第Ⅱ部 明細書及び特許請求の範囲 第3章 発明の単一性
特許法第37条は、二以上の発明が一定の技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明であれば、これらの発明を一の願書で特許出願できる旨を規定している。
相互に技術的に密接に関連した発明について、それらを一の願書で出願できるものとすれば、出願人による出願手続の簡素化及び合理化並びに第三者にとっての特許情報の利用や権利の取引の容易化が図られるとともに、特許庁にとってはまとめて効率的に審査をすることが可能となる。こうした観点を踏まえ、第37条は設けられたものである。
このように、第37条は、出願人、第三者及び特許庁の便宜のための規定である。発明の単一性の要件を満たさない二以上の発明を含む出願であっても、発明に実体的な不備がなければ、発明の単一性の要件を満たさない二以上の発明について異なる特許出願とすべきであったという手続上の不備があるのみである。したがって、第37条の要件を満たさない特許出願がそのまま特許査定されることは、直接的に第三者の利益を著しく害することにはならない。このため、第37条の要件は、拒絶理由ではあるが、無効理由とはなっていない。
このような事情に鑑み、審査官は、第37条の要件の判断を必要以上に厳格にすることがないように留意する。
審査官は、特許請求の範囲に記載された発明のうち、発明の単一性の要件を満たす一群の発明(同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する一群の発明)のほか、一定の要件を満たす発明については、第37条以外の要件についての審査対象(以下この章において、単に「審査対象」という。)とする。そして、審査官は、審査対象とならない発明がある場合にのみ、特許出願が第37条の要件を満たさないと判断する。
審査対象とすべき発明の決定に当たっては、発明の特別な技術的特徴を把握し、発明の単一性の要件を判断することが必要となる。
審査官は、発明の単一性の要件についての判断及び発明の特別な技術的特徴の把握については、3.に従って行う。
審査対象の決定については、4.に従って行う。
(説明)特許請求の範囲に記載された全ての発明が発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しない場合は、本来であれば、その特許出願は、第37条の要件を満たさない。その場合は、審査官は、発明の単一性の要件を満たす一群の発明のみを審査対象とし、他の発明を審査対象とすることを要しない。
しかし、第37条が出願人等の便宜を図る趣旨の規定であることに鑑みて、発明の単一性の要件を満たす一群の発明のほか、一定の要件を満たす発明については、審査官は、審査対象とする。そして、審査官は、審査対象とならない発明がある場合にのみ、特許出願が第37条の要件を満たさないものと判断する。
ここで、「特別な技術的特徴」とは、発明の先行技術(注2)に対する貢献(先行技術との対比において発明が有する技術上の意義)を明示する技術的特徴を意味する。
(注1) 審査官は、通常、二以上の「請求項に係る発明」の間でこの判断をする。一の請求項において発明特定事項が形式上又は事実上の選択肢(以下この章において、単に「選択肢」という。「第Ⅲ部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の4.1.1(注1)を参照。)で表現されている場合は、各選択肢に基づいて把握される二以上の発明の間でも発明の単一性の要件を判断する。
(注2) 「先行技術」とは、第29条第1項各号に該当する発明を意味し、本願の出願時に公開されていないものは含まない。
審査官は、発明の単一性の要件についての判断をするに当たっては、一の発明の一の特別な技術的特徴に対し、その他の発明の特別な技術的特徴が同一の又は対応するものであるか否かによって判断する。
一の発明の一の特別な技術的特徴に対し、その他の発明の特別な技術的特徴が同一の又は対応するものである場合は、これらの発明は、発明の単一性の要件を満たす。
審査官は、「特別な技術的特徴が同一の又は対応するもの」であるか否かを判断する際は、単なる表現上の差異にとらわれず、実質的な内容に基づいて判断する。
また、特別な技術的特徴は、「同一の」場合と「対応する」場合のいずれともいえる場合があるので、審査官は、発明の単一性の要件についての判断をする際は、これらを厳密に区別して判断する必要はない。
ただし、「特別な技術的特徴」とされたものが、発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでないことが明らかとなった場合は、その技術的特徴が「特別な技術的特徴」であることが事後的に否定される(注3)。
ここで、「発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでないことが明らかとなった場合」とは、次の(ⅰ)から(iii)までのいずれかに該当する場合である。
[請求項1] 高分子化合物A(酸素バリアー性のよい透明物質)。
[請求項2] 高分子化合物Aからなる食品包装容器。
高分子化合物Aが先行技術に対する貢献をもたらす特別な技術的特徴である。請求項1及び2に係る発明は、いずれもこの技術的特徴を有しているから、同一の特別な技術的特徴を有する。
[請求項1] 光源からの照明光を一部遮光する照明方法。
[請求項2] 光源と光源からの照明光を一部遮光する遮光部を備えた照明装置。
照明光を一部遮光する点が先行技術に対する貢献をもたらす特別な技術的特徴である。請求項1及び2に係る発明は、いずれもこの技術的特徴を有しているから同一の特別な技術的特徴を有する。
二以上の発明において、先行技術に対して解決した課題(本願出願時に未解決である課題に限る。)が一致又は重複している場合は、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通している場合又は密接に関連している場合に該当する。
例3:[請求項1] 窒化ケイ素に炭化チタンを添加してなる導電性セラミックス。
[請求項2] 窒化ケイ素に窒化チタンを添加してなる導電性セラミックス。
請求項1及び2に係る発明は、窒化ケイ素に添加する物質がそれぞれ、炭化チタン及び窒化チタンである点で、異なる技術的特徴を有する。ここで、請求項1及び2に係る発明が先行技術に対して解決した課題は、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることである。したがって、請求項1及び2に係る発明は、先行技術に対して解決した課題が一致又は重複しているから、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通しているものであり、対応する特別な技術的特徴を有する。
なお、この例で、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることが、本願出願時に未解決である課題とはいえない場合は、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通している、又は密接に関連しているとはいえない。したがって、請求項1及び2に係る発明は、対応する特別な技術的特徴を有しない。
[請求項1] 映像信号を通す時間軸伸長器を備えた送信機。
[請求項2] 受信した映像信号を通す時間軸圧縮器を備えた受信機。
請求項1及び2に係る発明は、それぞれ、時間軸伸長器を備える送信機及び時間軸圧縮器を備える受信機である点で、異なる技術的特徴を有する。ここで、送信機において時間軸を伸長し映像信号を送信することと、受信機において映像信号を受信して時間軸を圧縮することとは、相補的に関連するものである。したがって、請求項1及び2に係る発明は、対応する特別な技術的特徴を有する。
審査官は、「特別な技術的特徴」及び「審査の効率性」に基づいて、審査対象を決定する。
具体的には、審査官は、以下の4.1及び4.2の決定手順のいずれかに基づいて審査対象と決定したものについては、第37条以外の要件についての審査をする(審査対象の具体的な決定手順の流れについては、後掲の図を参照。)。
「第II部第2章第5節 特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件」の2.に示したところに照らして、特定の請求項に係る発明について第36条第6項第4号及び特許法施行規則第24条の3第5号以外の要件についての審査対象から除外する場合には、当該請求項を除いた後の特許請求の範囲に基づいて、第37条以外の要件についての審査対象を決定する。
審査官は、以下の(1)から(4)までの手順により、「特別な技術的特徴」に基づいて審査対象とする発明を決定する。なお、請求項の発明特定事項が選択肢で表現されている場合(多数項引用形式の場合を含む。)は、審査官は、選択肢ごとに把握される発明が、その選択肢の順序でそれぞれ別の請求項として記載されているものとして以下の手順を行う。
(注1) 原則として、請求項1に係る発明である。請求項1の発明特定事項が選択肢で表現されている場合は、原則として、最初の選択肢を選んで把握される発明である。ただし、マーカッシュ形式で記載された化学物質に係る発明等の場合は、審査官は、実施例等の記載を考慮して、適切な選択肢を選んで把握される発明を、特許請求の範囲の最初に記載された発明とする。
(注2) 発明の「発明特定事項を全て含む」場合とは、例えば、以下の(ⅰ)から(iv)までのいずれかの場合である。発明特定事項を全て含むか否かの判断においては、審査官は、請求項が形式的に独立形式であるか引用形式であるかにとらわれずに判断する。
(注3) 次に特別な技術的特徴の有無を判断しようとする請求項に係る発明が以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の両方に該当する場合は、審査官は、更に特別な技術的特徴の有無を判断することを要しない。
(注4) 審査官は、特別な技術的特徴を発見した発明とその他の発明とが同一の又は対応する特別な技術的特徴を有するか否かの判断をする際は、3.に従って判断する。
なお、審査官は、この判断を、特別な技術的特徴を発見した発明とその他の発明との間に共通する技術的特徴を把握し、その技術的特徴が特別な技術的特徴であるか否かを判断することによって行うこともできる。ただし、審査官は、この手法で特別な技術的特徴が発見されなかった場合でも、その共通する技術的特徴とは異なる技術的特徴について特別な技術的特徴が発見される場合があることに留意する。
(注5) 特別な技術的特徴が発見された発明が複数の異なる特別な技術的特徴を有する場合は、審査官は、いずれか一つの特別な技術的特徴を選択し、その特別な技術的特徴と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明を審査対象とする。
その際は、ある特別な技術的特徴を選択すると、他の特別な技術的特徴を選択したときよりも、出願人にとって有利な審査対象が選択される場合(例えば、その特別な技術的特徴を選択すると、他の特別な技術的特徴を選択した場合に審査対象となる発明を包含する、より多くの発明が審査対象となるような場合)は、審査官は、そのような特別な技術的特徴を優先して選択する。
審査官は、審査対象とした発明とまとめて審査をすることが効率的である発明については、審査対象に加える。審査官は、まとめて審査をすることが効率的であるか否かを、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載、出願時の技術常識、先行技術調査の観点等を総合的に考慮して判断する。
審査官は、例えば、以下の(1)又は(2)に該当する発明は、審査対象とした発明とまとめて審査をすることが効率的である発明として、審査対象に加える。
ただし、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する発明は除外してもよい。
なお、(ⅰ)の関連性及び(ⅱ)の技術的関連性については、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載並びに出願時の技術常識(注3)に加え、先行技術調査の観点を考慮して判断する。
(注1) 審査官は、特許請求の範囲の最初に記載された発明が解決しようとする課題を、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載並びに出願時の技術常識(注3)を考慮して把握する。把握された課題が複数ある場合は、審査官は、4.1において審査対象とした他の発明が解決しようとする課題も考慮して、一の課題を把握する。把握された課題が既に解決済みの周知のものである場合も、同様の手法で課題を把握する。
(注2) 特許請求の範囲の最初に記載された発明が出願時の技術常識(注3)に属するものである場合は、4.1において審査対象とした他の発明の技術的特徴も考慮して、特許請求の範囲の最初に記載された発明の技術的特徴を把握する。
(注3) 「技術常識」とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術及び慣用技術を含む。)又は経験則から明らかな事項をいう(「第1章第1節 実施可能要件」の2.参照)。
特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの請求項に係る発明は、一般的には特許請求の範囲の最初に記載された発明と同一の又は関連する技術分野に属するものであり、類似の観点で先行技術調査をすることができる場合が多い。したがって、原則として、特許請求の範囲の最初に記載された発明とまとめて審査をすることが効率的である発明として審査対象に加える。
ただし、上記(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する発明は、異なる観点での先行技術調査が必要となることから、まとめて審査をすることが効率的であるとはいえない。したがって、審査官は、これらの発明を審査対象から除外してもよい。
例えば、以下の(ⅰ)から(ⅴ)までのいずれかに該当する発明は、通常、実質的に追加的な先行技術調査及び判断を必要とすることなく審査をすることが可能である発明である。
(注4) 特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明に対して第29条第1項各号に掲げる発明として引用された発明のことをいい、本願の出願時に公開されていないものは含まない。
請求項1及び2に係る発明に特別な技術的特徴はなく、請求項3に係る発明に特別な技術的特徴が発見された。請求項4、7~9及び12に係る発明は、発見された特別な技術的特徴と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明である。
また、請求項5、6、10及び11に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である。ただし、請求項1に係る発明に対して追加された技術的特徴から把握される請求項10に係る発明が解決しようとする具体的な課題と、請求項1に係る発明が解決しようとする課題との関連性は低い。また、請求項1に係る発明に対して追加された請求項11に係る発明の技術的特徴と、請求項1に係る発明の技術的特徴との技術的関連性は低い。
請求項13は、請求項1と表現上の差異があるだけの発明である。
請求項14は、請求項6と表現上の差異があるだけの発明である。
この例の場合は、審査官は、以下のように審査対象を決定する。
請求項1~3に係る発明は、特別な技術的特徴の有無を判断した発明として審査対象とする。
請求項4、7~9及び12に係る発明は、発見された特別な技術的特徴と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明として、審査対象とする。
請求項5及び6に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明であるから、審査対象に加える。
請求項10に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明であるが、請求項1に係る発明が解決しようとする課題と、請求項1に係る発明に対して追加された技術的特徴から把握される発明が解決しようとする具体的な課題との関連性が低い。よって、請求項1~9及び12に係る発明について審査をした結果、実質的に追加的な先行技術調査及び判断を必要とすることなく審査をすることが可能である発明ではなく、かつ、まとめて審査をすることが効率的であるといえる他の事情もない場合は、請求項10に係る発明は審査対象から除外してもよい。
請求項11に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明であるが、請求項1に係る発明の技術的特徴と請求項1に係る発明に対して追加された技術的特徴との技術的関連性が低い。よって、請求項1~9及び12に係る発明について審査をした結果、実質的に追加的な先行技術調査及び判断を必要とすることなく審査をすることが可能である発明ではなく、かつ、まとめて審査をすることが効率的であるといえる他の事情もない場合は、請求項11に係る発明は、審査対象から除外してもよい。
請求項13に係る発明は、請求項1に係る発明と表現上の差異があるだけの発明であり、請求項1に係る発明について審査をした結果、実質的に追加的な先行技術調査及び判断を必要とすることなく審査をすることが可能である発明であるので、審査対象に加える。
請求項14に係る発明は、請求項6に係る発明と表現上の差異があるだけの発明であり、請求項6に係る発明について審査をした結果、実質的に追加的な先行技術調査及び判断を必要とすることなく審査をすることが可能である発明であるので、審査対象に加える。
審査官は、審査対象とならない発明があり、特許出願が第37条の要件を満たさないと判断した場合は、特許出願が第37条の要件を満たしていない旨の拒絶理由通知をする。審査官は、拒絶理由通知に、審査対象とならない発明を明示するとともに審査対象とならない理由を記載する。
「物を生産する方法や、物を生産する機械、器具、装置その他の物」(以下この章において「生産方法、生産装置等」という。)が「物」の生産に適している場合は、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。「生産方法、生産装置等」により、その「物」以外の物も生産される場合であっても、その「物」の生産に適しているものであれば、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
ここで、「物を生産する機械、器具、装置その他の物」における「その他の物」には、触媒、微生物等、他の原料、被加工体等に作用してそれに変化を生じさせ生産物を得るもの全てが含まれる。
「生産方法、生産装置等」が「物」の生産に「適している」とは、例えば、「生産方法、生産装置等」の特別な技術的特徴により、原材料から「物」の特別な技術的特徴(その「物」自体の場合を含む。)への変化が必然的にもたらされることをいう。この場合は、「生産方法、生産装置等」の特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は、その「物」の特別な技術的特徴をもたらすことである。したがって、それぞれの特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は密接に関連しており、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
「物を使用する方法」が「物」の使用に「適している」とは、例えば、「物を使用する方法」の特別な技術的特徴が、「物」の特別な技術的特徴の特有な性質又は機能を使用していることをいう。
この場合は、「物を使用する方法」の特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は、その「物」の特別な技術的特徴の特有な性質又は機能を使用することである。したがって、それぞれの特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は密接に関連しており、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
「物の特定の性質を専ら利用する物」の特別な技術的特徴が「物」の特別な技術的特徴の特定の性質を専ら利用している場合は、「物の特定の性質を専ら利用する物」の特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は、その「物」の特別な技術的特徴の特定の性質を専ら利用することである。したがって、それぞれの特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は密接に関連しており、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
「物を取り扱う方法や、物を取り扱う物」(以下この章において「取扱方法又は取り扱う物」という。)が「物」の取扱いに適している場合は、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。その「物」以外の物の取扱いにも適用可能な場合であっても、その「物」の取扱いに適しているものであれば、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
「取扱方法又は取り扱う物」が「物」の取扱いに「適している」とは、例えば、「取扱方法又は取り扱う物」の特別な技術的特徴が、「物」の特別な技術的特徴に対して外的な作用を施すことにより機能を必然的に維持又は発揮させ、基本的にはその「物」を本質的に変化させないことをいう。
この場合は、「取扱方法又は取り扱う物」の特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は、その「物」の特別な技術的特徴の機能を必然的に維持又は発揮させることである。したがって、それぞれの特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は密接に関連しており、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
「方法の実施に直接使用する機械、器具、装置その他の物」(以下この章において「実施に使用する装置等」という。)が「方法」の実施に直接使用することに適している場合は、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。その「方法」以外の方法の実施に直接使用できる場合であっても、その「方法」の実施に直接使用することに適しているものであれば、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。また、「方法の実施に直接使用する機械、器具、装置その他の物」における「その他の物」には、触媒、微生物、原料、被加工体等、機械、器具、装置以外の方法の実施に直接使用するものが全て含まれる。
「実施に使用する装置等」が「方法」の実施に直接使用することに適しているとは、例えば、「実施に使用する装置等」の特別な技術的特徴が「方法」の特別な技術的特徴の実施に直接使用されることをいう。
この場合は、「実施に使用する装置等」の特別な技術的特徴がもたらす、発明の先行技術に対する貢献は、その「方法」の発明の特別な技術的特徴を実施することである。したがって、それぞれの特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢献は密接に関連しており、両者は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
請求項がマーカッシュ形式で記載されている場合は、審査官は、各選択肢に基づいて把握される発明が、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しているか否かで、請求項内の発明の単一性の要件を判断する。
特に、マーカッシュ形式で記載された請求項が化合物の択一的記載である場合は、以下の(i)及び(ii)の両方の要件が満たされれば、各選択肢に基づいて把握される発明は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
(注1) 「各選択肢に基づいて把握される全ての発明が重要な化学構造要素を共有している」とは、各選択肢に基づいて把握される全ての化学物質が、その化学構造の大きな部分を占める共通した化学構造を有しているような場合をいう。各選択肢に基づいて把握される全ての化学物質がその化学構造のわずかな部分しか共有しない場合においては、その共有されている化学構造が従来の技術からみて構造的に顕著な部分を構成する場合をいう。化学構造要素は一つの部分のこともあれば、互いに連関した個々の部分の組合せのこともある。
(注2) 「一群のものとして認識される化学物質群」とは、同じように作用するであろうことが、その技術分野における知識から予想される化学物質群をいう。言い換えると、この化学物質群に属する各化学物質を互いに入れ換えても同等の結果が得られる、ということである。
なお、マーカッシュ形式の選択肢の場合において、選択肢に基づいて把握される発明の少なくとも一つが先行技術の中に発見された場合等は、審査官は発明の単一性の要件を満たすか否か再考する必要がある。
中間体に関する発明と最終生成物に関する発明とは、以下の(i)及び(ii)の両方の要件が満たされれば、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
構造が不明な場合でも、中間体と最終生成物が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にあるといえる場合がある。例えば、構造が明らかな中間体と構造が不明な最終生成物、あるいは、構造が不明な中間体と構造が不明な最終生成物が、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にあるといえる場合がある。
このような場合に同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にあるといえるためには、例えば、中間体が最終生成物と同一の主要な構造要素を含んでいる、又は中間体が最終生成物に主要な構造要素を組み込むというように、中間体と最終生成物の構造が技術的に相互に密接に関連していることを示す十分な証拠がなければならない。
一つの最終生成物の製造のための異なるプロセスで使用される別々の中間体に同一の主要な構造要素がある場合は、この主要な構造要素が同一の又は対応する特別な技術的特徴である。したがって、最終生成物及び別々の中間体に関する発明は、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する関係にある。
中間体及び最終生成物が共に化合物の群を成すように請求項に記載されている場合は、各中間体化合物は請求項に係る最終生成物のうちの一つの化合物に対応していなければならない。ただし、最終生成物の幾つかは中間体の群の中に対応する化合物がない場合もある。したがって、二つの群は完全に一致する必要はない。
中間体が他の効果を有する、又は他の活性を示すことは、発明の単一性の判断に影響を及ぼすものではない。