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Vol.64
広報誌「とっきょ」2025年3月7日発行号

特集1:艸方窯

特許技術の透光性陶土を活用
信楽焼の可能性を広げる「光る洗面器」

最先端の技術や素材が引き出す信楽焼の新たな可能性に期待

「信楽透器」の知財利用は、滋賀県産業支援プラザや、滋賀県庁のモノづくり振興課(現:イノベーション推進課)のお世話になりました。支援プラザには、海外販路開拓や外国出願補助金利用の際にも相談させてもらっています。昨年、近畿経済産業局主催のパリのワークショップに参加した際も、特許技術と聞いて関心を抱いてもらえた様子でした。ヨーロッパの宿泊施設は水回りが暗く、「光る洗面器」と相性が良さそうなので、現在JETRO(日本貿易振興機構)の助言を受けながら、CEマーク(EU加盟国の基準適合マーク)など本格的なPRの準備を整えています。

私は「伝統工芸は革新の連続」という言葉を大切にし、弟子たちには「陶器の常識を疑え」と教えてきました。陶器の面白さは、半導体に用いられるなど伝統工芸の枠に収まらず活躍する奥の深さにあります。最先端の素材や技術などの知的財産が信楽焼の可能性を引き出して、世の中の役に立つ新製品が創り出されるとしたら、とても楽しみなことではないでしょうか。

信楽陶芸展審査委員特別賞受賞作の大皿
既成概念を超える器作りに邁進する契機となった、信楽陶芸展審査委員特別賞受賞作の大皿
Collaboration

滋賀県工業技術総合センター信楽窯業技術試験場

モノ・ヒト・コトづくり支援と知財を結び付けて地域の魅力発信を促進

1927年(昭和2年)、前身の模範工場の流れをくみ滋賀県立窯業試験場が開設されました。その後改称を経て、1997年(平成9年)に滋賀県工業技術総合センター信楽窯業技術試験場へと改編。長い歴史の中で、新素材や技術の開発による地域のモノづくり支援を柱に一貫して取り組んできました。「信楽透器」(特許第5352035号)もその1つで、2008年に当時の職員が、光ファイバーに用いる石英ガラスなどを原料に混ぜるアイデアを得て、光を通す陶器を開発したのが出発点です。

信楽透器
2022年(令和4年)に移転した新庁舎では、各窯元の信楽透器が展示されている

特許の実施許諾(ライセンス契約)においては、まずは滋賀県の産業振興を目指して県内の事業者の積極的な活用を促しつつ、県外にマッチングの幅を広げるに当たっても、「信楽透器」の商標を活用したブランディングを意識しています。艸方窯さんはご自身で土づくりのメソッドも開発されたケースですが、他にも、陶磁器用粘土の製造・販売事業者さん(実施許諾の対象)を通して土を購入し、信楽透器の製品を開発している窯元さんの事例も複数あります。今後、大きな焼き物に適している信楽焼の特徴を生かして建材に応用する例など、さらに製品のバリエーションが増えて、信楽の魅力発信につながることが期待されます。

現在、信楽窯業技術試験場では、伝統や文化の再認識につながる「コトづくり支援」にも積極的に取り組んでおり、庁舎でも信楽焼のストーリーや世界観を提示しています。モノ・コトづくり支援と知財が結び付いた地域の魅力の充実を、人材育成や定住促進といった「ヒトづくり支援」にもつなげていきたいですね。
(高畑さん・中島さん)

中島孝さん
滋賀県工業技術総合センター
信楽窯業技術試験場
専門幹 中島孝さん
高畑宏亮さん
滋賀県工業技術総合センター
信楽窯業技術試験場
場長 高畑宏亮さん
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