抑制するような薬が出るとか、これは、最終物の化合物を物質として必ず全部カバーできるような特許というのは基本的に難しいということで、同効同種の薬がどうしても出てくるということで、代替性がないということではないかと思います。

相澤委員

リサーチツール以外でも非常に基本的な特許というのはたくさん存在します。ですから、基本的な技術についての特許がいけないという議論ならば、それはそれでひとつの考え方としてあり得ると思います。そうであるならば、例えば非常に有効な医薬の特許の効力も制限されるべきであるということになります。代替性があるとおっしゃったのですけれども、代替性があるならば、医薬の特許が有効であるということと、つじつまが合わないと思います。医薬特許というのが一番特許制度の中で機能しているという研究もあるぐらいですから。

秋元委員

例えば具体的な例を上げますと、抗潰瘍の薬として、従来はガスタータイプのものがございましたけれども、現在ではプロトンポンプ・インヒビターというものがございます。これはご存じのように、オメプラゾールというのをアストラで出しております。これは、年間6,000億円ぐらい売れる薬でございます。弊社はランソプラゾール、これも4,700~4,800億円前後売れております。エーザイさんのラベプラゾール、ビックグルデンのパントプラゾール、こういうふうに現在4つがありまして、そういう意味では特許で保護している。けれども、4社ぐらいの参入はできるけれども、それ以外は参入できないというぐらいの程度で強いということでございます。

渡部委員

産学連携の影響ということで、私、この分野はよく存じ上げないので、どんな感じになるのか意見を伺いたいのですけれども、大学が今後この分野で研究するときに、極めて頻度高く差しとめ請求を受けるような事態になると予想しないといけないのでしょうか、意見を伺いたいと思います。

秋元委員

私からいわせていただきますと、企業の場合は、ポジティブな結果が出ない限り表には研究計画というのはなかなか発表しない。ただ、研究者は外部発表したいですから、そういうところでやっているということがわかることもあるし、場合によっては特許等から考えて、どうしてもそれを使っているのではないかということは推定はできます。しかしながら、大学の場合は、発表が主体になる、あるいは一部でも公的研究費が絡んでくるとすれば、研究計画を出すという可能性も非常にあるということで、むしろ研究段階で、大学の研究の方が表に出てくる可能性が高いのではないか。そうしたときに、そこにもし共同研究みたいな場合で公的機関が入っていたとしても、例えばメルクさんも共同研究で名前が入っている。ところが、ファイザーさんが同じような研究をやっている。しかも、そのリサーチツールをファイザーさんがもっているとすれば、その研究をストップさせるということも起こり得ると思います。大学の方が研究の計画というのは表に、より企業より出るということで、しかも発表が主体であるということを考えると、大学の方が影響が多いのではないかというふうにも考えます。

長岡座長

大学についての試験研究で適用云々については、この後、さらに議論があると思いますので……。

菊地委員

秋元先生の説明、よくわかったのですけれども、もう少しロジックとして、先ほどちょっといわれたソーシャルコストとかソーシャルアウトカムということを、もう少し――もう少しどころじゃなくもっと強調しないと、リサーチツールは代替性のないという論理に終わってしまうというか、研究というもう少し公的な、公益というものを明確にするというか、当たり前にがんが治れば何とかというのではなくて、そうじゃないと、6,000億だった、ファイザーだ、どこだという単なるインカムの金もうけのマーケットの話になってしまう。むしろ何千億ではなくて、それを超えた金では評価できないようなアウトカムがあるのだ。そういうところに関して、果たして特許の及ぶ範囲はどうなのだという議論をすべきではないかと思います。

石田委員

私の興味で申し上げると、「INTERPAT」のプログラムを拝見しまして、日本は出てないのですね。

秋元委員

出ております。日本のメンバー会社は、現在……。

石田委員

このプログラムの中で、日本についての……。

秋元委員

これは、一番下のところに「Champions」というのがありますね、日本は1つのグループを形成しているのです。日本の動きにつきましても逐一ここで報告する形にはなります。

石田委員

わかりました。インド、ブラジル、チャイナ、アメリカと書いてあるのですけれども、ここが非常に特異性があるのですか。

秋元委員

インドの場合には、特に特許の問題がまだ非常に難しいというか、ブラックボックスの出願についてもなかなかうまくいかないとか、あるいはインターネットで売られているようなものはほとんどインドの後発、ゼネリックメーカーのものであるとか、いろんな問題が起こっております。ブラジルにつきましては、医薬品の保護というのがなかなかうまくいっておりません。特に先発メーカーが承認される以前に現地の製造メーカーの医薬品、同じものが先に出てしまう。中国におきましても、現状まだそういう状況も続いております。そういうようなことで、いろんなところで問題が起こっている。この問題について、私ども、1社120~130万ほど拠出しまして、ロビー活動から各セミナー、そういうリエゾン活動、それとか世界でどういうふうにもっていこうかというようなことについて全部議論して、実際に行動を起こすということになっております。

長岡座長

どうもありがとうございました。
今後、さらに5月に国際的な舞台での検討もあるということを伺いましたので、この会合の後に、どういう議論が国際的にされたかご紹介をいただくということでお願いしたいと思います。リサーチツールについてかなり我々も理解が深まりましたので、どうもありがとうございます。今後の裁定制度等についての議論の素材にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
次の、前回議論をいただきました試験研究の例外について、という分析について、事務局の方からお願いいたします。

南技術調査課長

続きまして、資料4について説明させていただきたいと思います。
前回、試験又は研究の例外について説明させていただいた資料について、若干修正をさせていただいております。本日は、その修正点について説明させていただいた上で、できましたらご了解をいただきたいと思っております。資料4の2ページ目にございますように、前回ご紹介したとおり、推進計画におきまして、今年度中に、特許権の効力が及ばないとされる試験又は研究についての考え方を整理し、来年度以降、大学、公的研究機関、民間企業への研究現場に周知する、とされておりますので、基本的に、今回の資料4は、現行法の解釈及び判例等の事実を中心にまとめたもので、来年度に大学や民間企業を含めて周知をする上で、とりあえずこの紙はセットさせていただきたいと思っております。
特に大学につきましては、国立大学が来年度から法人化されるということで、各大学でパテントポリシーを作っているところでございまして、そういったところにも、こういった試験又は研究、69条1項の存在をきちっと認識していただくという意味で、なるべく早く周知を図りたいと考えております。
変更点等を説明させていただきたいと思いますが、資料の4ページ目でございます。これは、68条の「業として」という文言の解釈を(2)丸1で説明しているわけでございますけれども、丸1の文末に「大学等における試験又は研究も『業として』の実施であるとされる可能性が高い。」という文言がございます。これにつきまして、大学関係者から「可能性が高い」というのは刺激的なので、「可能性がある」としてもらえないかという指摘がございます。確かにこの点について、判例が出ているわけでもなく、これまでの学説等からの類推解釈ではございますけれども、「可能性が高い」ということできちっとご認識いただいた方がいいか、あるいは若干トーンを弱めて「可能性がある」とさせていただいてよいか、この点お諮りをしたく存じます。
次の点は、11ページでございます。先ほど申し上げた趣旨を踏まえて、新たに「(4)大学等における試験又は研究の取扱」という項を起こさせていただきました。なお、この項を起こした第1パラグラフ、第2パラグラフにつきましては、前回の6ページから項を移したということでございますので、新しい記載ではございませんが、それ以降の「なお」書き3行でございます。「なお、大学等における円滑な研究の促進及び自ら事業化をすることがないという大学等の性格を考えた場合、ライセンスについては、ロイヤリティフリー、あるいは安価なロイヤリティ契約が期待される。」ということで、民間と違って大学の性格を考えれば、こういったライセンスを行った際も安価な、あるいはロイヤリティフリーというのもあり得るのではないかということで、若干大学関係者にご安心いただくといいますか、ライセンス交渉の余地はあるというトーンを入れさせていただいております。この点についてもご審議いただければと思います。
続きまして18ページ、これは諸外国の例のうちの「ドイツ」の例でございます。これは単に場所を移したということでございますけれども、前回ドイツの判例でClinical TestsⅠとIIを後発医薬品のところに入れておりましたが、むしろClinical TestsⅠの判例につきましては、一般的な試験的使用の例外についての判示がなされているということですので、丸1の方に繰り上げさせていただきました。そして、丸2の方にはClinical TestsIIを残しているという、単に場所を移動させていただいたということでございます。移動に当たって、四角の上のところの点線の「例えば」というのが、Clinical TestsⅠの判示事項を簡単に紹介したものでございます。
その下の[事件概要]の点線ですが、以前の説明では少し分かりにくい点がありましたので、補足をいたしました。
24ページでございます。ここは新設でございますが、前回、試験又は研究の例外について、相澤委員からTRIPSの関係もあるのではないかというご指摘をいただきました。そこで、冒頭でTRIPSの関連規定である30条を引用いたしまして、前回の資料では脚注に入れておりましたカナダの事例を本文中に記載しております。本事例では、カナダが特許法を改正いたしまして、下にありますが55.2条の規定をおき、同条の(2)のところにそこに次のような規定を入れております。「特許存続期間が満了する日の後に販売することを意図して、物品の製造及び貯蔵を目的として、特許発明を製造し、組立て又は使用する行為は特許の侵害にならない。」これは、医薬品で特許権を第三者がもっていて、当該特許期間の満了後に売り出すことを意図して、その満了前にそれを侵害するような品物を製造、貯蔵する行為は侵害とならないという規定でございます。本件は、WTOのパネルにかかりまして、そこでTRIPS違反とされたため、最終的にはカナダが国内法を改正して(2)を削除したという事例でございます。
以上、4点の修正及び最初の点についてはお諮りし、皆様のご見解を伺いたいということでございますが、このような修正をした上で、この内容について政府として、特に文科省等関係省庁にお知らせし、69条の解釈はこういう考え方ですよと周知したいと考えております。ご意見をいただければと思います。

長岡座長

どうもありがとうございました。ご意見をいただきたいと思います。

秋元委員

4ページ目の「大学等における試験又は研究も『業として』の実施であるとされる可能性が高い。」これは刺激的だというお話ですが、トーンを幾ら下げたとしても、例えばアメリカのDuke大学の判決等もあるとすれば、むしろ侵害であるというぐらい強くいった方がいいのではないかと思います。
11ページの「なお」書き以降3行に書かれておられるように、「なお、大学等における円滑な研究の促進及び自ら事業化をすることがないという大学等の性格を考えた場合」これはかなり事実に反しますね。要するに大学自身ではないけれども、そこで得られた特許成果を企業に移転するわけです。ということは、企業でそういうことを事業化する、要するに競合会社がそれを使うということですから、大学の中でやっていたとしても、結果的にはそれを産業に生かすということになれば、事業化というところに結びつくのではないか。大学そのものは事業化しなくても、その結果物は事業化されるわけですね、そうすると、ここの記述、ちょっと矛盾するのではないかなという気がしますね。

安念委員

秋元先生のおっしゃることに全く賛成でして、まず「業として」という言葉が特許法独自の概念だというのなら別ですが、一般に法令用語として「業として」とか「業務上」というのは、反復継続の意思がある場合いいわけであって、それは、金の目的なのか何かほかの趣味なのか、それは余り関係ないし、たしか私どもの業界でいっても、弁護士法72条というのは非弁活動を制限して――私は反対なのですけれども、だれがやってもいいと思っているのですけれども、それも「業として」とあるのだが、たしか最高裁の判例が、大昔の判例があって、あれも別に「営利を目的とする」と「業として」と関係ないというのがあったと思います。ですから、大学だからどうということはないのであって、要するに反復継続する意思があってやれば、だれがやっても同じだというようにすべきと解釈するのが、まあ普通ではないかなと思うのです。
もう一つ、大学だから特別扱いだという発想が全くナンセンスだと思うのです。私は、試験・研究だから特別扱いというのは、それはそれで、それなりの筋の通った考え方だと思うけれども、大学だからというのは、私はナンセンスだと思います。特に日本の場合、国立大学という極めてゆがんだシステムが支配的で(笑声)、あれは産業に、特に産学連携だとかいって金もうけやれといっているわけでしょう。それは、産業界からするとものすごくアンフェアなコンペティションになるのです。なぜかというと、税金で賄われているだけではないです。償却はとらなくていいのですからね、教師には何のリスクもないです。研究で失敗したからといって給料減らされるなどということはないのですから、その上に大学院生を使っているのだから、人件費がただなのです(笑声)。こんなむちゃくちゃな産業はないんです。今のところ大学の教師はばかだから、こういうすばらしい条件だということに気づいてないけれども、頭のいいやつが出てきたらかなわないですよ。とにかく大学を特別扱いするという発想は、私は極めて危険だと思っております。ですから、「業として」は普通の「業として」だ。これでよろしい、秋元意見に大賛成です。

長岡座長

私も「業として」というのは賛成なのですけれども、ただ、実際アカデミックディスカウントというのは存在するわけで、それは、それなりの合理性があるといいますか、収益事業をやってないので、片一方で知的財産はマージナルコストゼロですから、収益事業をやってないところでも使ってもらうのは、むしろ研究者にとっても利益がありますので、もちろん公的な性格をもっているから安くしてあげるというのは、これはまた、お願いベースの話だと思いますけれども、みずから事業化するということはないのは確かだと思いますけれども、むしろ趣旨を書くとしたら、みずから利益を上げないというか――ライセンス料をとるという意味では利益が上がるということになるのでしょうかね(笑声)、「業として」というところは私も賛成、大学も業だと思いますので、ここは全くそのとおりで、しかし、大学の支払い能力が限られていることも確かで、ロイヤリティに差をつけていただくというのは非常に合理的な、アカデミックディスカウントはあってもおかしくないし、ライセンスというのはユーザーに応じてライセンス料を設定するというのは合理的な考え方ではないかと思います。

相澤委員

業の方は、だれが解釈しても、ほかの解釈はないので、ここの記述を変えたところで何の気休めにもならないと思います。むしろ、これは、侵害になる。だから、どういうことをしなければいけないのだということを考えてもらった方が良いと思います。
大学の存在意義については、安念委員と同じ大学の教員ですが、やや理念を異にします。ただ、この間、株式会社の大学が認可されるということがあったようでして、大学の性格自体が昔と違ってくる場合もあると思います。したがって、書き方としては、例えば基本的な理念を学問の研究に置いている大学というような記述を入れないといけないと思います。大学であるからと記述すると、大学でも、ライセンス料をとって何とかしようという議論と合わなくなると思います。大学の基本的な目的は、お金にならない、基礎研究などをするところにあると思っていますから、基本的な考え方は賛成なのですが、大学という言葉の使い方は、ちょっと注意をした方がいいのではないかと思います。

渡部委員

大体同じなのですけれども、安心させてほしいから安心させようというのは余り意味がないと思うので、むしろ真剣に考えて――多分知財本部の方かなんかにヒアリングされたのかもしれませんが、ほとんどまだ真剣に考えているという状態ではありませんので、ここは、むしろ、きちっとした問題提起をしないといけないと思うということで、「業として」のところは強く書いていただく。
試験・研究の取扱いで、事業化をすることがないからいい条件が期待されるというようなのも、ちょっとこれは、やめた方がいいのではないか。そういう意味で、本当の意味、大学は自分の生み出した知的財産を社会に還元するときにどういうポリシーをするのかというのは、これからですね。相澤先生もおっしゃったように、大学ごとで全然違ってしまうかもしれませんし、大学という範疇では、ここは、定義はほとんどできないと思うということです。

長岡座長

あとは、安心させるという意味では、日本の特許法ですと、主題についての研究は侵害にならないというところは明らかに確定されてますので、ここだけしか読まない人がいると思いますので、それはつけ加えておいてもいいのではないか。主題についての研究ですね、これは前段にあることをそのまま書くだけだと思いますけれども、それは書いておくと安心をする面もあるのではないかと思います。
おっしゃいますように、大学だからというよりは、むしろ基礎的な研究、何をやっているかによってライセンスの料率は変わってもいいというように書くのが正しいかなと思います。
ほかにいかがでしょうか。

江崎委員

これは、このような内容をまとめて、こういう現状ですというのを出して、終わりなのでしょうか。それとも、だから何かをしなければいけないという前段となるのでしょうか。

長岡座長

それは別の問題です。

南技術調査課長

この取扱いですけれども、とりあえず現行の69条はこういう考えであると、まず周知を図ることが一番大事だと思っておりますので、今回こういう形でまとめさせたものを、文科省等の関係府省にお示しし、周知を図っていただいた上で、さらに何か手当が必要ということになれば、それはまた、その時点で検討させていただきますが、とりあえず周知を図るための素材を確定させていただきたいということでございます。

江崎委員

ただ周知のためだけだったらいいのですけれども、この後どうするかという話になると、海外で、例えば中国とかシンガポールとか、そういうところでどうなっているかというのも大事で、そういうところが及ばないというのならそのような国に研究拠点をもっていけば何の問題もなくなるわけです。ですから、国際的な競争を企業が維持するためにどんな行動をとっていくのかということもあわせて考えておかないと、日本だけの問題ではないのではないかと感じてました。

南技術調査課長

現在、米国やヨーロッパの主要国についてはまとめさせていただいておりますが、このワーキンググループとしての最終的な報告書はもうしばらくしてといいますか、いろいろな議題を検討した後で最終的にまとめたいと思っております。よって、それまでにもう少し調査して、分かる範囲のものは付け加えてワーキンググループの報告書としてまとめさせていただくことでよろしいでしょうか。――

長岡座長

そういうことで、とりあえず現状整理したものを出させていただいて、その後、少し時間をたって、もし改正すべきところとか、そういう問題がありましたら、そういう点も含めた検討は別途して、そこは報告書の段階で審議をさせていただくということ……。

秋元委員

ちょっとこれに付随してなのですが、これをずうっと読ませていただいて、確かに「試験又は研究」というのは日本の69条でございますが、欧米その他等を比較しているところ、あるいはTRIPSのところで、リサーチという言葉はないですね。だから、ほかのところは、どちらかというと試験という意味であって、試験・研究を比較しているのではなくて、研究という言葉は、むしろ日本にかなり特異的な言葉だろう。そうであれば、「試験・研究」を、たしかお聞きした話だと、日本としてはイクスペリメントという考え方で世界的に出しているということなので、むしろそれを明確にしないと、「試験・研究」について世界はこうだよというのではなくて、むしろ「試験」についてで、「研究」というものは日本独自の問題じゃないかなという気がしないでもないと思います。

南技術調査課長

そこは、条文上、日本は「試験又は研究」という独自の言葉を使っておりますが、ここでいわんとしていることは、69条は「試験又は研究」という言葉を使い、CPCやヨーロッパ各国は「試験」という言葉しか使っていませんが、条文の解釈上は、基本的には差違がない。アメリカは非常に狭いですけれども。

秋元委員

先ほど申しましたように、ヨーロッパ、アメリカ等ではリサーチという問題については、こういう議論は基本的に今までなかったわけですね。だから今度、サンタバーバラで初めてリサーチという言葉が出てきているので、欧米での議論はすべてイクスペリメントなのです。それがどうも、ここを読んでいると、日本の「試験・研究」は、どうしても「研究」という言葉が入っているもので混同してしまうような気がしないでもないですね。

南技術調査課長

恐らくおっしゃるとおりで、誤解の発端は「試験又は研究」に「研究」という言葉が入っているがゆえに、大学等を含めて誤解を与えているのではないかと思っています。したがって、今回、こういったものを出して、「試験又は研究」といっても、69条の例外としている範囲はこういうものですよ、というのを明確にさせていただきたいということで、「研究」という言葉が入っているから、特に日本が広い範囲を認めているわけではないことを明確にするという意味でございます。

長岡座長

よろしいでしょうか。――必要な修文を加えまして、これで一応セットさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
続きまして、次の議題の裁定制度へ移りたいと思います。事務局から資料の説明をお願いします。

南技術調査課長

続きまして、資料5を説明させていただきます。当初説明させていただいた際に、69条で完全に特許権に穴を開けるという方法とは別に、裁定によってある程度ライセンス料を抑えた実施権の設定を強制的に行うという道もあるのではないかというご指摘を受け、とりあえず本日は、日本の裁定制度についておさらいをさせていただきたいということでございます。
資料5を説明させていただきますが、まず国際的な取決めといたしましてパリ条約とTRIPSがあるわけでございますけれども、パリ条約では「5条A(2) 各同盟国は、特許に基づく排他的権利の行使から生ずることがある弊害、例えば、実施がされないことを防止するため、実施権の強制的設定について規定する立法措置をとることができる。」という規定されております。
TRIPS協定におきましては、31条におきまして、非常に細かい規定が書かれています。主なものといたしましては、まず強制実施権の設定ということですが、これは、ライセンシーが合理的な商業上の条件のもとで特許権者とライセンスの努力を行ったにもかかわらず、合理的な期間内にライセンス交渉が成功しなかった場合に限定されます、ということがまず書かれておりまして、2番目は、半導体に関する強制実施権の設定が書かれております。強制実施権の設定は、主として国内市場への供給を目的とする場合に限るという規定と、利用関係の発明について特に明記をされておりまして、利用関係の発明が相当の経済的重要性を有する場合に限り、強制実施権が許諾されるという規定がございます。
こういった国際的な取決めを踏まえまして、日本では、特許法等におきまして、3つのカテゴリーの裁定実施権(強制実施権)の規定がございます。枠の中にございますが、不実施の場合の強制実施権、利用関係がある場合の強制実施権、公共の利益のための強制実施権、の3つがございます。
2ページ目でございますが、この強制実施権につきましては、工業所有権審議会で定めております「裁定制度の運用要領」に従って運用されております。この運用要領は、1975年に物質特許が導入されたのに合わせまして策定されたものでございます。後に、TRIPS協定、あるいは後ほど説明いたします日米合意等を踏まえ、1997年に改正を行っておりまして、その改正の中で「裁定にあたっては、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定その他の国際約束にしたがって行う。」という規定が追加されております。
それぞれについて若干の説明をさせていただきたいと思いますが、まず不実施の場合の通常実施権の設定でございます。この規定につきましては、明治42年に、まず不実施のものについては取り消すことができるという規定が導入されておりまして、その後、大正10年、昭和13年法等々で修正されております。
最終的には、細かい説明は省略させていただきますが、3ページでございますけれども、「現行規定(特許法第83条)」で規定されておりまして、「特許発明の実施が継続して3年以上日本国内において適当にされていないときは、(ライセンシーといいますか)その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。ただし、その特許発明に係る特許出願の日から4年を経過していないときは、この限りではない。」という規定になっております。
そのライセンス交渉が成立しなかった場合、あるいは協議することができない場合には、特許庁長官の裁定を請求することができる、という規定になっております。
この83条に関します運用要領でございますけれども、83条1項に書かれております「実施が適当にされていない」という意味でございますが、需要に対して極めて小規模で名目的な実施に過ぎないと認められる場合、単に輸入をしているだけで国内では生産をしていない場合というのがこれに該当すると解される、というのがございます。
85条2項は、別紙5-2にございまして、特許発明の実施が適当にされていないことについての正当な理由があるときは裁定をすることができない、という規定になっており、この説明が下にございます。実施が適当にされていないとされている内容はどのようなものかということですけれども、これは、特許発明の実施に必要な設備等が災害その他被請求人等の責に帰すことができない事情によって整備することができない場合、それから特許発明の実施に必要な許認可手続が被請求人の責に帰すことができない事情によって遅延している場合、こういったものについては裁定を請求することができない、という規定になっております。
(2)の利用関係でございますけれども、これも明治42年に導入されております。当初は、これは実施許諾審判という審判制度であったわけでございますけれども、昭和34年に、ライセンス等に関連する問題であるので、審判制度ではなくて裁定制度に改めたという経緯がございます。
現行法でございますが、92条に規定されておりまして、特許権者又は専用実施権者は、その特許発明が72条(利用関係の規定でございますけれども)に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対して、実施をするための許諾について協議を求めることができる、という規定になっています。
これについて協議が整わない場合については、裁定を請求することができる、というのが3項にございます。
この要件は、5ページ目の運用要領で規定されておりまして、「72条の規定に該当するとき」ということでございますけれども、これは「他人の特許発明等の実施をしなければ自己の特許発明の実施をすることができないと解され、たとえば先願の物質特許と後願の製法特許若しくは用途特許、又は選択発明の特許はこの要件に該当すると解される。」と要領に書かれております。
92条5項に「72条の他人又は特許権者若しくは専用実施権者の利益を不当に害することとなるとき」は、これも裁定できないというのがありますが、これにつきましては、先願の特許発明及び後願の特許発明の内容、当事者の資力、経営状況等を総合的に勘案して判断する。通常実施権の設定によって事業の継続が困難になるなど被請求人の利益が著しく害される場合には、原則としてこれに該当する、と書かれております。
92条の利用関係の裁定制度につきましては、丸4にありますが、1994年に日米合意というのがございまして、さらに制限的に運用されているわけでございます。これは日米包括経済協議の知的所有権作業部会が93年から94年にかけて行われまして、その中でまとめられたものでございます。その中で、利用関係の裁定につきましては、1995年7月以降、以下の事項のいずれかに該当する場合を除いて裁定を行わないという合意の内容でございまして、以下の事項というのは2つございます。一つは「司法又は行政手続を経て、反競争的とされた慣行の是正」あるいは「公的な非商業的目的の利用の許可」、これが要件になっております。
これの履行のための措置でございますが、基本的に特許庁長官の裁量行為ということから、「裁定制度の運用要領」、先ほど説明をさせていただいた運用要領の改定で対応したということでございます。
6ページ、ちなみに日米合意には、第一パッケージ、第二パッケージがございますが、第一パッケージは英語出願等の内容でございますが、第二パッケージはそれぞれ3点のパッケージへの合意でございますので、それぞれの履行状況を書かせていただいております。
(3)でございますけれども、公共の利益の場合の通常実施権でございます。これも明治42年に導入されておりまして、基本的には42年当初は、国の強制収用といいますか、それから強制取消というような性格のものでございますけれども、昭和34年に改正されまして、国に限らず誰でも公益上の問題があれば裁定を請求することができるという内容に修正されております。
現行規定は93条に規定されておりますが、特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、ライセンシーと協議を求めることができ、2項で、それが成立しない場合等については、こちらは経済産業大臣に裁定を請求することができる、とされております。
これにつきましても、運用要領で「公共の利益のため特に必要であるとき」の解釈が書かれておりまして、1つは「国民の生命、財産の保全、公共施設の建設等国民生活に直接関係する分野で特に必要である場合」、「当該特許発明の通常実施権の許諾をしないことにより当該産業全般の健全な発展を阻害し、その結果国民生活に実質的弊害が認められる場合」が運用要領で定められております。
さらに、ここはまた解釈があいまいでございますが、過去、この93条の基準についての考え方を示したものとしては、昭和43年の外資審議会専門委員会で特許庁から報告し、報告書に記載されているものがございますので、ここでご紹介させていただきたいと思います。
まず、外資審議会でございますけれども、脚注にございますけれども、当時ございました「外資に関する法律(外資法)」に基づいて設置された当時大蔵省の附属機関でございます。1967年9月以降、技術導入の自由化に関する検討が行われまして、その中で技術導入の自由化と特許法、独禁法その他技術導入に関連する法律的諸問題が検討され、その中で報告された内容でございます。
上の点線の枠の中に戻りまして、最初のパラグラフの後段でありますが、「特許法第93条による強制実施の裁定基準に係る考え方」ということでございます。ここで具体的には、丸1丸2丸3とございますけれども、丸1は「当該特許発明の利用が期待される産業に、企業の倒産等の混乱が生じることにより、大量の失業者が発生するおそれがあること」、丸2が「当該特許発明の利用が期待される産業に、企業の倒産等の混乱が生じることによって、その特許発明が実施できれば利用可能であった巨額の既存設備が廃棄されるおそれがある場合」、最後に、「同様の産業に企業の倒産等の混乱が生じることによって、これら産業の健全な経済的・技術的発展を著しく阻害するおそれがある場合」、という条件が書かれております。
その下に書かれておりますが、93条は、特許権に対する重大な制約であることから、その適用は慎重にすべきである。なお、92条の利用関係の強制実施権により対応しうる場合には93条は発動すべきではない、という内容が書かれております。
最後でございますけれども、これは「裁定の実績」でございますが、これまでに特許、実用新案、意匠を合わせまして23件の裁定請求が行われておりますが、いずれも裁定に至る前に取り下げられておりまして、通常実施権の設定をした事例はございません。
次にご参考ということでございますけれども、基本的にライセンス交渉を行って協議が整わない場合、強制実施権というのがあり得るということでございますが、そもそも特許のライセンス交渉を行った場合、これについての独禁法上の取扱いが公正取引委員会の方でどのように考えられているかを参考資料として付けさせていただいております。基本的には公正取引委員会の方で、1.の下のパラグラフにございますように、1999年に「特許・ノウハウライセンス契約に関する独禁法上の指針」というものをまとめております。2002年に「新たな分野における特許と競争政策に関する研究会報告書」というのがありまして、この中で遺伝子関連発明とかリサーチツール等についても言及しておりますので、それを紹介させていただきたいと思っております。
飛びまして、2ページ目の(1)にある「ライセンス契約に関する独禁法第21条の考え方」を簡単にご紹介します。これは、先ほどの指針の4ページに書かれている内容をそのまま抜いておりますが、独禁法21条は、特許法等による「権利の行使と認められる行為」には独禁法の規定は適用されず独禁法違反行為を構成することはない。ただし、丸2にありますが、他方、特許法等による「権利の行使」とみられる行為であっても、それが発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価されず、独禁法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると考えられる、という内容が書かれております。
最終的に適用される可能性のあるものが、一番下のところにありますけれども、不当な取引制限や私的独占等、又は不公正な取引方法に該当するか否かというのが検討されるということになります。
具体的な事例として、指針の中で挙げられておりますもののうちで、「不当な取引制限等の観点」からでございますが、複数のライセンス、マルティプル・ライセンス契約において、ライセンサーの定める共通の条件によって複数のライセンシーに対して非独占的なライセンスが行われる場合、これは通常、独禁法上の問題にならないということです。幾つか事例が書かれております。
特に本日の議論の内容からいきますと、次の3.にあります2002年にまとめられました「新たな分野における特許と競争政策に関する研究会報告書」というのがございまして、ここではビジネスモデル特許やバイオ関連特許を中心にまとめられております。
具体的な事例として、次のページに「ライセンス拒絶等について」というのがまとめられておりまして、丸1で「利用関係の成立が事前に予想される場合」がございます。この報告書の中では、利用関係というのは、特許法上の利用関係ではなくて、単に第三者が特許を利用する場合という趣旨で利用関係という言葉が使われておりますが、遺伝子特許のライセンス拒絶は、特許権の本来的な権利行使として、独禁法上の問題となることは通常ない、ということが書かれております。
枠の中にありますけれども、上流の遺伝子特許の特許権者が、例えば事前のライセンス交渉において自身の特許権が利用されることを事実上容認していた場合、それから自身の特許権が研究に利用されることを十分知りながら、異議を述べないこと等によって、その利用を黙示的に認めていたような場合、丸3がいったんライセンスしておきながら、特許の成果を利用して開発した医薬品の上市等の段階において、ライセンスを打ち切るような場合。こういった場合には、取引の自由が制限される場合があるということで、→にありますが、こういったものについては私的独占に該当し、又は競争が実質的に制限されてない場合でも、不公正な取引方法に該当する可能性がある、と述べられております。
「ライセンス拒絶と同視できるほどでなくても、利用特許取得に至るプロセス全体からみて、著しく高額のライセンス料を要求する場合」は、「不公正な取引方法に該当する場合もある」、「場合もある」ですから、ケース・バイ・ケースということでございます。
「研究開発の結果、先願特許と利用関係にあることが判明した場合」のケースでございますが、そのような段階で枠にあります「ライセンス交渉を行ったにもかかわらず、ライセンスが拒絶される場合」については、基本的には特許権者の権利行使の自由の問題であり、原則として独禁法上問題とはならない、ということでございます。
次が、先願特許権者が医薬品市場等における有力な事業者であって、排他条件付取引等の独禁法違反行為の実効確保の手段として、又は自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者を排除するための手段として、先願特許のライセンスを不当に拒絶するような場合については、「不公正な取引方法に該当する可能性がある」という見解が述べられております。
冒頭の秋元委員の中でも出ましたが、リーチスルー・ライセンスでございます。基本的には、リサーチツール等については製品とは直接関係がないものでございますけれども、製品に及ぶようなライセンスをするケースについて述べられておりまして、まず1つの枠ですが、「研究ツールの特許権者が、その特許権の効力を及ぼすことのできない成果物の独占ライセンスを義務づける場合」がございます。これは「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術開発を阻害し、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすことになるため、不公正な取引方法に該当する」ということを述べております。
「研究ツールの特許権者が、その特許権の効力を及ぼすことのできない成果物の売上に応じたライセンス料の支払義務を課す場合」については、「不公正な取引方法に該当する可能性がある。」
ただし、次のケースですが「リーチスルー・ライセンス契約において、成果物の売上にかかるライセンス料が、当該研究ツールのライセンス料の分割払い又は延払いと同様のものと認められる場合」は、イニシャルライセンス料が非常に高く、なかなか払えないので、イニシャルライセンス料を抑える代わりに、それによる成果物によってライセンス料を支払うというケースです。これについては、「ライセンシーの研究開発意欲を阻害するものではないことから、不公正な取引方法には該当しない」といった見解が、この研究会の報告書の中で述べられております。
これについては、独禁法上、今こういうことも議論されているということでご紹介をするにとどめさせていただきたいと思います。以上でございます。

長岡座長

非常にわかりやすい説明、どうもありがとうございました。
では、ご意見やご質問がございましたら、よろしくお願いいたします。

相澤委員

1つ細かい点なのですが、外資委員会の専門委員会の報告書は、内外差別の議論をしていたときのものなので、いまどきこれを載せるというのは、そういうことを意図しているのではないかととられるおそれがあるので、載せない方がいいと思います。

長岡座長

外資審議会委員会の報告ですけれども、特許庁の審議会等との関係はどうなるのでしょうか。

南技術調査課長

外資委員会に特許庁が出席して、特許庁の見解を述べ、それが報告書の中に記載されているということでございます。

長岡座長

輸入が不実施にみられるというのも、ちょっとTRIPSとも合わない感じがするので、確かに相澤委員のおっしゃるように、少し古い運営要領等がそのまま残っているという感じはします。

相澤委員

運用の要領の問題は現在の問題ですけれども、外資委員会のものは、古く、なおかつ、内外差別が色濃く出ている議論ですから、いまどきこれを報告書に載せて、一体今は何をしているのかという誤解を受けるおそれがあるので、載せない方がいいのではないかと思います。

南技術調査課長

相澤委員のご趣旨は了解いたしました。趣旨としては、決してそういうことではないことはご了解いただいていると思いますけれども、93条の運用要領の記載自体も、これだけ読んでもあいまいだということで、過去、93条の解釈について言及した事例があるかどうかを探したところ、これしかなくて、ご紹介させていただいたわけでございます。

相澤委員

それはよくわかります。

南技術調査課長

もう一つ補足をさせていただくと、少なくとも現行特許法におきましては、裁定制度はこの3つのパターンしかないわけでございます。先ほど秋元委員から提起された問題は、基本的には利用関係の特許であれば、当然92条の対象になり得ると思いますけれども、1のケースで不実施というのは余りないと思いますし、公共の利益のためというところも、これだけでは読み取れませんけれども、先ほどのケースもなかなか93条でも読み取れないのではないかなと思っておりまして、現行の特許法における裁定制度ではなかなかカバーできないのではないかということを補足させていただきます。

菊地委員

8ページの事例はないということなのですけれども、不実施9件、利用関係14件というのは、例えばどんなもの……。

南技術調査課長

技術でいくとかなり多種多様でございますけれども、織機であったりとか、これは不実施です。あとは、よく評判になりますのは、医薬品なんかもございます。医薬品はほとんどが利用関係です。それ以外には、技術的にはかなり多種多様ですね。機械類のものもございますし、どちらかというと、化学系のものは利用関係の裁定請求が多いと言えるかと思います。

秋元委員

ちょっと確認なのですが、日米包括合意というのは、日米間のバイラテラルでございますけれども、内外差なしということになれば、日米合意であってもすべて国際的に同じように扱わなければいけないという前提になるわけですね。そうしますと、議論の蒸し返しではございませんけれども、94年当時はTRIPSの議論が進んで、ほぼ合意に達している時期に、先ほどいった利用関係について、TRIPSよりも非常に厳しい枠がはまっている。現状考えますと、特許庁さんのデータからもみまして、昨年度も中国は世界第2位のバイオ関係の出願国になってしまった。中国は利用関係の裁定実施権はTRIPS上、特許法にはきちっと入れている。日本は、これは日米合意があり、中国に対しても同じように適用しなければいけないとなったときに、日本の先端技術分野ということで4分野選んでおりまして、ライフサイエンスも入っておりますけれども、そこで中国と日本の間に非常に大きな差が出てしまうのではないかということが十分危惧されるのですが、これについて何かコメントございますでしょうか。

南技術調査課長

92条の運用に当たって、国による差別は基本的にはありませんので、この合意に基づき、日本国においては、請求人がどの国の方であっても同じように適用するということで、TRIPS上は問題ないと考えております。
中国との関係でございますけれども、これにつきましては、次回、諸外国でどのような制度があって、どのように運用されているかについて、今現在調査中でございますので、その結果を含めまして次回ご報告をさせていただきたいと思います。

相澤委員

それに関して、最恵国待遇のスタンド・スティルの適用の可能性についても一応検討しておいていただけますか。最恵国についてはスタンド・スティル条項があったはずなので、それについても一応検討してください。

竹田委員

一言申したいのですけれども、TRIPS協定ができたわけですから、これから日本としても再交渉して日米合意による制約はとるべきじゃないですかね。TRIPS協定後も制約を受けるのはいかにもおかしいですね。交渉はなかなか難しいのでしょうけれども。

長岡座長

特に問題だとおっしゃっている面はどの面でしょうか、もしよろしければ。日米合意とTRIPS協定の違いでですね。

竹田委員

要するに日米合意により92条の利用関係の裁定実施権が実質的には動かせないわけでしょう。ところが、TRIPS協定の方の規定では、ちゃんと条件は決まってますけれども、利用関係のある発明が技術的な意義があるというような場合には、裁定請求してよいという考え方になっているわけです。それだったら、アメリカにもよく話をして、事情が変わったのだから、もうあの取り決めはやめようじゃないかというような話はできないのですかね。

南技術調査課長

その点については、この合意自体はパッケージでの合意になっておりまして、依然として6ページにありますように、アメリカは未だ2つについて完全履行をされていないので、その交渉過程の中で、強制実施権についてどのように取り扱うか、これは単独で議論するわけにはいきませんので、全体戦略の中でどう取り扱うかについては、我々も検討したいと思っております。

竹田委員

アメリカだってTRIPS協定に同意しているわけですからね。

相澤委員

TRIPS協定はミニマムスタンダードを決めているわけなので、特許権の効力をより強くするということは、TRIPS協定に反するわけではありません。したがって日米合意は、もちろんTRIPS協定に反するものではありません。これは、パッケージディールでありまして、アメリカ合衆国においても、早期公開制度及び審査制度につきまして、こちらが完全に満足するとまではいかないものの、これに従った措置をしています。これについては、日米間で別に、差別的取扱いをするということになっているわけではないので、これをひっくり返すというのは、これまでに日米間で積み上げられた特許に関する信頼関係に重要な影響を及ぼすおそれがあるので、できない話ではないかなと思います。この問題について、反競争的行為の是正を目的とする場合というのは、明文で合意から除外をされているわけでありますから、競争上必要であるというような場合、あるいは公共の目的がある場合、例えば公衆の衛生に対して必要である場合には別に制限をしないのでありますから、この合意というものは尊重すべきではないかなと思います。

長岡座長

ほかにいかがでしょうか。――今回初回ということで、理解を深めるということで整理をしていただいて、非常にいろんなコメントをいただいて、理解も深まったと思います。ただ、結論がすぐ出るような問題ではありませんので、次回も引き続き裁定制度についてご議論をいただきたいと思います。事務局の方も各国の裁定制度の実施状況等も踏まえて、調査結果もご報告していただきたいと思っています。
この件、もしよければ、時間も迫ってまいりましたので、今後のスケジュールについて事務局の方からご紹介をお願いいたします。

南技術調査課長

それでは、次回のスケジュールでございますけれども、冒頭秋元委員の方から5月のINTERPATの会合のお話もございました。そこでの国際的なリサーチツールについての議論を踏まえまして、次回、この中で議論したいと思いますので、そのINTERPATの会合の後、できましたら5月下旬頃を目途に次回を開催させていただきたいと思っております。次回は、先ほど触れました裁定制度、諸外国の状況、運用状況などの調査結果を報告させていただくとともに、先ほどの国際的なリサーチツールの取組についてご報告いただいてご議論いただきたいと思っております。
本日できませんでしたけれども、分割出願・補正制度の見直しについても次回行うことにしておりますので、よろしくお願いいたします。

長岡座長

では、以上をもちまして、第7回特許戦略計画関連問題ワーキンググループを閉会させていただきます。活発な議論、どうもありがとうございました。

-了-

[更新日 2004年3月24日]

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