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先生方がすぐに授業実践に活用できる
知的財産権侵害防止教育の新しい授業展開例ができました!
「家庭科」の授業展開例
高等学校「家庭科」学習指導要領 内容C 「持続可能な消費生活・環境」
(2)消費行動と意思決定 ア(ア)消費行動における意思決定 ア(イ)消費者問題や消費者の自立と支援 対応
授業展開例、授業用スライド、生徒用ワークシートはこちらからダウンロードできます。
テーマを「知的財産権の侵害 〜消費者として正しい⾏動を〜」と設定し、
・コピー商品の購⼊が知的財産権の侵害になることを知る。
・知的財産権が侵害されることで、社会にどのような影響を及ぼすか考える。
・消費者は保護されるだけでなく、消費⽣活に必要な知識や判断⼒を習得し、主体的に⾏動することが⼤切であると学ぶ。
を目標に授業を展開していきます。
表は上下左右にスクロールします。
学習項目・学習活動・スライド | 説明例・発問例 | |
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導入 10分 |
●ワークシートを配布し、具体例をあげ、身近な知的財産権について意識させる。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
●クラス全員に問いかけながら、知的財産権を侵害しているシチュエーションの説明例: 「次の4⼈の話を聞き、疑問を感じる点はありますか? ①Aさんは海外旅⾏へ⾏き、有名⾼級ブランドのTシャツが⽇本の1/10の価格で販売していたので、お⼟産に買ってきた。 高級ブランドのTシャツが10分の1の価格で売っている可能性は低いので、本物ではないと疑うべきです。 ②Bさんは周りの友達が⾼級ブランド財布を持っていて、⾃分も欲しいけれど、お⾦がないからブランドそっくりな財布をネットで安く購⼊した。 ブランド品にそっくりな偽物を買ってしまうのは、あなたの好きなブランドの価値を踏みにじる行為です。 ③Cさんは⼤好きなアイドルがいるので、そのアイドルの顔写真を⾃分のラインのアイコンにした。 よく見かけますが、これも実はしてはいけません。 ④Dさんは違法アップロードされているアプリを発⾒し、無料でダウンロードできたので、1曲だけダウンロードして、通学途中に聞いている。 これも好きなアーティストを侮辱する行為です。 [指導上の留意点] ワークシートを配布する。 生徒に問いかけながら、スライドの例が全て知的財産権の侵害であることを説明する。 |
●⽣徒数名に何か疑問を感じる点やスライドの例がなぜいけないのか、などを聞く。 |
【想定される生徒の意見】
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●知的財産権について説明し、ワークシートに記⼊させる。 ![]() ![]() ![]() |
●スライドの例をあげながら、知的財産権とはなにかの説明例: 「『海外旅行でブランドのTシャツがすごく安く売られていたのを買った。』『インターネットでブランドそっくりな財布を買った。』『好きなアイドルの顔写真を自分のSNSのアイコンに使った。』『違法アップロードされている音楽をダウンロードした。』この4つの例は知的財産権という権利を侵害しています。」 「それでは知的財産権とは何かというと、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度です。知的創造活動によって生み出されたものとは、例えばアイデア・デザイン・マーク・音楽・作品・発明など様々なものがあるのです。」 |
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●「コピー商品を購⼊したことはあるか」と全体に問いかける。 ![]() |
●コピー商品を購⼊したことがあるかどうかの発問例: 「コピー商品を買うつもりがなくても、結果的にコピー商品が手元に届いた、という経験でもよいです。皆さんもフリマアプリ等で偽物だと全然気づかずに買ってしまったという経験があるかもしれません。」 |
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●コピー商品について、実際の販売サイトを使い、コピー商品の価格と正規品の価格を⽐較し説明する。 ![]() ![]() |
●正規品の販売サイトとコピー商品の販売サイトを比べた説明例: 「例えばこのブランド品の財布ですが、インターネットで同じ財布を調べてみると瓜二つの財布が7分の1の値段で売られていました。写真も載っており、巧妙に作られています。インターネットで検索すると、こういうサイトが数多く出てきます。ブランド名も明記され、どれも本物よりかなり安い値段で売られています。」 「料金の支払い方も、クレジットカード・銀行振込・代金引換にも対応しています。しかも国内発送なので安心、とうたっています。」 「このような、誰でも簡単にコピー商品を買うことができるネットショップが沢山あります。また、実際に存在する公式サイトにそっくりに作られた偽のサイトも存在します。」 [指導上の留意点] コピー商品を扱う販売サイトは巧妙にできており、簡単にアクセスできてしまうことを説明する。 ●コピー商品がなぜいけないのか、の説明例: 「それでは、コピー商品はなぜいけないのでしょうか? それは知的財産権を侵害した違法品だからです。マークやロゴ等に使われている権利が商標権といいます。新しいアイデアを出して特許を取った場合などは特許権です。小説や音楽等の創作物の作者の権利を守る権利が著作権です。このような権利を侵害している模倣品のことをコピー商品といいます。」 |
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「家庭科」の授業展開例 モデル授業(北海道標津⾼等学校)の「導入」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) | ||
展開 35分 |
●ロールプレイを⾏う。 ・クラスを4つのグループに分ける。 ・⽴場や商品の価格が記⼊されているロールプレイ⽤のカードを配布する。 ![]() |
●ロールプレイの内容とカードの例: 「消費者」「コピー商品販売者」「正規品販売者」の⽴場で、消費者へ向けたセールストークを⾏い、消費者がどちらの商品を購⼊するか考える。 ●ロールプレイを開始する際の説明例: 「グループを分けて、正規品を販売する側、コピー商品を販売する側、買うものを選択する消費者側になってください。正規品の販売者は、この大流行のスニーカーの正規品を売る人になって消費者にセールストークをしてください。コピー商品の販売者は、この大流行のスニーカーのコピー商品を売る人になってセールストークをしてください。グループの消費者は大流行のスニーカーがとっても欲しい人になってください。セールストークを聞いて、消費者には最後に正規品かコピー商品のどちらを買うかを選んでもらい、選んだ理由を発表してもらいます。」 【カードの例】 グループ① 「⼤流⾏のスニーカー」正規品:30,000 円 コピー:5,000 円 グループ② 「⼤流⾏のパーカー」正規品:50,000 円 コピー:8,000 円 グループ③ 「⾼級ブランドバッグ」正規品:200,000 円 コピー:15,000 円 グループ④ 「⾼級腕時計」正規品:600,000 円 コピー:20,000 円 [指導上の留意点] セールストークが思いつかない⽣徒には助⾔を⾏う。 |
●各グループの消費者がコピーか正規品かどちらを選んだのかを理由を添えて発表する。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
●生徒がロールプレイの結果を発表する際の説明例: 「正規品とコピー商品のどちらを買うか、そして、その理由を発表してください。」 【想定される生徒の意見】
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●「コピー商品が広がると社会はどうなるか?」についてグループごとに考え、グループの代表者に発表させる。 ![]() ![]() |
●「コピー商品が広がると社会はどうなるか?」の生徒の発表をまとめ、コピー商品が社会に広がった場合の説明例: 「ブランド品の価値は下がります。正規品の会社は知的財産権を侵害され、コピー商品を作る会社に大きな利益が生まれます。商品の販売が妨げられ、正規品を作っている会社が倒産する可能性も出てきます。その結果、新しいオリジナルのものを作ろうとする人、意欲がなくなってしまうことになるかもしれません。」 | |
●知的財産権の侵害が私たちの経済社会の発展を阻害し、衰退させてしまうと説明する。 ![]() ![]() |
●コピー商品を購入する危険性の説明例: 「コピー商品を作っている人たちは自分たちが違法行為をしていることを自覚しているプロの犯罪組織です。コピー商品を買うことが犯罪組織の手助けをすることになって、犯罪に加担しているということになります。コピー商品を販売しているインターネット通販サイトで購入するとしたら、プロの犯罪組織に氏名、住所、電話番号、クレジットカード番号等の個人情報を渡すことになってしまいます。個人情報は高値で売買され、例えば闇バイトの勧誘等の別の犯罪に悪用されてしまう危険性があります。これはコピー商品を購入することによって生じる大きなリスクです。また、コピー商品だと知らずに、もしくは知っていて買い、フリマアプリなどで出品しても罪になります。」 「さらに広い視点で見ると、コピー商品の蔓延は経済社会の発展を阻害します。一生懸命に考えてオリジナルの新しい製品を作っても、それがコピーされてインターネット通販や海外で安く売られてしまったら、どうなるでしょうか? 会社や個人は自ら考えて発明したりデザインしたり、新しい製品を開発しようという意欲を失ってしまいます。そうなると、今度私たちの経済社会から活力が失われて、発展が妨げられます。私たち消費者も商品が本物なのか偽物なのか分からず疑心暗鬼になって、物が売れなくなり、経済が衰退してしまうのです。」 |
「家庭科」の授業展開例 モデル授業(北海道標津⾼等学校)の「展開」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) |
まとめ 5分 |
●消費者は保護されるだけでなく、消費⽣活に必要な知識や判断⼒を習得し、主体的に⾏動することが⼤切であると説明する。 ![]() |
●消費者の持つべき意識の発問例・説明例: 「それでは、私たち消費者はどうすればいいでしょうか?」 【想定される生徒の意見】
「消費生活に必要な知識、判断力、判断力を習得して、自分で主体的に行動することが大切なのです。コピー商品を買わない、という判断と、正規品とコピー商品を見分けられる力をつけるということが非常に大事です。消費者を守ってくれる法律や制度はたくさんありますが『保護されているから大丈夫、安心』という社会ではなくなってきているのです。」 |
●トラブルに遭った場合には消費者ホットライン(188)に連絡することを説明する。 ![]() |
●トラブルに遭った時の対処法の説明例: 「正しい判断をして行動をしようとしていたけれど、トラブルに巻き込まれてしまった時は、『消費者ホットライン188』に電話すると全国の消費生活センターにつながって相談にのってくれます。例えば『正規品だと思って購入したけれど、手元に届いた時にコピー商品だと分かった』『返品したいと連絡したけれど、返品には応じてくれず困っている』といった場合は相談してください。」 「『消費者ホットライン188』にはそのような相談が多く寄せられています。消費者からの相談が多い会社には特に対処しなければなりませんし、消費者には返品手続きの方法のアドバイスなどの対策をしてくれますので、よく覚えておいてください。」 |
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●授業の振り返りをgoogleform にて提出する。 |
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「家庭科」の授業展開例 モデル授業(北海道標津⾼等学校)の「まとめ」参考動画を観る(外部サイトに遷移します。) |
◆評価規凖について
ア 知識・技能
①話し合いをとおしてよりよい結論を得る。
[導入]
②資料を適切に読み取ったり授業者の説明を聞いて内容を理解する。
[展開]
[まとめ]
イ 思考・判断・表現
①基礎的基本的な知識に基づき多面的多角的に考える。
[導入]
[展開]
②客観的な事実に基づき適切に判断する。
[展開]
③資料から得られた知識や確認した事実、討論を通して考えたことなど、思考の過程や得られた結論などを発表や文章により適切に表現する。
[展開]
ウ 主体的に学習に取り組む態度
①言葉を定義し、資料を客観的に読み取るなど、学習に向かう基礎的基本的な態度をとろうとする。
②建設的な議論をとおして、よりよい結論を導き出そうとする。
③得られた結論などを発表や文章により適切に表現することができたか。
授業展開例、授業用スライド、生徒用ワークシートはこちらからダウンロードできます。
「家庭科」の授業展開例 モデル授業
北海道立標津⾼等学校の⼯藤有紗先生に「家庭科」の授業展開例のモデル授業を実施していただき、知的財産権侵害防止教育の授業実践のポイントと教育的な意義についてコメントをいただきました。
北海道立標津⾼等学校 家庭科教諭 ⼯藤 有紗 先生
導入では4つの事例を挙げ、問題点はないか考えさせ、身近なところで知的財産権の侵害が起きていることを実感させました。
展開でロールプレイを行い、「消費者」「コピー商品販売者」「正規品販売者」の立場になり、消費者はどちらの商品を購入するか判断し、発表しました。4グループ中3グループは正規品を選びました。「コピー商品だとバレたら恥ずかしい」「高い分、正規品には価値がある」という理由でしたが、この考え方をこの先も持ち続けて欲しいと率直に感じました。
4グループ中1グループのみコピー商品を選びましたが、正解ではないとわかっていても「安いからコピー商品を選んだ」と素直に回答する生徒の純粋さを見ると、あと1年で成年として正しい選択ができるのだろうかと心配になると同時に消費者教育の必要性を痛感しました。
その後、「コピー商品が広がると社会はどうなるだろうか」をテーマにグループワークを行いましたが、「ブランド品の価値が下がる」「正規品の会社が倒産してしまうかもしれない」「新しいものを作る意欲がなくなる」等の意見が活発にでてきましたが、補足説明として犯罪組織に個人情報を流すことの危険性やコピー商品を購入することで犯罪に加担しているという表現を用い、いかに危険かということを生徒に伝えました。生徒の振り返りからも「コピー商品を購入することに危険性があるとは思わなかった」「犯罪組織に個人情報を渡すことは怖いと思った」等、印象に残った様子でした。
家庭科の「C 持続可能な消費生活・環境」において、悪質商法や多重債務、インターネットを通じた消費者被害など、近年の消費者被害の状況にも触れ、授業を行っていますが、今回の授業を機に「知的財産権の侵害」もまさに消費者教育だと実感し、教育的意義があると感じました。
成年年齢が引き下げられた今、社会の一員として行動する自立した消費者の育成、若年者の消費者被害の防止・救済の為にも、消費生活にかかわる授業においてより一層の指導の充実が求められると感じています。
他教科との連携を行うなどして今後も生徒に自分事として捉えさせることができる授業の工夫を行なっていきたいと思います。