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Q6. 特許権と先使用権

Q: 我が社が特許を有する製品の模倣品に対して、製造・販売を停止するよう警告しました。しかし相手方から、「当社は、貴社の特許出願前から、特許製品と同内容の製品を販売していたのであるから、特許権がなくても製造・販売する権利がある」との返答がきました。我が社に特許権があるのに、そうしたことが許されるものなのでしょうか?

A:

我が国では、特許について、ある発明について一番早く特許を出願した者が、その発明について特許を取得するという、いわゆる先願主義を採用しています。かかる先願主義からすると、ご質問の場合も、問題となる製品についてあなたの会社が相手方よりも先に特許を出願し、特許権を取得している以上、相手方の模倣品製造・販売行為は、形式的には特許権侵害にあたることになります。

しかしながら、先願主義を徹底し、第三者の特許出願前から、当該特許と同じ内容の発明を実施していた者も一切当該特許と同じ内容の発明を実施できないとするのは必ずしも妥当ではないため、先願主義を採用したとしても、特許権者と、その出願前から当該特許と同じ内容の発明を実施していた者との利益を調整する必要性が生じてくることになります。

この点、特許法第79条は、ある者が、特許権者の発明の内容を知らないで、独自に特許権者と同じ内容の発明をし、特許権者が出願した際に、すでにその発明を実施して事業を行っている場合や、その実施のための準備を行っていたような場合には、特許権者の許可なく当該発明を実施することができる(いわゆる「先使用権」が与えられる)旨規定しています。

ご質問においては、相手方は、あなたの会社の特許出願前から、独自に特許製品と同内容の製品を販売していたということですから、当該製品の販売については相手方に先使用権が認められるものと言えるでしょう。

もっとも、ご質問にある相手方の会社は、当該製品の販売に加えて、あなたの会社の特許出願前には行っていなかった製品の製造行為にまで、先使用権が認められる旨主張しているものと思われます。では、かかる主張まで認められるのでしょうか。

名古屋地裁平成17年4月28日判決では、「ある発明について先使用権を有している製造業者が、先使用権の範囲内の製品を製造して販売業者に販売し、当該販売業者が同製品を販売(転売)するような場合においては、当該販売事業者について先使用権の発生要件の具備を問うまでもなく、当該販売業者は製造業者の有する先使用権を援用することができると解するのが相当である」としつつ、「もっとも、先使用権者たる製造業者の利益保護のためには、販売業者による同製品の販売行為が特許権の侵害にならないという効果を与えれば足りるのであって、製造業者が先使用権を有しているという一事をもって、販売業者にも製造業者と同一の先使用権を認めるのは、販売業者に過大な権利を与えるもの」であるとして、販売業者による製造行為について、先使用権の援用を否定しました。

この判例に基づけば、原則として、先使用権者は他者の特許出願後に実施行為の変更や追加をすることができず、本件の相手方の「製造行為」については、先使用権の行使が認められない可能性が高いと考えられます。

 

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[更新日 2024年2月14日]

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