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EXPERT INTERVIEW
弁護士・ニューヨーク州弁護士
増田 雅史氏
森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。IT・デジタル分野を一貫して手掛ける。『インターネットビジネスの著作権とルール第2版』(CRIC・2020年)、『NFTの教科書』(朝日新聞出版・2021年)をはじめとする著書、メタバース分野での講演多数。
人間の生活の一部が現実社会からインターネット空間に移行したように、仮想空間に移り変わる可能性は十分にあると思います。また、メタバースの普及により仮想空間で提供されるコンテンツが価値を持つようになると、NFT(非代替性トークン)の存在も相まって、さまざまなコンテンツの販売方法が生み出されるのではないでしょうか。
一方で、メタバースの発展に伴い、仮想空間内での知的財産権の侵害が懸念されます。例えば、仮想空間に、明らかに著作物と思われるデジタルコンテンツや、衣服や車などの量産品のデザインが持ち込まれることもあるでしょう。著作権については、仮想空間内でも著作権侵害となり得ることは明らかなのですが、問題は量産品のデザインです。「創作的な表現」でなければ著作権では保護されず、他方、意匠権は原則として「物品」のデザインを保護するものであり、近年の改正により意匠権の対象に加えられた「画像」の範囲にも一定の限界があります。不正競争防止法において禁止されている「商品の形態」の「模倣」も、仮想空間内でのデザインの再現にまで及ぶかどうか不明確です。仮想空間上での量産品のデザインが現行法上でどこまで保護できるかに加え、意匠権によるさらなる保護が必要か(役割を拡大するべきか)の検討が必要でしょう。
メタバースでの権利侵害に対して「今できること」として考えられる手だては、商標権による防御です。ある指定商品・役務について、それを仮想空間内に再現したものが、当然に類似の指定商品・役務だと判断され商標権侵害となるかは、現時点では不透明です。まずは、自社が取得している商標権の指定商品・役務の範囲が仮想空間での使用を想定したものであるかを検討し、必要であれば同空間での使用を想定した商標出願をすることが考えられます。現に、仮想空間に関する商品・役務を指定した出願例もあります。
国境のないメタバース空間においてどの国の法律が適用されるのかなど、法整備に関する課題は多くあります。その中でも、今できることを整理し取り組んでいくことが大切です。