第Ⅶ部 外国語書面出願  第1章 外国語書面出願制度の概要

第1章 外国語書面出願制度の概要

外国語でなされた国際特許出願(外国語特許出願)の取扱いについては、「第Ⅷ部 国際特許出願」を参照。

1. 概要

外国語書面出願制度とは、特許を受けようとする者(以下この章において「出願人」という。)が明細書、特許請求の範囲、必要な図面(以下この章において「明細書等」という。)及び要約書に代えて、経済産業省令で定める外国語で記載した外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付して出願することができる制度である(第36条の2第1項)。

外国人が我が国に特許出願をする場合は、外国語によりなされた第一国出願に基づきパリ条約による優先権を主張して出願することが多い。日本語による出願しか認められないものとすると、パリ条約による優先権の主張ができる期間が満了する直前に特許出願をせざるを得ない場合は、短期間に翻訳文を作成する必要が生じる。また、願書に最初に添付した明細書等に記載されていない事項を補正により追加することは認められないため、第一国出願を日本語に翻訳して特許出願した場合は、外国語を日本語に翻訳する過程で誤訳があったときに外国語による記載内容をもとにその誤訳を訂正することができないなど、発明の適切な保護が図れない場合がある。

外国語書面出願制度は、こうした問題点を解決するために設けられたものである。

2. 外国語書面出願に関する書面

2.1 願書

外国語書面出願であっても、出願人は、日本語でなされる通常の特許出願(以下この部において、単に「通常の特許出願」という。)と同様、日本語で作成された願書を提出する。

2.2 外国語書面及び外国語要約書面

2.3 翻訳文

2.4 誤訳訂正書

3. 翻訳文が提出されなかった場合の取扱い

3.1 「外国語書面(図面を除く。)」の翻訳文が提出されなかった場合

第36条の2第2項及び第4項に規定された翻訳文の提出期間(2.3(1)参照)内に図面を除く外国語書面の翻訳文が提出されないときは、その外国語書面出願は取り下げられたものとみなされる (第36条の2第5項)。

3.2 「外国語書面」の図面の翻訳文が提出されなかった場合

図面が翻訳文として提出されていない場合は、特許出願が取り下げられたものとはみなされないものの、願書に図面が添付されていないこととして取り扱われる。

出願人及び審査官は、この結果、発明の詳細な説明、特許請求の範囲の記載要件や、特許要件を満たさなくなり、誤訳訂正が必要となる場合がある点に留意する。

3.3 要約書の翻訳文が提出されなかった場合

要約書の翻訳文が出願日から1年4月以内に提出されなくても出願が取り下げられたものとはみなされない。しかし、その翻訳文の提出がない場合は補正命令及び手続却下の対象となる(第17条第3項第2号及び第18条第1項)。

4. 外国語書面出願の明細書等についての補正

4.1 補正の対象となる書面

外国語書面出願においては、明細書等(2.3(2)参照)が補正の対象となる。

外国語書面及び外国語要約書面については補正をすることができない(第17条第2項)。

4.2 明細書等について補正ができる時期

外国語書面出願においても、明細書等について補正ができる時期は、通常の特許出願の明細書等について補正ができる時期と同じである。また、通常の補正をする場合も、誤訳の訂正を目的とする補正をする場合も、補正ができる時期は同じである(補正ができる時期については「第Ⅳ部第1章 補正の要件」参照)。

5. 外国語書面出願に関する拒絶理由

外国語書面出願については、通常の特許出願について拒絶理由とされる場合のほか、以下の5.1に該当する場合にも拒絶理由とされる。

また、新規事項の追加については、以下の5.2に該当する場合に拒絶理由とされる。

5.1 原文新規事項の追加(「第2章 外国語書面出願の審査」の2.参照)

外国語書面出願について、明細書等に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内でないもの(原文新規事項)を含む場合は、拒絶理由となる(第49条第6号)。

5.2 翻訳文新規事項の追加(「第2章 外国語書面出願の審査」の3.参照)

外国語書面出願について、手続補正書による補正によって、補正後の明細書等に記載した事項が以下の(ⅰ)又は(ⅱ)の書面に記載した事項の範囲内でないもの(翻訳文新規事項)を含む場合は、拒絶理由となる(第17条の2第3項)。

6. 各種出願についての取扱い

外国語書面出願は、正規の国内出願として受理されたものである。したがって、外国語書面出願に基づく分割出願、変更出願又は国内優先権の主張が認められる。

また、分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願又は国内優先権の主張を伴う出願は、特許出願である点で通常の特許出願と異なるところがない。したがって、これらの出願をする際には、外国語書面出願が認められる。

6.1 分割出願の取扱い

6.1.1 分割出願の形態

外国語書面出願に関連する分割出願の形態としては次のようなケースが考えられる。

(画像)分割出願の形態 ケース1~3

6.1.2 原出願が外国語書面出願である場合の分割出願の可能な時期(ケース1又はケース2)

外国語書面出願を原出願として分割出願をする場合の分割出願が可能な時期は、通常の特許出願を原出願として分割出願をする場合の時期と基本的に同様である。しかしながら、原出願についての翻訳文が提出される前は、分割の対象となる原出願の明細書等が存在しない状態なので、この間に分割出願をすることはできない。

6.1.3 審査における留意事項

6.2 変更出願の取扱い

6.2.1 変更出願の形態

実用新案登録出願及び意匠登録出願を、外国語書面出願としてすることは認められていない。したがって、外国語書面出願に関連する変更出願の形態としては次のようなケースが考えられる。

(画像)変更出願の形態 ケース1・2

6.2.2 原出願が外国語書面出願である場合の変更出願の可能な時期(ケース1)

外国語書面出願を原出願として変更出願をする場合の変更出願が可能な時期は、通常の特許出願を原出願として変更出願をする場合の時期と同じである。

6.2.3 審査等における留意事項

6.3 実用新案登録に基づく特許出願の取扱い

6.3.1 実用新案登録に基づく特許出願の形態

実用新案登録出願を、外国語書面出願としてすることは認められていない。したがって、外国語書面出願に関連する実用新案登録に基づく特許出願の形態としては次のようなケースが考えられる。

(画像)実用新案登録に基づく特許出願の形態 ケース(1つのみ)

6.3.2 審査における留意事項

審査官は、外国語書面ではなく、明細書等とみなされた翻訳文又はその後に補正がされた場合は補正後の明細書等に基づいて、実用新案登録に基づく特許出願の実体的要件を満たすか否かを判断する。

外国語書面が実用新案登録に基づく特許出願の実体的要件を満たしていない場合でも、明細書等とみなされた翻訳文又はその後に補正がされた場合は補正後の明細書等が実体的要件を満たしていれば、その実用新案登録に基づく特許出願は適法になされたものである。

6.4 国内優先権の主張の取扱い

6.4.1 国内優先権の主張の形態

外国語書面出願に関連する国内優先権の主張の形態としては次のようなケースが考えられる。

(画像)国内優先権の主張の形態 ケース1~3

6.4.2 先の出願が外国語書面出願である場合の国内優先権の主張が可能な時期(ケース1又はケース2)

外国語書面出願を先の出願として国内優先権の主張をする場合の国内優先権の主張が可能な時期は、通常の特許出願を先の出願として国内優先権の主張を伴う特許出願をする場合と同じである。

6.4.3 審査における留意事項

なお、(1)及び(2)のいずれの場合も、通常の国内優先権の主張を伴う特許出願の場合と同様、国内優先権の主張の効果が認められるか否かについては、原則として、先の出願の出願日と国内優先権の主張を伴う出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先行技術等が発見された場合にのみ判断すれば足りる。