ここから本文です。
委員長 |
それでは、時間となりましたので、ただいまから、第11回特許制度小委員会を開催いたします。 |
---|---|
事務局 |
事務局からのご説明の前に、本日、民事訴訟法の改正の国会審議がありまして、長官はそちらの方に出ている関係で、終わり次第こちらに参りますことをご了承いただきたいと思います。 |
委員長 |
ありがとうございました。それでは、早速、議題に入らせていただきます。 |
事務局 |
資料2をご覧ください。資料2で下線が引いてありますが、読売新聞社の論説委員に異動がございました。前の北村委員が本社編集部科学部長に異動され、それを受け委員交代のお申し出がございました。後任の委員としまして、読売新聞社論説委員の井川陽次郎様にお願いすることになりましたので、ご紹介いたします。井川様は少し遅れていらっしゃるようですので、お名前のご紹介だけさせていただきます。 |
委員長 |
ありがとうございました。それでは、本日の主要な議題であります職務発明制度のあり方についての議論に移りたいと思います。まず、事務局から資料の説明をお願いいたします。 |
事務局 |
それでは、お手元の資料3をごらんください。今まで、この職務発明制度の在り方についてさまざまな観点からご議論をいただきました。その議論の中から、論点をこちらの方で何点かにまとめさせていただいております。それから、後段の方では、改正の方向性として考えられる3つパターンについてご説明させていただいております。具体的には、1は特許法第35条の全面削除、2は第3項・第4項のみの削除、3は第3項・第4項の改正といった選択肢が考えられるということで、それぞれについての考察をしておりますので、ご紹介したいと思います。 |
委員長 |
ちょっと議事を中断しまして、先ほどご紹介しました井川委員がおいでになりましたので、一言お願いいたします。 |
井川委員 |
井川です。どうぞよろしくお願いいたします。おくれまして済みませんでした。 |
委員長 |
どうぞよろしくお願いいたします。 |
委員 |
これは確認ですが、私の理解ですと、米国では、ここに書いてあるのは、職務発明でない場合でも、研究者が職場の施設や時間を使っていたときにショップライトを上げるという理解だと思います。つまり、契約がなくても事実上職務発明とみなされる場合は、その発明は企業に属すというのがアメリカの判例ではないかと。それで、ここに書いてあるのは、職務発明ではないけれど、しかし、会社の施設や会社での時間を使って発明をした場合にはショップライトを上げるということですね。 |
事務局 |
今の点ですが、まず、アメリカにおいてはそもそも職務発明に関する明文規定がございませんので、そういう意味では日本の職務発明とは概念は違い、また確かに職務発明という言葉で一言でいってしまうと若干齟齬があるかもしれませんけれど、ここに説明で書かせていただいておりますように、発明を実施するために基本的には会社のリソースを使ったりとか時間を使った場合は、会社に通常実施権が与えられるということを紹介させていただいております。 |
委員 |
ショップライトは州法上の問題だと思います。特許法は連邦法なので、その点を明らかにしておいた方がいいと思います。州法が全部同じなのかどうかということもありますので。 |
委員長 |
日本の第35条第1項の議論については、いかがでしょうか。 |
委員 |
今のように1項ずつ問われると賛成ということなのですけれど、最後のまとめのときに、どのアプローチでいくかということになると、例えば第35条全部撤廃ということになると、今の質問は全部なくなるわけですね。ですから、今の問いに対して、そのもの自体は結構だと思いますが、トータルしてみたときに、それがまた振り返って影響するのではないかと思うのですけれど、その点はいかがでしょうか。 |
事務局 |
とりあえずそれぞれ要件ごとに確認をさせていただいて、改めて、Ⅱの方でオプション案の検討の際にまた議論をしていただきたいと思います。例えば、全面削除案の場合は1.とか2.の規定はできなくなりますけれど、それでもいいですかというような議論を次にお願いしたいと思っております。両方一度に議論してしまいますと議論が混乱しますので、まず要件ごとに皆さんのニーズを確認させていただいた上で、次の議論をさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。 |
委員長 |
今、ご指摘がありましたように、1.と2.がイエスということは、自動的に全面削除はないということになるということなのですが(笑声)、それもお含みおきの上で、1.と2.についてご意見を伺いたいと思います。 |
委員 |
大学関係でよく議論するのですが、企業ほど職務発明と自由発明の区別が明確かといわれると、事例が少ないですから、明確なことはいえないのです。とくに自由発明とはそもそも何かというのは、大学の先生方のところでは大議論になる可能性があるのではないかと思います。その点、コメントさせていただきたいと思います。 |
事務局 |
今の点につきましては、文部科学省の方で、科学技術・学術審議会の下に知的財産の関係のワーキンググループをつくりまして、そこで今回の機関帰属の議論がされたわけでございますが、その中で、大学における職務発明について、非常に抽象的ではありますけれど、考え方が整理されておりまして、文部科学省の考え方としては、特許法第35条で定義されている職務発明の中でどこまでを機関帰属とするのかについては各大学でパテントポリシーを設けていただく方向であると私は理解しております。 |
部会長 |
この問題は、委員がおっしゃるとおり、大学の教官の職務とは何かという問題であり、これはもう10年以上前から議論されていても結論の出ないところです。しかし、大学の場合は職務発明と自由発明の区別は難しいということはそのとおりなのですが、一応、この原則にのっとって、先ほど事務局がおっしゃったとおり、各大学で決めていくしか、多分方法はないでしょう。モデルローのようなものは文部科学省でつくるかどうかは別にして、最終的には大学で決めていくしかないと。それは困難を伴うのですが、しかし、では、すべてを職務発明にしてしまうか、すべてを自由発明にしてしまうかというと、これもできないわけでして、そこでちょっと苦しんでいただく(笑声)、ということ以外に手はないのではないかと思います。 |
委員 |
もしそういう意味だとすると、反対の意見を表明しておいた方がいいのではないかと思います。産学連携活性化という前提で考えたときに、大学の先生の発明の機関帰属ということを前提で考えているわけですが、その機関帰属が職務発明に限られると。職務発明以外は機関帰属ではないということになって、各大学の意向に任せるとはいっても、では、機関帰属にならない発明がいっぱい存在したときは、産学連携というのは恐らく活性化しないと思うのです。そういう意味では、「これを事前に取り決めすることは無効とする」という積極的な表現は、むしろとっていただいた方がいいんじゃないかという感じがいたします。 |
部会長 |
不便なことは不便かもしれませんけれど、自由発明に該当する部分を大学の方が取り上げるということは、恐らく不可能だろう。企業にとっては便利かもしれませんけれど、それは難しいだろうと。それは裁判所に行ったら、公序良俗違反とされる可能性がかなり出てくるだろうという感じがします。 |
委員 |
公序良俗でだめな場合は別にして、今、条文で取り決めでは無効だと書いてあるから取り決められないと。第35条を全部撤廃すれば、先ほどのご説明にも、職務発明以外でも取り決めは可能になりますよ、ということがありましたね。そういう自由度を与えた方がむしろいいのではないかという意味で申し上げたんです。それも、おっしゃるように、公序良俗に該当した場合はどうかという問題を含むかもしれませんが、今は第35条で取り決めは無効であると明確にうたってあるわけですから、取り決めをすること自体は即無効だと思います。その点を申し上げたのですが。 |
部会長 |
事後的に承継させる分には可能ですけれど、事前にそういうことを決めておくというのは、現在の特許法の構造でいきますと、発明は発明者に原始的に帰属していきますから、発明者の財産を使用者に移すということを事前に決めるということでして、基本的には、例えば従業者が将来取得した土地は会社に帰属させるとか、そういう契約と同列の評価を受ける。それはかなり不安定になるのではないかなという気がすると、こういう意味です。 |
委員 |
一つの発明が職務発明か自由発明かについては、その定義がはっきりしていない部分があります。先ほどの大学の場合もそうでしたけれど、企業におきましても、最近はビジネスメソッド特許とか、いわゆるアイデア特許的なものがどんどん出てきていまして、では、それが職務に関係するのかしないのか、これが案外はっきりしない状況になってきていますね。ですから、ある程度は何らかの形で明確にしておく必要があるのではないかなという感じをもっております。 |
委員 |
第1項と第2項は関連して理解しなければいけないと思いますが、第2項の規定は、自由発明と職務発明の切り分けをしていると同時に、自由発明については、あらかじめ予約承継を禁止することによって従業者保護をしていると同時に、先ほどご紹介がありましたように、この規定をいわば裏読みすれば、この規定があるからこそ使用者が特許を受ける権利を承継することができるということになっているわけですから、そういう意味では、この規定を残すということは非常に重要なことだと思います。 |
部会長 |
今、委員がおっしゃったとおりだと思いますが、しかし、先ほどの御意見のとおり、ビジネスメソッドが出てくると一変してしまうので、この原則は原則として、その辺の整理は将来議論はしておく必要はあるだろうという気はします。従来とはかなり様相が違っていることは間違いないだろうと思います。 |
委員 |
職務発明の中にも、国によっては、その人の従事している業務に関する、という表現、それから、会社の業務に関する、という表現等、いろいろな形で定義されています。国によって状況はかなり違うと思いますが、何らかの定義が場合によれば可能かもしれません。非常に難しい部分かもしれませんけれど。 |
委員 |
先ほどご指摘がありましたように、職務発明の範囲については、裁判例でかなり広い範囲を職務とみているので、実務上、それほど大きな問題がないのではないかと思います。 |
委員 |
大学の場合の職務発明が非常に難しいというのはよく理解できるのですが、それと自由発明を機関帰属にさせるというのは、全く対象外になっている話なのでしょうか。 |
事務局 |
先ほどご紹介した科学技術・学術審議会での報告書の中には、「大学から、あるいは公的に支給された何らかの研究経費を使用して大学において行った研究」という文章が入っています。したがって、その部分については基本的には職務発明だと文部科学省は考えているようです。 |
委員 |
今、事務局のおっしゃられたことは、大学の先生が企業から獲得してきたお金で研究をした場合には、そこから得られた発明は自由発明になるということですか。そうすると、それは大学帰属ではなくて、企業との契約の中で自由に帰属を決めることができると、そう解釈してよろしいのでしょうか。 |
事務局 |
済みません、ここは私の解釈なので、必ずしも文部科学省の公式見解ではありませんが、公的に支給された何らかの研究経費を使用して大学において行った研究に係る発明については、職務発明に該当するとしているようです。 |
委員 |
今の職務発明の定義は、国立大学の52年の117号通達に基づいて、特定の国のグラントを受けていない限りは自由発明としてとりあえず認めているという話で、先ほど委員が指摘された点は法人化後の機関帰属のポリシーだと思います。法人化後については、職務発明の定義をそれこそ文科省のワーキンググループでは非常に広くとっていますので、職務発明になる可能性のあるものはほとんど開示をする形になっていて、その中から機関有のものを選別するような形になりますので、そういう意味では、そこの手続に関しては機関管理・機関活用ができないような状況にはならないと思います。 |
委員 |
今いわれたことにも関連するかと思いますが、競争的資金というものが、今後、法人化すると各研究者に行くのだと思いますけれど、この間聞いたところによると、競争的資金については特許は研究者個人に帰属するということになっているようで、獲得した競争的資金で研究したわけで、それを研究者個人にという方針だといっている独立行政法人もあるという話なので、そうすると、またその扱いというのは非常にややこしくなるのではないかと思うのですが。 |
事務局 |
済みません、今のようなことについては私も承知をしていないのですが、いずれにしましても、それはここで議論するよりは、文部科学省の方できちっと考え方を示されるか、あるいはそれはすべて各大学に任せているのかもしれませんが、いずれにしても個別の大学への適用については、この35条の議論とは別にした方がいいのではないかと考えております。なお、大学についても当然適用となる特許法第35条において、職務発明の定義は、従業者の過去・現在の職務の範囲と企業の業務の範囲のand条件の部分だというのは明確になっておりますので、この点については特に異論はないと思います。 |
委員長 |
この2.の話につきましては、大学における発明の問題についてご議論をいただきましたが、もとに戻りまして、「職務発明は予約承継を認める、自由発明についてはそれを禁止する」という原則については、いかがでしょうか。これはこのままでよろしいでしょうか。 |
委員長 |
次に、一番ポイントかと思いますが、3.の職務発明に係る権利の承継があった場合の対価の決定についてですが、これは2ページから3ページにわたりまして3つの大きなポイントで整理されております。これにつきまして、ご質問やご意見等をお願いいたしたいと思いますが、いかがでしょうか。 |
委員 |
この提案は、基本的には個別の発明をそれぞれ評価するということがどうも前提になっていて、そうしますと、今、起きている問題を抜本的に解決できない可能性もあるのではないかと思います。つまり、企業としては、個別の発明を承継時にやるのは非常に難しいので、実績報酬をとっていると。そうすると、実績報酬をやらなければいけない。ただ、実績報酬制度というのは、それも非常にうまくいくところもありますし、うまくいかないところもありますし、そういう枠をはめることは合一的インセンティブ制度の選択をゆがめることになるのではないか。 |
委員 |
私は、まず3.の(1)について、このような決定が尊重されるということは適切かという点については、このとおり適切だと思います。いま委員が、特に個々の発明についての実績報酬を決めるのは難しいということをいわれましたけれど、実際、企業は報奨規程を細かくつくっていて、それぞれの企業が販売実績とかライセンスした場合の実施料率とか発明者の貢献度とか、その事業分野の特殊性等も考慮して細かい規定を設けているのが通常だと思います。 |
委員 |
この3.の(1)に、①、②、③と3つ書いてありますね。①は「合理的な手続を経て決定され」、②は「かつ」と書いてあって、「決定が当該定めに従い適切になされ」、そして、③は「かつ」と書いてないので、これはorなのかどうかということが1つですが、私はorにしていただきたいと。つまり、「手続合理性」、そして「決定が当該定めに従って適切になされ」というところは、実務的にもかなりできるのですが、その計算した結果が合理的なのか非合理なのかというのは、またどう評価していいかわからない。少し面倒くさいところを残してしまうことになるのではないかと思っています。 |
事務局 |
基本的には、すべてand条件と考えているわけですが、①と②で書かせていただいたのは、基本的にはルールをつくるプロセスと当てはめのプロセスですけれど、通常であれば、その両プロセスをきちっと適正にやられれば、結果としての答えも合理的な答えが出るというのがほとんどだと思っています。 |
委員 |
私も、その点で、表現ぶりがちょっと気になっているのですが、事実上、③は要らないんじゃないかと私は思います。③があることによって、対価の額が不合理であるかないかということを結局裁判所が判断することになるだろう。私の理屈は、①で、合理的な手続を経て決定された規定がありますと。②で、「かつ個々の対価額の決定が当該規定定めに従い適切になされた」と書いてあるわけですね。適切になされて、なおかつ③がというのは、要らないのではないかと思います。適切になされない場合に③の問題が起こるのであって、規定が十分であれば、適切に運用されたものをよしとするのが正しいのではないかと思います。ですから、この③は要らないのではないか。入ることによって、裁判所にまたご厄介になる機会が多くなるということで(笑声)、これは1つも改善になっていないと思いますので。 |
委員 |
私もそう思います。 |
委員 |
それから、もう1点、②の「個々」という問題ですが、これは前からも実情をご説明してありますように、私は実務的な立場から、個々の発明の対価を決めようと思っても決められないという実情があると思います。ですから、インセンティブのためにどういう還元をするかというのは個々の企業で考えるべきであって、そのときに、個々の発明単位で合理的な規定がないとか、発明単位で合理的な対価が払われていないということで何か争いが起こるというのは、非常に現実的ではないのではないか。 |
事務局 |
今のご意見の後段の点でございますが、当然、企業においてはかなりの数のパッケージライセンスがなされていると我々も理解をしておりまして、そのようなケースにおきましては、例えばそれぞれの契約又は職務発明規程において、パッケージライセンスをした場合の対価の支払い方というものをきちっと明文で規定していただき、そういった規定が合理的なプロセスを経て定められ、当てはめも適切に行われていれば、問題はないのではないかと思っております。 |
委員 |
先ほどのご意見についてちょっとコメントさせていただきたいと思います。①、②、③の関係ですが、現実の問題としては、程度を語り得るものがほとんどではないかなと。対価の額にしましてもそうですし。そして、手続をどの程度きちっとやっているかということも、現実の場面ではさまざまな程度を語り得るものだろうと思います。そして、先ほどのご意見のように、それこそだれもが納得するように、完全に手続を踏まえて対価の額を決めたという場合については、これはもうその額自体、合理的なのだろうと思います。 |
委員 |
①と②と③の関係については、資料の6ページの3.の両者に与える影響の①のところですが、「合理的な手続を経て対価の決定額が決定された場合、原則として尊重」となっていますので、先ほどの委員のご発言との関係で言えば、やはり①と②が大原則、基本であって、③は――つまり、内容的な審査が行われるというのは、レアケースということになろうかと思います。 |
委員 |
プロセス重視にしていくという考え方そのものは、大変いい方向性だと思います。ただ、疑問点が2つあります。ひとつは、「使用者と従業者が実質的な交渉をする」という部分です。例えば労使間で給与を決めるときと同じような交渉を行うのか等、どうすれば合理的と認められるかが、まだ非常に不明確だと思っております。 |
委員 |
今議論している問題は、職務発明によって従業者が取得した特許を受ける権利または特許権を使用者側が承継した場合の相当の対価の問題ですね。対価について相当であるかどうかについては、全く司法的判断の外に置くというのは、そのこと自体、私は矛盾していると思います。手続1、2を踏んだ場合には、当然、合理的な基準を満たすような相当な対価が決められるでしょうけれど、そのこと自体と、相当な対価と定めた額が客観的にみて著しく不合理であろうとどうであろうと、手続を踏んだのだから司法的判断の外だということは、法のあり方からいっておかしいと私は思います。 |
委員 |
先程来のご意見のように、私は、2ページの①から③の要件を設けたのはいいかと思います。それで、質問も兼ねてですが、③のところで、きょういただいた資料ですと、「著しく不合理」というのを「著しく」というのが抜けているんです。私は前にいただいたときに、「著しく」というのはどのように解釈するのかなと。これはむしろ「著しく」ではなく、「だれがみても明らかに不合理」というときに限定した方がいいんじゃないかなと思って、この「著しく」が抜けたことを歓迎していたんです。ところが、皆さん、余りここにはこだわっていらっしゃらないのか、「著しく」とおっしゃるので、私はここは「著しく」は外すべきだろうと思います。 |
委員長 |
今、一当たりご意見をいただきました。まだお伺いしますが、今までのところに関して事務局の方からご説明することがあれば、お願いいたします。 |
事務局 |
2,3お尋ね等もございましたので、お答えしたいと思います。 |
委員 |
今のご説明で、使用者と従業者が実質的にというのは、例えば「個々の従業者と」という表現もされましたが、ここはあくまでも会社としてのルールを決めるときに、使用者と従業者が実質的に交渉を行ってという形でいわれていますので、個々の従業者とやるというのは不可能ですから。そうすると、一般的にいわれるのは、労使間交渉で決めるのかなととったのですが。プロセス重視ということであれば、その合理性をきちんと担保するためにそこのところを明確にしていかないと、また混乱が起こるのではないかなと私は思います。 |
委員 |
今のご発言は前回からも出ている議論だと思いますが、2ページにありますとおり、①が手続を決めて制度を決めるということで、②は当てはめ・適用の問題ですね。主に集団的な交渉というのが問題になるのは①の方で、それが今のご発言だと思いますが、しかし、「個々の発明」という表現が適切かどうかはともかく、ある発明についてその制度を適用する際には、どうしても個々の従業者との交渉、あるいは説明、あるいは不服の申し立てということが出てくると思います。そこのところを抜きにするのかしないのかということですが、特許法の建前からすると②を除外することはできないと私は考えますので、この案に賛成であります。 |
委員 |
②が重要だというのは私も認識しているのですが、「個々の対価が適切に払われる」と、なぜ「個々」といわなければいけないのですかと、ここなんです。先生はできないはずはないとおっしゃいましたけれど、現実にはできないケースがいっぱいあるんですね。そこをなぜ法律で「個々」と規定しなければいけないのか、その問題なんです。「発明」でいいじゃないかと私は思います。 |
委員 |
これは「個々」にこだわるという趣旨ではないんですよね。 |
事務局 |
先ほどご説明したとおり、ここは決して「個々」にこだわるということではなくて、全体のルールと発明に対する当てはめ、先ほどの繰り返しになりますけれど、パッケージライセンスのようなケースも規程上きちっと定めてあれば、そこは読み込めると私は考えております。 |
委員 |
まず、「個々」と書いてあるのは、条文上、「個別の特許権の移転」となっていることは明らかなわけですから、それを前提としたのは仕方のない問題だろうと思います。先ほどご指摘がありましたように、プロセスと結果を総合的に勘案するということが必要だろうと思います。 |
委員 |
先ほど企業の実情ということをいわれましたが、まず、パッケージライセンスについて、得られたライセンス・フィーをこのように割り振りますということをする会社はまずほとんどないと思います。それから、先ほど、例えば③の対価の額が100円であれば著しい不合理とか、そういう判断が出るだろうとおっしゃっていましたが、現実的には、例えば、外資系の会社で1ドルしか払わないという会社もあります。その会社は恐らく、給与等を含めてパッケージとしていいものを用意しているのだろうと思いますが、非常に業績の伸びている立派な会社ですけれど、その会社が日本で1ドルでやりたいと、USのルールをそのまま適用したいというのであれば、私はそれはそれで尊重していいのではないかと考えます。 |
委員 |
私も企業の立場でいわさせていただくと、知財立国、知財立社というのは企業の存亡がかかっている話で、発明者に対して報奨金という形で、第35条の話もありますけれど、インセンティブを渡していきたいという考えに、企業の立場からいって変わりはないと思います。ところが、③の決定された対価の額が不合理という話だけ一人歩きしていくと、ある意味で、これに対して研究者側の相場感というのは、いろいろな研究者がいますから、実際問題ないんですよね。その意味では、現在の特許の第35条に関係する裁判がこの内容になってなくなるかというと、③がある限り、やはり全然なくならないという現状なのかなと思います。 |
委員 |
企業の立場の人の発言が続いていますので、労働者の立場で(笑声)。冗談はさておきまして、私は、今回の素案になっておりますものは、先ほどのご意見のように、労働者の立場からみてもそれなりに納得のできるものではないかなと思っています。ただ、問題なのは、先ほどから議論になっています、裁判に持ち込めるのか持ち込めないのか、不合理な状況にあったときにどうするのかという部分、これはどういうルールをつくっていくのか、あるいはそのルールを決める際にきちんとした労使間も含めたいろいろな話し合いがなされたのかどうか、ということが非常に重要なことはわかるのですが、それでも不合理だというのはあり得るはずなんですね。 |
委員 |
幾つかまとめていわさせていただきたいと思います。複数の論点が入ってしまって申しわけありませんが。 |
委員 |
私も、今までいろいろ議論がありましたけれど、③の「対価の額が不合理でない場合には……」というところが非常にあいまいでわかりにくい。額が合理的であるかないかというのはだれが決めるかというと、結局、裁判所に持ち込むということになると、今と全然変わらない結果になると思います。 |
委員 |
私は、弁理士として実務上の観点からちょっとお話しさせていただきたいと思います。 |
委員 |
私は、先ほど委員がおっしゃっていたことがとても印象的だったのですが、今起こっている事件はどこに原点があったかということを考えたときに、会社において自分の特許が評価されていないから訴訟を起こしたというケースは、私はほとんどないと思います。私は実際に訴訟を起こした人たちにも3人ぐらいは会っていろいろな話を聞いていますが、相当の対価を受けられなかったのではなくて、会社において相当な評価を受けられなかったというところが原点で、では、会社に対して何ができるかというと、これしかないというのが現状だと思います。 |
委員 |
私どもの会社の特許に対する考え方を話しします。皆さんからご批判を受けるのではないかと思っておりますが、実態として話しさせていただきます。私どもは非常に小さな会社ですから、特に発明報償に関するルールはもっておりません。ただ、私どもの会社にとって特許は商品です。商品といいますと、きょうはメーカーの方がいらっしゃるのでおわかりかと思いますが、例えば、自動車を売って会社を経営する、あるいは家電製品を売って会社を経営する、それと同じように、私どもも特許を売って会社を経営しています。 |
委員 |
さきほど委員がいわれたことですけれど、現在、職務発明の相当な対価の額を受けていないということで訴訟を起こしている人の動機などは、おっしゃるとおりだと思いますが、それだからこそ、ここに出ているような明確化をするということに意味があるわけで、それ以上に、いわば治外法権にするということは絶対にできることではないわけですね。例えば、行政法に自由裁量の法理というものがありますけれど、自由裁量で行政庁が自由にできるということであっても、それが著しく裁量の範囲を超えたら、それは司法的判断にやはり服するわけです。 |
委員 |
私はここでの議論を否定しているわけではなくて、今起こっている問題を考えたときに、ここの3つをクリアするといろいろなものがクリアになるということでは決してないのではないかなと思っています。ですから、今回の1件はものすごく大きな問題をはらんでいるので、この一つ一つの案件だけでは解けないパズルがあるのではないかなというのが私の印象というだけで、この議論を否定しているわけではありません。 |
委員 |
この合理性をだれが判断するのかということから、批判が先ほどから随分出ていますが、先ほどから議論が出ていますように、これは例外なんですよね。まず、①と②でプロセスがきちんとされていれば、それで一応対価の相当性というのは認められるわけで、そこを外れてしまった例外的な場合についてこの問題が起こるにすぎないのです。裁判所の判断は変わらないのではないかというご発言が多いのですが、そこは違うので、これまでのように、そもそも全面的な司法審査がなされてきたような状況とは法制度そのものが違ってくるわけですから、そこは全く違うと思います。 |
委員 |
今の後半の話は私は非常に賛成ですが、ただ、今のご提案は、個々の発明について評価をするということになっているんですね。そうしますと、なぜそれが問題かというと、3番の判例をみますと、基本的には特定の発明について相当の対価を出すことになっているために、企業が例えば失敗したときに損失を負担したということは全く考慮に入れないわけですね。どうしてそうなってしまうかというと、個別の発明ごとで紛争が起きた事例について相当の対価を求めることになっているからだと思います。 |
委員 |
本件が司法審査に服さないという議論は全くなくて、それは当たり前だと思います。どうせ服すのですから、③なんてなくたっていいだろうということで、こういうものがあると余計な紛争がたくさん出てくるから、かえって不都合ではないかと、こういうふうにいいたかったわけでございます。 |
委員 |
私も全く同じ意味で申し上げているので、私が発言するたびに、司法審査は必要なのだとわかったようなことを注釈でいつもいただいているのですが、何もなくても、それがあるなら、あえてここに訴えを起こすような原因を書かなくてもいいじゃないですか、ということを申し上げているのです。 |
事務局 |
3.の③について両論出ておりますが、事務局としては、基本的には1.と2.と3.が総合的に判断されて、1.と2.がきちんとなされていれば、3.というのはほとんど基本的には問題ない、極めて例外的なケースであろうとは考えております。ただ、それについては、この③の言い回しの問題だと思いますので、事務局の方で調整して、再度、皆様にお諮りをさせていただきたいと思います。 |
委員長 |
それでは、3.につきましては、今、事務局からご説明がありましたように、主に③の評価をめぐって意見がはっきり分かれておりますので、事務局の方で少し議論を整理していただいて、また次回に議論を続けていただくということで、きょうは、作業の都合上、論点はすべて一応カバーしておきたいと思いますので、3.の議論は引き続き行うということを前提にして、4.と5.について少しご意見をいただければと思いますが、いかがでしょうか。 |
委員 |
外国の特許権の取り扱いについて、先ほど、第35条の中で対価の対象にはするというご説明がありましたが、承継の方は規定できないだろうというご説明なのですけれど、本当にこれが規定できないということであると、恐らく別個に承継は契約でやるということをおっしゃっているのだろうと思います。企業にとって対応の外国の特許も非常に大事であることは変わりございませんので、トータルとしておさまらないのだったら、全部契約でやっても変わらないということになってしまうのではないかと思います。その辺を本当に規定できないのかどうかというのをはっきり教えていただきたいなと思います。 |
事務局 |
まず、承継というものも必ずしも単純ではないのかもしれませんが、基本的にそれ自体は、各国によってそのあり方というものが定められている、比較的合法的なものではないかと思っております。特に特許権はそうですし、我が国においても承継するためには登録が必要になるということで、それが効力発生要件になっているわけです。したがって、国内の契約で承継自体の効果、各国における特許を受ける権利ないしはその特許権、実施権というものの効果までを担保する、そこまでの射程をもたせるということは法制度上無理であろうと。 |
委員 |
今のご説明で、承継が第35条で規定できなくても対価が決められるというのが、ちょっと理解できないんです。承継がどこかで保証されていないと、承継もしていないのに対価を払うというのはちょっとおかしいと思うので、その辺の関係がちょっと理解できないんです。 |
委員 |
短期消滅時効をすぐにあきらめてしまっていますけれど、これはもう少し考えてもらいたいなという気がいたします。対価はずっと発生してしまいますから、結局、特許が切れるまで待って、それからまた10年というのは、私は実務者からみると非常に煩わしいというか、大変である。5年とか3年とか、何とかならないでしょうかという気がいたします。 |
委員長 |
今のは5.に関することですね。 |
委員 |
はい。 |
委員長 |
それでは、時間もありませんので、4.と5.の両方についてご意見を伺いたいと思います。 |
委員 |
そもそも第35条規定の適用ができるのは、日本で生まれた発明に対してできるのか、日本法人に帰属の従業員にできるのか、あるいはその組み合わせなのかの疑問であります。というのは、外国で契約して日本法人に帰属させている人もいますし、外国の研究所に出向している人もいるわけです。また、外国へ先に出願し日本にもってくるのもあれば、いろいろあるわけです。そもそも日本特許にのみ適用できるのか、一体何に対してこれが適用できるのかで、大分後のシナリオが変わってまいりますので、ぜひご検討いただければと思います。 |
事務局 |
確かにそれは制度上の設計の問題なのかもしれませんが、基本的には、日本国において雇用契約を結んで、通常、勤務地を日本とする、そういう発明に適用されるというのが一番素直な立法論かなと思っております。したがって、外国に一時期、例えば出向のような形で行かれている従業員の方がなさった発明というのは、第35条の適用があるし、逆にいうと、外国で行われた発明が日本に出願されて、日本で特許になっているというものについては、第35条の適用がないというのが、第35条の従業者保護という規定の趣旨からすると、一番素直な政策論としてはあるような気がいたしております。 |
委員 |
今のご説明ですと、基本的には第35条で承継も外国も含めますよと。ただ、具体的なその対抗要件とか成立要件とか、それぞれの国の手続があるので、その手続は踏む必要がありますよと。そういうご説明と理解してよろしいのですか。 |
事務局 |
最後の点は私どもは勉強させていただきますけれど、おっしゃられたご趣旨はそのとおりだと思います。公法的なところはそれぞれの国によって履践していただかないとどうにもならない。ただ、国内の契約で、従業者と使用者で契約したもの、勤務規則については契約とほぼ同視できると思いますが、契約で定められたものに従って、例えば、ある国においては従業者が出願しなければいけないということになっているとすると、それはそういう協力義務が発生するということは理解できると思いますし、仮にある国では特許がとれなかった、あるいは無効になったということになると、それは事後、別途また司法的な手続で調整する。不当利得ですとか、そういうことは十分可能だと思います。 |
委員 |
海外特許の取扱い、あるいは日本人の発明かどうかという問題を議論しているわけですが、企業の実態というのははるかにそれを超えたところで活動しています。先ほど、日本から海外に出向した人が発明を成して日本国に出願したときは、特許法第35条の適用を受けると発言されました。では、例えば日本人の出向者を受け入れるアメリカの企業が、発明規程なり対価規定なりをつくる必要があるかといいますと、アメリカ法というのは対価に対する規定が何もないですから、会社としてはつくる必要がないと判断します。 |
委員 |
もともと今の問題が起きてきたのは、東京地裁の日立事件の判決が契機だと思いますが、これに対応する規定を設けるとしたら、基本的には事務局のいわれたようなことになるでしょうし、それをさらにきめ細かく決める方法はあり得るとは思いますが、果たして本当にこういう規定を設けるのがいいのかどうかというのは、企業側はどう考えているのかというのをむしろ私は聞きたいと思います。 |
委員 |
時間がありませんので、手短に申します。これは前回と同じでございますが、国際私法上の問題と実質法上の問題をもう1度整理していただいたらと思います。事務局の議論は、日本法を契約準拠法とした場合の議論だろうとは思いますが。 |
委員 |
時効の点ですけれど、私も初めは設けた方がいいと思っていたのですが、この起算点をどうするかということを考えますと、非常に難しいですね。特に無効審判が出ていたとかということになりますと、事実上、とても時効進行とはいえないような例が考えられますので、やはり発明者の保護の立場からすると、簡単に消滅時効は設けるべきではないと思います。 |
委員 |
委員の質問に答えておいた方が時間のためになるんじゃないかと思って申し上げますが、間違っていたら企業の方は指摘していただきたいと思うのですけれど、私はまず前提としては日本の国に法人がある従業員の発明ということを前提に考えますが、その発明をベースにして日本で特許をとる、外国で特許をとる、これは承継はやはりはっきりさせたいという気持ちがあると思います。ですから、その点は変わらないだろうと。承継は不安定でもいいと思っている企業はまずないだろうと思います。 |
委員長 |
ありがとうございました。予定の時間を大分過ぎましたけれど、まだ論点が幾つか残っておりますので、最初の予定では8月1日に中間報告をまとめるということにしておりましたけれど、あるいはもう1回、臨時でこの小委員会を開催することが必要になるかとも考えておりますので、後で事務局から日程の調整などもしていただきたいと思います。 |
委員 |
第35条を外国の特許を受ける権利に適用する部分について、議論の整理ができていないと思いますので、その点については留保しておいた方がいいのではないかと思います。 |
委員長 |
わかりました。それでは、4.の①の対価の問題についても、ご指摘のように余り議論がなかったと思いますので、これも次回にご議論いただくということで残しておきたいと思います。 |
事務局 |
本日は、活発なご議論をありがとうございました。正直なところ、8月1日には案をまとめられるというところまで詰められるかなと思ったのですが、なかなかそこまで行きませんで、申しわけございませんでした。 |
委員長 |
それでは、大変活発なご意見をいただきまして、ありがとうございました。以上をもちまして、第11回特許制度小委員会を閉会させていただきます。長時間、ありがとうございました。 |
――了――
[更新日 2003年10月21日]
お問い合わせ |
特許庁総務部企画調査課 |