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第5回商標制度小委員会 議事録

  1. 日時:平成15年12月1日(月曜日)15時00分~17時00分
  2. 場所:特許庁 特別会議室
  3. 出席委員:
    土肥小委員長、大泉委員、古関委員、小塚委員、琴寄委員、髙部委員、竹田委員、田村委員、萬歳委員代理(白石)、松尾委員、三宅委員、山中委員
  4. 議題:商標制度の枠組みの在り方について
議事録

土肥委員長

ちょうど時間がまいりましたので、ただいまから産業構造審議会知的財産政策部会第5回商標制度小委員会を開催いたします。
本日は「商標制度の枠組みの在り方」、これを中心に審議したいと思います。
それでは、早速議題に入らせていただきます。資料を事務局で用意しておりますので、説明をお願いいたします。

木村審議室長

まず配布資料の確認をさせていただきたいと思います。本日の配布資料、クリップを外していただきますと、委員の皆様方の名簿がございまして、資料が2点、1つが「商標制度の枠組みの在り方について」というものでございまして、もう1点が「参考資料」、これは表紙を入れまして全部で3枚紙になっております。ご確認いただければと思います。
それでは、資料1に沿いましてご説明を申し上げたいと思います。今回、商標制度の枠組みについて、特に相対的拒絶理由の審査等の在り方、それから使用状態の判断の在り方ということで資料をまとめさせていただいております。
まず恒例でございますけれども、前回の議論のまとめについて、一番最初で触れております。前回は、小売業商標のサービスマークとしての取り扱い、それから団体商標制度の拡充ということで議論をさせていただきまして、小売のサービスマークにつきましては、基本的な方向性としては異論がなかったということで理解をしておりますけれども、その具体的なやり方につきましては、範囲の問題、あるいは類似とか混同のおそれの審査、他の商品商標ですとか役務商標との関係をどういうふうに審査をするのかといったことについてのご議論があったわけでございます。
それから団体商標制度につきましては、さまざまなコメントが出されましたけれども、法人に限定しないで代表者、定款が定められているものを一般的に認めるべきというご意見ですとか、あるいは3条2項の運用の問題でやれるのではないかというようなご意見もあったと思いますし、不正競争防止法等の関係を考慮しつつ進めるべきであるというようなご指摘もあったと思います。これにつきましても、また機会を改めましてご議論をしていただくということで、引き続き検討するということにさせていただいております。
今回の検討でございますけれども、個別の項目ごとの検討というのは、おおむね一巡したという理解をしております。他方、商標の制度、今回定義規定から含めて根本的に議論を深めていくということでありますと、全体の制度的な枠組みの在り方そのものについても検討していく必要があるのではないかということでありますし、第1回の審議会において事務局からもご提示申し上げた、商標が具体的に保護しております商標に対しての信用というものは、実際の個別の市場において、使用の実態、状況に応じまして柔軟に変化していくものだ、そういう動的な側面というものをとらえて、それに合わせた制度設計というものも考えていく必要があるのではないかということだろうと思っております。
したがいまして、今回、特に第3回の小委員会で「混同のおそれ」の有無、特に審査の実務と裁判等で出されます運用、解釈の実態が違うのではないかというようなこともあって、それについて議論をした際に、相対的拒絶理由の審査の在り方についての議論がなされたわけでございます。ただ、これは非常に大きなテーマでございますし、当日の議論では、いずれにしても判断するには情報も不足しているし、かつ産業界の方々にとっても運用の実態を大きく変える話であるということもございまして、慎重なご意見が多かったと理解をしております。いずれにしましても、商標制度全体の目的に照らして我が国の制度の長所、あるいは課題につきまして、国際的な制度比較を含めて検討を深めておいた方がいいのではないかということで、今回テーマとして出させていただいているということでございます。
3ページに移りまして、II.でございますが、留意点と申しますか検討に当たっての前提と申しますか、そういうようなことをII.のところでまとめております。問題提起だということでございます。
まず「商標法が保護すべき信用」ということで、これは今までもご提示申し上げてきたことの繰り返しになる面もあるのですけれども、基本的には信用というのは動態的に動くものであって、事業者が市場において信用というものを形成していく、あるいはある商標の使用を通じまして、当該商標に信用を定着させるというようなことでご活動をされるということでございまして、したがって、それを保護する制度である以上、基本的には当該商標が現実の市場においてどういうふうに使用されているかということが考慮されるべきであるという議論がありますし、他方、「ある時点における抽象的・形式的・画一的」という言い方で書いておりますけれども、そういう審査では、本来動的に動く、流動する信用というものをとらえていくということは難しい面があるのだということが、まず議論の出発点なのかなということでございます。
仮に商標制度というものにこういう側面があるということを前提にいたしますと、ここで2つ大きなことが考えられる。1つは、商標というのは信用を形成していく重要な手段であるということであって、事業戦略を支えるものであるということでありますので、商標選択の自由は最大限配慮をされなければならないだろうということでございます。第2に、信用というのが固定的なものでないということでありますと、それは使用の実態によって大きくもなり小さくもなるということでございますので、そういう使用の状況についても問われていく必要があるのではないかということがあるわけでございます。
もとより、商標制度は信用の保護を目指すものでございますので、いうまでもなく、そういう利益を害するような別の商標を効果的に排除する、そういう仕組みをもっていなければなりませんので、これは各国どこでも当然同じ、排他的独占権であるという属性はどこでも変わらないということでございます。
他方、そうはいっても、排他的独占権が過剰に機能するといいますか、そういうものによって、例えば後願の出願人の商標選択の自由が不当に制約されることがあってはならないだろうということもいえますので、その辺はバランスをとりながら考えていく必要があるのではないかということでございます。
2.のところで、他人の商標を排除する上での手続の在り方と申しますか仕組みについて、簡単にここで考え方をまとめております。最初のところは若干重複になるのですけれども、いずれにしても商標制度は動的なものであるけれども、実際問題、それが保護の役割を果たすために最低限の機能というのは当然あるわけでございますし、商標制度は、単に事業者間の問題にとどまらず、不特定多数の需要者に対して、公益的、あるいは予防的な機能を果たすということが当然あり得るだろうということでございます。
他方、商標に化体した信用というのは変化をしていくということだとしますと、例えば審査の段階ですべて判断し切るということが妥当なのかどうか。さまざまなステージにおいてx判断をするという方向でも、仕組みそのものは柔軟に考えていけるのではないかということでございまして、それぞれの手続において具体的に何を、どのような形で判断するかということは、各国の制度の中でも相違があるのだろうということでございます。そして、特に欧州における分類を参考に、絶対的拒絶理由、それから相対的拒絶理由ということで拒絶理由を2つに分けますと、特に相対的拒絶理由につきましては、各国における判断の仕方がかなり違うということがいえるわけでございます。
4~5ページにかけまして、絶対的拒絶理由と相対的拒絶理由の分類等についての考え方を述べてございます。
相対的拒絶理由は、5ページの「第二は、」というところに書いてございますけれども、基本的には、他人の登録商標との距離によりまして定まってくる問題でございますので、相対的ということだろうと思います。具体的には、当然、その使用状況によってまさに許否が決定をされていくということでありますし、時間とともにその変化をするものである。したがって、相対的拒絶理由を判断する際に必要となります考慮の要素というのは、絶対的拒絶理由を判断する上で必要になります要素よりも多様かつ複雑になる。比較の対象がございますので、その状況というのもきちんと把握をしなければならないというようなことがあると思います。それでは、こういうものをどの段階でどう把握するのが適当か、という議論があるのではないかというのが、まず1点目でございます。
3.で「不使用登録商標の判断の在り方」ということでございまして、不使用問題というのも、商標が動態的に変化をする信用というものを保護するのだということで、根っことしてはつながっているのではないかと考えているのですけれども、と同時に、商標選択の自由というのは最大限考慮をされる必要があるだろうということで、不使用の商標というのは、商標選択の自由に対する一定の制約となり得るので、多かれ少なかれこれに対する対策というのは、どの国においてもとられているということだろうと思います。
まず一番典型的な考え方は、使用主義をとるというものでございまして、アメリカはそうなっているといわれておるわけでございます。
「第二に、」ということで書いてございますけれども、これは、登録後一定期間使用がなされなかった商標については、引き続き登録を認めるべきではないという考え方、それからそのための手段としての不使用取消審判というものでございまして、これもおおむね各国に共通するといいますか、我が国においてもこれを採用しておるわけでございます。
不使用取消審判に加えて、さらに実際の使用状態を確認するようなアディショナルな手続を設ける考え方というのもあり得るわけでございます。これにつきましては、我が国は現在採用しておりませんけれども、それでいいのかどうか、十分なのかどうかということをあわせて検討してはどうかということでございます。
7ページ以降でございますけれども、各国の制度、我が国も含めまして、まずこれに関連する部分を抜き出して制度比較をしております。我が国の商標制度の概要、これは皆様方よくよくご存じのことばかりでございますけれども、簡単に申し上げますと、出願の時点で絶対的拒絶理由及び相対的拒絶理由のいずれについても行政庁において職権で審査をしている。所定の期間内に拒絶の理由が発見されなかった場合には登録査定になる。現実には、FA期間はもっと短いので、審査が行われて、それから査定になるということでございます。職権で行いますので、基本的にやりとりは出願人との間だけで書面において行われるというのが常態でございます。ただ、出願されますと公開がございますので、それによって第三者が情報を提供してくるということは十分あり得るということでございます。
件数でございますけれども、2002年のデータでございますが、登録査定が11万4,000件、全体の処理件数の75%ということで、拒絶査定が3万7,000件、25%ということでございます。これをさらに細かくみますと、審査官が処理した件数のうち、大体5割には何らかの拒絶理由が当初存在をしているということでございまして、これが、この後補正、あるいは意見書の提出といったもので、最終的に登録査定になるものと拒絶のまま維持されるものが半分半分に分かれるということでございます。最終的に拒絶されるものの内訳をみますと、いわゆる絶対的拒絶理由のみによって拒絶されたものというのが44%ということでございまして、相対的拒絶理由を含む理由によって拒絶されたものが56%ということでございます。相対的拒絶理由については、当然そのサーチを行いますけれども、その対象となる先行登録商標、全体のストックというのが182万件あるということでございます。
審査の次は審判ということで、拒絶査定になりますと、それに対する不服が申し立てられるということでございまして、請求件数は年間大体3,000件弱、2,850件という数字でございます。申立ての理由でございますけれども、絶対的拒絶理由によりますものがおおむね43%、相対的拒絶理由によるものが55%、その他、これは理由がまたがっているものもこの中に入っていますけれども、2%程度ということになっております。ただ、これに対しまして、さらに審決取消訴訟が提起されて、そこまで争われるというケースは非常に少ないということだろうと思いますし、出願に対して年間3,000件程度の審判ですから、これ自身、多いとみるか少ないとみるか、さまざまな評価があるところだろうと思います。
8ページでございますが、「異議申立て・無効審判」ということで、出願が登録されますと、第三者に不服がおありになる場合は、絶対的拒絶理由、相対的拒絶理由のいずれについても異議、それから無効審判を提起できるということになっておりまして、異議申立ては2ヵ月、無効審判は原則として5年以内、これは除斥期間ということで運用されております。異議申立ては、基本的には査定系の法手続ということで、原則書面審査で行われまして、異議申立人には弁論の機会は、原則ないということでございます。無効審判は当事者系の審理構造になっているということでございまして、いずれにしましても職権において当事者が主張してない事由についても調査をするということが認められているわけでございます。件数といたしましては、異議は967件、そのうちおおむね19%程度が登録の取消ということになる。無効審判は214件ということで、そのうちの51%、半分強が登録無効ということになるわけでございます。さらに裁判になるケースでございますけれども、異議の後は3件、無効審判の後は86件ということで、異議の場合は取り消されたもののみが対象になりますので、単純に比較はできないのかもしれませんけれども、全体としては出訴される数というのは、さほど絶対数としては大きなものでないといえるだろうと思います。
「不使用取消審判」がございます。使用対策ということで設けられている制度でございますけれども、連続して3年間使用されてない場合は何人も請求できるということになっております。そこでの法律上の証明責任は権利者側に転換をされている。昭和50年の法改正によりましてそうなっておりますけれども、審判官は権利者に対して使用の実態があるかどうか、証拠の提出を求めるということで、不使用であるという場合は登録を取り消すということでございまして、取消率はかなり高くて76%ということでございます。件数も1,500件という数字がございます。
侵害訴訟が年間にすると100件弱起こされているということでございます。
手数料や料金につきましては、参考資料2でまとめてございます。
以上、概要を簡単に申しますと、日本の商標制度は登録主義であって、相対的拒絶理由についても審査官が職権で審査をしている。さまざまな不服の手続につきましては、行われます比率というのは全体の件数に対して低いのではないかという評価が可能ではないかと思っております。
欧州でございますけれども、CTMに行きますと、欧州共同体の商標規則におきましては、登録出願は絶対的拒絶理由についてのみ職権で審査をされる。その後、サーチを行いまして、その結果は出願人に対して伝えられて、その上、取り下げられないというものにつきましては、出願公告がなされるということでございます。サーチレポートの廃止につきましては現在審議中ということでございまして、とりあえず廃止をしない方向に向かっているようなことも聞いておりますけれども、現在ではこういう制度になっております。
相対的拒絶理由につきましては、出願公告がなされた後、先行商標権者において異議申立てがなされる。付与前の異議ということになっているわけでございまして、その場合に初めてOHIMにおいてその審査がなされるという構造になっておるようでございます。基本的に職権では相対的拒絶理由に関する調査は行わないということで、当事者によって準備された事実・証拠等に基づいて行われるということでございまして、その場合、先行商標権者にはそれを使っているのだということについての証拠の提出を求められることがあるということでございます。これは、「不使用の抗弁」と一般的にいわれております。法的な意味で抗弁といいますと若干用語法が違うのかもしれません。厳密には権利者による「使用の抗弁」というべきなのかもしれませんが、ここでは「不使用の抗弁」と一般的にいわれておりますので、それを使って書いてございます。
その後、「無効審判」があります。絶対的拒絶理由、相対的拒絶理由のいずれについても無効審判を請求することはできるわけでございますけれども、無効審判におきましても異議と同様に当事者によって準備された事実・証拠等に基づいて審理がなされるということでございまして、不使用の抗弁もあるわけでございます。
「侵害訴訟」でございますけれども、それにおいても反訴が認められているということでございます。抗弁も認められているということでございます。
欧州におきましては各国の商標制度とOHIMの行っております商標制度が、併存しておりますけれども、特に調和のための指令等はないのですけれども、実際問題としてはスペイン、あるいはベネルクスの各国につきましては、相対的拒絶理由について異議待ち審査にする、そういう制度改正が行われております。他方、英国では、引き続き相対的拒絶理由の判断というのは維持をしていくということで、当面2006年までは、ということになっておるようでございます。
11ページでございますけれども、「特徴」を簡単にまとめますと、異議待ち審査であって、いうまでもなく権利の安定性につきましては、リスクが高いということがいえるわけでございます。制度の特徴として当事者間で決着をつけるというものでございますので、異議申立率は比較的高い、20%ということでございますけれども、ただ実際問題としては、その中で実際に異議の審査が行われるのは、さらにその2割ぐらいということでございますので、出願の補正ですとか和解等の結果、残りの8割は取り下げられるに至っているということでございますし、当事者の主張・立証に基づいて実態に応じて権利範囲の画定ができるという面では評価をされているということでございます。
不使用の抗弁につきましては、比較的まだ歴史が新しいのですけれども、これはモデルになったドイツにおいて相応の評価を受けているということで導入をされておりますけれども、これについてはOHIMでの歴史的な評価というのは定着していないのではないかということでございます。
ドイツでございますけれども、基本的にはOHIMの制度に似ているのだろうということでございますが、相対的拒絶理由につきましては、もっと徹底した当事者主義をとっているように思えます。付与後の異議であるということで、まず権利が付与される。それからサーチ等はございませんし、取消請求の制度があるわけですが、絶対的拒絶理由については行政庁で判断をする。他方、相対的拒絶理由、または周知商標の存在を理由とする取消訴訟は、あくまでも裁判所、相対的拒絶理由につきましては、行政庁が関与しない、そういうデマケーションになっているのかなということでございます。
不使用の抗弁は、いずれも認められている、制度として導入されているということでございまして、やはりドイツの制度は異議率が高い、それから監視負担、法的安定性の問題等で批判があるということでございますが、一般的には現行の制度はかなりうまく機能しているのではないかと理解をされているということでございます。行政庁の業務負担がこれで軽くなったということもあるでしょうし、優秀な調査会社があって、利用者の監視負担というのはさほど重いものではないということとか、あるいは相対的拒絶理由というのはもともと商標権者自身の権利管理の領域に属する、公益的な色彩は薄いというような考え方だろうと思いますけれども、そういう一般通念等もあるのだろうということでございまして、それから不使用の抗弁につきましても、権利ですとか制度の安定ということにかなり役に立っているという評価だろうと思います。
各国の中では、最後、米国でございますけれども、まず基本的には使用主義をとっているということでございまして、それと絶対的拒絶理由、相対的拒絶理由、双方が職権において審査をされるということが特徴であろうと思います。審査を行いますと、出願公告、それから異議申立てということで、付与前の異議の形になりまして、その後、異議がない、あるいはそれに理由がないということで登録ということになるわけでございます。取消請求がなされる。若干表現ぶりが正確ではないところがあるのですけれども、絶対的拒絶理由につきましては、除斥期間がなくいつでもできるということ、相対的拒絶理由につきましては、5年間の除斥期間がありますけれども、取消請求の制度がございます。
登録後も、6年目、それから存続期間満了前の1年といった時期に使用の実態を示す宣誓供述書というものを提出しなければならないという義務がかかっているということでございまして、この構造を改めることそのものについての議論というのは、米国でほとんど行われていないようでございます。
これは、使用主義というのが、現在のランハム法ができたときの制定経緯でひもときますと、憲法上の通商条項にその根拠があるので、使用していない商標というのは通商され得ないという趣旨だろうと思いますけれども、使用主義というのは一種憲法上の要請であるというようなこともあるのだろうということだと思います。
以上のような各国の比較の上で、「比較検討」ということで15ページ以降が具体的な制度設計の在り方についての問題提起でございます。
まず1.は「相対的拒絶理由の判断の在り方」の問題、まず我が国制度の特徴ですとか長所といいますか、そういうものに関しましては、職権で調査しておりますので、しかもそれは、不服の表明の割合がかなり少ないということで、審査そのものはかなり厳格に行われているのではないかということで、いうまでもなくこれは、登録時に権利関係が安定するという長所がございますし、使用主義が厳格ではございませんので登録主義をとっているということで、事業を実際に始める前に使用する商標を特定して、それを登録する。その後、余裕をもった事業の準備ができるというようなことで、そういうメリットがあるだろう。基本的に行政庁がすべての出願について調査を効率的に行うということですと、結果的に費用が小さいというように理解をされているところがあるのではないかと思います。
16ページでございますが、他方「判断の硬直性」の問題もあり得る。第3回の審議会の場においてもいろいろと議論のあったところだと思いますけれども、そもそも相対的拒絶理由を職権審査で行うこと自体が硬直的なものにならないか。動的なものであるというとらえ方をいたしますと、それそのものというのは非常に判断しづらい面がある。したがって、個別具体的にみますと、市場では実際には混同しないのに、それが審査の段階では類似、あるいは混同のおそれということで拒絶をされるという可能性があって、それが商標選択の自由度を狭めることになり得るのではないかという問題提起がございます。当然動態的に変化するということで、それをある程度読み込むといいますか、反映させつつ審査をするということがある意味では求められているのかもしれませんけれども、実際問題として、それはかなり困難なことであって、むしろ審査の段階で一律に、ある意味では判断をするということになりますので、むしろ個別の市場の動向のようなものは審査の段階ではみないで、抽象的・画一的に判断をするべきものだという議論もあり得るわけであって、その辺のバランスが非常に難しい問題になるのではないかということでございます。
権利が安定するという長所がございますので、とりあえず出願をしておこうという行動が起こり得るし、不使用取消審判でしか、ある意味では使用対策ができない、あるいは不使用取消審判率も低いということになりますと、実際問題、それが、使ってないからということで消されてしまう蓋然性が低いということで、こういう傾向を助長するのではないかという議論があり得るということでございます。
「(3) 比較検討」ということで、さまざまな比較衡量をしておるわけでございますけれども、まず考えるべきは、市場における混同の回避、商標選択の自由というもののバランスがあるだろう。それから考慮要素としては丸3でコストの問題、権利の安定性ということがあるわけでございます。ここで若干丸1について補足をしておりまして、公益の側面がどうしても無視はできない重要な問題であるということでございます。
これにつきましては、特にドイツ等で異議待ち審査制度が古くから採用されてきた思想的背景として、相対的拒絶理由というのは私的な利益の調整のための要件であるというように割り切られているところがあるのではないかというとらえ方も可能なのではないかと思っております。基本的にはそれらの商標を使用する方たちの利益調整の問題で、それにお任せをして、その結果、消費者の利益は反射的に保護される、あるいは事業者間でトラブルが起こらないものについては、最終需要者の利益というものもおおむね確保されているのではないかという、擬制といいますか、そういう考え方が背景にはあるのではないかということでございます。
したがって、事後的に訴訟手続、特にドイツでは相対的拒絶理由は裁判所による手続で判断されるということになりますと、訴訟の手続によって解決をするというのが思想になっているのかなということでございます。
当然、ドイツがこうだから直ちに日本でもそうするべきだということにはならないので、最終需要者の利益というのは当然考慮しなければいけないということだと思いますし、商標法の1条にも、「あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」とはっきり書いてある。他方、年間12万件の出願につきまして、182万件のストックとの関係で類否の判断をしている。もちろん、これは全体をマクロ的にみてそういう数字を出しているのですけれども、それが制度趣旨の上から絶対必然のことかどうかということになりますと、これはいろんな考え方はあり得るのではないかととらえております。
「なお」書きのところで書きましたように、類似商標の分離、あるいは同一商標の分割といったことは認められるようになってきておりますし、実際、誤認混同のおそれが生じたような場合は調整規定を設ける。例えば、混同防止表示請求を認める、あるいは不正競争目的での混同について取消審判の制度を導入するといったようなことをやったわけでございまして、そういう手段もあり得るということも考えて、公益というものをどういうふうにとらえていくかという問題になるのではないかと思います。
「市場における混同の回避」ということで、最初の比較衡量の問題に戻りまして、具体的な項目について幾つか考えてみますと、まず(ア)として、相対的拒絶理由について異議が申し立てられなければ出所の混同のおそれがある商標であっても登録されてしまう、まさに公益的なこと、それをどう理解するかということでございます。それは、混同のおそれがある商標でも登録される可能性は確かに高くなるだろうということがいえますが、不使用商標というのがかなり多いという実態があって、そうであれば需要者に本当に損害があるようなものというのはどの程度あるのか、大きなインパクトがあるのかどうかということだと思います。
現在、出願人の方は相当のチェックをした上でお出しになられているということもございまして、出所の混同のおそれという可能性そのものがかなり少ないということもあるのかなということでございます。相対的拒絶理由を理由として登録が拒絶されておりますのは1万9,000件ございます。その中で、例えばの計算でございますけれども、1つ当たり平均5件の抵触といいますか、先行登録商標について相対的拒絶理由があるということで仮定をいたしますと、要は先行登録、例えば100件の商標をもっている人にとって、混同を生じるおそれのある後願が出てくる可能性というのは、100件のうち5.2件ぐらいという計算になる。もちろん、これについてすべて異議のような形で、いわゆる闘われることにはならないのであって、それよりもかなり少ない比率、具体的には1%未満というような数字になるのだろうと思いますけれども、要は出所の混同というのはそれぐらいの比重の問題だというとらえ方も、あるいは可能かもしれないなということでございます。
(イ)というところで、確かに混同のおそれのあるものが登録をされてしまうのですけれども、事後的に瑕疵を除去する仕組みというのは一応あるわけで、異議、それから無効審判という制度があるということでございます。
(ウ)のところでございますが、先行商標権者が後の出願の登録を許容するような場合というのがあり得る。実際問題としても完全に同一の商品、またはサービスについて、同一の商標が出願されるということはまれです。それには何らかの不正な目的があるのではないかということだろうと思います。むしろ類似といったようなことが多いわけで、そうしますと、これは、ある意味では審査官が一律に判断をするというよりも、先行商標権者と後願の方との間で相対的拒絶理由が存在するかしないかということを一義的に判断するということでいいのではないか。それがコンセント制度の導入のご要望としても出てきているのではないかというとらえ方も、あるいは可能なのではないかということでございます。
「商標選択の自由」ということで次に書いてございますが、仮に異議待ち審査制度にいたしますと、市場で具体的に混同のおそれが生じる商標についてのみ当事者の申立てによって相対的拒絶理由の有無は判断されるということになるわけでございます。特に当事者系の手続でやるということになりますと、十分な証拠を提出するということもできますし、異議においても、これが似ているからということで当事者からの証拠が提出されるということは当然あり得るわけであって、それによって結果的に商標選択の自由というものが広がっていくことになるのではないかということでございます。相対的拒絶理由によって登録が拒絶されているものというのは1年間に1万9,000、これは先ほども出てきた数字でございますけれども、このうち市場で具体的に混同のおそれが生じることがなくて、なおかつ異議申立てが行われないであろう、そういう商標の出願というのは相当数に上っているのではないかということで、この分だけ商標選択の自由というのは広がるわけでございます。出願で拒絶されるということをおそれて、萎縮的な効果といいますか、相対的拒絶理由があるかもしれないのでこれは出さないでおこうというようなことがあるとすれば、それについても、この点についての審査がなくなるということになりますと自由度が広がるということが、観念的にはいえるのではないかということでございます。
20ページ、「コスト」でございますが、これは非常に難しい議論でございますが、仮に行政が相対的拒絶理由をみなくなるということになりますと、先行商標権者の方には監視負担、それから異議申立ての負担が出てくる。監視負担につきましては、特許庁で調べましたところ、大規模なものが、特に欧州等では10社程度あるということで、費用はややばらつきがあるのですけれども、1商標、1区分につきまして、1年に6,000円~3万円程度ということでございます。これは、我が国においてもサービスを受けることが可能な会社もあるようでございまして、その場合は、1年に1万2,000円程度ということで、これが直ちに需要に応じて、日本においてどの程度のサービスをすぐに提供できるのかというのは、ちょっとわかりませんけれども、1万2,000円程度ということで、さほどそれ自体は、ヨーロッパで導入されているものに比べて大きく高くなるということではないようでございます。
次に、異議申立ての負担ということでございまして、当然、代理人にご依頼した上でおやりになるということでございますので、そういう費用は手数料で5万円~50万円程度、かなり幅がございます。それから成功報酬ということになりますと、それが28万5,000円程度かかるということのようでございます。ただ、先ほども申し上げましたように異議率といいますか、その上限は、それが1年で5.2%ですから、要は後願の商標というものが類似・混同の商標があらわれる確率というのは5%ぐらいで、現実にその後で争われるというのは1%未満という数字だと思いますけれども、そういうことで、必ずしもすべてについてこれをやらなければいけないということは毛頭ないわけでございます。
また、出願人の方にとって収支相償で物事が進んでいくということは非常に重要だろうとは思っております。現在、異議申立てをする頻度は少ないだろうということで、相対的拒絶理由を仮に審査の対象から外すということになりますと、異議の率は高まる可能性は当然あるわけでございますけれども、その分、ある意味では行政が、今、事前の審査ということでコストを負担しているということがあるので、それは全体でバランスをとっていく、すなわち現在行政が負担しているものがすべて当事者に対してアディショナルに上乗せされるということではないのではないかということで、そこはバランスをとって議論を深めていくことが可能なのではないかということでございます。
21ページでございますが、権利の安定性ということで、登録件数は現在10万件強でございますが、異議申立率は0.92%という数字になります。無効審判ですと0.20%ということで、非常に少ない率になっているということでございます。
OHIMの例を引きますと、異議申立率が18.16%、無効審判の請求件数でいいますと1.91%ということでございますので、権利が失われる確率は高いだろうということでございます。もちろんすべてについて登録が拒絶されるというようなことにはなっていないわけでございます。ドイツにおいてもOHIMと同様、権利の安定性の観点からいうと、日本よりもせっかく得た権利が失われるという確率としては高いということはいえるわけでございます。
「その他」ということで、こういうことで、それぞれ当然歴史的背景が違うこともございますけれども、一長一短あることはそうだろうという判断になりますと、どちらかに制度として決めてしまうということも仮に難しいとするならば、中間的な解というものも、ここでは具体的な提案は何もしておりませんけれども、考えておくことがいいのではないか。
例えば同一の商標、あるいは周知・著名、そういうものにつきましては、混同を生じる蓋然性が高いということで、職権審査の対象にする仕組み、あるいはサーチレポートというような制度、これはOHIMでございますけれども、そういうものを導入していくというような考え方もあるのではないかということでございます。
時間が非常にかかってしまいまして申しわけございません。次に、使用状態の判断ということで、日本は今、登録主義でございまして、使用の判断をどうするかという問題があります。もちろん不使用だからすべてだめだというわけではないのですけれども、使用されるからこそ排他的独占権として保護されるという要素があることは確かだろうということでございます。日本の特徴は、不使用対策を審判だけでやっているということでございまして、第三者の負担で不使用取消審判が提起されない限り権利がなくならないということで、非常に登録の安定性は高いということでございますし、使用の証明に対するコストも低いということでございます。他方、登録されながら長期間にわたって使われない不使用商標があるということですと、商標選択の自由度、これはだれの目からみても明らかに低くなるということはいえると思います。実際、不使用取消審判を請求してどんどんやればいいじゃないかということなのかもしれませんけれども、その費用をすべて後願の出願人がご負担するということが制度的に妥当かどうかというような観点からの考察もあり得るということだろうと思います。
23ページに移りますと、「不使用の抗弁」の制度が、ヨーロッパでは特に導入されている。これを参考にできないかということが書かれております。異議申立て、無効審判、侵害訴訟におきまして、先行商標権者に対して不使用の主張がなされた場合に、使用を証明するということで、「不使用の抗弁」、実際は「使用の抗弁」ということなのでしょうけれども、それを導入するということで、ドイツ等ではかなりの程度成果があったということでございます。仮にこれを導入するということになりますと、議論すべき論点が幾つかありまして、1つは証明責任の問題、ドイツ型のものを当然観念するといたしますと、権利者自身がみずからの使用状態を立証するということになると思います。現在の不使用取消審判における証明責任の配分としてもそうなっておりますし、欧州の例等を引きますと、それが一番妥当ということなのかもしれませんけれども、考え方としてはそれ以外にもあるということでございます。
また、これを導入することによって手続が複雑になったり、あるいは迅速な判断ができないというようなことがあり得るかどうか。実際、使っているか使ってないかというのは、それほど難しい判断ではないという考え方もあるようでございますけれども、本当にそうなのかどうかということは詰めておく必要があるだろうということでございます。
3年以内の不使用状態というのは、いずれにしても許容されるということが、現在の制度はそうなっておるわけでございまして、「不使用の抗弁」においてもそれを維持するかどうかということでございます。ここでは、権利行使を制限するための要件としては3年間の不使用状態の継続ということを書いてございます。これはTRIPS協定とも整合的な理解だということだろうと思いますけれども、そういうもの、あるいは「不使用の抗弁」が入れられた場合の効力の問題、それについてもあわせて検討をするということがいいのではないかということでございます。
非常に時間がかかってしまいまして申しわけございませんでした。とりあえず以上でございます。

土肥委員長

ありがとうございました。
それでは、早速議論に移りたいと思いますけれども、ただいまの説明に関しまして、細かいところは別にしまして、基本的なところでご質問等ございましたら、まずその点からお伺いしたいと思いますけれども、ございますでしょうか。

三宅委員

18ページに2つございまして、登録件数182万件とありますが、相対的拒絶理由の引用対象となるものは、登録商標のほかに先願商標もございます。それで、ひょっとしたらこの数字の中には、まだ登録になってないものですね、出願が年間12万件ぐらいとしますと、今FAが9ヵ月ですから約10万件ぐらいあるのですが、その数が入っているのかどうかというのが1つです。
もう1点は、1万9,000件という数字なのですけれども、これは最終的に相対的拒絶理由により拒絶査定となるものの数字だと思うのですが、実際には拒絶理由通知時点で指定商品を減縮して、抵触関係を解消するものが相当数あると思いますので、私の感じでは、少なくともこの倍ぐらいの数字になるのではないかなということです。と申しますのは、異議待ち審査の検討を前提とした数字ですので、その辺はもう少し正確に把握した方がいいのではないかと思いまして質問させていただいた次第です。

土肥委員長

今のご質問なのですけれども、以前この点については、余り正確にはわからないというようなことだったと思うのですけれども、今回は数字として出していただいたのですが、2点、いかがでしょうか。先行願関係を含むかどうか、それから今の……。

小川商標制度企画室長

登録件数は182万件ですが、11号の引例の対象ということでは、このほかに、ご指摘のとおり出願件数がプラスアルファあるということになると思います。

三宅委員

これが登録されているものの件数ですので、これ以外に対象となるものは約10万件ぐらいはあるということですね。

小川商標制度企画室長

そういう理解でいいと思います。

山田商標課長

確かに1万9,000件というのは最終的に拒絶になった件数と思います。ですから、当然、拒絶理由がかかって、その後、補正等で登録になったのもありますので、そういうものも、少なくとも第1回目は拒絶理由がかかるわけですから、そういう意味で4条1項11号等の拒絶理由がかかる件数という意味では、ちょっと私もそこのところは疑問に思ったものですから、調べましたところ、3万3,000件ぐらいの件数になっています。

古関委員

細かい議論に入る前に1つお伺いしたいのは、先月、ヨーロッパの方に、この件に関してご出張に行かれたという話を聞いておるのですけれども、その行かれた国、官庁はどちらなのかをちょっとお教えいただきたいのが第1点です。
2点目は、今回、相対的拒絶理由を検討するに際して、なぜこれを議論しなければならなかったのかというところが、今のご説明からすると商標制度の意義ということで、商標選択の自由と不使用商標対策ということを挙げられているのですけれども、直接的ではないような気がします。それに関連すると、逆にいうと、抽象的・形式的・画一的な判断、これは完全ではない。これは基本的な前提だというようにおっしゃられてましたけれども、そうすると、この点というのは、つまり4条1項11号に関する考え方だと思うのですけれども、これは、相対的拒絶理由は異議待ち審査を受けて審査するということにすると、そこでも同じような抽象的・画一的な判断はされるのか、それとも第3回の小委員会で議論されたように、具体的な出所混同だけを議論するのか、その辺をちょっと明確にしていただきたいと思います。

土肥委員長

前者についてはお答えいただきますけれども、後者については、そこを議論していただくのだろうと思っております。つまりあらかじめ領域を設定して本日議論していただくというよりも、広くそういうふうな意見、あるいは逆の意見、そこのところの制度の根幹にかかわるそこの在り方をお尋ねしたいということだと思います。
第1点について、出張に行かれた方は……。

横島審議企画班長

10月の末に出張に行きました。直接出張に行ったところと質問者を送って紙面で答えてもらったところがあるのですけれども、紙面を送ったところは、イギリスの特許庁、それからドイツの特許庁です。あと直接行ったところはOHIMです。また、ドイツにおいて審査等は特許庁でやっているのですけれども、立法は司法省というところが別でやっているというので、司法省にも直接話を聞きに行きました。今回特に念頭に置いている制度というのは、CTMとドイツ商標法ということなので、そこを中心に行きました。それからアメリカについても、法律事務所を通じてですけれども、商標制度の対応について件数などは調査をしました。

田村委員

今の古関先生のご質問ともかかわるのですが、18ページの下の方の(イ)というところで、「現実の市場における混同のおそれを踏まえ、事後的にその瑕疵を除去する仕組みが整っていることをどう考えるか。」と書いてありまして、18ページの後ろから2行目には「現実の使用実態にかんがみ、無効審判によりその登録を取り消すことが可能である。」とあります。また、16ページに戻りますが、「判断の硬直性」ということが最初の段落に書いてありまして、その6行目には「個別具体的な市場の状況を踏まえると実際には混同を生じるおそれがない商標の間にも類似や混同のおそれがあると判断される可能性がある。」とあります。さらに次の段落に移りますが、「実際の使用状況に伴う変化の程度が大きいと審査で担保することには限界がある。また、ある特定の時点で職権によって審査するという制度の性質上、当該審査はある程度抽象的・画一的に行われるべきものであるとの考え方も成り立つ。個別具体的な市場の状況の判断には裁量的な要素が大きく、」云々とあります。現在の法制ですと、仮に無効審判でいったといたしましても、判断基準時点はあくまでも出願時と登録時だと思いますので、その点では、そうであるともそうでないとも読めます。もしかしたら私の理解が違うのかもしれませんが、ややもすると、無効審判だと事後的に登録後の混同のおそれなどを考慮できるかのように読まれかねないところがあるので、文章を直した方がよいのではないかと思います。

土肥委員長

まず1点目、今の点はいかがですか。

木村審議室長

基本的に現在の無効審判の判断時点を変えるとか、そういうようなことをここで直ちに提案しているわけではございませんので、不正確なところがあるとすれば別途改めたいと思います。

田村委員

でしたら、それでいいのですけれども、例えばここに書いてあることが、仮に訴訟に行くと証拠が多くなって、いろいろな事情をくむことができるとか、あるいは間接的な事情だと思いますが、事後的な混同の判断が登録時の判断に影響するということはもちろんあると思うのですが、そういうことでしたら、拒絶査定につながる審決取消訴訟もあり得ることなので、そこは多分、無効審判だからこうとなるわけではないと思うのです。あと、それ以降の古関先生がどういうふうに立法論で考えているかというのは、もちろんいろいろとあると思いますが、現在の法制度は、多分一応11号で抽象的にある一定程度以上に近いものは抽象的にはねるということにしている。その最大の理由は、結局、登録時で今みたいに混同のおそれを判断いたしますので、10年、20年、30年経とうが何しようが、登録時のときに混同のおそれがないと両方とも併存してしまうという怖さが商標法にありますね。僕はニュートラルで、立法論ではどちらでもいいのですが、もしこうやって混同のおそれを判断するというのでしたら、もっと明確に事後的に、もし今回の立法論で、4条1項11号の判断を今までのような抽象的なものとしないというご判断をおとりになるのでしたら、混同のおそれというのは登録時点だけで調べていたら危ないことになりますから、もっと明確に事後的なものも調べるという形で大胆に法制度を変更すべきだと思います。ただ、どちらにするかは、選択肢は、私は特に決めているわけではありません。ちょっと長くなって失礼いたしました。

土肥委員長

多分そういうことは議論の中で論じていただくことになるのだろうと思うのですけれども、竹田委員、ご質問ございますでしょうか。

竹田委員

質問ですか。

土肥委員長

およそ質問を皆さんお出しいただいたということであれば……。

大泉委員

先ほど古関委員の最初の質問で、なぜこの問題を議論しなければいけないのかというお話がありました。私も、現行法のメリットと、今ご提案の異議待ちの審査制度を導入したときのデメリットと比べますと、現行のメリットの方が大きいように思えてならないのですね。なぜこういうご提案があるのかということに関係して、まず1つお聞きしたいのですが、今の審査の制度について、国際的に、あるいは国内から、今の制度がおかしいという批判というのは出ているのでしょうか。まず1点目、お願いいたします。

木村審議室長

国際的な批判があるかどうかというのは、特にないと思います。基本的に我々として別に提案というと非常に大それたもののように考えられるのですけれども、今回商標でわざわざこうやって審議会をつくって、それで商標制度について、定義も含めて大胆に直そうという中で、避けて通れないテーマではないかということでこれを議論しているのであって、別に結論を決めうちして、何が何でもそこに誘導するとか、そういうことを別に考えているわけでは毛頭ないので、その点はご安心いただければいいのかなと思うのですけれども。

土肥委員長

今のご質問については、私もそのように、議論をするということで承っておりますので、何か特に案があるということは承知しておりません。
それでは、時間の関係もございますので、内容的な議論をしていただきたいと思いますけれども、恐らく相対的拒絶理由というのですか、無審査制度の問題と、使用状態の判断の問題、つまり不使用の抗弁というのでしょうか、そこは恐らく少し分けることもできるのだろうと思います。前半の部分からまず議論をしていただきたいと思いますけれども、14ページまでが各国制度の説明だったわけでございます。15ページ以降から比較検討ということで、キーワードとして幾つか出していただいておるところであります。市場における混同の回避の可能性の問題、商標選択の自由の問題、コストの問題、権利の安定性の問題、こういうものを事務局からキーワードとして出していただいているわけですけれども、恐らく事務局としては、そういう4つの観点というものを入れて議論してほしいということなのではないかと思いますので、このあたりを意識していただきながらご意見をちょうだいしたいと思います。竹田委員、先ほどどうも失礼いたしました。お願いいたします。

竹田委員

まず私の意見の前に、先ほど田村委員がいわれた判断基準時ですけれども、これは4条3項の場合には出願時になりますが、それ以外の場合は査定系では審決時、当事者系では登録査定時というのが裁判所の一般的な取り扱い方だろうと思います。
それは、それだけにしまして、相対的拒絶理由の考え方は、商標の機能が出所識別機能にあって、出所を混同するおそれがあるような商標については登録を許さないというところにあると思います。そして、混同を生ずるおそれがあるかどうかの判断におきましては、実際には市場の取引の状況を踏まえないと的確な判断はできないわけで、それですから最高裁でも11号についてですけれども、氷山事件判決等で取引の実情も踏まえてといっているわけです。審査と審判との間で、その点に規定上の何らの差もないわけですから、先ほど田村委員がいわれたように、審査で市場の取引の実態をみなくても、無効審判、あるいは審決取消訴訟で争えるから審査の段階においては市場の状況を踏まえないでもいいという理屈はないだろう。つまりその意味では、法律上は審査であっても審判であっても、商標の本来の出所識別機能から考えれば、取引の実情も踏まえて判断しなければならない。
しかし、なぜ今日のような問題が出てくるのかという、古関委員がいわれたことから考えますと、報告書にもありますように、結局、今いったような観点で職権調査をやるということは、実際上の審査の対象となる出願件数等から見てとてもやり切れない。その負担に耐え切れないのが実情である。したがって、審査段階ではそこまで見ないで形式的に、11号でいえば、称呼・外観・観念かどれかが類似すれば拒絶理由通知をしてしまうということにならざるを得ない。しかし、それだからこそ制度をどうすべきかという問題があるわけですけれども、それでいいのだというのは、今の法律の規定からいえばいえないことだろうと思うのです。だから、現行法の規定を踏まえてどうあるべきかという議論をするならば、審査段階でそこまで審査する。つまり混同のおそれが生ずるか生じないかまで審査して決めるというところまでいかなくてはならないのですけれども、実際に、今の状況ではそれをやり切ることは難しい。
そうすると、もう一つ観点を変えて、必ずしもそういう制度だけが本来あるべき制度といえるのかどうかという視点からドイツの制度とかOHIMの制度とかイギリスの制度とか、いろいろ比較法的な検討をなさって、議論してほしいという提起がなされているのだろうと私は理解するわけです。
そうなった場合に、一つの方法として、確かに相対的拒絶理由については、絶対的拒絶理由と区別して、これについては、いわば形式的な審査だけで一応そこはパスさせて、その後は、異議制度であるとか無効審判制度で適正な処理ができるようにするという制度の選択も一つの選択かなと感じます。ただそれですと、一番懸念されるのは、著名商標のただ乗りで、それが次々に登録されて、著名商標の商標権者は、その対応に大変な思いをしなければならない。制度の在り方として、そういう制度がいいのかなという点は疑問に思います。その辺は何とかクリアする方法があるのであれば、今の点はたしか審議室長も先ほどちょっと指摘されたところだと思うのですけれども、そういう具体的な提案なり構想があるならば、それはぜひ聞かせていただければと思います。
もう一つの在り方として、これは、まだ熟しているわけではありませんけれども、現行の制度を基本に考えた場合に、審査段階で先ほどいったような趣旨での審査を徹底できない。それももっともだ。それならば、特に11号を例にとっていえば、称呼・外観・観念のいずれかが類似すれば拒絶理由通知を出していい。その段階では取引の実情をみなくてもいい。しかし、それに対する意見書が出て、その中で、市場取引の実際においては混同を生ずるおそれがないということを主張して立証した場合には、審査官はその点を審査しなければならない。こうすれば、かなり市場の実態調査の審査官の負担は減りますので、現行制度でも混同のおそれという商標の機能に依拠して審査するという方法もあるのではないか、今の審議室長のご提案にはないですけれども、そういうことも一つ考えていいのかなと、まだ熟した意見ではありませんけれども、そういう点も考えている。以上です。

土肥委員長

ありがとうございました。前半の部分はご質問にもなろうかと思いますけれども、竹田委員のお考えを前提にして、特に中間的な制度の在り方、周知・著名、そういったようなものについては従来どおりやるというようなこと、そういう点について何か試案がございましたら、これが第1点の質問だったと思いますけれども、それからお願いできますか。

木村審議室長

21ページの「(4) その他」というところで書いておりまして、この辺についてはさまざまなバリエーションがあると思っております。どちらの制度で絶対になければならないということを我々として申し上げているわけでもないですし、間をとって幾つかさまざまなバリエーションがあるだろうと思います。今、竹田委員がおまとめいただいたような考え方を我々としても、ある程度もっているということだとしますと、それについて、とるべき処方箋というのが何も1つだけではないだろうということで、当然複数の解といいますか、方策というのはあり得るということは考えております。ただ、それについて具体的に、例えば4条の各号のどれをみて、どれをみないというようなことまで、現在そこまで具体的に彫琢した提案が我々サイドにあるわけではないので、現在はものの考え方といいますか、そういうものを整理していただいて、我々が今後進むべき方向性ということについてご示唆をいただければありがたいかなと思っておるわけでございます。

土肥委員長

もう一つあったのですけれども、2つ目は……。

木村審議室長

2番目は、まだちょっと、そこまで……。

土肥委員長

しかし、そこのところは、いわゆるコンセントにもつながる話になるわけですね。つまり出願人の方で混同のおそれのないことを示せば、ということになるわけですから、コンセント制度との関係もあるのではないかと思うのですけれども、またこれは……。

木村審議室長

2番目にいただいたご指摘につきましても、まさに21ページの「その他」というところで考えられるさまざまなバリエーションのうちの一つだろうと思いますし、それを我々として現時点で排除するとか、それを採用するとかいうことを断定するつもりはございません。

田村委員

今の竹田先生のおっしゃった周知・著名なものについては別扱いというのもあり得るのではないかということで、ちょっと私も付言いたしますが、現行法でも、例えば47条の無効審判の除斥期間のところで、10号と11号、あるいは15号では、扱いを異にしておりますね。結局、10号でありますとか15号については、不正競争の目的、あるいは不正の目的がある場合には除斥期間にかからないという形で、明らかに11号と区別していまして、同じような今日お話になった相対的な拒絶理由というものの中でも、その中でも特に、それでもやや公益的なものというものがあると思いますし、その意味では、10号と15号というのはどうしても混同が生じますので、別扱いするとすれば、ここが一つの境目になるかなという気がいたします。
7号と19号の関係というのも大変難しいところでございまして、不正の目的の出願があった場合、それが他人の周知の商標であれば19号で不正目的だということで拒絶が打てることになっているわけですが、問題は函館新聞事件のように、周知でも何でもないときにも独禁法違反に値するような取引妨害目的で商標出願がなされる場合がある。それを現在では、特許庁の実務では7号で扱っていると思うわけです。もちろん細かいことはこれからなのでしょうけれども、そういう意味では、7号と19号、そこもなかなか、片方は絶対で、片方は相対的で、なかなか截然と線を引きがたいところがあるかと思います。
最後になりますが、不使用商標の方にも関係があるのですが、そういう意味では11号というのは、もしかすると、まだ特に何も使っていない、信用を化体してないということであれば、確かに私益的だというような位置づけはあり得るのかなと思います。
もう一つついでに、今読みました47条にかかわることですが、異議待ち審査とかいうことになさった場合、僕自身はニュートラルでどちらでもいいのですけれども、もし現行法を変えて、今日のご提案のような形で異議待ちになったときには、商標権の濫用というものが怖いので、今これは、基本的には、原則としては5年の除斥期間に無効審判もやっておりますけれども、これを残しておいたままですと、今よりは瑕疵のある登録が増えるということになりますから、5年の間はずうっと黙っていて、気付かれずに異議も無効も出されないまま登録をしておいて、後から権利行使するということが当然出てくると思いますので、無効審判は恐らくそうなさるのではないかと思いますが、除斥期間などなくすという形にしていただきたいと思います。

土肥委員長

ありがとうございました。今おっしゃった7号の問題と19号、あるいは7号と11号だってぶつかるところがあるのだろうと思うのですけれども、そういう細かいところはまだまだ詰めたところではありませんで、非常に大きな枠組みの議論をしていただきたいということでございます。今のところは我々の方でテークノートしておくということでございます。
古関委員、先ほどちょっと話の腰を折ってしまったようなところがありますので、どうぞお願いいたします。

古関委員

私、竹田委員ともともとの発想点が違っておりまして、抽象的な判断手法というのが悪いと思っておりません。むしろ抽象的な判断手法からはみ出た審査があることが問題なのであって、そこを私、問題にしているだけなのです。これは、なぜそういう理由が起きているのかという理由の一つとしては、審査結果というのが、例えば拒絶査定と、査定確定後1年を経過すると廃棄されてしまう。審査の積み重ねがない、審査官にとってみれない、そういう状況にあるのは、一つ最大の要因ではないかと思っています。当然抽象的な判断をされていた中に、取引の実情を考慮した判断というのも審査官レベルでも当然今でもありますし、全くないわけではない。むしろそういうような従来の抽象的な判断からはみ出た審査がある現状が問題なのではないかと理解しています。

土肥委員長

今の、私に難しくてよくわからなかったのですけれども……。

木村審議室長

取引の実情を審査官が裁量的にというのも変ですけれども、できる場合はやって、できない場合はやらないというような運用というのは妥当ではないのではないかというご指摘と承ってよろしいですか。

古関委員

現行でも実際にそういう判断はされているというふうに認識しています。

土肥委員長

判決等でもそれを求めてますね。ということは、抽象的な判断で終始しているのが問題ということにはならないのですか、それはならない……。

古関委員

審査基準でも総合的な判断されるというのは、審査基準上にもあらわれてますし、そういう判断が実際の審査レベルでもあるというように認識しているということです。だから全くないわけではない。

土肥委員長

そうでしょうね。そういう前提に立って審査の在り方といいますか、今回提案のあった相対的拒絶事由、それから絶対的拒絶事由、こういったようなものの制度設計についてのご意見はございますでしょうか。

古関委員

その意味で、現行の11号に対する考え方というのは、私は残すべきであろうと思いますし、仮に今も不要になっていますけれども、そういう段階での画一的な中に、さらにそこに具体的な取引実情を踏まえた判断というのは継続されるべきであろうと思っています。逆に、第3回の議論を聞いていると、そういう形式的な判断は抜きにして、具体的な取引実情を中心に考えようというような見方があったかのように、私はその印象を受けたのですけれども、かえってそうした場合のデメリットといいますか、個別具体に出所の混同が生ずるか否かということをメルクマールとする商標制度が本当に妥当なのかどうかという点に関しては非常に疑問をもっているというのが感想です。

土肥委員長

個別具体的な混同のおそれを排除することが疑問ということですか。

古関委員

もう一つつけ加えますと、確かに不使用の抗弁を入れた場合だとしても、異議申立人の側としては実際に使用している事実は出さなくてはならない。ところが、出願商標はあくまでも使用意思に基づく出願を許すわけですから、具体的な取引実情というのはあり得ないわけですね。そうするとあくまでも一般的な出所混同のおそれで議論せざるを得ないわけですから、そこは現行でも何ら変わらないということなのではないかなと理解しているのですけれども。

土肥委員長

今回の議論の前提になっているのは、もっと根本的なところを問うているのではないかと思っているのです。つまり前提として現在ある使用意思に基づく出願とか、それはいかがなんですか。そもそもそこから問おうということだと思うのですけれども、違うのでしょうか。

木村審議室長

使用意思を問うか問わないか、ちょっとそれは違う問題のような気もするのですけれども、確かに根本的な議論もさることながら、相対的な拒絶理由についていかなる審査を特許庁がすれば一番、それは個々の出願人といいますか、出願人の総体といいますか、そういう全体の中で最も安定的で、かつある意味では不公平のない、そういう運用ができるのかということがあります。そして、当然それは訴訟になると事後的に混同のおそれがあったかなかったかということについて、事後の実態をみながら、これは審査当時の判断としても混同のおそれはあったのだというように恐らく判断をされているのではないか。ある意味では事後の証拠によって当時にさかのぼって判断をするということなのだろうと思うのですけれども、そういうことは、ある意味では当たり前のようになっている――ちょっと言い方は悪いのかもしれませんけれども、そういうことだとすると、それをあくまでも登録の時点でみなければいけないということの限界といいますか、そういうものをどういうふうに認識するべきなのか。
先ほど竹田委員から2番目のご提案としてあったような仕組みを仮に導入するということについて、例えば産業界の皆様方のご印象としては、いや、それは審査官がわかる限りにおいてはやるべきだし、またそれにとどめるべきだ、ある意味では現在の運用ですね、そういうものがよいのか、あるいは一律にまずは抽象的、形式的にのみみて、それで拒絶理由を打った後で、それへの対応としてそれに対して意見が出てくれば、それに基づいた判断を改めてやるというのも一つの見識だと思うのですけれども、むしろ、そういうことではなくて、今の運用がいいということなのか、その辺が、私としてもわかりかねているところではあります。

田村委員

特に古関先生が問題になさった具体的な出所の混同を考えるのか、抽象的に考えるのかということですが、私自身は、ある程度抽象的に考えた方がいい事例があると思います。それは、またいつも恐縮ですが、私の「商標解説」第2版の119ページに詳細は譲りますけれども、東京高裁の平成8年4月17日のSPAという事件があります。これは、出願商標がSPA、図形もついているのですが、結合商標です。それに対して引用された既登録商標がSPARです。それからスパーという片仮名文字の2段書きのようです。
この判決は類似性を否定しているのですけれども、そのときに、本願商標であるSPAの方の使用状況をみると、SPAの文字の上部に「歴史あるベルギーの偉大な水」と表示され、説明文に「ベルギー国内でもひときわ自然に恵まれたスパ市、そこにわき出す清らかな泉がスパの故郷です」等々の記載があることや、「ベルギーからSPA上陸」という新聞広告がなされていることなどを斟酌して、出願商標のSPAの文字部分は、ベルギーのスパ市に源泉を有しているミネラルウォーターであることを示すものとして用いられていると認定し、このような使用状況からすると、出願商標を使用した商品が、既登録商標を使用した商品と出所の混同を生ずるおそれはほとんどないという判断をしているわけです。私は、これは行き過ぎだろうと思うわけです。
それは、出願商標のSPAの方に、たまたまその時点ではいろんな説明文がついて出願人は使用していたというだけで、これが未来永劫、この使用態様が続くとは保証されていません。その意味で、この場合でしたらSPAとSPARだけをちゃんと比べるべきだったと思うわけです。そういう意味で、抽象的というのが、何かすごく悪いかのようなご意見が多かったので、私は、よいこともあるということ、そして、最初に申し上げたことですが、それを変えるのであればもっと大胆に、こういう東京高裁の判断をもし許容する方向に変えるのであれば、例えばこの出願人が使用態様を変えてきたときには、現在では登録時の出願時点で判断せざるを得ませんが、事後的に使用態様が変わった時点で商標登録を取り消すような制度を別途設けなければいけないだろう、そういうことで最初に申し上げた次第であります。

土肥委員長

そもそも現在の11号において抽象的な混同のおそれ、あるいは具体的な混同のおそれ、どちらの判断をするべきかというよりも前に問題になっているのは、11号のようなそういう相対的な拒絶理由については判断をしないという提案になっているわけですね。これは商標制度全体としての効率とかコストとか、そういうものを全体的にみられた上での議論のたたき台として出ているわけですが、そもそもここはいかがなんでしょうか。

古関委員

登録になる前までは審査は確かにされないかもしれませんけれども、結局は、異議を待ってそこで審査されるわけですね。その審理結果というか、結果としては、今の11号の判断と同じことをおやりになろうとしているのではないのですか。

土肥委員長

仮にそうだとしても、大きく違うのは、制度を維持する上で全部についてやるのか、出てきたものについてやるのか、こういうことですね。そういう意味での資源の有効的な活用ということなのですけれども、全部やるわけではないわけで……。

古関委員

わかります。もう一つは、話はちょっと横道にそれてしまうかもしれませんが、先ほど47条の除斥期間の話が出ましたので、先ほど判断時期を柔軟に解すべきではないかというご意見が出ましたけれども、もしそうであるならば、出所混同の議論よりも、3条の判断時期を、いわゆる47条で3条の判断時期は査定登録時となってますけれども、判断は硬直性という点では、3条は全然ここでは触れられておりませんけれども、むしろ3条の方が柔軟に、その時々に応じた識別性を判断するような必要性があるような気が、私はしておりますので、47条を法改正されるときは、3条の見直しもぜひしていただきたいと思っております。

竹田委員

議論の方向が、審議室の方で提起したこととずれていると思うのですね。その方向の議論をしないで、ぜひとも産業界の方、ユーザーの方がたくさんいらっしゃるので、先ほど提案されたような相対的な拒絶理由については、最初の段階の審査をしない、形式審査的なものにしてしまう。その後の付与異議とか無効審判制度で対応するという提案がなされているので、それについてユーザーの側からどう考えているのかを、私も関心があるので、聞かせていただきたいと思うのです。

土肥委員長

第3回にかなりご意見はちょうだいしたところなのですけれども、ユーザー、つまり利用者が恐らく2種類あって、たくさん出願をなさって、たくさん権利をおもちの方、つまりサーチ等にコストをかけたり、あるいは独自にサーチができるような立場のユーザーの方と、割合個別的な中小企業というのでしょうか、独自にサーチをする体制をおもちでなかったり、あるいは外部の企業等にそういうサーチを依頼される場合とあるのだろうと思うのですけれども、どちらの立場でも結構ですが、ユーザーで、大泉委員、お願いいたします。

大泉委員

企業の規模と余り関係なしにいえることもあるかと思います。現行の審査主義で安定した権利を付与してもらいたい。それから安心して権利行使、あるいは商標を自分で使用したいというのが基本的な要望だと思います。それは、今の制度でかなり実現されていると考えてよろしいかと思います。異議待ち審査制度を導入することによってのデメリットというのが最も心配されることでして、幾つか考えられると思います。それは、ウォッチングの負担増加ということがあります。これは、出願時には他人の先行権利の存在を調査し、それの使用の有無まで調査しなければいけなくなる。自分が権利者になった場合には、後発の出願に対してのウォッチングを今まで以上に強化しなければいけない、これは間違いないと思います。
コストアップの試算が出ておりましたけれども、例えば自分の社名だけを年1万円でウォッチングすればいいというだけでは済まなくなると思うのです。自社の商品についてすべてウォッチングしなければいけないという可能性も出てくると思うのです。コストアップといろんなものが後から登録になってきて、それに対する異議を検討しなければいけないという人的な負担増というのも出てくる。ですから、現行の審査主義について、もうそれが維持できないという問題点がない限り、なぜ審査主義にメスを入れなければいけないのかというところが非常に疑問なんです。

土肥委員長

そこはもちろん、疑問をお持ちだというのはわかるのですけれども、仮に入れるとしたらという仮の話なのですね。ですから、そこで議論をしていただきたいということなのです。

大泉委員

仮にもデメリットがたくさん感じられるので、その制度は、導入は困るという意見がほとんどすべてです。

三宅委員

コストの点につきましては、今、大泉委員がおっしゃいましたので省きますけれども、やはり企業としましては、使用開始時点で完全とはいわなくても、比較的安定した権利をいただきたいというのがございます。仮に異議待ち審査制度を導入しますと、付与後異議であれ、付与前異議であれ、少なくとも見落とし等で通過してしまうものもございますし、あるいは中には意図的に異議を申し立てずに、使用開始時点で侵害を問うとか、そういうことも可能なわけで、企業としましては、その点非常に不安が大きいと思います。今回の提案の理由の中に一つ、商標の選択の自由の拡大というのがございます。これ自体は、当然ユーザーとしても望むところでございますけれども、それをねらうとすれば、出願時点においては無用な出願をしない、登録時点においては、ライフサイクルの短いものは、せっかく分割の制度がございますので、それを利用するとか、あるいは登録料納付時には、多区分出願のものは本当に必要なものだけに絞って、1区分だけ登録料を納めるとか、あるいは使ってない商標は更新登録しないとか、そういう行動につながるところにスポットを当てていかないと、不使用商標対策にはならないと思います。
そういう意味では、私は、異議待ち審査制度が全く効果がないとはいいませんけれども、不使用商標対策に直接つながるようなものではないと思っております。

髙部委員

考慮すべき要素として4つ挙がっているのですけれども、この4つの要素には、かなり軽重があるのではないかと感じております。市場における混同の回避、商標選択の自由、コストの負担、権利の安定性、この4つなのですけれども、私どもの立場からいうと、市場における混同の回避ですとか権利の安定性というのは非常に重要だと思っております。それに比べますと、商標選択の自由というのが、商標法のどこから出てくるのかというのがよくわからないのです。もちろん自由というのはあるのかもしれないのですけれども、商標法が目的とするところからストレートには出てこないように思うのです。最も重要だと思われる市場における混同の回避についても、事業者同士が混同しないと判断すれば、その場合は異議もないし、あるいは異議をいわなければ、それで、仮に客観的にみて混同のおそれがあったとしても、登録されるというのは、いろんな意味で法的安定性を害するのではないかという気がしております。これはコンセント制度にもつながる問題なのですけれども、何を保護するのか、混同とは一体だれのレベルの混同なのか、そういった問題と絡み合ってくるように思います。

土肥委員長

ありがとうございました。今おっしゃった商標選択の自由に関しては、実際に182万件の登録商標が存在して、委員の方々のご意見は出なかったのですけれども、現実には商標登録をしようとしても、出願をしても恐らくぶつかるという、恐らく使われない商標が本当に登録されていて、競争阻害的になっており、いわば商標法1条でいうところの産業の発達にもつながるような問題だ、そういう認識で出ているのだろうと思うのですけれども、三宅委員もちょっとおっしゃいましたけれども、不使用の問題を別に扱えというようなご提案かなと思ったのですが、今39分になっておりまして、不使用の抗弁という問題をぜひとも扱わせていただきたいのですけれども、これは非常に思い切った興味のある提案ではないかなと思うのですが、これはいかがでしょう、この点について、三宅委員、先ほどちょっとおっしゃいましたけれども、こういうご説と、これに対する一つの提案として、不使用商標問題について、こういう抗弁を考えるということではいかがなのでしょうか。

三宅委員

侵害の場面とか異議申立の場面等で、不使用の抗弁といった形で、ある程度使用義務を強化するような方向での対策というのは必要かと思いますが、権利者側としては、当面出願に対して異議を申し立てないというやり方はあると思うのです、使ってないからという理由で。そうなると根本的な解決にはちょっとならないので、もし不使用対策をやるのであれば、例えば、これも検討しなくてはいけないとは思うのですけれども、登録査定は出すけれども、使用証明が出されるまでは登録はしませんとか、そういうやり方もあると思うのです。

土肥委員長

後願の出願人が出願をして、仮に現行法のもとで11号に当たるという場合に、不使用の抗弁を出す、使ってないという抗弁は、査定の段階で出せるのですね。

三宅委員

出せるのですけれども、異議待ち審査の場合は、異議申立てそのものをしないときには、そのまま通過してしまうわけです。

土肥委員長

登録されることになるわけです。

三宅委員

登録されますね。登録されるということになると、従来の不使用商標がいっぱいある中で、さらに類似の登録がどんどん増えていく、そうするとますます混乱するのではないかと私は思うのです。

土肥委員長

不使用の抗弁が出ても、先行の商標登録が存在する事態は変わらないのであるから、混乱するおそれがあるのではないか、こういうことなのですけれども、例えば、そういうことに対する手当ては何か考えられますか。

髙部委員

諸外国で不使用の抗弁を入れている国が幾つもあるということのようなのですけれども、そのときの効力としては、どういう形になっているのでしょうか。つまり先行の商標権者が、後発の出願に対して異議とか無効審判を起こすわけですね、それに対して、先行の商標権者は使用していないでしょうというのが不使用の抗弁だと思うのですけれども、それが先行者側で使用が立証できないときには、後行のものが登録された状態で併存してしまうことになるですね。それが自動的取消しになるとか、登録が抹消されてしまうというような制度をとっている国もあるのでしょうか。

土肥委員長

いかがでしょうか。

木村審議室長

それは、調べた限りではないと思います。

髙部委員

そうすると、それを併存させないためには、不使用の先行の登録を何らかの形で、不使用取消のような形で別途取り消す手続が必要だということになりますでしょうか。

木村審議室長

基本的にたしか併存すると思うのですが、ある意味では全く権利行使のできない権利をいつまでももっている必要はないだろう。だから、例えば更新のときに次の10年分の更新手数料は支払わない。そうして権利が放棄されることによって、実際に使用するものだけに徐々に収れんしていくのではないかと思うのです。直ちにそれを職権で、例えば取消しとか、あるいは一種対世効のようなものを与えるとかいうようなことは、そこまでいきなりする必要はないのではないかなと思うのです。

竹田委員

今のお話を聞いていると、ちょうどキルビー特許判決のときと同じような感じになると思うのですね。当該商標の先行の商標権者が、後願で類似範囲に入る商標について登録されたといって無効審判請求を起こすわけですね。それに対しは抗弁として、使ってないから登録が併存していてもいいのだというわけですね。その限りでは併存するけれども、その権利は使ってない権利ですから、今度は、別にそれが不使用取消でなくならない限りは、権利として存在はしているのですけれども、多分その権利を今度は侵害訴訟で使おうとすれば、それは前にもこういう判断が出ているということで使えないことになる、というような関係になりますね。そういう制度はあってもいいと思うし、使用主義を徹底するのには、そういう制度は、考えられると思うのです。
もう一つ、侵害訴訟では、多分商標権者が使用していない、指定商品のある部分については使用していても、ある商品については使用していない場合その商品を使用している者に対して侵害訴訟を提起した場合に、多分2つ考えられて、1つは、今いったような不使用だから、現在使っていない商標権に基づいて侵害訴訟を提起するのは権利の濫用だ、そういう方向性と、もう一つは小僧寿司判決のように、使用してなければ損害が発生しないということで解決も多分できる。そうすると、現行法でも多分、前者のような判決はないのでしょうけれども、考え方は示されているようですし、後者は最高裁判決で承認するところだから、不使用の抗弁を認めなくても支障はないかなと思うのですけれども、そういう使用していない商標権に基づいて差し止めを求めるようなのは権利の濫用だという理論は、あってもいいかなという気はしますけれども。

土肥委員長

先ほど竹田委員の発言の中に出たのですけれども、先行の不使用の商標権者がいて、後行の商標権者が無効審判で争いになるのだけれども、不使用の抗弁が出て、権利の濫用にしても何にしても、先行の権利者の商標権の行使は認められないということになるのだが、逆に、先行の商標権者が使用を始めたときには侵害になるというお話だったと思いますけれども、それは侵害になるという理解ですか。先行の商標権者が使用を開始したら、後行の商標権者の商標権の侵害になるのでしょうか?

木村審議室長

それはなるんじゃないでしょうか。基本的には3年間不使用の状態が継続していて、なおかつ侵害の議論の時点で使用してないということが要件になる……。

土肥委員長

使用開始したときに後行の商標権の侵害になるのかどうか。

田村委員

それは、多分規定の仕方によると思いますね。もし何も規定をしないときには、もしかすると先使用の要件と反対解釈されて、今の例ですと、先行だろうが後行だろうが、どちらの出願時にも使用していませんから、逆に侵害になるのだというふうに理解される可能性もありますし、あるいはもしかすると、商標権の権利行使だということになって、逆に今度は、少なくとも先行の商標権の場合は使えるという議論もあり得ると思いますので、これはどちらも取り得ると思うのです。だから、どちらにするかを立法で決めなければいけない問題じゃないかなという気がしております。もしそうするのでしたら、僕自身は、ついでにいわせてもらえば……、いわない方がいいかな。

土肥委員長

どうぞ、お願いいたします。

田村委員

僕自身は、むしろ登録が併存するということの方が怖いですね、そういう意味で。使用主義がバラ色では決してありませんし、登録主義のよさというのもあります。最後、24ページにいろんなバリエーションを書いていただいているので、それはこれからということなのでしょうけれども、3年間は、現在でも使用していなくても取り消されない制度ですから、その間はその人だけが使用するかどうかをみきわめてあげる。そのかわりほかの人には登録を許さないという立場はもちろんあり得ると思います。逆に、侵害訴訟で不使用の抗弁というのは、むしろこれは有望だという気がいたします。登録は併存しないわけですし、侵害訴訟の不使用の抗弁も、僕は3年の猶予は認めるべきだと思いますけれども、3年もたってまだ使ってないのに権利行使するとは何事だということはいえると思うのです。ただ、そのときも、一旦不使用で請求棄却になった後に商標権者が使用開始した場合に、その後どうなるかとか、あるいは被告の方が不正競争防止法上の周知性・著名性を備えたときに、両者の関係はどうなるかとか、これはいろいろと後で考えなければいけない問題だとは思います。

髙部委員

やはり不使用の抗弁を認めても登録が併存する限りは、いろんな意味で混乱が生じるおそれがあるように思います。不使用の抗弁を受けて、その段階で気がついて、先行の商標権者が使用し始めれば、当該後行者との関係では負けるかもしれませんけれども、第三者との関係では勝てるわけですね。登録はあるわけですから、商標権を使用しているということになるわけで、そうすると、そこのあたりの調整というのは非常に難しい問題がたくさん出てきそうな気がいたします。問題点を整理しておく必要があるように思います。

小塚委員

私は、高部先生とか田村先生とちょっと感じ方が違いまして、確かに制度の表面をみますと、登録が併存して非常に混乱が生ずるように感じられるのですが、実質的にはそんなに問題は生じてこないのではないかという印象を受けたのです。それはなぜかといいますと、先行商標が不使用であるというのは理由があるわけですね。本来使うべきところを使っていないということはそうそうないわけでして、使っていないというのは、基本的に使う必要がないから使っていないわけですね。それを、不使用の抗弁が出されたから急に使い出すというのは、つまり権利を失わないがために使い出す。そうすると、しょせん先行商標権者の本来のニーズにマッチしない形で使う。そういうことは、長期的には維持できないであろう。こういうことが、不使用の抗弁を入れるという制度的なご提案の前提にはあるのだと思います。そうしますと、もちろん田村先生がいわれるような制度のつくり方の問題はありますけれども、上手につくりますと、結局、使う必要のない人は自然に商標権を使わなくなり、やがて消えていく、こういう制度が仕組めるのではないかと思いますので、実質的にはそんなに問題が生じないのではないかという印象をもちます。

松尾委員

先ほどから皆さんの意見を伺ってますと、今与えられる権利は、非常に安定した権利行使のできるいい権利であるというふうに思っていらっしゃるので、私はちょっと意外だったのですね。一番初めに問題になったときには、特許庁と裁判所で判断が違うこともある。侵害にいってから、また判断が違う。そういうことで問題があるのではなかろうかというようなところが一つの問題点だったと思うのです。相対的拒絶理由、そういうものについては当事者同士が一番よく知っているということで、市場をよく知っている当事者による後からの異議を待っての審査でいいのではないか、そういうところが一つポイントだったと思うのです。私は、今でも、実はその方がいいのではないか。だけれども、当然、市場に混同が生ずるような権利は、やはり与えては困るということで、先ほど21ページでしたか、出ていましたような周知・著名商標は例外であるとか、同一商標については特許庁でも容易に判断できるので、そういうものは相対的ではあっても、やはり審査をして、同じものは拒絶するというような運営をしたらいいのではないか。
これらを要約しますと、今までの権利は果たして安定した権利であるかの点と同一類似の商標が登録されては困るという2つの問題点があると思います。前者については、特許庁と裁判所の判断の食い違いをどうみるかの問題を含め、商標権の効力の在り方を見直す必要があるのではないかと思います。後者については同一商標の登録は審査で排除することと、登録商標の不使用に関する抗弁又は権利濫用の抗弁を認める方向で制度を見直したらよいのではないかと考えます。
もう一つ、先ほどから思い出そうと思って思い出せないのですけれども、アメリカで商標の放棄というのがありますね、使ってなくて放棄とみなすという規定もあったと思うのです。そこら辺もちょっと調べてみたいと思います。どういう状況のときに放棄とするのか。
それから商法の商号の規定で、2年間使用してなければ、これは放棄したものとみなすという規定がありますね。そういうところも絡めて、不使用の抗弁だけではなく、放棄とみなすというところも一緒に検討した方がいいのではなかろうかと思います。

土肥委員長

ありがとうございました。今の点、米国の今ご指摘のあった放棄とみなすという点、それから一定期間経過後につきましては登録されておっても放棄とみなす、そういうような研究とか、そういうことをひとつやっていただいて、また検討させていただきたいと思います。
全体的な議論、まだまだ多々残っておろうと思います。この商標制度の枠組みの在り方について、時間も余り残ってないだろうと思いますけれども、この点については少し言い足りないとか、ご意見ございましたら、全体を見渡したところでのご意見をいただければと思いますが、いかがでしょうか。

大泉委員

異議待ち審査制度についてのユーザーの負担という点でいつも考えているのですけれども、実際、各企業の商標担当というのは1名か2名、兼務の場合は0.5名というような感じで、非常に人間的にも予算的にも厳しい状況にあります。これ以上、これからの改正で人的にも金銭的にも負担がふえるようでは、ちょっと賛成をしかねるという状態であることをご理解いただきたいと思います。
資料の中で、制度を導入した場合に異議が起こる確率が1件につき5.2%ではないかというのがどこかにあったと思うのですけれども、こういう確率ではなくて、いろいろな商標が登録されてしまうという可能性が欧州並みにあるとすれば、これは公告に対して16%とか20%とか、そういう確率になるのではないかと思うのです。ですから、こんな低い確率で異議が起こるという認識ではないと思うのです。負担増の懸念というのはこういうところにも出ているかと思いますので……。

土肥委員長

182万件の20%というのは、ちょっと考えられないのだろうと思うのですけれども……。

大泉委員

公告されたものに対して20%近くの異議申立てがあるという資料がございましたね、欧州の場合。

木村審議室長

21ページにOHIMでは異議申立率が18.16%、無効審判請求が1.91%という数字があるということです。ただ、先ほど申し上げた5.2%というのは、それがすべて異議に回るということではなくて、要は、後願の商標があらわれる確率というのは、例えば100件もっていれば5.2件についてはあり得るという話をしていて、確かにおっしゃるとおり、仮に異議待ち審査制度を導入するということにしますと、その率というのは上がるかもしれない。ただ、それはすべてその率で異議がなされるというわけではないということだろうと思います。それから当然使用対策を別途考えるということになりますと、それによってある程度絞り込む、実際に本当に意味のあるものだけに絞り込もうというインセンティブが働くという可能性もあるので、みかけほど増えるというようには私どもとしては予測はしてないのですけれども、ご懸念についてはテークノートしたいと思います。

山中委員

大泉委員と基本的には同じ立場の企業サイドということで1件申し上げたいのですけれども、今回の改定については、昭和34年法に基づいて運用されている制度そのものが実情に合わなくなった、あるいは制度疲労を起こしているというようなことも当然勘案して制度の改定をお考えになっているのだと思うのですけれども、基本的には我々サイドからお話しさせていただくと、改定に際してはユーザーフレンドリーなものをつくっていただきたいと考えております。基本的には商標権という権利そのものは付与されるものでありますけれども、その後、原則として10年間、権利期間中は、それをメンテナンスするのは企業側になってくるといいますか、商標権者側になってくるわけですので、そのメンテナンスが、どちらかというと企業の活動に負担にならないような方向で考えていただきたいと思います。負担にならないというのは、労力の面からいっても、費用の面からいってもということですね。
今ご指摘のありました21ページの「権利の安定性の問題」のところで、異議申立率が0.92%、これがOHIMの例でいくと18.16%で「高いと言える。」という表現をなさってますけれども、実に20倍を「高いと言える。」という表現に当たるのかどうかという、これは立場の違いがあるので一概にいえないと思いますけれども、私どもの立場からいくと、これは比較にならないぐらい、比較を絶して高い実情なので、「高いと言える。」というレベルのものではないと思います。これだけのものが発生するということは、その背後には、この数倍検討に要する時間が恐らく割かれているのだろうと。異議申立てというのは、基本的には出願者の側、あるいは先行権利者の側から出るわけですから、先ほど申し上げた原則でいくと、ユーザーの側にこれだけの負担がかかるという話になるのではないかと思いますので、今後の検討に当たっては、論理的にみるのも大切ですけれども、実際の使い勝手がどうなのかというようなところにも視点を当てていただければ結構かなと思います。

土肥委員長

ありがとうございました。もしよろしければ、時間もちょうど5時を若干超えたところでございますので、よろしければ、これで本日の委員会はこれぐらいにさせていただければと思います。
それでは、どうも活発なご議論いただきましてありがとうございました。
最後に、次回の小委員会につきまして事務局から紹介ございますか。お願いします。

木村審議室長

次回の小委員会でございますけれども、まだ日程は未定なのですが、来年2月以降の開催ということで、改めてご都合をお伺いした上で、事務局で調整してご連絡をいたしたいと思います。一通り個別の論点については議論をしたと思うのですけれども、今後、具体的な制度の在り方について検討していかないといけませんので、本日、あるいは前回までにいただいたご議論を十分そしゃくをいたしまして、あと必要な調査等も進めて審議を改めてしていただければと思っております。以上でございます。

土肥委員長

後ろの肩をもつようなことはないのですけれども、防護標章がまだございますので、その点もひとつよろしくお願いいたします。
それでは、以上をもちまして、産業構造審議会知的財産政策部会第5回商標制度小委員会を閉会させていただきます。本日はどうもありがとうございました。

――了――

[更新日 2004年1月20日]

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