第Ⅳ部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正  第1章 補正の要件

第1章 補正の要件(特許法第17条の2)

1. 概要

特許法第17条の2は、明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この部において「明細書等」という。) について補正をすることができる時期及び範囲について規定している。

手続の円滑で迅速な進行を図るためには、出願人が初めから完全な内容の書類を提出することが望ましい。しかし、先願主義の下では出願を急ぐ必要があること等により、実際には完全なものを望み得ない場合がある。また、審査の結果、拒絶理由が発見された場合等、明細書等に手を加える必要が生じる場合もある。そのため、同条は、明細書等について補正をすることができることとしている。ただし、時期的にいつでも自由に補正ができるとすると、手続を混乱させ、出願の処理の遅延を招くから、同条は、補正をすることができる時期を規定している(時期的要件)。また、迅速な権利付与を担保し、出願の取扱いの公平性や出願人と第三者のバランスを確保するため、同条は、補正をすることができる範囲を規定している(実体的要件)。

本章では、明細書等についてする補正の要件を概観し、「第2章 新規事項を追加する補正」から「第4章 目的外補正」までにおいて、実体的要件の具体的な判断基準を取り扱う。

2. 補正の時期的要件

出願人は、以下の(i)から(v)までのいずれかの時期に、明細書等について補正をすることができる(第17条の2第1項)。

(注1)国際特許出願については、「第VIII部 国際特許出願」の4.2を参照。
(注2)第48条の7の規定による通知については、「第II部第1章第3節 先行技術文献情報開示要件」を参照。

3. 補正の実体的要件

出願人は、実体的要件を満たす範囲で、明細書等について補正をすることができる(第17条の2第3項から第6項まで)。実体的要件は、補正をする時期に応じて、以下のとおり定められている。明細書等について補正をすることができる範囲は、審査が進行するにつれて次第に制限される。

3.1 一回目の審査結果が出願人に送られるまで

補正は、新規事項を追加する補正であってはならない(第17条の2第3項。「第2章 新規事項を追加する補正」参照)。

3.2 最初に拒絶理由通知がなされた後

また、実体的要件を満たさない補正の取扱いも、補正をする時期によって異なる。3.1又は3.2(1)の場合において補正が実体的要件を満たさないときは、拒絶理由となる。3.2(2)の場合において補正が実体的要件を満たさないときは、補正の却下の対象となる。

補正をする時期と実体的要件との関係及び実体的要件を満たさない補正の取扱いは、以下の図のとおりである。

(図)補正をする時期と実体的要件との関係及び実体的要件を満たさない補正の取扱い

4. 補正の実体的要件についての判断に係る審査の進め方

第2章 新規事項を追加する補正」から「第4章 目的外補正」までに共通する、補正の判断に係る審査の進め方は、以下のとおりである。審査を進める際は、「第2章 新規事項を追加する補正」から「第4章 目的外補正」まで及び「第I部 審査総論」も参照。