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特集2 合同会社シーベジタブル
タンパク質や栄養素が豊富な食材であるほか、肥料やバイオプラスチック原料としての活用、海中の二酸化炭素を吸収する機能(ブルーカーボン)など、多様な可能性を持つ「海藻」。シーベジタブルが行う海面での海藻栽培は、海の生態系回復への貢献も期待される。
合同会社シーベジタブル 共同代表
友廣 裕一さん (写真左)
大学卒業後に日本全国の農村漁村を巡るなかで日本の海藻が激減している状況を目の当たりにして、2016年に蜂谷潤共同代表(写真右)とシーベジタブルを設立、海藻の種苗研究から生産まで取り組む。現在は、海藻を用いた食べ方の開発や提案まで領域を拡げる。
PROFILE
合同会社シーベジタブル
[所在地] 高知県安芸市穴内乙688-9(本社)
[URL] https://seaveges.com(外部サイトへリンク)
[設立] 2016年
[事業内容] 海藻の種苗生産や栽培、商品開発
[社員数] 社員・アルバイト・業務委託70名程度
シーベジタブルは、全国の拠点で海藻の栽培を行うスタートアップです。事業の柱は三つあり、まず創業時から取り組む海藻の陸上栽培です。当社は2016年に、青のりの中でも最高級品種といわれるすじ青のりの栽培から出発しました。すじ青のりは、主産地だった四万十川(高知県)の河口部の水温上昇でその収穫量が急激に落ち込んでおり、食品メーカーから相談を受けたのです。共同代表を務める蜂谷が研究していた技術を生かし、世界で初めて、地下海水を用いた青のりの陸上栽培を確立しました。
また現在、日本中の海で、海藻が形成する藻場が海水温の上昇によって消滅する「磯焼け」現象が起きています。魚や貝を育み、生物ピラミッドを支える藻場がなくなると、海の多様性が失われてしまいます。そこで、一定時期でも海面で海藻を栽培することで、生態系回復に寄与できるのではという仮説を基に、海藻をカゴに入れて海に浮かべる「海面栽培」を行っています。効果検証中ですが、仮説を裏付けるデータが集まりつつあります。
同時に、海藻を食する市場の活性化にも取り組んでいます。日本の海域には約1500種類を超える海藻が生息していますが、食卓に並ぶのはまだ十数種類。当社は2021年に海藻料理の研究拠点となるテストキッチンを開設し、シェフの石坂秀威を中心にして、過去から連綿と受け継がれてきた食文化を守ると同時に、海藻の可能性を引き出す新たな食文化創造を進めています。
創業時は知財戦略まで思い至りませんでしたが、苦労して開発した独自技術が簡単に模倣されてしまうことのリスクを意識するようになり、陸上栽培の設備や方法で特許を取得しました。現在は社内に知財担当者を置き、研究開発の成果は蜂谷が、ビジネスのスキームや食文化関連は私が、それぞれ知財化の見きわめを行っています。判断がつかない場合は、長年のパートナーである顧問弁理士の方に、時に現場に足を運んでもらって見解をうかがっています。
料理は特許化しにくい面もある分野ですが、海藻に糖分を加えて発酵させたコンブチャ(発酵飲料)や、すじ青のりの高いタンパク質含有量を生かした「青のり醤油」など、革新的なアイデアがテストキッチンから次々に生まれていますので、今後もスタッフのモチベーション向上のため、積極的に知財化にトライしていくつもりです。