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発想の転換で新たな価値を創造 とっきょ

特別号 2025年9月3日発行号

Interview03

株式会社金森合金

技術と思いを未来へつなぐ、新たな物語の創造へ

1714年創業の鋳造メーカー、金森合金。
24代目の高下裕子さんは、知財を駆使して自社ブランドを立ち上げ、また万博での活動が知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)に結実しました。
伝統と革新を両立させる挑戦について、お話を伺います。

未来社会に伝えたい「循環型ものづくり」

 当社は創業以来、300年以上にわたり地域の金属廃材を精錬・製品化する「循環型ものづくり」を継承してきた企業です。今回、万博テーマの「いのち輝く未来社会のデザイン」に共鳴し、「Co-DesignChallengeプログラム」を通じて多様な活動を行っています。
 中でも、未来社会ショーケース事業として取り組むのが、能登半島地震などの災害廃材から制作・設置する「記憶を紡ぐサインスタンド」です。これは廃材を資源化し、災害の記憶を紡ぎ人々の記憶を呼び起こす象徴となるものです。実は当初、石川県内の金属廃材を利用する計画でしたが、準備期間中に能登半島地震が発生して計画を変更。能登の災害廃材から再生したサインスタンドを制作することを決めました。この取組を通じて、災害廃材がゴミではなく未来へつなぐ資源であることを伝えたいと思ったのです。
 廃材が溶け、箸置きなどに生まれ変わる過程から「使用済み金属が資源になる」ことを実感してもらえるよう、工場では「循環型ものづくり体験オープンファクトリー」も実施。万博会場ではより簡易的な「刻印体験」を通じて、ものへの愛着を感じていただけるプログラムを提供しています。
 さらにタカラベルモント様、読売新聞社様と共同で、使用済みヘアカラー剤アルミチューブや新聞刷版を活用した工芸品「ORIZARA」を制作。シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」併設のショップで展示・販売しています。
 このような、私たちの「循環型ものづくり」による活動が、知財功労賞 大阪・関西万博特別賞の受賞につながったことは大変喜ばしく思っています。

サインスタンド

「万博会場での案内役」と「記憶・刻印」の二つの意味を込めて金森合金が制作・設置したサインスタンドは、大阪・関西万博のフューチャーライフヴィレッジエリアに設置されている

お客様とつながるブランド創設中小企業にこそ知財の力を

300年以上受け継ぐ屋号と家紋を商標登録

 さて、私が7年前に実家に戻り事業継承を始めたころの当社は、100年近くBtoBの機械部品製造が中心でした。昔のように、生活者の方々と直接つながるものづくりを取り戻したい。その思いから、創業時の屋号を冠した自社ブランド「KAMAHACHI」を立ち上げました。
 しかし、当初は知財の知識が全くなく、石川県の支援機関の方に助言をいただくまで、その重要性に気づいていませんでした。最初の製品「針のない剣山®」がメディアで紹介されると、ECサイトに驚くほど多くの模倣品が出現したのです。その時、事前に「針のない剣山®」の商標権を取得していたことで、模倣品の出品者に対し「登録商標であるため、商品名の使用を控えてほしい」と自分たちのブランドを守ることができました。この経験を通じて、「地方の小さな会社だからこそ、時間と情熱をかけて築き上げたものを守るために知財は不可欠だ」と痛感しました。
 現在は、特許は弁理士の方にお願いしつつ、国内商標はINPIT(工業所有権情報・研修館)に相談しながら自社で申請するなど、コストも意識しながら知財ポートフォリオを構築しています。新しい視点や意見交換など、私と同じような後継者などが集まるコミュニティからの情報も、とても参考になっています。
 私たちの製品一つひとつには、素材の背景や職人の技術といった物語があります。知財権は、単なる防御策ではなく、その物語のオリジナリティを証明してくれる存在です。自分たちが作ったものが特許として認められることは、職人たちの大切なモチベーションにもなっています。
 今後は、金属だけでなく生産時の熱エネルギーや砂なども再利用する「循環型ファクトリー」を目指しています。これからも伝統技術を核としながら、新たなものづくりの物語を創造し、未来へとつないでいきたいと思います。

高下裕子<さん

株式会社金森合金 24代目
高下こうげ 裕子ひろこさん

大学卒業後、広告代理店に勤務。2016年にUターンし、2019年にライフスタイルブランド「KAMAHACHI」を立ち上げるなど、伝統技術と現代的なマーケティングを融合させ、事業承継を進めている。

PROFILE

株式会社金森合金

1611年(慶長16年)加賀藩主に技術を認められ、鋳物師(いもじ)七人衆の一人として高岡鋳物の礎を築く。「釜八」の屋号を受け継いで現在は24代目(高下裕子さん・写真右側)。明治以降は金沢を拠点に銅合金やアルミニウム合金を中心とした鋳造を手掛け、産業用機械部品からロケット部品素材、自社ブランド「KAMAHACHI」のテーブルウェアまで、多品種少量生産で幅広いニーズに応えている。左は代表取締役(23代目)の父・金森和治さん。

 

  • 所在地:
  • 石川県金沢市松村6丁目100番地
  • 創業:
  • 1714年(正徳4年)
  • 業種:
  • 砂型鋳造メーカーとして産業用機械部品、ロケットの部品素材から、自社ブランド「KAMAHACHI」の企画・製造・販売まで多品種少量生産で手掛ける。
  • 従業員数:
  • 10名(役員3名、職人6名、アルバイト1名)(2025年6月現在)
株式会社金森合金

特別号 記事一覧

鹿島建設株式会社

Interview 01

鹿島建設の社外連携に見る
未来を見据えた建設業の知財のあり方

鹿島建設株式会社

令和7年度「知財功労賞」において「大阪・関西万博特別賞」を受賞し、同万博では「未来社会ショーケース グリーン万博・ジュニアSDGsキャンプ」のブロンズパートナーとして、環境配慮型コンクリートドーム「CUCO®-SUICOMドーム」の建設や、体験型プログラムの実施など、SDGsへの貢献を目指した取組を行っている鹿島建設。他社と技術を共同開発するなど社外連携を行う中で、知財についてどのようにお考えなのか、同社の知的財産部長・櫻井克己さんに伺いました。

株式会社サイエンス

Interview 02

強固で多角的な知財戦略で、
圧倒的な競争優位性を確立

株式会社サイエンス

大阪・関西万博に出展した「ミライ人間洗濯機」が大きな注目を集めているサイエンス。知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)も受賞された同社の技術責任者である平江真輝専務取締役に、万博出展の舞台裏から、同社が推進する知財戦略、そして未来への展望についてお話を伺いました。

株式会社金森合金

Interview 03

技術と思いを未来へつなぐ、
新たな物語の創造へ

株式会社金森合金

1714年創業の鋳造メーカー、金森合金。24代目の高下裕子さんは、知財を駆使して自社ブランドを立ち上げ、また万博での活動が知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)に結実しました。伝統と革新を両立させる挑戦について、お話を伺います。

くら寿司株式会社

Interview 04

「安心」+「万博」の斬新発想で特許取得
知財を武器に、新たな食体験を提供

くら寿司株式会社

大阪・関西万博を通じて「世界のレストランに革命を起こす」ことを目指すくら寿司。日本発のアイデア「回転寿司」の安全性を知財によって守り、さらに積極的な知財戦略で独自サービスを進化させる、同社の競争力の源泉や未来への展望について、岡本浩之取締役本部長にお聞きしました。

株式会社カンディハウス

Interview 05

万博を地域連携と世界発信の好機に、
旭川の物語をデザインに乗せて

株式会社カンディハウス

令和7年度の知的財産権制度活用優良企業として特許庁長官表彰を受賞した木製家具メーカー、カンディハウス。デザインを核とした経営とそれを支える知財戦略、そして大阪・関西万博に込めた思いを、染谷社長に伺いました。