第Ⅹ部 実用新案 第1章 実用新案登録の基礎的要件
実用新案法は、考案の早期権利保護を図る観点から、一定の要件を満たす実用新案登録出願に対して実体審査を経ることなく実用新案権の設定登録をすることとしている(実用新案法第14条第2項(以下この部において、条項の前の法令名を省略している場合は、実用新案法の条項を示すこととする。))。第6条の2は、この一定の要件(方式要件を除く。)について規定している(以下この部において、第6条の2の要件を「基礎的要件」という。)。
実用新案法は、実用新案登録出願に対して実体審査を経ることなく実用新案権を付与することとしているが、設定登録を権利付与の要件としている。そのため、実用新案登録出願は、第2条の2第4項で規定された方式要件に加え、設定登録を受けるに足る一定の要件を満たす必要がある。このような観点から、第6条の2は設けられたものである。
実用新案登録出願に対し、この基礎的要件が課されていることにより、実用新案法の保護対象でない考案について実用新案権が設定されたり、実質的に出願書類の体をなしていない出願がそのまま登録されたりすること等の不都合が防止される。
具体的には、基礎的要件は、以下の(ⅰ)から(ⅴ)までのいずれかの場合に満たしていないと判断される。
なお、実用新案権の設定登録がなされた後であっても、第14条の2第1項の訂正に係る訂正書が提出された場合には、基礎的要件の審査がなされる(第14条の3)。
実用新案登録出願が以下の2.1から2.5までのいずれにも該当しない場合は、その実用新案登録出願は基礎的要件を満たしていると判断される。他方、実用新案登録出願が以下の2.1から2.5までのいずれかに該当する場合は、その実用新案登録出願は基礎的要件を満たしていないと判断される。
保護対象違反か否かの判断の対象となる考案は、請求項に係る考案である。請求項に記載された考案が2.1.1(1)の「考案」でない場合は、保護対象違反に該当する。また、請求項に係る考案が「物品の形状、構造又は組合せ」に係るものでない場合も、保護対象違反に該当する。
「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう(第2条第1項)。
「物品」とは、空間的に一定の形を保有したもので、一般に、商取引の対象となり、自由に運搬可能な商品で、使用目的が明確なものをいう。 なお、機械、装置等の一部であって、当該機械、装置等と分離して取引されるようなもので、前記の定義を満たすものであれば、その部分が「物品」として取り扱われる。
「形状」とは、線や面などで表現された外形的な形をいう。例えば、カムの形、歯車の歯形及び工具の刃型がこれに該当する。
「構造」とは、空間的、立体的に組み立てられた構成で、物品の外観だけでなく、平面図と立面図とを用いて、場合によっては更に側面図や断面図を用いて表現されるような構成をいう。なお、道路や建築物等の構造も、物品に関する構造として取り扱われる。
物品の「組合せ」とは、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の両方に該当するものをいう。
例えば、ボルトとナットからなる締結具がこれに該当する。
保護対象違反の例としては、以下のようなものがある。
具体例は、「第Ⅲ部第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性」の2.1と同様である。
公序良俗等違反か否かの判断の対象となる考案は、請求項に係る考案である。請求項に係る考案が公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するものであることが明らかな場合に、公序良俗等違反に該当する。公序良俗等違反に該当するか否かは、「第Ⅲ部第5章 不特許事由」の2.に準じて判断される。
実用新案登録請求の範囲の記載が以下の(ⅰ)から(ⅴ)までのいずれかに該当する場合に、実用新案登録請求の範囲に関する委任省令要件違反に該当する。
考案の単一性違反に該当するか否かは、基本的には、「第Ⅱ部第3章 発明の単一性」に準じて判断される。
「第Ⅱ部第3章 発明の単一性」においては、特別な技術的特徴の認定は、特許法第29条第1項各号に該当する発明である先行技術との対比でなされる。しかしながら、実用新案登録の基礎的要件の審査では、先行技術調査はなされない。そのため、考案の先行技術に対する貢献を明示する特別な技術的特徴については、明細書、実用新案登録請求の範囲及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて認定される。第14条の2第1項の訂正に係る訂正書が提出された場合になされる基礎的要件の審査においても同様である。
以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかに該当する場合には、明細書等の著しい記載不備に該当する。
記載が著しく不明確である場合とは、一見して記載が不明確であると判断される場合(例えば、他の記載との関係を精査することなく不明確であると判断される場合)をいう。
明細書(例えば、考案の名称、図面の簡単な説明)又は図面の記載内容が不明瞭であると一見して判断される場合は、明細書又は図面の著しい記載不備に該当する。
基礎的要件を満たさない出願について、特許庁長官は、補正をすべきことを命ずることができる(第6条の2)。また、補正命令において指定した期間内にその補正がされない場合は、特許庁長官は、出願を却下することができる(第2条の3)。