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第8回特許戦略計画関連問題ワーキンググループ 議事録

(本記事作成:特許庁総務部総務課制度改正審議室)

  1. 日時 平成16年6月15日(火曜日)14時00分~16時00分
  2. 場所 特許庁 特別会議室
  3. 出席委員
    長岡座長、後藤委員長、相澤委員、秋元委員、浅見委員、安念委員、石田委員、江崎委員代理(西尾氏)、大西委員、菊地委員、牧野委員、丸島委員、渡部委

開会

長岡座長

時間となりましたので、始めたいと思います。
ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会第8回特許戦略計画関連問題ワーキンググループを開催いたします。
御多用中のところ御出席いただきまして、ありがとうございます。本日のワーキンググループは2つ主な課題がございまして、特許発明の円滑な使用に関する諸問題、もう1つは補正、分割等の問題ですが、最初の議題に関連しまして、技術標準の策定を妨げる特許の権利行使に関してプレゼンテーションをしていただくために、三菱電機の知的財産渉外部加藤次長、特許技術部の高橋さんに御出席いただいております。よろしくお願いいたします。
では、最初に、事務局で大部な資料を用意していただいておりますので、事務局の方から資料の確認をお願いいたします。

南技術調査課長

それでは、お手元の資料の確認をさせていただきます。
まず、資料1ですが、議事次第・配付資料一覧。資料2が委員名簿でございます。資料3は法改正の説明会テキストでございます。資料4は、知的財産推進計画の2004年版が出ましたので、それの抜粋。資料5が、本日、秋元委員からプレゼンいただくINTERPATのメンバーリストでございます。資料6が、三菱電機の加藤次長よりプレゼンいただく技術標準に関する裁定実施権の適用でございます。それから、クリップどめしてあります資料7-1から7-5まで5点、これは諸外国の強制実施権制度の概要でございます。最後、資料8が補正、分割出願制度の見直しの資料でございます。それから、一番最後に、1枚紙でINTERPATのドラフトポジションペーパーというのをつけております。これは、本日、秋元委員の方から御説明いただく資料でございますけれども、この資料につきましては、まだINTERPATでドラフトの段階ということでございますので、秋元委員の方から公開は避けていただきたいというお話がございました。したがいまして、この資料につきましては非公開ということにさせていただきますので、御了解いただきます。
以上、資料で過不足等ございませんでしょうか。

長岡座長

ありがとうございました。

平成16年度特許審査の迅速化等のための取引法等の一部を改正する法律について

長岡座長

本ワーキンググループで昨年度検討していただきました事項が盛り込まれたました迅速化法案が成立したという御報告であります。
まず、小野特許技監からごあいさつをお願いしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

小野特許技監

特許技監の小野でございます。本日は、お忙しい中、当ワーキンググループに御出席いただき、ありがとうございます。
さて、去る5月28日に「特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律」、いわゆる「特許迅速化法」が成立し、6月4日に公布されましたので、一言御礼を述べさせていただきます。
本法律には、迅速かつ的確な特許審査の実現に向けて必要不可欠な事項である、従来技術の外注に民間能力の活用を図るための制度改正、出願人による従来技術調査へのインセンティブ付与のための制度改正、特許情報等をより活用しやすくするための制度改正、特許審査迅速化に必要な人材育成機能等の基盤整備・強化に関する制度改正が盛り込まれております。これらの事項は、いずれも当ワーキンググループにおいて数次にわたり御議論いただき、本年1月、「世界最高レベルの迅速的確な特許審査の実現に向けて」と題して中間取りまとめをしていただいたものでございます。
任期つき審査官の大幅増員を含むこれまでの施策に加えて、今般の制度改正によりまして、約80万件に及ぶ審査順番待ち案件を一掃し、審査順番待ち期間ゼロを実現するための道筋をつけることができました。皆様におかれましては、これらの制度改正の実現に御尽力いただき、ありがとうございました。
知的財産戦略本部において5月27日に取りまとめられた「知的財産推進計画2004」においても、特許審査の順番待ち期間短縮の目標として、5年後(中期目標)において20か月台に留めること、10年後(長期目標)には11か月を達成することが明記されたところです。特許庁といたしましては、これらの目標を着実に達成するため、引き続き審査体制の強化を図るとともに、特許審査迅速化法に盛り込まれた事項を着実に実施していきたいと考えております。
皆様におかれましては、今後も御指導、御鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

長岡座長

どうもありがとうございました。
引き続きまして、事務局から迅速化法案の概要の御説明をお願いいたします。

高倉調整課長

では、迅速化法の概要について御紹介をさせていただきます。お手元に冊子として資料3というものがあろうかと思いますが、それに沿って、お時間を10分ほどいただきましてポイントを御紹介したいと思います。
まず、冊子の1ページでありますが、今回の迅速化法のアウトライン(概要)であります。4つの柱に分かれておりまして、第1の柱、審査処理の促進、これについては主としてこの戦略ワーキンググループで御議論をいただきました。指定調査機関制度の見直しに関する事項であります。2つ目の柱は、出願及び審査請求行動の適正化に関する施策、それを反映した法律事項であります。3番目、特許迅速化に関する基盤整備、インフラ整備に関するものであります。4つ目の柱として、職務発明制度に関する法改正を実現いたしたところであります。この法律は6月4日に公布されております。
それぞれ4つの柱に沿っての説明でありますが、まず2ページ、指定調査機関制度の見直しであります。これについてのポイントは、2番目の改正の内容(1)及び(2)の部分でありますが、(1)、すなわち、現在IPCCという公益法人に限って調査機関をお願いしておりますところ、今後は、公益法人以外であっても、例えば民間企業であっても調査機関に参入することを可能とする法改正が1点であります。
(2)ですが、現在は指定という概念でありまして、特許庁が調査機関を指定するという仕組みでありましたけれども、今後は、登録要件をあらかじめ定めて、これを明示し、その登録要件を満たす調査機関についてはすべて登録をするという考え方に変わっております。このことによって、公益法人及び公益法人以外の調査機関の数多くのいわゆる外注業務への参入を促す、このことによって、より効率的でかつ精度の高いサーチレポートをつくってもらう仕組みをしようと。このことによって特許審査の迅速化を進めようということであります。
3ページ2.特定登録調査機関制度の導入ということでありますが、これは出願人に、登録調査機関を活用することによって、事前に先行技術調査の結果を、いわゆる従来技術調査の結果を入手し、その結果を見て適切な審査請求行動をとっていただこうという考え方であります。これについては改正の内容2.に書いておりますように、審査請求料を減額するという措置をとることによって、その活用にインセンティブを与えるという仕組みになっております。
4ページですが、インターネットを利用した公報の発行。現在の磁気ディスクを媒体とした公報の発行に加えて、インターネットを利用した公報の発行も可能とするという法改正であります。
5ページ、4番目の予納制度を利用した特許料等の返還でありますが、出願人が持っております予納口座の方に審査請求料の返額、その金額に相当する額を返還するという仕組みになっております。
6ページ、これは実用新案制度の改正ですが、これについては複数ありますが、6ページの部分について言えば、実用新案登録をした日から3年以内であれば、それに基づく特許出願を行うことができる。このことによって実用新案の活用を促そうということであります。
少し飛びまして9ページでありますが、実用新案制度の存続期間の延長。現在6年でありますが、これを10年に延長するということであります。
10ページ、訂正の許容範囲の拡大ということで、今後は実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正については、一定期間内に限り、かつ1回に限り、これを行うことを認めるという法改正を実現いたしております。
12ページの6番目、特許迅速化に向けた情報館業務の拡充。これはインフラ整備という柱に相当する部分でありますが、改正の内容2.のところで書いておりますように、特許庁の情報提供業務、これも新しい独立行政法人で行うことができるようにする。それから研修所、これは現在、特許庁の内部の職員の研修所というふうに位置づけられておりますが、今後は登録調査機関の人材育成にもサービスを拡充するということから、研修業務も新しい独立行政法人の業務として追加いたしております。こうした業務内容の変更に伴いまして、現在の工業所有権総合情報館を改めて工業所有権情報・研修館という名称に変更する法改正も実現をしております。
13ページでありますが、職務発明制度の見直しであります。これについては、この戦略ワーキンググループではなくて特許制度小委員会で主として議論された部分でありますが、その改正のポイントといいますか基本的な考え方は、15ページの上の方にありますように、対価については、当事者間で自主的に定めたところにより対価を支払うことが不合理でない場合には、その当事者間の定めによると。しかし、その対価について当事者間で定めがそもそもない場合、あるいは定めにより支払うことが不合理であるというような場合には、訴訟、裁判において相当な対価が算定されると。こういう法改正をすることによって、できる限り当事者間の手続を優先するという考え方で法改正を提案し、国会で成立したところであります。
最後ですが、19ページに飛びまして、施行日について御報告をいたしておきますと、予納制度を利用した特許料の返還等につきましては、公布の日、すなわち6月4日から施行ということであります。それから、指定調査機関制度の見直しに関する部分、独立行政法人工業所有権総合情報館の業務の拡大に関する法改正については、ことしの10月1日から施行。その他の例えば特定登録調査機関、料金の減免等に関する部分でありますが、これやインターネットを利用した公報の発行等につきましては、来年の4月から施行ということであります。
駆け足の説明でありましたが、以上であります。

長岡座長

ありがとうございました。
何か特段の御質問等ございましたら。

特許発明の円滑な使用に係る諸問題について

長岡座長

では、もしございませんようでしたら、次の特許発明の円滑な使用に係る諸問題に移りたいと思います。
まず、事務局の方から資料の御説明をお願いいたします。

南技術調査課長

では、議題に入ります前に、資料4を使いまして、先日決まりました「知的財産推進計画2004」のうちで本議題に関する部分を抜粋いたしましたので、簡単に御紹介をさせていただきます。
まず、1ページ目の上段でございますけれども、推進計画の第1章、創造分野におきまして、「大学等における知的財産の創造を推進する」という中に、いわゆる試験・研究の部分、今まで御議論いただいておりますが、これについての記載がございます。「2004年度中に、特許権の効力が及ばないとされる試験・研究についての考え方」をまとめて、少し飛びますが、「方策を研究現場に対して周知する。」ということでございます。この試験・研究についての考え方につきましては、先日、このワーキンググループでまとめさせていただいておりますが、これにつきましては、既に文部科学省の方にもこの考え方をご説明し、現在、大学等への周知の方策について、文部科学省といろいろ相談しながら検討しているところでございます。できますれば、年内には各大学に周知をしたいと考えております。
次、下段の第3章、活用分野のところに「国際標準化活動を支援する」という項目がございます。この中で「技術標準に必須な特許(必須特許)を有する権利者が当該技術標準に基づく製品を製造等する者に対して権利行使をすることにより技術標準の策定又は普及を阻害することを防止するための方法について」、いろいろ検討するというところでございます。
まず上段につきましては、これは標準策定のプロセス前あるいはプロセスについての内容が書かれております。この点につきましては、経済産業省本省の方で、長岡委員長が座長で、検討グループをつくって検討をしているところでございます。このワーキンググループの関連するところといたしましては、そこのA)の上3行、「技術標準策定後の対応方策として特許法(裁定実施権等)の適用可能性について、以下の検討を進める。」とありまして、B)に、具体的に「特許法(裁定実施権等)の適用可能性については、企業等からの具体的ニーズや国際的な議論の動向を踏まえつつ、2003年度に開始した産業構造審議会における検討を進め、2004年度中に結論を得る。」とされております。
続きまして2ページ目でございますけれども、これは活用の環境整備というところで、これも先日議論いただきましたリサーチツール等の関連でございますが、「汎用性が高いあるいは実質上代替性の低い上流技術(ライフサイエンス分野の遺伝子関連技術、あるいはリサーチツール等)に関する知的財産の円滑な利用を促進するため、特許法(試験・研究の例外規定や裁定実施権等)による対応の可能性」について検討する。これについて、検討は「2003年度に開始したが、2004年度も継続して検討を行う。」とこととされております。この推進計画に基づきまして、引き続き、このワーキンググループで御検討いただければと思います。
御紹介は以上です。

長岡座長

どうもありがとうございました。
引き続きまして、前回のワーキンググループで秋元委員から御紹介がございましたリサーチツールに関する国際会議の様子を御報告いただきたいと思います。
秋元委員、よろしくお願いいたします。

秋元委員

たしか3月3日に、ライフサンエンス分野で、こういうような研究のところでは非常に問題がある、特にリサーチツールの権利行使という問題についてこういうような問題があるということを御説明したかと思います。その際には、結論が出るということじゃなくて、5月2日から4日にサンタバーバラでINTERPATというミーティングがございまして、その際に、リサーチツールという問題が非常に大きな問題として取り上げられている、したがって、その結果を待って、次回に報告させていただくという話をいたしたかと思います。
まず、先ほど南課長の方からお話ありましたけれども、INTERPATの資料はまだ現在ドラフト段階でございまして、6月18日までに各会社のポリシーを聞いて、それでコンセンサスが得られるのであればポジションペーパーとして出すという段階でございますので、これについてはオープンにしていただきたくないと、ただこの場の議論の資料にしていただくのは構わないというような了解を得ております。
INTERPATのメンバーリストがまず資料5でございますけれども、アストラゼネカから始まって、最後、武田になっておりますけれども29社。これは世界のほとんどの研究開発型の医薬品あるいはライフサイエンスメーカーが全部入っております。ごらんになられたら全部入っているかと思います。日本からは三共さん、藤沢さんも入っておりますが、武田が一番ずっと初期から入っているというような状況で、ここではリサーチツールの問題だけじゃなくて、いろいろな知的財産の問題について議論すると、国際的なロビー活動もするというような目的を持っております。
リサーチツールの問題に移りますけれども、先ほど申し上げましたように、非公開の配付というのが1枚紙であるかと思います。INTERPATのドラフトポジションペーパーというやつでございますけれども、この議論に至るまでに、実はこれは2日間にわたって討議されまして、各製薬企業とも非常に大きな問題だという認識では一致しております。ただ、持っているところにとってはこれは剣になるから、両刃の剣という話もございますけれども、まず最初のときに、スイスのロッシュ、ノバーティスの共同提案として、リサーチツールについてどう考えるか、イグゼンプションをどう考えるかという提案がございました。その中で、最終的には、これはやはり研究を妨げないようにすべきであるということで、基本的に3つぐらいのことを述べております。
要するに解決する方法として1つは、リーチスルーの特許はだめだよというのがまずございます。もう1つは、ここの中で、リサーチツールについてはノーインジャンクションであるべきだということを言っております。もう1つは、リサーチツールはもし何か侵害した場合、単なる損害賠償だけにすべきだという提案がまず出されました。これはスイスグループから提案されたわけです。しかしながら逆に言えば、リサーチツールはライセンスする権利、ロイヤリティーをもらう権利はあるよということも当然言っております。
そういうことで、この最初の提案に基づきまして、実は第1回目のドラフトというのが、お配りしてないんですが、ございます。そこの中には、そういう今言ったようなノーインジャンクションのような方向も含めて実は提案をされております。さらに、リサーチ目的でリミテッドなコンセプトを提供するために特許を改正する、インプリメンテーションすることについては、幾つかの国がそういうことを行いつつある。例えばフランス、ドイツ、イギリス等もそういうことを考えている、実際動きはないけど、そういうことを考えていると。これに対して、INTERPATメンバーはあえて反対はしないよと。リミテッドなことについて、リサーチ目的でやることについてはある程度認めようかと、反対はしないよというのが、実は1次のドラフトに入っておりました。
それで、2日間目に議論しまして、最後にでき上がったのがこの3番目のドラフトですが、これはあくまでもアメリカ向けにというか、結局アメリカを含めないとコンセンサスができない、ポジションペーパーが出せないということでこの3番目のドラフトができたわけです。このドラフトの中でAというところは、要するにサイエンスとか産業とかそういうものに、やっぱりこのリサーチツールというのが非常にそれらの発展を助けているんだよと。それで、第2パラグラフのところに、リサーチツールについては広くライセンスされるべきであると、リサーチコミュニティーにライセンスされるべきであると。かつ、やっぱりそれはノンイクスクルーシブであって、ノンディスクリミナトリーでなけりゃいかんということを言っております。
その同じパラグラフの最後の方には、ノン・コマーシャルユース、アカデミックリサーチについてはフリー、あるいは非常に安いロイヤリティーでやるべきであろうということも一応提言しております。ただ、この場合に、私がちょっと何人かに聞きましたが、ノンコマーシャルリサーチというのが、例えば日本の大学の現在の体制に当てはまるかどうか、独法化後の大学に当てはまるかどうか、これについては非常に黒いグレーだと。要するに、純粋にこれは利益に関係のないような基本的なアカデミックユースというふうに考えるべきであろうということを言っておりました。しかしながら、広くライセンスアウトすべきであると。この精神には変わりないというふうに言っております。
2番目のところで、リーチスルーはだめだという話は、これは当然ハウジーのケースや何かでございまして、日本ではそういうことは判例もありませんけれども、要するにリサーチツールを使ってできた製品、これにまでは及びませんよということをBで言っております。
Cは、要するにリサーチイグゼンプション、ただでやると。リサーチイグゼンプションというものは非常に限られた範囲で考えるべきであると言っています。
最後は、これはアメリカが認めるかどうかまだわかりませんけれども、DNAのシークエンス、遺伝子についてはディスクローズドファンクションがないとだめだと。要するに、はっきり開示されたファンクション、機能というものが認められなきゃだめだというようなことで、一応サンタバーバラに出席している間で、こういう第1次のドラフトをつくったという段階でございます。
これについて今後どうするかとポジションペーパーが出せるのか出せないのかということについては、まだ現在わかりません。私が得ている情報では、29社のうち16~17社、半分ぐらいは既に回答が来ておるけれども、そのうちの2~3社については反対の意見が強い会社もあるということで、全体としてコンセンサスが得られるかどうかということはわかりませんが、流れとしてヨーロッパ、日本も、私どももいつも言っておりますが、やはりリサーチツールについては何らかの制限というか新しい考え方を導入すべきではないかなということで、きょうはちょっと時間がございませんが、事務局の方にお渡ししておりますが、いわゆるライフサイエンスを代弁いたしまして、新しい93条の裁定というようなもの、基本的にはノーインジャンクションで、リーズナブルなロイヤリティーで、ノンイクスクルーシブに、ノンディスクリミナトリーに出せるというような方向を、TRIPS協定の30条あるいは31条を何らかの解釈の根拠として考えるべきではないかというふうに思っております。
あとちょっと付言しますと、完全なコンパルソリーライセンシングというものについては、「コンパルソリーライセンシング」という言葉が出てきた途端、ブーイングですべて議論は進ません。それから、パテントプールという問題についても、これは議論に上がりませんでした。要するに民のものであって、法律上の規制の問題ではないですから、これも上がっておりません。
以上がサンタバーバラの状況でございます。

長岡座長

どうもありがとうございました。
ただいまの御報告につきまして御質問等がございましたら、よろしくお願いいたします。
相澤委員、お願いします。

相澤委員

特許法を改正するというような意見がアメリカ合衆国の製薬業界にあるんでしょうか。

秋元委員

ございません。ただし、アメリカの製薬業界同士でお互いに問題が起こっているというのは、前にちょっと言ったかもしれませんが、例えばこのポジションペーパーに反対しているところは、リサーチツールは持っているけど製品を持っておらず、そのリサーチツールを武器にどっかから製品をもらいたいというような動きをしているというところがありまして、この会社は、現在、こういうポジションペーパーにはかなり強く反対しております。

長岡座長

ほかにいかがでしょうか。
ちょっと私から恐縮ですけど、リサーチツールのセカンドセンテンスで答えについて「injunction should not be granted」と書いてあるんですけれども、法的な規制ではなくて、裁判所に侵害の訴訟があったときに、インジャンクションを裁判所は認めるべきではないとの意味ですか。

秋元委員

アメリカはそうですね。ハウジーのケースは裁判所で決めております。裁判所で決めるのか、特許法上決めるのか、これについては、先ほど言いましたように、精神としてリミテッドな範囲内でインプリメンテーションすることについては、INTERPATは反対しないということを内々言っておりますから、これはいずれでやってもいいのではないかというふうに思います。

長岡座長

いかがでしょうか。
どうぞ、相澤先生。

相澤委員

現行法の権利制限に関する規定の条約適合性については、検討がなされたんでしょうか。

秋元委員

しておりません。先ほど言いましたように、TRIPS協定等についてどういう解釈をして、どういうふうにやるかということについては、INTERPATでは一切議論しておりません。

長岡座長

いかがでしょうか。
では、次の御報告を聞いた後で、また御質問に戻っていただいても結構だと思いますので、問題について、分野は違いますが、これと非常に関連します三菱電機の加藤次長にプレゼンテーションをお願いいたします。

加藤氏

御紹介いただきました三菱電機の加藤でございます。私、誤解しまして、大きなOHPがあって、それでやるのかなというふうに思ってこういう形にまとめてしまったんですけれども、そういうことを頭に中に想定していただいてごらんいただければと思います。
三菱電機の立場としては、弊社の社長である野間口が、知的財産戦略本部等の会議で産業界の立場から、この点、技術標準等知的財産権のあり方の問題についても意見を申し上げたとおりでございまして、そういう意味で弊社がこのプレゼンテーションの指名を受けたというふうに理解しております。秋元さんの方から、医薬品等に関する強制実施権の可能性とか言及されましたけれども、私どもの会社はごらんのとおり情報通信分野でございますので、そういった違う事業領域からも、この点について必要性があるのではないかというポジションで御説明申し上げたいと思います。
なお、内容的には、一昨年の12月4日に特許庁との間では、JEITAの特許委員会として非公式な形で意見交換会を持たせていただいておりまして、そのときの内容とほぼ同じというふうに考えていただければよろしいかと思います。とりわけ庁の方々にはでございます。
2ページ目、「はじめに」というところで、最初に、ごく簡単に裁定実施権の意義について、最近は少し見方を変えるべきではないかということで触れさせていただいております。御存じのとおり、パリ条約5条に規定があるわけですけれども、もう100年以上も前のものでございまして、排他的権利の行使から生ずる弊害防止という点から強制実施権は一応認められているものと思われます。ただ、現代的意義という点で見てみますと、そういった側面よりも、技術標準で言えば、キーワードで言いますと、累積的技術革新の促進という面から、一定の何らかの歯どめなり制約的な規定、制度があってしかるべきではないかというふうに考えております。そこにいわば裁定実施権の意義があるのではないかというふうに私どもは考えております。
そこで、具体的に情報通信分野における技術標準はどんな問題を抱えているかという点を、もう皆様御存じかとは思いますけれども、ごく簡単に整理させていただきますと、第1点が、特許の重畳化といいますか、我々は積み上げロイヤリティーの問題と呼んでおります。すなわち、必須特許を持っている権利者というのは、情報通信の技術標準になりますと10社から100社なんていうのはざらでございます。したがいまして、1社当たりが0.何%とか1%とか安いことを言ったとしても、積み上げますと事業不可能な料率になってしまうというのが積み上げロイヤリティーの問題でございます。
2点目は、技術標準については、いわゆる特許宣言というのを行います。そこでRANDという形で、リーズナブル・アンド・ノンディスクリミナトリーで許諾しますよという宣言はされますが、実はこのRANDの言葉が、おわかりのとおり「リーズナブル」としか書いてないわけでして、一体どの程度のことをリーズナブルと言うべきなのか、これは全く不明確でございます。
3点目は、1点目と2点目の問題を増長している要因なのでございますけれども、技術標準というのは、広まり出すとさらにワッと増殖的に広がるという、そういう性質を持っているということから、さらに問題が大きくなるという、それがとりわけ情報通信分野における技術標準の問題でございます。
そこで3ページ目に、現状、何か対策が打たれているか、だとしても、何か問題はないのかということでございます。1点目はパテントプールです。情報通信分野では、最近はMPEGの成功例が示しますように非常にメリットが広く理解されてきてはおりますが、残念なから構造的問題として参加の任意性、つまりパテントプールに参加するか否かというのは強制力を持っておりませんので、どうしてもいわゆるアウトサイダー、パテントプールの外にいて、いわば高目のロイヤリティーを請求する企業がどうしても出てきてしまうということでございます。
NAP条項と書いてございますけれども、これは最近、公正取引委員会がマイクロソフトに対してメスを入れましたNAP、いわゆるノン アサーション プロビジョンを指します。マイクロソフトのOS契約を結ぶものは特許権を行使しないという約束事があったわけなんですけれども、これがやはり独禁法違反の疑いがあるということで調査が入りまして、マイクロソフトはこれをとりやめると公表しております。こういったことはソフトウェアについても、いわば技術標準と同じような問題がさらに広がるおそれがあるのではないかというのを、懸念という面で持っております。
2点目に、技術標準の問題について独禁法アプローチをしたらどうかということでございますけれども、私自身はエッセンシャル・ファシリティー理論という、標準に必要な必須特許を取引拒絶することは、不可欠施設のような不当な支配に当たるから問題が多いというアプローチを指しますが、この理論については、公正取引委員会が出している改正案から早々と取り下げられているというふうに理解しております。したがって、非常に難しさがある問題であるという点でございます。
3点目の強制実施権の認識変化ということは、皆さん御存じのとおり、エイズ事件あるいは米国の炭そ菌事件、あるいはドーハ宣言に見られるように、最近は余りタブー視というところまではいかなくて、むしろどういう条件ならば許されるべきだという方向に流れが少し向いているのではないかというふうに考えられます。
そこで4ページ目でございますけれども、裁定実施権を技術標準について適用したらどうかということで、少し前提となる条件がやはり必要だろうということで、そこに挙げさせていただいております。1点目は、単に裁定実施権を技術標準に対して適用すれば足りるということではなくて、状況に応じて、ある場合には独禁法的アプローチの方が適切であるような場面もあるのではないかということです。つまり、多角的アプローチの一つの選択肢として用意していただけるとありがたいと考えます。
2点目は、RAND条件の具体的判断ということで、実際に技術標準に関する必須取引を拒絶する人はまずいないんですけれども、問題は、RANDという言葉の傘のもとに実質的拒絶と言えるようなもの、あるいは商業的にはとてもじゃないけどそんなロイヤリティーではやっていけないというような、そういったところが本当の問題ではないかと思います。そこに、裁定実施権のある意味での行政的強制力で押さえ込みを期待したいということになるのではないかと思います。当然のことながら、TRIPS協定の範囲内でないといけないというのはもちろんのことでございます。私の理解によれば、TRIPS協定31条等は、いわゆるグラウンドアプローチ、理由がだめだということではなくて、ある条件が与えられているという理解でございますので、TRIPS協定を守った上で、技術標準に対して裁定実施権を適用することは可能ではないかというふうに思われます。
それから、技術標準といえども、何でもかんでも適用してくれという意味ではございません。広く利用されるという、そういった限定的適用になるのではないかということを申し上げたいと思います。「広く利用される」というややあいまいな言葉で恐縮なんですけれども、いろいろなケースが考えられますが、93条対応で想定してみますと、社会的インフラを構成するに近いような技術については、やはり適用があってしかるべきではないかというふうに考えております。
次のページに、裁定実施権適用の提案ということで、既に述べております特許法1条の目的に対して、一定の裁定実施権の適用があってしかるべきであるというベースの考え方に立って、そこに3つのポイントを提案として書かせていただきました。1点目は、広く利用される技術標準について、裁定実施権の対象となることを明確化してほしい。例えば条文改正、JEITAのときには93条の2という形で提案させていただきましたけれども、条文改正もしくは、これはボトムラインということですけれども、現在、運用要領をお持ちのはずでございます、そこにもヒントとなる言葉がございまして、国民生活の実質的弊害があるような場合については適用できるというところですから、そこから敷衍すれば、可能性としてゼロではないと私どもは思っております。
2点目は、既に述べておりますとおり、競争政策、独禁法との関係でやはり調整のようなものは必要ではないかと思います。JEITAのときには、裁定に当たっては公正取引委員会の意見を聞くことができるというような形で提案させていただきました。
3点目は、パテントプールとの関係を考慮するという、少しあいまいな提案になっております。幾つかの団体から、例えば標準化団体が裁定の利用を求めることができるようにしてほしいとかいうような案も出ているように伺っております。とりわけ情報通信分野では、パテントプールとの関係というのはやはり考慮せざるを得ないのではないかと思います。そういった点から、少しあいまいな言い方でまことに申しわけないんですけれども、パテントプールとの関係で裁定も見据えてほしいということでございます。
次の6ページ目、本案については消極論があるのも私どもとしては承知しておりますが、消極論は何かというと2つございまして、1点目が、日本のみ適用しても意味がないんじゃないかということでございます。当然のことながら、広く利用される技術標準はいわゆる国際規格でございますので、世界に通用するような国際規格が多分対象になるのだろうと思われます。ですから、日本だけ例えば裁定実施権を適用したところで、世界の一部の範囲でしか裁定の効果がきかないというのは片手落ちではないかという、そういう批判でございます。ごもっともではございますけれども、まず一つ重要なことは、国際規格といえども各国内規格に置きかえられます。国際規格というのは各国内規格の集合体のような形になります。したがって、国内規格に対してRAND宣言されているものに対して、裁定というのはきくはずでございます。それによって、いわば世界の中でのリーディングケースの形成効果を期待したいというふうに考えておるところでございます。
2点目は、開発途上国を利することになるのではないかという懸念です。つまり、先進国が先頭を切って強制実施権、裁定実施権を適用するということは、当然のことながら、エイズの例を見ればわかりますとおり、開発途上国にとってはメリットといいますか、しめたという考え方をとるのではないかという危惧でございます。これはそのとおりなのでございますけれども、ほっておいても開発途上国側というのは、何らかのこういった技術標準に対する措置をとってきているように私どもは見ております。例えば、決して中国は開発途上国ではございませんけれども、中国なんかにおいては、広く利用される技術規格に対して、いわば独自の国内規格化によって一定の制限は、自国に有利な方へ導いているという動きは既に始まっております。だから、簡単に言いますと、ほっておいてもやる国はやるのでして、先進国だ、開発途上国だという問題でなくて、理念上、必要ならばやっていただきたいということでございます。
結論的には、7ページ目でございます、広く利用される技術標準について裁定実施権を適用できることを明確化してほしい。これによって、いわばプロパテントの時代ではございますけれども、文字どおり適正なプロパテントというものを産業界としては期待しているということでございます。
若干わかりやすくするために、4つのケースを簡単につけさせていただきました。まず、産業界としてこれならば仕方がないなという商業的、合理的料率というものを5%というふうに仮に考えた場合、どういうアプローチがあり得るかということを申し上げたいと思います。ケース1は、単独の特許権者甲が必須特許を10件ほど持っていて、8%と言っているとします。8%が高い安いは別として、8%では商売できませんという状況で、これを独禁法アプローチをすると、実質的許諾はしないということから、いかんというアプローチをとるのか、あるいは特許法のアプローチ、つまり裁定実施権で8%ではなくて適切なロイヤリティーにしなさいというアプローチをとるのか、これはいずれもとれるのではないかというふうに思います。
次のページ、ケース2でございます。これは既に論文等で出されている、例えば尾崎弁護士等の意見なのでございますけれども、プールというものが非常に多くの権利者によって世の中からも支持されているとします。仮に2%といたしましょうか。特許は10件ございます。そういった場合、1特許当たりのレートで言いますと0.2%という状況があったといたします。そこにアウトサイダーが、特許1件で1.5%私にくれという状況が出た場合、これは1特許当たりで言いますと1.5%ということになりますから、むしろ独禁法アプローチで権利の濫用ではないかということが言えるのではないかという意見がございます。それがケース2でございます。
ケース3が、恐らくこれが最もlikelyといいますか、ありそうなケースではないかと思われるんですけれども、プールもしくはプールまで構成されていなくても、業界の了解事項として、合わせてせいぜい2%程度だよねという、そういう状況があった場合に、アウトサイダーが特許を同じように10件ほど持っていたとして、アウトサイダーは自由ですから5%要求してきたというような状況を考えてみますと、1特許当たりで見ますと0.2%とか0.5%ですので、独禁法アプローチはちょっと難しいのではないか。まさにこういう状況下では、どうしても裁定実施権というようなものがないと、アウトサイダーの高い料率というのは抑え切れないのではないかということをケース3は示しております。
次のケース4は、これは余り多くはないと思うんですけれども、最近、情報通信の分野では、同じ技術標準についてプールが乱立することがあり得ます。例えばこれは、そのものを言っておりませんけれども、DVDですと6Cとか3Cとかいう言葉をお聞きになったことがあろうかと思いますけれども、1つの技術標準を使うのに、幾つかのプールからそれぞれライセンスを得ないとできない場合があります。6Cで言いますと4%、3Cで言いますと3.5%、DVDプレイヤーですので、この場合でもこれだけの7.5%になっている。世の中は何とかDVDプレイヤーが出ておりますので、問題ないじゃないかと言えばそれまでなんですけど、やはりこういった状況というのは今後起き得るので、プールそのものに対して、4%とか5%とか単独でいっても、それが幾つかあったら、足したら、総和はとても商業ベースに乗らないというような状況はあり得ると思われます。そういった面から、情報通信分野においてはとりわけ裁定実施権を適用していただきたいという要望は強いものと考えておるところでございます。
私からの発表は以上でございます。

長岡座長

どうもありがとうございました。
今の御説明に、何か御質問とか御意見とかございますでしょうか。
相澤委員、お願いします。

相澤委員

アメリカの電子産業界も同じように裁定実施権を特許法に盛り込むということを主張されているのでしょうか。

加藤氏

私の知る限りにおいては、アメリカの産業界そのものが裁定実施権というようなものを強く主張しているというところはないように理解しております。
どうぞ、秋元委員。

秋元委員

同じ似たような悩みを持っているというのはよくわかりますし、裁定実施権を広く使うんじゃなくて、何らかの制限された形で導入していただきたいというのは私どもも考えておりますけれども、この場合の今のケース1から4の中のお話ですと、私どもと非常に違うところは、すべての特許を同じ価値というか、仮想的に同じロイヤリティーだと考えているかと思うんですが、私どもの場合には、特許そのものが例えば物質であるとかリサーチツールの場合でも、それが非常に必須なもの、例えば制限酵素的なものであるとか、そういうところによって価値が非常に違うかと思うんですが、この場合は、例えば裁定を求めるとしても、特許の価値というのは、単なるロイヤリティーじゃなくて、価値に基づいてロイヤリティーが決まると思うんですが、その辺についてはどうお考えでしょうか。

加藤氏

情報通信分野における技術標準に対して必須特許の価値というのは、パテントプールのケースを見てもわかるのですけれども、価値に重い軽いをつけません。つまり、技術標準を使う以上、非常に広いクレームあるいはごく一部の技術標準を占める部分であっても、同価値という考え方がむしろ情報通信の業界の中では理解されてきております。
したがいまして、秋元さんのような業界ですと、上流発明と下流発明というような考え方で、物質発明側は多分価値が高いんだろうなという考え方をとられるかと思うんですけれども、情報通信分野というのは、比較的必須特許の価値というのは重い軽いを判断しなくて、考えなくて基本的にはいいというところで、比較的業界の理解は進んできているのではないかと思います。つまり、技術標準を使う以上必要になるものというのは同価値で見ましょうということでございます。だからこそパテントプールというものができるわけでございます。つまり、パテントプールでロイヤリティーの配分というのは、あくまでも特許の数で決めていくというのがベースに、違い自身があるのはみんな理解しているんですけれども、それをファクターにしないでやっていこうという了解が得られてきているものと考えております。

長岡座長

この後、裁定実施の各国の状況も御説明がありますので、それを踏まえて議論をしてはいかがかと思いますので、今は質問の方でお願いします。
済みません、私から1つ、恐縮ですけど、最初の方にRAND条件が不明確だという指摘がありましたが、仮に政府が介入すべきだとしてもRAND条件が不明確なままで本当に特許庁が介入することができるのかどうかという疑問があります。

加藤氏

私の理解によれば、本来的には、やはり標準化団体がRANDというのを、基準というものを示すべきなんだろうなというふうに私自身も思っておりますが、現実問題として、標準化団体はそこに踏み込むことについて非常に逃げ腰といいますか、やりたくないというのが現実ではないかと思います。仮にそこを変えるとなると、大変な労力と時間がかかってしまうのではないかというふうに思われます。
したがって、ベストではないですけれども、むしろ裁定の見地から、やはりリーズナブルというのは業界あるいは製品の性格等も考慮して、このくらいであるべきだというところから決定していただくしかないのではないかというふうに思っております。

長岡座長

どうもありがとうございました。
また、事務局から緒外国の裁定制度について御報告をいただきまして、その後、今までの御発表も含めて御意見をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

南技術調査課長

それでは、以前事務局の方に宿題をいただきました諸外国の裁定制度についての調査結果を御報告させていただきたいと思います。
なお、前々回宿題をいただきましたアジア諸国については、現在調査中でございますので、次回御紹介ということで、本日は欧米の制度について御紹介させていただきたいと思います。
それでは、まず資料7-1でございますけれども、アメリカにおける裁定というよりは強制実施権制度の概要ということでございます。まず、強制実施に関する規定については、一般的な規定は米国にはありませんが、連邦政府による強制実施権に関する規定がございます。それからまた、個別法におきまして、強制実施権に関する規定が設けられているということでございます。個別法に規定された場合を除きまして、行政府が実施権を第三者に付与することはできないとされております。
まず、連邦政府、政府使用に関する規定でございますけれども、連邦政府に対して、特許権者等の許諾を得ることなく特許発明を実施する権利が与えられるという規定がございます。ただ、その際は、十分な補償を請求する訴訟提起する権利が特許権者には与えられますし、使用差し止め請求権は認められてはおりません。
あと、関連する権利として介入権、マーチン・イン・ライトとよく言われていますが、国の予算、国費を原資として得られた特許権については、連邦政府は、第三者または連邦政府にライセンスを許諾するように求めることができるというような規定がございます。そのケースとしては、特許発明を特許権者が実用化するための効果的な措置をとっていないようなケースとか、公衆衛生または公共の安全上の問題が生じた場合、公共の使用に関する規則によってその特許権の使用が求められた場合、こういったものが規定されております。
それから、個別法において強制実施権の規定が盛り込まれているものは以下の5つの法律がございまして、原子力エネルギー法、大気汚染防止法、植物新品種保護法、半導体集積回路保護法、続きましてテネシー峡谷開発公社法、この5つの法律がございます。
実際にこの強制実施権を発動した事例ということでございますが、今御紹介した個別法に基づいて強制実施権が設定されたケースはございませんでした。
なお、政府使用のための強制実施権、これは結構ございまして、一番多いのは国防に関連した特許権の強制使用、あと、廃鉱の埋め立てとか公道の建設などで、基本的には、連邦政府によって行われるいかなる使用にも適用可能ということとされているようでございます。
あと、関連しまして、裁判所による差し止め請求の制限の事例というのがございまして、特許侵害訴訟の判決におきまして、公衆衛生上利益を損なうような場合や国民の安全や環境にかかわる場合においては、特許権者は差し止め請求を認めない、棄却するというようなケースがあるようでございます。
1つ目の事例としましては、これは下水道処理技術に関する特許でございますけれども、これは侵害と認定されたわけですが、それを差し止めると50万人以上の国民の健康と生命にかかわるので、差し止め請求は退けたというようなケースでございます。
それから、次の事例はビタミンD強化マーガリンのケースですが、これは侵害ではなかったのですが、その判決中で差し止めによって公衆衛生上の利益が損なわれるような場合には、差し止め請求権は否定されるべきというような内容が判示されております。
続きまして3ページ目でございますが、これについてはバルーン拡張カテーテル、医療器具でございますけれども、これについてやはり侵害が認定されたわけですが、既にその器具について一部の医師が使っているということで、一定期間差し止めを認めなかったというようなケースがございました。
なお、これに関する法改正の動きでございますけれども、過去第106議会、第107議会において、いずれも公衆衛生に関する特許発明について、厚生省の長官に強制実施権の付与を認めるような改正法案というのが出されておりますが、いずれも成立をしていないという状況でございます。
続きまして、欧州共同体(EU)における強制実施権の概要、資料7-2でございます。まず、EPCにおきましては、強制実施権の規定はございません。一方、まだ発効しておりませんけれども、共同体特許条約(CPC)には強制実施権に関する規定がございます。45条、46条、47条ということで、一般的な強制実施権の規定が45条、あと不実施の場合の規定が46条、利用関係についての強制実施権の規定が47条にそれぞれ規定されております。
それから、この条約に基づく共同体特許規則案というものも置かれておりますけれども、この中では、公共の利益に係る強制実施権というような一般的な規定の仕方ではなくて、具体的な事例を限定列挙して規定しているというものでございます。これにつきましては、この資料の4ページ目に、参考として共同体規則案というのをつけております。この21条に限定列挙されております。
それから、1ページ目に戻っていただきまして、条約ではありませんが1998年に出されましたいわゆるバイオ指令におきまして、この中で特許権と植物品種権との間の権利調整といいますか、それで強制実施権を申請することができるというような内容が指令の中に盛り込まれております。ただし、その場合には、2ページの一番上の点にありますが、この強制実施権が与えられた場合には、特許権者はその保護品種を使用するために、合理的な条件で交互実施権を受ける権利があるということが規定されております。
時間の関係で2の手続のところは省略させていただき、これまでの事例については、CPC未発効ということで、具体的にこの条約に基づく事例というのはございませんが、1980年代後半以降、欧州裁判所におきましては、意匠権や著作権についてライセンス拒絶を行うような行為について、優越的な地位の濫用を禁止するEC条約の82条というのがございますが、これに当たるかどうかということで争われたケースがございます。著作権に関しては、マギル(Magill)事件において、優越的な地位の濫用に当たるとして差し止めが否定されております。
それから3点目で、法改正の動きでございますけれども、欧州におきましては、強制実施権を認める法的な枠組みの発展には2つの流れがあるというふうに考えることができるかと思います。まず、1でございますけれども、これは公共の利益という一般的な規定ぶれにかえて、より具体的に、より明確に列挙していくというような動きでございます。それから、②につきましては、エッセンシャル・ファシリティー理論等を適用した判決がありますが、反競争的な行為に対して強制実施を認めようとする動き、こういった動きが見られるところでございます。これがEUの状況でございます。
続きまして、ドイツでございます。資料7-3です。ドイツでは、ドイツ特許法24条に強制実施権に係る規定が置かれております。強制実施権につきましては、連邦特許裁判所が強制実施権を付与するとされておりまして、そのケースといたしましては、1にありますが、特許権者が同意を得るべく努力をしたけれども、同意を得ることができなかったこととともに、公共の利益の観点が必要とされております。さらに、その下にあります1、2、3のケースにつきましては、それぞれに書かれている条件といいますか、規定に従うというようなことになっております。例えば利用関係の場合には、TRIPS協定では第2の特許と規定されておりますが、これについては相当の商業的重要性を有する重要な技術の進歩を含まなければならない等々規定されております。
手続は省略させていただきまして、過去の事例が2ページ目の3.にございます。1961年に特許裁判所が設立されて以降、申請が12件ございました。そのうち強制実施権が付与されたケースというのが1件ございます。ただし、この1件は、下に紹介しておりますが、後に連邦最高裁判所で取り消されております。このポリフェロン事件というのは、インターフェロンを利用した特許発明についてでございますけれども、これについては最終的に最高裁判所で強制実施権が認められなかったわけですが、その理由といたしましては、その枠囲いの一番下にありますが、ほかのほぼ同等の代替製品により公共の福祉が満たされる場合には、医薬品に関する強制実施権は認められないと考えられる一方、判決が下されるまでの間に同様の技術について承認が下りて輸入可能になったために代替する製品があるので強制実施権は認められないと、公共の利益が存在するとは認められないということで、認められなくなったというケースでございます。
ドイツにおける法改正の動きでございますけれども、現在、特許法改正案が上程をされております。その中には、この強制実施権を規定しております24条の改正も含まれておりまして、その内容につきましては、まず利用関係について、先ほど御紹介したところでは公共の利益の観点というのがかぶっていたわけですが、この要件を削除するという内容でございます。
あと、利用関係の裁定実施権については、育種家、いわゆる種苗との関係の調整ができるようにするという規定が盛り込まれるような改正内容になっております。
続きまして資料7-4、これはイギリスでございます。イギリスにおきましても、英国特許法におきまして強制実施権に係る規定が置かれております。(2)にありますが、WTOの特許権者の特許の場合ということですが、以下のいずれかに該当しなければならないということで要件が書かれております。まず最初に、国内の需要が満たされていないような場合、2が、特許権者がライセンスを拒絶した場合、3が、特許権者の課した条件が不当な場合、このいずれかの要件を満たさなければならないということでございます。それ以外に、半導体技術に関する規定とか利用関係に関する規定というのも置かれております。
飛びまして、2ページの下の方、3.の過去の事例でございます。この現行制度は1999年に改正されましたが、それ以降、強制実施権の事例はございません。ただ、旧法下で申請がなされて拒絶されたケースというのがございまして、この場合は、公益のためということで争ったわけですが、結論的には、自己の関連会社のためであって、公益のために申請したということが証明できなかったということで認められなかったということでございます。
それから4.のところ、イギリスでは、法改正の予定は今のところないということでございます。
5.のところで、それ以外に、これは競争法の関連について簡単に触れておりますけれども、独占・合併委員会の報告、いわゆる日本でいう公取ですが、この委員会が国会に対して、以下にあるような事例が起きているというレポートを提出して、そのレポート先の宛先となっている国務大臣は、下記の措置をとることを特許庁長官に請求することができるというような内容になっています。具体的には、①にありますが、独占に関する付託に基づいて独占状況が存在して、委員会が認定した事実が公益に反するものであり、また、反するものとなることが予期されるというような趣旨の結論、こういったレポートが公取から出された場合、そのレポートの宛先である大臣は、特許庁長官に裁定の請求をすることができるというような規定になっております。
そういった請求がなされたときに、下にありますが、特許庁長官は、その報告中に指摘された事項が以下に該当するという場合には、その条件の取り消し、修正を行うことができるということで、これは具体的には、ライセンスの条件等の取り消しや修正を行うことができるという規定になっております。
あと、(2)ですが、国王の諸般の国務行為のために行う特許発明の実施の規定というのがありまして、政府機関等は、国王の諸般の国務行為のために特許発明の実施を特許権者の同意なく行うことができるというような規定がございます。その場合、関連する政府機関は特許権者に対して相当の損失を補償しなければならないという規定もあわせて置かれております。これがイギリスの状況でございます。
最後に、フランスでございますけれども、資料7-5でございます。フランスの知的財産権法では、司法機関による強制実施権と行政機関の職権による実施権の付与がそれぞれ規定されております。まず、司法機関による強制実施権の付与としては、ケースは不実施の場合と利用関係、半導体のケース、これは司法機関によって強制実施権の付与が行われるという規定になっております。
他方、行政機関による裁定実施権の規定でございますが、これは公衆衛生上必要な場合ということで、具体的には、公衆が医薬を量的もしくは質的に不十分にしか入手できないような場合とか、異常に高い価格でしか入手できないような場合、これは公衆衛生担当大臣の要求に基づいて、工業所有権担当大臣が命令して職権によって実施許諾権を付与するというような内容でございます。
それ以外に、経済上必要な場合ということで、国家経済の必要を満足させるためにというような内容のもの、それから国防上必要なケース、こういったものが規定をされています。
手続は省略させていただきまして、具体的に付与された事例でございます。3ページの3.にありますが、まず、司法機関によって認められたケースというのは、これまで申請9件ありまして、6件が認められております。ここは不実施のケースです。不実施のケースとして、9件中6件が認められております。これらのケースの4件では、旧法が適用されましたが、旧法下では輸入は実施と認められなかったため、フランス国内で実施していないと判断され、強制実施権が認められたということです。
あと、逆に認められなかったケースとしては、真剣かつ効果的に発明を実施する立場にあることが証明できなかったこと、つまり、強制実施権を与えてもきちっとそれを実施するということが証明できなかったというようなケースでございます。
次のページの利用関係につきましては、申請が1件ありましたが、認められていないということです。このケースにおきましては、枠の中の下にありますが、先行する特許と比較して相当な技術的進歩と経済的利点を有していることが十分立証されなかったということで、強制実施権は認められなかったということです。
あと、行政機関による裁定の事例はございませんでした。
それから、法改正の動きでございますけれども、現在、クローン技術に関する生命倫理法の改正案というのが議会に提出されて審議中でございます。その中で、公衆衛生上必要な場合の裁定実施権の対象を体外で行う診断方法等にも拡大するというような内容がその中にも含まれているということでございますが、この法案自体が非常に微妙な法案で、もう既に審議に3年近くかかっておりまして、この結果については、どうなるのかというのは予断を許さない状況ということでございます。
非常に駆け足でございましたけれども、とりあえず諸外国、それぞれ基本的にはTRIPS協定に準拠した強制実施権の規定を持っているわけでございますけれども、適用は非常に限られているケースではないかと思います。以上でございます。

長岡座長

どうもありがとうございました。
ただいまの御説明等に基づきまして、裁定実施等について御意見あるいは御質問等ございましたらよろしくお願いいたします。
どうぞ、相澤委員。

相澤委員

EUにおいては、たしか裁定実施に関連して、イギリス等にあった医薬に関する裁定実施権について、EC条約に違反するという判決がEC裁判所で出ていたような気がしますが。秋元さんの方がよく御存じかもしれませんが。

秋元委員

ちょっとわからないです、申しわけございません。

南技術調査課長

その点確認して、次回にまた御報告させていただきます。

長岡座長

浅見委員、お願いします。

浅見委員

三菱電機の加藤さんのプレゼンテーションにちょっと補足をさせていただきますと、資料の6ページ目のところで、中国における独自規格の話がありますが、光ディスクに関するEVD規格、これはそういう動きがあったんですが、この春に中国が規格化を断念しました。結果としてはワールドワイドの規格を採用することになりました。ただ、それとは別に、デジタルテレビの受信方式における符号化で、一般的にはH264またはMPEG-4を採用するところを、中国でAVSという独自規格をつくろうという動きがあります。例題としては、むしろそちらにした方がここは適切かと思います。
最近、産業界が本当に強制実施権を求めているのかということに私は疑問がありまして、例えばアップルコンピューターがIEEE1394という技術に関して、かなり高い25ドルというライセンス料をふっかけたときも、結局セットメーカーを中心に反対の声を上げて、最後は25セントまで下がって決着しました。最近では、MPEG-4のライセンス方式に余りに無理があることから、産業界はかなり反対し、随分ライセンス料は下がってきている。しかも今回に関しては、デジタルテレビの主張に関しては、H264については、日本の放送業界が中心となってハリウッドと交渉して、「MPEG LA」というライセンス団体からかなり安いものをとることに成功している。これらを考えると、現実には、産業界そのものが動かないと、うまく折り合いがつかないのではという気がします。それと、技術と市場がボーダーレス化している中で、日本だけの実施権というのがあっても、本当にどれだけITという産業界に有効なのかということに関して、疑問があるんですけど、いかがでしょうか。

長岡座長

加藤次長、いかがでしょうか。

加藤氏

確かに御指摘のポイントは、要するにプールが組めたところでは安くなってきたんだろうなということでございます。H264しかり、アップルが関連したIPEG、IEEE1394しかり、結局のところ、プール化の道がかなり開けたという結果として、かなり安く折り合えたということではないかと思います。
一方、我々の理解では、プールに対して必ずアウトサイダーというものがどうしても出てしまうと。そういったところについては、やはり裁定のような行政介入でないと適正な実施料にはなり得ないのではないかということでございます。ですから、裁定を御提案申し上げているのは、広く裁定制度をつくってほしいということではなくて、どうしてもやむを得ないところについては、この道を残しておかないと、結局のところ、安くするバーゲニングパワーも出てこないのではないかという意味で提案申し上げております。ですから、うまくいっている世界が多いから裁定は不要というのではなくて、むしろどうしても残ってしまう分野といいますか、困ってしまう分野があるので、そこには裁定の道を広げておいてほしいという、そういうお願いでございます。

浅見委員

多分そういう意味では、今フォージェントという会社が持っているJPEGの特許、デジタルカメラに使っている特許ですけど、これあたりが多分問題でアウトサイダーとおっしゃっているのかなと思います。ただ、いずれにしても、アウトサイダーのことで問題になるのは、日本ではなく世界市場の方が多い気がします。確かにないよりはあった方がいいですが、やはりこの問題はワールドワイドで議論していかない限り、日本でパズルが解けても、産業界にとっては根本的な解決にならないというのが私の感触です。

長岡座長

どうぞ、相澤委員。

相澤委員

ひとつは、アメリカ合衆国と裁定実施権を制約するという合意をしています。これは国際約束ですから重視しなければいけないと思います。この背景には、従来の利用発明に関する裁定実施権の申し立てによって、日本は内国産業を保護していることが問題だということで、アメリカ合衆国との合意になっていると理解しています。ここでまた裁定実施権を日本だけが言うと、日本は内国産業の保護のためにまた裁定実施権を言い出しているというふうに国際的にとられかねません。それはTRIPS協定あるいはWTO協定全体の趣旨からいっても問題になりますし、発展途上国がこういうことをやろうとしたときに、それが条約違反になるかどうかという問題について、説得力がなくなります。自分のところも内国産業の保護のためにそういう措置をやっておいて、我々が内国産業保護することに何で文句言うのかということになります。日本だけ裁定をとっても輸出はできないので、内国産業保護効果を持つというのは実態的には明らかなので、注意が必要じゃないかなと思います。

長岡座長

どうぞ、秋元委員。

秋元委員

相澤委員が言われたのは、多分利用関係の合意のことだと思うんです、裁定全般じゃなくて、あれはあくまでも利用関係に限定されていると。ただ、私、きょうのお話を聞いて非常に危惧したのは、従来も危惧しているんですが、例えば中国はもう既にライフサイエンスの特許出願では世界第2位になって、ヨーロッパ、日本を追い越していると。そういう状態で中国は、TRIPS協定を遵守する範囲内で相当の経済的効果があれば、商業的効果であっても、利用関係については裁定を認める条項があるかと思います。それと同じように、きょうのお話では、ドイツが公共の目的というのを外してきていますね。これについては、やっぱり非常に脅威になるのではないかというふうに考えますので、この辺については利用関係ということ、先ほど相澤委員が言われましたが、これは約束でございますけれども、日米合意は期限が限定されてないというような非常に大きな問題点もございますので、例えばドイツ、中国がそういう状況になっているということもやはり十分御認識いただかなければいけないというふうに思います。

南技術調査課長

今の秋元委員と相澤委員の御説明について若干補足をさせていただきますと、ドイツについては、今回の改正について背景は完全に承知しているわけではございませんが、少なくともTRIPS協定上、利用関係について公益性は求められていないわけで、あくまでTRIPS協定準拠ではないかと。そもそも日本の利用関係についても公益性は求めていませんので。そういった意味で、積極的に使うという意図のもとにされている改正ではなく、あくまでTRIPS協定準拠の改正ではないかと考えています。
あと、相澤委員の利用関係でございますけれども、三菱電機さんのプレゼンの関連で言えば、必ずしもアウトサイダーの特許が特許法でいう利用関係の特許であるとは限らない、利用関係にある特許もあれば全く関係ない特許もあるのではないかと思います。
もう1つ追加で補足させていただきますと、パテントプールを構成できた場合という御説明があったわけですが、そもそも何でパテントプールが構成できたかということ、それから、先ほどの特許の価値評価を1件1件きちっと行わないで、1件幾らということでプールを構成すると。これは、まさにパテントプールを構成する特許権者が、それでもメリットがあるから、そういう価値評価をしないでも一律低い料率でパテントプールを構成する。具体的には、それでも標準技術でライセンスの手間が省け、なおかつ製品の売り上げによって利益を上げられる。これに対して多くのアウトサイダーについては、製品を持っていないであくまで研究開発型で、特許権自体でもうけていかなきゃいけない。そうなると、当然特許の価値評価をしてもらわないと食っていけないわけですから、当然それはアウトサイダーにならざるを得ないケースです。果たしてそういうケースにおいて裁定実施権というのを、あるいは独禁法を適用することが本当に妥当なのかというのは、よく議論していただきたいと思います。

長岡座長

どうぞ。

相澤委員

利用関係でないとすると公共目的になってしまうので、もっと狭くなってしまうのではないでしょうか。炭そ菌対策とかエイズ薬は公共の目的として認められるかもしれませんが、ビジネス目的について、公共の利益というのはかなり難しいのではないかと思います。

南技術調査課長

先ほどちょっと触れましたように、以前、JEITAの方で案を考えていただいたときには、やはり現行の特許法の83条、92条、93条ではなかなか読めないので、新たな概念の裁定実施権制度を新設してもらえないかというような要望だったと思います。

相澤委員

そのときに条約適合性は検討されたんでしょうか。

加藤氏

JEITAの特許委員会にも私関与しておりましたが、そこについてはJEITAの委員会の中でも、特にTRIPS協定31条の各条件に合うかどうかということについては議論がありました。一応先ほどちらっとだけ御説明申し上げましたけど、グラウンドアプローチではなくてコンディショナルアプローチであるということ。したがって、何とかその条件に適合する範囲で、広く利用される技術標準でも裁定の対象になり得るものという結論を得て、特許庁さんと意見交換会はさせていただいたと理解しています。

長岡座長

ありがとうございました。
この問題、いろんな方面からさらに検討が必要だと思います。結論も急ぐべきではないという意見が多いと思いますので、次回も引き続き裁定制度について御議論させていただきます。

補正制度及び分割出願制度の見直しの方向性について

長岡座長

本日は、もう1つ補正、分割制度の見直しについてという議題もございまして、こちらの方に移りたいと思います。
事務局の方から、最初に御説明をお願いいたします。

高倉調整課長

資料8をお願いいたします。補正制度及び分割制度の見直しの方向性について、時間は25分ほどいただいて御説明をしたいと思います。次回もこの議題についてはさらに深く議論することにしておりますので、きょうは、事務局が用意した紙の説明と若干の質疑応答ということで進めたいと思っております。
まず、目次を飛ばして1ページからでありますが、冒頭に書いておりますのは、補正、分割の問題は、推進計画でも指摘をされた重要な問題でありますというところであります。今回の紙は、今までの議論を踏まえまして全部で6項目に分けておりまして、初めの3項目が補正制度に関するもの、残りの3項目が分割制度に関するものであります。それぞれについて、今までの議論を反映し、その後事務局で調査した結果などを盛り込んで、今後の方向性を審議し決定するに当たってのたたき台としたいという紙であります。
まず、今後の補正制度の見直しの方向性の第1ですが、最初の拒絶理由通知後の補正の制限。これはどういうことかと申しますと、次のページの絵を先に見ていただいた方がわかりやすいかと思うんですが、出願当初の明細書には、内容的にAという事項とBという事項が書いてあったとします。特許請求の範囲にはAというクレームが要求されていた場合なんですが、審査官がAについて調査をし、新規性等がないという拒絶理由通知を打った場合に、出願人が、それではということでBというクレームに補正をしてくると、審査官はまた改めて先行技術調査をやらなければいけないことになります。
それからタイプ2の方、ほぼ同様なんですが、請求項にAとBという2つのクレームがあったとします。37条(単一性)違反ということで通知をすると同時に、審査官はAについて審査をし、それに対して、同じように出願人がBに補正し、クレームを変えてきたケースです。この紙では、単一性の要件を満たさないような他のクレームに書きかえてきて、審査官が改めて先行技術調査を行わなければいけなくなるようなケースをシフト補正と言っておりますが、こういった補正については、制限をしてみた方がいいのではないかというのが一つの考え方であります。
その理由としては、1つは、欧米の特許制度との調和の観点。欧米においてもこうしたシフト補正は禁止されています。2番目として審査の負担。同じ請求料で、Aという調査をし、またBという調査をしなければならない。このことによって生ずる審査の負担。これとほぼ同じことですが、2ページの3番目に書いておりますように、そうした審査負担、かける手間隙が出願人の間において不公平な状況を生み出しているのではないかと。すなわち、初めから特許請求の範囲を的確に絞り込んでクレームをしてきた方とそうでない方、すなわち審査官のアクションに応じてリアクションを変える出願人との間でやや不公正が生じているのではないかと。こういう考え方から、シフト補正については、これを制限してみたらいいのでないかということが今後の検討の方向性であります。
若干定量分析もしておりますので御紹介しておきますと、これはサンプル調査なんですが、タイプ1のようなシフト補正は1年間で2,140件。特許法29条第2項の拒絶理由が約13万件ですから、拒絶理由通知に対して約1.7%、こうしたシフト補正が生じております。それからタイプ2のような場合、37条と同時に29条を打ったのは、4,300件に対して約475件。多少割合が高くて11%ですが、絶対数が小さいので全体を加重平均しますと、2,600件というのは、約13万件に対して2%という割合になっています。この2%という割合は、我々の認識でもそれほど決して多くはないわけですが、今後ふえるのではないかと予測しております。
その根拠として、ちょっと説明がわかりにくいかもしれませんが、この4月から請求料金が非常に上がったことが関係しています。出願をし、請求をするコストが非常に上がりましたので、従来であれば、分割をして新たにクレームBというのをとるというビヘービアをとっていた出願人の方たちも、結構高いなということで、1つの出願の中でシフト補正をするということが今後相当ふえるのではないかというふうに見ております。その結果として、審査負担の増大、出願人間の不公正の問題がさらに顕著化するのではないかと。したがって、むしろ出願人への影響が小さい今のうちにしかるべき制度運用を整えておいて、こうした問題が将来において生じないようにしておくというのが一つのあるべき姿ではないかということであります。
それから、飛びまして4ページですが、1つは代替的なアプローチなんですが、シフト補正を全く禁止してしまうというのもどうなんだと。審査官が手間隙かかるのであれば出願人が余分なお金を払うので、追加料金を払うことによって1つの出願の中で審査を続けてもらえないかと、そういったアプローチもどうなんだろうかという御意見もこのワーキンググループでありましたので、改めて論点を整理しております。
まず、諸外国にこうした追加の手数料を払うことによってシフト補正を、迂回するといいますか、問題を回避する制度をとっているシステムや国があるかという観点で見ましたところ、PCTには確かに単一性を満たしていないときに追加料金というものがあるわけですが、これはあくまでAとBという2つのクレームが単一性を満たしていない場合の話であります。それからヨーロッパでも、PCTと同様なんですが、サーチ段階においてEPOが調査レポートをつくる際に単一性の要件を満たしていないときには、出願人に対して追加の手数料を納付させて調査をつくる場合があります。それは端的に言えば、1個分の請求料しか払っていないのに異なる発明が2つある、だから2つ分払いなさいということであります。
実体審査の段階では、先ほど説明したシフト補正を禁止し、その禁止を回避するためにお金を払うという仕組みはありません。
それから、アメリカにおいては継続審査請求制度、(RCE)というものがあります。これは所定の料金を納付することによって補正を行い、審査を継続するという点において共通した部分もないわけではありませんが、いずれにしても、シフト補正というのは認められていないということであります。
以上のように、欧米にはこうした制度はないということです。他方で、欧米にはないとしても、日本だって国内的な事情によって、いいものは導入したらいいのではないかという考え方は当然あるわけなんですが、そのプラスとマイナスを検討するに、まず、(3)に書いておりますように、マイナス面の影響として、お金さえ払えば特許請求の範囲は自由に変えられるんだということになってしまいますと、第三者から見たときの権利の予見可能性というのが著しく下がってしまうのではないだろうかということであります。
あと、若干事務手続の問題ですが、シフト補正に関する追加手数料の納付制度を導入した場合には、さまざまなそれに関するトラブル、どうして認めないのかとかいった手続等々、かえって新たな手続がふえるのではないかということであります。
こういったこともあって、欧米にはない特異な制度ということもあって、追加料金を払うことによってシフト補正も認めるというやり方については、もう少し慎重に検討した方がいいのかなという点であります。
3番目として、アメリカのCIP、一部継続出願制度のようなものを導入したらどうかという議論もこのシフト補正に関連して出てまいりました。まず、CIPはどういう制度かという点でありますが、これは先の出願の中に新規事項を追加し、新たな出願を行うことができる制度であります。もちろん先の出願に記載されたものについては、先の出願に関する権利の中で扱われるわけですが、新たに出されたCIP出願で記載されたものについては、当然出願日が繰り下がって権利を行使することになります。この点で日本の国内優先権制度と似ているわけでありますけれども、若干の違いもあります。
その違いは7ページの表に示している通りでして、アメリカのCIPの方は、先の出願の継続中いつでもできます。これに対して国内優先の方は、先の出願から1年以内という時間的な制限があります。もっともアメリカのCIPの場合でも、公開制度をアメリカも導入しておりますから、すべての出願が公開されるわけではありませんけれども、先の出願の公開公報が出た後に新規事項を追加しても、その他の部分には既に新規性がないということになってしまいますので、実質上、公開制度のもとでは一定の制限があります。
では、その期間が1年半なのかというと、多少違うわけでして、アメリカの場合はもう少し長いんですね。それを7ページの図で示しておりますが、先の出願があって1年6か月しますと、公開公報が出ます。公開公報が出てしまいますと、新規事項の追加をしても、自らの公開公報によって拒絶されるというのが一般的な考え方ですが、アメリカの場合には、公開公報にもグレースピリオドが認められています。すなわち、自らの学会発表等で自らの出願が拒絶されないという日本のグレースピリオドと違いまして、公開公報によっても自分の出願の新規性が失われることがありません。その期間が1年ありますから、アメリカのCIPは公開制度を適用された出願についても1年6か月プラス1年、合計2年6か月の効果があるということは言えると思います。
翻って、ではこれを日本に導入した場合にどうなるか、あるいは日本の国内優先権の期間を長くするのはどうなんだと、そのことによって日本もCIP的なことができるんじゃないかという議論は、なくはない。政策論としてはあり得るところですが、他方、その効果としては、現在、国内優先権は1年ですが、それが今の日本のグレースピリオドをそのままとすれば、せいぜい1年6か月に延びるだけですから、わずか6か月のためにそこまでの法改正をしますかと。あるいはグレースピリオドの対象も一気に拡大してしまいますかと。その辺の選択肢については、その選択肢がもたらす悪影響も考えて勘案しないといけない問題で、なかなかここも難しい問題であることは間違いないと考えています。
それから、4番目以降は分割の問題ですが、まず分割の時期の緩和。欧米を見ますと、9ページの一番下に書いておりますように、特許許可通知の直後であっても、特許公報が発行されるまでの間も分割していいことになっています。日本の特許制度のもとでは、出願が係属中に限り分割をすることができるわけですが、査定後でも分割することができるようにした方がフロントランナーにとっては有利ではないかという考え方から、こうした考えは根強く産業界からも提案されております。
分割の機会をさらに拡充することによって多面的な保護ができるわけでして、②のところに書いておりますように、出願をし、請求をし、そのときにはこのクレームでいいと思って特許を取得した場合でも。技術開発の状況あるいはマーケットの状況を見てみると、「しまった」、もう少し詳細な説明に書いてあるここのところをこうクレームしておけばよかったという場合があります。こういったケースでも、フロントランナーは特許出願戦略をきちんと立て、技術動向や、標準化の動向を見た上で立派なクレームを書いておくべきじゃないかという考え方もあろうかと思います。他方で、最近の考え方のように、フロントランナーの研究開発のインセンティブをより高めることが我が国の産業競争力強化にとってプラスではないかという考え方からしますと、こうした分割の機会の拡充というのも政策論としてはあり得るのではないかと思われます。要は、フロントランナーに多少有利に傾けるという政策論はあるのではないかというところであります。もちろん、そのことによって第三者の監視負担の問題が生じてくるわけですが、これについて勘案した上でも、プラスではないかという声が根強くあるということであります。
4番目、これもこの戦略ワーキンググループの中で出てきた議論なんですが、もともとの発明がAであったと、それからA′という分割出願を取り出すときに、AとA′が全く一緒。全く一緒というのは極端なケースでしょうけれども、どう見ても実質的に同一ではないかと。もちろん現行制度の下で認められるケースもあるわけですがこういった分割を広範に許していいのではないかと。そのことによって、特許庁の審査官はAとA′が実質同一であるかどうかの審査負担から解放されるわけで、そうしたプラスもあるのではないかという議論がありまして。しかし、そうしますと、先ほどのパテントプールではないんですが、やっぱり数が多ければ多いほどいいというので、AからA´、A“というのをどんどんつくってくるということも考えられますので、そういった弊害もあると。
この辺について、欧米のことも少し調べてみました。まず、11ページにありますように、日米欧で発明の同一性の判断はやや違うのでありまして、12ページの表で見ますと、これは同日に同一の出願人が出した場合の2つの発明の比較のケースですが、完全な同一、文言まで一緒、こういったケースは余りないのかもしれませんが、こうしたケースの場合には、日米欧いずれもダブルパテントは禁止で、いずれか一方のみしか特許を有することができません。当然出願人が異なる場合には、先願の方が特許を取ることができて、後願は排除されます。同日に同一出願人が出した場合についても、いずれか一方しか特許が認められません。
微妙に違うのは実質同一の場合でありまして、そもそも何をもって実質同一と言うかという定義の違いなのかもしれませんが、我が国はいずれか一方のみしか特許になりません。実質的に同一と審査官が判断するような場合には、いずれか一方のみしか特許を与えておりません。ダブルパテントは禁止しております。
アメリカの場合も基本的にはダブルパテント禁止で、いずれか一方のみの特許なんですが、例外的に、同一出願人による場合は、ターミナルディスクレーマーといいまして、最後の特許期間が終わるターミナルの部分を削る、つまり、最初の出願と同じ日にしてしまいますよという宣言を行うことによって、両者とも特許になるという例外的な扱いがあります。
ヨーロッパの場合は、実質同一の定義の違いには注意しないといけませんが、両者ともに特許になります。ヨーロッパの場合には、AとA´の発明の違いが一方から「直接的かつ一義的」に導き出される範囲を超える差があるような場合には、これは認めています。実質同一であっても、両方とも特許を認めています。このように、日米欧の間では同一性の判断の考え方に違いがあります。こういう状況で、果たして日本だけがAからA′という実質同一のクレームを取り出したときに、両方とも認めていいのではないかということを軽々にはまだまだとりにくいなという状況であります。
それから14ページですが、6番目、分割出願について、分割の時期を緩和するとか、場合によっては実質同一の発明の出願も分割を認めるというような施策を仮にとる場合においても、幾つか注意する点があります。こうした点も継続して議論をしていきましょうという点でありますが、①の点は、現在、もとの出願のAというのがあって、そのAという出願に入っていない新規事項を含むような分割出願A′が出てきたときには、分割要件違反ということで出願日を遡及させないという運用を我が国はとっているんですが、国際的に見ますと、欧米はむしろ拒絶通知を出す、あるいは無効理由とするという運用を行っておりますので、こうした点を改めるという考え方も必要かなということであります。
2番目は、分割についての緩和が進んだ場合にさまざまな分割出願がふえてくるわけで、これはこれでフロントランナーを有利にするという政策目的には合致するわけですが、審査負担を少しでも軽減し、全体としての迅速化を図る観点から、出願人にはどこがどう変わったかという一定の説明を求める仕組みを導入したいと考えています。
それから、14ページの③でありますが、これはAという発明からA′という発明を取り出した場合に、審査官が先の分割出願について出した拒絶理由の部分、それが新しいA′という出願においても同じような問題点を含んでいるときには、既にその通知を行ったものとみなすと。新しいA′についても、先のAに対して出した拒絶理由通知を既に出したものとみなすというような合理的な手続がとれないかという問題であります。アメリカにおいては類似の制度があるようであります。
こうした6つの点、それぞれ議論をしていくわけですが、今後の取り扱いについて若干申し上げておきますと、18ページになりますが、国際的な議論が現在進んでおります。特に最近は、日米欧の間でWIPOにおける実体特許法条約についても、まずできるところからステップ・バイ・ステップでやってみようではないかという機運になっておりまして、つい最近までなかなか難しいなという状況であったんですが、もちろん依然として難しいという状況でありますが、日米欧の間では、例えば18ページの真ん中に書いておりますように、先行技術(プライアアート)の定義であるとか、グレースピリオドの問題、新規性、進歩性の問題、こうした点について、まず優先的に議論していこうではないかというところになっております。
いずれにしても、実体特許法条約については決して楽観はできない状況ではありますが、今後、議論が深まりますので、我が国としても分割についてどうするか、補正についてどうするかというスタンスをある程度固めておかないと、国際交渉も難しい局面があります。例えば先行技術の定義について言えば、ダブルパテントをどういう場合に禁止をするか。例えば日本でいう29条の2に当たる場合、日本では出願人同一、発明者同一の場合には、自己衝突を回避しているわけでありますが、ヨーロッパの考え方からいうと、必ずしもそこは、同一人の場合であっても自己衝突を回避する必要はないのではないかと。そのときに、ダブルパテントの考え方がここにおいて関係をしてきます。それから補正についても、どこまで補正を認めるか。現在は新規事項の追加を禁止すればいいのであって、それ以外の補正の制限はなるべく緩やかにしたらいいのではないかという考え方もありますが、他方で、本当に補正については新規事項の追加の禁止だけでいいのかどうか、まだ国際的には決着を見ておりません。
こういう中で、シフト補正の問題をどうするのかというところも、我々の将来あるべきビジョンをある程度イメージした上で国際交渉に臨んでいきたいので、方向性については固めたいと思いますが、では実際に法改正に直ちに着手するかとなると、今後の国際交渉の動向いかんによっては、同一部分を再び法改正ということも、ないとは限りません。そういったところも考慮に入れつつ、今後の方向性及び実行の時期について御意見を伺いたいということであります。
以上でございます。

長岡座長

どうもありがとうございました。
大変よくまとめていただいていると思いました。
本日は時間も少なくなっておりますので、本格的な議論につきましては次回に行おうと思いますけれども、大きな議論の方向性や主要な論点について御意見などがございましたら、よろしくお願いいたします。
どうぞ、丸島委員。

丸島委員

御説明をお伺いしたところ、制約の方には動いていますが、基本的に推進計画で言われている基本特許を取りなさいという、これを取りやすいシステムとしてどこかにあらわれているのでございましょうか。

高倉調整課長

分割の時期の緩和、特許査定後でもできますという点は……

丸島委員

分割の時期の緩和は、基本特許と余り関係ないと私は思うんですね。大学等で最先端の発明を出願するときに、完全に明細書を記載できるというのは不可能だろうと思うんですね。やはりCIP的な要素が基本発明を救う一番大きな要素だろうと思うんです。そういうところについては、前回のときは何か認めようという考えも出ていたように思うんですが、今回は随分後戻りの方向に向かって、今の御説明ですと、改正する必要はないんじゃないかという御説明があったように思うんですが、どっかで基本特許を取りなさいという、今のプロパテント政策に合ったような仕組みがえがあらわれているんでしょうか。

高倉調整課長

CIPについては、8ページのように、今後の検討の可能性ということでフロントランナー、基本的な発明にとって有利性がある反面、第三者の監視負担のバランスを考えていきましょうということでありますので、我々事務局として、プラス面、マイナス面それぞれ考えて今後議論していく必要があるのではないかというところであります。

丸島委員

例えばマイナス面の表現にしても、分割の場合については予見性というか監視負担がふえるけど、それにも増して分割はやるべきであるという御説明なんですが、それに対して補正の方は、こちらの方は負担の方が強いというだけで、予見性がないということで強調されているんですが、同じような感じだと私は理解するんですね。ですから、今の基本特許を取りやすくする仕組みというのをやはり基本的にはお考えいただいた方がいいんじゃないだろうかと。
それから、最後に御説明いただいたハーモナイゼーションがまだ決まらないと。決まらないけれども、何か日本は今、日本の国にとって大事になるような補正をするのは時期が早い、待ってましょうという感じの表現もちょっと気に入らないんですけど。いいことなら、まず早くやって、ハーモナイゼーションで変わったら、仕方がない変えると。あるいはハーモナイゼーションに持っていくときに、日本の考え方で主張していただくというのが筋じゃなかろうかと私は思いますけれども、いかがでございましょうか。

高倉調整課長

むしろこの点については、ほかの委員の御意見を伺いたいと思うんですけれども。

長岡座長

相澤委員、お願いします。

相澤委員

今のことに関連して、手続問題について、補正のガイドラインは変えたばかりです。手続事項を頻繁に変えると、手続が非常に複雑になってしまうので、手続事項をそう頻繁に改正するというのはいかがなものかと思います。できれば、よく見据えた上でやった方がいいのではないかなと思います。
今の丸島委員の御指摘は、例えばアメリカ合衆国の再審査制度みたいなものを入れたらいいという御指摘ですか。

丸島委員

制度はどういう制度でもいいんですが、基本特許が取れるような仕組みを考えていただきたいということなんですよ。今おっしゃった再審査もそうですね、CIPもそうだと思うんです。要するに最初から最先端の技術であればあるほど、完全な明細書は書けないはずなんですよ。それをどっかで救済するプロセスがないと、つまらん特許で終わってしまうんですね。これが、今日本が求めている知財立国の方向なんでしょうかということなんですよ。むしろアンチパテントに向かいなさいというんでしたら、こういう単純に細切れにして、シンプルに手続しやすい仕組みというのが私はいいと思うんですが、もうちょっと複雑でも、やはりいい発明というんでしょうか、先行発明についてはそれなりの権利で保護するという基本的な考えがないと、仕組みは何か単発に処理しやすいように処理しやすいようにというような方向で今までの改正もなされたと思うんです。相澤先生には申しわけないけど、手続でも、今見直して、必要ならすぐ改正してもいいんじゃないでしょうかね。1回手続案を改正したから早いというのは、前の改正がよくなかったということを意味するんじゃないでしょうか。

長岡座長

事務局いかがでしょうか。

高倉調整課長

先ほど話が出ていた監視負担の問題については、ちょっとコメントするタイミングを失したんですけれども、分割の場合には、もともとの出願当初の明細書に書いてある範囲の中から持ってくる話でありまして、これに対してCIPのようなものは、出願当初の明細書に書いていない新規事項を追加するものです。この点において第三者の監視負担の度合いは違うということは言えると思います。

丸島委員

シフト補正、これは同じだと思いますが、いかがでしょうか。

高倉調整課長

シフト補正については、国際的にも欧米にも認められていない制度、それから出願人間の不公平性の問題、こうした審査負担の問題ももちろんあるわけなんですが、審査負担の問題はそれ自身で問題というよりは、トータルとして真に権利の迅速な付与が求められる出願にまで影響が及んでしまうということでして、決して特許庁が楽をしようという意味の審査負担として我々は問題提起しているんじゃありませんで、年間20数万件の審査を全体として早くするためには、やはり1件1件の必ずしも合理的でない手続については、合理的なものに改めてやっていかないといけないというふうに思っていまして、そういった観点からシフト補正については禁止をすると。先ほど丸島委員が、第三者の監視負担を分割と補正とでやや使い分けていないかという御指摘があったので、そこは、同じ補正でも分割の場合とCIPの場合とは第三者の負担が違うのですよというお答えをしたつもりだったんですけれども。

長岡座長

相澤委員、お願いします。

相澤委員

その点なんですけど、アメリカは継続出願で対応して、日本の場合は分割しろということですか。

高倉調整課長

そうです。

相澤委員

わかりました。

丸島委員

ですから、分割しろということなんですけどね。わざわざ分割させてお金をいっぱい取ることと考えられましたから(笑声)、出願人のためにもうちょっと考えていただきたいなということも……

高倉調整課長

CIPでもお金は取るんですよ。

丸島委員

いいんですよ、手続が簡単ですから。その方が、お金だけ払うんでしたらまだいいと思うんですね。
1つだけ確認させていただきます。分割のところで、同一の発明については分割を認めない方向にしようという記載があるんですが、この同一というのは、実質同一も含んでという意味でございましょうか。

高倉調整課長

はい。

丸島委員

そういう意味ですか。

高倉調整課長

そうです。

丸島委員

そうすると、ほかの国では認めていても、日本では認めない方向に行きましょうと、こういうことですか。

高倉調整課長

そこまではっきりここでは書いておりません。むしろ逆に日米欧で同一性の判断基準が違うから、この調和の推移を見きわめつつ、日本も考えていった方がいいのではないでしょうかということであります。仮に日米欧で同一性の判断が一致し、特許する、しないについてある程度そろってくれば、それに日本を合わせるという選択肢は十分あると思いますけれども、今の段階でどちらか一方の方向に決めるというのはどうかなと。事務局の紙ではこう書いておりますが、そこはむしろ各委員の方の御意見を十分取り入れて反映していきたいと思っております。

長岡座長

CIPについては日米比較がしてありますが、この差は非常に大きいというふうにお考えなんですか。

丸島委員

大きいと思います。

長岡座長

非常に大きい?

丸島委員

はい。

長岡座長

どうぞ、石田委員。

石田委員

シフト補正、分割は個人的にはやむを得ないかなと思っておりますけれども、ぜひCIPは、次回もう少し議論をしていただければと思いますよね。

丸島委員

前の議題なんですが、ここで議論を次回するというのは、裁定実施権あるいは強制実施権という立場からの議論、それとも、標準全体を議論できるんでしょうか。

南技術調査課長

この議題の冒頭に推進計画を御紹介しましたけれども、このワーキンググループでは標準策定後の議論ですから、標準策定後に既に設定された特許権をどのように円滑に利用していくかという観点ですので、あくまで強制実施権……

丸島委員

そうすると、強制実施権だけに限らなくてもよろしいわけですね。例えば先ほど加藤さんからもちょっとお話ありましたけど、裁定実施権を適用する前提としては、ある程度プール性が条件だと、前提だというお話がありましたね。私は、2つの視点から標準の問題というのは考えるべきだろうと思っているんですが、まず標準化団体の問題ですね。標準化団体が一番困るのはサードパーティーの特許ですよね。標準化に入らなかったサードパーティーの立場から見れば、RANDの条件だと思うんですね。今のパテントポリシーは、権利者単位でRANDですよね。パテントポリシーを強制的に標準技術単位でRANDにしたら、大分助かるんですよね。これは強制実施権と関係ない話だと思うんです。そういう議論も可能なんでしょうか。

南技術調査課長

その点については、むしろ経済産業省でやっている別の、標準課で主宰している研究会の審議事項なので、このワーキンググループの議論では議題とすべきではないというふうに考えています。ただ、そういう御指摘につきましては、場合によっては、我々の方から標準課の方に、こういう指摘があったということを伝えることは可能です。当然そちらの委員長は長岡先生なので、そこは十分御理解いただいていると思います。よって、本ワーキンググループで審議事項として取り上げるのは、あくまで特許権の裁定制度あるいは強制実施権制度に限らせていただきたいと思います。

丸島委員

どうもありがとうございました。

大西委員

第三者の負担というんですか、監視負担、その面から見ますと、シフト補正でタイプ1とタイプ2があるんですけれども、タイプ2の場合は、まだAとBという発明がクレームに書いてあるという予測があるんですけれども、タイプ1の場合はAしか書いてないと。それが突然Bとなって特許になると。そういう場合を考えて、分割もそうですけれども、公開を1度でなくて、テーマが変わったらもう1回やるとか、そういうことも含めて検討をしていただければと思うのが1つ。
もう1つはCIPの話なんですけど、アメリカのCIPが2年6か月というのは、グレースピリオドの関係が大きいと思うんです。日本でグレースピリオド制度を入れるか、そこも含めてCIPを議論してほしいなと思います。

長岡座長

時間が大体来てしまいましたので、もう1度資料はつくり直していただくことになると思いますが、次回さらに、議論をしたいと思います。とりあえずきょうはこれで議論を終わりたいと思いますが、今後のスケジュールについて、事務局の方から御紹介をお願いいたします。

南技術調査課長

次回のこのワーキンググループですけれども、来月7月21日、水曜日になりますが、10時から12時を予定しております。場所は、同じくこの特別会議室を予定しております。
議題でございますけれども、引き続き裁定制度についてと補正、分割出願の見直し、この2点について議論させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

長岡座長

では、以上をもちまして、第8回特許戦略計画関連問題ワーキンググループを閉会させていただきます。どうも活発な議論ありがとうございました。秋元委員、加藤次長、御発表ありがとうございました。

閉会

[更新日 2004年7月13日]

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