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第13回特許制度小委員会 議事録

  • 日時:平成15年9月8日(月曜日)15時00分から17時00分
  • 場所:特許庁庁舎 庁議室
  • 出席委員:
    後藤委員長、中山部会長、相澤委員、阿部委員、井川委員、市位委員、江崎委員、大西委員、志村委員、須賀委員、竹田委員、田中(道七)委員、土田委員、西出委員、松尾委員、丸島委員、山本委員、渡部委員
議事録

委員長

定刻になりましたので、ただいまから第13回特許制度小委員会を開催いたします。
本日は、ご多用中のところご出席いただきまして、どうもありがとうございます。本日も中山知的財産部会長にご出席いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、早速ですが、本日の検討を始めたいと思います。本日の議題は、8月1日の前回に引き続きまして、職務発明制度のあり方についてご検討いただきたいと考えております。
まず、資料を事務局でご用意いただいておりますので、ご説明いただきます。よろしくお願いします。

事務局

お手元の資料の確認をさせていただきます。資料1から3まで。まず資料1が議事次第と配付資料の一覧。資料2が委員名簿。資料3が、本日議論していただく「職務発明制度の在り方について(その3)」でございます。それから、参考資料といたしまして、本日ご欠席の委員よりご意見をいただいております。
以上でございますが、過不足等ございますでしょうか。
それでは、引き続きまして、私の方から資料3に基づいてご説明をさせていただきたいと思います。
お手元に「職務発明制度の在り方について(その3)」とございますけれども、まず始めに、4ページをご覧下さい。
去る8月29日に日立金属の職務発明に係る事件の地裁判決が出されておりますので、それについて簡単にご紹介をさせていただきたいと思います。
主な争点としては2点ございますけれども、まず、争点イ.が、被告が支払った補償金が相当の対価といえるかどうか。それから、争点ロ.が、相当の対価はそもそも幾らかというところでございます。
まず、争点イ.の方でございますけれども、判示事項の中ほどにありますが、先日の最高裁判決にありますように、実際被告が支払った額が相当の対価に満たないとき、従業者はその差額を請求できると判示されております。
争点ロ.については、また幾つか細かい論点に分かれております。まず、(2)の①に記載のように、相当の対価を算定する際の考慮事項について、若干注目すべき内容になっております。特許法第35条の4項には、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」と「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素が規定されているわけでございますけれども、この判決では、下から3行目にありますように「具体的には発明を権利化し、独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して、相当の対価を算定することができる」と判示しております。
続きまして、5ページの②でございますけれども、被告側は、その発明の実用化・事業化のために費やした費用、それから特許の権利化及び維持のために支出した費用を使用者等が受けるべき利益の額から控除すべきという主張をいたしました。これに対し、裁判所は、判示事項の下の2行でございますけれども、これらについては「使用者等が貢献した程度」として考慮されるので、「その発明について使用者等が受けるべき利益の額」を定めるに当たってこれらの費用は考慮しないと判示しております。
また、使用者等の貢献について、③でございますけれども、使用者の貢献には有形無形のものがあって、金銭的に評価できるものに限らず、労力の負担等さまざまな形態があり、客観的に金銭的に評価することは困難なものも多い。したがって、35条4項は、使用者が貢献した程度と規定しているのだと解しております。
それから、使用者の貢献を金銭的に評価しその金額を控除すると、判示事項の下から3行目、2行目に記載されておりますように、同利益より使用者等の貢献を金銭的価値に算定したものが高額となる場合には、従業者等は何らの支払も受けることができないということになってしまいます。これでは第35条の趣旨に反するということで、この判決では、使用者等が貢献した程度を割合的に認定すると判示しております。
それから、④でございますが、使用者が貢献した程度について、考慮事項を具体的に6点挙げております。すなわち、原告の職務内容、本件各発明がされた経緯、本件各発明を権利化するに至る経緯、本件各発明の事業化の経緯、本件各ライセンス契約締結の経緯及び原告に対する給与等の支払い状況、こういった諸事情を総合的に判断して使用者が貢献した程度を決めるべきと判示しております。
「相当の対価」の具体的な計算方法を6ページに記載しております。まず、(1)がその発明により使用者が受けるべき利益の額ということで、これはライセンス収入の金額、約1億2,000万という額を認定しております。
(2)が、使用者が貢献した程度でございます。小さい字で書いてありますが、出願・維持費用600万円、開発費約4億4,000万円、本件各ライセンス契約締結に要した費用約1,200万円、それから、被告社内の平均値で評価した場合の給与等と実際に原告に対して支給された金額との差額を約360万円と認定しております。これらの事情を含め諸事情を総合的に考慮して、使用者の貢献した程度を90%と認定しております。
結果的に、相当の対価の額は、先ほどのライセンス収入に使用者が貢献した程度を引いた10%を掛けまして、約1,200万円と認定したということでございます。以上については、後ほどの4項の改正議論にも関係しますので、先にご紹介をさせていただきました。
それでは、本論に移りまして、1ページに戻っていただきたいと思います。これまでも議論させていただきましたが、本日、項目を4つに整理させていただいております。まず、1点目でございますが、35条の3項に相当する部分の考え方でございます。大きな考え方は、今までと同様、枠の中に書いてございますけれども、権利の承継があった場合の対価の決定が、使用者と従業者との立場の相違にかんがみて不合理でなければ、その対価を尊重するようにすべきではないか。
一方、対価の決定が不合理である場合には、従業者等に「相当の対価」請求権を認めるべきではないかという考えでございます。
それから、その不合理性の判断においては、手続面を重視することが適切ではないかということでございます。
ここで、ちょっと説明が足りないかと思いますので、1点、補足の説明をさせていただきたいと思います。ここでいう対価の決定ということですが、これについては、今までご説明してきたとおり、対価の決定には大きく基準の策定と、その当てはめ、すなわち基準の適用という2つのプロセスがあると考えております。それぞれのプロセスの中では、純粋に手続的な面と、内容、すなわち基準を策定する場合には基準に書かれているような対価の額、当てはめについては、当然、最終的に決定された対価の額、そういった4つの項目がこの対価の決定の中には含まれている。その中で、不合理性の判断については特に手続面を重視することが適切ではないかというところでございます。この考え方の理由を以下に述べております。まず①でございますけれども、使用者等の研究開発投資を促進するためには、対価の予測性を高めることが必要ではないか。そして、35条3項の規定にかかわらず、契約や勤務規則その他の定めによって定めるところによることを原則にすれば、予測可能性が高まるのではないかということでございます。
一方で、従業者側の立場に立った場合に、職務発明については納得いく形で評価されるということが発明意欲を刺激する環境として望ましいのではないかと考えております。このためには、契約や勤務規則その他の定めによる対価の決定が使用者と従業者の立場の相違にかんがみて不合理でないということが必要ではないかということが②に書いてございます。
③でございますけれども、この不合理性については、対価の決定全体を総合的に評価するということが原則ではありますけれども、特に手続における従業者の関与の状況等が重視されることが適切ではないかということでございます。
2ページの④でございますが、より具体的に不合理性の判断の要素としてどのようなものがあるかというのを例示させていただいております。まず、あらかじめ対価を決定するための基準が策定される場合にあっては、従業者との協議の状況、当該基準の開示の状況や、対価の額の具体的決定すなわち当てはめに当たっての従業者等による不服申し立ての機会の有無、あるいは事後承継契約等の場合にあっては従業者との交渉の状況、こういったものが重視されるべきではないかと考えます。
⑤でございますが、各使用者・従業者の実態はさまざまでございますので、対価自体も、各企業等における研究環境の一要素であるということにかんがみまして、行政なり法が過剰に個々の実態に介入するということは不適当だろうということで、柔軟に決定することを許容すべきではないかということを書かせていたただいております。
最後のなお書きでございますけれども、対価の決定の合理性を側面から担保して、かつ、各業界における相場観を形成する上で、対価を決定するための基準を策定して、これを公表することに努めるのが望ましいのではないかと考えております。
次に、2.でございますけれども、裁判所が定める「相当の対価」に関する考え方、すなわち35条4項に関連する部分でございます。
まず、枠の中でございますけれども、対価の決定が不合理である場合、裁判所において「相当の対価」を決定する際にさまざまな事情が考慮されるように、35条4項の規定を明確化することが適切ではないかということでございます。
①に記載のように、先ほどご紹介した日立金属の事件を除きまして、これまでの判決におきましては、35条4項の2要素については非常に限定的に解釈されてきております。したがって、その発明の完成や実施化に際し使用者が行った貢献や負担した費用については必ずしも考慮されていないのではないかという認識をもっております。
したがいまして、②に記載のように、裁判所における「相当の対価」の算定におきましては、その発明に関連して使用者等が行った貢献の程度や負担した費用に加え、発明者の処遇に関する事情等が幅広く勘案されるように第4項の規定を明確化すべきではないかと考えております。
3.は、35条の適用範囲、いわゆる外国特許について35条を適用するかどうかというところでございますけれども、この点については、これまで何度か議論をしていただきましたが、外国特許権等の承継や承継に対する対価について、35条の規定を及ぼすというのは理論上及び運用上難点を抱えているということで、今回の改正では見送るべきではないかと考えております。
ただ、実際、各企業等では外国特許について対価に関する規定等を運用されているかと思いますけれども、35条が外国特許に及ぶ、及ばないにかかわらず、外国特許に基づく利益についても使用者・従業者間で適切に対価の取り決めが行われるということが望ましいのではないかと考えております。
この結論に至った理由でございますけれども、まず、①でございますが、外国特許について、特許法第35条の適用があるとするためには、第35条が私法的規律であって、当事者が日本法を準拠法として選択した場合に適用される法律であることなどを前提にしなければならないが、国際私法の観点からこの点が必ずしも明確ではないということでございます。
それから、②でございますが、35条の規定で規定されております概念、「発明」、「特許権」、「特許を受ける権利」には各国ごとに幅があります。それから、承継の最終的な効果は、各外国法の定めるところによって手続を履践しなければ、その効果は得られないということです。すなわち、国内法でいかなる定めを置いたとしても、外国特許の承継について確定的な効果をもたらすことができないということでございます。
③でございますけれども、対価請求権発生の前提である承継の有無や承継の時期等の決定は、今ご説明したとおり、結局は外国法によらなければならないため、対価の部分について35条の規律を及ぼすことには大きな運用上の難点があるのではないかと考えております。
こういったことから、今回の35条改正の方向性として、35条に外国特許について規定をおくことは見送るべきという結論に至ったわけでございます。
4.の短期消滅時効に関する考え方ということでございますが、今回、35条に短期消滅時効の規定を導入することについては困難ではないかと考えております。
理由としては、まず、①にございますが、従業者が使用者に対して訴えを提起するというのは、現実の雇用関係を前提にする限り難しいということでございます。したがいまして、ここで短期消滅時効を設定することは、結果的に、裁判を受ける権利を実質的に侵害するという批判を免れないのではないか。いいかえますと、現在、在職中に使用者側を訴えるということは事実上難しくて、皆、退職してから訴訟を提起している。これが短期消滅時効を導入すると、多くの場合在職中に時効となってしまい、事実上35条に基づく訴訟を提起できなくなってしまうというような批判が出るのではないかということでございます。
②でございますが、比較の対象としては、例えば、賃金の消滅時効2年というのがございますけれども、賃金の支払いにつきましては、労働基準法なり賃確法なりによって、厳格に賃金が支払われないことに対しての規制がかけられているということで、必ずしも35条の対価の支払いと比較できるようなものではないのではないかということでございます。
③でございますが、消滅時効制度そのものについて一定の反倫理性がある中で、職務発明の対価について、その時効制度を根拠付ける理由である「時間の経過による証拠の散逸から来る過去の事実の立証の困難性」、あるいは「権利の上に眠る者の不保護」といった観点から考えて、ことさら短期消滅時効を正当化するという事由を見出しがたいということでございます。以上のことから、今回の改正において短期消滅時効を導入するというのは難しいという結論に至ったわけでございます。
事務局からの説明は以上でございます。

委員長

ありがとうございました。先ほどちょっとご説明がありましたけれども、本日欠席されております委員からコメントをいただいておりますので、ご紹介いただけますでしょうか。

事務局

お手元の参考資料の1枚紙でございます。論点は2つあるかと思いますけれども、まず、1に書かれておりますところは、対価について、企業と従業者に基本的にゆだねるべきという今回の事務局案については、その方向性は賛同いただいているということでございます。ただし、法が定める対価の規範が、通常の企業における現実の効率的な報酬制度と整合性がとれていないとやはり問題があるのではないかという指摘でございます。
2でございますけれども、ここで相当の対価について、現在までの35条の紛争では、研究開発リスクの負担の問題というのはほとんど考慮されていなかったというところでございます。これについて委員の意見は、2.のパラグラフの下から4行、括弧書きの部分がご趣旨だと思います。本来、個別発明の対価ではなく、報酬制度が妥当かどうか判断する方がよいと考えられるけれども、もし個別対価の規定を残すのであれば、結果的に成功した発明のみが紛争の対象となると考えられることもあり、企業が負担をした研究開発リスクの負担も明記する必要があるだろうということで、個別の成功した発明に係る経費だけではなくて、そこに至るまでの企業が負担した研究開発リスクも相当の対価の中で考慮できるような規定に改正すべきというご意見だと思います。
簡単ですが、ご紹介は以上でございます。

委員長

どうもありがとうございました。ただいま事務局からご説明がありましたとおり、これまでの議論を踏まえて論点を整理していただいております。スケジュールの関係もありますので、次回の小委員会では、できれば報告書案を作成して、それをご議論していただきたいと考えておりますので、その点をお含みおきいただいて、これからこのペーパーに基づいてご議論をいただきたいと思います。
中身が割に分かれておりますので、3番目、4番目はそれぞれ独自の論点になっておりますので、まず最初に資料3のペーパーの論点の1と2についてご議論いただきたいと思いますけれども、ご質問、ご意見等おありでしたら、よろしくお願いいたしたいと思います。

委員

まず、事務局案の確認ですけれども、従業者が相当の対価の請求の訴訟を起こした場合、企業の側では、相当の対価については事務局案の1ページから2ページに出てくるような手続を踏んで報奨規程がつくられているということを主張、立証することによって、原則的にこの報奨規程による相当の対価の支払いがなされることが証明できる。ただ、それに対して従業者の側は、1つは、当てはめの間違い。例えば、報奨規程に決められたA基準によって100万円支払うべきなのに、B基準によって50万円支払ったのは当てはめを間違ったのだということで、差額の50万の請求をすることができる。その場合の、その当てはめが間違っていることの挙証責任は従業者側にある。
もう1つが、この前から出ている大事なことですが、従業者の側は、相当の対価は手続を踏んで定められたけれども、なおかつ、法の規定の趣旨からいうと、相当の対価にはなっていないということを争うことができる。それはすべて従業者側に挙証責任がある。このように理解しているんですけれども、それでよろしいでしょうか。

事務局

ご丁寧な質問ありがとうございます。まさにそのとおり、正しいご理解だと思います。

委員

もう1点だけ。報奨規程の場合は今のでいいとして、契約でいく場合には、個々的な契約になるわけですね。個々的な契約の場合の手続というのはどうかかわってくるのか。つまり、個々的な契約であっても、一般的に、企業の側としてはこういう基準でいきますということを報奨規程と同じような手続を踏んでなされてなければいけないのか。その点がちょっとよくわからなかったんです。

事務局

この案でも契約を否定するものではございません。規程ではなく、契約で承継や対価の決定をされているケースというのはあるかと思います。それを想定いたしまして、資料の2ページの④でございますが、上から4行目に、発明の後の承継契約、つまり事後承継の契約を行った場合には、契約に当たっての交渉の状況が参酌されると考えております。一方的な契約ではだめで、お互いにほぼ対等の立場で交渉できるような環境なりを考慮することになるかと思います。

事務局

1点だけ補足させていただきますと、当てはめの間違いのところ、今、委員のおっしゃられたとおりなんですけれども、基本的に、間違いということの中に、仮に使用者と従業者の間で当該発明の経済価値をめぐって純粋な見解の対立のようなものがあることはよくあると思うのです。そういうものというのは、基本的に当てはめの間違いということには直ちにはならないだろうとは思っておりまして、当然そこで、どれぐらいきちんと不服を聞いたのかとか、説明がなされたのかとかという、ある意味では納得度とのバランスで決まってくる話だとも思いますし、基本的には、当てはめのところで、発明の純粋な経済的価値の評価をめぐって対立があるということだけで、それが不当だということにはならないだろうということが1点。
もう1つは、手続を踏んでなされている場合に、相当の対価になっているかどうかということをそれで推定するというよりも、不合理でなければ、基本的に契約の対価でいくんだということでございますので、御指摘の「相当」という言葉は、現在の3項で使われている言葉とは必ずしも同じではないということで理解させていただければ、おっしゃるとおりだと思います。

委員

半分程度、今の質問とダブっていましたので、ダブらない部分だけお聞きしたいと思うんですけれども、質問の後半のところで、法の趣旨から金額が妥当でない、あるいは合理的でないという場合に、従業者側に妥当でない、合理的でないという挙証責任があるという話でございましたけれども、我々としては、基準の策定が合理的である、当てはめが合理的であるということで、それに基づいてなされた金額が出た場合には、それについては裁判所は介入しないというように考えたのですけれども、それ以外の、法の趣旨に照らして妥当でないというのが、どういうケースが想定されるのか、ちょっとわからないので、わかったら教えてほしいというのが1点でございます。
項目2についてもよろしいのでございましょうか。現在の4項の規程は、規定がなかった場合、あるいは合理的でなかった場合に適用されるような条文になるかと思いますけれども、経過規定というか、これはさかのぼらないということを考えますと、新しい4項というのは、事実上現行法の解釈基準になるような機能が出てくるのではないかと思います。したがいまして、今回の日立金属の判決にもございましたように、ここの書き方は注意深くやってほしいという、2番目は要望でございます。

事務局

最初のご質問で、合理的な手続を経ていればその結果になるのではないかということですが、いわゆる純粋手続ですね、手続さえ踏んでいればいいというのではありません。基準の策定に当たっては、デュープロセスを経る中で、当然ながら規程の中身についても従業者に示して協議の対象とするわけですし、それから、当てはめにつきましては、当然、当てはめの手続をきちんとやって、従業者に不服がある場合には申し立ての機会を与え、それに対してどう答えるかとかが重要でございます。そういったプロセスの中身をきちんと行っていれば、裁判所もそれを尊重するであろうという制度を目指しているということで我々は書いているところでございます。
ですから、きちんと100%やっていれば答えはそのとおりなるかといったときに、その100%がどの程度かというのは我々も断言できないので、裁判所の結論について予断を下すことはできませんが、趣旨としてはそういうことでございます。

委員

ということは、基準の策定の合理性、当てはめの合理性がちゃんとなされたかどうかという意味でございますね。

事務局

はい、そのとおりです。

委員

わかりました。

委員

今の点が大変大きなポイントだと思うんですが、手続の策定、当てはめというプロセスがそれぞれ合理的である。つまり、きちんと手続を経て策定し、当てはめも手続を経て行えば、それは合理性が基本的に認められるのはずっと議論してきたことで、全くそのとおりなんですが、100%そうなのかどうかということが、先ほどの議論だと思うのです。
つまり、先ほど委員がおっしゃったのは、その場合も、ごく例外的に、いかに策定と当てはめ、要するにプロセスが合理的でも、法の趣旨からして相当の対価が認められないケースもあるのではないかということです。私も、そう理解しないと、前回のペーパーとの整合性はとれないから、そう理解しているのですが、それに対して、そうではなくて、手続が合理的に行われていれば、100%、もう一切裁判所は介入できないという趣旨がこのペーパーであるならば、それはちょっと私は、前回、前々回からいっているとおり、賛成できないのです。そこのところが前回との関係でどうなのか。もう一度説明をお願いしたいというのが1点です。
もう1点は、先ほど事務局が最後にいわれたこととの関係ですけれども、私の理解は、合理的な手続が行われれば、基本的に相当の対価と認められると。現行法35条3項を前提とする相当の対価として認める。その相当の対価の相当性の基本中の基本がまさしくプロセスだという理解なんですが、先ほどおっしゃったのは、あるいは1ページの①の2段落目の「そして」以下の書きぶり、表現をみると、相当の対価とは離れて、当事者が定めをしたときに、それによることを原則とする。その要件として手続のプロセスの合理性を求めるという趣旨にも読めるんですけれども、もしそうだとすると、相当の対価という規定ぶりとの整合性、関連性はどうなるのかという点が2点目です。
特に1点目については非常に重要なことなので、次回、報告書ということですから、きょう議論の上で、正しい理解を踏まえた書き方にしていただきたいと思います。以上、2点です。

事務局

まず、1点目については、基本的に、前回「その2」でご説明した内容と相違はないということでございます。当然ながら、職務発明の争いについては、まさに対価の額が論点でございますから、それを論点から外すような内容というのは我々としても考えられないということでございますので、その点について我々の視点は基本的には変わっていません。ただし、今までも一貫してご説明してきたとおり、手続が合理的になされれば、相当の割合で裁判所も尊重するような規定にしていく方向で改正したいと考えているわけでございます。
2点目につきましては、現在我々の方で考えております案でございますけれども、「相当の対価」と「対価」という言葉をこの案の中でも使い分けをしておりまして、使用者・従業者間で合意した内容については「対価」ということでございます。あえてそこは使い分けをしておりまして、そこに不合理性があった場合については、4項の規定に基づいて対価の額を算定する。それを「相当の対価」と呼んでいるということでございます。考え方としては、お互い合意したものは対価、裁判所が算定したものが「相当の対価」ということです。

委員

そうすると、今の想定されている3項の中から「相当の対価」という概念は消えるわけですか。

事務局

不合理性があった場合には相当の対価を請求する権利を有するという現行3項の骨格はそのまま残します。相当の対価という言葉も残します。ただし、例えば、使用者・従業者間で合意したといいますか、対価について納得している場合にはその限りではないとか、そういった構成を考えています。

委員

今の点の理解の確認ですけれども、今の最高裁判例の立場を前提にすると、対価が相当の対価に満たなければ、その差額分を当然に請求できるという構造で考えているけれども、最高裁判例の考え方というのはそうはいっていませんが、考え方としては、相当の対価に満たないような対価の定めは基本的に効力はないわけであって、相当の対価の請求権が認められるという構造になっているけれども、その意味では、定めが相当の対価に当たっているかどうかというのが、定めの効力を判定する際の基準になっているけれども、今のご説明は、対価の効力をそのまま認めるかどうかに当たっては、おっしゃるところの不合理かどうかというのが効力判断の基準に置きかわる。相当の対価というのは効力判断の基準ではなくなるわけですね。つまり、不合理かどうかが基準になる。不合理だとされると、対価の定めの効力が失われるわけですから、相当の対価というのが生きてくる。そういう構造でお考えだと理解すればよろしいですか。つまり、無効かどうかの判断の基準を相当の対価から不合理に置きかえるという理解でよろしいんでしょうか。

事務局

そのとおりです。

委員

今のところ、やっぱりよくわからないんですが、そういうことになりますと、先ほどから、規程の中身というものも問題だとおっしゃいましたよね。その中身というのはどういうことなんでしょうか。今のご説明からしますと、それは中身じゃなくて、策定、手続の当てはめが合理的かどうかという問題ですよね。そうすると、私はやはりそれと中身との関係がわからないんです。
結局、中身というのが、合理的かどうかだけで決まるとしますと、この大前提にある、契約や就業規則で決めて予測可能性をもたせるようにすると。でも、その予測可能性というのは、結局は、不合理であれば裁判所にいくわけですね。中身と裁判所にいったときの基準、それは多分4項で少し具体的になるんだと思いますが、そこで1つ離れるというか、段階が別になるわけですね。それで本当に予測可能性があるといえるのかどうか。私はどうも、中身議論と、4項で相当な対価ということの間がどうなるのか。対価と、相当の対価と、2つ分けたからいいでしょうというのが、それで本当におさまるのかどうか、どうにもよくわからないですね。

事務局

まず1点整理をさせていただくと、現行の職務発明規程がそのまま新しい35条改正案において尊重されるものになるとは我々も考えていませんで、何となれば、企業等における現状の規定というのはこういったプロセスを経ないでつくられておりますから、したがって、新しい35条で尊重されるものとするためには、まず、このプロセスを経て新しい規程をつくっていただく必要があります。
その際に、当然、手続の中で、その規程を従業者に説明をし、ある程度のプロセスを経て決定されるものでございますから、そういう意味で従業者にとっても納得できる内容になるということで、そのプロセスがきちんと踏まれていれば、争いになっても、裁判所が相当の対価を算定しなければならない確率は減ってくる。換言すれば、使用者がいろいろプロセスを経るという努力をすれば、みずからが予測性を高めることができるという意味で、使用者・従業者の間でのプロセスを経た職務発明規程であれば、それを尊重する方向にすべきではないかということでございます。

委員

そうすると、具体的な意味の中身じゃないわけですね。規程の中身というのは、規程の決め方とか、納得とか、制度的に報酬の規定がどうなっているか、そういうところは重視されるということでしょうか。

事務局

はい。当然、その規程を定めるに当たってのプロセスでは中身の議論もされますから、手続と内容というのは両方とも含まれるということです。

委員

その内容というのは何でしょうか。

事務局

金額とか、あるいは、どういう場合にどういう支払い方をするかといった規程の中身そのものですね。それも当然そのプロセスの中では議論されるものと考えております。

事務局

例えば、いくら手続を踏んで決めていても、発明の軽重といいますか、そういうものに全く何の配慮もせずに一律の金額だけというようなものをお決めになるということだと、それは場合によっては不合理ということになるかもしれない。そういう意味においては、内容面も審査の対象にはなるだろう。ただ、そこであくまでも審査の中心になるのはやはり手続面、それで納得をできるだけするような形で手続が履践されるということがまずは重要だろうということで考えております。
それから、基本構造としては、何度も繰り返しになりますけれども、契約とか勤務規則で定めた場合はそれによるということなので、それが不合理でない限り、基本的にそれによるということですから、ある意味では自分たちが決めたとおりに運営できるという意味で予測可能性は高まるだろう。裁判所にいってみないとどうなるのかわからないというような状況を――別に裁判所批判でいっているわけではございませんが、予測可能性がないということであれば、それよりは格段にやりやすくはなるだろうと思っております。

委員

委員からのペーパー、私は基本的には賛成したい立場なんですが、前々から、基本的には企業と発明者の間で取り決めをさせていただきたいと。その1つの方法として、合理的な取り決めをすれば、あるいはその取り決めに従った運用をすれば、それですべてというふうに頭の中では考えておったわけですけれども、きょうに至ってもそれではおかしいという議論もありますし、どうも相当な対価という、そのものに、後ろにつながっている以上、非常に不安定な要素が含まれているのではないかと感ずるわけです。
例えば、1の四角の中で、「一方、不合理である場合には、従業者等に『相当の対価』請求権を認めるべきではないか」というところなんですが、ここをむしろ、規程がない場合は相当の対価請求権を認めるべきではないかというように大きく書いていただけるんですと、先ほどの当てはめによる不合理とか、そういう問題は規程の中で処理できると思うんです、規程を適切に当てはめたかどうかということで。ところが、この場合、不合理である場合には相当の対価請求権を認めるべきではないかというと、すぐ3項の強行規定の方へいってしまうのではないかという気がしますし、できましたら、「不合理である場合」というより、「規程がない場合は」というように直していただけるとすっきりするのではないのかなという感じがするんですけれども、いかがでございましょうか。

事務局

その点につきましては、何度もご説明しているとおり、規程がない場合といっても、場合によっては個別契約でやる場合もありますから、単純に規程がない場合ということで、いきなり相当の対価にいくという規程は実際上は無理であるとは思うのですけれども、いずれにせよ、個別契約の点を除けば、規程がない場合は相当の対価にいくということについて皆さんご異論はないと思います。
問題は、規程はつくったけれども、相当の対価にいくケースがあり得るじゃないか、これを何とかしてくださいというようなご意見だと思いますけれども、そこは何度もご説明しているとおり、きちんと手続、デュー・プロセスを行っていれば、そういうケースというのはほとんどあり得ないと思っていますけれども、万が一、手続は踏んでいるけれども、結果として出された対価に不合理性がある場合、それについて争えないというのは、従業者の権利を奪うことになりますから、その点はやはり残すべきと考えております。

委員

今、何件かの判決が出て、大体、相当の対価というのが決まってきているような感じもするんですが、実際の取り決めの中の額があの程度いってなければ、不合理性があるというようにみられるということなんでしょうか。

事務局

いえ、それは全く違います。現在の35条では、今回考えているような手続の規定がありませんから、いきなり4項で相当の対価を算定するということになります。また、2.でも書かせていただいたように、そもそも4項の解釈自体も判決によって違っているというような状況ですけれども、今回の改正案につきましては、そこに手続規定を入れて、使用者、従業者の納得度を求めるような規定にしておりますから、結果的に、そこから求められた対価の額がこれまでの判例における「相当の対価」と同程度となるかは必ずしも断言はできないと思います。

委員

基本的には企業と従業者の間の取り決めで認めていただきたい。ただ、それだけですと、今、心配されるような規程なり取り決めをする場合もあるでしょうから、そこで合理的ということをむしろ精神規定で入れていき、努力として表現するのは結構だと思うんですが、あくまでもそれではなくて、額の合理性というのがいつも後で引いてくるんですと、やはり問題を残すと思うんです。そういう意味で、強行規定の3項を後ろにつなげるというのはどうかなと思うんです。つながってなければ、そういう問題にはならないんだろうと思うんです。

事務局

相当な対価と合理的な対価というのは全く違うものだと。少なくとも法的評価においては全く違うものだと考えております。もちろん、契約で定まった合理的な対価というのがあって――ここではそれが不合理でなければ基本的に合理的だという意味においていっているんですけれども――それは、少なくとも判断の基準というのは全然違うだろうと。
今の相当な対価といいますのは、4項に基づきまして裁判所がお定めになっている。そこでは、ライセンス料収入ですとか、そのようなものをベースにして、かつ、費用とかそういうものについては限定的に理解をして、後ほど4項の議論もあろうかと思いますけれども、そういうものがまず前提になって定められる。一種の絶対的な正義といいますか、そのようなものとして定められているということなんですけれども、合理的な対価、契約で定められる対価が合理的かどうかというのは、絶対的な正義というよりも、不正義でなければいいというようなニュアンスで考えておりますし、そのときの判断基準としては、こういう手続をやったらどうかとか、使用者と従業者の間の立場の相違というのはあるから、それを埋めるためにきちんと何らかの手だてを尽くしておられるかどうかというような判断基準を、法文上も例示なり何なりの形で明記するということで考えておりますので、そういう意味でいうと、少なくとも裁判所に相当の対価と、契約で定まった対価が合理的かどうかということを、ある意味では取り違えるといいますか、混同されるというようなおそれはまずないだろうと思っておりますので、基本的には判断基準というのは別物であるというようにご理解をいただきたいのです。

委員

よくわかりませんね。要するに、ざっくり、どういうイメージで35条3項を考えられているのか示していただいた方がいいのかもしれないけれども、今の相当の対価と、相当と合理的だということは違うんだという説明がよくわからないのですが。

事務局

基本構造は、3項はそのまま残しまして、それで、3項の規定にかかわらず、当該契約、勤務規則その他の定めにおいて対価について定めたときは、その定めるところによるという趣旨の条文を置く。ただし、契約などで定まる対価の決定が、協議の状況ですとか意見の聴取の状況、そういったものに照らして交渉力等の格差にかんがみ不合理であると認められる場合はこの限りでない。すなわち、契約とか勤務規則で定めたところによらないで、相当の対価請求権が復活する、そういう法律の構造は考えております。
相当な対価と委員が先ほどおっしゃられたのは、恐らく、契約で定まって、手続、内容面が完璧であれば、それは相当の対価とみなしたらいいじゃないかという、推定規定なり、みなしの規定を置くというようなご趣旨だったのかなと思ったんですけれども。

委員

そうです。

事務局

ただ、多分それは、立証責任の配分の問題とかがあって、恐らくそれだと使用者側が合理性すべてについて立証責任を負う。法的な形態としてはそのようになる余地が大きいのではないかとは思うんです。
「相当の対価」というものに対する一種の呪縛のようなものがある中で、「相当の対価」に固執する意味が私どもとしてもさほど見出し得ないようなところがあるので……。

委員

余り細かな議論をしてもいけないのかもしれませんが、1つは、推定規定を置けば、相当の対価の今の立証責任の点は逆だと思います。
おっしゃったのと逆に、推定規定を置けば、従業者側が相当でないということの立証責任を負うことになると思います。もう一つは、手続、プロセスを踏めば相当の対価と推定するというような形で立法化する方が、3項の、あるいは4項も含めて、立法の内容としては簡素でシンプルなんじゃないでしょうか。なぜそこで合理性、不合理でないということの概念を別途立てる必要性があるのかがよくわからないのです。

委員

私は基本的には事務局案に賛成ですけれども、あとは説明の仕方の問題かなと思うんです。ただ、基本的な考え方としては、前からいっているように、従業者は相当な対価を請求する権利を有する。企業がプロセスを踏んで報奨規程を設ければ、その報奨規程によって定められた額が相当な対価とみなされる。しかし、そのプロセスを踏まなかったときには、合理的プロセスを踏まなかったことが立証できないことによって、それによれない。だけど、それによれれば、あとはもうそれで原則的にずっといくわけで、ただ、当てはめが間違ったときはこれはまた別の問題と。
もう1つは、そういう手続を踏んだけれども、なおかつ、そこで定められた具体的な額が、先ほど私のいった言葉をもう一度使えば、職務発明制度の趣旨からいって、例えば、通常はどこの企業でも出願報奨で1万円払っているのに100円であるとかというようなことでの差が非常に明確だというような場合には、いわばその推定が破れて、裁判所が相当な対価の額を定めることになる。そのように考えれば、理論的にそんなに無理なくすっといくので……。
企業はそういうプロセスにのっとった手続をとりましたというのは、これはやはり企業にいってもらわなくてはならないでしょう。いってもらえば、原則的に、その推定でずっといってしまうだろうと。今いった1万円と100円のような規程が合理的な手続に従って定められたということ自体がかえっておかしいわけで、そこのところが合理的に定められていれば、原則的にはすべて――みなしという言葉を規定に使わなくてはならないとは思わないんですけれども、それは規定の法技術的なことで解決できると思いますが、立証責任については先ほどいったようなことで考えていったら、あとはそんなに難しい理屈を述べなくてもいいのではないかという感じがするんですけれども、そうはいかないですか。

委員

私もそう思いますね。合理的な対価、相当な対価、ではどのように中身が違うかという議論がどうしても出てきますし、当事者が、企業・従業者が考える場合だって、相当な対価じゃないものでいいなんて思っているわけではないので、やはり目標は相当な対価だと思います。新しい4項で両方の当事者の立場を考えられる規定を具体的に設けようとしてらっしゃるので、それが相当な対価であり、あとは、相当な対価とみなすか、推定するかでやった方がよほどいいと思います。そもそも、なぜ契約や就業規則で対価を決めるかというと、やはり発明した以上相当な対価を与えましょうということなので、それで筋を通さないと、2つの対価で、理論的に非常に説明が難しくなるかと思います。

委員

また整理だけのために発言させていただきますが、先ほど委員の方がおっしゃっているのは、従業者というのは基本的に相当の対価は必ず得られないといけない。ただ、企業が定めをすれば、そしてそれが合理的であれば、それが相当の対価だ。だから相当の対価は認められる。でも、企業が何の定めも置かない場合は、相当の対価をだれかが決めないといけない。最終的には裁判所が当該ケースをみて、これが相当の対価だという適正な額を1つぽんと決める。これも相当の対価だと。いずれにせよ、そういう形で、従業者というのは必ず相当の対価を得られないといけないという前提で説明されていると思います。
それに対して事務局のお考えというのはちょっと違うと思います。事務局がイメージしておられる相当の対価というのは、むしろ定めがない場合ですね。定めがない場合に、定めがないわけですから、だれかが決めないといけない。最終的には裁判所が決める。そうすると、これはある特定の金額が必ず決定されないと、額が決まりませんから、それが相当の対価だというようになりますね。つまり、一番適正だと考えられるのが相当の対価の額だと。先ほどの最高裁の判断も、これに満たなければ、ここの適正な一定の金額に満たなければ、何か定めをしても、その効力は全部否定されて、その適正な額が認められるというように感じられてしまう。つまり、この適正な額が無効か有効かを判断するための基準になってしまう、そんなイメージがある。それは断ち切りたい。
ですので、相当の対価という言葉を使う限りは、何かそういうイメージがつきまとうので、それを一たん断ち切って、有効か無効かの判断は、合理的か不合理かというのでいきましょうと。手続を重視されるというのが事務局のお考えで、その限りで対価が有効だとされれば、それが認められるけれども、その中で不合理だとされれば、対価の定めは無効になる。無効か有効かを判断する基準は不合理かどうかというので決める。無効になれば、定めがないのと同じことになるわけですから、裁判所が決める適正な額というのが相当な対価として最終的に認められる。そのようにお考えになっているというように整理できるだろうと思います。蛇足で申しわけありませんが。

事務局

今おっしゃっていただいたとおりでございます。

委員

だいぶ法律論が先行しているように思いますが、今、幾つか議論が出ましたように、うまく説明をしていただければ、私は事務局案でいいと思います。今日、事務局のご説明で私は非常によくわかりましたが、できれば、1つのモデルケースをつくっていただければと思います。先ほど発言された委員の疑問点を伺っていますと、やはりどこか危なっかしくて、こういう場合はどうなるのかということが納得できないところがあるようです。このようなときはこれですぱっといきますよと。そして、それに外れる場合は、例えばこういうケースですよというようなことだと思います。私も法律の詳しいことはわかりませんが、特にきょうのご説明で非常によくわかったのは、1ページの1の①の予測可能性というのが重要なキーワードだということです。ある発明に対して、発明した人がこれで幾らいただけるのかということが全く予測できない場合、あるいは予測できる額がすごく低い場合には、不安ないし不満があるだろうと思います。
大学の場合をみますと、発明者に、例えば契約の何%とか利益の何%を還元しますということを明確に書いているのがふつうです。ここで1つ質問ですが、ここでおっしゃっている予測可能性とは今申し上げたような意味ですかということです。
ただ、明快にしておきたいのは、添付の資料にありますように、1割返しますよということがほぼ予測できる、そのような可能性ですね。その場合この判定のもとになる、必要経費をどう差っ引くのか、契約金なのか、利益なのかとか、いろいろありますから、決して確定というわけにはいきませんが、それでも、かなりの予測可能性がでてきます。そういうことで、先ほどおっしゃったように、35条を改正した上で、企業サイドもこれに基づいて社内規程の中にちゃんと予測可能性も入れておけばよい。そのような場合にはモデルとして、この場合はまず大丈夫でしょう。しかし、このように外れた場合には裁判所へいきますよという例を示しておく。そこまで書けるかどうかわかりませんけれども、素人わかりのする全体をみることができるような説明をつけていただいたら、この議論は収束していくんじゃないかと思いますので、ひとつよろしくお願いします。質問は、予測可能性の内容についてお聞かせいただきたいということです。

事務局

今の予測可能性ですけれども、このように計算すれば合理的な対価になるとかという意味での予測可能性ではなくて、一定の手続を経て定めた対価の額というのが訴訟においてもかなりの確率で尊重されるという意味で予測可能性があるということです。
具体的な算定式をドイツのガイドラインのように事細かに決めるということは、多分難しいと思うのです。それぞれ社内事情なり、その研究開発の戦略をどうもつかとか、あるいは研究開発者の処遇全体をどのように設計するかとか、個別の企業によって当然ながら違ってくるので、それを画一的な計算で、こういう計算式で求めれば合理的な対価、相当な対価になりますよということはなかなか難しいと思います。

委員

それは画一的にここで決めなくても、各社がお決めになればいいんだと私は思うんです。

事務局

おっしゃるとおりです。したがって、そこは使用者・従業者の間できちんと議論されて求めたものが尊重され、予測可能性が高まるのではないでしょうか。

委員

それをみると、発明者は、大体これに対してはこの程度だろうと、自分でも予想がつくようなものだということですね。

事務局

はい、そうです。予想がつくと共に、お互い納得したものになるということです。

委員

先ほど来、整理いただいた委員には申しわけないんだけれども、委員が整理されるとますますわからなくなってくるんですけれども、今おっしゃったように、⑥というのがありまして、読んだだけだと、非常にわかりやすいなと思ったんですが、説明を整理されるとわからなくなってくるんです。
先ほど来、合理的・不合理性というのは、取り決めがないときには不合理だという、その限定した不合理性なんですか。これをみると、⑥を勘案すると、ある程度合理性をもって決めて、それがみんなで公表したり何かして、それがある常識的な世間相場になることによって、それが相当な対価というものとして、世間常識として認定されるようになり、それが裁判などで大分ずれているなというようなときに争いになるというようなことになるという理解かなと思ったんですけれども、相当の対価と合理性が全然つながらないのであって、合理性というのは取り決めがないということだけだと、前回だか前々回だか、使用者と従業者の非対称性があるという前提に立つと、伺っていると、何でもいいけど、話し合って決めたという形態があれば済むというのであれば、意味がよくわからないなと。
前回の全体のムードは、非対称性があるという前提に基づいた物の書きぶりになっていなければいけないという話だったと思った。ところが、今回は、合理性というのは、明らかに手続がなかったということについてという説明をされていたり、先ほど委員が整理されていたので、ちょっとよくわからないなと。この流れからみると、合理性というのは、額も含めて、基準という意味ですから、基準づくり、あるいは公表し合ってということですから、ある程度の世間相場みたいなものをつくってという意味ではないのか、確認をさせていただいて、もし、不合理性というのが手続がないということだけにしか適用されないのであるとするならば、ちょっと違和感があるなという感じの意見を申し述べさせていただきたいなと思います。

事務局

そこは冒頭でご説明したとおり、対価の決定の中には4つの要素がありますというご説明をしました。手続といっても、純然たる手続と、当然、そのプロセスの中には規程なりの対価の額というのも入ります。したがって、前回の説明を引用されました、いわゆる使用者と従業者の非対称性というのは、1ページの1.②のところにもありますように、手続については、使用者と従業者の立場の相違にかんがみて、不合理かどうかというところは当然ながら判断の基準になります。単純に手続を踏んでいることだけではなくて、弱者たるというとちょっと語弊があるかもしれませんけれども、従業者が、ある程度参画できるなり、意見をいう機会を与えられているかとか、そういったことがここの不合理性の判断の1つの要素になるということですので、規程がない場合はもちろんですけれども、不合理な手続を経て決められた対価というのは、ある意味で規程がないのと同じだという解釈をしていることになるので、そういう意味で、委員の整理というのは事務局の考え方をうまく整理されたなと、事務局としては思っているんですけれども。

委員

先ほど4つの要素といいましたが、もう一度おっしゃっていただけますか。

委員

事務局案がある場合と、ない場合とでは違うということですね。事務局案による場合とよらない場合とで違うという趣旨です。

事務局

まず、大きく分けると、基準をつくる場合ですけれども、基準の策定と基準の当てはめですね。2つポイントがある。それぞれの中に、手続と内容があるということです。それで4通りですね。内容というのは、対価の問題ですから、規程の策定に当たっては、職務発明の規程の中にどういうケースは幾ら支払われるという規程の中身そのものです。それから、当てはめの場合には、ある判断をしたことによって幾ら支払われるという、これが最終的な支払いの対価になるかと思いますが、その当てはめの結果導き出された対価の額。この4つが要素として考えられます。

委員

先ほどから立証責任のことについての発言がありますけれども、この4つが不合理だということを立証するのはどちらになるんですか。発明者の側なんでしょうか。

事務局

基本的に、事務局で今考えておりますのは、定めが何らかの形で存在するということの立証責任というのは使用者側にあるだろうと思っております。ただ、それが不合理かどうかということの証明責任というのは原告たる従業者側にあるのではないかと思います。
ちょっと補足なんですけれども、1.の⑤と⑥のところといいますのは、決め方の問題を論じておりまして、当然、使用者・従業者の関係はさまざまだと思いますので、それの中で、実態に合わせた決め方というのはあるだろうし、それから、常に必ず事前の基準というものを要求せずとも、発明がなされて、その発明をみて、それがどれぐらいの評価に値するかというときに、これを承継するから、では対価はどうするかということを、かなり自由な契約のような形態でお決めいただくことも許容するような制度にはしたいと思っております。
そういう意味で、あらかじめ使用者が対価を決定するための基準を策定し、これを公表することに努めることが望ましいと書いているのは、事前の基準を策定するというのは、常に義務ではない。ただ、それが望ましいことだと。当然、予測可能性をお互いもって、研究開発をし、なおかつ投資をするわけなので、それは事前に自分が大体これぐらいの発明をしたらこれぐらいもらえるだろうとか、これぐらい支払わなきゃいけないだろうということが、基準があれば、当然それによって決まってくるわけなので、そういう意味でいうと、それを定めることが望ましい。それがまた業界の相場からすると、およそ著しく逸脱しているというようなことが、お互い、それが世の中に知れてくるとわかってくるというようなこともあって、それが合理性を判断する場合の1つの手がかりになるという意味でここは書いております。⑥についてはそういう趣旨でございます。

委員

今、著しく逸脱するとおっしゃっていましたけれども、1.の括弧の中で、「一方、不合理である場合」ここは「一方」と「不合理」の間に「著しく」というのを入れてもいいと思うんです。そういう提案をさせていただきたいんです。というのは、会社の中での自治というものを最大限尊重するというポジションを明確に打ち出していただけたらと考える次第です。

委員長

表現についてはもう少し検討させていただきます。今の点は十分参考にさせていただきます。

委員

整理ではなく、実質的な質問をさせていただきたいと思いますが、今の点とまさにかかわる点なんですけれども、そして、一番最初に委員の方がご質問された点ともかかわる点なんですけれども、手続が合理的か不合理かというのを第一の基準として定めの効力を無効とするかどうかを判断すべきだという事務局のお考えについてご質問させていただければと思います。
先ほどご質問されたときの感じでは、手続というのは、合理的か不合理かどちらかだと。合理的か不合理かどちらかに決められるものだ。合理的であれば、そのまま尊重すべきだ。つまり、対価の額についてさらに審査を及ぼすべきではないというようなご意見だったかと思うんですが、私、その前提がちょっと気になるので、質問させていただければと思います。
つまり、手続の合理性というのは、合理的か不合理かというように一律に2つに分けられるものかというところですね。例えば、個別の発明をした従業者と、実際に発明後に交渉をして、これだけの対価でいきますよ、それでいいですねと。本人も納得するという場合から、研究所の発明者集団に集団をつくらせて、それと企業が交渉して、こういう規程でいきますよという場合もあるだろうし、あるいは、発明者に限らずに、過半数労働組合があるので、そこと協議して規程をつくるという場合もあるでしょうし、あるいは、そういうことはしていないけれども、30年ぐらい前につくった発明規程というのがあって、それをずっと使ってきて、これまで特に大きな異議は出てこなかったという場合もあるでしょうし、同じ場合でも、これまで時々異議も出てきて、訴訟にもなったんだけれども、企業の方としてはがんとして受け付けないというようにやってきたという場合もあるでしょう。あるいは、内規をぽっとみると、昔のワンマン社長が発明規程をつくったのがあった、これでいくんだというような場合、さまざまな場合があり得るし、その場合の手続の満たす程度というのも、実はさまざまな程度を語り得るものじゃないかなと、現実にはそう思います。
そして、ここから先は、一番最初にいいました、個々の発明者と契約をして、その際にも納得がいくような契約をする。この場合には、対価の額についてはそれでいくのだ、ほぼ原則としてそれでいくのだ、これはわかりやすいわけですけれども、その他の場合というのはいろいろな程度があるわけであって、それに応じて、手続の合理性を満たす程度が低ければ低いほど、対価の合理性の審査というのはかかってこざるを得ないのではないかなと。そういう相関関係といったようなものが入ってこざるを得ないのではないかなという気がいたします。
事後に訴訟になるのを、あるいは紛争が起こるのを避けたければ、できる限り契約に近いような形でやればいいわけであって、しかし、たくさんいるのにそこまでできないというのであれば、若干の紛争が起こるリスクをカウントしながら、ここまでならばできるという線でやられればいい。ただ、そこから先、何%か、訴訟が、あるいは紛争が起こるのはやむを得ない。実際に危なければ契約まですればいいだけであって、そのようにすれば、この規定によると、恐らく裁判所による内容審査というのはほとんどかからないだろうと思いますけれども、そのように手続の合理性というものは、二律背反、こうか、こうかではなくて、程度を語り得るものではないのかなと。それに応じて、合理性、不合理かどうかという判断も変わってこざるを得ないのではないのかなというのが私自信の感じなんですけれども、いかがでしょうか。

委員

今のお話のようでしたら、私の考えと余り変わりません。先ほど、法の趣旨に照らしてというのは具体的にどういうケースがあるんですかというご質問をしたのは、今、先生がおっしゃったような例を聞きたかった。つまり、過去にワンマン社長のときに使ったやつを当てはめるとか、あるいは、私が考えたのは、例えば労働協約を批准するときに買収して賛成票を出させたとか(笑声)、そういうのを含めて我々は手続合理性の中に含まれていると思っているから、それでいいんじゃないかといっているわけで、したがって、言葉の内包をどこまでそこに含めるかというだけの問題だと思っていますので。

委員

私も、今、議論ある中で、先ほど委員に整理していただいて、よくわかったのですけれども、基本的には事務局の案に賛成なわけです。
それで、もうちょっと確認させていただくと、1の②の説明の中で、②の3行目の最後のところ、「その対価の決定が使用者等と従業者等の立場の相違にかんがみて不合理でない」と書いてあるのですが、今のご説明を聞いていると、その対価の決定のプロセスが使用者と従業者の立場の相違にかんがみて不合理でないというようにとっていいのかなと、思っていたのですけれども、いかがでしょうか。

事務局

対価の決定というのは、先ほどからご説明しているとおり、4つの要素から成り立っていて、プロセスはその一部だということです。だから、当然、内容も入ります。ただし、1.③に書いてありますように、その不合理性の判断については、4要素のうちでも特に手続面を重視して判断すべきではないかというのが事務局の考え方でございます。

委員

先ほど来、2つの議論があると思います。相当の対価という用語をめぐる議論と、もう1つは実質の議論だと思います。先ほど、委員の方がご指摘になっているのは、相当の対価という用語をめぐる議論だと思います。
相当の対価という用語と対価という用語を使い分けるということになると、説明の問題ではありますが、ちょっとどうかなという気がいたします。現行法は、従業者である発明者は相当の対価を得ることができるとしているわけですね。相当の対価の決め方について、今いろいろ議論があるから、相当の対価の決め方をここで合理的にしようということでいくのだとすると、委員ご指摘のように、相当の対価と対価という2つの概念を使わないで、相当の対価がこれなんだと規定した方がわかりやすいのではないか、と思います。
もし、相当の対価でない対価という用語を用いると、対価を決めればよくて、それは相当でなくてもよいということになるのではないか。今は相当の対価なんだけれども、これからは相当でない対価でいいことにするんだというようにもとられかねないと思います。

委員

とられかねないでしょう。

委員

今おっしゃっているのは、概念をそこで使い分けてしまうと、法改正をして、今までは発明者に相当の対価を払っていたんだけど、今度は相当でなくていいんということにしようと立法改正趣旨をとられたのでは、ここで今まで議論していたことと違うんじゃないだろうかと思います。ここで議論していたのは、あくまでも相当の対価をどうやって決めるのかという議論をしてきたんじゃないですかというのが、相当の対価をめぐる委員のご意見ではないかと思います。
実質についていえば、一方的に決めても、合理的な手続であることはあるわけですね。従業者の意見を聞いたけれども、就業規則で、使用者が決めた。手続を踏んだけれども、1円としたときに、これは合理的ですかということが問題になると思います。やはり結果というものも全くカウントしないというわけにはいかないと思います。
ここでいっている手続というのは、必ずしも労働協約にしなさいとか、就業者の過半の同意をとりなさいとか、そういうことをいっているわけではないわけです。ですから、従業者の意見も聞くけれども、最後は使用者が決められるということになると思います。それが勤務規則等で決められるということの意味ですから、それが1円では不合理だということも出てくるのではないかと思います。

委員

今のお話ですと、先ほど私が質問させていただいた、相当の対価というのは、今、裁判所で決めた額が相当の対価というようにされませんかといったら、それは関係ないとおっしゃいましたよね。ところが、今のお話だと、2つあってはいかんというと、相当の対価といいますと、何を意味するんでしょう。企業で合理的に決めたのが相当の対価と、言葉の使い方だけであって、裁判所で決めている相当の対価とは違う相当の対価があるというように理解してよろしいんでしょうか。

事務局

私どもの真意は、言葉の使い方ということではなくて、現在、裁判所が、先ほども申し上げたように、ある意味では絶対的な正義のようなものとして定める「相当の対価」ではないと。もっと幅のあるものとして対価というものを許容しましょうということをいっているわけです。それを今後、相当の対価と呼ぶかどうか。今の第3項にいう相当の対価というのは、ある意味では1つしかない対価だろう。それでなくても、幅がどれぐらいあるのかわかりませんが、0.2から1.5ぐらいまであるのかどうかわかりませんが、それぐらいの幅のあるものであれば、少なくとも私どもは合理的な対価だろうと考えている。それを相当の対価と呼ぶかどうかというのは、またそれは別の議論が必要なのかなという気はしておりますけれども、趣旨としてはそういうことです。

委員

またしても整理の発言で申しわけありませんが、非常に重要なポイントなので、申し上げておきます。といいますのは、現在の判例法がどうなっているかということ。したがって、改正の必要があるのかないのかということとかかわるがゆえに、ちょっと発言させていただきます。といいますのは、先程来発言いただいたご意見と同様だと思いますが、相当の対価の意味をどう解するかについては2つの考え方が裁判例をみていてもありまして、1つは、オリンパス事件の2審判決が示した考え方だと思います。つまり、定めが特許法35条3項、4項の趣旨に照らして合理的であるといえれば、それが相当の対価なのだと。合理性があるといえなければ、それは相当の対価ではないというような考え方を、そのとおり結論を示したかどうかは別として、そういう判断を示しております。
もう1つの考え方は、青色LED事件の中間判決がややそれに近いと思いますけれども、そういう定めが合理的であれば、相当の対価だという言い方をせずに、むしろ端的に、特許法35条4項の基準に照らして算定された額が相当の対価だと。これはどうも合理的かどうかという幅のあるものというよりは、むしろ裁判所が1つ適正な額を決めるという考え方に近い立場を採用しているのではないかなと思います。同じ「相当の対価」という言葉を使っていても、合理性という形で、幅のあるものとしてとらえているか、それとも、1点、適正な額として考えるかという違いがあるように思います。
問題なのは、最高裁の判決が、不明確なんですけれども、素直に読むと、どうも後者の青色LED事件の立場に近いような書き方をしているという点です。ですから、さきほど委員がご指摘されるのは、もし相当の対価とそのまま置いて、そして、最高裁が仮に適正な額というように幅のないものとして考えているとするならば、そのままいくのですかという質問だろうと思います。
それに対して事務局がお考えになっているのは、それではいかないということですね。オリンパス事件の2審判決に近い形で有効か無効かというのを判断するようにしたいと。その結論自身は、恐らく先程来いただいたご発言も全然変わらないんだろうと思います。ただ、相当の対価の意味をそのように幅のあるものとして今後は考えるようにしましょうと。その限りでは、ひょっとすると最高裁判決が示しているのとは違う解釈を前提にして、これから立法しましょうと。そのように整理できるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

委員

先ほどご発言いただいた、私の意見の整理は、後半は完全に委員自身のご意見だと思いますけれども(笑声)、それはともかく、2点、簡単に。
結局、相当の対価と不合理性という問題は、概念の問題であり、それから、従来の議論ということ以上に、制度設計のポイントだと思うんですね。確かに、今、委員がおっしゃったような趣旨だと思いますし、恐らく、結果は変わらないだろうと思います。ただ、どうも先ほどの事務局案のイメージを考えると、まず、相当の対価の原則規定があって、そして、いわば例外規定で、ただし書きみたいな形で「定めによる」というのがあって、さらに、その例外として、もし交渉力や情報の点で問題があれば、それはだめですよと、こういう書き方になると思うんですが、果たしてそういう形で相当の対価の規定を定めることが妥当かというのが一番言いたい点なんです。
つまり、相当の対価という言葉を使うと、オリンパス工業事件の最高裁判決があるから、あれを引きずるような形になってという前提があるのかなと思うんですが、まさしくあの最高裁判決があったから、相当の対価の相当性のあり方はこうだというように見直すのがこの議論だと思うんです。対価の相当性とは、私がずっと発言してきたのは、結局、プロセスの相当性だと考えれば済むだけの話なので、そうであれば、相当の対価という枠組みで物事を考えればいいんではないですか、というのが一番いいたいことで、そのときに、不合理性という、いわばダブルスタンダードを使う必要性がどこにあるのかという意見です。それが1点。
もう1点は、私も、手続とかプロセスと内容とは相関関係にあると思います。委員がおっしゃったとおりで、同じ手続でもさまざまなレベルがある。仮に、内容のチェックというものを完全に除外すると、2ページの5.、ただし、実態はさまざまであり云々、柔軟に決定することを許容すべきではないかと。これは多分おかしなことになるんですね。仮に、内容のチェックがないとすると、手続面の法制度とか、政策とか、審査というのは非常にシビアなものになってくると思うんです。先ほどの、例えば、従業者が加入していない労働組合と交渉したって何の意味もないだろうし、あるいは、不服申し立ての機会とありますけれども、これだって、ひょっとしたら従業者だけではだめかもしれない。第三者を入れた、もっと客観的なきちんとした制度的なものにしなければいけない。そうしないと、手続の合理性は万全にクリアできないというものになりかねない。
⑤の話は、要は、企業の実態はさまざまだから、アバウトでいい、そんなに硬直的なものではない、柔軟に考えていいということとペアになっているわけです。ただ、プロセスがいいかげんであれば、その分、最終的にチェックは入りますということが前提になっていると思うのです。そこが相関関係という意味で、仮に内容のチェックをとってしまうと、企業は大変だと思います。物すごく高度な手続的な要件を満たさないと、この相当性というのはクリアできないと思います。そういう意味では、手続と内容の双方を要素とするという、4要素ですか、その事務局のお考えには賛成します。
意見、2点です。

委員

私は、企業に10年ほど設計者として勤務していまして、どっちかというと従業者の立場でいろいろ報奨規程もみてきたんですけれども、対価の決定の不合理性、合理性があるか、ないかという点なんですが、お互い、雇用者と従業者が同意といいますか、双方納得すれば、合理性があるんだろうと思うんです。そういう考え方でいいのかと思うんですけれども、そう考えますと、まるっきり規程がない、報奨規程がないというのはやはり不合理だと思うんです。
もう1つ考えられるのが、契約がある場合。契約というのは、双方でやる問題ですから、対価の額がたとえゼロ円、お互い納得の上で報奨はないです、それでもいいですという形でいけば、それも合理性があるのではないかと思うんです。
その次、もう1つ考えられるのは、就業規則、もしくは報奨規程というのは、先ほど委員がおっしゃったんですけれども、団体で決めて、雇用者側がそれを認めるかどうかというところは、先ほども発言がありましたが、世間相場が、例えば私などが勤務していたときに、発明して公開されれば何千円、公告――今は特許ですけれども、特許されれば何万円、実施されれば、実施相当額の何%とか、そういう規程があったんですけれども、それが相場が、例えば公開されたときに世の中は1万円ぐらい払っているんだ、それが自分の会社は100円しか払わない。そういうところで、相場からみれば、その規則はちょっとおかしいんじゃないかということになれば、不合理性が出てくるのではないか。そのように考えれば、今、事務局案の対価の決定が合理か不合理かというところはある程度考えられるんじゃないかと思うんです。ちょっと具体的過ぎたかもわからないんですけれども、そう考えるんですが、どうでしょう。

委員長

ほかに、何かまだご意見、ご質問、おありでしょうか。

委員

直接関係ないんですが、この職務発明に適用される発明の対象なんですが、ドイツの職務発明規定は、誤解かもしれませんが、私の認識は、ドイツの法人に雇用されている従業者に適用されるというように理解しているんですが、この35条でいう職務発明と称するのは、やはり日本法人に雇用されている従業者の発明――役員も入るんでしょうけれども、そういうものに限るというように解釈してよろしいんでしょうか。そうでないとするならば、それに限るようにしていただけるんでしょうか。

委員長

それは適用範囲のご質問だと思いますけれども、1、2に関してはもうこれでよろしいですか。

委員

すみません。2についてもう1つあるんですけれども、順番が逆だったでしょうか。
1番目の質問がどこに該当するのか、ちょっとわからなかったものですから、申し上げたんですが、2については、欠席された委員がおっしゃっているところが、私も非常に大事だと思っているんです。4項の考え方として、今の表現は、広めにということで私も賛成なんですが、あくまでも、その発明にかかわるところの企業の貢献度というようにいっていますけれども、実際、企業の場合はリスクを相当負っているわけですね。そのリスクを考えないで対価を決めるというのは合理的ではないと私は思うんです。ですから、その考え方をぜひ導入していただきたい。
心配しているのは、大学とか国の研究所の職務発明の発明者の受け分というのは相当率が高いですよね。50%ないしは25%ですか。あの場合は、それなりの意味があるから、それを高いとか低いとかいっているんじゃないんですが、その考え方を企業に適用されたら、とても企業は受けられないんですね。裁判所がもしそういうことを考慮するとしたら、どこが一番違うかといったら、企業はリスクを負っているということだと思うんです。ですから、そのリスクというのをぜひ4項の中に明らかにしていただきたいなと思います。

委員長

リスクの件は、私も経済学者として委員と同様の意見をもっております。

委員

私も全く賛成ですけれども、ここで、日立金属の事件を引用されている理由がよくわかりませんで、この金額そのものが、いろいろと貢献を参酌してくれているので、この金額は極めて妥当だというご理解のもとで事務局がお出しになっているとしたら、ちょっと大変な問題だなと感じております。
というのは、10%ものライセンス収入を出していたら、とんでもない状態になってしまうので、ドイツの規定でも、1億円ほどのライセンス収入の場合にはせいぜい何百万ぐらいの程度でございまして、国際水準からいってとんでもない金額なわけです。したがって、この日立金属の例をここに挙げられたのは、ちょっと趣旨がよくわからなくて、もしそういう趣旨だとしたら、ぜひこれはやめていただきたいと思います(笑声)。

事務局

いずれも4項、2.のところのご意見、ご質問だと思いますけれども、まず、日立金属事件を挙げたのは、これまでも重要判決についてご紹介をさせていただいているので、まずはご紹介という意味があります。
それから、2.の①で、「日立金属事件判決を除き」とありますが、今までの主な判例では、そもそも4項の考慮要素が非常に限定的に解釈されていた。それに比べれば、この日立金属事件は、考慮の仕方は別として、要素としては非常に多様な要素を具体的に挙げているという意味で、今までの判例とは違いますよということを述べさせていただいております。
今回の改正の趣旨としては、2.②にありますように、従来の考え方以上に、もっと広範なものを読めるようにしましょうということです。そこは、具体的に使用者等が行った貢献の程度や、負担した費用というのもありますし、発明者の処遇というのもあります。結果は別としても、日立金属でも発明者の処遇について考慮はされているようですけれども、そういった個々の企業の研究開発において負担されているようなさまざまな諸事情を考慮できるような4項にすべきではないかということで提案させていただいているということです。

委員

理由はわかりましたけれども、少なくとも、結果としての判決の金額そのものは、国際相場からいうとかけ離れているものです。理由がどういうことであるというよりは、我々企業の競争力として研究開発にどんどん投資できるような対価にしていただきたい。日本だけ一方的に低くしてくれといっているわけではなくて、世間相場にしてほしいというか、世界相場にしてほしいということで、突出した金額にならないようにしたいというのが趣旨です。そういう意味では、御欠席の委員がおっしゃるように、ここの部分、何でこんなに高いのかというと、リスクが全然入ってないからじゃないかという気がしますので、その辺をぜひご考慮いただければと思います。

委員長

まだいろいろご意見あると思いますけれども、3、4についてもきょうご議論いただきたいと思っておりまして、この後、中間報告を作成する過程で個別にご意見をお伺いする機会もあると思いますので、少し先へ進ませていただければと思いますけれども、どうしても今、意見をここでいっておきたいということであれば、お伺いしたいと思いますが。では、まだ発言のない方。

委員

相当の対価のところなんですけれども、大学の例をどなたか引き合いにお出しになられましたが、非実施機関ですから、ロイヤルティーとか何かが違うのは当然だと思いますし、リスクの部分も考えるべきだと思うんですけれども、最終的な構造としてどのようになるのかというのを教えていただきたいんですが、相当の対価というのは、本来、法定通常実施権は会社がもっているわけですから、残りの分の譲渡の独占の対価ですよね。その独占の対価のところに対して、研究開発費だとか何とかを考慮するというのは、どういう構造になるのか。
本来だったら、法定通常実施権だけのときと、独占したときの、その分だけ利益が上がったというような形、その差額に対して相当の対価の設定がされると考えるんだろうと思うんですけれども、そこの部分では、研究開発投資だとか、先ほどみたいなところというのは、おおむねそれで後からかけるというのはいいんですけれども、どういう構造で入れようとされているのか、ちょっとよくわからないんですけれども。

事務局

余り厳格に算定の仕方を規定しようということは考えていません。ドイツの例もありますので、基本的には、要素を非常に概括的に規定するということではないかと思っています。
ご質問の趣旨の、1項の通常実施権と相当の対価との関係ですが、まさにおっしゃったとおり、過去の判例でも、特許権をもっている場合の利益と、通常実施権のみを有している場合の利益の差額、すなわち独占による利益を基準として相当の対価を算定するという判決が定着しております。そこの算定の仕方については、それぞれ判決で幾つかのやり方があるようですけれども、基本的認識は同じでございます。それから、研究開発投資のリスクをどのように考慮するかというのは、かなり技術的な話であり、そこまで法文化するのは難しいと考えておりますが、少なくともリスク等についても裁判所が考慮できるような条文を導入し、あとは裁判所の判断にゆだねるということになるのではないかと思います。

委員

そこが、さっきからの話をずっと聞いていまして、根本的に、相当の対価の算定が物すごく難しいということが企業側の印象であって、さっき、1と100だともうだめじゃないかとか、1.5から0.5ぐらいにおさまるんじゃないかとか、そういう話より、もっと企業側の方がそこのばらつきというのを想定されていると思うんです。そこにさらにこのような要素を入れる入れ方を間違えてしまうと、利益が出るまで相当の対価は発生しないとか、とんでもないことにもなってしまいそうな気もするんですが、そんなことにはならないですか。

事務局

基本的に、相当の対価という部分にいかなくてもやれるようにしたいというのが今回の制度の設計の趣旨です。しかし、どうしても相当の対価にいってしまったと。契約が不合理か、あるいはそういう決定がないような場合ですね。そういう場合は裁判所が定めるんだけれども、そのときの定め方の考慮要素としては、幅広く読み込めるようなものにはしたいと思っております。
ただ、そのときに、どのように計算しなさいとか、そのようなことを法文に書きあらわすということは無理だし、それから、リスクというのは確かに非常によくわかるんですけれども、当該発明との関係といいますか、そういうものがある程度考えられるようなものということでないと、恐らく裁判所としても、いっぱいある発明の、すべての研究開発リスクをどのように勘案してというようなことは、計算上それをきちんとやりなさいといっても、多分無理だと思うので、だから、それもある意味では合理的な関係があるものについて考慮する。少なくともそれの妨げになるような条文にはしないということは私どもとしてはお約束はしたいと思います。

委員

そういうことであれば、さっきの1.5とか2とかいうところは、仮に出したことであって――たしか1.5から2とかいいましたね。相当広いと思われるんです。

事務局

だから、現在の4項、3項を前提にするところの相当の対価というのは、非常に幅のない概念だろうと思うんです。ただ、それは、今後、契約とか勤務規則で定めたものが不合理でなければ、それによるんだという制度設計をすることによって、それを相当の対価と呼ぶかどうかは別にして、それは幅のあるものとしてとらえることは可能になるだろう。基本的に、そこでは、ある意味では4項の世界で積み上げて、あるいはそれから引き去るというような計算をしなくても、契約で合理的だというように定められれば、それでいいんじゃないかということを申し上げているわけです。その場合は、契約を定める定め方として、必ず4項に従った定め方をしないと、契約そのものが不合理になるということはございませんので、そういう理解はしておりません。

委員

1つだけ。この事務局案の大きな方向でいいと思うんですけれども、予測可能性を高めるために、こういう場合だと、手続の決め方とか内容として不合理だよというような例が、何らかの形で、報告書になるのか、それとも実際に条文ができた段階で注釈書に書き込むという形になるのかわかりませんけれども、例えば、不服申し立ての機会という言葉が出てきますけれども、社内で1回だけ再審査して、それでもうファイナルというのが、多くの会社はそうじゃないかと思うんですが、それでいいのかというのも、改めて我々は不安に思うわけです。だから、その辺にアドレスをする資料を何かつくっていただけたらと思います。

委員長

よろしいでしょうか。――1と2につきましては、いろいろと貴重なご意見をいただきまして、特に相当の対価と合理性の関係について、整理の仕方、ロジックの組み立て方に大変建設的なご意見をいただいたと思います。そのほかにもさまざまなご示唆をいただきましたので、それを勘案した上で、今後、中間報告書案の作成に移りたいと思いますが、その過程でまたいろいろと個別に皆様のご意見をお伺いしたいと思いますので、それでよろしゅうございますでしょうか。
それでは、そのようにさせていただきまして、時間がかなり少なくなってきましたけれども、論点の3の35条の適用範囲について、これは外国特許の話が主ですけれども、それから4番目の短期消滅時効につきまして、ご意見をお伺いしたいと思います。

委員

まず、今回の表現されている、35条には外国の承継や承継に対する対価については取り決めない、難しさがあるということで理解いたしました。ただ、その後、ただし書きがよく理解できないんですが、現在やっているから、そのとおり取り決めをするのが望ましいというんですが、これは、35条の対価に換算されるのか。全く別で、インセンティブのためにやったらどうですかということなんでしょうか。どちらなんでしょうか。

事務局

後者です。

委員

ということは、今度の法改正の中には何も入ってこないんですね。

事務局

そうです。ただ、あくまで使用者・従業者間で、外国の部分についても納得できるような取り決めをすることが望ましいのではないでしょうかという示唆をさせていただいているというだけです。

委員

その意味としては、もし35条の強行規定にいかなきゃならなくなったときも、考慮はされませんよということになるわけですか。

事務局

はい。

委員

対象外ですね。もう1つ、先ほどちょっとお願いしたんですが、この規定がどの発明に及ぶのかというのを明確にしていただけたらと思うんです。理由は、グローバルに企業間連携、いろんな共同研究なりをやったときに、お互いの国の発明者が移動したり、共同発明したりするようなことも考えられますので、どの場合に日本の35条が適用されるかというのを明確にしていただいていたらいいんじゃないかと思うんですね。希望としては、日本の法人に雇用されている従業者が日本において発明した場合と。恐らく、その従業者がアメリカに長期間出張していて、アメリカで発明したような場合は適用しないとか、そういう明確な規定にしていただけるとありがたいなと思うんですけれども、いかがでございましょう。

事務局

35条が、いわゆる外国における発明にも直ちに効力――もちろん、日本で特許になっているということが前提ですけれども、そういうものに効力を及ぼす、そういう趣旨の規定かどうかというのは、多分、争いのあるところかなと思いますが、確かに、日立事件の判決等をそのまま押し及ぼしていきますと、35条がそういうものにも適用される余地はあるだろうと思っております。
ただ、今回の方向で改正をしてよいということでまとまるということになりましたら、基本的には、契約がそのまま尊重されるということにはなると思います。したがって、契約の内容が不合理――勤務規則というのもあるんですけれども、そういうものが不合理でなければ、日本において相当な対価の請求権というのが発生することはないのではないかと考えておりまして、そういう意味では、実害といいますか、それは極めて小さいのではないかなとは思っております。

委員

実害というのは、裁判所で裁かれる実害じゃないんですが、お互いにどの基準で対価なりインセンティブを払うのかというのが非常に複雑になるんじゃないかと思うんです。例えば、アメリカの企業で雇用されている従業者が日本に来て、発明活動をしました。そこから出た発明に対して日本の特許をもらいました。アメリカの企業としては、アメリカの取り決めで払いたいと思っていると思うんですね。その場合に、日本の取り決めで払いなさい――日本の取り決めがあるのかどうかわかりませんけれども、アメリカの取り決めで適用してよろしいんでしょうか。逆の場合は、日本法人の従業者が日本で発明して日本で特許をとったときははっきりするんですが、アメリカに行って、アメリカの企業と共同で発明したり、あるいは単独でアメリカで発明しましたという場合に、これが適用されるんでしょうか。

事務局

日立の判決の趣旨などを考えますと、適用はされるだろうと。

委員

そのときの対価はどうやって払うんですか。

事務局

35条です。もちろん、改正後の35条ということを念頭に置いていただければいいんじゃないかということです。

委員

ドイツの職務発明は、私の理解が正しいかどうかわかりませんが、ドイツ法人の従業者にしか適用しないというようにはならないんでしょうか。

事務局

今の点については、補足の説明をさせていただきますと、ドイツの従業者発明法で、適用対象がドイツの従業者という明文規定はありません。過去の判例も探しましたが、そのような判断を示している判例もみつかりませんでした。ただし、学説的には、ドイツで雇用されている使用者・従業者に適用されるのだという学説が有力です。必ずしも明文規定がないということをご紹介させていただきます。

委員

日本の場合はそのようにはならないんでしょうか。

事務局

日本法人だけに適用するとかというのは無理だと思うんです。これは多分、国際条約に違反することになるんじゃないかと思うんですが。

委員

先ほど、インセンティブというお答えでよろしいんですよね。取り決めが行われることが望ましいのではないかということで。④の書き方って、大分違うようなニュアンスで受け取りましたので。何か日本特許に基づく利益と同様に対価の取り決めが行われるべきではないかということなので、これも、望ましいのではないかということなんですね。

事務局

そのとおりです。

委員

わかりました。それと、ちょっともとへ戻って、今気がついたんですけれども、1の④の上から2行目、「従業者との協議の状況」と書いてありますが、「従業者等」ですね。

事務局

はい。

委員

わかりました。③については、私は、現状の認識からすれば、事務局案でよろしいのではないかと思います。

委員長

ほかにございませんか。

委員

時効の話で、賃金債権と同じくするにはどうも余り根拠がないんじゃないかというお話でしたけれども、例えば、退職金とか、ほかにいろいろあるんじゃないかと思うんですけれども、そういう比較はされないんですか。

事務局

それもあり得ますけれども、その場合であっても、①とか③とかを必ずしも満足するようなものではないと考えております。

委員

ご参考までに、4の理由づけ、①、②のうち、①については、現実の就業関係を前提にする限り困難なことは否めずと。それはそういう見方もできるんでしょうが、逆に、労働基準法で通常の賃金債権が2年、退職金債権が5年となっています。退職金の方が長いわけですが、その理由は、退職後は訴訟を提起して争うことが難しいから、したがって、通常の賃金よりも長くしたという説明が立法趣旨なんですね。ですから、逆の見方もあり得るということが1点。
②の方については、私の理解では、確かに発明の対価というのは労働条件にはなるでしょうけれども、賃金ではないので、この理由づけはそれなりに納得できます。ただ、2年はともかく、退職金債権の5年程度の短期消滅時効は政策として不可能ではないのではないかと考えています。

委員

先ほど委員がおっしゃった、退職金債権は権利行使をすることが難しいという議論になったのか、ちょっと教えていただけますか。

委員

退職するわけですね。退職して雇用関係が切れてしまうと、訴訟を提起しにくいということです。

委員

そこの説明のところがよくわかりません。縁が切れちゃうから訴えやすいんじゃないかと思いますが。

委員

それはなぜ厚生労働省の方でそう判断したのかは知りませんが(笑声)、厚生労働省における立法趣旨はそうだと思います。

委員

わかりました。

委員

今の項目ですね。もし委員がおっしゃるように短くすることが可能でしたら、企業としては短ければ短いほどいいわけで、ぜひ意見として最終版には取り入れていただければと思います。

委員

合理性があればですよ。何でもかんでも短いというのは……誤解のないように。

事務局

③の趣旨もありますし、当然、この件については、使用者側に有利であるということは、反対に従業者側には不利な改正になるという、非常にわかりやすい改正で、よほどきちんとした正当化するような理由がない限り、事務局としては、短期消滅時効を導入するというのは難しいのではないかという結論なのですが、その点はいかがでしょうか。

委員

私も企業の気持ちはわからないではないけれども、これだけの改正をやるということは、従業者側にとっては、かなりの批判も出てくる可能性もあるわけで、そういう中でやるときに、さらにその上積みしてということは、この際は見送って、これで改正を実現するのが、日本の職務発明制度の改正にとっても大きな前進だと思いますので、この辺のところで消滅時効の点は見送られた方がいかがかと思います。

委員

見送るかどうかはお任せしますけれども、この理由づけをもう少しきちんとしてもらいたい。次の回もありますので。次の世代の話ですけれども。

委員

先ほど委員の方から私どもの後押しをしてもらいまして、ありがとうございました。この部分は、できればそういうことで私どもはしていただきたい。
ただ、対価について、先ほどから何も発言をしなかったのは、今、事務局が提起をされていることぐらいが、労働者側からみても、あるいは従業者側からみても限度かなと、これは私の経験にもとづく判断ですから、全ての労働者がそう思っているということでとられると困るんですけれども、そのように私自身も感じましたので、事務局案で、いろんな先生がいろんなことをおっしゃいましたけれども、それは事務局案に含まれているというような理解で、何も意見はいいませんでした。
でも、短期消滅時効については、先ほど援護射撃もありましたけれども、ぜひそういうことでやっていただければ、先につなぐことは結構ですけれども、企業の事情も私どもなりには理解できる部分がないわけではありませんが、今回は手をつけていただかない方がよろしいんじゃないかという気持ちをもっております。

委員

短期消滅時効に関しましては、事務局がお書きになられているとおりでして、とりわけ③の点は見過ごさずに重視していただければと思います。権利を認める以上、それが時間がたてば消滅するというのは、考えてみると、ちょっとおかしな制度といえばおかしな制度で、それが10年、20年になってくると、無理もないかなというところはありますけれども、それがもっと短くなってきますと、それを正当化するだけの理由が必要になってくるであろうと。③の(1)(2)に書かれているのはまさにそのとおりでして、こういう点で、特に大きい問題もないのに権利がなくなるのだというのは、よほどの正当化理由が必要になってくる。それがお出しになれるのであれば別問題ですけれども、それは難しいのではないか。ですから、今回は見送るというような問題を超えたところがあるという認識はおもちいただければ(笑声)……、短期消滅時効全般について、問題のあるところですので、また、時効期間が、今の民法で定めている10年とか、そういうので本当にいいのかという、より大きい問題の中でとらえるべき事柄でもありますので、問題の性格がそういうものだという認識はおもちいただければと思います。

委員

私もそういう認識はもっております。

委員

今の発言にありました理由づけならわかるんですが、今回の改正が一方で企業側に有利で、したがって、その取引として従業者の短期消滅時効については企業に我慢しろみたいな、そういう理由づけは余り好きではないし、そういうことはここで議論すべきことではないと思います。
ただ、②の賃金とのバランスについていえば、これはこれで納得できますが、しかし、賃金こそは労働者、従業者の生活を支える最も重要な資源であって、それについてさえ2年である。したがって、そうだとすると、職務発明の対価についてはどうなのかという議論もできるわけで、正当化根拠のの1つとしてはなり得るわけです。しかし、時効制度全体としてみれば、今、事務局や委員の方がおっしゃった問題もあると思いますから、あとはお任せしたいと思います。

委員長

3、4について、ほかに何かご意見おありでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、1、2、3、4という論点につきまして、事務局の基本的な考え方はご了解いただいたように思いますが、いろいろとご意見をいただきましたので、事務局の原案をベースにしまして、きょういただいたご意見を反映させながら、これから中間報告案の作成に入らせていただきたいと思います。次回はその中間報告書案を審議させていただきたいと思っておりますが、それを作成するプロセスで、また個別にいろいろとご意見をお伺いすると思いますので、どうぞご協力のほどをよろしくお願いいたしたいと思います。
この際特に何かご発言がおありでしたら……。どうぞ。

委員

今ずっと議論しているのは、特許法で議論しているわけですが、意匠も準用規定なので同じだということで、意匠も同じだということになるんでしょうか。

事務局

以前ご紹介しましたように、委員からその点の問題提起もいただいておりましたけれども、今回の事務局案で、とりあえず委員会の案としてご承認いただけるのであれば、基本的に、分野の特殊性というのは、使用者・従業者間の話し合いの中で吸収できるのかと思います。必ずしも特許と意匠の間で画一的な制度である必然性はなくて、そこはかなり柔軟に対応できるようになるかと思いますので、ここはこの事務局案が意匠にもそのまま適用されるということで、問題がないのではないかと理解をしております。

委員

何となく違うようにも思うんですけれども、これだとしたら、意匠出願は、逆にいうとしない方向に動いてしまうんじゃないのかなという気が非常にするものですから。車という特殊性から考えると、国内でまねされることは、ほとんどないので、出さない方向にどんどんいくのかなと思います。

事務局

そこはまた皆さんのご意見を踏まえて、報告書案の中で言及させていただきますので、そこでまたご意見をいただきたいと思います。

委員長

ほかに何か、特に発言しておきたいということはございませんでしょうか。よろしゅうございますか。
それでは、時間も過ぎましたので、本日の委員会はこれで終わりにしたいと思います。活発なご意見を大変ありがとうございました。
最後に、事務局から、次回のスケジュールを含めてご報告をお願いいたしたいと思います。

事務局

冒頭、委員長からもご紹介ありましたけれども、次回までに事務局の方で職務発明制度の在り方についての報告書案を作成させていただきます。できるだけ早めに事前に皆様のお手元にお送りして、ご意見をいただければと思います。
なお、次回の小委員会の日程につきましては、今お伺いしているところでございますけれども、9月末か10月上旬を考えております。スケジュール調整ができ次第、日時、場所等あわせてご案内させていただきますので、よろしくお願いいたします。

委員長

それでは、以上で第13回の特許制度小委員会を閉会いたします。どうもありがとうございました。

――了――

[更新日 2003年10月28日]

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