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特集1:国立大学法人 東京医科歯科大学
これまでお話しした施策から、産学連携が実現してリリースされたものに「NECカラダケア」があります。これは弊学も事業立ち上げにあたり連携し、サービス提供内容についても協議・検討した経緯があり、整形外科系の疾患を予防することなども目的としています。
整形外科には症状が重症化してから来院する患者さんが多いのですが、それを早期発見して未然に防ぎたいというニーズが整形外科の医師の間で以前からあり、ここに日本電気株式会社(以下、NEC)さん側のビジネス力が合致し、事業化に至りました。大学サイドとしては、ユーザーの健康状態を見える化し、一人ひとりの疾患予防に寄与するトレーニングメニューを提案するAI技術開発も、NECさんと共同で現在も行っています。これは当大学の整形外科の先生が持っているニーズをNECさんに持ちかけることで実現し、新たな知財も生まれました。
私たちが目指すのは、このサービスのように、アカデミア発のアイデアを起点にビジネスとして実装するところまで大学がコミットしていく産学連携です。とはいえ、これはあくまでうまくいった事例であって、まだまだ成功例が少ないとも感じています。やはりサービスの実装にはビジネスの採算性が不可欠なので、企業起点の提案の方がうまく進むケースは多いかもしれません。とはいえアカデミアだからこそ可能な発想や着眼点が新しいサービスを生み出す力もあると思っていますので、先ほど述べたような取組を通じて、イノベーションの創出に貢献していければと思います。
大学が社会との連携を深め、社会実装を目指していくために、大学経営の視点からも知財が大事になってきます。アカデミアでの研究成果を、企業・スタートアップで実用化に結び付けていく際にも、特許をはじめとした知的財産がなければ、ビジネスにつなげることは難しいです。その一方で、研究開発に必要な時間や資金がかかる医薬品や医療機器の実用化に資するような知的財産権を大学が単独で確保することは難しい場面もあります。特許を作るような初期段階から、企業とコラボレーションしてある程度道筋を描き、事業に資する特許を一緒に作っていくような連携も重要だと思っています。また、研究者・医師、学生に対する知財の啓発活動も重要であり、積極的に行っています。