第Ⅳ部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第3章 発明の特別な技術的特徴を変更する補正
特許法第17条の2第4項は、発明の特別な技術的特徴を変更する補正を禁止する規定である。発明の特別な技術的特徴を変更する補正とは、以下の(i)及び(ii)の発明の間で発明の単一性の要件を満たさないものとなる補正であり、第17条の2第4項は、第37条の発明の単一性の要件を、補正前と補正後の特許請求の範囲に記載された発明の間に拡張するものである。
発明の特別な技術的特徴を変更する補正がされると、審査官がそれまでになされた先行技術調査、審査の結果を有効に活用することができなくなる場合がある。その場合は、審査官が先行技術調査、審査をやり直すこととなるため、迅速、的確な権利付与に支障が生じる。また、出願間の取扱いの公平性も、十分に確保されなくなる。こうした観点を踏まえ、特許法は、第17条の2第4項の規定を設けている。
他方、発明の特別な技術的特徴を変更する補正がなされたとしても、発明に実体的な不備がなければ、出願人が補正後の全ての発明について審査を受けるためには、出願の分割をして二以上の特許出願とすべきであったという手続上の不備があるのみである。したがって、発明の特別な技術的特徴を変更する補正がなされた特許出願が、そのまま特許査定されたとしても直接的に第三者の利益を著しく害することにはならない。そのため、第17条の2第4項の要件は、拒絶理由ではあるが、無効理由とはされていない。
このような事情に鑑み、審査官は、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かの判断を必要以上に厳格にすることがないように留意する。
審査官は、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かを判断するに当たっては、以下の(i)及び(ii)の発明が、一の願書で特許出願されたと仮定した場合に、その特許出願が第37条の要件を満たすか否かによって判断する。
その特許出願が第37条の要件を満たさない場合は、審査官は、当該補正は発明の特別な技術的特徴を変更する補正であると判断する。
なお、審査がなされた結果、新規性、進歩性、拡大先願、先願についての拒絶理由が発見されなかった発明も、「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」である。
第17条の2第4項が第37条に規定される発明の単一性の要件を補正前と補正後の特許請求の範囲の発明の間に拡張するものであることに鑑みて、審査官は、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かの判断を、第37条の要件を満たすか否かの判断に準じて行う。
審査官は、以下の(1)から(3)までの手順により、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かを判断する。
審査官は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載、出願時の技術常識並びに補正前の拒絶理由通知で引用された先行技術に基づいて補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かの判断における発明の特別な技術的特徴を把握する。
例えば、審査官は、拒絶理由通知後の審査において新たに発見した先行技術に基づいて特別な技術的特徴を把握することで、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かの判断をしてはならない。
補正前の請求項2、3に係る発明は、それぞれ補正前の請求項1、2に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である。請求項1、2に係る発明には特別な技術的特徴がなく、請求項3に係る発明に特別な技術的特徴が発見された。この出願に対して、審査官は、一回目の拒絶理由通知において、請求項1、2に係る発明に新規性欠如、請求項3に係る発明に進歩性欠如の拒絶理由通知をした。その拒絶理由通知の後に、出願人は、特許請求の範囲を、請求項3の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である請求項(1)~(3)に係る発明、及び請求項3に係る発明に発見された特別な技術的特徴と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する請求項(4)~(6)に係る発明に補正した。
審査官は、補正後の請求項(1)~(6)に係る発明が、補正前の請求項1~3に係る発明に続けて記載されていたと仮定する。すなわち、補正後の請求項(1)~(6)に係る発明が、補正前の請求項4~9に係る発明であると仮定する。そして、請求項(1)~(6)までに係る発明が、第37条の要件以外の要件についての審査対象となるか否かを判断する。
例1の場合は、請求項(1)~(6)に係る発明は、請求項3に係る発明に発見された特別な技術的特徴と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明である。したがって、請求項(1)~(6)に係る発明は、第37条の要件以外の要件についての審査対象となる。
よって、この補正は、発明の特別な技術的特徴を変更する補正ではない。
補正前の請求項2、3に係る発明は、それぞれ請求項1、2に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である。補正前の請求項1~3に係る発明には特別な技術的特徴がなく、この出願に対して、審査官は、一回目の拒絶理由通知において、請求項1~3に係る発明に新規性欠如の拒絶理由を通知した。当該拒絶理由通知後に、出願人は、特許請求の範囲を、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である請求項(1)~(3)に係る発明に補正した。
審査官は、補正後の請求項(1)~(3)に係る発明が、補正前の請求項1~3に係る発明に続けて記載されていたと仮定する、すなわち、補正後の請求項(1)~(3)に係る発明が、補正前の請求項4~6に係る発明であると仮定する。そして、請求項(1)~(3)までに係る発明が、第37条の要件以外の要件についての審査対象となるか否かを判断する。
例2の場合は、請求項(1)~(3)に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である。この場合は、請求項(1)~(3)に係る発明は、原則として、まとめて審査をすることが効率的である発明として第37条の要件以外の要件についての審査対象とするものである。
よって、この補正は、発明の特別な技術的特徴を変更する補正ではない。
ただし、請求項(1)~(3)に係る発明が、以下の(i)又は(ii)に該当する発明であって、請求項1に係る発明とまとめて審査をすることが効率的であるといえる他の事情がない場合は、審査官は、請求項(1)~(3)に係る発明を、第37条の要件以外の要件についての審査対象から除外できる。
その場合は、この補正は、発明の特別な技術的特徴を変更する補正である。
補正前に拒絶理由通知が複数回なされている場合は、審査官は、それぞれの拒絶理由通知に対する応答としてその補正がされたものと仮定して、それぞれの仮定について3.1に従って当該補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であるか否かを判断する。
いずれかの仮定において当該補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であると判断された場合は、審査官は、当該補正を、発明の特別な技術的特徴を変更する補正であると判断する。
また、審査官は、上記の判断において、全ての仮定で審査対象となる発明を、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とする。
審査官は、3.に基づいて、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であると判断した場合は、その旨の拒絶理由通知、補正の却下の決定等をする。
拒絶理由通知、補正の却下の決定等をする際には、審査官は、補正が発明の特別な技術的特徴を変更する補正であると判断した理由を具体的に説明するとともに、審査対象とならない発明を明示する。
審査を進める際は、「第1章 補正の要件」の4.、「第I部第2章第4節 意見書・補正書等の取扱い」及び「第I部第2章第6節 補正の却下の決定」も参照。