• 用語解説

ここから本文です。

発想の転換で新たな価値を創造 とっきょ

特別号 2025年9月3日発行号

Interview02

株式会社サイエンス

強固で多角的な知財戦略で、圧倒的な競争優位性を確立

大阪・関西万博に出展した「ミライ人間洗濯機」が大きな注目を集めているサイエンス。
知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)も受賞された同社の技術責任者である平江真輝専務取締役に、万博出展の舞台裏から、同社が推進する知財戦略、そして未来への展望についてお話を伺いました。

未来の人間洗濯機


'70年万博の夢を追い新しい未来の物語を紡ぐ

 当社が大阪・関西万博への出展を目指したきっかけは、1970年の大阪万博で話題となった「人間洗濯機」でした。今回の非常に大きな挑戦は、当時小学生だった弊社会長の青山恭明がその展示に夢中になった経験もあり、「あの夢を、我々の技術なら実現できるのではないか」という思いから始まりました。
 そして生まれたのが、体を洗うだけでなく「心を洗う」という新しい価値を提案する「未来の人間洗濯機」です。体験者が座ると内蔵センサーが非接触で心拍を測り、状態に合わせた映像と音楽で深いリラクゼーションへと導きます。この心拍測定技術は大阪大学の神吉輝夫准教授と共同で開発し、製品の形状や機構についての特許出願も進めています。
 万博が始まると、国内外から大きな反響をいただきました。海外の方からは「未来の介護ユニットに見える」という、私たちもはっとさせられる視点を教えていただきましたし、障害を持つお子様のケアに活用したいというお声も届いています。そして何より嬉しかったのは、普段から私たちの製品を使ってくださっているお客様が、我がことのように喜んでくださったことです。お客様に支えられて、この舞台に立てているのだと実感しました。ほかにも、様々な展示を通して、ファインバブル技術の多様な可能性を紹介しています。
 万博を機に、海外展開の本格化も検討しています。海外での知財保護は大きな課題ですが、互いを尊重できるパートナーと慎重に連携し、グローバルに挑戦していきたいです。そして、介護分野に加えて、JAXA等と連携しながら宇宙分野にも挑みます。宇宙での知財保護はルールが未確立な部分もありますが、宇宙生活のQOL分野は、私たちが先行して切り拓いていきたいフロンティアです。

  • ※クオリティー・オブ・ライフ(Quality of Life)

ミライ人間洗濯機

ファインバブルによる身体の洗浄だけでなく、背面部のセンサーで心拍やストレスを測定し、映画や音楽で心身のリラックスを促進して“心を洗う”ことも提供する「ミライ人間洗濯機」

宇宙シャワー

JAXAの協力を得て、JAMSS(有人宇宙システム)と共同開発した「宇宙シャワー」。水資源が貴重な宇宙での生活を想定

いのちの湧水

魚の飼育における溶存酸素管理にファインバブル技術を応用したアクアポニックス「いのちの湧水(いずみ)」

濡れないミストを噴霧するロボット

業務用ロボットの導入・運営ノウハウを持つUSENとサイエンスの技術が共同開発した、濡れないミストを噴霧するロボット

我が子のように製品を育て、知財を「盾」に自らを守る

 当社が考えるメーカーとしての責務は、製品に命を吹き込むこと。こうした考えもあり、私たちは自社の製品を「我が子」と呼んでいます。そして、その製品にアイデンティティを与えるため、特許・意匠・商標といった知財の制度を包括的に活用しています。実は当社では、製品完成を待たずに開発期間中に積極的に特許出願することで、他社との競合を回避するようにしています。現在、ミラブル関連で21個の特許を取得しており、特に「トルネードミスト方式」(特許第6717991号)は中核技術として保護しています。また、開発戦略として、製品のキーとなる部分は特許等として出願する一方で、本当にコアとなるノウハウはブラックボックスとして秘匿し、技術の模倣を防ぎます。そして、製品の自社製造を貫くことで、ブラックボックス化した技術の流出を防いでいます。これにより、他社との差別化を図り、会社の価値を高めています。
 当社にとって知財は、攻撃の「武器」ではなく、自社とお客様を守る「盾」です。過去に、海外で製造された私たちの製品のコピー商品が日本国内に入ってきたことがありました。その際、私たちが取得していた特許や商標があったからこそ、税関で輸入を差し止めることができ、国内の市場と、何よりお客様を守ることができたのです。この経験で、知財の重要性を改めて痛感しました。
 当社には、「人々を驚かせるすごいものを作りたい」という思いが企業活動の根本にあります。その「すごさ」を支える裏付けが、知財です。今いる私たちが知財を会社に蓄積していくことで、企業としての継続的な成長と次世代への継承を目指しています。

「ミラブルの要塞」とも言われるサイエンスの強固な知財戦略ポートフォリオ
平江真輝さん

株式会社サイエンス
専務取締役
平江ひらえ 真輝まさてるさん

「泡の魔術師」とも呼ばれる、泡の生成・利用技術を中心に研究開発をリードする技術経営者。新しい発想と実用性を重視し、多方面で新しい価値を創出している。

PROFILE

株式会社サイエンス

「すべてのお客様に感動と喜びを与え続けること」を企業理念とし、健康・安心・美容・快適性を重視したものづくりを実践。主に浴室用シャワーヘッドや浄水器等、泡を活用した独自技術製品を展開する「ファインバブル技術」専業メーカーとしてイノベーションを牽引している。

 

  • 所在地:
  • 大阪市淀川区西中島5-5-15 新大阪セントラルタワー北館5F
  • 設立:
  • 2007年(平成19年)
  • 事業内容:
  • ファインバブル製品・セントラル型浄水装置の製造・販売・メンテナンス
  • 従業員数:
  • 80名(2025年7月現在)
株式会社サイエンス

特別号 記事一覧

鹿島建設株式会社

Interview 01

鹿島建設の社外連携に見る
未来を見据えた建設業の知財のあり方

鹿島建設株式会社

令和7年度「知財功労賞」において「大阪・関西万博特別賞」を受賞し、同万博では「未来社会ショーケース グリーン万博・ジュニアSDGsキャンプ」のブロンズパートナーとして、環境配慮型コンクリートドーム「CUCO®-SUICOMドーム」の建設や、体験型プログラムの実施など、SDGsへの貢献を目指した取組を行っている鹿島建設。他社と技術を共同開発するなど社外連携を行う中で、知財についてどのようにお考えなのか、同社の知的財産部長・櫻井克己さんに伺いました。

株式会社サイエンス

Interview 02

強固で多角的な知財戦略で、
圧倒的な競争優位性を確立

株式会社サイエンス

大阪・関西万博に出展した「ミライ人間洗濯機」が大きな注目を集めているサイエンス。知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)も受賞された同社の技術責任者である平江真輝専務取締役に、万博出展の舞台裏から、同社が推進する知財戦略、そして未来への展望についてお話を伺いました。

株式会社金森合金

Interview 03

技術と思いを未来へつなぐ、
新たな物語の創造へ

株式会社金森合金

1714年創業の鋳造メーカー、金森合金。24代目の高下裕子さんは、知財を駆使して自社ブランドを立ち上げ、また万博での活動が知財功労賞(大阪・関西万博特別賞)に結実しました。伝統と革新を両立させる挑戦について、お話を伺います。

くら寿司株式会社

Interview 04

「安心」+「万博」の斬新発想で特許取得
知財を武器に、新たな食体験を提供

くら寿司株式会社

大阪・関西万博を通じて「世界のレストランに革命を起こす」ことを目指すくら寿司。日本発のアイデア「回転寿司」の安全性を知財によって守り、さらに積極的な知財戦略で独自サービスを進化させる、同社の競争力の源泉や未来への展望について、岡本浩之取締役本部長にお聞きしました。

株式会社カンディハウス

Interview 05

万博を地域連携と世界発信の好機に、
旭川の物語をデザインに乗せて

株式会社カンディハウス

令和7年度の知的財産権制度活用優良企業として特許庁長官表彰を受賞した木製家具メーカー、カンディハウス。デザインを核とした経営とそれを支える知財戦略、そして大阪・関西万博に込めた思いを、染谷社長に伺いました。