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産業構造審議会 知的財産政策部会 第31回特許制度小委員会 議事要旨

1.日時・場所

日時:平成22年8月10日(火曜日)10時00分から12時00分

場所:特許庁庁舎16階 特別会議室

2.議題

  1. 登録対抗制度の見直しについて
  2. 審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方について
  3. 無効審判の確定審決の第三者効の在り方について
  4. 同一人による複数の無効審判請求の禁止について
  5. 侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱いについて

3.議事概要

(1)登録対抗制度の見直しについて

資料1「登録対抗制度の見直しについて」に沿って事務局から説明を行った。

その後、自由討議を行ったところ、概要は以下のとおり。

<告知義務について>

  • 「告知義務」を法律上規定しないA案は、実務上、デューデリジェンスの慣行がある以上、取引の安全上心配がないという趣旨だと思うが、特許権者の中には中小企業や個人も含まれていることを踏まえると、取引の安全について何らかの手当てをしなくてよいのか気がかりである。
  • 告知義務を法律上規定していない現状においても、デューデリジェンス等への対応には問題が生じていないこと及び告知義務の範囲を一律に定めることは困難であることを考慮すれば、A案が妥当。
  • 国際的制度調和の観点から、海外では告知義務が課されない一方、我が国では告知義務が課されるのではアンバランスであり、我が国と海外とで制度が異なることは、中小企業を含め産業界にとって負担が大きいと思われるので、A案を支持。
  • 中小企業の立場では、手続を簡略にする方が望ましいと思われるため、A案を支持。契約を締結するに当たっては、相手方に書面で問い合わせれば、それに対してきちんと回答してくれるため、A案でよいと思う。

<通常実施権の対抗につき確定日付の取得を条件とすることについて>

  • 事務局から説明があった理由により、通常実施権の対抗につき、確定日付ある証書によって許諾されていることを条件としないとするA案に賛成。
  • 我が国と海外とで制度が異なることは、特許のグローバル化の観点から問題が大きいと思われるため、海外と同様に、確定日付ある証書によって許諾されていることを条件としないA案を支持。
  • 中小企業等が通常実施権を対抗するに当たって、一つずつ確定日付を取得していくことには無理があると思われるため、A案に賛成。
  • この論点は政策判断の問題なので、A案を採用することには反対しない。ただし、とりわけ差押えや倒産の場面においては、バックデートの問題が生じる可能性があると思うので、A案を採用するに当たっては、バックデートは実際には余り生じない、あるいは生じてもそれほど大きな問題にはならないという観点からも検討されるべき。
  • 通常実施権の対抗につき、確定日付のような様式行為を求めてもよいのではないかと思っていたが、産業界の意見や国際的制度調和を考慮すると、確定日付ある証書によって許諾されていることを条件としないとすることでやむを得ないのではないか。ただし、紛争が生じるおそれは十分あるように思うので、確定日付の取得にはそれほど手間やコストはかからないから、法改正の際には、ライセンス契約について確定日付を取得することが望ましいことを周知していただきたい。
  • 通常実施権の対抗につき、確定日付ある証書によって許諾されていることを条件としないとしても、立証の容易さという観点からすれば、確定日付を取得しておくことが一番確実であると思う。この点、平時の取引ではデューデリジェンスや表明保証が有効に機能するため、確定日付を取得していなくても余り心配はない。他方、破産や事実上の倒産の場合には、債権譲渡通知が乱発されることが実務上よく見受けられるため、通常実施権の存否について争いになれば、その立証が重要になることを周知していただいてもよいと思う。

<特許権の放棄等に係る通常実施権者の承諾について>

  • 事務局の整理のように、実施の継続が可能なものと実施の継続ができなくなるおそれがあるものとに分けて、それぞれ対応していただきたい。
  • 出願変更等があったときは変更後の出願に仮通常実施権がその限度で引き継がれると整理すればよいが、その後変更後の出願に係る出願人名義が第三者に移転した場合には、引き継がれた仮通常実施権は第三者との関係で当然対抗になる。このように、権利関係がかなり複雑になる場合もあり得ることを少し心配している。しかし、結論的には事務局案に賛成。

<契約の承継について>

通常実施権を第三者に対抗できることは、契約関係を第三者が承継することを意味するものではなく、契約関係については民法理論に委ねるということだと思う。しかしながら、法律の知識を有していない一般の人からは、通常実施権を第三者に対抗できることは契約関係を第三者が承継することと誤解される可能性がかなりあると思われる。そこで、登録対抗制度の見直しについて報告書を作成する際には、通常実施権を第三者に対抗できるとしても、契約関係は当然には第三者に承継されないことを記載した方がよいのではないか。

(2)審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方について

資料2「審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方について」に沿って事務局から説明を行った。

その後、自由討議を行ったところ、その概要は以下のとおり。

<検討の方向について>

  • 当方で検討した結果、今までは請求項ごとの扱いを徹底させる案(A案)がよいとの意見が多かったが、今回、事務局案(B-1案)で明細書の訂正を認めるという案が提示されているところ、明細書の訂正を認めるという前提でB-1案に反対しないという意見が多かった。
  • 一覧性が欠如する事態を解消するための方向性として、事務局の提案の方向性はよいとは思うのだが、これで全ての場合に対応できるのかということを考えると、やはり様々なケースが考えられると思う。この点は法律事項というよりは特許庁の運用の問題であるから、特許庁には、将来この立法が実現してから施行までの間に、十分な対応ができるようになお一層検討していただきたい。

<特許請求の範囲の訂正の扱いについて>

  • 請求項の書き直しにより一覧性が確保されることはよいと思うが、それができない場合でも、図2にある審決公報の<一覧>欄で、どの明細書等を見ればいいかがわかるようにすれば、実務的には問題ないのではないか。
  • 他の論点の議論の際に、無効審判の審理の迅速化をお願いしたが、そのこととの関係からも、新たな手続の導入により審理遅延の懸念があるようであれば公報の編さんで対処していただきたいし、それほど深刻な問題がないということであれば新たな手続により請求項の書き直しをさせることでよいと思う。
  • 訂正請求を念頭に何らか一覧性の問題に対する対策を取っていくということについては賛成するが、請求項の書き直しの手続を導入した方がよいのか、あるいは公示の工夫でよいのかについては、もう少し手続のイメージを具体的にしていただいた上で議論・検討をさせていただきたい。
  • 特許請求の範囲の訂正に関しては、特許権者に書き直しを求めて、それに対する特許庁の許否判断に対して不服申立等がされれば恐らく時間がかかるであろうから、明細書の束が発生することはやむを得ないとすれば、特許請求の範囲についても、束の発生を基本的には認めざるを得ないのではないか。
  • 常に請求項の書き直しを要求するのではなく、係属中の審判手続の中で何らかの付随的な手続を設け、その手続で書き直しが簡単に認められればその書き直しを採用し、その書き直しが採用できない場合は公示の工夫で対処するなど、請求項の書き直しと公示の工夫との中間的な案も考えられるのではないか。
  • もともと請求項の削除の場合は項番号を繰り上げなくてもいいというふうになっていたはずだが、このことが意外と知られていないため、請求項の削除に伴い請求項番号を一生懸命繰り上げているという現実がある。この点は周知をしていただければと思う。
  • 今回のB-1案そのものに対して若干、懸念があり、このような書き直し等の手続は国際的に見ると非常に独特で、我が国だけの手続となっている可能性がある。この点の理解を得られるのか否か、将来的な検討課題としてほしい。

<明細書の訂正の扱いについて>

  • 明細書の訂正を禁止するということは、無効理由を解消できないという問題点があるのみならず、発明の詳細な説明が訂正されないことで、クレームがうまく解釈できないということにもなる。こうした問題もあるので、明細書の訂正を禁止することは選択肢としてあり得ないのではないか。公示を工夫していただくということで結構かと思う。
  • 誤記の訂正や明瞭でない記載の釈明については、無効理由解消のために明細書の訂正が必要になる場合があると考えており、明細書の訂正を全て禁止するというのは現状では難しいと考えている。したがって、明細書の束が発生した場合に、公示の工夫によって、どこを見ればよいのかが分かるようにすることでよいと思う。
  • 資料図4の審決公報の案については、訂正が認められなかった請求項を解釈する際には訂正されたすべての段落を訂正前の直前明細書に戻って読むという実務を踏まえ、訂正の対象となった段落だけでなく訂正前の直前明細書の段落をすべて列挙すれば十分ではないか。そのほうが、訂正した段落がどの請求項に対応するかという判断を巡る無用な争いも生じないと考えている。
  • データによると単に整合性を保つための明細書の訂正は結構多いようであり、実務上は本来訂正しなくても権利範囲の解釈や明細書の記載要件等についての判断に影響がない場合が結構存在するのではないか。不要な訂正によって明細書の束が発生する事態が生じているのであれば、「このような場合は訂正しなくてもよい」という例をガイドライン等で示していただき、不要な訂正はなるべくしないというコンセンサスができるようしていただけたらと思う。
  • 無効理由の回避のために明細書の訂正を必要とするという現状もあり、明細書の訂正の禁止は無理ではないかと思っている。
  • 明細書等の束の発生はできる限り回避したほうがいいと思うが、明細書の訂正を禁止するという案は、恐らくとれないのではないかと思う。だとすれば、やはりある程度明細書の束が発生することは回避し難いのではないか。
  • 公示の工夫に関して、複雑な事例の場合には具体的にどのような公報になるのかを、法改正の際には具体例をもって説明をしていただければと思う。

<訂正審判について>

  • 訂正請求については、最高裁判決において請求項単位ということが明確になったが、訂正審判請求については不明確であった。今回の案において、訂正審判についても請求項単位で扱うことが明確化されることは非常に大きな意義がある。
  • 企業実務的に見て余り問題が顕在化していないというのが実感であるから、訂正審判まで改正することについては異論がある。現状どおりでよいのではないか。
  • 無効審判の訂正請求とは異なり、訂正審判は特許権者だけの手続であるから、特許権ごと(一体不可分)に扱うことも可能ではないかとも思うが、訂正請求について請求項ごとに扱って訂正審判はあえて違う扱いをすることには合理的な理由が見出し難い。したがって、訂正請求に関する問題について適切な対応ができるのであれば、訂正審判も同じように扱えばよいと思う。
  • もともと改善多項制を採用した段階で、請求項ごとに可分に考えるという考え方は地裁・高裁をはじめとして多く支持されてきたところだろうと思う。その意味では、最高裁判決が傍論で述べたところとは異なる扱いになるかもしれないが、改善多項制の採用により、請求項ごとに可分に考えるという方向で訂正の取扱いが法律的に変わってくるということは当然いえることだと思う。したがって、無効審判の訂正請求と訂正審判とを同一に請求項ごとに扱っていくことは、今の法律の流れに沿うのではないかと思っている。

(3)無効審判の確定審決の第三者効の在り方について

資料3「無効審判の確定審決の第三者効の在り方について」に沿って事務局から説明を行った。

その後、自由討議を行ったところ、その概要は以下のとおり。

<検討の方向について>

  • 資料記載の理由付けに全面的に賛成であり、事務局案に賛成。
  • 167条の第三者効については、実務的には弊害があるとまではいえないとは思うが、せっかく本小委員会で議論に上り、必要性の観点あるいは手続保障の観点から第三者について同一事実・同一証拠に基づく無効審判が請求できないという規定の妥当性がいえない以上は、今回、削除という選択肢は十分あり得ると思う。そのような趣旨で事務局案に賛成。
  • 資料に記載されていることは非常に相当なことであると思う。とりわけ、当事者適格が限定されずに何人も請求することが認められているにも関わらず、その効力が第三者に当然に及んでしまうということは、正当化することはなかなか難しいように思うので、資料に記載されている事務局の原案に賛成。

(4)同一人による複数の無効審判請求の禁止について

資料4「同一人による複数の無効審判請求の禁止について」に沿って事務局から説明を行った。

その後、自由討議を行ったところ、その概要は以下のとおり。

<検討の方向について>

  • 今回のまとめにある、要旨変更の補正の制限、職権主義、あるいは審決取消訴訟の審理範囲も含めて同一人の複数回の無効審判請求の在り方について引き続き検討していただくということでよいと思う。
  • 事務局のまとめに全面的に賛成。1回の紛争だけを考えれば、そこで攻撃防御を尽くし事後の蒸し返しは認められないということはやむを得ないとは思うが、企業間の紛争は1回に限らず、1つの特許に対して後から別の製品に関して紛争が起きる場合がある。現実に、有力な無効資料が1回の紛争の結論が出た後に見つかる場合がある。そういう場合に、懸念になっている特許を事前に排除する仕組みがなくなるということは非常に問題があると思う。特に、資料では、実際には侵害訴訟と関連のない無効審判が7割程度あり、懸念になっている特許の事前排除の手段として低コストな紛争解決手段という位置づけで無効審判が活用されている例があるということなので、この点は無視してはならないと考えている。
  • 一定期間内に無効資料を漏れなく見つけ出すということが難しいといった理由があるので、やはり同一人による複数の無効審判請求を制約することに対しては反対であり、現行の制度を維持していただきたいと考えている。

(5)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱いについて

資料5「侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱いについて」に沿って事務局から説明を行った。

その後、自由討議を行ったところ、その概要は以下のとおり。

<検討の方向について>

  • 第28回の特許制度小委員会の後、持ち帰って議論したが、再審を制限するということについては賛否両論あるというのが現状である。反対意見の中には、事実として無効資料が侵害訴訟の後に見つかることがあることを理由とする意見があり、そのような場合の再審が制限される点でこれまでと大きく法律の枠組みが変わることについての抵抗がある。そういった場合に、それを蒸し返しと呼ぶのかというあたりも含めて改めて議論し、多くの意見を十分にくみ取っていただいた上で慎重に議論を進めていただけるとありがたい。
  • 「5.まとめ」でいうと、(1)、(2)、(3)、(4)については事務局の案に賛成。(5)については、②の場合は、本案訴訟と運命を共にするということにするべき。明文化せずとも、場合によっては②のような解釈になるとも思うが、あとは法律的にどこまで書いておけばよいのかという問題である。
  • 「5.まとめ」に従っていえば、(1)と(2)については事務局のまとめに賛成。(3)と(4)については特に不都合が思いつかないので反対はしない。(5)については、実務上、最近、本案訴訟が非常に早くなっているので、どの程度仮処分があるかはよく分からない部分もあるが、仮処分の性格を考えると、確定審決の遡及効を一律に制限する案には反対したい。

<差止を命じる判決について>

  • 差止は当然に解除されるべき。
  • 差止の解除の手段について、請求異議訴訟が可能であろうことが記載されており、その理由づけとして、請求異議訴訟において権利濫用である旨の主張をすることも記載されているが、確かに権利濫用で請求異議を認めた最高裁の判例はあるものの類型的にはかなりレアなケースと思われるので、特に訂正認容審決確定の場合まで権利濫用で請求異議が認められるというのは非常に難しいだろう。今回の改正で確定審決の遡及効を制限すれば、その審決が確定したという事実は口頭弁論終結後に起きている事実となり、それを請求異議事由ということで構成するのが一番素直ではないか。

<上告等の制限の要否について>

上告を制限することはあってはならないと考えている。

<補償金請求訴訟との関係について>

補償金請求訴訟についても侵害訴訟と同じに考えてよいと思っている。

<仮処分との関係について>

仮処分決定が最終的には本案判決で正しかったということが認定されているような場合には、本案の結論と運命を共にするのが一番適切ではないかと思う。確定審決の遡及効を一律制限せずに何らかの形で仮処分に関して損害賠償が課されないような方法もいろいろとあるのかもしれないが、その場合には、例えば仮処分を執行した場合に間接強制金が発生していたらそれを返すことになるのかなど、いろいろと問題が生ずる気がする。

<その他>

無効審決確定後も、本案の確定判決に基づき損害賠償請求権について強制執行ができるのであれば、当該損害賠償請求権を保全するためになされた仮差押命令の効力も失わないとしないと、論理が一貫しないと思うのだが、その点も検討していただきたい。

[更新日 2010年10月8日]