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先生方がすぐに授業実践に活用できる
知的財産権侵害防止教育の新しい授業展開例ができました!
「地理総合」の授業展開例
高等学校「地理総合」学習指導要領 内容B対応
知的財産権侵害の実態から、国際理解・国際協力の重要性を理解する授業展開例
授業展開例、授業用スライド、生徒用ワークシート、生徒用資料はこちらからダウンロードできます。
本時の目標
1 知的財産権に関する基本的知識を獲得したうえで、コピー商品が広がる現状やその社会的損失について理解することができる。
2 コピー商品を製造する側の立場や被害を受ける側の立場の違いや主張を対比させながら、他者と協働してよりよい結論を導き出すことができる。
表は上下左右にスクロールします。
学習項目・学習活動・スライド | 説明例・発問例 | |
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導入 10分 |
●特許庁サイトから、知的財産権の定義を確認させる。 ![]() ![]() |
●知的財産権および知的財産権侵害の定義と内容の説明例: 「今日は知的財産権について、みんなで意見交換をしながら学んでいきます。 知的財産権とは、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として、一定期間、保護する権利です。 知的財産権には、発明した人の権利を保護する特許権、物品の形状等の考案を保護する実用新案権、物品、建築、画像等のデザインを保護する意匠権、商品・サービスに使用するマークを保護する商標権、小説や音楽等の精神的な作品を保護する著作権などがあります。 知的財産権は、創作者に知的創造活動によって作られたオリジナルの創作やアイデアを独占的に利用する権利などを与えるものですが、そういった権利を無視して、無断で創作や商標などを利用する行為が知的財産権侵害です。その代表例がコピー商品です。 本日は、コピー商品が社会に与える影響に焦点を当てて、学習していきましょう。」 [指導上の留意点] 今後の議論が円滑に進むよう、知的財産権の基本的知識を正しく把握できるよう留意する。 |
●資料から、知的財産権の現状について理解させる。 ![]() ![]() ![]() |
●コピー商品が広がっている実態を知るための発問例: 「コピー商品を購入しそうになったことはありますか、あるいは購入してしまったことはありますか。」 [指導上の留意点] 生徒同士の意見交換 ●コピー商品に関わる現状を知るための説明例: 「今日、この知的財産権を侵害する模倣品である『コピー商品』が問題になっています。コピー商品に関わる現状について見ていきましょう。 コピー商品による日本企業のグローバルな模倣被害額は約3兆円にのぼります。日本の国家予算の内、子育てや介護のための予算がそれぞれ約3兆円ですから、国の重要な政策分野を丸ごと実施できるような非常に大きな金額です。 産業別に被害を見てみましょう。日本企業の産業別模倣被害額が最も大きい業種は自動車部品です。日本の会社が人材と設備と資金等をかけて開発した自動車部品が模倣され、エアバッグ等の人の命に関わる製品の偽物の粗悪品が市場に出回っています。 世界で模倣被害が多い産業の上位5位は、靴、衣類、バッグ、時計、香水・化粧品など、所謂ブランド品と呼ばれる商品が多くなっています。」 [指導上の留意点] 時間がある場合は、インターネット検索でコピー商品に関わる記事や資料を生徒に調べさせる。 |
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「地理総合」の授業展開例 モデル授業(北海道苫小牧東高等学校)の「導入」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) | ||
展開 30分 |
●コピー商品が流通する背景を、購入する側と製造する側の立場から理解させる。 ・コピー商品を購入する側の心理は? ・コピー商品を製造する側の心理は? ![]() ![]() |
●コピー商品を製造する側と購入する側の心理について聞く発問例: 「コピー商品を製造する側と購入する側の心理について考えてみましょう。」 ●コピー商品が市場に出回る背景の説明例: 「コピー商品が市場に出回ってしまう背景として、コピー商品を作る側は『他人の製品を模倣することで、開発費等のコストをかけずに利益をあげることができる』『安ければ偽ブランド品を買って使いたがる人がいる』と考え、コピー商品を買う側は『本物だと思って買ってしまった』『本物そっくりで安いので偽物と知りながらつい買ってしまった』等の理由でコピー商品が売買される現状があります。」 [指導上の留意点] 個人で考えさせた後、ペアや前後で意見をシェアする。 立場の違いを明確にして考えられるよう留意する。 時間がない場合は、生徒の考えを尋ねずに進行する。 |
●資料から、コピー商品の製造元の国、模倣被害の多いブランド国籍を確認させる。 ![]() ![]() |
●コピー商品の供給元の国・被害を受けている国を知るための説明例: 「ではコピー商品をどこで作っているのか 製造している地域に特徴があるのか、また、被害を受けている地域に特徴があるのかということを見ていきます。コピー商品を製造している地域の分布や被害を受けている地域の分布を資料から読み取ってください。」 ●コピー商品の供給元の国・被害を受けている国の、その理由や背景を考えるための発問例: 「まずは国や地域を読み取り、その上で、その理由・背景について資料から読み取って考えてください。」 [指導上の留意点] コピー商品が多く作られている国・地域を確認する。 「地理総合」で学習した、東アジア・アメリカ合衆国・ヨーロッパの特徴を踏まえて考えられるよう留意する。 コピー商品製造国への差別や偏見につながらないよう留意する。 |
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●コピー商品を製造する側とコピー商品による被害を受けている側の立場で、ディスカッションを行う。 ![]() ![]() ![]() |
●コピー商品を製造する側の主張とコピー商品により損害を被っている(正規品の製造者)側の主張とのディスカッションを通じて知的財産権保護の重要性について考えを深める。 【コピー商品を製造する立場の主張で想定される意見】
【コピー商品により損害を被っている側で想定される意見】
[指導上の留意点] それぞれの立場の意見をぶつけ、次で行う社会的損失につながるディスカッションになるよう留意する。 生徒の様子を見て、適宜、ヒントを与える。 [評価の基準] 立場の違いや主張を対比させながら、他者と協働してよりよい結論を導き出すことができる。(観察) |
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●コピー商品が広がることによる経済社会への影響と、その対策について考えさせる。 ![]() ![]() |
●コピー商品が経済社会に及ぼす影響についての発問例: 「コピー商品が市場に蔓延した場合に、私たちの経済社会に及ぼす影響について考えてみましょう。先ずは自分で考えてみてから、隣同士で意見を交換してください。」 【想定される生徒の意見】
[指導上の留意点] 個人で考えさせた後、ペアや前後で意見をシェアする。 [評価の基準] 討論などで考えたことを文章で適切に表現することができる。(ワークシート) |
「地理総合」の授業展開例 モデル授業(北海道苫小牧東高等学校)の「展開」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) |
まとめ 10分 |
●「知的創造サイクル」を理解させる。 ![]() ![]() ![]() ![]() |
●知的創造サイクルの説明例: 「知的創造物を一定期間保護する知的財産権制度によって、個人や会社等は安心して発明や新しい製品開発やオリジナルのデザイン等に、個人の労力や時間、会社の人材や設備や資金等をかけて取り組んでいくことができるのです。そして、続々と新しい発明や製品が生み出されていけば、私たちの経済社会は成長し発展していきます。 創った人や会社等の権利を守り、発明や新しい製品の開発、オリジナルのデザイン等によって個人や企業がその創造の対価を得て、さらなる発明や製品開発等に取り組んでいくこと、これを『知的創造サイクル』といいます。」 [指導上の留意点] 自分たちに何ができるかなど、自分事として捉えられるようなまとめになるよう留意する。 |
●本授業で印象に残ったことを記入させる。 |
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「地理総合」の授業展開例 モデル授業(北海道苫小牧東高等学校)の「まとめ」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) |
◆評価規凖について
ア 知識・技能
①知的財産権の定義や現状について理解することができる。
②複数の資料を適切に用いて、読み取ることができる。
イ 思考・判断・表現
①立場の違いや主張を対比させながら、他者と協働してよりよい結論を導き出すことができる。
②資料から得られた知識や討論を通して考えたことなどを基にして、発表や文章により適切に表現することができる。
ウ 主体的に学習に取り組む態度
①建設的な議論をとおして、よりよい結論を導き出そうとしている。
②得られた結論などを基にして、発表や文章により適切に表現しようとしている。
授業展開例、授業用スライド、生徒用ワークシート、生徒用資料はこちらからダウンロードできます。
「地理総合」の授業展開例 モデル授業
北海道立苫小牧東⾼等学校の谷村風哉先生に「地理総合」の授業展開例のモデル授業を実施していただき、知的財産権侵害防止教育の授業実践のポイントと教育的な意義についてコメントをいただきました。
北海道立苫小牧東⾼等学校 地歴公民科教諭 谷村 風哉 先生
知的財産権を「地理総合」で扱うことは、グローバル化が進む複雑な現代社会において、国際理解・国際協力を考える上で非常に有益です。
コピー商品を製造している地域と被害を受けている地域の特徴や背景について考えることで、憶測や偏見にとらわれることなく、その地域の社会・文化・産業・歴史などを理解することにつながります。また、製造国と被害国双方の立場の主張を対比させることで、知的財産権が侵害されることにおける社会全体に与える影響やその解決策のヒントを探ることができます。一国だけでなく国際的な視点で考える必要性に気付いた生徒や、途上国と先進国の関係性に踏み込んで考察している生徒もいました。つまり、知的財産権侵害防止教育は、グローバルな視座から国際理解・国際協力を考えることができます。
この授業を通じて、グローバル化が進む現代社会に関心を持ち、根拠に基づいて自分なりの意見や考えを持てるようになってほしいと思っています。