• 用語解説

ここから本文です。

Vol.49
広報誌「とっきょ」2021年9月14日発行号

特集1:新時代に挑む知財戦略

IPランドスケープのススメ「旭化成株式会社」

特集1:新時代に挑む知財戦略 IPランドスケープのススメ「旭化成株式会社」のイメージ画像

2017年7月、経済紙によって国内企業向けに大々的にその概念が紹介されて以降、注目を集める「IPランドスケープ(以下IPL)」。いまIPLが必要な理由や、IPLを実施する際のコツなど、意外と知らなかったIPLの実態を紹介するとともに、先進的にIPLを活用してきた旭化成株式会社の取組を特集。その重要性に迫ります。

What’s IPランドスケープ

自社の経営・事業戦略を定める際に、経営・事業情報に知財情報を取り込ん だ分析を実施。その結果(現状の俯瞰、将来の展望など)を経営者・事業責任者と共有し、結果に対するフィードバックを受けたり、立案検討のための議論や協議を行ったりすること。

激動の時代を切り開く 攻めの知財情報活用

社会は急激な変化の只中にある。AI・IoTをはじめとしたデジタル革新や、グローバル化、投資分野でも注目されるESG(環境、社会、ガバナンス)など、企業を取り巻く環境や社会的な要請は変容を迎えている。加えて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が契機となって出現した、新たなニーズや社会課題も枚挙にいとまがない。

企業はいま、こうした潮流の中で、将来に向けて適切に舵をきるための多面的なまなざしと、さまざまな課題を解決に導く力が試されつつある。そのために必要なのは、これまで以上に「企業自身が成長していくこと」。そこで鍵になるのが、知財であり、IPランドスケープだ。従来の守りのための知財情報の活用とは異なり、IPLは自社・他社の知財を主な情報源として、それをマップにし解析することで、新規事業の創出や企業経営に役立てていく、いわば「攻めの情報活用」。

今回は、そうした新時代を切り開くための知財情報活用・IPLについて、国内企業の中で先進的にIPLを活用し、IPL推進協議会代表幹事も務める旭化成にフォーカス。IPL活用のコツをはじめ、企業経営と密接にリンクした旭化成の知財情報活用の取組を知的財産部長の中村氏に聞いた。

IPランドスケープ5つの疑問
教えてくれたのは
IPランドスケープ推進協議会代表幹事 旭化成株式会社 研究・開発本部 理事・知的財産部長 中村 栄氏のプロフィール写真

IPランドスケープ推進協議会代表幹事 旭化成株式会社
研究・開発本部 理事・知的財産部長
中村 栄氏

1985年旭化成入社、89年知的財産部へ異動、98年全社調査機能技術情報グループ設立に伴い、同グループに異動。2018年4月知財戦略室長、同年10月から現職。20年10月にシニアフェローに就任。

Q1なぜいまIPLが必要なの?
コロナ禍をはじめ、サステナビリティやESG(環境、社会、ガバナンス)の推進など、昨今の社会変化に対応していくためには、多面的な視点から経営戦略を策定することが不可欠で、そこには、攻めの知財情報活用であるIPLが有効です。加えて、今年6月に改訂された、コーポレートガバナンス・コードに初めて「知的財産」という言葉が入ったことも重要です。これにより、自社の経営課題に対して知財がどう貢献しているのかということを適切に開示する必要が出てくるため、各企業でIPLが推進される大きなきっかけになると思います。
Q2どれくらいの企業がIPLに取り組んでいるの?
特許庁が今年公表した「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究報告書」では国内企業等の1,515者に対してアンケート調査を行い、IPLを実施しその結果を経営層等に共有できていると答えた人は10%ほどでした。一方で、約80%がIPLは必要と答えており、「必要性は分かっているが、なかなか実施に至らない」という企業が多い実態が分かります。
Q3IPLを実施するためのコツは?
経営層を説得して、IPLに対して理解を得るということが第一です。IPLに向けた予算の確保や体制強化はもちろん、IPLに対する意識をトップダウンで組織全体に共有することができます。その前段として、経営層の理解を得るためには「トップのニーズにかなった情報(自社におけるIPLの重要性)を伝える」ことをぜひ意識してみてください。
Q4IPLを実施するために最適な人材は?
特許の出願や権利化に向けた手続きをこなしていく従来の知財部門では緻密な検討力を求められますが、一方でIPLを実施する人材には事業全体を俯瞰して見る能力、知財の解析力が要求されます。また、そこで核となるスキルは「シナリオ構築力」だと考えます。ある事業に対して解析を行って、事業課題に対する戦略的な提案を行うわけですが、その過程において、仮説検証という形で課題から解決に至るシナリオを組めることが大切です。それらのスキルを得るためには、知財部と事業部間の人事ローテーションといった工夫も考えられますね。
Q5IPL推進協議会の目的や活動内容は?
協議会は33社の会員企業で構成されており、IPLの推進によって会員企業の事業競争力の強化・企業価値の向上に加え、日本の持続的な社会発展を促し、広く公益に寄与することを目的としています。企業によって、IPLの理解度は各社バラツキがあるのが現状です。そうした状況を受けて、協議会では会員の議論を通してIPLの目指すビジョンを明確にすることから始めています。
とっきょ編集部オリジナル
IPLをサッカーチームマネジメントで”勝手”に考察してみた!

IPLに関わる経営者、事業部、知財部の3者をサッカークラブに置き換えてみました!
自チーム(自社)の価値や力を上げるために、世界の戦術トレンド(競合企業の傾向など)をリサーチし、個性豊かな選手(特許、意匠、商標などの知財)をどう生かすか3者間で協議する流れを図式化しました。

自チーム(自社)の価値や力を上げるために、世界の戦術トレンド(競合企業の傾向など)をリサーチし、個性豊かな選手(特許、意匠、商標などの知財)をどう生かすか3者間で協議する流れのイメージ図
ページTOPへ

BACK NUMBER
広報誌「とっきょ」バックナンバー