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特集2 日本信号株式会社
こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、鉄道のシステムは、根本的には100年前から大きく変わらないんです。比較的古いデバイスが継続的に使われており、鉄道事業者のオペレーティングやメンテナンスコストの負担が大きくなる一方で、AIのような技術が比較的ローコストで利用できるようになってきました。こういった状況で私たちが改善できること、お客さまの負担を軽くできることは、まだまだたくさんあるんじゃないか——そういう発想から長期経営計画「EVOLUTION 100」を作り、「インフラの進化」に貢献するための取組を進めています。
新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響もあり、当社の主要顧客である鉄道事業者の運輸収入が減少しています。特に地方のローカル路線はオペレーションやメンテナンスの負担が大きく、廃線が取り沙汰されることも少なくありません。代替案として、ランニングコストが安いバスが挙げられますが、これも運転手の育成にかかる時間と費用が負担となってしまいます。
こうした問題の解決策になり得るのが自動運転です。お客さまの対応はアテンダントの方が行い、バスの運転はAIに任せてしまえれば、ランニングコストが安くなり、ダイヤのピッチも上げられます。例えば今まで一時間に一本しか走っていなかったバスが二本三本と走れるようになれば、地域住民の皆さまからも受け入れていただけるのではないでしょうか。
自動運転というと画像認識が主流ですが、日本信号では、鉄道で築き上げてきたフェールセーフの技術を継承したアプローチを考えています。レールの代わりに電磁誘導線のようなものを路面に貼って、この軌道を走るようにする。前後の車との間隔なども、「閉塞」という概念を採用してぶつからないようにしてあげる。そういうコンセプトでやれば、一歩進んだ提案ができるのではないかと考えています。
鉄道メンテナンスの技術開発も進んでおり、小型のIoTセンサーを機器内部に取り付けられるようになりました。鉄道会社では日々、保守担当の方が営業運転後に線路を歩きながら目視でいろいろな点検をされています。壊れていても壊れていなくても毎日やるのが当たり前で、大きな負担になっていました。それが、IoTセンサーで取得した機器内のデータをAIに学習させてみると、「そろそろ壊れそうだな」というときに特徴的な傾向が見えてきます。そうすると、センサーが危険な兆候を見つけたら、そのときだけ点検と補修に行けばいい。こういった形で労働コストを削減すべく、社会実装に向けて実証実験を今全国で進めているところです。
技術開発や知財戦略の面で大切にしているのは、「今あるモノを有効に使う」ことです。例えば鉄道の自動運転で考えてみましょう。自動運転化に当たってシステム全体を取り替えるとなると、運行を中止しなければなりませんし、車両も休ませなければなりません。そこで、私どもがJR九州さまと共同で試行している技術は、既存のシステムにアドオンすることで従来型の自動運転と同じ機能を実現するというアプローチを採っており、特許出願もしています。
今後は、電気回路やメカの構造といったところだけではなくて、サービス面での新たなアイデアを形にしていく必要があると考えています。今あるモノに技術を付加し、交通インフラに新しい機能を実装する——こうした日本信号ならではの取組を、スピード感を持って進めていきたいですね。