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特集2 株式会社チャレナジー
2011年の未曽有の震災をきっかけに「日本で再生エネルギーを普及できないか」と考え、新しい風力発電の形を発明したチャレナジーの清水CEO。
「日本はエネルギー輸出大国になれる」——清水CEOの見据える未来と、熱き思いを伺いました。
PROFILE
株式会社チャレナジー
「風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全なエネルギーを供給する」をビジョンに掲げる。「垂直軸型マグナス風力発電機」の開発・実用化により、日本のみならず世界中に風力を利用した再生可能エネルギーの普及を目指す。
[所在地] 東京都墨田区横川1-16-3 センターオブガレージ Room01
[URL] https://challenergy.com(外部サイトへリンク)
[設立年] 2014年
[業種] 環境関連
[従業員数] 28人(2021年4月)
株式会社チャレナジー 代表取締役CEO
清水 敦史氏
東京大学大学院修了後、大手電機メーカーにエンジニアとして入社し、研究開発に従事。2011年の東日本大震災をきっかけに、次世代へ持続可能な社会を残すべく、再生可能エネルギーの開発を開始。同年、「垂直軸型マグナス風力発電機」を発明。2014年、株式会社チャレナジーを起業。
ヨーロッパでは盛んな風力発電ですが、日本ではあまり普及していません。これは、日本が島国で四方を海に囲まれており、地形も起伏に富んでいて、風の強さや向きが変わりやすいことが要因です。従来のプロペラ風車は風を正面に受けてプロペラを回しますが、変化の激しい日本の風向きには対応できない場合があるのです。加えて、台風も毎年やって来る。強い風を受けると、風車の暴走や、倒壊などの事故がしばしば起こります。このように厳しい環境ですが、逆にそのような不安定な風の力を利用可能な、「日本の環境に合った新しい風力発電ができないか」と考えたんです。
そこで発明したのが、「垂直軸型マグナス風力発電機」です。回転軸を垂直方向にして、あらゆる向きの風を受けられるようにし、暴走や破損の原因にもなるプロペラを無くしました。この案の肝は、「マグナス力」という物理法則です。分かりやすい例が野球の変化球。ボールに回転をかけることで、ボールの表面速度と風の流れが一致する側と逆方向になる側で流速の違いを生み、風の流れと垂直方向に力が発生します。その結果、ボールが曲がるわけですね。風車では、ボールの代わりに円筒をモーターで駆動することでマグナス力を発生させ、風車の動力にしようと考えました。マグナス力は風速と円筒の回転数に比例するので、強風時には円筒の回転数を小さくすることで、暴走を防げます。円筒の回転数は1秒単位で調整できますし、万が一モーターが壊れた場合は円筒の回転数がゼロになるようになっていて、結果マグナス力もゼロになり風車自体が止まるので、安全性にも寄与します。
開発の初期段階には風力発電に関する約5000件に及ぶ特許文献をワクワクしながら読み込み、知識を重ねて、このマグナス力には可能性があると確信しました。「風力発電のエジソンになれるかもしれない」と胸が躍ったことを今でも覚えています。自分で一から特許出願書類を書いて出願し、「垂直軸型マグナス風力発電機」の特許取得を機に起業しました。
しかし、ここで根本的な問題に直面します。理論上はうまくいくように思えても、風車の抵抗が大きく効率が悪かったのです。円筒の表面をゴルフボールのように凸凹にするなどの工夫をしましたが、実用化には程遠い発電量でした。
諦められずに実験を繰り返していたところに、転機が訪れます。回っている円筒に手を近づけた時、マグナス力に変化が生じることに偶然気が付いたんです。この発見を基に、円筒に整流板を取り付けて、抵抗を減らす仕組みを発明しました。頭で考えた当初の案はうまくいきませんでしたが、粘りによって新しいアイデアを「発見」できたのです。これを新たな特許として出願し、現在はこの技術を軸に実用化に取り組んでいます。
この技術を世界に広めるべく、現在は約23カ国で特許を取りました。既に風力発電が盛んな国に加え、日本のように、これから風力発電が必要とされる国でも積極的に出願しています。ターゲットは「風が強すぎてプロペラ風車が置けないところ」。特に、フィリピンやマダガスカルなど、世界各地の島嶼部から問い合わせがあります。日本の環境に合った風車を作ってみたら、実は世界中に需要があったということです。