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特集1:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、知財の専門部署の設置や、知財ポリシーの公表など、この数年で知財に関する取組を大幅に強化している。JAXA全体の研究開発を俯瞰する研究開発部門の部門長を務め、知的財産課の置かれた研究戦略部を管掌する佐野久理事に、その背景や具体的な施策についてうかがった。
国立研究開発法人
宇宙航空研究開発機構 理事
佐野 久氏
1986年に本田技研工業株式会社に入社後、株式会社本田技術研究所に配属。2009年にHonda R&D Americas,Inc. Ohio Center, Division Directorに就任。2016年より株式会社本田技術研究所上席研究員を兼任。2018年に国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事に就任。2020年にJAXA副理事長。
PROFILE
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
[所在地] 調布航空宇宙センター(東京都調布市深大寺東町7-44-1)
[URL] https://www.jaxa.jp(外部サイトへリンク)
[発足] 2003年(宇宙科学研究所・航空宇宙技術研究所・宇宙開発事業団が統合)
[事業] 宇宙輸送システム、衛星システム、宇宙探査、科学観測、航空技術ほか
[職員数] 1,600名(2023年4月1日現在)
JAXAは、2003年に宇宙開発事業団(NASDA)・航空宇宙技術研究所(NAL)・宇宙科学研究所(ISAS)の三つの機関が統合されて発足したため、各機関の異なる知財カルチャーが並存している状態でした。宇宙産業の振興を掲げた第4期中長期計画の実行に当たり、知財活動の環境整備を行う必要があったのです。
まず2019年10月に、知的財産課を設立。翌年6月には知的財産ポリシー(以下「知財ポリシー」)を策定し、JAXA全体の知財に関するスタンスを統一しました。知財ポリシーでは、「政府全体の宇宙開発利用などを技術で支える、中核的な実施機関」という組織の役割に応じて、知的資産をどのように識別・保護し、社会実装化していくかというオープン・アンド・クローズド戦略を定めています(下表)。また、宇宙空間には地上のような領土主権の原則がおよばないため、特許権や意匠権などの知的財産権だけでなく、観測データや技術ノウハウなども保護・活用の対象に含めていることも、知財ポリシーの特徴です。
テーマ(ミッション) | 基本的な考え方 | 方針 |
---|---|---|
①安全保障 | 諸外国の政府や関係機関、産業界に対して適切に知財を管理する | クローズ |
②産業育成 | 技術成果を知財として適切に民間に移転し、事業創出やイノベーションを喚起する | オープンアンドクローズド |
③人類の知への貢献 | アカデミア(大学や研究機関)と協力して、サイエンス分野で世界的成果を目指す | オープン |