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特集1:ダイキン工業株式会社
弊社は2019年に冷媒R32を用いた空調機器に関する特許(以下、R32機器特許)の権利不行使を宣言し、国内外で大きな反響を呼びました。
20世紀後半にオゾン層破壊の問題が表面化し、フロンガス規制に伴う冷媒の切り替えが進みました。R22などのHCFC(※1)が暫定的に使われていましたが、オゾン層破壊性が残るため、さらにR32やR410AなどのHFC(※2)への移行が進められました。R32は地球温暖化係数がR410Aの3分の1ほどで、弊社は最もバランスの良い新冷媒と判断し、20世紀末頃からR32機器特許を多数出願、登録していました。
しかし2010年代になって、新興国におけるHFCへの切り替えで、R410Aが主流になる可能性が出てきました。未来の市場に温暖化係数の高い冷媒が広がることを懸念した弊社は、2011年に新興国向けにR32機器特許を開放。2015年には先進国向けにも同様の開放を行って、R32冷媒がデファクトスタンダードとして普及する環境を整えました。そして浸透をさらに推進するため、弊社の事前許可や契約書が不要であることを宣言した2019年の無償開放へと至ったのです。弊社にはR32機器特許のライセンス料で利益を追求する選択肢もあり、社内でも意見が交わされましたが、グループの理念やミッションに鑑みて、地球温暖化抑制に資する知財を共有することが大局的に好ましいと決断しました。WIPO GREENのデータベースにも、開放したR32機器特許の情報を計419件登録しています。
2022年12月時点のデータで、世界のR32エアコン販売台数は他社製品も含めると累計2・3億台に達し、CO2の排出抑制効果は累計約3・7億トンと推計されます。「レベルプレイングフィールド(公平に競争する共通の土俵)」作りを重視した弊社の選択が、一定の成果に結実したのではと考えています。(安部氏)
※1 HCFC(ハイドロ・クロロフルオロ・カーボン):従来のCFC(クロロ・フルオロ・カーボン)に続いて使われ始めたフロン冷媒。塩素を含むためオゾン層破壊性が残り、国際的な対応を定めたモントリオール議定書で、先進国における2020年までの全廃が定められていた
※2 HFC(ハイドロ・フルオロ・カーボン):塩素ではなく水素を含む。オゾン層破壊性がないが、フロン類の温室効果という課題は残るため、各社は温室効果の低い「グリーン冷媒」などの開発にも注力している
新興国向けの特許無償開放は、 冷媒の基礎知識や、据え付け工事技術などのノウハウ共有と一体で行うことも大事です。例えばインドでは政府の協力を得て、主要都市の技術者のトレーニングなどでも提携し、R32冷媒の普及プロジェクトを推進しています。
工事の精度向上は信頼性の観点から大変重要で、現場業務DXのフェアリーデバイセズさんと提携し、同社の首掛け型デバイスと、弊社の現場作業支援アプリを組み合わせた「コネクテッドワーカーソリューション®」を共同で立ち上げ、空調機器メンテナンスの効率化や、海外の技術者教育などへの活用を想定しています。こうした外部協創においては、両社の特許群を組み合わせた知財ポートフォリオを構築し、グローバル市場での拡充を続けられるWin・Winの仕組み作りも進めています。
今後も、オープン化や外部協創も含めて、特許を創造的に活用する知財戦略をより洗練させていきたいと考えています。(安部氏)
オープン化を背景に、世界に広がるR32エアコン
写真・図版提供:ダイキン工業株式会社
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