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発想の転換で新たな価値を創造 とっきょ

特別号 2025年9月3日発行号

Interview01

鹿島建設株式会社

鹿島建設の社外連携に見る
未来を見据えた建設業の知財のあり方

令和7年度「知財功労賞」において「大阪・関西万博特別賞」を受賞し、同万博では「未来社会ショーケース グリーン万博・ジュニアSDGsキャンプ」のブロンズパートナーとして、環境配慮型コンクリートドーム「CUCO®-SUICOMドーム」の建設や、体験型プログラムの実施など、SDGsへの貢献を目指した取組を行っている鹿島建設。
他社と技術を共同開発するなど社外連携を行う中で、知財についてどのようにお考えなのか、同社の知的財産部長・櫻井克己さんに伺いました。

SUICOMドーム

CO2排出量を大幅に削減したCUCO®-SUICOMドーム(サステナドーム)(写真提供:鹿島建設 PHOTO : Hiroshi Matsuki [Solid Design Lab])

未来への関心を育む展示と革新的ドーム

 鹿島建設では、大阪・関西万博のサステナドーム(ジュニアSDGsキャンプ)において、子どもたちがSDGsや脱炭素などの環境問題を楽しみながら考える場を提供しています。これは、建設業の地球温暖化対策への取組を体験しながら知ってもらうことを目的としたものですが、特に「重すぎるスタンプ」は想像以上の人気で列ができ、協力して押す子どもたちの姿が「微笑ましい」という声も多くいただいています。当社では、万博以前から「ジュニアEXPO」を通じ、CO2をコンクリートに吸収・固定する「CO2-SUICOM®」の技術やSDGs講義を行うなど、未来を担う世代への教育に力を入れるとともに、万博の機運醸成に尽力してきました。また、「WIPO GREEN」※1のパートナー企業として、SDGsの達成の貢献にも取り組んでいます。
 当社は、材料起源のCO2排出量を低減する技術「ECMコンクリート®」や、製造時にCO2を吸収・固定するコンクリート「CO2-SUICOM®」および炭酸化するための養生技術を開発し、実工事に適用してきました。2022年2月にNEDO※2のグリーンイノベーション(GI)基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」のコンソーシアム「CUCO®」において代表幹事会社となり、これらの技術を改良・発展させて万博の「CUCO®-SUICOMドーム」を建設しました。

  • ※1:WIPO GREEN:世界知的所有権機関が運営する環境関連技術の普及とイノベーションを促進するためのプラットフォーム
  • ※2:NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
オープンイノベーションによる知財開発で社会課題の解決を目指す

オープンイノベーションと普及を目的にした知財対応

 建築物の建設には材料、躯体、設備、地盤をはじめ非常に幅広い技術が必要ですが、一社単独でできることは限られています。ですので、建設業では「オープンイノベーション」という言葉が出る前から、社外連携は当然のこととして浸透しています。「CUCO®-SUICOMドーム」もそうですが、社外連携を進める際には特許等の知財を協力会社にオープンとすることで進めています。それは、技術を広める方が、迅速な社会貢献の実現や業界全体の底上げ、そして自社の利益向上につながることも多いからです。また特許だけではできないことも多く、ノウハウが非常に重要です。どこまでをオープンにするか、何をオープンにするかなど、トータルでの知財・技術戦略を進めることも重要と考えています。
 当社の知的財産部は、IPランドスケープにより「いまの置かれている状況」や「どんなことが予測されるのか」といった情報を各部署に提供し、非常に重宝されています。その背景には、情報の質だけでなく、これまでも先行特許の調査や契約の相談などで一緒に悩みながら支援してきたことへの信頼があるからだと思います。
 産学連携やスタートアップ企業との連携も推進しています。こうした連携は利点ばかりに目が向けられがちですが、互いの文化や思考が異なるため円滑な連携の推進は容易ではありません。そのためには互いの理解に基づく「信頼」という人間関係の構築が重要で、知財部はその調整役として、連携が円滑に進むように努めています。私たち知財部は、社内、社外問わず、技術者たちの心のつながりを大切にしながら、「なんとかいいものを作って世に出そう」という皆の情熱と努力を支援し、建設業の未来に貢献していきたいと思っています。

櫻井克己さん

鹿島建設株式会社
知的財産部長
櫻井さくらい 克己かつみさん

大学等の産学連携活動に対する評価に関する調査事業委員(経産省)、知的財産を活用した海外展開支援事業委員(国交省)など。日本知的財産協会ではライセンス委員会の委員長を務めた後、2013年度~2015年度まで常務理事、2016年度~2017年度は副理事長を務め、2025年から常務理事に再任。同協会オープンイノベーションWGリーダー。技術経営博士。

PROFILE

鹿島建設株式会社

1840年創業の大手総合建設会社。土木・建築工事の設計・施工を中心に、不動産開発や海外事業も展開。高い技術力で国内外の様々なプロジェクトを手掛け、持続可能な未来に貢献している。

 

  • 所在地:
  • 東京都港区元赤坂1-3-1
  • 創業:
  • 1840年(天保11年)
  • 設立:
  • 1930年(昭和5年)
  • 業種:
  • 土木建築及び機器装置その他建設工事全般に関する請負又は受託
  • 従業員数:
  • 8,219名(2024年3月末現在)
鹿島建設株式会社

特別号 記事一覧

鹿島建設株式会社

Interview 01

鹿島建設の社外連携に見る
未来を見据えた建設業の知財のあり方

鹿島建設株式会社

令和7年度「知財功労賞」において「大阪・関西万博特別賞」を受賞し、同万博では「未来社会ショーケース グリーン万博・ジュニアSDGsキャンプ」のブロンズパートナーとして、環境配慮型コンクリートドーム「CUCO®-SUICOMドーム」の建設や、体験型プログラムの実施など、SDGsへの貢献を目指した取組を行っている鹿島建設。他社と技術を共同開発するなど社外連携を行う中で、知財についてどのようにお考えなのか、同社の知的財産部長・櫻井克己さんに伺いました。

株式会社サイエンス

Interview 02

強固で多角的な知財戦略で、
圧倒的な競争優位性を確立

株式会社サイエンス

大阪・関西万博に出展した「ミライ人間洗濯機」が大きな注目を集めているサイエンス。知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)も受賞された同社の技術責任者である平江真輝専務取締役に、万博出展の舞台裏から、同社が推進する知財戦略、そして未来への展望についてお話を伺いました。

株式会社金森合金

Interview 03

技術と思いを未来へつなぐ、
新たな物語の創造へ

株式会社金森合金

1714年創業の鋳造メーカー、金森合金。24代目の高下裕子さんは、知財を駆使して自社ブランドを立ち上げ、また万博での活動が知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)に結実しました。伝統と革新を両立させる挑戦について、お話を伺います。

くら寿司株式会社

Interview 04

「安心」+「万博」の斬新発想で特許取得
知財を武器に、新たな食体験を提供

くら寿司株式会社

大阪・関西万博を通じて「世界のレストランに革命を起こす」ことを目指すくら寿司。日本発のアイデア「回転寿司」の安全性を知財によって守り、さらに積極的な知財戦略で独自サービスを進化させる、同社の競争力の源泉や未来への展望について、岡本浩之取締役本部長にお聞きしました。

株式会社カンディハウス

Interview 05

万博を地域連携と世界発信の好機に、
旭川の物語をデザインに乗せて

株式会社カンディハウス

令和7年度の知的財産権制度活用優良企業として特許庁長官表彰を受賞した木製家具メーカー、カンディハウス。デザインを核とした経営とそれを支える知財戦略、そして大阪・関西万博に込めた思いを、染谷社長に伺いました。