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特集1:艸方窯
日本六古窯の1つで、現在も全国有数の窯業地である滋賀県甲賀市信楽町。特許技術を活用して開発された、常識を超えた焼き物が注目を集めている。信楽焼の可能性の拡張に挑み続ける窯元・艸方窯と、地域の窯元や作家のものづくりを長年支援してきた、滋賀県工業技術総合センター信楽窯業技術試験場に話を聞いた。
艸方窯 代表
奥田 芳久さん
画家として出発し、26歳の時に信楽の名家・奥田家に婿入りして陶芸の道に進む。1975年に「艸方窯」を創業し、絵付けや金箔を積極的に用いるなど信楽焼の新しい可能性を探り続ける。1999年信楽陶芸展審査委員特別賞受賞。
1975年に自分の窯を持って以来、信楽焼の新しい表現や技術を求めた取組を続けてきました。なかでも大きな成果に結実したのが、透ける陶器を実現した滋賀県の信楽窯業技術試験場の特許技術「信楽透器」で作った、「光る洗面器」です。
陶器は光を通す性質を持たないというのが常識。十五年以上前に、信楽透器を紹介した新聞記事を読んだ時は半信半疑でしたが、実際に信楽窯業技術試験場で見せてもらうと、従来の陶器の3倍の透光性で、肉厚な状態でも光を通します。しかも成形性が良く、他の陶土を練り込めるなど自由度も高い。創作意欲が刺激されて、すぐ滋賀県に技術使用の許諾を申請しました。その頃LEDの活用にも関心があったので、滋賀県立大学のプロダクトデザイナー、南政宏さんに「世の中に貢献できるものを作りたい」と、「光る洗面器」のコンセプトを伝えると、斬新なデザインを提案してくれました。
しかし開発は失敗の連続でした。約3年間持ち出しが続きましたが、お付き合いのあった大手陶器メーカーの協力もあり、歯を食いしばって研究を続けました。とにかく徹底的にデータを蓄積して、膨大な量のメモを繰り返し眺めているうちに、少しずつ道筋が見えてきました。そしてある時、思いがけず成功。万感胸に迫るものがありました。
現在は、光る洗面器の他、テーブルスタンドやペンダントライトなどを展開しています。価格帯は数万円から20万円台と高めですが、熱心なファンがついてくれています。