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特集1:光浦更紗さん&光浦健太郎さん
特許を取れば娘の発明の記念になるかな、と最初は軽い気持ちで、山口県知財総合支援窓口を訪ねました。シート製ストローの現物を見せると、担当の方が「この機能や構造をすべて説明してみてください」と、明細書を書くための懇切な指導をしてくれました。そして、娘が感覚的にたどり着いたかたちのメカニズムを解析し、言語化する取組を続けているうちに、形状のアレンジや関連する装置などアイデアが次々にわいてきたのです。
これはビジネスとして可能性を秘めたものだと考え、特許出願と並行してストローの商品化の準備を進めましたが、その際に事業の再定義の必要性も強く感じていました。当社は味噌や醤油を150年以上も作り続けていますが、近年はドライレモンを使ったレモンティーやフレーバー甘酒などが売れ筋の一つで、そこにストローまで新しく加わると、伝統産業として築いてきた信頼が揺らぐのではと懸念したのです。そこで「私たちは新しい食体験と、豊かな食文化の創造に取り組む会社です」と明確な姿勢を示せるようにリブランディングを進め、「味を、人を、あわせる、」という企業理念も策定しました。
2021年に、「STROLL」のブランド名でストローを販売開始しました。一般ユーザーだけでなく、ノベルティや広報グッズのような用途での反応が良く、使い捨ての対象だったストローをいわば「メディア」にして、新しい価値を付加できたと思っています。
娘の発明を特許化し、商品として世に出す過程で得た大きな発見は、「〈やってはいけない〉とされていることこそ、アイデアの源泉」というものです。この「脱・常識」の意義は味噌作りでも同様ではと考え、長年慣習的に行われてきた製法を洗い直してみたところ、思いもよらない新しい発想を得て、現在その本格的な研究を進めているところです。STROLLの開発は、娘の自由研究を引き継いだ、「大人の自由研究」として取り組んできましたが、さらに興味深い次章が待っていそうで、今後が楽しみです。(光浦健太郎さん)