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ビジネス関連発明の最近の動向について

2024年12月
特許庁 審査第四部 審査調査室

目次

  1. ビジネス関連発明の概要
  2. ビジネス関連発明の出願関連動向
  3. ビジネス関連発明に関する参考情報

1. ビジネス関連発明の概要

1-1 ビジネス関連発明とは

  • ビジネス関連発明(※1)とは、ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明です。
  • 特許制度は技術の保護を通じて産業の発達に寄与することを目的としています。したがって、販売管理や、生産管理に関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりません。
  • 一方、そうしたアイデアがICTを利用して実現された発明は、ビジネス関連発明として特許の保護対象となります。

(※1)IPC又はFIとしてG06Qが付与された特許出願をビジネス関連発明と定義しています。なお、「ビジネス関連発明」の定義は本調査内でのみ有効なものであり、特許庁として公式な定義を表明するものではありません。

(図)ビジネス方法×ICT=ビジネス関連発明

1-2 ビジネス関連発明と第四次産業革命

  • 第四次産業革命を推し進めているIoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)等の新たな技術が進展する中、ビジネス関連発明の利活用に注目が集まっています。
  • 具体的には、IoTの一つのモデルとして、(1)様々なセンサ等からデータを取得、(2)取得されたデータを通信、(3)通信されたデータをクラウド等にビッグデータ化し蓄積、(4)当該データをAI等によって分析、(5)分析によって生まれた新たなデータを、何らかのサービスへ利活用、(6)IoTにおけるビジネスモデルの確立、という(1)~(6)からなるモデルを想定した場合、(5)の利活用や、(6)のビジネスモデルの確立において、自社のビジネスモデルが化体したシステムをビジネス関連発明の特許として保護することが可能な場合があります。

IoTのモデル図

(図)(1)取得、(2)通信、(3)蓄積(ビッグデータ化等)、(4)分析(AI等)、(5)利活用、(6)全体のビジネスモデルの確立

2. ビジネス関連発明の出願関連動向

2-1. 出願・審査動向(全体)

  • 国内のビジネス関連発明の特許出願件数(グラフ1)は、非常に特徴的に推移しています。2000年に生じた出願ブーム後の減少傾向は2012年頃から増加に転じており、2022年は13,411件の出願がありました。
  • 背景には、「モノ」から「コト」への産業構造の変化が進む中で、ソリューションビジネスを想定した研究開発が活発化していることが考えられます。また、スマートフォンやSNSの普及に加え、AI、IoT技術の進展により、ICTを活用した新たなサービスが創出される分野(金融分野など)が拡大していることも一因に挙げられます。
  • なお、当初低調であった特許査定率(グラフ2)は年々上昇しており、近年は技術分野全体の特許査定率と同程度の70%台で推移しています。

(グラフ1)ビジネス関連発明の出願件数の推移
グラフ1 ビジネス関連発明の特許査定率の推移

(グラフ2)ビジネス関連発明の特許査定率の推移(ビジネス関連発明自体を主要な特徴とする出願を対象)
グラフ2 ビジネス関連発明の特許査定率の推移
(ビジネス関連発明自体を主要な特徴とする出願を対象)

備考

  • 「ビジネス関連発明自体を主要な特徴とする出願」は、G06Qが主たるFIとして付与された出願です。
  • 「ビジネス関連発明ではあるが、他技術に主要な特徴がある出願」は、G06QがFIとして付与されているが、その他のFIが主たるFIとして付与された出願です。
  • 出願件数は、(1)国内出願件数と(2)PCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)に基づく国際出願のうち日本へ国内移行した出願件数、の合計数です。公開前に拒絶査定、(みなし)取下げ、放棄がなされた未公開案件も含みます。
  • PCT国際出願は、国内書面の受付日を基準日として計上しています。
  • 特許査定率=特許査定件数/(特許査定件数+拒絶査定件数+FA後取下・放棄件数)

2-2. 出願動向(分野別)

  • 分野別のビジネス関連発明の出願件数の推移(グラフ3)によると、2021年に出願されたビジネス関連発明のうち上位を占めるのは、次の3分野です。
    • (1)特定分野(※2)を除くG06Q50/及びG06Q90/,99/(サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等))
    • (2)G06Q10/(管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等))
    • (3)G06Q30/(EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等))
  • 「特定分野を除くG06Q50/及びG06Q90/,99/(サービス業一般)」では、様々な業種でスマホやオンライン上で提供されるサービスの拡大が出願増加の要因と考えられます。特に、運輸業、宿泊業、不動産業において、それぞれ、タクシー等の配車サービス、民泊ビジネス、不動産テックが拡大しており、それらが出願増加の要因と考えられます。
  • 2015年以降、特に高い伸び率を示している分野は「G06Q10/(管理・経営)」であり、社内の業務システムや在庫管理の最適化に人工知能(AI)を活用する発明が代表例として挙げられます。
  • 「G06Q30/(EC・マーケティング)」の出願増加は、フリマアプリやネットオークションを含む電子商取引の隆盛と、それに伴うマーケティングや広告ビジネスの活発化が要因と考えられます。
  • 上位3分野に続いて、出願規模の大きい分野は、「G06Q20/,40/(金融)」(フィンテックを含む)です。スマホ決済や家計簿アプリといった、ユーザがスマホを介して気軽に受けられる金融サービスの普及が一因と考えられます。
  • 「G06Q50/02(第一次産業)」及び「G06Q50/04,50/08(第二次産業)」は、件数自体は少ないですが、2015年から2022年にかけて、第一次産業は6倍程度、第二次産業は3倍程度、出願が増加しており、幅広い分野でICTを活用した課題解決が図られている傾向が窺えます。
(※2)G06Q50/04,50/08(第二次産業(製造業、建設業等))、G06Q50/06(エネルギー)、G06Q50/02(第一次産業(農業、漁業、鉱業等))、G06Q50/26(公共サービス)、G06Q50/20(教育)。以下同じ。

(グラフ3)分野別ビジネス関連発明の出願件数の推移
グラフ3 分野別ビジネス関連発明の出願件数の推移

備考

  • グラフ3は、「ビジネス関連発明自体を主要な特徴とする出願」に付与された一の主たるFIに基づきます。
  • 分野とFIの対応、及び、各年の出願件数は次のとおりです(分類の詳細はJ-PlatPat(外部サイトへリンク)を参照してください。)。
分野 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
特定分野を除くG06Q50/及びG06Q90/,99/(サービス業一般) 1,224 1,089 1,412 1,486 1,852 2,243 2,744 2,935
G06Q10/(管理・経営) 592 986 1,288 1,560 1,842 2,052 2,472 2,492
G06Q30/(EC・マーケティング) 1,150 1,282 1,365 1,579 1,754 1,986 2,218 2,383
G06Q20/,40/(金融) 542 768 834 1,092 1,127 1,260 1,153 1,182
G06Q50/04,50/08(第二次産業(製造業、建設業等)) 135 151 171 185 256 342 402 430
G06Q50/06(エネルギー) 178 258 170 229 242 255 309 348
G06Q50/02(第一次産業(農業、漁業、鉱業等)) 35 59 96 77 151 158 231 214
G06Q50/26(公共サービス) 101 92 81 102 105 138 183 237
G06Q50/20(教育) 62 75 86 91 83 111 118 114

2-3. AI関連発明とビジネス関連発明

  • ビジネス関連発明はAI(特に、データの学習に基づいて判断を下す機械学習技術)と親和性が高く、AIを活用してビジネス上の課題解決を図るケースが増えています。また、近年は、ChatGPT等の生成AIをビジネスに利用するケースも増えています。
  • ビジネス関連発明の上位4分野におけるAI関連発明の出願件数をみると、いずれの分野においても、2015年以降、AI関連発明が増加していることが分かります(グラフ4)。特にAIの適用が目立つ分野は「G06Q10/(管理・経営)」及び「特定分野を除くG06Q50/及びG06Q90/,99/(サービス業一般)」であり、対象の予測、最適化をAIによって実現する発明などが増加しているものと考えられます。

(グラフ4)各分野におけるAI関連発明の出願件数の推移
グラフ4 各分野におけるAI関連発明の出願件数の推移

備考

分野 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
G06Q10/(管理・経営) 6 21 62 127 154 153 251 219
特定分野を除くG06Q50/及びG06Q90/,99/(サービス業一般) 37 47 91 110 153 139 196 215
G06Q30/(EC・マーケティング) 12 28 44 76 104 150 137 147
G06Q20/,40/(金融) 3 10 22 32 47 49 65 52

2-4. 各国の出願動向

  • 中国以外の各国では、ビジネス関連発明の出願件数はこの11年で1~3倍程度になっています(グラフ5)。
  • 中国の出願件数は急増しており、2021年の出願件数は7万件を超えています。
  • 米国の出願件数は、2014年の米国連邦最高裁判所のAlice判決(※3)により、ビジネス関連発明に関する特許の取得が困難になったことを背景に、2014年以降出願件数は一時減少しましたが、近年はおおむね2万件前後で推移しています。減少の歯止めの要因として、2019年1月に審査ガイダンスが改訂され、ビジネス関連発明の審査の予見性が向上したことが考えられます。
  • 欧州特許庁への出願件数は、五大特許庁の中で最少です。この背景には、欧州特許庁のビジネス関連発明に対する厳しい進歩性の判断が影響していると考えられます。
(※3)Alice Corp. v. CLS Bank International, 134 S. Ct.2347 (2014).

(グラフ5)各国のビジネス関連発明の出願件数の推移
グラフ5 各国のビジネス関連発明の出願件数の推移

備考

  • 各国のビジネス関連発明の出願件数は、G06QがIPCとして付与されている出願(主要な分類であるかは問わない)に対応しています。
  • 図中の国コードは、JP:日本、US:米国、EP:欧州(EPO)、CN:中国、KR:韓国、WO:PCT国際出願(出願人国籍問わず)を意味しています。
  • 日本、中国、韓国については実用新案の出願件数を含みます。
  • WIPO Patentscope(外部サイトへリンク)からデータを取得し、特許庁がグラフを作成しています(2024年7月12日検索)。対象とするデータベースが異なるため、JPの出願件数はグラフ1の国内出願件数とは一致しません。
  • 各国の出願件数は次の通りです。
2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
CN 4,572 5,925 8,669 11,211 17,155 29,293 41,078 52,646 58,499 67,396 75,107
US 11,826 15,306 17,912 19,197 17,632 17,373 18,506 18,734 20,485 19,603 18,089
KR 5,631 7,414 6,939 7,259 8,458 9,352 9,189 10,939 12,015 14,111 16,770
JP 4,980 5,634 6,125 6,454 6,122 6,999 7,902 8,692 9,534 10,015 10,848
EP 2,286 2,716 2,801 3,067 3,273 3,506 3,631 3,711 3,798 3,720 3,438
WO 3,409 4,656 4,792 5,044 6,036 6,449 6,739 7,812 7,931 7,833 7,812

3. ビジネス関連発明に関する参考情報

  1. 特許・実用新案審査ハンドブック附属書B 第1章 コンピュータソフトウエア関連発明(PDF:2,051KB)
  2. IoT関連技術の審査基準等について
  3. AI関連技術に関する事例について
  4. AI関連発明の出願状況調査
  5. English Page (v2024)

[更新日 2024年12月6日]

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