ここから本文です。
高等学校 公民科「公共」学習指導要領に準拠
先生方がすぐに授業実践に活用できる
知的財産権侵害防止教育の新しい授業展開例ができました!
この度、全国公民科・社会科教育研究会にご協力いただき、高等学校公民科「公共」の学習指導要領に準拠した知的財産権侵害防止教育の2つの授業展開例を作成しました。 「公共」内容Bア(ア)(イ)(ウ)に対応する授業展開例1では、15分程度で「現代の消費者問題」としてインターネット通販で売買されるコピー商品(知的財産権を侵害する模倣品)の問題と対応策を、35分程度で「公正かつ自由な経済活動」における知的財産権の重要性について、生徒の興味・関心を惹き付けながら分かりやすく学習指導することができます。 また、「公共」内容Cに対応する授業展開例2では、「知的財産権の侵害」という問題をどのように解決したらよいかを、客観的な資料に基づき、授業者と生徒、或いは生徒同士の対話や意見交換を通して探究する授業が実践できます。 2つの授業展開例各々に編集可能なスライドとワークシート、生徒用の資料をご用意し、参考になるモデル授業の動画も視聴できますので、是非、貴校での授業実践にご活用ください。
授業展開例1
高等学校 公民科「公共」学習指導要領 内容Bア(ア)(イ)(ウ)
「消費者法制」及び「消費者問題」対応
授業展開例、授業用スライド、生徒用ワークシート、生徒用資料は、こちらからダウンロードできます。
「導入」と「展開①」の15分程度で,「消費者法制」と「消費者問題」に対応する,インターネット通販で売買されるコピー商品の問題と対応策について学習指導できます。
また、「展開②」「展開③」「まとめ」の35分程度で,「経済社会」に対応する,公正で自由な経済社会における知的財産権の重要性について学習指導できます。
表は上下左右にスクロールします。
学習項目・学習活動・スライド | 説明例・発問例 | |
---|---|---|
導入 5分 |
●クーリング・オフ制度を理解する。 ![]() |
●クーリング・オフの説明例: 「訪問販売や電話販売などの一定の取引形態でみられるトラブルを解決する特定商取引法では『クーリング・オフ制度』が設けられ,契約後一定期間内であれば契約の申込みを撤回したり契約を解除できます。 『クーリング・オフ制度』は消費者にとって,安心な制度です。例えば,展示販売でその場ではよいと思っても,よく考えてみたら値段の割りによくない商品だったとか,必要のないサービスを契約させられてしまったとか,後で気付く場合があります。 この場合,取引形態や販売方法にも拠りますが,8日間以内や20日間以内など,一定の期間内であれば契約を解除できます。」 |
授業展開例1モデル授業(世田谷泉高校)の「導入」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) | ||
展開① 10分 |
●インターネット通販にはクーリング・オフ制度は適用されないことを確認する。 ![]() |
●クーリング・オフがインターネット通販に適用されないことを確認するための発問例: 「次の場合,クーリング・オフ制度で契約を解除できるのでしょうか?」 「インターネット通販で,自分が好きなブランドのバッグを買ったつもりだったが,商品が届いて見たらブランドのロゴが少し違っているし,縫製も粗くて,どうやら『コピー商品』を買わされてしまったようだ。」 【想定される回答例】
[指導上の留意点] 時間がない場合は,生徒の考えを尋ねずに進行する。 |
![]() |
●正しい回答の提示とコピー商品を買わないように留意する理由の提示 「インターネット通販やテレビショッピング等の通信販売の場合は消費者に十分に考える時間があるという理由からクーリング・オフ制度は適用されません。コピー商品を売る業者は大抵の場合,悪質な業者なので,返金を求めても回答がないなど実質的に拒否されるケースがほとんどです。事業者に対して返金を求めて裁判を起こそうとしても,弁護士費用や裁判にかかる労力や時間を考えると泣き寝入りせざるを得ない場合が多いのです。だからこそ私たちは騙されてコピー商品を買わないように気をつけなければならないのです。」 |
|
●自分や自分の周りの人で被害にあった経験がないか意見交換する。 |
●具体的な事例を聞くための発問例: 「コピー商品による被害は増えています。みなさんやみなさんの周りの人でコピー商品による被害を経験した人はいますか?」 →生徒に自由に回答してもらい,実際に話にあがったコピー商品被害があれば,その話からコピー商品の販売手口の話につなげる。 [指導上の留意点] 時間がない場合は,生徒に尋ねずに進行する。 |
|
●具体的なコピー商品の販売手口についてスライドを見て確認する。 ![]() ![]() ![]() ![]() |
●コピー商品の販売手口の説明例: 「コピー商品の販売手口を見てみましょう。最近ではコピー商品の販売手口は多様化しており,消費者が全く気付かないままコピー商品を買わされてしまうケースが増えています。 ECプラットフォームやフリマアプリでコピー商品を販売することは以前から行われています。 最近では,メーカーの公式販売サイトとそっくりの「なりすましサイト」を作ってコピー商品を販売したり,SNSでバナー広告や動画広告や記事広告等を配信し消費者をなりすましサイトに誘導してコピー商品を買わせるなど,コピー商品を販売する手口がより巧妙になっています。」 |
|
●コピー商品を購入しないために意識すべきことを,スライドで確認する。 ![]() ![]() |
●コピー商品の見分け方の説明に向けての発問例: 「様々なコピー商品の販売手口に騙されないように,コピー商品を見分ける方法を考えましょう。みなさんは,どのような方法があると考えますか?」 →生徒の回答からコピー商品の見分け方の話につなげる。 [指導上の留意点] 時間がない場合は,生徒の意見を尋ねずに進行する。 ●コピー商品の見分け方の説明例: 「ブランド品の最新作や人気商品が大量に販売されていたり,銀行振込以外の支払い方法がなかったり,商品の説明が少ない場合は要注意です。ECプラットフォームやECサイト,フリマアプリ等を利用する際の重要な注意点です。しっかりと覚えておきましょう。」 ●コピー商品を見分ける10のチェック項目を確認する。 ①正規品のデザインをチェックする。 ②ブランド品の場合,シリアルナンバーを確認する。 ③商品説明をよく読む,見る。 ④出品価格が他と比べて安すぎないかチェックする。 ⑤フリマアプリ等で購入後の評価をする前に商品をよくチェックする。 ⑥販売業者や出品者に対する購入者の評価を確認する。 ⑦銀行振込以外の支払い方法があるか確認する。 ⑧販売サイトのURLが正規のサイトのURLか確認する。 ⑨正規の取扱店や直営店ではないのにブランド品が沢山売られているなど,不自然なところがないか確認する。 ⑩購入後に返品できるか確認する。 「ここまでの学習でコピー商品が巧妙な手口で販売されていることが分かりました。それでは,コピー商品が流通することで社会にはどのような影響があるのか考えていきましょう。」 |
|
授業展開例1モデル授業(世田谷泉高校)の「展開①」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) | ||
展開② 10分 |
●コピー商品の製造・販売は,知的財産権を侵害する違法行為であることを確認する。 |
●知的財産権の説明例: 「コピー商品の製造と販売は,オリジナルのものを創った人や会社の『知的財産権』を侵害する違法行為です。」 |
●知的財産権について具体的に理解する。 現時点で知的財産権について知っていることをワークシートに書き出す。 |
●知的財産権の具体例を確認するための発問: 「知的財産権について知っていることを書き出してみましょう。」 |
|
●知的財産権の定義を確認する。 ![]() |
●知的財産権の定義を確認する説明例: 「知的財産権とは,知的創造活動によって生み出されたものを,創作した人の知的財産として,一定期間,保護する権利のことです。」 |
|
●知的財産権の内容を確認する。 ![]() |
●知的財産権の内容の説明例: 「知的財産権には,発明した人の権利を保護する特許権,物品の形状等の考案を保護する実用新案権,物品,建築,画像等のデザインを保護する意匠権,商品・サービスに使用するマークを保護する商標権,小説や音楽等の精神的な作品を保護する著作権などがあります。」 ●知的財産権制度の意義の説明例: 「知的創造物を一定期間保護する知的財産権制度によって,個人や会社は,新しい発明やオリジナルの製品のデザイン・開発等に労力や人材や資金をかけて取り組んでいくことができます。」 |
|
授業展開例1モデル授業(世田谷泉高校)の「展開②」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) | ||
展開③ 15分 |
●知的財産権侵害の実態を理解する。 |
●知的財産権侵害の実態の説明例: 「知的財産権を侵害する『コピー商品』が問題となっています。『コピー商品』とは, 他者が創った知的財産を模倣し,商標権や意匠権,特許権,著作権のような知的財産権を侵害する様々な分野の違法品のことです。」 |
●コピー商品に関わる現状を確認する。 ![]() ![]() |
●コピー商品の実態を知るための説明例: 「コピー商品に関わる現状について見ていきましょう。 コピー商品による日本企業のグローバルな模倣被害額は約3兆円にのぼります。日本の国家予算の内,子育てや介護のための予算がそれぞれ約3兆円ですから,国の重要な政策分野を丸ごと実施できるような非常に大きな金額です。 産業別に被害を見てみましょう。日本企業の産業別模倣被害額が最も大きい業種は自動車部品です。日本の会社が人材と設備と資金等をかけて開発した自動車部品が模倣され,エアバッグ等の人の命に関わる製品の偽物の粗悪品が市場に出回っています。 世界で模倣被害が多い産業の上位5位は,靴,衣類,バッグ,時計,香水・化粧品など,所謂ブランド品と呼ばれる商品が多くなっています。」 [指導上の留意点] 時間がある場合は,インターネット検索でコピー商品に関わる記事や資料を生徒に調べさせる。 |
|
●コピー商品が流通する背景を理解する。 ![]() ![]() |
●コピー商品を製造する側と購入する側の心理について聞く発問例: 「コピー商品を製造する側と購入する側の心理について考えてみましょう。」 ●コピー商品が市場に出回る背景の説明例: 「コピー商品が市場に出回ってしまう背景として,コピー商品を作る側は『手っ取り早く儲けたい』『安ければ偽ブランド品を買って使いたがる人がいる』と考え,コピー商品を買う側は『本物だと思って買ってしまった』『本物そっくりで安いので偽物と知りながらつい買ってしまった』等の理由でコピー商品が売買される現状があります。」 [指導上の留意点] 時間がない場合は,生徒の考えを聞かずに進行する。 |
|
●コピー商品が広がることによる経済社会への影響と,その対策を考える。 ![]() ![]() |
●コピー商品が経済社会に及ぼす影響の説明例: 「コピー商品が市場に蔓延した場合に,私たちの経済社会に及ぼす影響について考えてみましょう。先ずは自分で考えてみてから,隣同士で意見を交換してください。」 [指導上の留意点] 個人で考え,ペアで意見交換させてから,どんな意見が出たかクラスで共有する。 【想定される生徒の意見】
|
|
●生徒の意見を受けて,知的財産権の侵害が私たちの経済社会の発展を阻害し衰退させてしまうことを確認する。 |
●知的財産権の侵害が私たちの経済社会の発展を阻害し衰退させてしまうことの説明例: 「コピー商品が蔓延すると,個人や会社は自ら発明したり新しい製品を開発する意欲を失い,私たちの経済社会から活力が失われ,発展できなくなってしまいます。消費者も商品が本物か偽物なのか分からず疑心暗鬼になって物が売れなくなり経済が衰退していってしまうのです。」 |
|
●コピー商品が広がることによる経済社会への影響と,その対策を考える。 ![]() ![]() |
●コピー商品の蔓延を防ぐ方法の説明例: 「それでは,コピー商品の蔓延を防ぐためには,どのような対策が必要とされていると思いますか?先ずは自分で考えてみてから,隣同士で意見を交換してください。」 [指導上の留意点] 個人で考え,ペアで意見交換させてから,どんな意見が出たかクラスで共有する。 【想定される生徒の意見】
[指導上の留意点] 意見が出てこない場合は,ヒントを出して誘導したり,スライドを用いて確認する。 |
|
授業展開例1モデル授業(世田谷泉高校)の「展開③」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) | ||
まとめ 10分 |
●経済社会を発展させる「知的創造サイクル」を理解する。 ![]() ![]() |
●知的創造サイクルの説明例: 「知的創造物を一定期間保護する知的財産権制度によって,個人や会社等は安心して発明や新しい製品開発やオリジナルのデザイン等に,個人の労力や時間,会社の人材や設備や資金等をかけて取り組んでいくことができるのです。そして,続々と新しい発明や製品が生み出されていけば,私たちの経済社会は成長し発展していきます。 創った人や会社等の権利を守り,発明や新しい製品の開発,オリジナルのデザイン等によって個人や企業がその創造の対価を得て,さらなる発明や製品開発等に取り組んでいくこと,これを『知的創造サイクル』といいます。」 |
●望ましい社会を築くためにコピー商品にどのように対応すればよいかを確認する。 ![]() ![]() |
●公正な経済社会の発展に必要不可欠な知的財産を守るために私たちができることの説明例: 「コピー商品の製造・販売は,消費者個人に被害を与えるだけでなく,個人や企業の知的財産権を侵害し,私たちの経済社会の成長・発展のために極めて重要なこの知的創造サイクルを阻害するから重大な犯罪行為なのです。 この知的財産権を守るために,私たちができることは何でしょうか? それは,コピー商品を買わないこと,売らないことです。 気付かないままインターネット通販でコピー商品を買ったり,フリマアプリ等で売ったりしてしまって,自らが犯罪行為に加担してしまうようなことにならないようにしましょう。」 |
|
授業展開例1モデル授業(世田谷泉高校)の「まとめ」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) |
◆評価規凖について
ア 知識・技能
①話し合いをとおしてよりよい結論を得る。
[展開]
②資料を適切に読み取ったり授業者の説明を聞いて内容を理解する。
[導入]
[展開]
[まとめ]
イ 思考・判断・表現
①基礎的基本的な知識に基づき多面的多角的に考える。
[展開]
②客観的な事実に基づき適切に判断する。
[展開]
③資料から得られた知識や確認した事実,討論を通して考えたことなど,思考の過程や得られた結論などを発表や文章により適切に表現する。
[展開]
ウ 主体的に学習に取り組む態度得られた結論などを発表や文章により適切に表現する。
①言葉を定義し,資料を客観的に読み取るなど,学習に向かう基礎的基本的な態度をとろうとする。
[展開]
②建設的な議論をとおして,よりよい結論を導き出そうとする。
③得られた結論などを発表や文章により適切に表現することができたか。
授業展開例、授業用スライド、生徒用ワークシート、生徒用資料は、こちらからダウンロードできます。
授業展開例1のモデル授業
東京都立世田谷泉高等学校の佐々木啓真先生に授業展開例1のモデル授業を実施していただき、知的財産権侵害防止教育の授業実践のポイントと教育的な意義についてコメントをいただきました。
東京都立世田谷泉高等学校 地歴公民科教諭 佐々木 啓真 先生
「『コピー商品を買わない』ことは,創作者の知的財産権を守り,創作活動を通じて活気ある経済社会を生み出すことにつながっていきます。このことに気づかせられるかがポイントだと思います。賢い消費者を育成する消費者教育として,法的なものの考え方を身に付けさせる法教育として,知的財産権をテーマとすることには教育的意義があると考えます。」
高等学校 公民科「公共」における
知的財産権侵害防止教育の位置付けについて
東京都立西高等学校 指導教諭
全国公民科・社会科教育研究会
事務局長 篠田 健一郎 先生
特許庁がすすめる知的財産権侵害防止教育に関する授業に取り組むことは,学習指導要領に掲げる次の内容に合致します。
コピー商品の広がりや損害額の大きさを見れば,知的財産権侵害という事実が「現実社会の事柄や課題」にふさわしいことは明らかです。消費者法制と関連付ければ内容Bア(ア)に合致し,模倣品による損害を被る権利者と模倣品を製造し不当に利益をあげようとする側との関係に着目すれば内容Bア(イ)(ウ)に合致します。
もちろん,内容Cとして取り組むことも可能です。知的財産権侵害という課題は内容Cでいう「地域の創造,よりよい国家・社会の構築及び平和で安定した国際社会の形成へ主体的に参画し,共に生きる社会を築くという観点から」見出される課題です。知的財産権侵害という課題の解決のために,個人として,日本としてあるいは国際社会においていかに解決したらよいかを,客観的資料に基づき,授業者と生徒の対話や生徒同士の対話や意見交換を通して探究する授業は「課題の解決に向けて事実を基に協同して考察,構想し,妥当性や効果,実現可能性などを指標にして,論拠を基に自分の考えを説明,論述すること」になります。
生徒対象アンケート調査結果
モデル授業の前後に生徒対象アンケート調査を行いました。(一部抜粋)
①授業の分かりやすさについて
Q.授業は分かりやすかったですか?当てはまるもの1つを選択してください。
②コピー商品の問題を自分事として捉える意識変容について
Q.コピー商品による被害について、あなたの生活にどれくらい関係があると思いますか?当てはまるもの1つを選択してください。
コピー商品による被害について、自分の生活にどれくらい関係があると思うかの問いに対して、モデル授業を受ける前の調査では「関係がある」9.9%と「やや関係ががある」32.4%を合わせて42.3%と半数以下でしたが、モデル授業を受けた後の調査では、「関係がある」35.3%と「やや関係がある」39.7%を合わせて75.0%と30ポイント以上増加し、モデル授業を受けた高校生がコピー商品による知的財産権侵害の問題を自分事として捉えた大きな意識変容が確認されました。
その他の資料
コピー商品撲滅キャンペーン スペシャルマンガムービー
画像をクリックすると別ページでYouTubeが開きます。(外部サイトへリンク)
知的財産権侵害防止教育のモデル授業を受けた高校生204名を対象とした調査では、「分かりやすかった」と「やや分かりやすかった」の合計が96.5%という結果になりました。