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第14回特許制度小委員会 議事録

  • 日時:平成15年10月17日(金曜日)15時00分から17時00分
  • 場所:特許庁庁舎 特別会議室
  • 出席委員:
    後藤委員長、中山部会長、相澤委員、浅見委員、阿部委員、井川委員、市位委員、江崎委員、大西委員、岡田委員、志村委員、須賀委員、竹田委員、田中(信)委員、田中(道七)委員、土田委員、長岡委員、西出委員、松尾委員、丸島委員、丸山委員、山本委員、渡部委員

1.開会

委員長

それでは、定刻になりましたので、始めたいと思います。
ただいまから第14回特許制度小委員会を開催いたします。
本日は御多用中のところを御出席いただきまして、どうもありがとうございます。今回も中山知的財産政策部会長に御出席いただいておりますので、よろしくお願いいたします。
早速ではございますけれども、本日の検討を始めます。
本日は「職務発明制度の在り方について」という報告書案ですけれども、これにつきまして、御検討いただきたいと考えております。
昨年9月以来、長期にわたってたびたび会合を開きまして、活発な御議論をいただきましたけれども、その内容をまとめて事務局の方で報告書案を作成してもらっておりますので、これをまず資料を事務局で確認した後に、その報告書案の内容について、説明をお願いいたしたいと思います。
よろしくお願いいたします。

事務局

それでは、私の方からお手元の資料を確認させていただきたいと思います。
本日お配りした資料は全部で7点ございます。まず資料1が議事次第・配付資料一覧、それから資料2が「委員名簿」、資料3がきょう御審議いただきます報告書案、それから資料4が全部で4点ございます。資料4-1が「諸外国の従業者発明制度」、それから資料4-2が「発明者アンケート集計結果」、資料4-3が「企業アンケート集計結果」、最後に、資料4-4が「主な職務発明対価請求訴訟」を紹介したもの。全部で7点ございますが、皆様、お手元に過不足なくございますでしょうか。

2.職務発明制度の在り方について(報告書案)

事務局

それでは、私の方から、お手元の資料3「職務発明制度の在り方について」の報告書案を御説明させていただきたいと思います。
この報告書案は、前回までいろいろ御議論いただきました内容をもとに、皆様から個別に御意見をうかがいながらつくらせていただいたものでございます。
表紙をめくり目次を見ていただきますと、全部で2章構成になっておりますが、第1章では全体の背景ないし問題認識をまとめております。第2章が改正の具体的方向性をまとめたものでございます。
それでは、最初にまず第1章第1節から簡単に御説明をいたします。
まず、産業競争力強化のためには、イノベーションを生み出す人材の確保と、これを生かすシステムの構築というのが極めて重要ということでございます。まずは、我が国の豊富な研究人材の発明意欲を今まで以上に刺激することが必要である。それから、企業や大学等において知的財産権を戦略的に最大限に活用することが不可欠だということでございます。
第2パラグラフですが、我が国の出願構造を見ますと、約97%が企業、大学等によるものであり、これが概ね職務発明に該当するということになるわけでございます。したがいまして、職務発明制度をどうするかというのが非常に重要な問題になるということでございます。
この職務発明を活性化するためには、まず何よりも発明の担い手であります研究者に対して、更なる研究開発や発明に向けたインセンティブを与えるということが必要です。それから、職務発明を生み出すに当たって、資金やリスクの担い手であります企業や大学等に対しても、研究開発投資を増大させるようなインセンティブ付与するということが必要だと考えております。
さらに、我が国の産業及び経済の活性化のためには、発明が迅速かつ戦略的に活用される必要があるということでございます。我が国の特許制度では、特許を受ける権利は発明者に帰属するという建前をとっておりますけれども、その発明の活用、事業化は主として資金面やリスク面において発明を支えた企業、それから大学等からライセンスを受けた企業において行うことが通常であるということでございますので、職務発明に基づいて発生する権利については、企業や大学等が有効に利用できるような環境整備をするということが必要ではないかと考えております。
次に、35条の歴史を簡単に記載しておりますけれども、現行制度の原形は大正10年法においてつくられ、その後昭和34年に改正をされて現在に至っております。本来であれば、職務発明制度は国際的な産業競争力強化の観点から、その時代に合った制度とすべく見直していくことが必要だということでございますけれども、34年法制定以来、一切手直しをされることなく現在に至っているというところでございます。
現在、知的財産の重要性が強調されるという新たな環境のもとで、改めてこの職務発明制度を点検し、知的財産政策の一翼を担い得る制度への脱皮を図る必要があるということでまとめております。
第2節が「職務発明制度の趣旨」ということで、若干逐条的な解説をしております。職務発明制度の本来の趣旨といたしましては、使用者が研究開発投資を積極的に行い得るよう、安定した環境を提供するということと、従業者が使用者によって適切に評価され、報いられることを保障することによって、発明のインセンティブを喚起しようとするものでございます。
具体的には、特許法第35条はどのような構成になっているかということでございますけれども、特許を受ける権利は発明者に原始的に帰属するということになっているわけですが、職務発明に関しての従業者の雇用、それから研究開発設備の提供、研究開発資金の負担など、使用者による一定の貢献が不可欠であるということを重くみて、使用者に法定の通常実施権を付与しております。また、特許を受ける権利等の予約承継を許容する規定も設けられております。それから、従業者に対しては、特許を受ける権利を使用者に承継させる代償として、「相当の対価」の支払請求権を与えております。また、この「相当の対価」の額の算出に当たりましては、使用者が受けるべき利益と、その発明がされるについて使用者が貢献した程度が考慮されることになっております。
なお、諸外国の職務発明制度について簡単に触れておりますけれども、ドイツは日本と同様に、職務発明については従業者に原始的に帰属させる制度をとっております。他方、イギリス、フランス、ロシア、イタリアなどでは、職務発明又は特許を受ける権利などは使用者に原始帰属するという制度をとっているということでございます。
アメリカでございますけれども、御案内のとおり、職務発明に関する明文規定というのはございませんで、発明に係る権利は原始的に発明者に帰属するという制度になっております。職務発明に係る権利の承継についての取り扱いは、連邦公務員を除いては契約、あるいは各種の判例法に委ねられておりまして、一般的には給与の中に権利の承継に対する対価が含まれるとする雇用契約を結ぶということになっております。
それから、ドイツでございますけれども、補償金の算出基準等について詳細なガイドラインが設けられており、また、ドイツ特許商標庁には使用者と従業者の間の紛争処理機関が設置されているということでございます。
続きまして第3節、6ページでございますけれども、昨今のこの職務発明制度をめぐる問題点ということでございます。
この35条は、発明者主義の考え方と、それから職務発明の特殊性の両方を総合的に勘案して、使用者と従業者の均衡の中でこの職務発明を活性化しようとするものでございます。この35条を根拠として、使用者は職務発明に係る権利を安定的に承継して、それを基礎にして積極的な事業展開を行ってきました。それから、従業者については、その使用者が定めた報償規程などにより一定の処遇を得てきておりまして、これまでその対価や処遇が大きな問題として顕在化することはございませんでした。
しかしながら、近年の知財に対する関心が高まってきたということを背景にしまして、改めてこの35条の存在が意識されるようになり、同条に基づく訴訟が多発してきております。そして、その在り方が問われてきているというところでございます。
この35条の問題点として指摘されるのは、大きく次の2点ではないかと考えております。まず第1は、企業の研究開発投資活動への不安定性の増大ということでございます。先日出されましたオリンパスのピックアップ装置事件の最高裁判決によれば、「勤務規則によって支払われた対価の額が35条の4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは、同条3項の規定に基づき、その不足額に相当する対価の支払いを求めることができる」という判示がなされております。すなわち、35条3項は実質的に強行規定と解釈されているということでございます。また、35条4項につきましては、この4項に基づく算定基準がはなはだしく具体性を欠いているということと、事後的な売り上げやライセンス収入をもとに「相当の対価」を算定するということを要求している反面で、発明完成後の使用者の貢献が十分に考慮されていないことから、使用者は従業者に対して一体幾ら払えばよいのかというのが極めて不透明な状態になっております。そういったことによりまして、予測可能性を持って研究開発投資を行っていくことに支障が生じているという指摘がございます。
この予測可能性を高めるために、ドイツのような詳細なガイドラインを設けるべきというような意見もあるわけですけれども、ドイツでは、詳細過ぎるがゆえに過度な特許管理コストを強いられていること、紛争が頻発しているということなどを踏まえまして、このガイドライン自体、簡素化の動きがあるということで、必ずしもガイドラインの策定が有効であるということは言えないのではないかと考えております。
それから、他方、従業者側からは、この報償規程は使用者が一方的に定めているということが多いために、自分の行った発明が適切に評価されているという納得感が得られていない場合が多いということでございます。納得していない従業者は35条3項に基づいて訴訟を起こせばいいではないかという議論もありますけれども、実際上は納得しない従業者であっても、在職中はなかなか訴訟を起こすことができないというのが実情でございます。
それから、幾つか判決が出ることによりまして、この報償規程の対価の上限を引き上げたり、それから上限を撤廃する企業も続出してきているわけでございますが、これについては非常に望ましい方向ではないかと思いますが、その規程を使用者が一方的に定めるというような基本的な問題点は改善されていないということでございます。
以上御説明した点を踏まえ、この制度の改正の具体的方向性を検討したわけでございますけれども、まず第1節では、これは35条1項の規定について述べておりますけれども、使用者等の通常実施権について、現状どおり認めるかどうかについて記載しております。結論から言いますと、使用者には通常実施権を認めるべきという結論でございます。
まず1.のところに現状を書かせていただいておりますけれども、通常、ほとんどの大企業におきましては、特許を受ける権利というのは従業者から承継を受けておりますから、この通常実施権を行使するというケースはほとんどないと聞いております。ただ、中小企業におきましては、明文の規定を置いていない企業も多く、中には権利者である従業者が、自分の発明を元所属企業が勝手に実施しているとして訴訟を起こしたというケースもございます。
改正の具体的方向性といたしましては、職務発明がされるについて、使用者は研究開発の課題設定等、発明に対して直接的又は間接的に貢献しているということで、その使用者に一定の実施権を与えるということには合理性があるのではないかということでございます。また、この通常実施権を付与することによって、使用者の職務発明に係る権利を安定させ、その事業活動はもとより、更なる研究開発投資の円滑を期すということが可能になるということで、現行制度どおり、使用者に通常実施権を認めることが適切だと考えております。特に、明文の職務発明規程を置かない中小企業の業務に支障をきたさないためにも、このような通常実施権を認めることが必要と考えております。
続きまして、9ページ、第2節、35条間の第2項でございますけれども、まず結論的には、職務発明に係る権利については、使用者への予約承継を現行どおり認め、自由発明についての予約承継は現行どおり禁止すべきということでございます。
1.のところでは、現行35条2項の解釈を書かせていただいております。35条2項は、御案内のとおり、自由発明の予約承継禁止の規定になっておりまして、その反対解釈として、職務発明であれば予約承継の規定を設けることが可能との解釈が一般的になされております。これに基づきまして、使用者は勤務規則等の定めにおいて、職務発明の予約承継を規定し、現実に迅速かつ安定的な承継を実現しているということでございます。
改正の方向性としては、こういった新たな職務発明がより早く、広く実施され、利用されるために、速やかに権利の帰属が定まるということが望ましいと考えております。そして、企業はその成果を事業化することを目的として研究開発投資を行っておりますし、大学等で生み出される職務発明については、個々の研究者がその成果を自らの資金・リスクで事業化するよりも、大学において組織的に活用することが有効であろうということから、使用者に予約承継を認める現行制度を存続させることが適切だと考えております。なお、自由発明については現行どおり、それの予約承継を定めることは無効とするということが適切だと考えております。
続きまして、第3項でございます。ここも基本的な考え方を枠の中で紹介させていただいておりますが、まず権利の承継があった場合の対価の決定が、使用者と従業者との立場の相違にかんがみて不合理でなければその決定された対価を尊重するべき。ただし、この決定が不合理である場合には、従来どおり、従業者に相当の対価請求権を認めるべき。それから、この不合理性の判断においては、使用者と従業者の間での決定の自主性を尊重することの重要性にかんがみて、対価の決定の手続面を重視するべきというのが基本的な考え方でございます。
1.のところの現状でございますけれども、これは前述のオリンパス最高裁判決の紹介でございますけれども、最高裁は、勤務規則等に基づいて支払った対価の額が「相当の対価」の額に満たないときは、従業者は事後的にその不足額の支払いを求めることができると判示しております。
2.のところですが、このような判決によりまして、使用者の債務が長期間確定しない、それから具体的な算定根拠が当事者から見て必ずしも明確ではないので、対価についての予測可能性が低いものとなっているということでございます。一方、従業者には、この「相当の対価」に満たない場合ですけれども、現実に不足額を請求する訴訟を提起する従業者というのは極めて少ないわけでございまして、不満があるとしても、大部分の従業者は使用者が一方的に定める定めに従って対価の支払いを受けているというのが現状だというところでございます。
3.の制度改正の具体的方向性といたしまして、まず第1が、使用者にとっての予測性を高め、発明評価に対する従業者にとっての納得感を高めるため、対価については、原則として両当事者間の「自主的な取り決め」に委ねることとすべきということでございます。
すなわち、使用者と従業者との間で契約や勤務規則等において「対価」について定めたときは、その定めるところによることを原則とすることが適当ではないかということです。こうして両当事者間の「自主的な取り決め」に委ねることによりまして、各業種、各企業ごとに異なる諸事情を対価に柔軟に反映させることが可能となるのではないかと考えております。こういった自主性を尊重するということであれば、対価の決定は契約に基づいて行うべきという考え方もとることができるわけでございますけれども、我が国の雇用関係下におきましては、契約といっても必ずしも従業者の意思が反映されているとは限らないということで、契約と勤務規則という法形式の差異によってことさらに区別することは適切ではないといった指摘がございました。それから、特に大企業、多くの従業者を抱える使用者にとっては、個々に契約を行うというのは現実問題として制度運用を行うことが困難となるという問題もあります。したがいまして、特に契約というような形式にとらわれることなく、対価の決定のプロセス全体において従業者の意思がどれだけ反映されているか、どれだけ実質的な手続が行われているかということを評価の重要な基準とするということが適当ではないかという点で意見が一致いたしました。
第2の点は、この対価についての定めがない場合や、使用者と従業者の立場の相違に起因して不合理な対価の決定がなされる場合については、現行どおり従業者に「相当の対価」請求権を認めることが適当ということでございます。
第3の点は、不合理か否かというのはどのような基準で考えるべきかということでございますけれども、この使用者と従業者の立場の相違にかんがみて不合理であるか否かにつきましては、手続面と内容面を含む対価の決定全体を総合的に評価することによって判断されるというのが原則でございます。ただし、この不合理性の判断に当たっては、特に従業者の関与の状況などの手続面を重視するということが適切ではないかと考えております。より具体的には、基準を定める場合、規程を策定する場合には、従業者またはその従業者を正当に代表する者の意見を反映しているかどうか等、その基準を策定するに当たっての従業者との協議の状況、それからその基準を個々の従業者にどの程度開示しているかが重要な判断要素とされるべきだと考えております。それから、定められた規程を個々の発明に適用する場合、いわゆる当てはめのケースですけれども、それにつきましては、従業者に対する説明の有無や程度、それから異議がある場合にそれを申し述べる機会が従業者に与えられているか否かが考慮されるべきだということでございます。
この点につきまして、合理的な手続を行っていれば、その結果、導き出された対価そのものについて司法審査対象から完全に除外すべきという意見が一部の委員から出されたわけでございますけれども、最終的にはその結果である「対価」が訴訟対象物であるということ、それから手続の履践にも実態上は程度の差があって、その合理性が対価との相関で判断される面があるということ、もしその手続要件のみを法定しようとした場合には、より厳格な手続の履践が求められるようになるということ、それから手続の履践によって、従業者にとっての納得感が高まっていれば、対価が不合理とされる場合は、通常は想定されないことをあわせ考慮いたしまして、対価を審査の射程から除外しないということとしつつも、その中で手続に重きをおくことが妥当だということで意見がまとまったということでございます。
それから、12ページの一番上のなお書きでございますけれども、ここでは発明価値の評価の単なる違いが存在するにすぎない場合、いわゆる当てはめにおいて、使用者と従業者との間で評価の単なる違いが存在するようなケースですけれども、単にそれのみを理由として対価の決定自体が不合理であるというふうに判断されるべきではないと考えております。ただし、この場合、債務不履行として、本来、規則に基づいて支払われるべき対価の支払いが認められる場合があるということに留意すべきということです。換言すれば、不合理であるとして「相当の対価」の算定に行くのではなく、もう一度規則に当てはめ直した対価が支払われるようになるということでございます。第4の点ですけれども、使用者と従業者の実態は様々であるということから、具体的な協議とか交渉の方式に法や行政が過剰に介入することなく、個々の実態に合わせて柔軟に決定することが許容されるべきではないかということでございます。
今、これまで御説明しているケースはほとんど規程を設ける場合のことでございますけれども、必ずしも規程がなくてはいけないというわけではなく、個別の契約に基づく個別承継も当然許容されるべきでありまして、そういった場合には、その契約における交渉の実質が評価されるべきだと考えております。それから、基準の策定においては、個々の従業者の個別の同意までは必要とせず、集団的な協議でも足りるとすべきと考えます。
第5の点でございますけれども、この「対価」の決定の合理性を側面から担保するために、この基準を公表することに努めることが望ましいと考えております。この基準の公表によって、使用者にとっては優秀な研究者が集まることが期待できますし、従業者にとっては、よりよい研究環境を選択することが可能となるということが期待できるのではないかと考えております。
続きまして、第4節、35条4項の取り扱いでございますけれども、ここでの結論は、「相当の対価」が決定されるに際し、幅広い事情が考慮されるように、4項の規定を明確化すべきということでございます。
現在、35条4項において、「相当の対価」の算定の要素としては、その発明により使用者が受けるべき利益の額と、その発明がされるについて使用者が貢献した程度を考慮するように定められております。現実の訴訟においては、裁判所は、発明完成後の事情であるライセンス収入等を基準として「相当の対価」が算定されております。
2.の問題点でございますけれども、判決において、幾つかの算定要素としての項目が明示されているわけですけれども、それぞれの項目がどのように考慮されているのか、具体的な数値との対応が示されていない場合が多く、結局のところ、算定根拠が不明瞭な面は否定できないということでございます。
それから、先ほど御紹介したとおり、算定に際して発明完成後のライセンス収入とか、発明品の売り上げが考慮されているわけでございますけれども、「その発明について使用者等が貢献した程度」の規定においては、発明がされるまでの事情のみしか考慮されていない可能性がある、すなわち、発明完成後の貢献が考慮されていない可能性があるということで、問題があるのではないかということでございます。
制度改正の具体的方向性ということですけれども、発明がされるまでの貢献だけではなくて、発明完成後の貢献も算定に際して考慮されるべきではないかということです。それから、使用者は直接発明につながる研究開発以外にも、当該利益に間接的につながる研究開発も幅広く行っておりますし、使用者によっては利益に貢献した研究者を給与、昇進によって厚く処遇している場合もあります。したがいまして、「相当の対価」を算定する際の指針となります第4項の規定については、当該発明に直接的または間接的に関連性がある限り、さまざまな事情が幅広く考慮されることを許容するような規定にすべきできないかと考えております。
続きまして、直接対応する条文はございませんけれども、審議会の中で議論された項目の1つで、日本で生まれた発明に基づく外国特許、これの取り扱いをどうするかということでございますけれども、この点につきましては、今回の改正において、その外国特許にこの35条を及ぼすような規定を置くことは見送るという結論でございます。
現状といたしましては、同一の契約や勤務規則によって、国内外の権利を問わず権利承継することを望む使用者もいらっしゃるし、同一の基準によって対価の決定を望む使用者、従業者も多々いらっしゃると考えております。現実に、勤務規則などによって、日本の権利と同様に、外国における権利の承継や対価について規定している企業が少なからず存在していると認識しております。
2.の問題点でございますけれども、外国特許についてですが、外国における権利の承継の効力や対価の支払い義務の有無は、権利登録国の法律によって規律されるとする考え方、それから承継の効力については、権利登録国の法律で規律され、対価の支払い義務の有無については従業者の労務給付地法、あるいは当事者の選択準拠法によって規律されるとの考え方等がございまして、判例、学説においてもこの点について見解が統一されていないというのが現状でございます。
承継の効力や対価の支払い義務の有無が権利登録国の法律によって規律されるという考え方に立った場合には、使用者は35条2項に基づいて、外国における権利の承継を受けることができず、それから従業者は同条3項、4項の規定に基づいて、その権利承継に対する対価を請求することができなくなることになります。
制度改正の具体的方向でございますけれども、外国における権利の承継の対価に関する法の適用関係については、今御説明したとおり、判例、学説においても見解が一致していないということで、こういった現状において、35条に外国における権利について、35条の適用範囲とする旨の規定を置いても、必ずその規定が適用されるとは限らないということでございます。また、仮に適用される場合でも、「発明」、「特許権」、「特許を受ける権利」等の概念が各国において異なるというような問題もございます。対価請求権発生の前提となります承継の有無とか、承継の時期の決定は、最終的には相手の権利登録国法に委ねざるを得ないという立法上・運用上の問題も、解消できないということでございますので、結論的には、この35条において職務発明に係る外国における権利の承継や承継の対価について規定することは見送るべきという結論でございます。
なお、審議会の中で、それならば外国における権利については契約で行う必要が生じ、国内外における権利について手続を一本化しようとすると、同じ契約で統一してやるのが一番となるため、35条の規定の実益は乏しいのではないかというような指摘もあったわけでございます。しかし、この点については、我が国の特許、日本国特許につきましては、今まで御説明した使用者と従業者の間の利益調整という機能は残るわけでございますので、十分35条を残す意味があると考えております。したがいまして、直ちに35条の存在意義が失われるということはないと考えております。
続きまして、第6節が短期消滅時効についてでございます。これも結論としては、今回、短期消滅時効の規定は設けるべきではないという結論でございます。
現在、判例においては、民法の一般債権の消滅時効(10年)が適用されているということが一般的でございますけれども、それにより、使用者にとりましては、「相当の対価」の額が裁判による判決が確定するまで定まらないので、長期間、いかなる対価を支払えばよいのかが不透明な状況に置かれているという問題があるという指摘がございます。このため、短期消滅時効の規定を設けるべきという考え方があるわけですけれども、短期消滅時効を導入すると、在職中に訴訟を起こさなければならなくなるケースというものが多くなりまして、実質的には現状の雇用環境下では訴訟が起こせなくなってしまう。すなわち、裁判を受ける権利の実質的な侵害であるという批判を免れることはできないであろうということでございます。それから、短期消滅時効の規定が設けられているケースとして、賃金債権の2年というのがあるわけですけれども、これについては、労基法なり、賃金の支払いの確保に関する法律等によりまして、賃金が払われないことのない体制が厳しく追求されているということで、「相当の対価」とは、状況が違うのではないかということでございます。
さらに、消滅時効制度というのは、真の権利者の権利を失わせるという側面を持つことに加えまして、時間の経過による証拠の散逸からくる過去の事実の立証の困難性、それから権利の上に眠る者は保護すべきではないといったような時効制度を根拠づける理由から考えても、ことさら短期消滅時効を正当化する事由というのは、この職務発明制度については見出しがたいということで、結論としては、短期消滅時効の規定を設けるべきではないということでございます。
最後になりますが、この特許法の35条については、意匠法、それから実用新案法において準用されておいますが、これらについてどうするべきかということでございます。意匠、デザイナーについては雇用の流動性が非常に高いので、事後的な実績補償はなじまないというような御指摘がこの審議会の中でもございました。
3.の改正の方向性ということでございますけれども、今回のこの改正の考え方は、使用者、従業者がそれぞれの実態に応じて、その規程をお互いの話し合いによって定めることができるという制度でございますから、例えばこのデザイナー、あるいはデザインに限らず、非常に雇用流動性の高い業種等につきましては、場合によっては承継時に一括補償するような制度もお互いに話し合いの結果、そのような規程を定めた場合には、それは尊重されるということになりますので、今回の改正の下では、かなり柔軟な対応ができるということでございます。したがいまして、現行意匠法、実用新案法におきましても、従来どおり、この特許法35条を準用するということでよろしいのではないかというのが結論でございます。
非常に短時間、駆け足で御説明致しまして、説明が十分ではなかったかもしれませんが、私からの御説明は以上でございます。

委員長

どうもありがとうございました。
本日の委員会では、ただいま御説明いただきました報告書の案につきまして審議いただきたいと思います。
何か質問、御意見等がおありでしたらよろしくお願いいたしたいと思いますが、いかがでしょうか。
どうぞ。

委員

内容的にはここで議論されたことが大体誤解されないような形で、まあまとまりもそれなりにあって、苦心の跡が非常によく出ていると思います。それでもなおいろいろ言いたいことは少しあるのですけれども、どうしても引っかかるのは、やはり何となく企業が悪者であるというか、やり方が一方的だというところが、若干私は客観的に見て引っかかるような気がいたしておりまして、7ページから11ページにかけて「一方的」という言葉が4か所入っているわけでして、7ページの「第2に」というところから、「一方的に定めている」、「一方的に定めている」というふうに2回書いてありまして、ここは企業が定めている、使用者等が定めているということでいいのではないかという気がしております。
10ページも「一方的に定める」ということが2の「問題点」のところの「他方」の段落のところに書いてございまして、ここも「一方的」というのは特になくてもいいような気がいたします。11ページの5行目ぐらいに書いてある「一方的」というのは、これは理論的可能性のことを言っているわけでございまして、そういう表現もやむを得ないのかなというふうには思いますが、少し考えていただけないでしょうか。大変つまらない話ですけれども。

事務局

いいえ。今の御指摘ですけれども、勤務規則あるいは職務発明規程等を定めるのは使用者というのは当然のことです。ただし、従業者の意見を聞いて定める場合と、そうでない場合がありますので、従業者の意見を聞かないで定めるというニュアンスを出そうとすると、やはり「一方的」という言葉は必須ではないかということでございます。そういう意味で、ここの記載は残させていただきたいと思うのですが。

委員

済みません。特許庁の言い分はそうだと思いますけれども、我々から行きますと、このままだと意見を聞かないでというよりも、むしろ無視してというふうに取られる可能性の方が、圧倒的に蓋然性が強いのではないかと思います。

委員長

どうぞ。

委員

「一方的」というのは今、委員がおっしゃったとおりだと思います。
それから、ちょっと気になるのは、10ページのところの部分の「一方的」なのですけれども、「問題点」の下から2行目に出ているかと思います。これを読むと、何を一方的に定めたかというと、勤務規則を一方的に定めたということになりますが、勤務規則を広くとらえますと、一方的に定まっているわけではないですね。金額が一方的に決められたというのは庁の言い分であると思いますが、そうすると、勤務規則等で定められた契約等で規定されていればよいということになると勤務規則が一方的だと言うと、全部一方的になってしまうので、整合性がないものになってしまうと思います。

事務局

何が一方的で何が一方的ではないのかというのは、確かにちょっととらえ方によってニュアンスが非常に微妙に変わるところがあると思うのですけれども、勤務規則というのは基本的に、使用者が意見をその過程で聞くにしても、最終的には使用者がその責任でお決めになるのだろうと思うのです。もちろんこれはすべてがそうなっていると申し上げているわけではなくて、報告書の中でも「多くの場合」とか、そういう留保をつけながら述べているところもあります。しかし、基本的に先ほど委員の方からおっしゃられたように、理論的可能性として最終的に一方的に定めるということが、使用者側の権利として留保されているということと、それから現実にも、今ある勤務規則がどの程度そうした意見を聞いて、実質的にそれを反映する形で定められているかということの、まあ証明と言いますか、そういうものがあるのかなという気がいたしますけれども。
もちろんこれからどうするかという話は別だと思います。何らかの形で、契約、勤務規則を定めるにあたって従業者側の意見を聞いていただくということをお願いすれば、それによって契約などで定められた額で足りるというふうな法制度にしようということを考えているので、これからの話は別なのですけれども、現在の問題としてはいかがなものでしょうか。

委員

済みません、しつこいようですけれども、就業規則については労働協約の手続に従ってやっておりまして、その就業規則の中でいろいろな勤務規則等については、会社側が委任を受けてこれを決めることができるという制度になっていると思います。したがって、そういう規則に違反した場合には就業規則違反になるのだというところは、協定の中でお互いに合意された上でそういうシステムになっているはずでございますが、そういうところをして「一方的に」と言うのは、我々からすると非常に言い過ぎではないかという気がいたします。

事務局

おっしゃるように、就業規則の場合は、労働基準法で明確に、労働組合の意見を聞かなければいけないということが書かれていると思うのです。そこまでやったのだから、それはもうその就業規則は一方的ではないというふうにとらえることは可能なのかなという気もするのですけれども、いわゆる特許法35条に言う勤務規則、必ずしも就業規則という形態で定められていないかもしれない勤務規則についても、やはり同じことが言えるのだということなのですか。

事務局

補足しますと、特許法上は「就業規則」という言葉は使われておらず、「勤務規則」というより広い概念で書かれているので、必ずしも就業規則策定の手順によらないものもこの勤務規則には含まれています。「一方的」という言葉を用いている箇所には、「多くの場合」とか、そういうことが多いという言葉を併せて記載させていただいているのですけれども、そういった手順によらないケースがあるという趣旨で御理解いただきたいのですが。

委員

そういうケースがたまにあるのですよというふうにもしおっしゃっているのだとすれば、表現として適切ではないと私は思いますけれども。

委員長

どうぞ。

委員

「一方的」ということの意味は3つあると思うのですが、特許法35条では、「契約」と、それから「勤務規則」というふうに書き分けております。契約であれば、これは当然当事者間の合意ということになるわけですが、カテゴリーとしては、勤務規則は、これは使用者等が一方的に定めるという法的な性質を持っていますから、何らかの価値判断というか、イデオロギー的な意味が入っているわけではありません。技術的な意味で「一方的に」という語を用いることは、特段問題はないというように私は思います。
次に、先ほどおっしゃった実際にどうなのか、現状として実際にどうなのかという場合ですが、恐らく3つあろうかと思います。まず、労働協約に基本規定があって、それに基づいて就業規則で定める、あるいはさらに就業規則に基づいて勤務規則で発明規定や対価を定めるというパターンがあろうかと思います。それから、全く労働協約にベースのない勤務規則の定め方もあります。最後の場合については、当然ながら実情としても一方的ということになります。それから、労働協約に基づいての委任を受けて就業規則または勤務規則で定めるという場合も、これは確かに基本的には労働組合との合意がベースにあるわけですけれども、委任を受けて発明規定を設け、対価を定めているのは使用者ですから、その委任を受けて定めているという意味では一方的であるわけです。その意味でこの「一方的」という用語を使うことは、私は問題がないというふうに思います。事務局案のとおりで結構だと思います。

委員

よろしいですか。

委員長

どうぞ。

委員

何点かあるのですが、まず7ページの一番下に書いてある「一方的」というのは、これは現行法の問題の表現だと思うのですが、これで「基本的な問題点は改善されていない」というのは、ちょっと言い過ぎのように私は思いますが、いかがでしょうか。「一方的に定めるという基本的な問題点は改善されていない」と、現在、これでやること自体が違法なのでしょうかというのが第1点です。
それから、11ページ、一番下のパラグラフですけれども、3行目、「一部の委員より提出された」ということで、これは私のことを言っているのだろうと思うのですけれども、最後に、「妥当であるとの意見でまとまった」と記載されているのですが、どういうふうにまとまったのでしょうか。私は、意見は変えていないつもりなのですけれども。ずっと、対価そのものを審査の対象から外していただきたいということを再三申し上げてきたのですが、御理解いただいていないわけですね。今でもその考えは変わっていないわけです。ですから、この「まとまった」ということに対しては、反対の意を表しておきたいと思います。これからもチャンスがありましたら、そういう立場で意見を述べさせていただきたいということには変わっておりません。

事務局

今の御指摘の最初の点ですけれども、ここでは違法性を言っているわけではなくて、従業者の納得度が得られないような、一方的なやり方で規程を定めるという点については、改善がされていないということでございます。

委員

「問題点」というのは何なのでしょうか。

事務局

従業者にとっての納得を得られるような制度にはまだなっていないということです。それから、2点目でございますけれども、ここは実際に幾つか御意見をいただきましたけれども、最終的にこの小委員会全体としてはこの方向で意見がまとまったということです。完全に一致したというわけではなく、あえて「まとまった」という表現にさせていただいたわけでございます。

委員長

どうぞ。

委員

先ほどから7ページが出ているので、最後の3行について特に2行目のところ、この「一方的」という言葉ではなく「上限を撤廃する企業が続出していることは望ましい方向であるが」と書いてあります。しかし、決して我々は望ましい方向だとは思っておりません。できれば、この4行は、あってもなくても同じではないかと思いますので、削除いただけるとありがたいのです。これだと、高い方がより望ましいのだというように意見が出たように思われてしまう、誤解を与えられてしまうと思います。

事務局

その点につきましては、こちらで少し検討させてください。

委員長

ほかにございませんか。
どうぞ

委員

12ページの「第四」というところに書かれている内容なのですけれども、それの後ろから3行目、「包括ライセンス契約交渉において中核をなした」云々ということで、「従業員等からの求めに応じて行うような仕組みも許容すべきこと」と書いていただいておりまして、多分これは企業側のことを考えていただいて書いていただいた内容なのかなという気もするのですけれども、実際、私の経験から行くと、分野ごとにザクッとした契約をしたり、その契約というのは交渉事なので、いろいろな、どうとでもとれるような説明の仕方もまた契約文書に載っているケースもあるのですね。あるいは、契約というのはもともと厳密な機密条項みたいなものが課せられていますので、内容によってはすべて個々の研究者に説明できないようなケースもやはりございまして、だからそういう意味から行くと、仕組みはわかるのですけれども、アカウンタビリティというのですか、具体的に研究者の方からもっと説明しろと言われたときに、説明できないところもやはりございまして、できればこの企業側のために考えていただいた文章なのですけれども、反対をとるとちょっと怖いような内容にもなっていますので、ここの3行は削除いただきたいという気がしております。

事務局

むしろ、第11回、第12回小委員会において、個々の発明について評価することは難しいというような御意見があったため、このようなアイデアが出されたというふうに理解しております。逆にこの記載を削除してしまうと、個別の発明について説明しなければいけないというニュアンスだけが残ってしまうのではないかと思うので、こういった多様な対応の仕方があるのだという記載は、むしろ残しておいた方がよろしいのではないでしょうか。この点はいかがでしょうか。

委員

その多様な仕方というのが、今言ったように多様性が企業はいろいろあるわけであって、すごくこれは具体的に書いていただいている文章なのですけれども、ちょっと上に記載された内容からすると、ここの文章だけ急に具体的になってきていまして、ここの内容をやはり残されてしまうと、取り方が幾らでも出てきてしまいますので、多様性を認めていただくのであれば、消していただきたいという意見なのですけれども。

事務局

よろしいですか。

委員長

どうぞ。

事務局

産業界からそのような御意見があったのですが、ほかの産業界委員の方は、この記載を削除してもよろしいでしょうか。この点に関し、我々はこだわりませんが。

委員

ほかにも幾つかあるのですが。この部分の文章を読んでみますと、この前の所にも「許容されるべきであり」という非常に大きく解釈できる書き方になっています。この最後の部分だけが、「求めに応じて行うような仕組みも許容すべきこと、等である」、これは何を言い表したいのかよくわからない。つまり、策定しなさいとリコメンドしているのか、策定する必要がないと言い表しているのか、どうも非常に曖昧な表現になっているとすごく感じます。企業における実態から判断しますと、特にこれを残す必要はない。記述するとすれば、中核をなしていた発明についてきちっとすべきであると、いうふうに表現した方が良いと思います。
それからもう一つ、11ページの「従業者等又は従業者等を正当に代表する者の」というところのパラグラフですが、例えば、勤務規則等を策定していくときに、「従業者等又は従業者等を正当に代表する者」とは誰なのか、これがどうもよく理解できない。「従業者等又は従業者等を正当に代表する者」というのは組合であってもいいのかどうか、どうも曖昧だと思います。
更に、「意見を反映しているか否か等」についてです。例えば従業者等を正当に代表するものが組合だとすれば、その組合の意見を反映していればいいのか、あるいは合意する必要があるのか、これもまたよく理解出来ない。意見を聞けばそれでいいとすれば、先ほどの一方的に決めても一向に構わないのではないかと思います。以上のように表現が非常に曖昧になってしまっていると思いますが、いかがでしょうか。

委員長

いかがですか。

事務局

後者の点なのですけれども、ここで意見を反映するという、まず「反映」という言葉そのものはむしろ産業界側からの御要望もあって入れた言葉なのですけれども、私どもの意識としては「合意」というところまでは求めていないつもりです。したがって、最終的に契約ないしそれと同等のものになっているということまでは考えておりませんし、「協議」という言葉も使っていますけれども、それは最終的にそれによって完全に両者の意思が合致したというところまでは、ここでは必要としていないというふうに考えております。それから、「正当に代表する者」というのは組合の場合もあると思いますし、もちろん組合ではない場合もあるだろうということで、それは企業の実態に応じて様々な形があるというふうに思います。それについて、少なくとも特許法の世界で、どういうふうな交渉を必ずすべきだというような、いわゆる労働法的な介入というのは必ずしもすべきではないのではないか。それは、むしろ企業、使用者のそれぞれの独自性、そういうものにお委ねした方がいいのではないかというふうに私どもとしては考えているわけでございます。だから、必ずこれをしなさい、あるいは逆に言うと、これさえすればいいのだということを一義的に明示することは非常に難しいと思っております。

委員

そうすると、不満分子というのは必ずいるわけで、合意性、不合理性の判断を例えば司法に仰いだ時、どこにその合意性、不合理性の判断基準を置くのでしょうか。例えば、組合の意見を反映していればよい。いや、合意していなければためだとなります。ですから、これもまた非常に曖昧となり、実態として非常に困る状況に陥ります。曖昧な表現を用いて自由度を確保していただいているということはよく理解できますが、実際に活動いていくときには、どういうことをやればセーフで、どういうことをやればだめだというところが明確でないと、今となんらも変わらなくなってしまうのではないでしょうか。

事務局

今と変わらないという点については、基本的に、まずやはりお互いの合意、今、「合意」という言葉を使ってしまいましたけれども、納得を得る、そういうプロセスの中で勤務規則などが形成されていく。それにまずお委ねして、その後、その不合理性というのが明らかに証明された場合だけ、相当対価というところに行くということなので、現在、全てのケースにおいて裁判所がその相当の対価というものを苦労して算定をしている、そういう姿からは大きく解放されるだろうというふうに私は思っております。それで、不合理性ということを判断するときに、いとも簡単に不合理ということになってしまったのでは、今とやっていることは余り変わらないのではないかというのはおっしゃるとおりだと思います。ただ、実際問題、そういう取り決めがきちんと、例えば手続などを履践して行われるような場合においても、そういうことを考慮しないで、にわかに不合理だという判断がなされることは、そうそうあることではないだろうというふうには思っております。ただ、これをさらに進めて、では判断の基準になるような要件をすべて、例えば法律上こまかく羅列をするとかということは非常に困難で、具体的に例えば労働組合の中に、例えば従業者の研究開発に従事するような方が、例えばどれぐらいの比率を占めていればその労働組合の意見を聞けば足りるのか、あるいはそれ以外の方の意見をどういうふうにして聴取すればいいのかというようなことを、例えば法律上明記するということは難しいし、仮にできたとしても運用上も非常に窮屈なものになってしまうのではないかというふうに思っております。
ただ、私どもの意識としては、具体的な協議なりのなされ方そのものは非常に幅のあるものとして受け止めている。したがって、例えば労働組合が必ずしも研究者の方の総意を反映していないというような場合でありましたら、その研究開発に従事する、あるいは従事する可能性のある皆さんに、例えばインターネット等で周知、例えばこういうふうに規則を改正したいと思うがどうだということでそれを周知をして、それによって具体的な意見が出てくる場合もありましょうし、そういうことがあると、それについて、あとは意見に応じて個別に協議をして、その結果、最終的にはその企業側でお決めになるということで、手続としては、多分足りているということにはなると思います。

委員

今、結局この問題の解決に向けて手続重視の方向に向かっています。私は非常にいいことだと思いますが、大体問題を起こすのは不平不満分子であるわけです。ですから、最低限これを満たしていればもういいという明確な線がない限り、どういうような規則をつくっても、必ず不合理性の話というのは出てきてしまうと思いますので、ですから、今と余り大きく変わらないのではないでしょうかと言っているのです。

事務局

ですから、その不合理性の議論が出てきたときに、企業側が被告として必ず、例えば敗訴するのではないかというような形に受け止められているのかなと思うのですけれども、私どもはそういうふうには理解をしておりません。したがって、訴えれば何がしかのものが取れるという構造ではなくて、請求棄却になる場合もかなりの程度出てくるだろう。ただ、訴えることそのものをできなくするとか、あるいはそういう機会を失わせるというような法制度というのは、私どもとしても取り得ないということだと思っております。
どういう制度にしても、確かに不平、不満をお持ちの方は何らかの形で訴訟に打って出られるということは当然あると思いますし、そのときはやはりまず第1には相当の対価をよこせ、それがもし無理だったら、自分の発明は非常に低く評価されているので、高く評価し直してお金をくださいという請求になると思うのですね。ただ、それは対価を支払うための手続を基本的にきちんと履践していて、その相手方の言い分も聞いているということであれば、それで相手方の請求がそのまま認容されるということは、そうそうは行われないだろうというふうに理解しております。

委員

ちょっとよろしいですか。

委員長

はい、どうぞ。

委員

先ほど意見が出ました12ページの包括ライセンスの件ですが、これは表現そのものが確かにわかりづらいので、私も修正していだきたいという気持ちはあるのです。ただ、基本的に発明個々の対価を決めなければいけないということに対して産業界の方は、先ほどおっしゃっている方は賛成なのでしょうか。私はできないと思っているのですね。ですから、包括クロスライセンスの個々の対象権利に対して対価を決めなければいけないと言われたときに、本当にできるのでしょうか。それの救済を考えていただかないと、運用が難しいのではないかと私は思っているのですね。
ここで言っている「中核をなしていなかった」というのは、交渉のときに中核であったものは対価を決めなさい、それ以外は一律でというようなことも運用上していいのではないかという趣旨のように私は理解しているのですが、そうであるならば、非常に便利だなという感じもするのですね。
ただ問題は、この「中核をなした」というのは交渉時に中核をなしたものだけで本当にいいのだろうか。日立判決でも2説あって、契約の相手方が実施した効果を見るべきだとたしか原告は主張していましたね。どういう視点で取るかによっては、交渉のときにチャンピオンでなかったものが、後で見るとすごく相手方が効果を持つ特許になっていたということも随分あるわけですね。そういうときに、個々の対価を決める、チャンピオンだけは先に決めなさいと言われたときに、後でチャンピオンになってしまったもの、こういったものは自社では余りチャンピオンではないのだけれども、相手が使ってチャンピオンになったというのは非常にやりにくいと思うのですが、その辺の工夫も必要ではないかと私は思いますが。

事務局

今の後者の点ですが、後で中核をなすような発明になったということですけれども、当然ライセンス時にライセンスに対するライセンス料というのが決まるわけであって、その後、相手方で価値が変わっても、別にライセンス料が変わるわけではないですから、対価の計算においては、ライセンス時点で中核であったかということを本来問題とすべきであって、ライセンス時においてのコアだからこういう評価をした結果、あなたに幾らということを決めておけばいいのではないかと思いますけれども。

委員

それはだれから見て中核なのでしょうか。

事務局

ライセンスをする両当事者ですね。

委員

両当事者って、クロスライセンスする側は、価値の高いものは中核には持ってきませんけれども、もらう側は。後で中核になるだけであって、交渉のときは中核にしませんね。ですから、交渉のときに中核というのは必ずしも正しくないと私は思っているのです。

委員長

どうぞ。

委員

今、委員の言ったことは正しくて、そういうケースが具体的にはいろいろ起こり得るのです。あとは、私が先ほど言ったのは、結局分野、例えば白物家電分野でとか、そんな契約もあるわけですね。そのときに、じゃあ部品が入るのか、入らないのかとか、やはりお互いの契約現場でやることなので、結局、グレーゾーンというのはものすごくあるわけです。それをだからある発明者に急に、この分野が入っている、入っていないというのを言われても非常に困るケースがあるのです。では、その契約は無効なのか、発明者に言われて無効だったのかというと、契約はもう相手の会社とやっているわけですから、ですからこの辺はわかる範囲を私はやってもいいと思うのですけれども、わからない範囲はどうしてもできない。グレーゾーンがどうして生じてきてしまっているので、余り仕組みもとか言われてしまうと実際にできない部分もありますので、これが義務化されてしまうような形は私としてはよしていただきたくて、それは企業側の裁量に任せていただきたい。当然、発明者の代表ともこの辺は交渉するわけであって、こういう文章だから残さないでいただきたいということを先ほど申し上げたのですけれども。

委員長

どうぞ。

委員

今の同じページなのですけれども、12ページの上の4行というのは非常にわかりにくい文章になっていると思います。初めの2行の「対価の決定の際における発明価値の評価の単なる違いが存在するに過ぎない場合には」云々というのは、例えば手続は同じだけれども、利益の50%を対価と考えるか、20%を対価と考えるかというのは、そういう数字の違いについては介入しないということをこの上の2行で言っているように思うのですが、その下に書いてある「しかし、債務不履行として、契約、勤務規則等に基づき本来支払うべきであった対価の支払いが認められる」というのは、「本来支払うべき」というのは一体どこでどうやって計算するのでしょうか。つまり、上の中の、20か50かというのはかなり恣意的に、そこに立ち入らないと言っておきながら、本来支払うべきであった対価というのは一方で決定しなければだめなのですね。私は少し矛盾しているように思いますが。

事務局

ちょっと表現がよくないのかもしれませんけれども、基本的に前段部分で言っているのは、例えば発明が完成したときに、当然、発明に対して、基準がある場合、その基準を当てはめるということが行われる。当然、そのときにこの発明というのはどの程度の経済的価値を持つかというグレード付けをするのだろうと思うのです。非常に簡単に言うと、AランクだとかCランクみたいなものがあって、当然、従業者側はAランクの大発明だと主張する。それに対して、いやこれはいいとこBランク、普通はCランクだろうということで、例えば、そういうところの評価の食い違いというのは常に起こり得ることだろうと思うのですね。そこが食い違ったからといって、直ちに、では対価の決定全体が不合理である、だから裁判所で相当の対価だ、ということになってはたまらないだろうということで、前段部分というのはそういう発明の経済的価値の評価について、食い違いがあったとしてもそれだけで直ちに不合理だなどということではありませんよということを入念に念押しをしている表現です。
ただ、そうは言っても、やはり大発明で、それについて何らかの見落としがあったり、あるいはどう見てもこれは対価として設定の仕方がおかしいのではないかという場合はあるだろう。そういう場合は、例えばCランクではなくて、やはりAランクだったねということで、その部分は債務不履行ということになるでしょうから、その差額相当分を、それに遅延損害金か何かをつけてお払いしなければならなくなるということはあるのではないかというのが後半部分の記述です。そういう趣旨です。

委員

文章自体が非常にわかりくいので、もう少し手を加えていただければと思います。

事務局

はい。

委員長

どうぞ。

委員

先ほど来出ていますこの12ページの「第四に」というところで、包括ライセンス契約云々という、こう書かれるのはという件についてですけれども、恐らくこの「第四に」というところで縷々書かれておりますけれども、どういう発想かと私なりに考えますと、従業者側から、本来はもっと高い対価でなければおかしいのではないかというような主張が出てきたときに、いや、そうではなくて、この程度で本当は合理的なのだよということをどう説明するか、どうやれば納得が得られるか。その納得を得るための方法というのは1つに限られるものではなくて、いろいろな形のものがあり得るだろう。そのときに、例えばもし入れるならば、この包括ライセンス契約交渉において、いや実は中核をなしていなかったのだ。ですから、この発明についての対価はこの程度で少なくとも不合理とは言えないのだと、こういう形でもし説明できるのであれば、そういう方法は認めてもいいでしょう。そういう御趣旨でここは書かれているのではないか。つまり、こうでないといといけないというようなことをおっしゃっているのではなくて、どうすればもっと高いはずだという主張に対して納得が得られるか、その方法としていろいろ例示されておられるわけで、こういう説明が有効な場合もあるということは多分お認めになられる方がほとんどではないかと思いますので、そういう性格の表現だということを踏まえておれば、大丈夫ではないのかなという気がして先ほど来伺っておりました。
ついでにもう一点だけ述べさせていただきますと、手続重視と言うけれども、こういうような基準の立て方では、こういうことをしていれば必ず有効になるという形になっていないので、従来と変わらないのではないかというような御指摘だったのですが、その限りではそうなのかもしれませんけれども、今のルール、とりわけ最高裁の判決を前提にしたルールですと、どういう判断が行われるかと言いますと、不当だという主張が行われれば、この対価の額が相当なのか相当でないのかという、額の相当性の判断に直ちに移行する。それに対して、きょうお示しになられている案というのは、そうではなくて、その額を定める基準、そしてまたそれに従ってこの発明について対価を決める際にどういう手続、手順を踏んだのか、それが適正なものであったかどうかということをまずは判断する。それとの相関において内容というのが出てくる程度であって、そういう意味では不当だというときの後の司法審査の判断の仕方が大きく変わってくる。その意味で、今と同じだというわけでは絶対にあり得ない。そういう御趣旨で出されているものですので、恐らく御指摘されている方々もそれは理解しておられるだろうと思うのですね。
ただ、こうでないと、これをやっていれば必ず有効になるという基準が出ていないという御不満をお持ちだというのはよくわかるわけですけれども、仮にそういう基準を出そうとしますと非常にハードなものらならざるを得なくなるというのがどこかに書いてあって、そうするとかえって硬直化してしまってうまくいかないのではないか。やはりそれぞれの企業ごとにいろいろな状況の違いがあるわけでして、共通してハードなルールをつくってしまうと、かえってうまくいかなくなる。ですから、この程度の形でルールは設定して、あとはそれぞれの条件に応じた形で適正な運用をしていただく、そういうふうに理解してよいのではないかと思うのです。

委員

よろしいでしょうか。

委員長

どうぞ。

委員

今お話しいただいた点で、説明を聞いているとそうだなとも思うのですが、そもそもこれを直していただきたいという基本が、予見可能性を高めてほしいということがあったのですね。今のこの仕組みで行きますと、やはり企業側からすると予見性などというのは出てこないのですね。例えば、今の御説明だと、学者の立場からはそういう理屈が出るのだと思うのですが、私は一方では裁判官が、今でも対価相当であると額をピシッと決めていますが、あれの理屈はほとんどないのですね。それと同じような意味で、これは不合理である。手続が不合理である、それから対価が不合理であると決めれば、強行規定にスクッと行くわけですね。こういう可能性を十分秘めているのに、予見可能性なんてとても取れないのですよ。ですから、行かないようにする方法はないのでしょうかということで産業界はお願いしているのですが、前座があるよという御説明だけなのですね。前座は確かにつくっていただいたのですが、裁判官の裁量で不合理だと言われればすぐ今と同じ強行規定にそのままスッと行ってしまうわけですね。これで予見可能性が高まったのでしょうかという、そこが一番の疑問なのです。

委員長

どうぞ。

委員

さきほど来委員の方々のおっしゃった点も、私は労働法専攻なものですから、労働法の考え方からするとよく理解できるのです。結局、どういうことをすれば企業は従業員から文句を言われないか、あるいは一定の措置が適法とされるかということは、確かに一定の客観的な明確な基準が必要でしょうし、それによって予見可能性が高まるということは確かにあると思うのですね。したがって、たとえば厚生労働省的な発想から言いますと、こういう新しい規定をつくるとガイドラインを出すことが多いのです。ある措置が適法であるためにはこういうことが必要ですよというガイドラインをつくる。そうすると、企業にとっての予見可能性は高まるわけですね。ですから、当然今回もこの報告書を踏まえて、本則を規定して、そしてガイドラインでこういうことをすればこの手続プロセスが履行されたということを明らかにする政策のオプション、選択肢はあるわけですね。
問題は、そのメリットとデメリットで、メリットとしては予見可能性がありますけれども、デメリットは先ほど来お話が出ているとおりで、1つは、これは職務発明ですから、当然雇用関係とも関係しますけれども、やはり特許法の問題ですから、そこでどこまで労使関係なり雇用関係まで踏み込んだ基準をつくれるかというのはやはりかなり難しいのではないかという点が1点です。
それともう一点は、そのガイドラインをつくると、それだけ非常に厳しい固いものになって、逆に企業の行動を縛る可能性が大いにあります。例えば、先ほどおっしゃっていた従業者を正当に代表するもの、これは労働組合でなければいけないという基準を仮にガイドラインがつくってしまうと、これは労働組合と団体交渉をしなければいけない。団体交渉をする際には、労組法7条2号というのがありますから、誠実交渉しなければいけない。これは徹底して交渉しなければいけません。そうしない限り、不当労働行為で、労働委員会で救済命令が出る。これではいつの間にか特許法の問題が労組法の問題になってしまうわけです。果たしてそういう政策が妥当なのかどうか。恐らく、今回の案はそういう2つの選択肢を踏まえられた上で、メリット、デメリットを比較された上で、そして非常にハードな企業の行動を縛るものよりは、まずこういう包括的なルール、基準というのでしょうか、それを決めておこうという、そういうお考えだと思うのです。それを前提に、恐らく今後、この報告書を踏まえてなり、あるいは新しい改正法というものができてきますと、企業実務の中で一定のルールができ上がってくると思うのです。やはり、そういうルールが自主的につくられることを期待する方が特許法のスタンスとしては、職務発明の政策のスタンスとしては妥当ではないかというふうに私は考えているのですけれども、その点いかがでしょうか。事務局もそういうお考えではないかと思ったのですけれども。

事務局

まさに今、委員がおっしゃったように、我々はそのように考えておりまして、基本的には、余り厳密に規定することは得策ではないというふうに考えています。それから、いわゆるガイドラインと呼ばれるようなもの、若干の拘束力があると言いますか、そのような強いガイドラインをつくる予定はありません。ただし、今回のこの新しい制度が成立した場合、新しい制度の下で対価の決定が不合理とされないためにはどうしたらよいかについて、産業界あるいは研究者の皆様から質問が出てくるものと思われますので、我々としては、最低限この場合にはどう考えても不合理ですよといった事例を今後検討していって、新しい制度を皆様にご理解いただく上で、参考になるようなものをつくっていきたいと考えています。

委員長

どうぞ。

委員

済みません。最後、これは残すのか残さないのかよくわからないのですけれども、例えばクロスライセンスとか、そういうものも全部含まれているのですよね。包括ライセンスというのは実務的にはお金をもらうものもあれば、分野でクロスライセンスをするものもあるわけですね。クロスライセンスした人間にとっても、企業としては報奨しているわけですね。それの実態は多分御理解いただいているとは思うのですけれども、だからそういうところに対して、先ほどの話を聞いていると、何か契約、すごく明確になっていないといけないような、クロスライセンスというのはもっと実務的にはザクッとした契約を結ぶことが多いわけですね、お互いにお金は払いませから。だから、さっきの議論を聞いていると、契約の内容自体が悪いという話のようにも聞こえてきてしまうのですけれどもね、細かく決めていない。そういうことにはならないのですか、それは。

事務局

ここの包括ライセンスについては、まさに先ほど委員から御紹介があったように、いろいろな手続が許容されるのですよという1つの例示として挙げさせていただいているわけです。ただ、それではこれ以外にこういうケースはどうですかと言うのを列挙していきますと、今度はそれこそガイドライン的になってしまいます。また、1つ1つ網羅的に書き込もうと思っても書き切れないと思うのです。そういう意味で、ここの趣旨をそのように1つの例示としてとらえていただければ良いと思います。

委員

例示だからそうなのですよ。

事務局

いえ、こういう仕組みも許容すべきということですから、別にこういう仕組みを取りなさいということではなく、こういう仕組みをつくったときは、それも許容してもいいのではないですかということを書いているに過ぎません。そういう意味で、改めてもう一度確認させていただきたいと思うのですけれども、今数人の委員からこの部分について御意見をいただきましたけれども、今までの議論を踏まえて、あくまでここは削除した方がいいというお考えなのか、それとも、やはりここは残した方がいいのではないかというお考えなのかについて、皆様の御意見を聞いた上で決めたいと思います。事務局としては、先ほど言いましたように、特にこの記載についてはこだわるものではございません。意図は先ほど御説明したとおりでございます。

委員長

ほかに何か御意見等ございませんか。
どうぞ。

委員

3点、2点御質問と1点は補足ですが、最初に補足ですけれども、先ほどすでに事務局がおっしゃいましたけれども、余り固いルールをガイドラインとして定めるのは妥当ではないと私も言いましたし、おっしゃるとおりだと思いますが、同時に、おっしゃったとおり、さりはさりとて、企業の行動指針が全くないというのも困りますので、何らかの形で解説というのでしょうか、そういうものをぜひ特許庁でおやりいただければと思います。
それから質問2点ですが、11ページの「第三に」から始まる3行ですけれども、この内容はよく理解できますが、確認の質問です。前回お示しいただいたイメージで言いますと、相当の対価という「相当性」という概念があって、そして一方、手続と内容からする合理性を判断する。そのとおりになっていると思うのですが、この文章によりますと、手続面と内容面を含む総合評価に、手続を中心にして、そして不合理であるか否かについて判断される。仮に不合理であるということになると、相当な対価という原則にいわば戻ると言いますか、そちらの請求権が復活するというような理解でいいのかどうかということを確認したいと思います。
第2点ですけれども、以前から議論がありましたとおり、このプロセスにも制度設計と言いますか、基準の策定と、それから当てはめという2段階があるわけなのですけれども、私個人の意見としては、その少し後の「この点に関し」の直前の4行ですけれども、基準の策定についての協議の状況、一方はその対価の決定に当たっては説明の有無、程度という書き分けがされていて、私の印象では、やや策定に重点が置かれているような印象があります。しかし、1点御理解いただきたいのは、恐らく基準を策定した後に、企業に入社してくる発明者にとっては、もはや基準を策定することに関与する機会はないわけですね。あとは当てはめに関与するということになってきます。したがって、その当てはめも非常に重要だと思います。そこで、「第三に」から始まるパラグラフの最後の行にある「機会の付与の有無等」のこの「等」なのですが、そこには例えば異議を述べる機会の付与、あるいは、重要な、それこそ中核的な発明については協議といったようなものも含まれてくるという御趣旨なのかどうか、その2点を伺いたいと思います。

事務局

第1点目の御質問については、おっしゃるとおりの御理解で結構だと思います。
第2点目の御質問ですけれども、お答えが非常に難しいのですが、私どもとして基準の策定と当てはめ、ある意味では双方重要な手続だろうと思っております。ただ、基準というのはやはりできてしまいますと、ある意味ではそれが非常に強い拘束を持つこともあるので、ここでは書きぶりとしては、やや基準の策定というところに手厚いような表現ぶりになっているようにも書いているのですけれども、双方重要で、特にあらかじめ定める基準はその中でも特に重要というニュアンスで受け取っていただければいいのかなと思っております。確かにおっしゃるとおり、当てはめしか機会がないという方が新入社員等についておられるということは事実で、もちろん当てはめについて軽視をしているというわけでは全くないつもりでおります。ただ「等」という言葉の中に何が入るのかということですけれども、中核的なものについては協議をするということももちろん入るとは思いますけれども、従業者に対して説明をし、それから異議を述べる機会を与えるということ、それ以外にも、もちろん対価の決定に当たって様々なプロセスが取られる。あるいは、例えば異議を述べる機会を付与する場合のその付与の仕方というのもさまざまな形態があるのかなということで、その「等」という言葉をここでは入れているということでございます。

委員長

よろしいですか。

委員

はい。

委員

よろしいですか。

委員長

どうぞ。

委員

先ほどから委員の方で御指摘の包括ライセンス契約交渉云々のことですけれども、今のままの表現ですと、例えばあなたの発明はCランクの発明ですよという通知をするときに、必ずそれは中核でなかったですからというような説明をしなさいというふうに取られなくもないのですね。で、恐らくおっしゃりたいことは、まずCランクの発明ということの通知をした後で、仮に異議申し立てがあったときには、そういう説明をすることも可能ですよと、恐らくその程度のことだろうと思うのですね。そういう趣旨がはっきりすればいいのかなという気はいたします。
あとついでに質問を2つばかりお願いします。この対価のルールを就業規則に書き込む場合なのですが、就業規則は労働基準法でルールが決められているわけですけれども、就業規則のうちの対価の部分はやはり労働基準法の手続に従っていればOKなのか、それともそれ以上のものが要求されるのか、それ以下なのか、そこがよくわからないので、特許庁の方のお考えを確認したいということが1点。
あとちょっと飛びますけれども、第7節の方で、デザイナーさんは、「発明者と比べて雇用の流動性が高いので、事後的な実績補償になじまないとの指摘がある」ということを書かれてありますが、最近は発明者の流動性も結構高まっておると考えますので、発明の場合にも、事後的な実績補償になじまなくて、それよりはワンタイムの支払いで済ませたいという要求を持つ会社も多いと思うのですね。第7節で、意匠の文脈だけでこういうことをお書きいただくと、発明の場合にはこの7節の考え方の適用がないのではないか、むしろ実績補償すべきではないかというふうに取れなくもないので、表現を工夫していただければなと思っております。
以上2点です。就業規則との関係と、それからデザイナー、意匠と発明の関係です。

事務局

前者の御質問なのですけれども、基本的に就業規則と勤務規則というのは法的な意味合いにおいて一応は別物だろうというふうに理解をしております。したがって、就業規則としてもちろん適式に成立したものがあって、その中で職務発明についての規定もあるという場合は、当然その労働組合ときちっと手続を踏まれた上での定めになっているということなのだと思うのですけれども、実際問題として、その労働組合が特許法35条にいう従業者等の意見を必ずしも反映しているわけでもないというふうな場合が仮にあれば、それがここで言うところの勤務規則を定めるに当たっての合理的な手続を踏んだとは言えないこともあるだろうとは思うのです。逆に言うと、就業規則だからそれだけで勤務規則であるということもないし、勤務規則としてきちんとやったから、逆に就業規則の一部たり得るものなのだというようなことも言えないだろうというふうに思っております。もちろん就業規則は特許法35条の勤務規則としての効力を持たないとしてもそのことだけで無効になるということは全くないと思いますが、ただ勤務規則としてその効力を、特許法の世界、特許法35条の世界で勤務規則としての効力を持つためには特許法で定めるところの手続なり、あるいはそういう要件を履践していただくということはあるかというふうに思っております。

事務局

後段の御意見についてですけれども、12ページの第4のところに使用者と従業者の実態はさまざまであると書いているところ、それから4行目に、個々の実態に合わせて柔軟に決定することが許容されるべきと書いているところで読んでいただければと思うのです。なぜかというと、例えば雇用流動性が高い業種なり職種については、承継時に一括して払うことも許容されると書くと、逆に企業によってはそういったところでも後まで追いかけて実績補償を支払っている企業もあるので、その承継時に払った方がいいというふうに理解されるのもちょっと誤解を生じるかなということで、非常に包括的に実態に合わせて柔軟にできますよということで書かせていただいているのです。そういった意味では、今日の議事録も残りますので、その意図をここでお読みいただければ、当然そういうものも含まれるし、それから後ほど実績補償で、退職後も追いかけて支払うのも当然許容されますし、そこはまさに使用者、従業者の間でどういう規定の仕方がいいかというのをお決めいただければいいということで、御理解いただければと思います。

委員長

どうぞ。

委員

先ほどから問題になっている12ページの第4の今のところと関係するところです。今まで何度も個別ではなく、包括的な交渉、包括的なライセンス契約等がありますよというような話が出ておりましたし、上の方に書いてあるものが個別承継を中心に書かれていますので、個別ではなくてもいいですよということを言うためには、やはりあった方が企業のためになるのではないかと思います。ただ、後の最後のところの2行が余りにも具体的で、それからこれを読んでいくときにちょっと読みにくい、わかりにくいというところがあるのだと思うのですね。しかし、許容すべきこと等であるというのですからそんなに心配しなくてもいいと思うのですが、ここの書き方を前の個別承継と同じように、包括ライセンスの場合など、個別的に決めない場合でもその発明の内容とか、それからライセンス契約の態様とか、そういうものを考慮して実質的に評価されるべきであるというふうに書いたらば、つまり少し抽象的に書くということになれば、プラスがあってもマイナスにならないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

事務局

皆さんはいかがでしょうか。

委員

おっしゃるとおりだと思います。ここを余り神経質に考えるといろいろなことが起きてきてしまう。要するに、積極的に言うことはなくて、求められたら答えればいいのだよというのが趣旨だろうと思いますので、それは非常にありがたいことであるというふうに私は思います。
それから、もう一つちょっと気になりましたのは、この規定の合理性を担保するために、どういう手続を取ればいいかというところがやはり何となく気になるのですね。常に基準法に基づいた協約交渉みたいなことをしていかなければいけないのかどうかとか、その辺がかなり心配になるところでございますので、先ほど委員の方からそういう解説書みたいなものという話がありましたので、ぜひお願いしたいと思います。

委員長

どうぞ。

委員

2点ございます。1点は先ほど出た当てはめの問題ですが、これは私の理解では、以前から御説明いただいているように、強行規定には行かない。規定の範囲内で処理されるべきと、こういう理解でよろしいのでしょうか。

事務局

そのとおりでございます。12ページの上から2行目、「決定全体が不合理であると判断されるべきではない」、不合理であると判断されるべきではないということ、不合理でないということは、強行規定に行かないということです。

委員

わかりました。
それからもう一つですが、先ほどの包括ライセンスの件は、表現はともかく、内容として個々の対価を決めなければいかんというものではないようにしていただきたいと私は思うのですね。事情はいろいろあるので、何らかの形で対価を払うようにしてあればいいのだろうと思いますので、「個々」というのに余り、ここで「個別承継の」と言っているのは個々の意味ではなくて、事後の契約とか、個別契約も余り信用していないで、従業者が弱い立場だから契約もだめよというような感覚で表現されているのですね。この表現が余りにも当事者というか、従業者は交渉能力がないように表現しているのはちょっとおかしいのではないかと私は思うのですが、一人前の人間が交渉能力がないと決めつけられるのも失礼だろうという感じもするのです。
なぜそう申し上げるかと言うと、一方では外国の権利について、契約でやればいいではないですかとおっしゃっているのですが、この意味の契約というのは、交渉能力のない人とまた契約すればいいとおっしゃっているのですね。ですから、何かその辺が矛盾しているので、余り契約能力がない、ないということを言わなくてもいいのではないか。要は、余りにも契約するときに不合理な契約をしなければいいのだと私は思うので、契約能力がないということを強調するのはどうかということと、使用者と従業者の立場の違いということを強調し過ぎているので、立場の違うというのは厳然として存在しているので、それを消すことは絶対にできない。そういう前提でどういう契約をするか、これは世界中みんな同じだと思うのですね。日本だけなぜ従業員がそんなに弱い立場なのかというのは、余り強調し過ぎているように私は思います。ですから、個別契約で外国はやらなければいけない。それと同じように、日本も個別契約でやったらいいというふうに表現していただきたいなという感じはするのですね。

事務局

今の35条でも、この改正案でも、当然、契約、勤務規則その他の定めで規程することは許されますから、契約はだめと言っているわけではありません。ただ、契約をした場合の合理性というのは、第一のところで書かせていただいておりますけれども、形式的な契約で全く問題なくOKですよというわけではないですよということを言わせていただいているわけで、契約ではだめだと言っているわけではない。また、契約能力がないと言っているわけでもなくて、実質のところを判断して合理、不合理を判断しますよと言っているだけです。

委員長

どうぞ。

委員

この間、この議論に参加してきたのですけれども、基本的には基準法なり労組法なり、労働法を全般にとらえて、それと特許法との接点の話をずっとしてきたのだと私は理解をしているのですが、率直なまず全体の印象から申し上げますと、この内容は労働組合の立場から見ても、あるいは一般のそういうことに関わっている労働者から見ても、評価できる内容になっていると思います。
ただ、先ほどガイドラインの話も出てきましたけれども、例示の仕方によって、これは言葉の使い方の問題なのかもしれませんが、こうすべきだという強いトーンで例示が書いてありますから、かえってそれが企業サイドの皆さん方、きょうお集まりの産業界の皆さん方を刺激している部分があるのであれば、そこは例示は例示として、こういうやり方もあるよというぐらいのトーンに落としても構わないと思います。ただし、余り趣旨や内容を変えるようなことをせずに、こういうやり方もあるというようなことを、本当の意味での例示にしてもらって、そして労働省がよくやっているようなガイドライン的な扱いにしないということで、そこに柔軟性を持たせるということがあらわせるようになると思いますので、そんなような工夫をしていただいて結構だと思います。
それから、これは言わない方がいいのかもしれませんが、実際の労働者の現場実態からすると、いろいろな決め事をきちんと手続を踏んでやっていても、それに合わないことというのは起き得るわけですね。神様でもない限り、そういう予見性だとか不合理性などということは事前に担保できないわけです。さきほど来委員がおっしゃっているなるべくそういうことを排除したいというお気持ちは私どもも持っておりますけれども、やはりそれはどこまで行っても排除できないということが、労働の現場では起こっているのです。そこを何とか、なるべくもめ事が起きないように、しかもなおかつ相互が、多分経営側の方はなかなか理解しないのでしょうけれども、労働者を一定程度保護とまでは行かないにしても、主張を通りやすくということがとりまとめで目指している方向なのではないでしょうか。その趣旨からすると、この職務発明制度をもっと活用して、知財として有効に活用しようではないかという流れに沿うとすれば、ある程度の部分でそういうことをあきらめてもらって、不合理性だとか予見性というのはどこまで追求しても担保できない限界がある。だからこそ、これを一定程度手続をきちんとさせる、あるいはそこに行くまでの間のルールを明確にするということによって、予見性だとか不合理性による争いは減ってくるはずなのだという、そういうメッセージがきちんと伝わるような内容になっていると思います。そういう意味では、「あきらめて」という言い方はよくなかったかもわかりませんが、(笑声)ぜひこういう内容でやっていただきたいと思います。
それともう一つは、特に私どもの立場から言うと、労働組合のあるところはそれなりにちゃんとやります。だけれども、労働組合のないところ、あるいは前にも発言をしましたけれども、従業員を代表する2分の1以上の人というのが労働法の規定の中にたくさん使われているのですけれども、とても従業員代表とは思えない人が、私が従業員代表ですというふうにやっている企業もたくさんあるのですね。だから、そこのことも意識をしていただいて、事務局が頑張っていただいたと思っておりますので、そういう意味で評価をしておきたいと思います。
ちょっととりとめのない話になりましたが、以上であります。

委員

よろしいでしょうか。

委員長

どうぞ。

委員

あきらめられないのでちょっと、(笑声)あきらめられるぐらいだったら、こんな議論はしないで、現行のままでも結構だと思うのですけれども、大体、国際競争力を高めましょうと、そういうことを前段でも随分うたっていただいているのですね。予見性もなく、しかもいつ確定するかわからない状態で、今、国際的な取引の中で知的財産事業とともにですが、活用しようとしたときに、とてもおっかなくてできないですね。国によって、例えば1つの例ですが、アメリカと取引をした場合、アメリカと日本がこれだけ違っておる。それが自分で決めたというか、もちろん合理的な手続を踏んで決めた額で決まるのですよという保証があれば安心して取引をできるのですが、それが強行規定で行きますよという余地をあきらめればうんと高まるのですけれども、高まったら、価格を決められないですね、いろいろな取引の段階で。ですから、積極的に知財を活用しなさいという基本的な方針に対して、活用ができないということなのですよ。
これは決して発明者を軽視しているということでは全くないのですよ。私は対価は十分に払うべきだと基本的には思っているのですが、問題は活用するときに非常に不便だということもお考えいただきたいということなのですね。ですから、予見可能性を高めていただきたい。強行規定に行くと、本当に幾らになるかわからないし、金額が決まっていないと取引はできないのですね。そういうことを考えていただいて、予見可能性を高めてほしいというのが産業界の私は希望だと思っているのです。だから、あきらめるわけにいかないのです。

委員長

どうぞ。

委員

現行法をこのように改正することによって、明らかに予見可能性が高まります。つまり、立証すべき事項というのが、対価の相当性から、対価を定める手続の相当性に変わるわけですから、明らかに不確実性が低くなります。これは今度の改正の目的です。
ただし、発明者に発明を受ける権利が帰属して、それに対して対価を払うという基本原則は崩さないということを前提とすると、対価の「相当性」やはり必要であると思います。この提案は、現行法の大枠を崩さないということの中で最大限の努力をしたということではなかろうかと思います。
対価は払わなくていいというところまで行くのであれば、法人発明を認める方向へ、変換しなければなりません。企業側は、この手続に関して努力をすることにより、自分のところの確定性を上げることができます。手続をできるだけきちっとすることによって、手続をきちっとしない企業に比べれば、確実性が高まります。

委員長

どうぞ。

委員

前段の方の全体の趣旨のところに戻らせていただいてお話をさせていただきたいのです。2ページの中段のところ、下から3分の1ぐらいの段落のあるところなのですが、企業側のところで、「こうした資金やリスクの担い手である企業や大学等に対しても、研究開発投資を増大させるようなインセンティブを付与することが必要である」という表現がございます。これは発明者にインセンティブを与えるためにお金を出すというのは、明らかにわかります。しかし、職務発明に対する補償の意味でのインセンティブというのは企業に余り働かないだろうと思います。そういう意味では、増大させるような職務発明のリスクを低減することが必要であるという意味合いならよくわかるのですけれども、何のインセンティブなのかがちょっとはっきりいたしませんというのが1点でございます。
それから、3ページ目の上から3行目から4行目にかけてなのですが、「絶えずその運用を見守り、その時代に合った制度とすべく見直していくことが大切であるが」とあります。「ある」で点を打っていただけないかと。なぜかと言うと、これは今後も絶えず必要で、34年法がやっていなかったのでという趣旨だと思うのですが、これは今後も必要な大事な部分ではないかと思います。そういう意味ではわかりやすく、ここで「ある」と丸を打っていただいて、「昭和34年法……」としていただく方がわかりやすいのかなと思います。
それからもう一点、5ページになります。5ページの2行目のところ、1行目から続きます「ただし」の後なのです。「使用者が実施する場合、無償とする考え方(日本、米国)と有償とする考え方(ドイツ)がある」とこうあります。これは前段から見ていくと、職務発明は従業者に帰属する制度を採用していると言うと、通常実施権の話をされているのだろうと思うのです。しかし、その前の行に「帰属する制度」と書いてくると、企業に帰属させるという前提で、ここのところは自社実施の場合であってもそれなりの相当な対価の計算の対象になると誤解を生むので、ここを正確にしておいていただければと思います。

事務局

今、3点御指摘がありましたが、まず1点目の2ページの使用者側のインセンティブですが、これは後ろの部分に出てくる予測可能性を高めるということの前振りという趣旨でございまして、この記載はそのままで残させていただきたいと思います。結果的にリスクが減るということにもなるかと思いますけれども、第1章第1節では、非常に上位的に、包括的に書いているということでございます。
それから、2点目の御指摘の3ページについては、御指摘のとおり修正させていただきます。
それから、5ページのところですが、この点につきましても、修文過程で記載が曖昧になってしまいましたので、通常実施権のことを指すということを明確にするように修文いたします。

委員長

どうぞ。

委員

今まで長い期間、この問題について議論してきたわけですが、本日の報告書を読み、また皆さんのいろいろな御意見を聞いていて、知財制度の将来のあり方として、現段階において最もふさわしい職務発明制度の構築ができ得るところに到達したのではないかと私自身は思っております。
あと、これまでの審議会での議論と、その後の法律の条文化の過程を見てみますと、必ずしも審議会で議論して報告書にまとまった線どおりには行かない場合があるわけですね。それは法制局とのいろいろな協議等を経なければなりませんので、そのためにある程度の修文も必要だったりしてくることは避けられないとは思いますけれども、ぜひともこの問題につきましては、ここで出た皆さんの意見、それに報告書の線に沿って、その趣旨が完全に生かせるような条文づくりにひとつお骨折りいただきたいということを要望したいと思います。

委員長

ありがとうございました。
どうぞ

委員

先ほどの3ページの「絶えずその運用を見守り、その時代に合った制度とすべく見直していくことが大切である」、特にこの部分と、それから15ページの海外の権利に関しての意見との両方を検討しますと、特許法35条の存在というのは本当に一体何なのだろうと思います。例えば、日本の企業がドイツに積極的な研究開発法人をつくるかというと、非常に躊躇する部分が有ります。逆に、日本に特許法35条が存在しますと、海外法人は日本に積極的に研究開発拠点を本当につくるだろうか。やはりその国、自社のベースになっている部分との整合性を考えると、非常に複雑な取り扱いをしていかなければならないということで、日本に研究開発拠点を作ることに躊躇することになります。ですから、今回のこの議論というのは産業競争力強化、あるいは国益にかなう、そういう方向で議論していると思いますが、本当にそれを満たすような法律なのだろうかと思います。
それから、部会長も当初この議論のときにおっしゃっておられましたけれども、やはり日本全体の雇用形態ですとか、あるいは人の流動性ですとかと非常に大きな関連性を持っています。この視点から考えると、いつの日か35条廃止ということもあり得るかもしれないという表現を、冒頭に、即ち時代の背景とともに見直していくことが大事であるという部分に、追加していただければ非常にありがたいと私は思います。

事務局

可能性としての議論としては、将来廃止ということもあり得るかもしれませんけれども、それはあくまでも可能性の議論であって、将来、どういう制度がふさわしいかというのは、その時点でまた検討させていただければと思います。したがって、この部分については、逐次見直していくという記載でよいかと思います。

委員長

どうぞ。

委員

今の部分と非常に近い部分なのですが、先ほど私も「インセンティブを付与することが必要である」と書いてあるところを直してほしいということをちょっと申し上げたのは、現行の制度のもとで、諸外国と比較した場合に、日本の企業が明らかにハンディを持つ可能性があると考えているわけです。一方、発明者にインセンティブを与えることは、これはいい発明が出てくるということで、これはよいことですけれども、これは企業の側が独自の論理でやればいいのだろうと思います。そういう意味では、強制的に規定があるということが必ずしもインセンティブにつながるのかと言うと、余りならないと思います。「インセンティブ」と書くと、何かこの改正によって企業にとって大変よくなって、国際協力上、世界で一番有利ではないか、と思われる節が出てくる。そういう意味で、逆にリスクと思います。インセンティブが減りましたといわれた方がより明確になるのではないかという意味で申し上げました。

委員長

どうぞ。

委員

もう時間が来ていますけれども、1つだけです。手続規定を重視して、手続で相当の対価を進呈するということになって非常にいいことだと思うのですけれども、それがちゃんと機能していないといけないと思いますが、デフォルトとしての相当の対価というのがありますので、やはり相当の対価の規定がうまく機能しないと、つまりそれを悪用すればある意味であぶく銭が入るというようなことになっていると、やはりうまくいかないと思います。したがって第4節で「相当の対価」ということで幅広い事情が考慮されるように改正されるということですけれども、前から言っていますように、企業のリスク負担、これが報告書の前文には書いてありますけれども、使用者等のリスク負担というのも明記がされる方が私は望ましいと思います。これは何回か申し上げているのですけれども、それによって、現実には存在しない仮想的な利益を求めて裁判がどんどん起きるという事態を防ぐことができるのではないかと思います。

事務局

今の御発言の趣旨は、13ページの3.の上から4行目、「具体的利益に直接つながる発明を生み出す研究開発以外にも当該利益に間接的につながる研究開発も幅広く行っている」というところと、それから下から2行目の「当該発明に直接的または間接的に関連性がある限り、上述のようなさまざまな事情が幅広く考慮される」というところでお読みいただければと思います。逆に、何ら関連性のないものまで、相当の対価の算定において考慮するというのは、以前御説明させていただいたとおり、特許法の中ではカバーし切れないので、「間接的に関連性がある限り」というところまでとしたいと考えているのですけれども。

委員長

どうぞ。

委員

もう時間がないので簡単に申しますが、私も委員の方のご質問と事務局の御説明を聞いて非常によくわかるのです。ということは、ここにおるとわかるのですが、(笑声)ここにいない人が読むと、同じ疑問点がどんどん出てくるだろうと思うわけです。典型的なのは、12ページの上段で委員のご質問に対して事務局がお答えになると非常によくわかる。そういう点をもう少し何か改良するようにしていただきませんと、同じ疑問点がこの文章を読んだところだけからはどんどん出てきて、結果的によくわからないではないかということになるのではないか。その点の杞憂が1点です。
それと、これは本論に関係ありませんので言わないでおこうと思ったのですが、先ほども少し出ましたので、第1章の1ページ、2ページのところですが、ここを読みますと、大学と企業が同列に並べられております。しかし、必ずしもそうはいかないということが多分にあります。例えば、リスクと言いましても、大学がどんなリスクを払っているのだと言うと、何もリスクは払っていないのではないかということもございます。しかし、直すとなると大変ですので、今はこれでいいかなと思うのですけれども、将来、かなり議論しなければいけないなという印象です。
以上です。

委員長

ありがとうございました。
ほかに。

委員

いいですか。

委員長

どうぞ。

委員

確認ですが、今の4項の件ですが、以前の御説明で、遡及項的な効果を持たせたいという御説明がありましたね。今回の報告書を見ていますと、現行規定では、書いていないからそうならないのだと、例えば13ページの2の「問題点」というものの最後にそのような表現が記載されていると思うのですが、それでこう直しますよということで、3番目で方向性が示されているわけですけれども、以前の御説明で遡及項的な解釈論としてそういうものも入っていたのだよということで、現行法で、まだ相当期間訴訟が続くかもしれないときに効果を持たせようという御説もたしかあったと思うのですね。これでそれが可能なのでしょうか。

事務局

現行法でも4項の解釈にはかなり幅があると思います。それで、それは読めると思いますし、現に処遇等にも配慮している判決も出ているというふうに承知をしております。したがって、4項そのものについてはかなり幅広いものが現行法でも読み取れるというふうに理解をしているのですけれども、それでもやはり不明確なところがあるし、実際、それが読み込まれていないような判決も多々あるということで、それを明確化する趣旨だということです。一番最初の枠囲いの中にも規定を明確化すべきであるというふうに書かせていただいているのはそういう趣旨でございますので、そういうものとして御理解いただければと思いますけれども。

委員

ただ、しつこいようですが、最後の文章は現行規定だと「画一的、割合的に考慮瀬ざるを得ない」と解釈論を言っているのではないでしょうか。

事務局

表現はちょっと工夫いたします。

委員

お願いします。

委員長

それでは、大体御意見も出尽くしたかと思いますが、よろしいでしょうか。そうしますと、私の方からこの報告書案の取り扱いについての御提案ですけれども、何点かの、先ほどの特に12ページの包括的なライセンスの件なども含めまして、修正が必要な点を御指摘いただきましたので、私と事務局の方できょういただいたコメントを中心に修正をいたしまして、その修正の案を皆様に個別に再確認していただく。その上で最終的に報告書の内容を確定するということにいたしたいと思いますが、それでよろしゅうございますでしょうか。


〔「異議なし」の声あり〕。

委員長

では、どうもありがとうございました。これからまだ修正、それからその後、パブリックコメントというふうに何段階かまだ残っておりますので、今後も引き続き、御協力のほどをどうぞよろしくお願いいたしたいと思います。
それでは、きょうはもう時間も過ぎておりますので、本日の委員会はこれで終わりにいたしたいと思いますが、最後の事務局から今後のスケジュールを含めて、御報告をお願いいたしたいと思います。

事務局

それでは、委員長の御指摘のように、幾つかの修正点がございますので、事務局と委員長で早急に相談いたしまして、できるだけ早く皆様方に修正案をお送りしたいと思います。修正案について皆様の御了解が得られ次第、特許庁のホームページで、約1か月程度の期間、パブリックコメントに付したいと考えております。
それらを踏まえた上で、次回、最終的な報告書を御審議いただくという形で小委員会を開かせていただきたいと思っております。
次回の日程については、今のところパブリックコメントの期間等を考えますと、12月上旬ごろを考えております。また皆様のスケジュールにつきましては事務局の方から御都合をお伺いして、決定させていただきたいと思います。
決定次第、また詳細を御連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。
以上でございます。

委員長

それでは、以上で第14回の特許制度小委員会を閉会させていただきます。
長時間、どうもありがとうございました。

3.閉会

――了――

[更新日 2003年10月30日]

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