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特集1:ユニ・チャーム株式会社
「NOLA & DOLA」※を経営理念として、人々の生活におけるさまざまな負担からの解放を目指し、
画期的な商品を世に送り出すユニ・チャーム株式会社。その製品開発にかける想い、
そして海外展開および知財戦略の取組を、同社特許部長の下江氏に伺いました。
※Necessity of Life with Activities & Dreams of Life with Activitiesの略。
ユニ・チャーム株式会社 知的財産本部 特許部長
下江 成明氏
1994年入社、開発本部に配属。おむつなどに使用される不織布や接着剤などの素材開発や、パンツ型おむつの商品開発に従事。99年に法務特許部へ異動し、2000年に知財部立ち上げに参画。19年より現職。
PROFILE
ユニ・チャーム株式会社
1961年に建材メーカーとして創業後、生理用ナプキンで現在の基礎をつくる。タンポン、紙おむつ、ペットケア用品で国内首位。アジア地域を中心に1980年代から海外にも進出し、現在では海外売上高比率が60%を超える。
[所在地] 東京都港区三田3-5-27 住友不動産三田ツインビル西館
[TEL] 03-3451-5111
[URL] https://www.unicharm.co.jp(外部サイトへリンク)
[設立年] 1961年
[業種] 化学
[従業員数] 16,304名(2019年12月)
ユニ・チャームが衛生用品に参入するきっかけになったのは、創業者・高原慶一朗のアメリカ視察でした。昭和40年代当時、日本では薬局でしか生理用ナプキンを売っていませんでした。わざわざ薬剤師にお願いしないと買えない、女性にとって手に取りづらい商品だったのです。ところがアメリカでは全然扱いが違う。スーパーマーケットに生理用品が山のように積んである。日本でもこの光景を当たり前にしたい……そんな想いから高原は衛生用品の開発を決断したようです。当初は、ナプキンをはじめとした女性主体の商品を展開してきましたが、近年では商品の幅も広がってきており、掃除用品やペット用品、大人用の排泄ケア商品なども手掛けています。
海外への展開にも積極的に取り組んでいます。1984年の台湾への展開から始まり、タイ、オランダ、韓国、中国、インドネシア、マレーシアなどアジアを中心に進出しており、現在では80を超える国や地域で事業を展開しております。売上高の比率も、現在は海外売上高が6割を超えている状況です。
海外の人々に受け入れてもらうには、それぞれの国・地域の環境に合わせて商品を変えていかねばなりません。例えばマレーシアでは、デング熱という致死性の高い感染症が切実な問題となっています。現地に在住している当社のマーケターがその危険性を身をもって感じたことで、天然由来の忌避剤を塗布した子供向けのおむつを企画しました。媒介となる蚊を忌避剤によって近づけないようにすることで、感染を防ぐ仕組みとなっています。
もう一つ海外の例を挙げると、中国の「尤妮佳(ユニジャ)moony緻皇家(ヂュファンジャ)」という紙おむつのプレミアムラインなども、地域性の高い商品です。中国では金色が好まれることもあって、「ムーニー」のロゴを金のエンブレムで印刷することで高級感を演出しました。あわせて、生地にパールエキスを配合することで、肌触りの良いふわふわの素材を作り上げています。
日本国内の身近な例ですと、十年ほど前に私が担当していた超快適マスクです。当時、いわゆるプリーツマスクと呼ばれる製品は、ゴムの中にウレタンが入っている耳ゴムが一般的でした。超快適マスクでは、伸縮する不織布を使うことで通常より幅広の耳ゴムを実現し、耳に当たる面積が広くなることで痛みを軽減しています。超快適シリーズは特許をはじめ、意匠や商標も登録しています。
超立体マスク・超快適マスク
尤妮佳moony緻皇家
MamyPoko Extra Dry Protect
ユニ・チャームでは、これらの商品を守るために知財を積極的に活用しています。中でも力を入れているのが、特許や実用新案、意匠、商標といった複数の知財で商品を多面的に保護する「知財ミックス」です。これには二つの目的があります。一つは、プレミアム商品への参入抑止です。新技術の特許を取得することで他社の追随を防ぎ、商品の差別化を図っています。もう一つは、ロープライスの類似商品の展開の抑止。ユニ・チャームの商品はアジア地域では特にブランド力が高く、外観や訴求点が似た安価な商品が出回るようになってきました。こうした類似商品に対し、商標や意匠、実用新案といった特許に限らない知財を活用し、抑止を図っています。
当社がこうして知財に力を入れるのには、過去に競合メーカーとの特許係争事件が多発した経験が理由の一つとして挙げられます。この時期を機にトップの認識が大きく変わりました。現在では販売想定国の権利を全て調べた上で商品を発売していますし、漏れがないように徹底をしています。また、特許庁から発行されている公報を毎月チェックするミーティングも実施しています。クリアランス調査とは別に、公開公報と登録公報の両方を確認し、現状の商品に問題がないか必ずチェックする文化が今では組織全体に根付いています。
こうしたマインドを醸成するには、繰り返し知財の大切さを幅広い層に伝えていくしかありません。当社では、社員全員が知財に関心を持てるように、トップから各事業部門まで定期的なミーティングも毎月行っています。とはいえ、特許出願や権利化の話だけしてもなかなか興味を持ってもらえません。同じカテゴリーの商品の情報だったり、他業界のビジネスや先端技術における知財面の動向など、相手が欲しているホットな話題を提供できるように準備しています。
ただ、グローバル視点ではわれわれ知的財産本部が何をしているか知らない人がまだまだ多いと思います。今後は、知財が何のためにあり、どうあるべきなのかを、国内外の社員一人一人にまで伝えていきたいです。それこそ海外の工場で働いている社員にも伝えるには、「パンツ型おむつを貧困層の子供にも届ける」といったような、分かりやすい目標にブレイクダウンする必要があると考えています。