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Vol.64
広報誌「とっきょ」2025年3月7日発行

特集2 株式会社佐藤喜代松商店

漆のポテンシャルを引き出す特許技術を共同開発
他領域の技術を応用した精製法で高い光沢感・透明感の漆が誕生

「MR漆®」をさらに進化させ高い光沢感・透明感を生む — 産技研・橘さん

私は2012年に大藪から漆産業の担当を引き継ぎました。漆の価値を高める研究を佐藤社長と続ける中で生まれたのが、MR漆®を進化させた新しい漆「黎明」です。MR漆®は、漆中に含まれる水分を細かく安定分散して精製するのですが、精製にノウハウを要し、時間もかなりかかるという課題がありました。そこで、電池や化粧品、医薬品などに使用される「薄膜旋回分散法」の技術を活用して、品質を維持しつつ作業効率の向上を図ったのです。精製に成功した漆は、従来の漆に比べて高い光沢感・透明感を持つのが特徴で、京都市役所本庁舎1階のエレベーター扉などに生かされています。ガラスやプラスチックといった透明な素材への活用にも期待しています。(産技研・橘さん)

橘 洋一さん
地方独立行政法人京都市産業技術研究所 産業技術支援センター 製品化・人材育成支援グループ伝統産業技術 後継者育成担当課長 橘 洋一さん
特許権や商標権を活用して業界の知財意識を高めたい — 佐藤さん

薄膜旋回分散法を用いた漆は、産技研さんとの共同出願で特許権を取得(特許第6432020号)しました。京漆器業界は知財制度への馴染みがやや薄いので、ブランディングやパートナーづくりにおいて特許権や商標権を有効活用するモデルを当社が担えればと考えています。

多様な領域への展開も重要テーマで、「漆×○○」というコンセプトを掲げて活動しています。特に、漆をコーティングした魔法瓶タンブラーをコラボ開発した合同会社COCOOさん(北山浩代表)は、2024年11月から当社の一角に事務所を設置するほど漆に魅了されており、一緒に大きな成果を生み出したいですね。(佐藤さん)

タンブラー
COCOOと開発したタンブラー。佐藤喜代松商店が2014年に上市した100種の色漆がフル活用されている。
Collaboration

地方独立行政法人 京都市産業技術研究所
Kyoto Municipal Institute of Industrial Technology and Culture

京都のものづくり文化の支援に特許技術や登録商標も活用

京都市産業技術研究所は、京都のものづくり文化の継承、発展のため、産業技術にまつわる研究開発支援や事業支援を行っています。伝統産業の新しい取組を、知的財産権を活用して支援した事例をご紹介します。(京都市産業技術研究所 経営企画室 主任・堀 萌さん)

①「ゆうはり」(特許第6847413号)

第一工業製薬株式会社さんとの共同研究で、木材由来のバイオマス素材であるセルロースナノファイバー(CNF)をセラミックスの成形用バインダーとして活用することに成功し、特許権も取得しました。京焼・清水焼の窯元である株式会社陶葊(とうあん)さんから相談のあった「夏にも手に取ってもらえる、透け感のある陶磁器」の開発支援において、この特許の活用も提案。CNFの添加による歩留まりの大幅な向上も功を奏し、量産が可能となりました。

ゆうはり
「光を愉しみ、光と遊ぶ。」というコンセプトで世に出た「ゆうはり」
②「京都酵母」(商標登録6372731号、6427666号など)

当研究所は昭和30年代から清酒酵母の開発・管理・分譲を続けており、世代を超えて受け継ぎ、開発してきたのが「京都酵母」です。青リンゴ風やバナナ風など日本酒に多彩な香味を与えられる酵母が現在5種類あり、京都地域限定で分譲しています。京都の蔵元で生み出される多彩な味わいの酒を京都地域の日本酒のブランドとして確立させようと、「京都酵母」のロゴマークも作成し、各酵母の名称と共に商標登録のうえ、ブランディングを推進しています。当研究所の無形資産の一つの方法論を模索し、成果を上げているプロジェクトです。

京都酵母
京都酵母は、各酵母に「京の琴」「京の華」「京の咲」「京の珀」「京の恋」と統一的な命名をしてブランディング

画像提供:株式会社佐藤喜代松商店、地方独立行政法人京都市産業技術研究所

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