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特集1:株式会社エアロネクスト
私が最重要視しているのは、「戦わずして勝つ」こと。そのために市場をいかに独占していくかというドミナント戦略が大切です。ドローン分野を選んだ理由は、新しいテクノロジーの産業であり、10~20年先を予測して基本特許を押さえることがまだ可能だったからです。また、市場が成長するプロセスで必ず起きるのが「大企業の参入」ですが、資本もリソースも豊富な大企業とスタートアップが対峙しても、特許制度を活用することで先行者はアドバンテージを得ることができます。さらに大企業を市場に呼び込むにも仕掛けが必要で、私は大企業に「当社と組んだ方が、ショートカットで市場参入できますよ」というメッセージを送っています。ビジネスの交渉で一番難しいのは相手を交渉のテーブルに着かせることですが、そこで特許は格好の手札になってくれます。ライセンサーの地位を確保しておけば、市場の拡大は大企業に委ねて、効率的に収益を得ることもできる。人材もお金も設備も持たず、アイデアを価値に変えることが存在意義であるスタートアップには、知財戦略が不可欠です。
大きな社会課題に取り組むスタートアップは期待を集め、株主資本に対して時価総額が大きくなります。この差分を生むのが、特許などの知的資本。知的資本の厚みを増すことがROE(自己資本利益率)を高め、それが時価総額に反映されるという関係性を、経営者は積極的に語るべきですし、知財領域の人材にとっても、自身の仕事の価値や専門性を経営側のボキャブラリーで表現していくことは、キャリアパスを充実させていく重要な鍵になると思います。
ドローン事業に参入した時、新産業の最先端の動向を知るには、投資家の目線を共有するのが一番早いと考え、「DRONE iPLAB」という、スタートアップを支援するIPマネジメント会社を立ち上げました。20社近くの技術や知財を一望し、ドローン産業の「へそ」になると確信したのが、エアロネ クストの「4D GRAVITY®」の重心制御技術だったので、すぐに資本提携し、この技術を中核に据えることにしました。
ただしマーケットが存在しない時点で、自社工場などの設備投資を行うのは非効率です。他の会社に技術を提供して量産してもらい、マーケットに答えを聞く。そして当面はファーストライセンシーと共にスタンダード作りに注力するのが、ライセンスビジネスのセオリーです。そこでまずACSLさんと物流専用ドローン「AirTruck」を共同開発しました。こうして市場を作っていく中で、セカンドライセンシー以降と横展開を始める手応えを自分なりに得られたので、今年の春にプロドローンさんとの提携を発表するなど、次のフェーズに進んでいます。
「4D GRAVITY®」の特許ポートフォリオで意識したのは、基本特許を数多く押さえること、そして特許の迂回や無効訴訟などの対応をする意欲を失わせ、「ライセンスを受ける方が効率的だな」と思わせるような、複合的で網羅的な特許ポートフォリオにすることです。また、重層的なブランド効果を合わせていくこともライセンスビジネスの鉄則であり、商標権や意匠権も大きな役割を果たしていきます。