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TRIPS協定 8

第7部 制度上の措置及び最終規定

 第68条 知的所有権の貿易関連の側面に関する理事会

貿易関連知的所有権理事会は,この協定の実施,特に,加盟国のこの協定に基づく義務の遵守を監視し,及び加盟国に対し,知的所有権の貿易関連の側面に関する事項について協議の機会を与える。同理事会は,加盟国により与えられる他の任務を遂行し,特に,紛争解決手続において加盟国が要請する支援を提供する。その任務を遂行するに当たって,同理事会は,適当と認める者と協議し,情報の提供を求めることができる。WIPOと協議の上,同理事会は,その1回目の会合から1年以内に,WIPOの内部機関と協力するための適当な取決めを作成するよう努める。

 第69条 国際協力

加盟国は,知的所有権を侵害する物品の国際貿易を排除するため,相互に協力することを合意する。このため,加盟国は,国内行政機関に連絡先を設け,これを通報し,及び侵害物品の貿易に関して情報を交換することができるように準備する。加盟国は,特に,不正商標商品及び著作権侵害物品の貿易に関して,税関当局間で情報の交換及び協力を促進する。

 第70条 既存の対象の保護

  • (1) この協定は,加盟国がこの協定を適用する日の前に行われた行為に関し,当該加盟国について義務を生じさせるものではない。
  • (2) この協定に別段の定めがある場合を除くほか,この協定は,加盟国のこの協定を適用する日における既存の保護の対象であって,当該加盟国において同日に保護されており又はこの協定に基づく保護の基準を満たし若しくは後に満たすようになるものに関し,当該加盟国について義務を生じさせる。この(2)から(4)までの規定について,既存の著作物についての著作権に関する義務は,1971年のベルヌ条約第18条の規定に基づいてのみ決定されるものとし,また,既存のレコードに関するレコード製作者及び実演家の権利に関する義務は,第14条(6)の規定に従って準用される同条約第18条の規定に基づいてのみ決定される。
  • (3) 加盟国がこの協定を適用する日に公共のものとなっている保護の対象については,保護を復活する義務を負わない。
  • (4) 保護の対象を含む特定の物に関する行為がこの協定に合致する加盟国の国内法令に基づき初めて侵害行為となる場合であって,当該行為が世界貿易機関協定を当該加盟国が受諾する日の前に開始されたとき又は当該行為について当該日の前に相当な投資が行われたときは,加盟国は,この協定を通用する日の後継続して行われる当該行為に関し権利者が利用し得る救済措置の制限を定めることができる。ただし,その場合には,加盟国は,少なくとも,衡平な報酬の支払を定める。
  • (5) 加盟国は,この協定を適用する日の前に購入された著作物の原作品又は複製物については,第11条及び第14条(4)の規定を適用する義務を負わない。
  • (6) 加盟国は,この協定が知られる日の前に使用の許諾が政府によって与えられた場合には,権利者の許諾を得ない使用について,第31条の規定又は特許権が技術分野について差別することなく享受されるとの第27条(1)の要件を適用することを要求されない。
  • (7) 加盟国において登録が保護の条件となっている知的所有権の場合には,当該加盟国がこの協定を適用する日に係属中の保護の出願については,この協定に規定する一層広範な保護を請求するために補正をすることを認める。当該補正には,新たな事項を含まない。
  • (8) 加盟国が世界貿易機関協定の効力発生の日に第27条の規定に基づく義務に応じた医薬品及び農業用の化学品の特許の保護を認めていない場合には,当該加盟国は,
    • (a) 第6部の規定にかかわらず,同協定の効力発生の日から,医薬品及び農業用の化学品の発明の特許出願をすることができるよう措置をとる。
    • (b) (a)の特許出願について,出願日又は,優先権が利用可能であり,かつ,主張される場合には,当該優先権に係る出願の日にこの協定に定める特許の対象に関する基準を適用していたものとして,この協定を適用する日に当該基準を適用する。
    • (c) (a)の特許出願であって,(b)の基準を満たすものについて,特許の付与の日以後,第33条の規定に従い(a)の特許出願の出願日から計算した特許期間の残りの期間この協定に従って特許の保護を与える。
  • (9) 加盟国において,ある物質が(8)(a)の規定に従ってされた特許出願の対象である場合には,第6部の規定にかかわらず,当該加盟国において販売の承認を得た日から5年間又は当該日から当該加盟国において物質特許が与えられ若しくは拒絶されるまでの期間のいずれか短い期間排他的販売権を認める。ただし,世界貿易機関協定が効力を生じた後他の加盟国においてその物質について特許出願がされ,特許が与えられ及び販売の承認が得られている場合に限る。

 第71条 検討及び改正

  • (1) 貿易関連知的所有権理事会は,第65条(2)に規定する経過期間が満了した後この協定の実施について検討する。同理事会は,この協定の実施により得られた経験を考慮に入れ,当該経過期間の満了の日から2年後及びその後も同一の間隔で検討を行う。同理事会は,また,この協定の修正又は改正を正当化する関連する新たな進展を考慮して検討を行うことができる。
  • (2) 他の多数国間協定で達成され,かつ,効力を有する知的所有権の一層高い保護の水準であって,世界貿易機関のすべての加盟国により当該協定に基づき受け入れられたものに適合するためのみの改正は,貿易関連知的所有権理事会のコンセンサス方式によって決定された提案に基づき,世界貿易機関協定第10条(6)の規定に従い閣僚会議が行動するために閣僚会議に付することができる。

 第72条 留保

この協定のいかなる規定についても,他のすべての加盟国の同意なしには,留保を付することができない。

 第73条 安全保障のための例外

この協定のいかなる規定も,次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。

  • (a) 加盟国に対し,その開示が自国の安全保障上の重大な利益に反するとその加盟国が認める情報の提供を要求すること
  • (b) 加盟国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要と認める次のいずれかの措置をとることを妨げること
    • (i) 核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
    • (ii) 武器,弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行われるその他の物品及び原料の取引に関する措置
    • (iii) 戦時その他の国際関係の緊急時にとる措置
  • (c) 加盟国が国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基づく義務に従って措置をとることを妨げること

附属書

  • (1) 第31条の2及びこの附属書の規定の適用上,
    • (a) 「医薬品」とは,知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び公衆の健康に関する宣言(文書番号WT/MIN(01)/DEC/2)の(1)において認められる公衆の健康に関する問題に対処するために必要とされる医薬分野の特許を受けた物又は特許を受けた方法によって生産された物をいう。医薬品には,その生産のために必要な有効成分及びその使用のために必要とされる診断用品を含むものと了解する。(注)
      (注)
      この(a)の規定は,(b)の規定の適用を妨げるものではない。

    • (b) 「輸入する資格を有する加盟国」とは,後発開発途上加盟国並びにその他の加盟国であって,貿易関連知的所有権理事会に対して第31条の2及びこの附属書に規定する制度(以下この附属書において「当該制度」という。)を輸入国として利用する意図を有する旨の通告(注1)を行ったものをいう。加盟国は,全面的に又は限られた範囲で,例えば,国家緊急事態その他の極度の緊急事態の場合又は公的な非商業的使用の場合にのみ,当該制度を利用する旨の通告をいつでも行うことができるものと了解する。一部の加盟国(注2)は,輸入する資格を有する加盟国として当該制度を利用しないことに留意し,他の一部の加盟国は,輸入する資格を有する加盟国として当該制度を利用するのは国家の緊急事態その他の極度の緊急事態の場合に限ることを表明していることに留意する。
      (注1)
      当該制度を利用するために,この通告が世界貿易機関の内部機関によって承認される必要はないものと了解する。
      (注2)
      オーストラリア,カナダ,欧州共同体並びに第31条の2及びこの附属書の規定の適用上はその構成国,アイスランド,日本国,ニュージーランド,ノルウェー,スイス並びにアメリカ合衆国

    • (c) 「輸出加盟国」とは,輸入する資格を有する加盟国のために医薬品を生産し,それを当該輸入する資格を有する加盟国に輸出するために当該制度を利用する加盟国をいう。

  • (2) 第31条の2(1)の条件は,次のとおりとする。
    • (a) 輸入する資格を有する加盟国(注1)は,貿易関連知的所有権理事会に対して次の条件を満たす通告(注2)を行う。
      (注1)
      第31条の2(3)に規定する地域的な機関は,当該機関の構成国であって当該制度を利用する輸入する資格を有する加盟国であるもののために,当該機関の構成国の同意を得て,この(a)の規定に従って要求される情報を提供する通告を共同で行うことができる。
      (注2)
      当該制度を利用するために,この通告が世界貿易機関の内部機関によって承認される必要はないものと了解する。
      • (i) 必要な医薬品の名称及び予測される数量を通告において特定すること(注)。
        (注)
        世界貿易機関事務局は,この通告を,世界貿易機関のウェブサイトの当該制度のために供されるページを通じて公に利用可能とする。
      • (ii) 後発開発途上加盟国以外の輸入する資格を有する加盟国にあっては,自国が,関係する医薬品の医薬分野における生産能力が不十分であるか又は生産能力がないことをこの附属書の付録に定めるいずれかの方法によって立証したことを通告において確認すること。
      • (iii) 医薬品が自国の領域において特許を受けている場合には,第31条及び第31条の2並びにこの附属書の規定に従い,強制実施許諾を与えているか又は与える意図を有していることを通告において確認すること(注)。
        (注)
        この(iii)の規定は,第66条(1)の規定の適用を妨げるものではない。

    • (b) 当該制度の下で輸出加盟国が与える強制実施許諾には,次の条件を含めるものとする。
      • (i) 輸入する資格を有する加盟国のニーズを満たすために必要な量のみを強制実施許諾に基づき生産することができること,及び貿易関連知的所有権理事会に対してそのニーズを通告した輸入する資格を有する加盟国に対して生産量の全部を輸出すること。
      • (ii) 強制実施許諾に基づいて生産された医薬品を,特定のラベル又はマークを付することにより,当該制度の下で生産されたものとして明確に特定すること。供給者は,特別の包装を行い,又は当該医薬品自体を特別な色若しくは形状とすることによって識別することが実行可能であり,かつ,価格に重大な影響を及ぼさない場合には,そのような方法により当該医薬品を識別すべきである。
      • (iii) 船積みが始まる前に,強制実施許諾を得た者がウェブサイト(注)に次の情報を掲示すること。
        • (i)の規定により各仕向地に供給される量
        • (ii)の規定による医薬品の特徴
        (注)
        強制実施許諾を得た者は,この目的のため,自己のウェブサイト又は世界貿易機関事務局の援助を得て世界貿易機関のウェブサイトの当該制度のために供されるページを利用することができる。

    • (c) 輸出加盟国は,強制実施許諾(それに附帯する条件を含む。)を与えたことを貿易関連知的所有権理事会に通告する(注1,注2)。提供する情報には,強制実施許諾を得た者の氏名又は名称及び住所,強制実施許諾が与えられた医薬品及びその量,当該医薬品が供給される予定の国並びに強制実施許諾の期間を含む。通告には,(b)(iii)に規定するウェブサイトのアドレスも表示する。
      (注1)
      当該制度を利用するために,この通告が世界貿易機関の内部機関によって承認される必要はないものと了解する。
      (注2)
      世界貿易機関事務局は,この通告を,世界貿易機関のウェブサイトの当該制度のために供されるページを通じて公に利用可能とする。

  • (3) 輸入する資格を有する加盟国は,当該制度の下で輸入される医薬品がその輸入の基礎を成す公衆の健康のために使用されることを確保するため,自国のとり得る手段の範囲内で,かつ,自国の行政上の能力及び貿易の転換の生ずる危険度に応じて,当該制度の下で自国の領域に実際に輸入された医薬品の再輸出を防止するための合理的な措置をとる。輸入する資格を有する加盟国であって開発途上加盟国又は後発開発途上加盟国であるものがこの(3)の規定を実施することが困難である場合には,先進加盟国は,その実施を促進するため,要請に応じ,かつ,相互に合意した条件により,技術協力及び資金協力を提供する。

  • (4) 加盟国は,当該制度の下で生産された医薬品であって第31条の2及びこの附属書の規定に反して自国の市場に仕向地が変更されたものが自国の領域に輸入され,及びその領域において販売されることを防止するため,この協定により既に利用可能とすることが要求されている手段を用いて,効果的な法的手段を利用可能とすることを確保する。このような手段がこの目的のために不十分であることが証明されているといずれかの加盟国が考える場合には,当該いずれかの加盟国の要請により,この問題を貿易関連知的所有権理事会で検討することができる。

  • (5) 医薬品の購買力を高め,及びその現地生産を促進するために規模の経済を活用することを目的として,第31条の2(3)に規定する加盟国に適用される広域特許の付与について定める制度の発展が促進されるべきであることが認められる。このため,先進加盟国は,第67条の規定に従い,技術協力(他の関連する政府間機関との連携による技術協力を含む。)を提供することを約束する。

  • (6) 加盟国は,医薬分野における生産能力が不十分であるか又は生産能力がない加盟国が直面する問題を克服するため,医薬分野における技術の移転及び能力の開発を促進することが望ましいことを認める。このため,輸入する資格を有する加盟国及び輸出加盟国は,この目的を促進するように当該制度を利用することが奨励される。加盟国は,医薬分野における技術の移転及び能力の開発に特別な注意を払って,第66条2及び知的所有権の貿易関連の側面に関する協定及び公衆の健康に関する宣言の(7)の規定に従って行われる活動その他貿易関連知的所有権理事会の関連する活動において協力することを約束する。
  • (7) 貿易関連知的所有権理事会は,当該制度の効果的な運用を確保するために当該制度の実施状況を毎年検討し,及び一般理事会に対して当該制度の運用について毎年報告する。

附属書の付録

 医薬分野における生産能力の評価

後発開発途上加盟国については,医薬分野における生産能力が不十分であるか又は生産能力がないものとみなす。

その他の輸入する資格を有する加盟国については,関係する医薬品の生産能力が不十分であるか又は生産能力がないことを次のいずれかの方法によって立証することができる。

  • (i) 当該輸入する資格を有する加盟国が,医薬分野における生産能力がないことを立証したこと。
  • (ii) 当該輸入する資格を有する加盟国が医薬分野における生産能力を有する場合には,当該輸入する資格を有する加盟国が,この生産能力を調査し,及びこの生産能力(特許権者の所有又は管理に係るものを除く。)が自国のニーズを満たすためにその時点において不十分であると認定したこと。この生産能力が当該輸入する資格を有する加盟国のニーズを満たすために十分になったことが立証される場合には,当該制度は,適用しない。

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