第Ⅷ部 国際特許出願

この部における「国際特許出願」とは、特許協力条約に基づく国際出願であって国内移行されたもの(特許出願に係るもの)を意味する。また、「日本語特許出願」とは、日本語でなされた国際特許出願を意味し、「外国語特許出願」とは、外国語でなされた国際特許出願を意味する。

1. 概要

特許協力条約(PCT)に基づく国際出願は、国際出願日が認められると各指定国において国際出願日から正規の国内出願としての効果を有するとされ、国際出願日は各指定国における出願日とみなされる(PCT第11条(3))。

したがって、日本国において特許を受けようとして日本国を指定国に含む国際出願であって国際出願日が認められたものは、通常の国内出願(第36条又は第36条の2に規定する特許出願を意味する。以下この部において同じ。)としての効果を有することになる。

このような効力を有する日本国を指定国に含む国際出願についての取扱いを定めるために、第184条の3から第184条の20までの規定が設けられている。

2. 国際特許出願に関する書類

2.1 国際出願日における願書

国際特許出願に係る国際出願日における願書は、第36条第1項の規定により提出された願書とみなされる(第184条の6第1項)。

2.2 国際出願日における明細書、請求の範囲、図面及び要約

2.2.1 日本語特許出願の場合

国際出願日における明細書、請求の範囲、図面(以下この部において「国際出願日における明細書等」という。)及び要約は、それぞれ第36条第2項の規定により願書に添付して提出された明細書、特許請求の範囲、図面(以下この部において「明細書等」という。)及び要約書とみなされる(第184条の6第2項)。

2.2.2 外国語特許出願の場合

2.4(2)を参照。

2.3 第184条の5第1項に規定された書面

2.4 翻訳文

2.5 PCT第19条に基づく補正書

2.5.1 日本語特許出願の場合
2.5.2 外国語特許出願の場合

2.6 PCT第34条に基づく補正書

2.6.1 日本語特許出願の場合
2.6.2 外国語特許出願の場合

2.7 誤訳訂正書

3. 外国語特許出願について翻訳文が提出されなかった場合の取扱い

3.1 明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文が提出されなかった場合

翻訳文提出期間(2.4(1)参照)内に明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文が提出されないときは、その外国語特許出願は取り下げられたものとみなされる(第184条の4第3項)。

3.2 図面の中の説明の翻訳文が提出されなかった場合

図面の中の説明の翻訳文が提出されていない場合は、国際出願日における図面のうち、図面の中の説明を除く部分が願書に添付して提出された図面とみなされ、図面の中の説明はないものとして取り扱われる(第184条の6第2項)。

3.3 要約の翻訳文が提出されなかった場合

要約の翻訳文が翻訳文の提出期間内に提出されなくとも出願が取り下げられたものとはみなされない。しかし、要約の翻訳文の提出がない場合は補正命令及び出願却下の対象となる(第184条の5第2項第4号及び第3項)。

4. 国際特許出願の明細書等についての補正

4.1 補正の対象となる書面

4.1.1 日本語特許出願の場合

日本語特許出願においては明細書等(2.2.1参照)が補正の対象となる。

4.1.2 外国語特許出願の場合

外国語特許出願においては明細書等(2.4(2)参照)が補正の対象となる。

4.2 明細書等について補正ができる時期

4.2.1 日本語特許出願の明細書等について補正ができる時期

通常の国内出願と基本的に同様であるが、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の全ての後でなければ補正(注)をすることができない(第184条の12第1項)。

(注)第184条の7第2項に規定する補正(2.5.1(2)参照)及び第184条の8第2項に規定する補正(2.6.1(2)参照)は除かれる。

4.2.2 外国語特許出願の明細書等について補正ができる時期

通常の国内出願と基本的に同様であるが、以下の(ⅰ)から(iv)までの全ての後でなければ補正(注)をすることができない(第184条の12第1項)。

(注)第184条の8第2項に規定する補正(2.6.2(2)参照)は除かれる。

5. 国際特許出願の審査

5.1 日本語特許出願の場合

日本語特許出願の審査は、通常の国内出願の審査と同様である。

ただし、19条補正又は34条補正がされた場合には、審査官は、以下の点に留意する。

19条補正又は34条補正の補正書の写しが提出された場合又は国際事務局から補正書が送達された場合は、その補正書の写し又は補正書により、第17条の2第1項の規定による補正がされたものとみなされる(2.5.1及び2.6.1参照)。

5.2 外国語特許出願の場合

外国語特許出願の審査は、外国語書面出願の審査と同様である。審査官は、「第VII部第2章 外国語書面出願の審査」に準じて審査をする。その際、審査官は、「外国語書面」を「第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」と読み替える。

ただし、19条補正又は34条補正がされた場合には、審査官は、以下の点に留意する。

19条補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合は、その翻訳文が第36条第2項の規定により願書に添付して提出された特許請求の範囲とみなされる(2.5.2参照)。よって、その翻訳文が翻訳文新規事項の判断の基準となる特許請求の範囲となる。

34条補正の補正書の翻訳文が提出された場合は、その補正書の翻訳文により、明細書等について補正がされたとみなされ、その補正は、誤訳訂正書を提出してされたものとみなされる(2.6.2参照)。よって、その補正には、翻訳文新規事項の規定は、適用されない。また、その補正がされた明細書等が翻訳文新規事項の判断の基準となる明細書等となる。

6. 各種出願についての取扱い

国際出願日が認められた国際特許出願は、通常の特許出願としての効力を有するものである。したがって、通常の国内出願と同様に、国際特許出願に基づく分割出願、変更出願及び優先権の主張が認められる。

また、特許協力条約に基づく国際出願であって国内移行されたもの(実用新案登録出願に係るもの)(以下この部において「国際実用新案登録出願」という。)や、我が国を指定締約国とする、意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定に規定する国際出願であって国際公表されたもの(以下この部において「国際意匠登録出願」という。)からの特許出願への変更が認められる。

国際実用新案登録出願に係る実用新案登録(以下この部において「国際実用新案登録」という。)に基づく特許出願も認められる。

6.1 原出願が国際特許出願の場合の分割出願の取扱い

6.1.1 分割出願の形態

国際特許出願を原出願とする分割出願の形態としては、次のようなケースが考えられる。

(図)国際特許出願を原出願とする分割出願の形態

6.1.2 分割出願が可能な時期

日本語特許出願の場合(ケース1)も外国語特許出願の場合(ケース2)のいずれについても、分割出願ができる時期は、第44条第1項に規定された時期である(「第VI部第1章第1節 特許出願の分割の要件」参照)。なお、補正をすることができる時期については4.2を参照。

6.1.3 審査における留意事項

審査官は、特許出願の分割の実体的要件を、原出願の国際出願日及び分割直前における明細書等に基づいて判断する(特許出願の分割の実体的要件の判断手法については、「第VI部第1章第1節 特許出願の分割の要件」を参照。)。

ただし、原出願が外国語特許出願の場合の国際出願日における明細書等については、その明細書等と翻訳文の内容は一致している蓋然性が極めて高いので、通常は、原出願の翻訳文に基づいてその判断をすれば足りる。

6.2 原出願が国際実用新案登録出願等の場合の変更出願の取扱い

6.2.1 変更出願の形態

国際実用新案登録出願や国際意匠登録出願から特許出願への変更出願の形態としては、次のようなケースが考えられる。

(図)国際実用新案登録出願や国際意匠登録出願から特許出願への変更出願の形態

6.2.2 変更出願が可能な時期

変更出願が可能な時期は以下のとおりである。

6.2.3 審査における留意事項

6.3 国際実用新案登録に基づく特許出願の取扱い

6.3.1 国際実用新案登録に基づく特許出願の形態

国際実用新案登録に基づく特許出願の形態としては次のようなケースが考えられる。

(図)国際実用新案登録に基づく特許出願の形態

6.3.2 国際実用新案登録に基づく特許出願ができる時期

国際実用新案登録に基づく特許出願ができる時期は、通常の実用新案登録に基づく特許出願ができる時期と同じである(「第VI部第3章 実用新案登録に基づく特許出願」参照)。

6.3.3 審査における留意事項

審査官は、国際実用新案登録に基づく特許出願の実体的要件を、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)に基づいて判断する(実用新案登録に基づく特許出願の実体的要件の判断手法については、「第VI部第3章 実用新案登録に基づく特許出願」を参照。)。

ただし、国際実用新案登録出願が外国語の国際実用新案登録出願の場合の国際出願日における明細書等については、その明細書等と翻訳文の内容は一致している蓋然性が極めて高いので、通常は、国際実用新案登録出願の翻訳文に基づいて判断すれば足りる。

6.4 優先権の主張の取扱い

6.4.1 優先権の主張の形態

国際特許出願に関連する優先権主張の形態としては次のようなケースが考えられる。

(図)国際特許出願に関連する優先権主張の形態

6.4.2 優先権の主張の可能な時期

国際特許出願を基礎として優先権の主張を伴う場合(ケース1又はケース2)も、国際特許出願を、優先権主張を伴う出願(ケース1又はケース3)として出願する場合も、優先権の主張が可能な時期は、通常の国内出願について優先権の主張が可能な時期と同じである(「第V部 優先権」参照)。

6.4.3 審査における留意事項

なお、(1)及び(2)のいずれの場合も、通常の優先権の主張を伴う特許出願の場合と同様に、優先権主張の効果が認められるか否かについては、原則として、先の出願の出願日と優先権の主張を伴う出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先行技術等が発見された場合にのみ判断すれば足りる。