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Vol.46
広報誌「とっきょ」2020年11月25日発行号

医薬の新領域 中分子医薬の開発状況を特許で読み解く

俯瞰解析によって研究開発動向を探る
中分子医薬周辺の特許俯瞰図
【図3】中分子医薬周辺の特許俯瞰図(米国特許公開公報)※対象文献 米国特許公開公報2001〜2020対象件数USPTO40万件強 米国の中分子医薬に関連する特許情報をもとに作成した俯瞰図。大量のドキュメントの関係性を平面図に正確に表現し、その配置から粗密・分布・方向性を計測したもの。(VALUENEX作成)

ある技術の研究開発動向を探る際、筆者は俯瞰解析という手法を使用します。
俯瞰解析とは、たとえ専門性に乏しい分野(筆者自身必ずしも医薬の専門家ではありません)であっても研究開発動向を把握することができる手法で、分かりやすく言い換えると「ある技術分野の文献情報を地図に置き換えることで全体像をつかむ」というものです。特許文献は一定のフォーマットに従った網羅性の高いデータ群であり、俯瞰的に分析するのに適しています。
今回は、医薬分野で大きなマーケットであり、特許出願件数も世界的に見て極めて多い米国をターゲットとして、中分子医薬の世界を紐解いてみましょう。
中分子医薬に関する米国特許公開公報を対象とした俯瞰解析図を【図3】に示しました。図中で黄色からオレンジ色で示される部分(集積領域)は研究開発が活発に行われていると考えられる部分であり、集積領域同士が近いほど、技術分野も近いと見ることができます。

俯瞰解析図に基づく研究開発の傾向分析

大環状ペプチドという複数のアミノ酸が大きな環状構造を成す化合物群は、ターゲットとするタンパク質(例えば、特定の病気の発症に関連し、薬が作用して欲しいタンパク質)に結合しやすく、細胞膜を通って細胞内に入りやすい、まさに中分子医薬としての長所を持ち合わせる化合物群であると言われています。
俯瞰解析図を見ると、この大環状ペプチドと呼ばれるペプチドは、天然の植物や遺伝子組換生物から生産できるかといった研究や大環状ペプチドが癌治療に有用かどうかといった研究に特に注目されていることが分かります。生産方法の多様化に加え、特定の疾患への有用性についての研究開発が活発に成されているということから、大環状ペプチドが中分子医薬分野においてホットな研究開発分野であり、医薬品として特に期待されていることが分かります。
また、DNAのような核酸という遺伝子と同じ物質をベースに作る医薬品「核酸医薬」も中分子医薬の一種です。核酸医薬は不安定で体内で分解されやすい、または薬が作用して欲しい部位にたどり着かないといった課題がありますが、そのような課題を解消するために、核酸医薬の分解を防ぎ、体内での安定性を改善する方法や、作用して欲しい病気の原因部位(ターゲット)に対して、効果的に核酸医薬を届ける手法に関する研究が活発にされていることも分かりました【図4】。

【図4】中分子医薬周辺の特許俯瞰図(米国特許公開公報)
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