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第8回特許制度小委員会 議事録

  • 日時:平成15年5月9日(金曜日)10時00分から12時00分
  • 場所:特許庁庁舎 特別会議室
  • 出席委員:
    後藤委員長、中山部会長、相澤委員、浅見委員、阿部委員、市位委員、江崎委員、大西委員、岡田委員、北村委員、志村委員、竹田委員、田中(道七)委員、土田委員、長岡委員、西出委員、松尾委員、丸島委員、丸山委員、渡部委員

1.開会

委員長

それでは、時間となりましたので、始めたいと思います。
ただいまから第8回特許制度小委員会を開催いたします。
本日は御多用中のところを御出席いただきまして、どうもありがとうございました。
今回も中山部会長に御出席いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
本日の議題ですけれども、主に職務発明制度の在り方について検討いただいて、最後のところで特許戦略計画、これは仮称ですけれども、特許戦略計画と今後の検討体制について御検討いただきたく思います。
それでは、まず資料を事務局で御用意いただいておりますので、事務局から資料の確認をお願いいたします。
(事務局より、配付資料を確認。)

委員長

どうもありがとうございました。

2.新委員の御紹介

委員長

それでは、早速議題に入らせていただきます。
まず最初に、新委員の御紹介を事務局の方からお願いいたしたいと思います。

事務局

これまで弁理士の代表の方ということで、下坂委員に御参加をいただいておりましたけれども、4月1日、日本弁理士会の役員の異動がございまして、下坂委員は日本弁理士会の会長に御就任をされまして、その関係で委員についての御交代のお申し出がございました。このため、今回、下坂委員が御退任をされまして、新しく後任の委員として大西国際特許事務所の弁理士でいらっしゃいます大西正悟様に新しく委員としてお願いすることになりましたので、本日、御紹介をいたしたいと思います。

委員長

どうもありがとうございました。

大西委員

ただいま御紹介いただきました大西正悟です。
弁理士会の今年度の副会長をやっております。よろしくお願いいたします。

委員長

どうぞよろしくお願いいたします。

3.職務発明制度の在り方について

委員長

それでは、次に2つ目の議題、きょうの主要な議題であります「職務発明制度の在り方について」の検討に移りたいと思いますが、まず事務局から御説明いただきたいと思います。
それでは、まず事務局から資料の御説明をお願いいたします。

事務局

それでは、お手元の資料3、それから参考資料に基づいて、御説明させていただきます。
まず参考資料は複数の資料が1つとじになっておりまして、簡単に御紹介いたします。
参考資料の1枚目、右下に手書きでページが振ってございますけれども、本日、条文を参照することも多いかと思いますので、特許法35条を載せております。
それから2ページ目でございますが、これは先日、最高裁で出されましたオリンパスのピックアップ装置発明補償金請求事件の最高裁判決の判示事項をまとめたものをつけさせていただいております。基本的には高裁判決をそのまま容認したものというふうに考えております。
3ページ、4ページですが、今まで主な団体から出されておりますこの職務発明制度に対する提言をまとめたものでございます。日本経済団体連合会から今まで3度出されておりまして、基本線は変わっておりませんけれども、それぞれ時系列的に抜粋させていただいております。日本知的財産協会、社団法人電子情報技術産業協会、それから日本弁理士会を引用させていただいております。
それから、5、6、7ページでございますけれども、これは先日、在日米国商工会議所から、特許法35条(職務発明制度)について意見書が出されておりますので、これをつけさせていただいております。
それからあと、8ページ、9ページ、10ページ、11ページは、発明者アンケート調査結果の抜粋となっております。今まで御説明した分はいずれも、以前この小委員会で御紹介させていただきましたが、資料3の本文中で引用されている部分について改めて抜粋してつけさせていただいている次第でございます。
本文の説明の中で必要に応じて御参照ください。
それでは、資料3に戻りまして、御説明をさせていただきたいと思います。
まずⅠの「はじめに」で過去の経緯を書かせていただいておりますけれども、前回、第7回の本小委員会におきまして、職務発明制度のあり方についての検討の論点整理をさせていただきました。今回は、今まで出されました御意見、それから各界からいただいている御意見、こういったものをそういった観点で整理をいたしまして、考察を行わせていただいております。
あと、日立の事件で、外国特許権については、我が国特許法の範囲外であるというような判例が出ておりますけれども、この問題につきましては、改めて次回、この部分についてまとめまして、御審議いただきたいと思っております。したがいまして、それ以外の部分について、本日、御審議いただければと思います。
それでは、Ⅱ以下でございますけれども、基本的には4つの観点から考察をさせていただいております。それぞれの観点の中は①、②、③と3つのパートに分けさせていただいておりまして、①の部分で現行制度における状況の御紹介、それから②で皆さんからいただきました意見を御紹介させていただいております。③の考察では、いろいろいただいた御意見の中で具体的な提案等がございますので、それらについて紹介するとともに、何らかの考察を加えたものという形でまとめさせていただいております。
それでは、まず1番最初に「使用者と従業者との衡平性の観点」ということでまとめさせていただいたものを御紹介します。
まず現行制度における状況ということでございますが、基本的には過去の判例及び最高裁判決におきまして、実際に支払われた実績補償の額が勤務規則に基づいて算出された「相当の対価」の額に満たないときは、事後的に不足額を請求できるということになっております。そういう意味で不足分についての請求権というのはすべての従業者が持っているということでございますが、実際には裁判に訴えることはほとんどなくて、ごく一部の方が裁判に訴えて、この不足額の支払いを受けるというようなことになっております。
この観点では、基本的には今まで幾つかの御意見、提言を皆様からいただいておりますけれども、この「相当の対価」の決定を企業が定める就業規則や勤務規則の規定に委ねるべきという意見がございます。それから、あと使用者、従業者の間の合意、契約や労働協約に委ねるべきという意見がございます。
なお、合意を尊重する制度とした場合でも、裁判所によって合意が無効とされた場合には、従業者に「相当の対価」請求権を認めるべきという指摘もございました。他方で従業者側からでございますけれども、アンケート調査の結果では、職務発明に係る権利の承継についての「相当の対価」の決定は、両者の合意を尊重すべきとの意見が最も多かったということでございます。ただ、その条件として、合意を尊重する場合でも、多くの従業者が合意を形成する際の環境の整備、具体的には対等の条件で話し合いができるような条件とか、労働組合のサポートとか、そういったものが必要であるというような意見がございました。
これらについての考察ということでございますけれども、この補償額、「相当の対価」の決定に不満を持つ従業者のうちで、先ほど御紹介したように、一部の従業者のみが補償額の不足について争っているというのが現状です。そういう意味で、こういった一部の従業者が現実に「相当の対価」を受け取ることができるという制度よりも、使用者と従業者の間の合意に基づいて補償額を決定する方法によって、合意したすべての者が納得できる補償の額を受け取ることができるような制度にするということが使用者と従業者の衡平性の観点から望ましいのではないかという考え方はいかがでしょうかということでございます。
それからあと、使用者と従業者の間の合意についてですけれども、使用者側の提示による就業規則等の一方的なものではなくて、実質的な交渉過程を経て締結される労働協約とか個別契約にすべきではないかというような考え方です。それから、またこの実質的交渉を担保するためには、使用者側に情報提供義務とか、説明義務を課すような措置というのは必要ないのでしょうかということを問題提起させていただいております。
また、現行法の特許法35条3項、これは参考資料の1ページ目をごらんになっていただければと思いますけれども、3項に、「従業者等は契約、勤務規則その他の定めにより」ということで、勤務規則以外にも契約によって承継することが今の制度でもできるというような規定になっております。現実的にはほとんどは勤務規則、職務発明規程で承継されているというのが現実ですが、実際には制度上は契約で承継することもできるという制度になっております。この現行法のままであっても、契約によって補償額を定めることができますので、その場合には裁判所は「相当の対価」を決定する際に、その契約に基づく補償額を尊重するのではないか、現行法でも契約によって同じような運用ができるのではないかというような御指摘もございます。
さらに、本文の2ページの③の最後のパラグラフでございますけれども、一方で、先ほど御紹介した各界からの提案の中で、就業規則、勤務規則によって決められるようにしたらどうかという御意見もあったわけですけれども、基本的にはこれは現状と同じで、企業が一方的に定めることになりますので、その場合には現行法のような強行規定によって使用者と従業者との衡平性を図る必要があるのではないか、これはまさに今の制度ですけれども、そういうことを書かせていただいております。
2番目の観点で、「企業が抱えるリスク要因低減の観点」からということです。現状でございますけれども、「相当の対価」の額については不足額を請求できるということでございますが、3ページを見ていただきますと、実際の各地裁、高裁判決ではその不足額の算定に際して、「実施契約に対する各発明の寄与度」とか、「推定実施料率」とか、「使用者が貢献した程度」、「各発明者が貢献した程度」等の項目が示されております。しかし、それぞれの項目についてどのような基準で算定されたのか、具体的な数値との対応が必ずしも示されていないというのが現状でございまして、算定方法は不明瞭となっております。特に、1つの製品に多数の特許が関係している場合とか、包括クロスライセンスのような場合というのは、特にこの算定方法は判決を見てもわからないのが現状であるということでございます。
この観点での各界からの御意見でございますけれども、特に産業界からは、権利承継から長期間たってから結果的には実施が行われて、何らかの収益が出るようなケースですけれども、権利承継から長期間経過後にその不足額が事後的に請求されるということで、企業経営上、非常にリスクであるというような御指摘がございます。あと、特許権を移転する際にも、いつ対価請求権を行使されるかわからないということで、特許権の移転に当たっての経営判断の障害にもなるというような御指摘もございます。
このようなリスクを低減する観点から、産業界から「相当の対価」の決定は、使用者、従業者の合意に基づいて決められるようにすべきではないか。あるいは、企業の定める就業規則、勤務規則の規定に委ねるべきではないかというような御意見がございます。
他方、「相当の対価」の算定基準明確化のために、ドイツのような詳細なガイドラインを設けるというような案もあるかと思いますけれども、これについては、ドイツの例で行きますと、非常に詳細に決められているが故に紛争が頻発しているという点に留意すべきというような御指摘もあったということでございます。
この点についての考察ですけれども、「相当の対価」の額がその発明が実施される時期、発明の譲渡の時期からかなりの時間経過後でないと確定しないこと、最終的には裁判所でしか確定しないということ、さらに「相当の対価」の算定基準が必ずしも明確ではないということを考慮すると、その予見性が低いということは事実ではないかと考えております。この企業の抱えるリスクの低減のために、企業が一方的に定める就業規則や勤務規則に「相当の対価」の決定を委ねるという考え方につきましては、先ほど(1)の衡平性のところでも触れましたけれども、そのような場合には、やはり衡平性の観点から最終的には現行法のような強行規定を置かざるを得なくて、結果的に今と同じ、裁判所に判断を委ねるというケースが出てきて、必ずしもリスク要因の低減につながらないのではないかというふうに考えるということでございます。
あるいは、別途提案がございますように、使用者、従業者間の実質的交渉に基づく合意、契約や労働協約によって定められた「相当の対価」を支払った場合には、例えば特許法35条の強行規定が働かないようにすることによって、そういう予見性を高めるということはできないかというような御意見でございます。
それから、そのような場合でも、場合によっては、裁判所によってその合意が無効になる場合とか、合意がない場合というのもあり得ますが、その場合には従業者に「相当の対価」請求権を認めるようにすべきではないかというようなことでございます。その場合には、「相当の対価」の算定に当たっては裁判所が斟酌できるような規定、例えば現行35条4項にあるような規定を置いておく必要がないのかというような問いかけでございます。
あと幾つかの問題点を指摘されておりますけれども、ドイツのようなガイドラインを策定するということについてはどのように考えればよいのかということの問いかけをしております。
3番目の観点で「多様なインセンティブの与え方を認めるべき」というようなことでございますけれども、現行法の35条4項には、「前項の対価の額は」というふうに規定されております。この関係で判例等でも「相当の対価」というのは金銭以外のものは認められないというような判例になっております。これにつきましては、35条で規定されている「相当の対価」というのはどのような性格のものかということでございますけれども、これは3項で規定されているとおり、従業者がその発明を使用者に承継する見返り、いわゆる補償金として規定されているのではないかと考えることができます。したがって、実際に、今、企業等での運用では、出願補償とか登録補償という補償制度も設けられているわけでございますし、こういったものはインセンティブとしての機能を果たしているわけでございますけれども、これもあくまで補償金の一部であるというふうに考えられます。このことは、過去の判例で見ても「相当の対価」の額を算定する際に、最終的には「相当の対価」の認定額からすでに支払われている出願補償又は登録補償等の額を差し引いているということからもうかがえるのではないかと考えております。
この点についての各界からの御意見ですけれども、やはり業種や各社の事情に応じた発明のインセンティブの付与の形態、多様なインセンティブの形態を認めるべきではないかというような意見が非常に多かったわけでございます。
あと従業者側、発明者側については、アンケート調査によれば、研究活動の成果に対する評価として何を望むかということにつきましては、1番が「補償金」、それから2番で「賞与への反映」、3番目に「昇進・昇格、フェローシップの授与など地位の向上」等の経済的便益を求める意見というのが圧倒的に多かったということでございます。これ以外で、必ずしも経済的便益を伴わない「研究活動の自由度の向上」、こういったものについては、必ずしも意見は多くなかったという調査結果でございました。
これについての考察でございますけれども、この35条の「相当の対価」というものを補償金という観点で見れば、やはり現状のまま金銭のみを「相当の対価」とすることが妥当ではないかということでございます。ただ、発明者へのアンケート、先ほど御紹介したアンケート結果に示すように、その支払い形態については多様性を認めるべきではないかというふうに考えております。ただ、その場合でございますけれども、補償金と給与というのは性格が違うわけでございますので、給与と言いますか、給与的に支払われた際にも、従業者の職責や能力に対して支払われるいわゆる給与と、補償金として支払う「相当の対価」というのは明確に区別する必要があるのではないかということを書かせていただいております。
それから、最後の4点目は、「研究開発投資の促進、産業競争力強化の観点」でございます。現行、35条4項、先ほどの参考資料をもう一度ごらんになっていただければと思いますけれども、「相当の対価」を算定するに当たって考慮する事項として、「発明により使用者等が受けるべき利益」及び「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という項目が規定をされております。この規定を受けまして、判例ではどうなっているかと言いますと、前段の「発明により使用者等が受けるべき利益の額」というのは、職務発明に係る特許についてライセンスをしている場合にはその「実施料収入額」、それから自社実施の場合には自社の実施品の売上高に、実際にはライセンスされていないわけなので、推定の実施料率を乗じた額とか、あるいは自社の売上高から、35条1項に規定されています通常実施権分を引いた額にこの推定実施料率を掛けた額とか、こういったロジックを使って実際に算定されております。あと、発明がされるについて使用者等が貢献した程度については、判例では発明がされるに当たっての、その発明に関する課題の提示とか、会社設備の利用とか、出願手続やライセンス手続への関与、こういった項目が考慮されております。
したがいまして、発明により使用者等が受けるべき利益の額の算出においては、職務発明に係る権利の承継時以降に発生をした売上げ等が考慮される一方で、使用者の貢献については職務発明に係る権利の承継時以降に発生した具体的な例えば実施に当たっての改良活動とか、営業経費、広告宣伝費等、こういったものは考慮されていないというところでございます。
これにつきまして、各界からやはり意見が多数ございまして、そもそも事業によって得た利益というのは発明のみによるものではなくて、営業活動とか改良活動による貢献も大きいのだということで、今のような運用を行っていくと、結果的には研究開発投資の縮小を招いて、産業競争力の強化の観点から好ましくないのではないかという御指摘でございます。それから、あと企業が日本に研究開発拠点を置くことを躊躇して、研究の空洞化とか、産業競争力強化の障害になるのではないかというような御指摘もございます。
この点についての考察でございますけれども、「発明により使用者等が受けるべき利益」の額の算出に当たって、承継時以降に発生した実施状況が考慮されるのであれば、使用者側の貢献についても同様に「発明時に加えて、職務発明に係る権利の承継以降、実施に至るまでの使用者が貢献した額」というのも考慮されるべきではないかということでございます。あるいは、逆に「相当の対価」を算定する時点を発明時、あるいは承継時というふうにもし考えるのであれば、逆に「発明により使用者等が受けるべき利益」というのは、あくまで「発明に係る権利の承継時に推定される額」とすべきではないかというようなことでございます。
いずれにしても、各業種、各企業とか、当然製品ごとにもいろいろ状況が違うかと思いますので、こういった個々の事情を参酌することなく「相当の対価」の額を算出するというのは、その企業の研究開発投資の縮小を招くというような観点で好ましくないのではないかということでございます。したがいまして、職務発明から得られる利益の分配方法の決定については、各企業の事情に精通した当事者、具体的には使用者、従業者の間の合意、契約や労働協約に委ねた方が好ましいのではないかという問いかけでございます。
それからもう一点、最後のⅢの「更なる検討課題」ということで、これはこれまでいろいろ御議論いただきましたけれども、必ずしも十分議論が尽くされていないと言いますか、ほとんど議論されていない項目でございますけれども、長期的なリスクの観点から重要な事項ではないかということで挙げさせていただいております。1つが「対価請求権の消滅時効について」という点でございます。現行の35条の「相当の対価」に対する支払い請求権の消滅事項については、民法167条の一般債権と同等ということで、10年という考え方が定着をしております。先日出ました最高裁判決によりますと、この事項の起算点でございますけれども、職務発明規程等に支払い時期に関する条項がある場合には、その支払い時期が起算点だということが判示をされております。これに対して企業の抱えるリスク要因低減の観点から、この消滅時効が長過ぎるというような指摘も産業界から出されているところでございます。
この最高裁判決でございますけれども、これによりますと、どういうことになるかと言いますと、具体的には例えば従業者の労に報いようと、実施によって売り上げが上がる都度、事後的に再計算をして支払うような職務発明規程を持っている場合には、その最終的な支払い期限からこの消滅時効10年というのが始まるということでございます。他方、一括払いで済ませてしまうというような規程を持っている場合には、そこから10年というようなことになるということで、発明者の処遇という観点では、若干逆行してしまうのではないかというような懸念があるというところでございます。
ちなみに、諸外国ではどのようになっているかということでございますが、これは以前に御紹介させていただきましたけれども、イギリスでは特許の失効後1年以内ということになっております。フランスでは、これは判例によるわけですが、発明者がその発明の商業的利用を知った日から5年というふうになっております。こういった観点から、日本の職務発明制度においてこの消滅時効の、例えば起算点、あるいは10年という期間についてどのように考えればいいかというのを、改めて議論をする必要はないのかというような問いかけでございます。
参考として他の事項の考え方で言えば、賃金請求権は2年、退職金請求権は5年で時効というのが日本の制度の中でとられているというところでございます。
それから、最後になりますが、「職務創作」でございます。これも委員会の中で御指摘いただいておりますけれども、創作(意匠)については非常にデザイナーの流動性が高いとか、なかなか貢献度が見積もりにくいとかということで、果たして特許と同じような制度でいいのかというような御指摘をいただいております。これにつきましては、例えば使用者と従業者との合意に基づくような制度にもしなれば、こういった特殊性というのはその中で交渉過程と言いますか、合意の過程でかなり吸収できるのではないかというような考え方をとることはできないかということでございます。
以上、駆け足で御紹介させていただきました。
ちなみに、まだこの案ができる以前なのですけれども、本日御欠席の委員の方から2点ほど御意見をいただいております。
1点は、ここで御紹介しているような使用者と従業者との間の合意に基づくような制度にした場合ですけれども、やはり各企業の中で従業者の不平不満をある程度受け入れるような調停委員会と言いますか、そういった制度も入れるのがいいのではないかというような御指摘をいただいております。
それからもう一点、5ページの実際の支払いのところで、給与的に支払う場合にきちっと区分して支払うべきではないかというような考え方については、この部分については給与で、この部分については補償金というように分けて支払うというのは現実にはなかなか難しいのではないかというような御指摘をいただいております。
事務局からの御説明は以上でございます。

委員長

どうもありがとうございました。
それでは、ただいまの事務局からの御説明を踏まえながら、職務発明制度のあり方について議論を進めていきたいと思いますが、きょうはもう一つ議題がありますので、おおよその目安として11時40分か45分ぐらいまでというふうに考えておりますが、もちろんそれで議論は尽くせないと思いますので、次回も引き続きこの問題について検討するということにしておりますので、その点をお含みおきいただきたいと思います。
それから、事務局からも御説明がありましたように、海外での発生した利益についてどういうふうに考えるかということについては次回に検討することにしておりますので、今回は検討の対象からは外すということにしたいと思います。
それでは、何か御質問、御意見等がございましたらお願いしたいと思いますが、いかがでございましょうか。
どうぞ。

委員

これを拝見させていただいて、非常に網羅的に問題点がよく整理されているとは思います。大体入っているのではないかと思いますが、ただ非常にあっさりと書き過ぎてしまっているところがあって、根拠を少し説明したらいいのではないかというようなところが2点ばかりございます。1つは6ページの考察のところ、「発明に係る権利の承継時に推定される額」とすべきではないかという意見についてでございます。これは、要するに会社の得た利益というものについて、それを必ず考慮しなければいけないというような点に、余りこだわることは得策ではないのではないかと思うのです。インセンティブという観点からこの制度はできているとすれば、やはり早い時期にインセンティブを与えるという方が効果的なわけでございますから、したがって、利益が顕在化するということを待たなければいけないというところには余り合理性はないのではないかという点が1つであります。
それからもう一つは、要するに発明に対するリスクですけれども、企業側については研究開発費を出すとか、特許を維持、メンテナンスをするとか、そういういろいろなリスクを負っているわけですけれども、従業者側のリスクとしては、余り考えられない。考えられるとすれば、もしかしたら、将来より大きな補償金を得られるかもしれないという期待利益なのだと思うのですね。したがって、その期待利益はある程度放棄してもらうという、そういういわばリスク、この調整のところにこの制度が成り立つ基盤があるのではないかと思いますので、そういう根拠を少し明確に説明していただいた方がいいのではないかと思います。
それからもう一点は、前の5ページでございますけれども、一番最後のところに、「企業が日本に研究開発拠点を置くことを躊躇し、我が国の産業競争力強化にとって障害となるとの指摘もある」、ここは少し飛んでいるのではないかと思うのですけれども、例えばアメリカ等の制度が異なる国との間の国際的な共同研究契約等をやった場合に、その研究者に対する処遇の制度がお互いに違うということで、いろいろトラブルとか、あるいはいろいろな調整をしなければならないというようなことで、そういう共同行為の遂行に支障が生じるというような、そういう点があってこういうことになるのではないかなと思いますので、そういう点も若干具体的に書いたらどうかと思っております。
それから最後にちょっと質問なのですけれども、「労働協約」と言った場合には、これは労働組合との関係でございますね。発明者は管理者がたくさんおります。この辺はどういうふうに整理されるのか、ちょっと御指摘いただけたらありがたいと思います。
以上です。

委員長

どうもありがとうございました。
最後の点、特にいかがでしょうか。

事務局

最後の点ですけれども、労働組合がある層については、当然、労働協約というのはあり得ると思いますけれども、ない場合には、基本的には個別契約になるのではないかと思っております。管理職組合とか、そういったものがあれば当然そこということも考え得るとは思いますけれども、選択肢としてはどちらかということではなくて、個別契約なり、労働協約、そういったいずれにしても実質的な交渉を経て決める選択肢と言いますか、方法が望ましいのではないかという視点で書かさせていただいております。

委員

済みません、それについて。

委員長

どうぞ。

委員

弊社の場合は従業員の過半数を占める労働組合というものが存在しないわけでして、したがって、時間外労働とか休日勤務について規則を定める場合には、いわゆる三六協定というのですか、労働基準法36条に基づく従業員代表を選出しております。そこで会社と従業員代表との間で実質的に交渉しているのかどうかよくわかりませんけれども、そういうプロセスを経て決めるということをやっています。この「相当の対価」を決めるについてもそういうイメージ、そういうプロセスを通じて行うというふうにお考えなのでしょうか、その辺のところのお考えをお聞かせいただければと思います。

事務局

先ほどご指摘頂いたときに御説明したとおり、組合がない場合でも同等の効果として、そういった手続を踏まれている場合にはそういったプロセス、あるいはアメリカで行われているようなそれぞれ従業者と使用者との間で契約を結んでいくようなやり方というのをイメージしております。

委員長

どうぞ。

委員

御説明いただいて、よくまとめられているとは思うのですけれども、問題が現行35条のままだと、企業が国際活動をする上で非常に支障がある。特に産業競争力上、支障があるというところから問題が発生していると思うのですね。それで、きょうのように各4点からの考察という見方をしていきますと、個々の問題で議論はいろいろあるかと思うのですが、大きな点で、産業界が一番望んでいるのは、裁判で対価を決めるというのをやめてほしい。企業に決めさせていただきたいという点が基本だと思うのですね。ですから、そこを認めていただけるのかどうかという点をまず議論していただいて、そのためにどういう取り決めなら認められるのかというふうに進行していただくと、焦点がはっきりするのではないかと思うのです。今のように労働協約があった場合とか、ないとかというのは個別の議論だと私は思いますので、もう少し裁判で対価を決めるのをやめていただきたい、企業の自主的な取り決めに任せていただきたいという点をどうするのかということについて御議論いただいたらありがたいと思うのですが、いかがでございましょうか。

事務局

前回、こういった観点で検討すべきというような御意見もいただいて、こういう4つの観点で整理をさせていただいているのですけれども、基本的には従業者と使用者との間で実質的な交渉を経てまとめられたものについては、それを尊重するということがずっと書かれていることでございます。
とは言いつつ、使用者側が定めたものを尊重してくれ、又は現行35条で使用者側が一方的に定めた職務発明規程ですべて裁判に出ないようにしてくれというのは、やはり使用者と従業者との衡平性の観点から、ちょっと行き過ぎではないのかということを(1)の最初の観点で書かせていただいております。あくまで、使用者、従業者合意のもとで決められたルールに従えば、何も裁判に行くようなシステムにしなくてもいいのではないかということでございます。

委員長

どうぞ。

委員

基本的には「合意」という言葉を使われているのですが、ある瞬間における合意というのは可能だと思うのですが、企業の場合、毎年、毎年新しい人が入ってくるわけですね。そういう人は決められた規則に従って選択して入ってくるしかないと思うのですね。そういう意味からすると、すべて合意、合意と言っても、新しく入ってくる人にすべて合意をとるというのは事実上不可能だと思うのです。ですから、私は「合意」という言葉よりも、企業が自由競争で自分なりの競争力を高めるためにインセンティブを与えようという姿勢を尊重していただいて、プロセスは大事にしなければいけないと思うのですが、すべて合意、合意ということを条件づけるのはどうかというふうに私は思います。

委員長

どうぞ。

委員

前回この委員会で私が申し上げたことと、その後の最高裁判決が出たという状況を踏まえて意見を申し上げます。
つまり、前回申し上げましたことは、私は現行の35条はバランスのよくとれた規定であると。ただ問題は、現在の判例の、特に35条3項の解釈に誤りがあるのではないか。つまり、現行法の解釈であっても、まず企業が就業規則、特に労働基準法の要件を満たす就業規則については、法的拘束力を認めるのは最高裁の判例ですし、そういう規則に基づいて「相当の対価」の額を定めた場合には、その定めた内容が著しく合理性に欠けるというときに初めて強行法規に反するものとして裁判所が「相当の対価」を決めるべきで、まず裁判所がやらなければならないことは、企業が決めたその「相当の対価」に関する報奨規定が著しく合理性が欠けるものでないかどうかという点ではないか。
それを判断するに当たっては、きょうの報告書の中にも書いてありますように、「相当な対価」を決めるには、企業経営上の様々なファクターがあるわけですから、それを考慮して決められた報奨規定については、裁判所はできるだけ本来謙抑的であって、その内容がやはり著しく合理性が欠けるときに初めて強行規定違反として裁判所が相当な対価を決めるべきではないか。それが現行法の解釈として正しい解釈であって、オリンパス光学事件の東京高裁判決を初めとして、その後の裁判所の下級審が示している判断が正しい法解釈ではないのだから、最高裁判決を待って対応を考えた方がいいと、そういう趣旨で申し上げたと思いますし、知財研の職務発明に関する調査研究委員会でもそういう報告書を書いているわけです。残念なことに、最高裁判決はオリンパス光学の東京高裁判決を全面的に支持しましたので、そういう状況では、この判決がこれから指導的判決として今後機能することは間違いないわけですし、この判例が簡単に変更できるような状況にはないと思います。そのような新たな事態を踏まえて考えれば、やはりここでは35条の3項を中心に法改正を考えざるを得ないというのが私の基本的な考えです。
その場合の具体的な内容は、まさに今申し上げたことになるわけですけれども、使用者の側が労働基準法の要件を満たす法的拘束力のある就業規則によって「相当の対価」を認めたときには、それに従う。それに基づいて相当な対価を支払えばよい。ただし、その規定が著しく合理性に欠けるときには、それは裁判所に対して相当の対価の請求もできるということを基本に、全体的な枠組みを考えた方がよろしいのではないかというのが私の意見です。
以上です。

委員長

ありがとうございました。
どうぞ。

委員

この「意見」という枠の中で、現行法の枠組みに従った中での解決という意見もあったと思うのですが、その点がもう一つよく反映されてはいないのではないかという感じがいたします。現行法の枠組みをどうするかということで、どうも枠組みを、合意を基準に変えるという趣旨に読めます。そうすると、35条全面削除論というのがなぜか参考資料ではないのですけれども、考え方からすれば、35条全面削除論というのは契約自由で、合意を尊重するから35条は要らないという考え方で、賛成、反対は別にして、1つの考え方を示しているとは思います。
それからもう一つ、「企業のリスク」という書き方なのですけれども、現行法35条はあくまでも企業が上げた利益について一定の割合でこれを発明者に還元すると言っているだけでありまして、企業が利益を上げていない場合に発明者に何かを払えと言っているわけではないのです。35条では、企業の受けた利益ということを考えているわけですから、リスクという考え方よりは、むしろ利益の分配みたいな考え方の方が素直ではないかと思います。
現行法の枠組みの中で、例えば給与というのは対価とは違うのだというとらえ方も1つ問題だと思います。アメリカでは対価というのが小さいことの理由には、もともと給与研究者の給与が高いことがあるのではないかと思います。そういう全体的なバランスを考えて、従業者の給与というものを考慮してもいいのではないかと思います。その他のコストは、企業が受けた利益の額から削除されるべきはむしろ当然で、そういうことを裁判所が十分にしていないとすればどこに問題があるかを検討する必要があります。そのためには裁判所の判決を精査して検討することが必要だと思います。その上で、十分な考慮がなされていないならば、35条の4項で対価の額を計算するときに、きちっと考慮してもらうように、その中をもう少し細かく書くという改正によって、現行法の枠組みを維持した上で、解決するということが可能ではないかと思います。
それから、競争力ということがよく出ます。例えば技術開発の競争力ということが現在の知的財産戦略大綱以下の大きな流れの1つだと理解しています。現在の産業界の意見の中には、特許発明をした人にのみ報酬を与えるのではバランスがとれない等々の議論があります。特許発明をした人にインセンティブを与えるということは、余り技術開発力の更新にはつながらないという議論がその背景にあるので、このような議論は大綱で言っているインセンティブを与えてこれから技術開発を推進しようということとは整合しないと思います。
35条の大枠を維持したままの調整であるならば大綱と私は大きな離反はないと思うのですけれども、枠組みを変えるということと、大綱全体の精神との関係はどうなのだろうかと思います。

委員長

どうもありがとうございました。
今の御意見の中で35条の全面削除論ということについて御質問があったと思いますが、その点について御説明いただけますか。

事務局

今回のこの議題の中心が「相当の対価」のところですので、必ずしも全体の全面削除論について特に議論しているわけではないのですが、1つ問いかけをさせていただいておりまして、そこは4ページのところで、4ページの一番上、(3)の前でございますけれども、基本的には合意をすればいいのではないかといったときに、仮にその合意が無効になったとき、つまり裁判所が、合意が無効なり、その合意の内容が不当であったりといいますか、契約内容に問題があると判断する場合に、裁判所が「相当の対価」を算定するに当たって斟酌できるような規定という、例えば今の4項のような規定ですけれども、そういったものを残す必要はないですかという問いかけをさせていただいております。
それからもう一点は、冒頭に申しましたけれども、「相当の対価」と直接は関係ないのですが、全面削除をしますと、第1項の「通常実施権」の規定がなくなります。したがって、これは例えば承継を受けた発明に基づく何らかの実施を行っている場合に、その契約が無効となったときに、その製造がとめられてしまう、契約無効になったときにラインがとまってしまうというような恐れが生じるというような点も念頭に置いて、この35条をすべて削除するということが本当に日本の産業にとって、あるいは従業者のインセンティブの観点からも、果たして望ましいのかというようなことも、ぜひ御議論いただければと思っております。

委員長

今、委員がおっしゃったことで、研究者の給与が外国の方が高いというのは、ちょっと私の実感と言いますか、私も外国の企業の研究所とか随分見ていますけれども、ちょっと違うような気もしますが、まあ、日本のだれと外国のだれを比べるかということもあると思うのですけれども。

委員

外国の場合には上と下の差が激しいと思いますから、多分、非常に優秀な人は非常に高いものをもらうと思います。そういう意味で言うと、日本だとまだそういう賃金体系になっていないのではないかと思います。

委員長

何かそういうことについてデータがおありですか。もし可能であれば次回ぐらいまでに。

事務局

以前に、委員の方から御紹介いただきました日米の研究者の給与比較というものをいただいておりますので、御了解いただければ、次回にその資料を配付させていただきたいと思います。

委員

ぜひともお使いください。またことしの夏もアメリカの出版社と一緒に調査をするのですけれども、1つ言えることは、アメリカのマネージャークラスが持っている給与は大体今日本の円換算をすると1,500万円ぐらいから、大きいプロジェクトになると2,000万円ぐらいもらうリーダーもたくさんいます。20人ぐらいの設計開発チームを率いる人たちはそれぐらい持っています。ところが、実際にやれと言われたことをテストするだけの人、上司から言われたことをフォーマットに従ってプログラミングするだけの人というのは400万円とか、500万円とか、ものすごい開きがあります。多分、次のときにその数値を。

委員長

よろしくお願いします。
どうぞ。

委員

「優秀なエンジニア」という定義が大変難しいのですけれども、特許の件数で優秀なエンジニアかどうかを決めるのでしたら、これは総じて日本の研究者は大変優秀になってしまうわけです。件数だけで見て、アメリカの方と比較していかがなものかということになると……。

委員

もちろん件数の話をしているわけではありません。

委員

ええ、ですけれども、これはあくまで特許法ですから、発明が何ぼあっての物種で、ない以上は、必ずしもそういう能力だけを比較しているだけではないのではないかという気がしているのですけれども。
それともう一つは、この議論全体が、私、先ほどの委員がおっしゃったのですけれども、35条そのものが産業競争力を今後引き上げるものなのか、阻害するものなのか、現行の法解釈上、オリンパスの判決も含めまして、どちらに向かっているのかというので、総じてこのトーンは、これは阻害するものであるから何とかしなければいけないというふうに感じられるわけですけれども、そういう合意のもとに議論されているということでよろしいのでしょうか。私はもちろん阻害していると思っているのですけれども。

委員

ちょっとよろしいですか。

委員長

今の件に関係しますか。

委員

関係します。

委員長

では、どうぞ。

委員

済みません、どうもありがとうございます。
3点ですけれども、1つは35条をどう読むか、私は法学者ではありませんけれども、先ほどコメントがあったのですけれども、やはり素直に読むと、基本的にはこれは個別の発明ごとに実績報酬というのが一番素直に読めるのではないか。そうすると、やはり「相当の対価」と言うときに、つまり妥当な発明へのインセンティブがあるかどうかというときには、やはり発明規定全体としてうまく機能しているかどうかが問題であって、個別の発明で適当に払っているかどうかという問題と全く違うと思うのですね。
ただ、今の少なくとも解釈は、判例が正しいかどうかは別にして、今の判決は個別の発明ごとに実績報酬から判断して妥当かどうかを判断しなさいということになってしまっていますので、そうしますと、やはり効率的な報酬体系をつくる上でもボトルネックになる可能性が非常に高いのではないかと思います。私は基本的には報酬規定が正しければいいので、個別の発明ごとにその経済的価値を判断して、発明者と使用者とパイを分けなさいというようなものというのは非常にリジッドなルールでコストだけかかって利益がないというふうに思います。ですけれども、ただこの特許庁の出されたものは「相当の対価」、個別の特許の「相当な対価」に全体的に引っ張られた文章になっている。それを計算しないといけないということに引っ張られた案になっているのではないかと思います。それが第1点です。
第2点目は、使用者と従業者の衡平性の観点というのが書いてあります。衡平性と言えば、あと従業員間の衡平性という問題もありまして、今の実績報酬というのはたまたま発明が商業化された人は高い利益がもらえるし、いい発明をしたけれども、ほかの条件でうまくいかなかった人はもらえないわけですから、実績報酬制度自体は非常に不衡平、従業員の間の不衡平を生む可能性もあるということも認識する必要があると思います。それが2番目です。
3番目は強行規定で、「使用者と従業員の衡平性を図る必要があるのではないか」と書いてあるのですが、これは2番目なのですけれども、企業の方は基本的には研究開発は非常に重要で、それを効率的に進めなければいけないというのは市場競争のインペラティブとしてあるのだと思うのですね。ですから、国が介入しなくてはいけないのは非常に特殊なケースだという認識に立つ必要があるのではないかというのが3番目のポイントです。
4番目は質問なのですけれども、先ほどの委員のリーディング・コメントとも関係しますけれども、5ページのところなのですけれども、なぜ補償金と給与を分ける必要があるのか。つまり、研究者の能力評価の非常にいいインディケーターは、やはり発明をしているかどうか、論文を書いているかどうかですから、研究者の給与の問題と発明の評価の問題というのはそもそもインセパラブルであって、これを分けなければいけないということにどういう合理性があるのかというのも、これは質問です。最後の点は質問です。
以上です。

事務局

今の御質問なのですけれども、そういう意味では我々はとりあえず現行35条の枠組みを大きく超えてはいないということになるかと思います。それは3項の考え方ですけれども、これはあくまで発明を使用者側に承継譲渡した場合の対価として「相当の対価」というのがあるという枠組みは変えていないものですから、そういう意味では、個別の評価と給与とはそもそも違うのではないかというような整理になっているということでございます。

委員長

どうぞ。

委員

何点かコメントしたいと思いますけれども、今の給与と「相当の対価」の関係ですけれども、これは理論上は今おっしゃったように研究者に対する給与として、対価を含ませることは可能だと思うのですね。ただ、ここでは日本の賃金体系というものを考える必要があると思うのです。まず、給与、賃金は性格としてはやはり労働なり仕事への対価という性格があるわけですから、その給与、賃金を決めるときにどういう成果を上げたか、発明をしたかということだけで給与を決めることはできないわけです。そうすると、今の日本の賃金体系を前提にしますと、発明者、研究者の給与は抑制される結果になりかねない。そこがアメリカと恐らく違うところだと思うのですけれども、その場合、給料の決め方としては、それは公正な給与の決め方とは言えないという問題点が出てくると思うのです。
もう一方で、では逆に研究者、発明者について、いわば期待度を込めて高く給与を設定するということになると、今度は従業者と使用者の衡平だけではなくて、従業者間の衡平ということが問題になります。そうすると、研究者は発明の可能性があるということで、発明への期待度を含めて高く処遇をすると、今度は、本人はともかく、発明以外の部門の従業員とのアンバランス、不衡平という問題がどうしても出てくるわけですね。そうすると、それはやはり給与制度としては公正ではないし、合理性を欠くという問題が出てくると思います。日本の給与制度は成果主義に移行していますけれども、成果オンリー、結果主義ではなくて、あくまで職務行動を含めた評価としての成果主義ですから、今のような2点の問題が出てきます。そういう結果となるよりは、むしろ対価自体を給与から区別して、純然たる意味の成果である発明が行われたときに別途支払うという方が公正であるし、賃金体系の設計に際してコストがかからないのではないかと思います。したがって、ペーパーの5ページには賛成です。
それから、今回のペーパーの基本的な柱である合意を重視すべきではないかという点について一言コメントさせていただきますけれども、特に2ページですか、一方で、実質的な交渉過程を経て締結された労働協約や個別契約とすべきではないか。他方で、就業規則、勤務規則の場合には、強行規定によって衡平性を図る必要があるのではないか。これはいわば契約、協約という合意と、それから一方的決定を二分した上で、合意に移行すべきだというお考えだと思います。ただし、非合意、つまり勤務規則を残した場合には、それについては全面的な審査をするということになろうかと思うのですが、私はここは余り賛成できないのですね。
もう一つの考え方としては、合意なのか合意でないのかを問わないで、どちらにしても実質的に職務発明の制度設計と交渉がされたかという、前回申し上げたプロセスのところですけれども、そこが大事なのではないかという考え方があると思うのです。
私はどちらかと言うとそれなのですけれども、この考え方に立つ場合には、合意か、つまり協約か契約か、あるいは勤務規則かを問わず、もし実質的交渉がされ、プロセスがきちんとされていれば――これは制度設計と個別の発明と両方あると思いますけれども――、たとえ合意が得られなくても、35条の、このペーパーの言葉で言えば強行規定が働かない、私の言葉で言えば、相当性が推定されるという考え方になります。
他方で、実質的交渉がされなければ、たとえ「契約」であっても、相当性の推定が働かないことによって、その内容の審査の余地が出てくると考えることができます。「契約」とおっしゃいますけれども、契約と言っても交渉がされる契約もあればされない契約もあるわけです。他方、就業規則、勤務規則と言っても、実際に企業では交渉はしているわけです。先ほどどなたかおっしゃったおり、過半数組合がない場合には、過半数代表者との協議を経て規則を定めるわけです。このような実質的交渉の方が重要ではないかと考えれば、合意か非合意かではなく、実質的交渉がなされたか否かによって判断することもできます。
結局、このどちらの考え方をとるのかということになります。が、企業が職務発明を含めた制度を展開していくときに、余りに合意ということを強調してそちらに特化していくことは現実的ではないし、コストがかかり過ぎるのではないかと思うのです。むしろ勤務規則は勤務規則でいいので、ただし、その制度設計と、当てはめの際に交渉をきちんとしたか、そして不満があれば何らかの仲裁なり苦情処理とか紛争処理の制度を設けているかどうかということの方を、つまり実質的交渉を見た方が立法論としても解釈論としても現実的だし、コスト面でもいいのではないかという気がしています。

委員長

どうもありがとうございました。
その場合に、実質的な交渉があったかなかったかという判断は、どういう形でなされるのでしょうか。

委員

まず制度をつくる際には、当然ながら労働組合なり、組合がなければその代表でもいいですし、あるいは発明者の代表でもいいと思うのですが、とにかく何らかの形でこういう制度にしますよという設計をする。そのときに協議をするということになると思います。具体的に、個別の発明についての当てはめに際しては、現在の制度を説明した上で、そしてあなたの発明についてはこういう形で当てはめるという情報提供をする。その上で、合意をとる。ただし、最終的には合意をとれなくてもいいと思うのですけれども、苦情処理といいますか、そういうチャンネルは用意しておく必要があると思います。その結果、従業者が合意しなくても、それはそれで交渉をきちんとしたということで、プロセスの要素というのは認められるのではないかと思います。

委員長

どうもありがとうございました。
どうぞ。

委員

私も合意は必要ですが、個々の発明に対して合意をとる必要はないのではないかと思っています。と言いますのは、ここで利益というのが基本になっていますけれども、利益というのは特許から出た利益ではなくて、あくまでも、会社からすると製品から出た利益なのですね。ある製品に関してどのぐらいの利益を得たというのはわかりますけれども、ある特許からどのぐらいの利益を得たというのは非常に算定が、従来から議論があるように複雑で難しくて、多分不可能だと思うのですね。ですから、やはりある製品に関してその利益の額というのは確定できる。そして、それに対する例えば複数の特許が関連していて、非常に膨大な人が関係していますから、それの分配の問題だと思うのです。ですから、それは個々の人が合意をとろうとしても1人はいいと言っても1人は嫌だと言う、そういうふうに、必ずしも全員のコンセンサスが得られるとは限らないので、やはりこれは包括的に、組合でも何でもいいですけれども、そのプロセスについて合意をとる必要があるのではないか、そういうふうに思いますけれども。

委員長

どうもありがとうございました。

委員

ちょっと質問してもいいですか。

委員長

どうぞ。

委員

今のお2人の御意見、よくわかったのですが、その場合には35条は廃止するという前提なのでしょうか。裁判所に行くのではなくて、別の苦情処理機関と言いますか、そういうものを設けるという、そういう新しい御提案なのかどうなのかを教えていただきたいと思います。

委員長

どうぞ。

委員

35条3項は廃止を前提にしているわけではないです。つまり、35条3項の「相当の対価」を前提に、プロセスがきちんと整備されて、かつ、著しく不合理な点がないという点が確認されれば「相当の対価」を認めてもよいのではないかという提案です。ですから、そこの相関関係ということになりますね。

委員

そういう意味で、裁判所でいいわけですね。

委員

裁判所でいいです。

委員

わかりました。

委員長

ほかにいかがでしょうか。
どうぞ。

委員

今の条文とは直接関係ないのですが、いろいろな委員の方から発明について、先ほどの「利益」という言葉も出ているのですが、実態をちょっと御理解いただいていた方がいい点があるのではないかと思うのですね。ここの中でも表現がラフでちゃんと書いていないのでわかりづらいのですが、実際は、企業は成功した開発と失敗した開発がいっぱいあるわけですね。今、35条というのは成功例だけでもって分配を考えている。失敗したケースについては、企業の場合、成功例で失敗を補わない限り再開発投資をできないわけですね。そういうこともありますから、儲かったら分配しなさいという考えも、それぞれの企業で違ってくると思うのですね。業種によっても違うし、最先端の研究をやっていればやっているほどリスクが高いと思うのですね。
もう一つは、創造性の高い発明者が事業化に貢献するとは限らないのですね。ですから、ほかの人が貢献して初めて事業化が成功する。そういうことも十分考えていただかないと、創造性のある発明が、先ほどもどなたかおっしゃっておられましたが、事業になるか、ならないかというのは、本人の努力よりもほかの人の努力で決まってしまうということが非常に多いわけです。ですから、発明単位で、その発明について正式な対価を決めるということ自体が今不可能になっているのですね。ですから、そういう意味からも「相当の対価」というのを発明単位、発明者単位で決めるという考えは、私は無理だと思っているのです。
それからもう一つ、ここに記載されていなくて産業界で危惧している点としては、流通ですね。あるいは、企業分割その他でもって発明とともに移転したときに、だれがその対価を払うのかということも含めて、今の状態では非常に不安で、流通ができないのではないかと私は思うのですね。
そういうことを考えますと、やはり企業に任せていただきたい。任せていただきたいという意味が、皆さん非常に悪い印象にとっているのですが、これはそんなことはないと思うのですね。競争していかなければならない企業が発明者を優遇しなかったら負けてしまうのですから、優遇していくという前提で任せてくださいと、そういうふうにお願いしているのです。ですから、そういう視点で、ぜひ改正をしていただきたいなと私は思っております。個々の発明の個別の評価などというのは、計算しようとしてもできない時代だと私は思っています。
以上です。

委員長

ありがとうございました。
どうぞ。

委員

弁理士会の方としてもいろいろ提言しているのですけれども、基本的にはやはり合意、契約に基づくべきではないかという提言をしております。それは私は個人的にも賛成なのです。というのは、今、委員がおっしゃったように、対価の額を決めるとか、発明者の貢献度というのは難しいと思うのです。ただし、発明者にインセンティブを与えるということを重視する会社はすごくいい会社だと思うのです。だけれども、日本の中には会社は山ほどありまして、その会社すべてがそう発明者を優遇する、いい発明をしたらそれに対して報いるという考えを持っているばかりではないと思うのです。そういった意味で35条の立法趣旨というのですか、最初に35条を設定したのは、使用者と従業者との力関係、どっちが強いという、そこの問題があったから35条が出てきた。そこの精神的なというのですか、基本的な理念は残した上で合意、もしくは契約に委ねるべきだということがいいかと思うのです。35条を全廃するということには、弁理士会の見解もそうなのですけれども、反対しているという立場です。

委員長

ありがとうございました。
ほかにいかがですか。
どうぞ。

委員

先ほど発言された委員の35条が産業競争力を阻害するという意見は、35条をどけてしまった方がよいというお考えだと理解してよろしいのでしょうか。
それから、先ほど従業員間の衡平ということが出たのですが、そもそも特許法というのは、衡平性をある意味では無視するところにあります。成果が上がった人には利益が入るというのが特許法で、35条の規定は成果が上がった人は対価がもらえるが、売れないものを発明した人はもらえないわけですから、不衡平というのは、最初からこのシステムにビルトインされているものであります。売れた人はお金が入るけれども、売れない人はお金が入らない、そもそもそういう不衡平な制度を使ってインセンティブを与えるという仕組みです。そういうことがけしからぬと言われれば、こういう制度はけしからぬわけですけれどもインセンティブが必要である以上は、私はやむを得ない問題だと思います。
そもそも、35条を障害と考えるところに問題があるのではないかと思います。先ほどの委員のお考えは、法人発明にせよ、企業の発明はもう個人発明はやめてしまえ、発明者主義ではなくて、法人発明を認めろという御議論ではないかと思います。そういう議論も成り立たないわけではないわけですけれども、そういうことが本当に全体としていいかどうかということに検討の要があるのではないかと思います。

委員長

35条と競争力との関係については企業の方など、いかがでしょうか。後でもし御意見があったらお伺いしたいと思います。
どうぞ。

委員

今、委員からお尋ねになられましたので、撤廃しろとか言っているわけではなくて、現行の法律の運用そのものが今どういう状況にあるのかという認識で申し上げて、今の運用、最高裁の判決も含めた形で言えば問題があろうというふうに申し上げました。
それをどうすればいいのかということで撤廃という考え方はもちろんあろうかと思いますし、それを一部改正するという考え方もあろうと思います。そこは御議論いただいていいと思っております。

委員

私が法人発明を主張しているのではないかと指摘されましたが、そうは思っておりません。ただ、実態をよく御理解いただきたいという気持ちは非常に強いのです。今、産業競争力を高めるのに創造性の高い発明者を優遇しようという、これは多分すごい大きな目標で各企業も賛同していると思うのですね。ただ、そういう発明だけで産業競争力が高まるかと言ったら決してそうではない。先ほども申し上げたように、発明者が必ずしも実施化に努力するとは限らない。産業競争力は実施して、事業をやって初めて産業競争力は高まるのだと私は思っています。そういう人も大事にしなければいかんと、両面あると思うのですね。
今まで発明の対価として、いいか悪いかは別にして、お互いにハッピーで運用されてきたはずなのです。それが判決によって混乱を招いてきた。判決が正しいのか、間違っているのかは別にしましても、今の35条の法律はそういうふうに解釈されたという事実は事実ですね。このままで推移するとすれば、今までのハッピーな状態の企業とそれから発明者との関係が崩れていく、ここが一番心配しているところなのです。ですから、企業の方としては、創造性豊かな人をそれなりの処遇をしていくということは当然やっていかなければいけない前提なのですが、それ以外の、言ってみればそのポジションにというか、そのセクションに入ったがために、ちょっとした頭の使いようでなるような発明者、これも事業化という点では非常に大事な発明も多いのですけれども、そういう人たちに対して、先ほど申し上げたように、1件、1件の発明の対価を算定するというのは難しくなっていますから、私は全体で、あるいは技術単位でとか、そういう補償を考えて、各企業に合ったような規定をつくっていけばいいのであって、法律で1件、1件「相当な対価」というのを決めていくのは無理だと思っているのですね。ですから、そういう企業、あるいは業界の特徴を生かしながら、各企業がインセンティブとして規定をつくっていけばいいのであって、一律的に何が合理的かとか、そういうことはないのだろうと思うのですね。発明の価値観というのはその企業方針、事業方針で大分変わってしまうので、ある企業にとっては非常に大事な発明が別の会社にとっても大事とは限らない。そういうことも含めて、企業単位でそれぞれ規定を尊重していただきたい、ぜひそのようにお願いしたいと思うのです。
先ほどの「合理的」という言葉は私も好きなのですが、それが合理的ではないと言われたときに、また裁判所に行くのだろう。裁判所へ行くような仕組みはやめてほしいというのは大前提ですから、裁判所へ行かないで済むような、もちろん常識に反するようなというのでしょうか、ごくごくだれが見てもひどいというようなものについて、救済の道を開くというのは私は当然あるべきだと思っておりますが、通常、誠心誠意をもって企業が決めたようなものを合理的かどうかと、それを判断するのにまた難しい裁判をしなければならないというのは、私は余り賛成したくないのです。ですから、「合理的」という言葉は非常にすばらしいのですが、それが裁判に行かないで済むような「合理的」という言葉なら非常にありがたいのですけれども。
以上です。

委員長

どうぞ。

委員

まず、御発言にあった「契約」と「合意」といううちの「合意」というのはどういう「合意」を言うのかよくわかりませんでしたけれども、35条を巡る、特に廃止論はどういう視点からなされているかを見てきますと、1つは、産業界に多いわけですが、これは35条があるために「相当の対価」が特に非常に高額になって、それによって産業競争力が阻害されるという視点から、むしろ基本的に契約に委ねた方がいいという考え方があって、一方では知財戦略フォーラムのように、今の状態でいると、優秀な技術者が十分な待遇を受けられないために海外に流出してしまって、日本の産業競争力は著しく低下する、それは困るから35条は廃止した方がいいと、いわば両極端から35条廃止論が出ているのではないかと見てきているのです。基本的に考えてみると、35条の規定は先ほど言いましたように、1項は民法の契約法的な考えで、2項はいわば労働者保護的な、労働法的な視点でつくられているという意味では、特許法の中では非常に特殊な規定なのかもしれませんけれども、全体的にはその辺を考えてバランスよく調整が本来できる規定と私は思ってきているわけですが、先ほど言いましたような状況にある以上は、企業が、従業者がした職務発明と使用者の関係を考えていく上には、どうしても今までの、きょうの議論でも出てきておりますように、ただ個別の1つ1つの特許と使用者との関係だけを考えていったのでは、合理的な解決が得られません。そういう意味で、やはり企業がきちっとした相当な対価に関する報奨規定を設けて、それを基本に運営をされるというのが望ましいとは思うのですけれども、企業にはいろいろな企業がありまして、契約の自由に任せておいたら、それこそ従業者の立場が完全に無視されるようなことも起きてくるでしょうし、一方で、報奨規定はつくれば何でもそれでOKだよ、裁判所が干渉することではないよと言っていては、その報奨規定自体が今言ったような35条の本来の趣旨のバランスのとれた使用者と労働者との間の権利関係の調整ということを欠くことになってしまうわけで、その意味では、報奨規定についての裁判所の審査は当然及ばなければならないし、そういう意味でその報奨規定が合理性を持つというのは強行規定であるべきだと私は思います。
そうであれば、やはり先ほど言いましたように著しく合理性を欠くものであれば、それは強行規定違反として無効にされる場合が出てきてもやむを得ないわけであって、企業の側がそういうことにならないような報奨規定をつくっていく。そういう慣行を築いていくことが大事だと思います。今、私が35条を改正せざるを得ないのではないかと思うのは、今の判例の考え方で行けば、どんなに企業が苦労して、企業の経営状況とかその技術分野のいろいろな問題等を考えながらいろいろなファクターをそこに盛り込んで報奨規定をつくっても、まず裁判所が強行規定だから相当な対価を決めるのだ。それを決めた結果と報奨規定の差額があれば、それを払いなさい。これでは企業の側が努力して報奨規定を決める意味もなくなってしまいますし、その解釈がこれから機能していくのであるとすれば、日本全体の産業競争力と言われる視点からでも、法律自体を改正の方向で考えなければならない。基本的には私は先ほど委員の言われたことはわかるし、できるだけ裁判所の運用はそういう方向で行われるような規定にした方がいいとは思いますけれども、それは裁判所の干渉することではないよというわけにはいかない問題だ。そういう意味では、その規定というのは強行規定にすべきであると、私はそう思っています。

委員長

どうぞ。

委員

同じことを繰り返すかもしれませんけれども、産業界側は35条の廃止を要求しているのかということに対しては一応答えなければいけないので、ここで言っておきますけれども、やはりいい発明を生ませようというインセンティブを与えなければいけないという、国としてはそういう思想を表明するということは非常に重要なことでありますから、それを国の施策の一環として法律を定めるということ自体は非常にいいことだと思っております。
そういう前提の下に、法人帰属ではないという制度をとった場合には、その発明したものに対して企業に通常実施権があるのかどうか、あるいは予約承継ができるのかどうかということについては必ずもめるわけですから、そこをはっきりさせておくという意味でも、少なくとも現行法の35条の1項、2項を置いておく意味は非常に深いと思います。
ただ、最高裁が言うような、ああいう運営をやれと言われると非常に困るということと、それから最高裁はまだ言っていませんけれども、各国との調整ができないような制度を押しつけられますと、我々、国際競争力に非常に支障を来すという意味で、そこの自由度は確保してもらいたい、こういう意見でございます。

委員長

できるだけ広く御意見を伺いたいと思います。大学とかベンチャービジネスの方にも。どうぞ。

委員

私も法律論は詳しくないのですが、発明や特許にはTLOの関係でいろいろとタッチしております。先ほどからの御意見をお聞きし、この文書を拝見しておりますと、非常に困難な点の1つは、発明の対価、あるいは報奨の額が決められないということにあろうかと思うのです。今の委員の意見だと不可能だということですね。しかし、私共のTLOでは、それが妥当かどうかはともかくとして、とにかく特許のライセンシングによって商売をやっているわけですから、ある発明や特許について、これは幾らですよ、これは幾らであなたは契約しますか、さらにはロイヤリティはどうしますかということをやっているわけです。将来、私はそうなっていくだろうと思うのです。したがいまして、ここにもありますように、ライセンシングをする場合には、対価というものをある意味では強引にでも決めていかないとこれはできないわけです。このように対価がきまってきますと、得られた利益をどう分配するかについてかなり明確な議論ができる筈です。現状の議論を聞いていますと、私はそこまでの経験がまだ積み上げられていないのではないかと思います。したがいまして、右の議論や左の議論等が、たくさん出て、皆さんのおっしゃることは、それぞれに妥当だとも思うのでありますが、そういう議論をもとにして、現在の35条を根本的に改正するかとなると、ちょっと不可能だなというのが私の感じです。ですから、当面はその運用面を考えることによって、合意形成をはかりながら、できるだけ各企業の内部でおやりになるということだと思います。この35条があるからインセンティブが出ないとか、そういうことにはならないのではないかというのが私の考えでありまして、もう少し経験を積んだ上で、最高裁の判例も含めて、抜本的に考えるべきで、現在のところは35条はまだ生かしておいた方がよいというのが私の考えです。

委員長

どうもありがとうございました。

委員

ちょっとよろしいですか。

委員長

どうぞ。

委員

経験がないと言われて、私のことをおっしゃられたのかどうかわかりませんけれども、私が申し上げたかったのは、この書面にも出ておりますけれども、契約が、これは分野によって大分違うのですが、情報産業の分野ですと、パッケージライセンスがほとんどなのですね。許諾製品は特定されていますけれども、許諾特許というのは番号すら書いていない契約がほとんどなのです。実施料が入っても、それはどの特許を使ったから実施料が入ってきたというのは契約上、わからないのです。何でそんな乱暴な契約をしているのかと法律家の方はお考えでしょうけれども、これが今、世の中、国際的に通用している契約のパターンなのです。そうしますと、1つの契約で何千件という特許が対象になっているわけです。ロイヤリティが幾ら入ってきました。これを発明単位、発明者単位に分配しましょうと言っても不可能です。ですから、私が申し上げたように何か別の形で分配方法を考えなければいけないと思うのですね。例えば、その許諾製品に関連する技術に関わった発明者とか、何かそれぞれの企業で考えることはあり得たとしても、法律の言うように、発明単位、発明者単位で相当な対価を決めろと言われると、私は非常に難しい、不可能に近いと、そういう運用をされてしまっているということなのですね、現実に。
ですから、そういう実態をお考えいただかないと、発明の対価、発明者単位、発明単位で相当な対価、これが承継時なのか、将来にわたってなのかというそういう議論とは別に、もう個別にはできない状況で企業は運用していますということを、これは冶金の分野とか化学の分野では比較的少数の特許を対象にしておりますが、情報産業の分野というのはパッケージが当たり前なのです。1件、2件のライセンスはむしろまれだと思うのです。そういう状況を前提にして申し上げていますので、不可能ということをあえて申し上げたのです。これはコンピュータで計算されず済むという問題とも全く違うのです。できないのです。
以上です。

委員

反論ではありませんが、おっしゃることはよくわかるし、現在のところはそれが実状だろうと思います。にもかかわらず、私はそれぞれの発明についての対価というものはつけられて行くと考えています。現在コンサルティングをやる人とか、ライセンシングを専門にやる企業がどんどん出てきておりますから、そういうところではノウハウを含めた突っ込みのこともあるでしょうけれども、それぞれの対価をできるだけ明かにしようということがやられておりますから。私が経験が不足だと言うのは、そういう点での経験がまだ十分積み上げられていないということを申し上げているわけです。

委員長

どうぞ。

委員

私どもの会社は特許収入で会社を運営しております。特許というのは非常に重要なわけです。自分の周りの企業、同じようなベンチャー企業を見回しましても、これは私ども会社も同じですが、経営者が発明者になる場合が多いと思います。私どもの会社も特許をかなりの件数を出願しておりますが、ほとんど私の発明によるものです。35条というのはもう全然関係ないというのが現状です。報酬は自分で決めればいい、もうかっていればどんどん自分の給料を上げればいいし、もうかっていなければ上げられない、無報酬のときもあるだろうというふうに思っております。ベンチャー企業や小さい企業の場合ですと経営者が発明家になる場合が多いと思いますので、余り35条というのは意識したことがなかったというのが現状ではないでしょうか?きょう皆さんの建設的な意見、いろいろな意見を拝聴させていただいて、ああそういう問題もあったのかということを改めて勉強させていただいております。
以上でございます。

委員長

どうもありがとうございました。
どうぞ。

委員

発明者の立場というか、私自身は、前職は企業に勤めていまして、事業部長みたいなこともやったし、ベンチャー会社の社長みたいなこともやったわけですけれども、その中で、発明者の立場として少しお話をしたいのですが、前職の企業におりましたときに、発明したものに関して、今、随分ロイヤリティが入って、数億ぐらい毎年入っているようなことになっています。当時、私は中間管理職ぐらいの、もう少し前でしたか、それで発明をいたしまして、まあやめましたのであれなのですけれども、「相当の対価」に相当するものは一応いただいているわけですけれども、恐らく裁判所で決めてもらうと大分高くなりそうな感じがするのです、ここだけの話ですが。(笑声)しかしながら、最近、そういうようなこともあって、いろいろな方から、何であなたは訴えないのかとか、訴権を売ってくれと、これはできるのかどうか法的にはわかりませんが、いろいろな話が来るのですね。
でも、私はそういうつもりはなのです。なぜかと申しますと、当時、会社名は言わない方がいいですね。前職で、職務発明規定を定めるときに、私は委員になって入っておりました。したがって、会社の実績報奨等についてある一定の、この場合は合意の1つ、特殊なケースかもしれませんが、合意をしたわけですね。したがって、そういう過程を踏んでいれば、ほとんどこの話は訴えるというのはもともとおかしな話だろうというふうに発明者としては理解をするわけです。
しかしながら、今回の最高裁の判決は、ああいう内容ですと、いやいや、それは訴えて当然だというふうにもとれるという意味では、非常に困ったな、これからもさらに訴権を売ってくれとかいう話が継続をするというようなことだと思います。
発明者に対するインセンティブ、衡平性とかいろいろな話がありましたけれども、機会均等であればいいのだと思います。機会均等のルールに基づいて一生懸命頑張るための制度が用意されているということでいいのだと思いますので、そういうような意味で、やはり少し整理をしていただく必要があるだろうということです。
それからもう一つは、先ほど委員から、企業の発明の実態ということで幾つかお話がありましたが、そういう意味で、非常に多様化しているのは間違いない。先ほど申しましたように、ベンチャー会社を一時期やっておりましたけれども、この発明の処理の問題は非常に怖いなと。外国人も使おうとしました。非常に流動性の高い人たちであって、実績報奨を追いかけてということが現実にできるかどうかというようなことがありました。パッケージでライセンスをするという業界もありますし、1人1人の発明を評価しないといけない場合もあります。しかしながら、例えばたくさん特許のある中で、1つの発明をどうやって評価するか、これは大学で今技術移転でやっているわけですけれども、大変困難であります。非常に困難だということに加えて、多様化しているということを前提として、やはり制度を考えていただく必要があるだろうと思います。

委員長

どうぞ。

委員

私、これは非常に難しくて、これがいいという結論はどうしてもまだ持てないのですけれども、少なくとも今、これを読みながら考えていますのは、「相当の対価」というのを金銭によってのみ把握するのが妥当かどうかというところに1つ疑問を感じています。それから、現実を見ますと、発明が1つの「相当の対価」というのを個別的に計算することは非常に難しくなっていると思います。しかし、請求してくる方は個別的に訴えてくるわけですから、やはり個別的に判断せざるを得ないという状況にあると思います。そうなりますと、結局基本的には私も契約規則、会社、当事者同士のものを尊重すべきだと思うのですけれども、それが合理的かどうかということで、その合理性について先ほどからどういう意味だろうかと問題になるわけです。
今の法律の問題では、企業の発明の過程の中で失敗した例はどうなっていたかとか、実施に当たって企業側がいろいろ支払った営業の経費とか広告その他、そういうものを裁判所は見てくれないわけです。そういういろいろな企業側が考えているファクターについて、それは今、35条の4項に挙がっていないので見てもらえないという状況があります。そういうことなので、私としてはこの4項について、もう少し今までの裁判例も見ながら、それからアンケートの結果も見ながら、基本的な条項を、具体的な条項を少し加えるべきだろうと思います。
それから、現実に訴訟などを見ていますと、裁判所に任せるのは非常に心配な感じがするのです。今、知財やそれから医療過誤などで専門員制度というのが問題になっておりますけれども、私はこの職務発明というのはやはり非常に特殊なので、ここに労働者か企業か、何かそういう発明を巡る企業の実態について精通しているような人を専門員というのですか、何か知りませんが、入れて、特別な組織をこの問題の解決にはつくった方がいいのではないか、そういうふうに思います。
以上です。

委員長

どうぞ。

委員

先ほど委員がおっしゃっていた話なのですけれども、私、これは前回もお話をしたと思うのですけれども、今委員が先ほどからおっしゃっている企業実態という話なのですけれども、やはり我々、使用報奨みたいなものを考えるときに、やはり1年間に1ヶ月ぐらいつぶしているのですね、仕事をとめて。だから、先ほど委員がおっしゃるように、例えばライセンスであって、全部判断しろと言うのであれば、できなくはないと私は思うのですね。ところが、その判断にどのぐらい時間をとられてしまうかということなのだろうと思うのです。例えば、DVDなどは皆さん御存じだと思いますけれども、あの辺の商品などというと使用報奨だけで部分からソフト等含めて500件から600件ぐらいの特許が生じてくるわけですね。そうしたら、これも500件、600件の特許をランクづけしろと言えばできなくはないと思うのですよ。でも、それをやるのにどのぐらい時間がかかるかというのを御理解いただきたいと思うのです。そのライセンスだけであれば、ある程度の金額的効果というのははかれると思うのですけれども、片やもう一つは、35条の話というのは、自社における使用報酬の概念というのが、自社における製品に対する利用ということが入り込んでいるわけですね。だから、それが先ほどから委員の方が言っているように、そういうことを考えてください、企業実態を見てくださいという意見だろうと私は思うのですね。
あと、委員が先ほどちょっと言っていた話で少し思ったのは、やはりこれからの知財立国なり知財立社を目指すに当たっては、企業としてはどうしても特許に対するインセンティブを付与していかないと、優秀な技術屋さんというのは逃げていってしまうのですね。もうその実態というのはあるのです。だから、余りいろいろな研究者、あるいは発明者という言い方でもいいと思うのですけれども、そういう人たちの扱いが悪いということになると、どうしてもその辺の連中というのはどこかに逃げていってしまう。それこそ私が見ている感じですと、本当にいい研究者、いい発明者というのは非常に流動性が高いという、日本でもそういう現状が今あるのかなという感じがします。
とにかく、先ほど言った特許の評価に関して言わせていただくと、我々知財部門の仕事というのは、私は特許の評価というのは非常に重要だと思いますけれども、こういう言い方をしてはいけないと思うのですけれども、発明者の個別の1件、1件の報奨をするがために、それで非常に時間をつぶしたくはないのであって、やはり産業競争力の活性化、強化というところで、我々としては時間をとっていかないといけない時期に来ているのだろうと思うのですね。その辺を少し御理解いただきたいなという感じがします。
先ほど事務局から話ししていただいたものに、少し蛇足になってしまいますけれども、これに書いてある内容に1つだけ御意見を申し上げたいのは、4ページ目の上から10行目から8行目ぐらい、「項目について規定しておく必要はないか、あるいは「相当の対価」の額の算出のためのガイドラインを算定することについてはどう考えるか」ということを書かれているのですけれども、実はこの内容というのは、6ページに書かれている内容と少し矛盾しているのではないかという感じがするのですね。6ページの8行目ですか、いずれにしても、各業種、各企業、各製品ごとに売り上げに定められる研究開発投資の割合云々、ずっと来て、リスク等が異なっていることを考慮すると、これら企業固有の事情を参酌することなく、「相当の対価」の額を算出することは縮小を招き、産業競争力強化の観点から好ましくない。要するに、各業種でいろいろな算出の仕方があるので、対価の額を算出することは難しいよということがここには書いてあるような気がするのですね。それに対して、さっきのところは、ガイドラインを求められるがごとく書かれていまして、ちょっと違うかなという、多分この辺は出ない。

事務局

よろしいですか。

委員長

はい。

事務局

今の点、少し言葉が足りなかったので補足させていただきますと、6ページの方でまず書かせていただいているのは、今、必ずしも判決の中で検討されてないような項目についても、きちっと4項に書くべきではないかということを指摘させていただいて、4項はそれと同等の項目は残しておかないといけないのではないでしょうかということを書いています。4ページ・丸3の最後の2行のガイドライン云々については、これはまた全く別の議論で、それ以上にもっとドイツのような細かいガイドラインというのを入れるという、これは予測性を高めようと思えばより細かく決めるという議論も一方でありますけれども、そこまでするということについては一体どうでしょうかという問いかけでございます。したがって、必ずしも矛盾しているわけではなくて、そういう考えのもとに書かせていただいているというところでございます。

委員長

そろそろ予定の時間も過ぎて、次回も議論するということになっておりますので、次の議題に移りたいと思いますが、その前にどうしても御発言をしておきたいという方がおられましたら、今手を挙げていただければ。
では、どうぞ。

委員

まず、ガイドラインを細かくするということについては反対です。細かくしても計算し切れないと思います。実際上、無理だと思います。ドイツの方も簡略化して、ガイドライン自体すら廃止するということも少し聞いていますので、それは世界の潮流、ドイツ等の関係から見ても逆行することではないかと思っています。
あと一つ、きょうの資料を拝見いたしまして、契約なり労働協定を重視するという方向で法改正と言いますか、そういうものが行われるということなのですけれども、遡及適用ということについては、先日、委員の方から、これは憲法上の問題があるからアウト・オブ・ザ・クエスチョンだというような発言がございました。企業の立場から申しますと、今日現在も発明が生まれて、特許出願されて、その寿命が20年、その時効が何年になるかわかりませんけれども、その20年近くも予測不可能の性能リスクにさらされるというのはちょっとかなわないなという気持ちがあるのです。これは本当に憲法上致し方のない問題なのか、一度、できましたら特許庁さんの方でも御検討いただけたらと思っております。例えば借地借家法改正については既存の契約を保護するために遡及適用しなかったというようなことも聞いております。発明の場合について、公共の福祉に合致していると言えるほど、どうしても遡及適用をした方がいいのか、この公共の福祉とまで言えるのかどうかという点について、何か検討材料を提供していただけたらありがたいと思っております。
それだけです。次回に詳しく検討していただければと思います。

委員長

どうぞ。

委員

結局、35条を改正するかという問題と、それから内容をどうするのかという問題と2つあると思うのですけれども、内容の方ですが、先ほど言ったことと関連しますが、合意への移行という点はぜひ慎重に考えていただきたいと思います。例えば、合意の内容として、「労働協約」や「個別契約」と並列して書かれていますけれども、労働協約は、従業者集団との集団的な合意ですね。このときに必ず出てくる問題は、集団的合意が個別合意に代わり得るのかという問題です。個別合意と集団的合意の関係をどうとらえるのかというのは、これは実は大問題で、労働法の方では非常に大きな問題なのですね。色々なところで、労働協約や従業員集団との合意がなされた場合に、その拘束力が問題になってきます。ですから、これは並列がそもそも少し問題で、誰との間の、何についての合意なのかというところから突っ込んで議論しないと難しい面があると思います。個別の発明ならば個別従業員なのかもしれませんし、制度設計だったら、それは協約でいいかもしれません。しかし、個別発明について労働組合なり労働協約がかかわってくると、これは大問題になりますので、合意とは何かということについては、ぜひ慎重に考えていただきたいと思います。
もう一点だけ簡単に言いますと、要するに、特許法35条3項の「相当の対価」というものを判断するときに2つ判断の仕方があって、対価の決まり方と決め方と2つあると思うのです。前回から出ている議論は、決め方をどう考えるのかという問題だと思います。現在の裁判実務は決まり方の方に傾斜しているようなのですけれども、そうではなく、決め方・プロセスではないかというのが私の考えです。その場合、1つは企業の実情を考慮するのは当たり前ですが、それに加えて実質的なプロセスが重要ではないかと思うのです。もしそうしたプロセスが存在すればそれは尊重すべきだし、そのことと35条の強行的な法規的な性格というのは全く矛盾しないと思うのです。
ただし、企業は必ずしも合理的に行動するとは限らないわけで、企業にもピンからキリまであり、めちゃくちゃやっている企業もあるわけですから、例外的に、めちゃくちゃなところは規制しよう、つまりは例外的内容規制まで置いておかないと、それはやはり衡平の観点から問題だと思います。

委員長

どうもありがとうございました。
よろしいですか……。
それでは、活発な御意見をいただきまして、どうもありがとうございました。
職務発明についての検討は次回以降も引き続き行いたいと思いますので、またいろいろと次回以降、御意見をお願いいたしたいと思います。

4.特許戦略計画(仮称)と今後の検討体制について

委員長

それでは、次の議題に移らせていただきますが、「特許戦略計画(仮称)と今後の検討体制について」、事務局の方から御説明いただけますでしょうか。

事務局

簡単に御報告したいと思います。
資料の1ページを御覧下さい。すでに御説明をしておりますとおり、的確かつ迅速な特許審査の実現につきましては、これまででもこの委員会でも御議論いただきましたとおり、2005年度までの審査請求期間の短縮に伴う審査請求件数の急増の影響が強く残る部分についての総合的な対策の問題と、その下の下線部にありますように、さらにそれを乗り越えた後の、平常状態に戻った後での世界最高レベルを目指すべきという課題の2段階での整理が大綱上もございます。この小委員会で、昨年度来御議論いただいたのは主には第1段階の、今早急に手を打つべき課題についてでございました。
次のページを御覧下さい。第1段階について整理したのが次の絵でございます。当面、第1段階として2005年度までに早急に手を打つべきものということで昨年度御議論いただいたような総合的な対策を含め、さらに今、特許法の改正法案も国会に提出しておりまして、先月、衆議院は通過いたしましたけれども、これから参議院の議論がございます。戦略計画については、このような法改正などの効果も踏まえて策定すべく、2002年度中の当初予定が引きずられて今年度に入り込んでおりますけれども、戦略計画を作成して、公表していきたいと思っております。そして、併せて、第2段階、つまり2006年度以降にさらに世界最高レベルの審査を実現すべきという議論が大綱に記載されてございまして、最終的な目標はこちらにございます。
第1段階との関係についてですが、第1段階で講ずる対策、つまり次のページにございますような、これまで御議論いただいたような施策、それに加えて審議会での御議論以外に私どもが実務的に取り組む施策を含めて、請求構造改革、あるいは審査能力の向上等について、計画に盛り込むべく、今、検討を色々行っております。大きな方向としては、審査待ち期間の長期化がどんどん進んでおりますけれども、私どもとしては、この第1段階で講ずる取組により、長期化を何とか防ぐ方向に行けるのではないかというところまで思っております。ただ、非常に急速に審査待ち期間が短くなる方向にはすぐには動かないのではないかということで、いわば上昇飛行をある程度、水平飛行に持っていくところまでが今回の第1段階の対策での問題解決の解であり、大綱の要請に対しては、そこまではこたえられると思っております。
さらに、次のページを御覧下さい。2006年度以降、世界最高水準の特許審査を目指す訳ですが、審査期間短縮化に伴う審査待ち件数の「こぶ」を乗り越えた後の望ましい方向に向けて、急ぎ検討を始めておかないと、2005年度までの対策だけでは、さらにそうした世界最高水準にはすぐには達しないということも考えられますので、この点についても急ぎ検討に入りたいと思っております。
資料にございますように、左側には前回御報告した際にも少し概要のみ御紹介させていただきましたけれども、この審議会でも議論いただいた先行技術調査環境の整備、外注機関の新規参入による活性化・効率化の問題、あるいは民間先行技術調査機関の育成、それから場合によっては先行技術調査の前置制度の導入、あるいはその場合の審査請求料の減額の問題、こういった問題を急ぎ取り上げ議論したいと思っております。さらに、権利取得に関する多様な要請があるということから、PCT出願と国内審査の同時着手の問題ですとか、実用新案制度の改正の問題、これは去年お示しした後、議論が少し止まっておりますけれども、こうした問題の検討にも着手したいと思っております。それから人材育成、あるいは審査体制面での更なる工夫というものについても、早急に着手したいと思っております。
さらに、資料の右側を御覧下さい。ここでは、必ずしも合意等が得られていなくて、まだアイデアの段階であるものの、さらなる問題として検討する課題を掲載しております。ここで取り上げているものとしては、一つには米国型の情報開示申告制度があります。これについては、国際的な制度をどこに調和していくかという問題がございますけれども、例えば米国のような形での出願人の方へのさらなる開示義務を導入すべきか導入せざるべきかという議論があると考えられます。あるいは今、審査につきましては基本的には審査請求順に審査するということになっているわけですが、一部、早期審査案件やPCT出願については別の形で処理をしております。こうした状況のなか、審査案件全体の中で審査順というものについてどういうふうに考えていくか、あるいはそもそも全体を平等に取扱うというところについて少し変える必要があるのかどうかというような議論があると思われます。それから弁理士の方々についてですが、今、非常に大きな役割を担っていただいておりますけれども、日本の出願審査請求構造の適正化なり、審査全体の質を上げていく必要がある中での協力体制として、今回、審査官の採用にも何名か応募いただき、実質的な御協力をいただく形になりつつございます。けれども、さらに出願人の方とをつなぐ方として、弁理士の方々の役割といったものもさらに考えていく必要があるのではないかという考え方もあるように思われます。こういったところまで視野を広げまして、次の議論に入りたいと思っております。
次のページ、最後のページを御覧下さい。現在までのところ、この本小委員会で御議論いただいてきたわけですけれども、今、御紹介したような検討課題につきましては、非常に制度論の細かいところを検討すべき課題もございますし、議論を細かく整理することも必要かと思っておりまして、ワーキンググループを設けて内容を詰めた段階でまた小委員会にお諮りをするという形をとりたいと思っております。そこで、新しく実用新案関係のワーキンググループをまず設け、それから戦略ワーキンググループ、ここでは先ほど御説明した先行技術調査の問題ですとか、その他の問題を扱うこととして、制度に詳しい実務家の方に参加をいただき、新しい体制で議論を詰めることとしていただきたいと思っておりますが、こうしたワーキンググループでの議論を小委員会に上げてくるという形で進めさせていただきたいと思っておりまして、御説明したような検討体制を作って早急に検討に着手することについて、皆様方の御了解をいただきたいということでございます。
以上でございます。

委員長

今、事務局から御説明がありましたように、この小委員会では職務発明の議論に少し集中的に時間を使って、それと同時に、それ以外の重要な問題については2つワーキンググループを設置して、そちらで検討したいということですが、そういう進め方でよろしいでしょうか。
それでは、そういうふうにさせていただきたいと思います。
ワーキンググループの人選につきましては、私と事務局の方で御相談させていただきたいと思っております。
それでは、時間も少しオーバーいたしましたけれども、本日の委員会はこれぐらいにしたいと思いますが、何か最後に特に御意見等はおありでしょうか、よろしいですか……。
それでは、最後に今後のスケジュールについて、事務局から御説明いただけますでしょうか。

事務局

今後のスケジュールでございますけれども、今後の予定としては、第9回、10回、11回の開催を具体的に予定しております。第9回の小委員会は6月3日の火曜日、これは3時から5時でございます。第10回の小委員会につきましては、7月8日の火曜日、これも同じく3時から5時でございます。それから、第11回の小委員会、夏季に入ってございますけれども、8月1日の金曜日の、これもまた3時から5時でございますけれども、この会議室で開催するということで予定しております。
すでに御連絡を差し上げていると思いますけれども、以上、御予定いただければと思います。

委員長

それでは、以上で第8回の特許制度小委員会を閉会させていただきます。
長時間、どうもありがとうございました。

――了――

[更新日 2003年7月17日]

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