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商標権侵害行為に対しては、裁判所での民事手続による救済として、侵害行為等の差止めを求めること、損害賠償を請求すること、不当利得の返還を請求すること、信用回復のための措置等を求めることが可能で、これとは別に、刑事事件となれば裁判の結果、刑事罰の適用もありえます。
商標権侵害行為に対する差止めの態様としては、以下のものがあります(商標法第36条)。
このうち、3は、1または2とともにのみ請求することができます。また、差止請求の際には、侵害者に侵害についての故意または過失があることは要件ではありません。3については、侵害者が登録商標またはそれに類似した商標を商品タグだけに使用していた場合、タグを外された商品の廃棄まで求めることができるかが問題となりますが、商品とタグとが不可分一体で分離不可能になっているような事情があればともかく、商品自体に商標をまったく付していないような場合で容易に分離可能であれば、タグを外された商品の廃棄まで求めることは困難と思われます。
なお、既に商標権侵害が現実化しており、これを放置しては著しい損害が生じる可能性がある場合など緊急性があるときには、裁判所に対して、まず侵害行為の停止を内容とする仮処分を申立てることが考えられます。
商標権を侵害する模倣品を製造・販売・輸入するなどしている者に対して損害賠償請求することができます。損害賠償を請求するには、多くの事実について立証しなければならないところ、その立証活動は困難な場合も多いので、損害額については法律が算定規定を設けています(商標法第38条)。また、損害賠償請求の前提として必要な侵害者の故意・過失については、侵害行為について過失があったものと推定する(商標法第39条、特許法第103条)こととし、商標権者から侵害者に対する損害賠償請求を容易にしています。
商標法第38条第1項は、逸失利益額の認定による損害賠償額の算定方法を規定しています。模倣品が販売されている事例において、商標権者等は自身の使用の能力等の範囲内において、(1)販売数量減少による逸失利益、使用の能力等の範囲を超える部分においては(2)ライセンス機会の喪失による逸失利益が認められます。このような考え方に基づき、本規定は、商標権者等が、侵害行為がなければ販売することができた商品の単位数量あたりの利益額(一般的には、いわゆる限界利益のことをいいます。)に、侵害者が譲渡した模倣品の数量のうち商標権者等の使用の能力に応じた数量(「使用相応数量」といいます。)を乗じて得た額((1)の逸失利益)と、使用相応数量を超える数量の模倣品が譲渡された場合には、この数量分のライセンス相当額((2)の逸失利益)をそれぞれ計算し、その合計を損害額とすることができるとしています。
ただし、譲渡数量の全部または一部を商標権者等が販売することができない事情があるときは、当該事情に相当する数量(「特定数量」といいます。)は、(1)の逸失利益の計算の基礎となる数量からは控除され、(2)の逸失利益の計算の基礎にするものとされています。
この「販売することができない事情」は、例えば、侵害者の売上は侵害者側独自の営業努力に主因があること、品質や価格の違いから模倣品に対する需要がすべて真正品に向かうとは認定できないといったこと、模倣品に類似の商標以外にも独自の商標が使用されており需要者が侵害者の商品であるから購入したこと、競合商品の存在とその影響があること、商標が模倣品の付加価値全体の一部にのみ貢献していることなどがあり、侵害者が主張・立証することが予定されています。
また、商標が模倣品の付加価値全体の一部にのみ貢献している場合、商標権者等が侵害者にライセンスの許諾をし得たとは認められない場合(同項第2号かっこ書)として、第2号の損害額が認定されない場合があります。
なお、第2号のライセンス相当額の認定にあたっては、侵害の事実を前提として当事者間で合意をするであろう金額を考慮することができます(同条第4項)。
「損害額」=(「使用相応数量の限度における侵害者の譲渡等数量」-「特定数量」)×「権利者の単位あたりの利益」+「使用相応数量を超える数量又は特定数量に応じたライセンス相当額※」
※商標権者等が侵害者にライセンスの許諾をし得たとは認められない場合には損害額が認定されない。
例えば、侵害者が1万個の模倣品を売却した事例において、商標権者は1商品あたり、1000円の利益を得ていたことを立証できた場合、商標権者が、1万個の商品を販売することができたのであれば、商標権者の受けた損害額は1万円×1000円=1000万円ということになります。
また、商標権者が、3000個の商品しか販売することができなかったとしても、7000個についてはライセンス相当額を損害額として認めることができます。
商標法第38条第2項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けている時は、その利益の額をそのまま権利者の損害額と推定すると規定しています。同項によって損害を算定するためには、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することが必要です。また、「侵害の行為により」得た利益といえるのは、模倣品の売上げに当該商標が貢献した部分(寄与した部分)に限られます。そのため、この寄与した部分の割合(寄与率)が、損害賠償額の算定に当たり考慮されることがあります。
「損害額」※=「侵害者が得た利益」
※寄与率が損害賠償額の算定に影響する。
商標法第38条第3項は、たとえ侵害者が侵害行為によって利益を得ていなかったとしても、あるいは、何らかの理由により同条第1項、第2項の規定の適用が受けられない場合でも、侵害者に対し、ライセンス料相当額を損害賠償として請求できることを規定しています。同条第3項は損害額の最低限を法定した規定と考えられています。したがって、立証の困難性から本項に基づく請求を行うのが現実的な場合もあります。
また、ライセンス相当額の認定にあたっては、侵害の事実を前提として当事者間で合意をするであろう金額を考慮することができます(同条第4項)。
ただし、登録商標類似の標章を使用しても顧客誘引に全く寄与しなかったことを侵害者が証明すれば、損害不発生とされる場合があります。
「損害額」=「ライセンス相当額」
※損害不発生の抗弁の可能性がある。
例えば、侵害者が模倣品の販売によって、1000万円の売上をあげており、その登録商標のライセンス料率の相場が売上高の5%であるなら、50万円の損害が商標権者に生じたものとすることができます。
TPP協定上、商標の不正使用について、商標権の法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度の導入が要求されています。これに伴い、商標法第38条第5項は、商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者等が受けた損害の額とすることができる旨を規定しています。TPP協定上の商標の不正使用の範囲としては、書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標が使用された場合です。
商標権が侵害された場合、不当利得返還請求権を行使することができることもあります。
商標権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、商標権者の請求によって、信用を回復するための措置を命じることができます(商標法第39条、特許法第106条)。具体的には、侵害者の粗悪品によって、商標権者の業務上の信頼が害された場合と評価できれば、謝罪広告の掲載などの措置を求めることができます。
商標権を侵害した者は10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に処するとされているので、商標権を侵害されたときには刑事責任の追及も視野に入れることができます(商標法第78条)。また、懲役と罰金を併科(両方を科すこと)することができます。法人については、その業務に関して侵害行為を行った場合、その実行行為者の処罰に加えて、業務主体たる法人にも罰金刑が科されるとする、いわゆる両罰規定がおかれています(商標法第82条)。
[更新日 2024年2月14日]
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