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産業構造審議会 知的財産政策部会 第27回特許制度小委員会 議事要旨

1.日時・場所

日時:平成22年5月24日(月曜日)15時00分から17時00分

場所:特許庁庁舎16階 特別会議室

2.議題

  1. 差止請求権の在り方について
  2. 冒認出願に関する救済措置の整備について

3.議事概要

(1)差止請求権の在り方について

資料1「差止請求権の在り方について」に沿って事務局から説明を行った。また、守屋委員より、資料2「守屋委員御提出資料」に沿って説明があった。
その後、自由討議を行ったところ、その概要は以下のとおり。

<検討の方向について>

  • 類型的にしっかりと要件を定めて差止請求権の行使を制限することができる場合が将来的にないとは言えないが、他の法的手段、解決方法があるかどうかも踏まえ十分に調査・研究し、その上で検討すべきであるので、引き続き検討を行うという結論に賛成。
  • 製薬業界の場合、差止請求権がないとビジネスが守れない。また、医薬品や環境技術について途上国等がTRIPS条約の柔軟性を求めるといった議論もあるので、安易に特許権の効力を弱める方向の議論を表に出していただきたくない。したがって、C案に賛成。ただ、時代の変化に応じて様々な問題が出てくると思うので、差止請求権に係る具体的な問題事例が生じた際には、やはりそれに対して適切な対応がとれるよう、今後も検討をしていかなければならないと思う。その場合にも、権利行使の在り方や、差止請求権の制限以外の対処の仕方等をある程度具体的に整理し、また、国際的な協調を図りながら、検討していただきたい。
  • 将来的にはB案という形で、何か明確な形で差止請求権の行使の範囲を予見できることになるのが望ましいが、ただ、こうした濫用的な権利行使を法文で定めると、副作用等がかなりあり、この点をしっかり考えなければなないという点でハードルが高いということも理解できるので、現状としては引き続き検討を行うということに賛成。
  • 差止請求権は特許制度の根幹をなす機能であるから、拙速に結論を出すのは気を付けた方がよいと思う。検討に当たっては、特許法は産業政策に大きな影響を及ぼすものであること、また対象が無体物であることに十分留意していただきたい。権利濫用の法理についても、無体物であることを踏まえた考え方がもう少しあってもいいのではないか。結論としては、引き続き多面的に検討を行うということでよいと思う。ただし、引き続き検討だからといって実質的な検討はやめず、中長期的な重要なテーマとして研究機関等を利用し、具体的かつ詳細な検討を確実に実行していただきたい。その際、B案の方向性も1つの方向性であると思うので、さらに検討を行っていただきたい。
  • 将来的には、差止請求権を制限すべきケースに対してどのように対応すべきか、その是非を検討せざるを得ない状況が生まれる可能性があるが、現時点では、差止請求権の制限を広げることについては時期尚早ということに賛成。ただ、「引き続き多面的な検討を行うことが適当」だとすると、昨年行われた特許制度研究会の結論とほぼ同じであり、この問題に対する特許庁の認識が変わっていないというような印象を与えかねないので、パテントトロールや標準技術におけるホールドアップ問題について注視しており、今後、問題が顕在化した場合には迅速に対応し得る用意がある旨のニュアンスを打ち出すことは重要なのではないか。
  • 差止請求権の制限については、問題の所在がまだ不明な状態であり、こうした状況で現行制度を変えることについては極めて慎重であるべき。現段階ではC案に賛成。一方で、引き続き検討していくということは非常に重要だと思うが、昨年行われた特許制度研究会の結論と同じ状態が続いてしまっているという印象は非常に良くない。特に標準技術におけるホールドアップ問題に関する国際間の議論を具体的かつ迅速にフォローした上で、検討・研究する場を設けていただきたい。
  • 特許の有効性の推定規定があるかどうかなど日本と米国では状況が違うので、日本の実態をよく把握した上で制度をどうするか検討すべきであり、その点、今後やるべきことも多いと思うので、引き続き多面的に検討を行うという結論でよいと思う。
  • 差止請求権の在り方は特許権の本質に係わる問題。また、差止請求権が制限されると、実施権を得ないまま侵害をして、訴訟を起こされたら損害賠償を支払えばよいというように考えられ、ライセンス交渉に悪影響が出る。また、発展途上国に対する影響を考えると、現行制度上もいざというときに使える手段はあるので、C案に賛成。

<パテントトロールについて>

  • パテントトロールが日本で顕在化していないということであるが、パテントトロールを警戒している企業は多く、また、日本でも警戒しなければならない状況にあることは明らかである。このため、パテントトロールの動向を引き続き注視しなければならないとする意見に賛成。
  • 中小企業にとって、差止めを受けることは大変なことだと思う。日本では、パテントトロールの問題はないということであるが、問題となったときのために今のうちに何か仕組みをつくった方がいいのではないかというような、若干の危機感を感じている。
  • パテントトロールの定義は非常に難しく、行為主体によって定義するのは限界がある。一方、濫用的と言いたくなるような差止請求権の行使は、日本においてもあると理解している。
  • パテントトロール問題は、技術分野によって制限する必要性がかなり違ってくる。こういったことから、技術分野によって適切な解決の仕組みが変わってくる可能性がある。
  • 訴訟実務の観点から言うと、実際の差止請求に対して裁判所はかなり慎重に対応しているという印象。パテントトロールのような事案の場合、原告の目的が差止めではないので、裁判所は、侵害であるという心証を得た際には、適当なところで和解を相当強く勧めているというのが実情であろう。

<標準技術におけるホールドアップ問題について>

  • 標準技術におけるホールドアップ問題については、権利濫用法理の適用を考えるよりも、他の法的解決手段をまず考えていくべき。代表的なものとして、特許法第93条の公共の利益のための裁定実施権がある。産業界からより使いやすい制度にするべきとの声があるが、もっと積極的に活用すれば道はひらけてくるのではないか。ただ、裁定制度の運用要領では、裁定が認められるハードルが非常に高いので、使いやすいようにしていく必要があるのではないか。また、独禁法については、どこまで実効性がある解決方法があるかという問題はあるが、いわゆる排除措置命令によってライセンス契約に応じよとする命令が下された事例もある。このような対応をしてもなお差止請求権を行使してくる場合には、民法の権利濫用の法理が適用され、問題は解決するのではないか。
  • 標準技術におけるホールドアップ問題について今後国際間で一元的に解決する仕組みが模索される可能性が高い中で、まだ具体的な動きがないのに現行制度を変えてしまってよいのか。現段階では現行制度をそのままにしておき、将来の改正の必要があるとしても、柔軟性を残しておく方が望ましい。
  • 権利濫用の観点だけではなく、独占禁止法の運用の在り方や標準機関のパテントポリシーの在り方など、特に標準技術におけるホールドアップ問題については、多面的な検討が必要である。

<その他>

裁判官は民法の一般法理である権利濫用の法理を使いにくいという指摘が資料にあるが、特許法の規定の有無にかかわらず、真に権利濫用だと言えるような場面で権利濫用の法理を使うことに特に障害はないと考えている。

(2)冒認出願に関する救済措置の整備について

資料3「冒認出願に関する救済措置の整備について」に沿って事務局から説明を行った。
その後、自由討議を行ったところ、その概要は以下のとおり。

<冒認・共同出願違反の実態について>

  • アンケートによれば、相当の数の企業が冒認出願や共同出願違反の被害を受けていると思うので、何らかの救済措置は必要であろう。
  • 冒認出願に関する問題が企業の実態としてどの程度あるのかはよくわからない。企業の中の実務では、共同出願違反は比較的生じる。
  • 冒認出願の関係で紛争の類型として最も多いのは、共同開発において、一方が共同開発の範囲外であるとして単独で出願し、もう一方が出願された発明は共同開発の範囲内にあり、共同出願すべきと主張するケースであろう。また、大学の研究者がアイデアを出しただけで共同出願にすべきと思っていることに起因する紛争の類型もあるように思われる。冒認に関する紛争は結構あると思う。ただ、もともと契約関係があるので、訴訟に発展するケースは少なく、合意をしてなんらかの解決をしているというのが現状だと思う。
  • オープンイノベーションの進展により、アンケートにもあるように、共同開発の機会は増えている。特に、規格関係の共同開発は秘密にしながら開発を行うケースが増えており、場合によっては冒認になるケースがいくつか出てきていると聞いている。協力関係が多様になることによって、冒認出願に関する救済措置に対する実務のニーズも増えてきていると考えている。
  • 従来は特許出願に慣れている大企業同士の共同開発が多かったが、最近は、産学官連携や大企業と中小企業・ベンチャーなど共同開発の組合せが多様となっている。このようなケースでは、場合によって出願時に発明者の認定があいまいなことがあり、共同開発の組合せが多様になると冒認に関する紛争が生じる可能性が一層高まると思う。
  • オープンイノベーションの進展により、産学連携等で共同開発を行う場合が多いが、発明者の扱いや契約の関係で、必ずしもうまくいかないケースもある。こうした場合でも、開発の成果は有効に活用したいということがあるので、うまく手当をしていただきたい。
  • 現場の立場から言うと、近年、海外進出の際など、中小企業と大企業が組む機会が増えている。この場合、様々な立場の者が共同開発に携わることとなるが、真の発明者が誰かという点は非常に難しい問題である。

<検討の方向について>

  • グローバルに日本企業がどう戦っていくかという視点が大事であるから、救済措置についても諸外国との制度調和という視点が重要である。そういう意味では、移転登録手続を認める制度を導入する方向での整備は非常に正当性があるのではないか。
  • もともと契約関係のある2者が当事者となるので、出願日遡及制度にすると濫用が起こる懸念がある。そういう面では、移転請求制度の方が優れていると思うので、移転請求制度の導入に賛成。
  • これまで、我が国において、真の権利者が自ら出願していなかった場合に特許権の取得が認められてこなかったのは、先願主義の強い要請があったからだと思われる。その意味において、出願手続に関与していなくとも真の権利者であることを証明すれば移転登録できるとすることは、大きな転換だと思う。これを理論的な転換というのか、立法政策的な選択というのかは別として、資料3の5ページのところで、特許制度の趣旨との関係で妥当性があるという点を強調することには疑問を感じる。しかし、特許制度全体の趣旨から考えても、真の権利者の救済のために、真の権利者に移転登録を認める制度を設けるような方向に転換することもまた1つの選択肢だとは思う。立法政策的な問題でもあるので、企業等の要請に応える形で決めるべきである。本委員会が移転請求制度を導入する方向が良いとするならば、善意で実施している者は通常実施権を有する者として保護するなど、事務局の案は制度設計としては比較的良くできているので、この方向で制度整備を行うべきではないか。
  • 実際には、企業戦略の観点から、真の権利者にとって特許権を無効にされるのは困る場合もあるので、移転登録手続ができないのは非常に不都合である。したがって、移転請求制度を導入することに賛成。現行の無効の手段を残すということであるならば、制度の転換というよりは、救済の手段を1つ増やしたという理解でよいのではないか。ただ、移転請求が後からできるために、真の権利者が誰かということがあいまいなまま出願してもよいという誤った理解をしないよう、啓発をお願いしたい。
  • 総論として、冒認者から真の権利者へ帰属させるという点は賛成。ただ、真の権利者が出願しなかった場合をどのように考えるかについての見解はまだまとまっていない。
  • 米国や欧州に比べると日本は共同出願が非常に多い。その理由の1つとして、共同開発プロジェクト開始時に権利の帰属について余り明確な合意がされない場合が多く、双方に発明者がいると自動的に共同発明になってしまうということがある。しかし、権利の集約化をした方がイノベーションは進みやすいのだから、共同開発を計画するに当たっては、発明を実施する際にどこに権利があると最もイノベーションが促進されるか、ということを予め念頭に置くことが重要であると思う。今の日本の状況は、権利が分散化され、排他権の行使ができない場合がかなりあるのではないかと思われるので、こうした観点からも今回の検討事項を考察することも少し必要ではないか。

<第三者(冒認者からの譲受人等)の扱いについて>

  • 民法の考え方からすると、真の権利者でない者からもらった権利というのは基本的には保護されないというのが原則であるが、事務局案では、譲受人は、実施をしていれば実施権は認められるが、実施をしていなければ保護されないという制度設計になっている。特許権は無体財産権だから何人でも実施できるという考えがあるのだと思われるが、民法の原則とは少し異なる制度設計でよいのかという点は少し気になる。
  • 元々、民法の原則の例外的な考え方である特許法の中用権の発想を背景としており、また、冒認であることを知らないで実施している譲受人やライセンシーを保護することは取引の安定性を確保することにもなるので、事務局案のような制度の方がよいのではないかと思う。特許法の中にはいくつか民法の原則と異なっているところがあるので、特別法として規定するのだから、民法と異なる規定があってもよいと割り切ってもよいのではないか。
  • 共同出願違反の場合、持分の移転請求になるとすると、移転登録手続前に冒認者が行った譲渡や質権設定、差押えは、冒認者の持分権の範囲では有効ということになるのか。

<冒認者による特許出願・特許権の処分(譲渡・放棄等)への対応について>

  • 特許権設定登録前に名義変更をするため、特許を受ける権利の名義人であることの確認を求めることを前提として、現在の名義人に対して処分禁止の仮処分と同様の仮処分をかけておくことは絶対に必要。そうでないと、訴訟を起こすと、名義人の名前が変更されてしまい、原告は次々に新しい被告を見つけなければならず非常に大変だと思う。
  • 仮に特許を受ける権利あるいは名義人の地位についての処分禁止の仮処分決定を特許庁に持って行った場合に、出願名義変更の手続を止める、あるいは仮に名義変更されても当事者には処分禁止の効力があるというような扱いをすることは可能なのか検討が必要ではないか。

<その他>

  • 移転請求制度を導入した場合、特許権は初めから真の権利者に帰属していたものとして扱うとのことだが、冒認者が補正や訂正といった手続を行った場合、その効力はどのようになるのか。
  • 冒認者本人であればいろいろな事実関係を把握していると思うのだが、冒認者から特許権が移転されている場合など冒認者が訴訟の当事者とならない場合には、訴訟において事実関係を争うことが大変だと思われる。この点については、どのように考えているのか。
    被告となった譲受人が冒認者に対して訴訟告知をして冒認者を訴訟に引き込むことは可能なのではないか。

[更新日 2010年6月16日]